砂時計   作:犬屋小鳥本部

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二人の主人公

僕たちの地元、桜ヶ原には昔から七不思議がある。

切り株、停留所、地下通路、地図、同窓会、そして、

 

砂時計。今回の、七不思議だ。

俺たちは小学校の同級生で、ある理由から七不思議を調査することにした。そして、さいごにはとっておきの話を持って集まろうと約束した。もちろんクラス全員参加だ。

この「集まる」っていうのが「同窓会」なんだ。

俺が担当している七不思議。

同じように分担を決めて七不思議を調査しようとした。

「砂時計」の担当は、こいつ。

 

僕、眠りウサギさ。

僕の担当する「砂時計」は三つ目の七不思議。この町のどこかにある池には砂時計が沈んでいる。砂時計の中の砂は落ちきっている。だから、池から出して逆さにして欲しい。時間を進めて欲しい。時間を進めてもらえたら、砂時計は「夢で未来を見ることができる」というお礼をしてくれるだろう。そんな内容が桜ヶ原にはずっと伝わっていた。

 

そう。伝わって「いた」んだ。

 

うん。

 

俺たちがまだ学生の頃。同級生みんなで七不思議を調べようと決めたとき。それはまだ変わらずにあったはずだった。だから、俺は眠りウサギに「砂時計」の七不思議を担当させた。

簡単な話だった。

そのはず、だったんだ。

 

うん。

僕もそう思っていた。

でも、実際はそうじゃなかった。

文献を読んで僕が辿り着いたのは、コンクリートで埋め立てられた池の姿。そして、その上に建てられたビル。

七不思議「砂時計」は見る影もなかった。

 

どうしてそうなっちまったんだ?

桜ヶ原は地元精神が強い土地だ。ここで育ったやつなら誰もが知ってる七不思議。それを壊すなんてこと絶対にしない。

昔からある七不思議の言い伝えの、更にはこの土地唯一と言ってもいい池が埋め立てられるなんてことあり得ないんだ。

 

答えは簡単。

池を含めたそこ一帯の土地所有者が替わったんだ。元々そこは一定周期で名義が変わる。それは、一定期間が経つと名義人になった人とその家族がなぜか亡くなるから。

何度も何度もそれを繰り返して、とうとうその血筋の人がいなくなった。だから全く無関係の、桜ヶ原の外の人が今回名義にあがっちゃった。

 

そいつらにとってこの土地は手に入ってラッキー。それっぽっちの価値しかない。

だから、簡単に埋め立てられた。

 

そう。僕も君も見た通り池は水が抜かれ、代わりにコンクリートを流し込まれた。

多分、その池にあるはずの砂時計ごとね。

 

その事実を知った後で、お前、眠りウサギは倒れた。

何ヵ月も眠り続け、変な夢を見続けた。

俺はこれを砂時計の呪いだと思った。砂時計が助けてくれと訴えているんだと。

さあ。まずはそこから話してもらおうか?

眠りウサギ。

もう、何か解っているんだろ?

 

では。

長い話となりますが?

 

もちろんそのつもりだ。

お前の七不思議『砂時計』、聴かせてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての始まりは僕たち同級生が七不思議を解明しようと約束したあの日。

 

 

 

よりも更に前。

 

僕が「眠りウサギ」と呼ばれるようになるきっかけとも言えるんだけど、僕は以前今回みたいに眠り続けることが一度あったんだ。

それは本当に偶然で、僕も君も、他の人たちも覚えていなかったこと。

今から30年近く前。僕が物心ついたかくらいの頃。

僕は池に落ちたことがあるんだ。

もう、父さんも母さんもいないから、証人はいないけどね。

そう。

それが、砂時計の沈むとされる今回のあの池。

僕が『砂時計』と関わったのは、今回が初めてじゃないんだ。

 

その時助けたのが、今僕の家にいるイヌ。

ははっ!当時の僕は本当に犬だと思って「犬だ!犬だ!」って喜んで、助けて家に置いた後も「犬」って呼び続けたんだよね。後で知ったんだけど、あれはタヌキ。近くの山に住んでたタヌキなんだよ。

でも、今さら呼び方を変えられなくて「イヌ」のまま。

でも、ま、それでいいんじゃないかな。

きみも大好きだろ?あのもふもふ。

 

ああ、ごめんごめん。

池に沈んだ砂時計の話だね。

 

あの時のことは本当に覚えていないんだ。なにせ、小さい頃の話だし、池からあがったあとしばらく入院生活だったみたいだし。

今回みたいにね。

ずーーーっと、眠ったまま。

池に落ちた時に砂時計を見つけたのか、眠っている間今回みたいに変な夢を見ていたのか。

そんなのもうわかんないよ。

でもね。僕が本当に小さい頃、池に落ちたのは確かだと思うんだ。

だってさ。家にその時助けたっていう「イヌ」がいるのが証拠だろう?

