我々が駆け込んだDELICIOUS菜館はその名の通り中華料理に近いスタイルの料理店だ。
『元の歴史』でも悟空達は同じようにこの料理店へと駆け込み、食材を食い尽くして店を看板にしてしまったわけだが……歴史に詳しい俺はそんなヘマはしない。
しっかり、俺とプリカが食う量を見越した規模の予約をかけてあるのだ、そうとう訝しまれたが、古巣の名を出してなんとか納得させた。
その甲斐あって、俺達の前に並ぶのは満漢全席もかくや、量で言えば勝るほどのごちそうの数々だ!
「な! もう食べていいか!?」
「悟空、意地汚いぞ」
脂っけの多い料理は、戦いに傷ついた我々の体を大いに癒してくれるだろう、元の歴史における亀仙人の気遣いが光る。
所狭しと並べられた肉まん、豚の丸焼きなどなど、高カロリー高タンパク高脂肪の料理から吹き上がる蒸気、香りは店内に充満しており……。
「そういうクリリンも、よだれが垂れておるぞ」
「そ、そうですか……? えへへ」
我々成長期の武道家にとって、耐え難いほどの食欲を喚起していた。
プリカも、必死に耐えてはいるがもはや本能に破れそうである。
「それでは、我慢できんようじゃし……ゴホン、みんなの健闘を祝して、乾杯じゃ!」
「「かんぱーい!!」」
ビールを掲げた亀仙人の号令とともに、皆一斉に手に持った茶色の液体を飲み始めた。
当然ながら、ほぼ全員烏龍茶である。
締まらないが、ほぼ全員未成年で半分以上が武道家の集まりだ、酒はご法度と言うほかはない。
……が、亀仙人の他にもうひとり、ビールを天高く掲げる男の姿。
「師匠、いくら成人と言っても、武道家で、しかも仮にも仏に仕える身の貴方がビールはないでしょう」
「かたいことを言うなソシルミ、おまえも飲め!」
「私は未成年で武道家です」
腕を伸ばし、はっきりと『NO』の姿勢を取る、こればかりは師匠相手でも譲れん。
「飲まず嫌いはよくないぞー?」
「好き嫌いではありません!」
「すっげえ嫌そうだな……、クリリン、あれってそんなにマズいのか?」
「お酒は子供は飲んじゃいけないんだよ、体に悪いんだってさ」
そう言う悟空とクリリンはシェフが北京ダックを削ぐ端から食らい付くしている……シェフも神業だが流石に悟空の胃袋には敵わない、シェフは今にも豚を奪われそうだ。
そして、師匠はなおも俺にビールを突き出してくる、……これは……臭い。
「ソシルミ、おまえそんないやそうなかおもできるんだな……」
「全く……、じゃあ、プリカちゃんはどうかね?」
「オレものまない、あとちゃん付けやめろ、かぞえてないが、13は行ってる」
そう言うプリカは手のひらより大きな肉まんを実にうまそうに齧っているが、正直、その小動物のような姿は、武道家として、範馬としての観察力が無ければ13にも見えない。
「まあまあチャパ王、そのくらいにしようじゃないか、みんな、もう食べ始めとるしの」
俺も手頃な蒸籠をたぐりよせ、汁の滴るような焼売を頬張り始める。
期待に違わず、たっぷりの油と水分に乗った旨味が口いっぱいに広がってゆく……、旨さを追求して作られた料理は実に久しぶりだ。
「孫悟空くんもえらい食いっぷりだな……、まさか、同じしっぽの生えたプリカくんもあんなに食うのか?」
「あそこまではくわない」
と、言うプリカの周りにはすでにいくつか食べつくされた蒸籠が広がり、悟空も北京ダックを待ちきれずにいくつもの皿をカラにしている。
……正直五十歩百歩なのだろうが、俺にはプリカが五十歩の側であることが分かった。
「むぐ、私がたらふく食わせていますからね、食いだめがあるのでしょう」
「ほう……8ヶ月も一緒に修行してただけはあって、よく分かっておるようだな」
師匠は俺達の関係に興味津々のようだ、ワザワザ箸を置いてまで、身を乗り出してくる。
「それで、二人はいつ出会ったんじゃ? わしも気になるのう」
「わたしも興味がある、わたしに勝ってから今日まで、どうしていたのだ? プリカくんとは、いつ?」
「むぐ……、ゴクン! ミソシルがオラたちと会う前のはなしか!」
食うことに夢中だった悟空たちも箸を動かす手を緩め、俺とプリカに興味の目を向けてくる。
「そう言えば、ここに居るのは皆、ほとんど初対面だったな」
「わたしに至っては完全に初対面だ……、ソシルミとの縁は一番深いがな」
俺は新たに卵の絡んだスープを飲み干し、続けてお茶を飲んで口を洗いながら、まだ湯気を漂わせる丸焼きを手繰り寄る、食べるのは中断しない、久々の外食なのだ。
語らねばなるまい……、俺(たち)のこれまでを。
「まず、知らない奴らもいると思うから言うが、俺は師匠の道場で育った、生まれは……まあ、今はいいだろう」
「ソシルミの素晴らしい才能を恐れた両親が手放したのだ、今頃、歯噛みしているだろうな」
「……師匠、風情ってものがあるでしょうに」
思えば、俺は最初から目をかけられていたのだろう。
師匠が俺に期待していたのは、成長した俺との対決だろうか、それとも……。
「ははは、隠す意味もあるまい、偉大な武道家には、ありがちなことよ」
師匠はバシバシと俺の肩を叩く、慰めというよりは、純粋に、当然のことだと思っているのだろう。
……若干だが、あの対決の時より腕が太くなっている?
