転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第九話:転生地球人たちの天下一武道会が終わるまで

 全身が痛い。

 生傷とあざ、それに火傷。

 二人の強敵がもたらした多数の打撃、それに、『気』によるダメージは俺の心身を容赦なく蝕んでいる。

 特に傷ついているのが、両手だ……その、包帯とテーピングに包まれた腕をなんとか持ち上げ、俺はバナナを掴む。

 

 「ガプ……ミチ……」

 

 そして、口に運び、食う。

 それだけの作業が非常に億劫だが、腹が減っている。

 バナナを一本、二口で食い尽くしたら、次はおじやに手を出す、三角食べだ。

 

 「グプ……ムチャ……」

 

 わざわざホイポイカプセルで持ってきた甲斐があるというもの、俺の消化能力は『超人的』なレベルだが、それでも、これほど短時間に補給を済ませるなら、このメニューが一番だ。

 かっこむようにおじやを食べ、梅干しを口に含み、タネだけ出す、それを繰り返し、数杯のおじやを食べ尽くした。

 続けて、炭酸を事前に抜いた1リットル瓶のコーラを、一息に飲み干し、流し込む。

 

 「朝と、しあいまえ、これでさんどめのめしだな」

 

 「ゴク……体力を使いすぎたからな、食わねば仕方ない」

 

 呆れたように、プリカが突っ込んでくるが、コンディション悪化の原因は、キズだけではない、体力の多大な消耗もあるのだ。

 クリリンとプリカとの派手な殴り合いに、試合で消費される集中力、さらに、あの気を使った光る手の技。

 俺の体は試合のダメージと疲労もさることながら、エネルギーの枯渇にも晒されていた。

 

 「すぐしあいが始まるぞ、だいじょうぶか?」

 

 「今のうちに食べて、決勝戦までのインターバルの10分を消化に費やす、問題ない」

 

 これは、グラップラー刃牙、第一話、そして、最大トーナメント決勝戦直前に行った補給だ。

 刃牙ならそれが可能だった……だから俺もやる。

 ……あまり賢いとは言えない理屈だが、実際にこの食事法は俺の体に適合し、何度もここ一番の試合に向けた活力を与えてくれた。

 

 「よし…と――」

 

 「ほんとうにバキが好きなんだな、バキの世界にうまれかわってればしあわせだったのに」

 

 「暴言か同情か、判断に困る言い回しだな」

 

 「どうじょうでいい」

 

 突然投げかけられた言葉を反芻し、俺はしばし考える。

 一瞬、会話が止まると、会場から漏れ聞こえるアナウンスや叫び声、打撃音、悟空とジャッキーに、観客の叫び声の数々。

 俺は強く、とても強く興味を惹かれるが……回復が優先だ。

 ともあれ、プリカの問いに対する答えを、俺は持っている。

 

 「それも……良かったかもな、地上最強を目指しても笑わないやつが居てくれる世界、地上最強を目指す道筋がある世界、そういう意味じゃ、ここもあそこも同じだ」

 

 「ここでも、いいのか」

 

 「宇宙規模の戦いってやつもワクワクするだろう? それに、ドラゴンボールは漫画もアニメも、一応通しでは見たくらいのファンだ、俺が死ぬまでの分だがな」

 

 「オレも、死ぬまでは見てた」

 

 俺達の間に微妙な雰囲気が流れる。

 まるで喧嘩別れになってもう会えない友人との思い出を話しているようでこそばゆく、気まずい。

 だが、もう会えない相手、読めない漫画の思い出が……俺達に強い憧れと、戦う力をもたらしているのも、確かだった。

 停滞した空気を破るべく、俺はプリカに、ちょっとした質問をする。

 

 「なあ、プリカ、お前は悟空と亀……いや、ジャッキー・チュン、どちらが勝つと思う?」

 

 「さあ……、うーん、ほんとうはギリギリで、ジャッキーがかつだろ? じゃあ、悟空じゃないのか? 強くなってるし」

 

 「俺はジャッキーが勝つと思う」

 

 質問と言いつつ自分の中では完全に答えの固まった結論は、下の歴史の踏襲だった。

 前の試合で歴史を変えつつ勝利すると豪語してみせた俺にしては謙虚というか、虫がいいような答えだが、俺はこれに確信を持っている。

 

 「それは……どうしてだ?」

 

