砂時計   作:犬屋小鳥本部

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眠りウサギはタヌキの夢を見るか

ふわぁ。

ねむいねむい。

ああ、ごめん。最近まだ夢見が悪くてね。

 

ふぅ。よし。じゃあ、僕の話を始めようか。

これが、最後だよ。

 

 

 

僕たちの町にある七不思議。何回も言ったね。

その中にある一つ、砂時計。それが僕の担当する七不思議だったんだ。

僕は解明まであと少しというとこまでいった。

「未来を見せる」という砂時計の噂。砂時計が沈んでいるという池の場所。「未来を見た」人のその後。15年という周期で代わる土地名義。

 

僕は限りなく砂時計に近づけたと思うよ。

 

ただね。

最後の最期に運が悪かった。

 

あ、僕、昔ここに来たことある。

そう思い出した日のことだった。

 

 

僕は殺された。

その時、町にはバラバラ殺人をして回る狂人がいた。僕はたまたま、偶然、その人に会ってしまったんだ。

そんな人に会ってしまったらどうなるか、わかるでしょ?

 

僕は同級生の中でも真っ先にbad endを引いちゃった。

ほんとに、運が悪いよね。

 

でもね。幸運だったこともあるんだよ?

七不思議を知るよりずっと前。僕は池で溺れるタヌキを助けたことがあった。そのタヌキは体が癒えるまで、僕の家で過ごすことになった。結局居心地が良かったみたいで住み着いちゃったんだけどね。

 

そう。その時に僕は池に沈んでいた砂時計に偶然触れちゃったんだ。

小さい頃すぎて忘れてたけどね。

 

あーあ。

自分の最期を夢の中で見ていたのに、未来は変えられなかったんだよね。

bad endは決まっていたんだ。

 

ただ、その夢の最期が訪れる前に手を打つことはできたんだよ。

まるでお伽噺の『狸村の援軍』みたいに、タヌキが僕に力を貸してくれた。

 

僕は。僕たちは、どうしても七不思議を解明したかった。

どうしても七つ目に辿り着いて、みんなで桜の木の下に集まりたかった。絶対に集まるんだと、約束したんだ。

 

でも、僕のこの最期じゃ何かが足りない。

七不思議「砂時計」は解明されていない。そんな気がしたんだ。

「砂時計」にはまだ何か隠されてる。生きてる誰もが辿り着けない真実が隠されてる。

そんな気がしたんだ。

でも、僕にはそれを解明する時間は残されていない。どうしよう。

 

そんな時、助けたタヌキがこう言った。「受けたご恩を返しましょう」。

まさに『狸村の援軍』じゃないか!

僕はそれまで調べあげたことを書いたノートをタヌキに託した。

夢で見た僕はバラバラになって、池の底に沈んでいた。この町に池は一ヶ所しかない。僕はきっと、砂時計と一緒に沈むことになる。

たった独りで、沈むことになる。

 

僕は泣きながらタヌキを抱き締めた。

タヌキは毛皮を涙で湿らせながらも、じっと僕が泣き止むのを待っていてくれた。

 

僕はタヌキにお願いした。

どうか、その時が来るまで僕が死んだことを隠して欲しい。このままじゃ、「砂時計」は解明されないままだ。だから、「砂時計」が本当に解明される時まで僕のフリをして欲しい。

 

 

そして、僕は沈んだ。

タヌキはしっかりと僕の代わりを演じてくれた。

 

もしかしたら、同級生の何人かは気づいていたかもしれない。

同級生の一人が刷り変わった、ってね。

でも、彼は気づかなかった。今も昔も変わらない「怪奇オタク」くん。他のことに関しては鋭いのに、こういうことには鈍いよね。

 

だから彼に託したんだ。

残ってしまった「砂時計」の真実に辿り着けるように。

いつか池に沈んだ僕を、見つけてもらえるように。

 

僕は彼が好きだったから。

 

一部は夢と混ざってしまったけど、きっといつか、彼もこの池に辿り着くと思うんだ。

だから、その時まで僕は眠って待ち続ける。

 

僕は「眠りウサギ」だからね。

 

それにしても、よく何年も気づかなかったなぁ。あんなに近くにいたはずなのに。

彼は「昔の僕」と「今の僕」の性別が変わったことにちっとも気づかなかったんだよ?

