この世に生を受けた日。
それは一番祝福される瞬間だと思っていた。
まだちんくしゃな顔をした我が子に、母は慈愛に満ちた表情を浮かべ、その横にはホッと胸を撫で下ろす父が佇むのが一般的な理想だと思う。
あぁ、この子貴方にそっくりね、なんて早くも親バカが発揮した両親に囲まれ、すくすくと成長していく未来が見え......なかった。
何故かって?
それは俺が産まれ落ちたのが一般的な家庭がじゃなかったからさ。
乳母に毒入りミルクを飲まされつつ、俺は産まれたばかりなのに将来を憂いていた。
話は変わるが、俺には前世の記憶がある。
所詮平凡なサラリーマンって奴だ。
思い出したくもないが、記憶から察するに俺は駅のホームで酔っ払いに押され、あっけなく通勤快速の電車に巻き込まれご臨終したらしい。
んでその記憶を持ちつつ再び赤子からリスタートしたワケだが。
産まれた瞬間もまぁ、覚えてる。
まだ目も開けなかったが、俺の母親と思わしき女性は俺を抱きつつ色々と話かけられた。
やれ髪の色が銀だから将来有望だとか、いつから訓練を始めようかとか。
やけに興奮し息を荒げた母親に俺は初対面なのにドン引きした。
そしてそのドン引き具合は、その後一生続く事となる。
俺は産まれて暫くは乳母に育てられた。
産後の肥立ちが良くない......のではなく単純に両親が忙しいご身分らしい。
俺としては、あの母親に会わないのは願ってもないのだが、目も開いた事だし一度父親の顔も見ときたい所だ。
産まれてから半年、喉にピリピリ刺激を与えてくるミルクを嫌々飲まされつつも、俺はその時を待った。
「ルイ様、本日はトリカブト入りミルクでございます」
乳母さんよ...トリカブトって有毒植物ですよね...
これまで様々な説明をされてきたが、植物博士でも無い俺には何のことか皆目見当が付かなかった。
しかし日本でも有名な植物の名前を聞かされ分かってしまった、俺は毒入りミルクを日々与えられていたらしい。
虐待なのでは?と思ったが、この刺激を与えてくるミルク以外は、王族かってぐらい丁重な扱いされてんだよな。様付けだし。
もしかして本当に王子とか?
ならこのミルクの真意は、毒で暗殺されない為に徐々に身体を慣らしていってるとか...?
なるほど、うちの両親は王様と王妃様だったのか、それなら二人が忙しいのも合点がいった。
「ルイ様、本日はシルバ様がお帰りになられます」
しるば様?もしかして俺の父親の名か?
日本では聞き慣れない名だ。
外国の王族ってとこか、産まれ変わったら王子になってましたって展開、小説とかでは良くあるよな。
そうしてようやっと俺は父親の顔を見ることができた。
威厳は...すごくある。
てかありすぎる、なにそのピチピチの半袖からのぞく逞しい上腕二頭筋。
髪はなんか無造作ヘアって感じでほったらかしだし。
目つきも鋭いし、王様っていうより荒くれ武闘家みたいな風貌だな。
迫力ありすぎて思わずあぅ...なんて可愛いく呻いてしまった。
そんな俺を見て父親はふっと顔を緩めると、見た目にそぐわず優しい動作で俺を抱き上げた。
あ、よく考えたらこれ初めて親子での触れ合いってやつじゃん。
そう思うと少し涙腺が緩くなった。
この半年間思うように動けない身体にずっと焦れていた。
前世では立派な大人なのに、赤ん坊として扱われて何一つ一人で出来なくて俺は悔しさと同時に恥ずかしくもあった。
そんな俺の気持ちが、涙として消化されていってしまった。
「うわあぁああぁあん!」
「申し訳ありません、シルバ様...普段ルイ様は大人しいのですが」
「気にするな。これからゾルディックとして育てていけば良いさ」
は...ゾルディック?
その単語を聞いてピタリと俺は泣き止んでしまった。
何処かですごーく聞き覚えがある。
思案する俺に続け様に爆弾が放り込まれた。
突然扉が開かれると、ツカツカと黒髪の超絶美女が俺たちの元へと迫ってきた。
あれ、あの母親の声...?
「もう貴方ったら!!私もルイちゃんに会いたいのに抜けがけして!!」
「キキョウ、悪い」
「先に仕事が終わったからって酷いわよ!!あぁ、私の麗しきルイ!!これからあなたは立派な暗殺者になるんですからね!!」
シルバ キキョウ 暗殺者 そしてゾルディック
これだけの単語が揃ってれば分かる、前世では大好きだった漫画だったからな。
王族だから毒で暗殺とか杞憂でしか無かった。
俺は暗殺する側の人間、ゾルディック家に産まれてしまったんだ!!!!