 「あの悟空が育ってくるのを見ていたんだ、より強くなっているに決まってる、第一達人だ、筋力の差が少し広がったくらい、なんとかしてくれるだろう」

 

 「……まあ、たしかに」

 

 若干納得したような、腑に落ちないような感じで首をかしげるプリカ。

 俺は更に押しの一手を加える。

 

 「それに――――」

 

 「それに?」

 

 「あの方も武道家だ、最高の対戦相手が直ぐ側で育ってるってのに、黙って見てたなんて考えられん」

 

 「そりゃおまえのせかいの話だろ」

 

 「……かもな、いや、別に俺は板垣世界出身ってワケでもないが」

 

 だが、今ここにいる俺は、確かに格闘士たちへの憧れを持って産まれ、成長してきた俺だ。

 俺にとって最初の師はチャパ王だが、師匠への鮮烈な憧れを迎え入れる魂を育てたのは、格闘士たちだったのだろう。

 ……そう、会話を止めて感慨に浸っていると、にぶい地響きと、次いで観客たちの悲鳴が聞こえてきた。

 これは明らかに――――

 

 「――――大猿だ」

 

 「じゃあ、もうすぐか」

 

 「もうすぐだな」

 

 どうやら、俺が切ったしっぽはちゃんとこのタイミングで(ギラン戦でのピンチがなかったにも関わらず)生えてくれたらしい。

 ピンチに対応してしっぽが生えるのは合理的な生態と言えるだろうが、しっぽは生えるまでどこに格納されていたのだろうか。

 そう考えながら試合に想いを馳せていると、何やら、眉を潜めたプリカがしきりに俺の体を見てくるのに気付いた。

 

 「なんだ、見飽きただろう」

 

 「そ、そんなに見たおぼえはない!」

 

 「じゃあ今見るといい、包帯越しだがな」

 

 どうして見てくるのかは分かっているが、軽口は叩きたい。

 ……プリカは、俺のケガとダメージを心配している。

 確かに、客観的に見れば、一般人なら軽く入院しなくてはならないレベルだろう……だが、俺は試合に出なくてはならないし、出たいのだ。

 それを態度で示すため、俺は大きくサムズアップをした。

 

 「なあに、こんなのはどうってこと……グッッ!!」

 

 「どうってことないはずないだろ」

 

 ……サムズアップした直後、その腕を両手でガシッと握られた、いや、正確にはもっと優しく、気を使った触り方だ。

 それでも痛いくらいなんだから、もうやるな、と、プリカは言いたげだ。

 じっと目を合わせて黙っていると、根負けしたのか、プリカはそっと手を離した。

 

 「おまえの体はボロボロだ、まだ息だってととのいきってない」

 

 「フゥッ……、やっと分かるようになったか、ヨガを仕込んできた甲斐があるというものだ」

 

 「あれヨガだったのか……じゃない! ジャッキーだって試合のつかれはのこる、でも、おまえは……」

 

 「なんだ、心配しているのか? 勝てないことをか? それとも、試合で死ぬことか?」

 

 この心配は、あまり真面目に取り合いたくない。

 友人の心配を無下にしたくないからなのか、試合を避ける気持ちが起こることを恐れているからなのか、自分自身では、全く区別が付かないが……。

 とにかく俺は、無理に話を切ろうと、胸を張って笑い……キズが開いた。

 

 「ッハハ、……ッツゥ、出る前に負ける事考えるバカいるかよ、なんてな」

 

 「……いつか死ぬぞ」

 

 「お前が生き残って蘇らせてくれ、俺は烈海王みたいに喉元に噛み付いたりはしないでおいてやるから」

 

 これは冗談だが、本心だ、こいつなら、俺を蘇らせるくらいのことはしてくれるだろう、試合の約束もある。

 だが、負ける気と同じく、死ぬ気は毛頭ない、戦って勝ちに行くだけだ。

 ……でも俺は、真剣勝負の結果死んだって、別にそれを永遠の負けということにして、復活を拒む気はさらさらない。

 最初から蘇る事ができると知っているというだけではなく、勝負は一度きりと決める気がないからだ

 

 『……月が…………風情も……なんということを…………』

 

 ナレーターが、月がどうたらとしきりに叫んでいる。

 ……理由は、見なくても、詳しく聞かなくてもわかった。

 

 「ジャッキーが、月をけした」

 

 「……寂しいか?」

 

 プリカは無くなった月を見上げるように、視線を空にやっている。

 微妙な表情だ。

 