 

僕は「女の子」で、タヌキは「オス」だったのにさ。

本当に鈍いね、怪奇オタクくん。

 

 

 

今となっては、もうどうでもいいことなんだけどさ。僕は本当に彼のことが好きだったんだ。

だからノートを託したし、夢のことも話した。

 

よく彼がね。

「信じてくれ。俺たち、友だちだろ」

って言ってくれるの。

その言葉は僕の心にとても響いてた。もちろん、眠っている今も。

 

信じているよ。怪奇オタクくん。

誰よりも信じているよ。

 

だから僕は独りで眠り続けることができるんだ。

みんなを。同級生たちを信じているから、また、みんなで集まって笑って話せるって、信じているから。

僕は誰よりも早く死んで、眠り続けて、待つことができるんだ。

信じ続けることができるんだ。

 

 

 

 

 

そうそう。僕があの殺人鬼に殺されて、バラバラにされて、池の底に沈んだ後の話をしないとね。

 

一匹のタヌキ、イヌって名前だよ、彼は僕がいなくなったのを上手く隠してくれた。僕そっくりに化けて、あたかも僕が生きて生活しているように見せたんだ。

 

一方、本物の僕は眠って夢を見ていた。

 

冷たい、冷たい、明けることのない夜を、僕は眠っていた。

 

見る夢は、砂時計の中に取り込まれて落ちていった人たちのものだった。

知っていた人たち、知らない人たち。誰もが最期の瞬間に夢を見ていた。

 

誰もが、最期の瞬間に何かを想っていた。

 

砂時計の上から下へ。

生きていた世界から死にゆく世界へ。

自分がいるべき世界がかわるその瞬間の境界に、人は一瞬の長い永い夢を見るんだ。

 

僕は、今自分がこうなって初めて知った。

 

僕もまた、終わらない夢を見続けているのだから。

 

ただ、僕には他の人とはちょっと事情が違った。

僕には「同窓会の約束」があったんだ。その約束は砂時計の七不思議よりも強いもの。だって、「砂時計」は三つ目。「同窓会」は七つ目なんだから。

 

どこかで、女の人の声が聞こえた気がした。

「あなたには約束があるのでしょう?」

って。

その声はいとも容易く奇跡を起こした。

砂時計の下に落ちかかっていた僕を繋ぎ止めたんだ。まるで、桜の木の幹や根が体に絡み付いたようだった。

 

現実では、砂時計のあるはずの池が埋め立てられていた。水が抜かれ、代わりにコンクリートが中に流された。その時まだ腐っていなかった僕の体は、当然一緒に閉じ込められた。すると、まるで時間が止まったかのように僕の体たちは「保存」されてしまったんだ。

 

本来なら体がなくなることで遺灰として取り込まれ、落ちていくはずの「砂時計」という七不思議。

取り込まれて落ちていくだけの七不思議だったはずなんだよね。

だから、ほんの一瞬の「落ちきる寸前の境界」のことなんて誰も知らないはずだったんだ。

 

でも僕は落ちきれずに、こうして境に繋がれ夢を見続けている。

彼が、怪奇オタクくんがこれに気づいて、僕の体を見つけてくれるまで。きっと僕は眠り続けるんだろう。

 

 

 

 

 

ふわぁ。

ほんとに長い夢だね。

 

 

ねえ、怪奇オタクくん。

早く僕を見つけてね。

早く、「砂時計」の真実に辿り着いてね。

 

砂時計の七不思議は、もう以前のものではない。僕が上書きしちゃったんだ。僕の見る「最期の夢」たちで上書きしちゃったんだ。

 

 

 

 

 

 

最後にね。

君にヒントをあげるよ。

僕の見ている夢を、ちょっとだけ。

ほんの、ちょっとだけ。

君に、君にだけ。

見せてあげる。

だからね。

 

 

 

だから、

 

 

 

 

ボクヲ ハヤク ミツケテ

 

 

 

 

ココハ

 

 

 

 

クラクテ

 

 

 

 

ツメタインダ

 

 

 

 

ヒトリボッチハ

 

 

 

 

イヤダヨ

 

 

 

 

ネエ、怪奇オタクくん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜の花が舞っている。

僕は、一人、木の下で待っている。

 

砂時計を片手に、待っている。

 

ねえ、みんな。

信じているよ。

いつか必ず、またみんなで集まるんだ。

笑って、みんなで話をするんだ。

 

僕は待っている。

同窓会が開かれるそのときを、待っている。

 

 

 

さらさら落ちる砂時計

 

生から死へと流れ落ちる砂時計

 

人は、死の瞬間何を思うんだろう。

流れ落ちる瞬間何を思うんだろう。

 

さらさら落ちる砂時計

 

永遠に落ち続ける、砂時計

 

人は

 

人はきっと

 

生から死の世界に流れ落ちる瞬間、永遠に終わることのない夢を見るんだろう。

 

 

 

 

 

ああ、ながい夢だね。




~エピローグ~




がしゃん。

砂時計がまた音をたてて上下を入れかえた。

上書きされた七不思議。
生きている限り明らかにはされない砂時計の真実。
おいで、おいで、こっちにおいで。
君の未来(死)を見せてあげよう。

今日もまた、砂時計は池に沈み獲物がやって来るのを静かに待っている。

夢を見るかのように。
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