普通タヌキなんて家にいるはずないよ。

 

15年。

砂時計をひっくり返して15年。

七不思議と出会って15年。

七不思議がある土地の名義とされて15年。

 

この人たちみんなさ。

15年で亡くなっているんだ。

 

僕以外はね。

 

ここまで偶然に「15年」っていう時間が揃うことってあるのかな?

 

砂時計にはね。

それぞれに決まった時間があるんだ。砂が片方の空間からもう片方の空いた空間に流れ落ちるまでの時間。その時間は、形とか大きさによって違う。

 

3分のもの。5分のもの。30分のもの。1時間のもの。

造りによって違うんだって。

 

僕、おもうんだ。

この七不思議の砂時計ってさ。

 

「15年」の砂時計なんじゃないかって。

 

15年で砂が下に落ちきる砂時計。

 

うぅーん、単なる想像なんだけどね。

15年間同じ人の名前で池が保持されるでしょ?なら、砂時計も動かされないはず。砂が下に落ち続けるんだ。

 

さらさらさらー

 

ってね。

で、15年で上半分には何も残らない。

上半分が空になった砂時計。

池の名義が代わる。池を、まもる人が代わる。

 

くるん

 

砂時計はひっくり返されて、また15年分の砂が下に落ち始める。

 

え?変だって?

以前の七不思議は、砂時計をひっくり返すから、砂時計に感謝されて未来予知を与えられる。そういうものだったはずだって?

 

それって、本当にひっくり返したの?

 

本当に感謝されたの?

 

誰もそうだとは言えないよね。

 

本当にその人たち、「いいこと」を教えてもらったの?

 

事実だけを言えば、その人たちは15年以内で亡くなってる。それが予知されたことかは分かんないけどね。結局、その未来予知の夢って見た本人にしか分かんないんだよ。

僕が今回見てきた夢たちみたいにね。

 

夢は映画じゃないんだ。フィルムという記録が残っているわけじゃない。同じ夢を見ることはできないし、正確に他の人へ内容を伝えることもできないよ。

なによりね。

夢には「視点」というものがある。

見た人にとってはGood Endかもしれないけど、示すことはBad Endなのかもしれない。

最終的な彼らの結末は、どれも死を辿るものだ。

 

僕はこう思う。

以前の七不思議「砂時計」は砂時計に触れた者の死を予告するものだ、ってね。

だから、砂時計が池の中でどうなっていたのかわからない。

そうでしょ?

だって、きみが僕の為に探してきてくれた砂時計、どこから見つかったんだっけ?コンクリートの中からだよね。

砂時計は想像もできない状態で見つかった。水中でどうなっていたのかわからないんだよ。

 

この「砂時計」っていう七不思議は、その名の通りあの砂時計がキーポイントなんだ。

 

そう、それでね。

もう一つ思うんだけど、砂時計の中の砂。あれって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は眠りウサギの声を聞きながら、呆然とそいつの顔を見ていた。

うん

そうだ

納得できる

話の内容を理解しながら、どこか違和感が砂嵐のように時折襲い掛かる。

俺の知っている眠りウサギは、こんなだっただろうか。

 

こんなによく喋るやつだっただろうか?

 

触れると死を予告する砂時計。

それに昔触れた眠りウサギ。

数年単位でひっくり返される砂時計。

更新されずに時間の止まった砂時計。

予告された死の夢を見始めた眠りウサギ。

眠り続けた眠りウサギ。

 

眠りウサギの声が、やけに冷たく俺の頭に響く。

 

 

 

 

ねえ。

 

本当にこの話は、

 

good endだなんて

 

誰が

 

言ったの?

 

 

 

 

 

 

そうだ。

俺があの月明かりの夜に見つけたモノは

砂時計なんかじゃなくて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に意識が浮かび上がった。

いつから眠っていただろう。嫌な汗を身体中から流している。

ギシギシいう上半身を起き上がらせ、時計を探す。

 

今日は何日だ?

今、何時だ?

 

 

 

 

 

 

携帯にメールのランプが点滅している。俺はメールを開いた。

 

そのメールにはたった一文だけが載っていた。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

差出人は

 

眠りウサギからだった。

 

 

 

 

 

同級生の誰かから着信が入る。

夢から醒めた瞬間だった。

俺が、夢から醒めた瞬間だった。

 

 

 

どこからどこまでが夢だったんだろう。

 

いつから眠りウサギは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺があの夜見つけたモノは、眠りウサギの変わり果てた亡骸だった。

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