 「もうばけなくてすむ」

 

 「そうか」

 

 『生まれながら』ではないにしろ、サイヤ人として、月には思い入れがあるのだろう。

 確かに、表情は少しほっとしているが、それだけではないのも感じる……まあ、『神様』が修復すれば月は戻ってくるのだが。

 しばらくすると、仮設更衣室付近でごそごそと悟空のお色直しが行われ、試合は再開された。

 

 「そろそろ、終わりだな」

 

 「ああ」

 

 『……ジャッキー………かめはめ波が………』

 

 『かめはめ波が……なったのか……』

 

 『孫選手……飛ん…………』

 

 試合は、どうやら歴史通りに進んでいるようだ。

 消耗したジャッキーは最早かめはめ波を使えない。

 だが、悟空は紙一重の差で一発の余力を残し、その一発を囮とする策でジャッキーを武舞台外にはじき出す……が、それはジャッキーの必死の抵抗で失敗する。

 そして、最後の瞬間、試合を決着させるには正面衝突しかないと悟った二人は激突し……。

 

 『カウントを……ワン…………スリー……………エイト…………』

 

 腹の底に響くような巨大な衝突音。

 そして、ゆったりと、同時にダウンした二人のカウントが響いてくる。

 

 「……ジャッキーの勝ちか」

 

 「そうみたいだ」

 

 『勝っちゃったもんねーっ!!』

 

 ダブルノックアウト時の引き分けを防ぐため、天下一武道会では『先に起き上がって勝利宣言した者の勝利』という単純なルールが設けられている。

 ……元の歴史では決勝戦だったため、『優勝したもんねーっ!!』であったが……なるほど、決勝でなければこうなるのか。

 

 「おまえの言ったとおりになったな」

 

 「まあ、当たってくれてよかった」

 

 「……なんだ、やっぱりじしんないんじゃないか」

 

 「いいや、ジャッキーの勝利が覆らなくてよかった、というだけだ」

 

 俺がそう言ってみせると、プリカはまたもや怪訝な表情をした。

 折角の師弟対決なんだ、一度くらいは師匠に花を持たせてやっても……まあ、いいじゃないか。

 俺は勝ったが。

 しかし、プリカは俺が言い返そうか悩んでいる間に、再び俺に刻まれたダメージを確認し始めている。

 

 「自分でやっといてなんだけど、すごいな」

 

 「内出血の数ならお前も負けていないだろう、むしろ、俺に攻撃を弾かれまくった分、酷いんじゃないか?」

 

 「……そういえば、すごいあざだ」

 

 そう言うと、プリカはジャージの袖や裾をめくり始めた。

 12、13歳にしては少々幼い体のあちこちに痣や擦過傷、裂傷が残っている。

 地球人基準でなら、健康的な範囲を少々踏み越えているが、サイヤ人であればちょっとやんちゃした程度のキズだろう、問題はない……が、今、別の問題が起こりつつある。

 

 「傷を確認するのはいいが、向こうに人が来ているぞ、流石に寺では肌を隠せ」

 

 「うわっ!」

 

 プリカは自分の行為に無自覚だったようで、焦って服を戻す。

 寺の係員はどうやら、ジャッキーの勝利と、試合のインターバルについて教えに来たようだった。

 

 「ソシルミ選手! 試合10分前です!」

 

 「ありがとうございます ……さて、俺は本格的に休ませてもらう、ここからでもベストを尽くすのは、最低限の礼儀ってやつだからな」

 

 10分間、回復と消化に適した体位を取り、十分に瞑想することができれば、このコンディションも多少はマシになる。

 それが俺の、亀仙人とこの武道会に対する最後の礼儀だ。

 だが、プリカはそんな俺に、何か話があるようだった。

 

 「おまえの……その、めいそうの前に、いっこだけ聞かせてくれ」

 

 「なんだ?」

 

 プリカは俺の瞑想に対する熱意を理解しているようで、申し訳無さそうな表情をしているが……それでも聞きたいことならば、付き合ってもいいだろう。

 俺が聞き返すと、プリカは少し喜色を浮かべ、それから、純粋な疑問の表情で、思ってもみない問いを投げかけてきた。

 

 「どうして、しあいでオレのしっぽをつかまなかった?」

 

 「『どうして』、と来たか」

 

