どうもこんにちは、ルイです。
毒入りミルクを突破し、無事一歳の誕生日を迎えることになりました。
一体何時暗殺訓練が始まるかと戦々恐々としていたが、ゾルディック家っていっても流石に赤子に拷問はしないらしい。
乳母の人にたっぷり甘やかされつつ、ぬくぬくと暮らしていた。
「ルイ様、もうそんなに歩けるようになったのですね、ココは嬉しゅうございます」
そう言ってにこりと笑いかけてくれたのは、俺が産まれてからずっと世話をしてくれているココという乳母さん。
後ろに大きな三つ編みを一つ結んでいる、20代半ばの女性だ。
一日の大半をこのココさんと過ごしている。
ココさんはこのゾルディック家の中でも極めて稀な普通の人みたいだ。
感情が読めない執事や他の使用人たちとは違い、この人だけは俺に笑ったり話しかけたりしてくれる。
俺がゾルディックに転生した事が分かっても正気を失わずに済んだのは、彼女のおかげかもしれない。
おぼつかない足取りでココさんの元に寄ると、彼女は優しく抱きとめてくれた。
まだうまく喋る事は出来ないが、ココさんは俺が言いたい事を汲み取ってくれたらしい。
窓際に寄ると俺に外の世界を見してくれた。
「ルイ様、上にある青いのが空。空に浮かんでる白色が雲っていうんですよ」
「そーら」
「はい、空、雲」
「そーら、くぅーも」
幼児の身体では呂律が回らず上手く発音出来ない為必死に言葉を反復練習する。
まさかこの年で単語の練習をする羽目になるとは。
こっちの公用語であるハンター語が、日本語として聞き取る事が出来たのが幸いだった。
そうやって平穏な一日を過ごしていたが、ある日その人は突然現れた。
「おぬしがシルバの子か」
髭を蓄えたおっさんに顔を覗き込まれ、思わずココさんの服の裾をギュッと掴む。
一日一殺と不吉な四字熟語が描かれた服を纏ったその人は、きっとゼノ・ゾルディックなんだろう。
背筋もシャンと伸びているため老人には見えない。
それもそうだ、今は原作より20年くらい前のはずだからだ。
俺はこの一年、イルミやミルキといった兄弟を見たことが無い。
それはまだ俺以外の兄弟が誕生していないという事なのだろう。
つまり俺は長男だ。
ゼノからしたら、初孫といったところか。
まじまじと顔を見られ、ふと頭を撫でられた。
「ふむ。銀髪の中に若干黒髪が混ざっておるな。素質はまずまずといったところか」
それってもしかして暗殺者としての素質って事ですか...
不吉な予感に改めてこの家族は暗殺一家なのだと思い出した。
もしかしてゼノが来たってことは...
「ルイ、今日から暗殺業の修行を始める」
俺の平穏な赤ん坊ライフは、到頭終わりを告げたらしい。
未だ足取りも覚束ない幼児に最初に与えられた修行は、感電だった。
最初は微弱な電気から始まり徐々にレベルを上げていく。
容赦ない電流が赤子の身体に流され、何時死んでもおかしくないくらいの衝撃を繰り返し毎日行われる。
数ヶ月後には100ボルトの感電を数分間耐えられるくらいの身体になった。
耐えられると言っても気絶しないだけで死ぬほど痛い。
離乳食のレベルも格段に上がった。
これまでの毒入りミルクが嘘かのように、嘔吐や腹痛に悩まされてココさんには何回も粗相の世話をしてもらった。
一般市民だった俺がそんな日々に耐えられず、例え精神は大人とはいえ、毎日ココさんに泣きつくのは当然だと思う。
「うっうっ...もういやだ…」
「ルイ様いけません、修行のお時間です」
困り顔のココさんは、俺に修行に行くように催促する。
彼女は修行に行かせるのも仕事の一つなのだろう。
それでも俺は精一杯拒否する。
ココさんは優しく俺の背を撫でて励ましてくれた。
「おい、ルイはまだか」
中々来ない俺に焦れたのか、ゼノが様子を見に来た。
「ゼノ様、それが...」
現状を説明する間も、俺はココさんから抱きついて離れない。
俺に前世の記憶がなかったら、ルイとして生を受けたならゾルディックとして、何の疑問も持たずに残酷な修行も受け入れていたのかもしれない。
それでも俺には前世の記憶がある。
逃れるもんなら逃げたい。
「...シルバの時は、こんなに嫌がらなかったのにのぉ」
蓄えた顎髭を撫でて、ゼノは思案顔をする。
「ルイ、お前はゾルディックの一員じゃ。その事実は逃れられん」
「いやだ...」
「なら取引といこうか」
取引...?
「ゾルディック家当主はシルバじゃが、いずれ次期当主を決める事になるだろう。
現状、後継ぎはルイしかいない。
しかしじゃが、これから産まれてくる子に跡継ぎとしての才能があるなら、お前をゾルディックから解放してやろう」
ゾルディック家から解放...?
「それ...ほんとう...?」
「勿論だとも。
但し、それまでお前はゾルディック家跡継ぎとしての責務を全うせよ」
ゼノの目は嘘偽り無く真実だと語っている。
ゾルディック家からの解放という言葉は、俺の希望だ。
つまりゾルディック家の歴史の中でもピカイチの才能を持つキルアが産まれれば、俺はこの家から解放されるということだ。
いや、キルアじゃなくてもよい。
イルミでもミルキでも、俺より才能があると認められれば俺は解放されるんだ。
いつか解放される、そう考えると俺は冷静になった。
涙もひっこみゼノの顔を見上げた。
ゼノは思いの外優しい表情をしていた。
「誓いをしようか、ルイ」
「ちかい?」
そういうとゼノは親指を歯で血が出るくらい噛み、こちらに向けた。
「ゾルディックの習わしじゃ。互いの血が滲んだ親指を合わせ、約束をする」
習った通りに親指に傷をつけると、ゼノの親指に合わせた。
「ルイ、お前は跡継ぎが産まれるその日まで、ゾルディック家として為せることを果たせ」
「...うん、わかった」
幸か不幸か、この誓いを立てた数日後、俺に弟が出来ることを知った。