ハンターハンターの世界で重要な力、念能力。
最近の俺は、座禅を組みオーラの流れを読み取る努力をしていた。
まだシルバたちが念を教えないのは、俺の身体が未完成だからだと思う。
キルアも12歳すぎてやっと自分で辿り着いたぐらいだし。
来るべき日に備えて、ゆっくり精孔を開くことを目標に、俺は一人で修行を開始した。
瞑想をはじめ一年になるが、未だに俺にはオーラのオの字も分からない。
ゾルディックの血を引いてる分血統は申し分ないのだが、そう一筋縄ではいかないか。
面倒なので家族には念を知らないふりしつつ、淡々と訓練をこなし戦闘スキルを上げていった。
その日、ルイはゼノに同行していた。
今日は暗殺ではなく、ゼノの古くからの知り合いに要人警護の依頼をされた。
裏組織との繋がりがあると、稀にこういった依頼もこなさんといかんとゼノは語った。
依頼者はマフィアのボスだ。
パーティーに出席する予定だが、とある筋から暗殺対象にされていると情報が入った。
「食事には手をつけるなと警告したから毒殺は出来ん。
必ず対象の近くに寄ってくる、もしくは離れた位置からの銃殺じゃ。
まぁワシがいるから無理だがな」
ゼノは依頼者の側で護衛する為いつもの服装は止め、スーツ姿で会場に潜り込んだ。
俺は指示された通り会場外の茂みで気配を消し、暗殺者の姿を探した。
一応目の届く範囲に依頼者がいる位置に潜み、不審な点は無いか注意深く探る。
ゼノが側にいる限り依頼が失敗する事は無いが、警戒は怠らない様にした。
そうして二時間が経とうとしていた。
「あれー、こんな所で何してるの?」
「...ッ」
突然背後から聞こえた声に一気に緊張が走る。
すぐに距離を取り振り返ると、見たことがない20半ばぐらいの男がその場に立っていた。
答える間も与えず男は話を続ける。
「あぁそっか、キミも銀髪のおっさんと同じ警備員さんってわけ?」
十中八九ゼノの事を言っているのだろう。
間違いない、こいつ同業者だ。
「怪しいよキミ、こんな所で気配消して隠れて。
まるで、暗殺者みたい」
獲物を見定めるようにゆっくり舌舐めずりされる。
瞬間体中から汗が吹き出した。
じっとりとルイの身体に纏わり付く不快感、これは...念か。
自慢じゃないが、俺は修行の成果で気配を断つことに自信をもっていた。
俺が見つかった理由は念の応用技、円(エン)に違いない。
「あのおっさん隙が無さすぎて、ターゲット諦めたんだよね。
多分オレより強そうだし。
依頼失敗、違約金高いだろうな〜」
「だからさ、キミで憂さ晴らしさせてよ」
「ッぅあ!!」
ルイでは到底追いつけないスピードになす術もなく、顔面に強烈な右ストレートをいれられた。
「キミいくつなんだろ?8歳くらい?
オレね、キミみたいな将来有望そうな子の未来奪うの、だーいすき」
初めての戦闘、しかも相手は自らの実力を理解し、冷静に暗殺を諦めた念能力者。
間違いなく今の俺では勝てない。
それでも戦わなければ、殺されてしまう。
「へぇ、驚いた。その歳でそんな高度な技術が使えるんだ」
肢曲(しきょく)。足運びに緩急をつけ残像を生じさせ、何人にも見える様に見せる技術。
ゼノも常に円を張っているはずだ、この事態に既に気づいているだろう。
これで時間稼ぎし、ゼノが来るまで持ち堪えるしかない。
「でも残念でした〜」
男が腕をバッと広げると、ルイの周囲に風が巻き起こった。
咄嗟に目をつむる。
足下の砂利が風で舞い上がる感覚がした。
「複数居ても、全部まとめて薙ぎ払えば一緒だよ、ね!」
右腕を大きく振ると、一斉に砂利や砂が意思を持ちルイに襲いかかった。
ルイは数メートル吹っ飛ばされ、木に激突した。
男の念能力をまともにくらい、ルイの意識は朦朧とした。
男が腕をもう一度振り上げた姿をみて、これから来る衝撃に備えた。
「ぁ...え...?」
「無事か?ルイ」
目を開けると、男の心臓を手に持ちこちらを窺い見るゼノの姿があった。
茫然と立っている男の目の前で心臓を握りしめると、男は事切れた。
良かった、間に合った。
ほっと息を吐いた時、己の身に異変が起きていることに気付いた。
全身から迸るエネルギーが自らの身体から出て行くのを感じた。
「ルイ、お主...」
目を細めたゼノに、ルイも思い当たった。
念を浴びせられ、精孔が開いたのだ。
先ほど受けた風圧は、念のオーラで作り出されたものだったのだろう。
このまま全身を迸るオーラを放置すれば、俺はそのうちオーラ不足で死ぬ。
「今すぐそれを収めねばいかん。ルイ、今からワシがいうことをよく聞け」
ゼノに言われるまでもなく、ルイは集中するために目を瞑った。
「血液の流れを意識するのじゃ」
頭から爪先まで血液が全身を巡るイメージ。
普段の瞑想が役に立った。
程なくしてルイの身体にピタリとオーラが張り付くのを感じた。
「やはり、お主はゾルディックの血を引いておる。
血の誓約は無効だろうな」
「勘弁してよ...」
ルイは一言言い残すと、その場に倒れ込んだ。