 試合中、そんなことは全く気にもとめなかった。

 プリカも同じだからこそ、今まで聞いてこなかったのだろう。

 実際、俺にとって、この質問は悩むまでもなく答えられるものだった。

 

 「どうせ効かない、効いても、俺の望む戦いには邪魔なだけだ」

 

 「……だからって、気にもとめないなんてことがあるか?」

 

 「無我夢中だったんだよ、楽しかったんだ、それでいいだろう」

 

 少々照れくさいが、理由はそれだけではなかった。

 

 「あと……お前がサイヤ人としての誇り……だとか、を持ってたりしたら、うっかり掴んだまま引っこ抜いてしまったりで、それを台無しにしたくはなかった……、駄目だ、これではまるで天内だな」

 

 「天内……ばきか、もうぜんぜんおぼえてないけど」

 

 「……要するに、敵を壊すのに容赦しちゃいけないってことだ、……だが、まあ、これは俺の我儘ってことにしてもいいだろう、お前と決別したくはなかった」

 

 「べつによかったのに」

 

 「今となっちゃそうかもしれんがな……で、お前はどうだ、楽しかったからか?」

 

 一瞬、俺の言うことを飲み込みきれずに固まったプリカを指差し、『しっぽのことを忘れた理由だ、試合中、言わなかったし、意識的にかばう様子もなかったからな』と言ってやると、プリカは軽く頭をかきながら、目をそらして答えた。

 

 「……楽しかったよ、嫌になるくらい」

 

 俺としては、この答えに大満足と言わざるを得ない。

 わざわざ鍛えて連れてきた甲斐があったというものだ、悟空には礼を言わなくてはならんだろう。

 ……そして、俺は瞑想に入る。

 天下一武道会決勝戦、ジャッキー・チュンとの戦いに備えて。

 

 

 

 

 「――――ッッ」

 

 起き上がる、周りを見回して索敵する、敵はいない!

 だが備えなければ!!

 立ち上がって、そう――――

 

 「おきたか、ソシルミ」

 

 「…………」

 

 「せんしっぽいねおきだ、まだ二分もたってないけどな」

 

 ……俺はもう一度、周りをじっくりと見る。

 俺が寝ているマットの横には、新品の芋ジャージを着こなし、あぐらをかいたプリカ。

 周囲にはいくつかの医薬品類、衛生材料、跳ね除けた布の色は、白。

 ここは武道会場に設営された、仮設の救護室だ。

 

 「ああ、起きた」

 

 「まだ悟空たちはかいじょうだ、今おきればおいつけるとおもう、立てるか」

 

 「……多分、大丈夫だ」

 

 「そうか」

 

 マットから抜け出しながら、腕を杖に立ち上がる……少し痛いが、問題はない。

 気絶明けには慣れているが……今回のは、最悪のコンディションということを差し引けば、これはかなりいい部類に入るだろう。

 最高の目覚めだ、気絶明けにしては。

 

 「流石だな、ジャッキーは」

 

 「ああ、たしかに……つよかったな、ジャッキー」

 

 「強さじゃないさ」

 

 天下一武道会、決勝戦。

 数分前まで俺が戦っていた試合は、無残な結果に終わった。

 試合直後から始まったジャッキーの攻め手に対応しきれないままに、『弟子譲り』の連続残像拳によって翻弄され……最後は、裏拳をギリギリで弾かれての、裸絞だ。

 

 「試合は一瞬だった、だが、多くのことが……分かった」

 

 「ソシルミ、そのボロボロの体じゃむりだった」

 

 プリカは俺を慰めようとしているようだが、俺が言いたいのはそういうことではない。

 

 「違う、そのボロボロの男がどれだけの実力者で、どれだけの余力があったか……やつは分かっていたはずだ、それなのに、裸絞なんかを選んだ」

 

 「……おまえをたおすだけなら、別のわざでも、よかったか」

 

 「そうだ、蹴り飛ばせばいい、殴り飛ばせばいい、俺だって抵抗はするが……裸絞よりはマシだろう」

 

 「むきずでたおすためか」

 

 「そうだろうな……、ナメられたというよりは、達人ぶりに、流石と言うべきだろう」

 

 そう言わざるを得ない。

 

 「それで、どうするんだソシルミ、まだみんな、外にいるとおもうけど」

 

 「いや、先に師匠を探す、挨拶だけでもしなければ」

 

 「まあ……そうだな、そっちが先か」

 

 俺達は手当してくれた寺の医師に礼を言って、武道会場を飛び出し、駆け足で寺とその周囲を回った……が、どうにも、師匠は見当たらない。

 悟空たちもまだ亀仙人と合流できていないようだが……。

 

 「なあ、その……『やつはもうわたしの手をはなれたいちにんまえのぶどうかだ、よけいな口出しはむようだろう……』とか、そんなかんじでもう帰っちゃったんじゃないのか?」

 

 「いや、あの方はどちらかと言うと目立ちたがりだ、俺の試合を見ただろう?」

 

 「……たしかに」

 

 俺達の脳裏に、高らかと声を上げアナウンスに割り込む師匠の雄姿(?)が浮かぶ。

 武にすべて捧げつくすストイックな武道家像とはかけ離れた、鍛え上げた武によって得た富や名声、立場を恥じることなく自らの糧とし、武を高める……そんな男が、俺の師匠だ。

 

 「まあ、あの方はそれでいいんだ、あれで、武に対しては真摯だからな」

 

 「そこがだいじか」

 

 「一番大事だ」

 

 それから、しばらく回っても師匠は見つからず、俺達は諦めて悟空たちと合流することにした。

 人もまばらになりはじめた寺の一角で、悟空とその仲間たちが亀仙人を待っているのは、遠目にでもはっきりと分かる。

 

 「おーい、皆、いつぞやの城攻め以来だな!」

 

 「ミソシル! プリカ! おまえらすっげえ試合だったな!!」

 

 「ありがとう、当たれなくて残念だった、次の武道会かどこかで、お前ともやりたいな」

 

 「オラもだ!」

 

 俺が悟空との試合を予約していると、ブルマが横から口を挟んできた、どうやら、試合の感想らしい。

 

 「孫くんもクリリンもヤムチャも、あなたたち二人も、大したものよね、私は全然見えなかったわ」

 

 「皆大分鍛え上げていたからな、正直関心したよ」

 

 悟空、クリリンは言うに及ばず、試合中はあまり褒める所がないように言っていたヤムチャも、ウデの伸びそのものはかなりのものだった。

 俺も更に修行の質と量を高めて対抗しなくては、次の武道会どころか一線級の座すら怪しいだろう。

 

 「でも、残念だったわね、あんなボロボロのままで戦ったんじゃ勝てっこないでしょ?」

 

 「そーだよなー、相手のじいさんはピンピンしてやがるんだもん」

 

 ブルマとウーロンが次々と俺に同情する、が、別に俺はあの戦いを悪く思っちゃいない。

 

 「それは相手も同条件だ、勝負は時の運で、運も実力の内、強いて言うなら……今度は全力で戦っても戦闘能力を残せるように鍛えるだけだろう」

 

 「わしは逃げちゃってもいいと思うがのう」

 

 突然飛び込んだ反論に振り返ると、そこには髭面の老人、ジャッキー・チュンの姿が……まだ着替えてないのか?

 

 「ジャッキー選手!」

 

 「どうしても無理なら逃げればいいんじゃ、おかげでわしはえらい苦労をしたわい」

 

 「どうも、やさしく仕留めていただいて……感服しております」

 

 「えーのえーの、あのままヘタに倒しても、おぬしは満足しそうにないからの」

 

 「いえ、そんな……」

 

 ジャッキー・チュンか、亀仙人か。

 その老武道家は、俺の中にある何かを……見とがめたようだった。

 

 「一生懸命戦うっちゅうのは楽しいもんじゃが、だからこそ、戦いを通じて何を得たいのか、しっかり見極めんといかん」

 

 「……ありがとうございます」

 

 「え、えらく素直じゃのう……、まあええ、わしも帰るわい」

 

 今の忠告は……とりあえず、受け取っておくしかない。

 『戦いを前にして過度に興奮してしまい、そのせいで勝てない試合に臨んだ』などと思われるのも心外だが……、ジャッキーの忠告には、それ以上の何かの意味が含まれている気がしてならなかった。

 

 「なんだ? あのじいさん、勝ったからって偉そうにさ」

 

 「ウーロンったら、お年寄りにそういうこと言うもんじゃないわよ」

 

 「ブルマの言う通りだ、相手はあれで、あの悟空に勝つくらいの達人なんだからな」

 

 「そうだぞー」

 

 「チェッ」

 

 ウーロンが割を食う形でジャッキー・チュンへの追求は終わり……しばらくすると、今度は俺の師匠、チャパ王がこちらにやってきた。

 

 「師匠! もう居ないものかと諦めていましたが……」

 

 「ああ、少し話し込んでいてな、それは悪いことをした」

 

 「いえ、師匠……師匠がお顔を見せてくださったにも関わらず、あまりいいところをお見せ出来ずに、申し訳ありません」

 

 「おまえはよく戦った、それに……いいライバルを持ったな」

 

 師匠はちらりとプリカに視線をやる。

 

 「そやつに教えたのは武術のさわり、それとヨガといった所か? わたし自らが育てたいほどの才能だな」

 

 「オ、オレをつれてきたいのか?」

 

 プリカはちょっと嫌そうだ。

 まあ、俺に教わっておいて、今更師匠に教わるというのもないというのはそこまでおかしい考え方でもないが……。

 

 「本式で教わるのは意味がある、顔を出してみたらどうだ?」

 

 「やめてやれソシルミ、そやつはわたしより、おまえに教わりたいと言っているんだ」

 

 「なっ!?」

 

 その瞬間、プリカの顔が真っ赤に染まって、わなわなと震え始めた。

 ……流石に助けに入るか。

 

 「師匠、それを言いたくてやったんでしょう」

 

 「ふははは……!」

 

 「…………くぅ」

 

 放っておくとこれだ、笑えない冗談をほいほいと投げ込んでくる。

 これ以上放っておくと更にいじられそうだ。

 

 「私だってヨガは一人前ですし、こいつの癖もわかってます、私が教えますよ、いいですね」

 

 「ほう……ヨガを手取り足取り……」

 

 「似合ってないですよ、そのわざとらしいエロオヤジ面」

 

 このままだと埒が明かない、まさか弟子の活躍を見て結構浮かれているのか?

 だとしたら責任がある、というか少し嬉しいが……。

 そう考えていると、遠くから聞き覚えのある老人の声、これは!

 

 「やっほー」

 

 「武天老師さま!」

 

 「おや、さっきの二人に、チャパ王もおるのか、こりゃあ大所帯になったのう」

 

 「はい、みんな貴方をお待ちしていたんです」

 

 「な、なんか恥ずかしいわい……」

 

 「ジジイが照れたって誰もうれしくねえっての!」

 

 今回ばかりはよく言った、ウーロン。

 

 「ともあれ、悟空、クリリン、ふたりともよう戦った!」

 

 「へへ、オレはともかく、悟空は惜しかったよなぁ、ソシルミもボロボロだったし、うまく行けば優勝出来てたかもしれないのに」

 

 「いやー、ジャッキーのじいちゃんはちょっとやそっとじゃなんとかならねえよ」

 

 「そうじゃ! 世の中には強い奴らがまだまだ沢山おる! 武の道に終わりはない、むしろこれからが本番じゃ!!」

 

 「うんっ!!」

 

 「はいっ!!」

 

 ……そう、ここからが本当の、本当に長い武の道の本番だ。

 隣のプリカも、今日という日を忘れずに刻み込んでいることだろう。

 

 「よしっ! では、よい試合のご褒美と、健闘を祝して、夕飯をたらふくごちそうしてやろう!」

 

 「やたっ!! オラもう腹減ってしょうがねえ!」

 

 「おまえたちも一緒に来るか? ええ店を見繕ったる、そこの二人とチャパ王も、今日はわしのおごりじゃ!」

 

 「代わりにわたしやプリカちゃんのおしり触らせろーとか言わないでしょうね……」

 

 ブルマが疑いの目を向けているが、今回ばかりは大丈夫だ、きっと。

 プリカもそれを疑っていないようで、特に身の危険を感じている様子はない。

 

 「私達はご一緒します、……というか、実はもう目星つけてあったりして」

 

 「では、わたしも、弟子と食事をとるのは久しぶりですからな、楽しみです……なあ、ソシルミ」

 

 「ええ師匠、私もこの1年、話したいことを色々見つけてきました」

 

 こうして、俺達の天下一武道会は幕を閉じ、俺の一年の旅、そして、プリカの孤独の12年に、ようやくピリオドが打たれたのであった。

 

 

→つづく




リアル、ネット内ともに騒がしく、色々と時間を取られているうちに一月も経ってしまいましたが、ようやくの第九話です。
次はもう少し早く投稿できるようにしたいところですね。

2022/03/07 次話修正のため一文のみ追記
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