「うーむ、まあ、そうではあるのでしょうが……」
「それで、最初に会ったときはどんな子だったの?」
「うむ……、疎まれるほどの力を見せろと伝えたら、かなり派手なパフォーマンスを見せてくれたな」
どういうことなんだ、とばかりの視線が俺に集まってくる。
「飛び上がってみたり、そこらの石を持ち上げてみたりだな、行き倒れはごめんだ、俺なりに必死だった」
「わざと駆け回ってみせて、おまえを捕らえようとする小僧を打ちのめした事は言わんのか?」
「師匠」
「はっはっは、武勇伝には事欠かんというのに、語らんのでは片手落ちだな」
若気の至り、とまで言う気はないが、五里霧中だった時期のことだ。
「昔から血の気が多かったってことね」
……どちらかというと理性的な武道家というキャラで通しているつもりだというのに。
「そんな子供の頃から強かったのか……、オレはその頃、まだ多林寺にも入ってなかったかも」
「オレは……盗賊になる前はフラフラしてたからなぁ……」
クリリンにヤムチャ、亀仙人の修行を受ける前からそれなりに強力な武道家であった二人にも、それ以前の歴史はある。
ヤムチャは盗賊、クリリンは多林寺の修行者……その以前は?
明かされなかった歴史に興味がないではないが、俺は更に話を続けることにした。
「ともかく、俺は弟子として入門を認められ、修行に励み始めた」
「最初っから鍛えるのが好きな子供なんてそうはおらんものじゃ、いい弟子を拾うたのう」
見た目ほど子供というわけでもない……と、内心で言いつつも、何か鶏のような味のする揚げ物に齧りつく。
油、甘み、塩味と、妙に単純な味のするものに興味を惹かれる……それはつまり子供舌か。
「クリリン! これめっちゃうまいぞ!」
「ん! 本当だ!」
同じ料理に悟空たちも食い付いているからには、これは子供向けということだろう。
精神が肉体に引っ張られるという言葉は良く聞くものだが、ここまで卑近な例を突きつけられると、人間の好みというものの儚さを感じざるを得ない。
「若い頃から鍛えすぎるのも、筋肉で骨が締め付けられてよくないと聞くが……」
「情報が古いわよヤムチャ、それは子供がムチャして鍛えたら体が耐えられないってだけ」
「なら、ソシルミはへいきだな、こいつほどがんじょうな人間はいない」
「おめーみてえなのに言われてもなー」
「こらウーロン、女の子になんてこというんだ!」
男女の違いなどよりサイヤ人と地球人の違いの方が遥かに大きいだろうが、プリカがどう思っているのかは分からない。
「それにしても、あんた、孫くんに負けず劣らずヘビーな人生送ってるのね……」
「ヘビーってなんだ?」
「とっても辛いってことよ」
ブルマは新しい料理にがっつきながらとぼけた質問をする悟空に呆れながらも、自分も箸を動かし始める。
それをきっかけとしてか、出し抜けにウーロンがぼやいた。
「オレも南部変身幼稚園を追い出されてからはそりゃもう苦労してなぁ……」
「ウーロンのは女の先生のパンツを盗んだからじゃないか!」
ウーロンは自分に突き刺さる冷たい視線をごまかすように、俺に話を戻そうとする。
「し、しっかし、おめーもよくやるよなぁ、小さい頃からずっとだろ?」
「言っちゃなんだが、俺には才能ってやつがある、鍛えれば鍛えるほど強くなれるんだ、試合の相手だっていくらでもいる、こんなに楽しいことはない」
8年という月日は、武の道の中では、そう長くない……俺には俺の苦悩があったわけだが、ここまで修練を重ねることが出来た一番の理由は、この優秀な肉体の伸びしろと、将来訪れる戦いへの期待があったからだ。
「試合の相手がいるのはちょっとうらやましいなあ、じいちゃんが死んじまってからはオラずっと一人で鍛えてたもん」
「む……孫くんも、ソシルミに負けず劣らず波乱万丈のようだな」
「ああ、じっちゃんは満月の夜に出てくる怪物に踏み潰されちまったんだ」
各種食材が落ちる音、水音、箸がテーブルに当たる音、最後に、グラスが床に激突する音。
温まりかけていた空気は一瞬で絶対零度まで凍りついた。
「む……むぅ、それは気の毒な……」
「ま、ちゃんとじいちゃんの形見の四星球は残ってるから、オラ今度集めに行くんだ!」
亀仙人と師匠はビールを取り落し、プリカは食べかけの肉まんを持って凍りついている。
……流石にこれは、唯一事情を知っていた俺ですら動けん、どうすればいいのだ。
「そ、そ、それで、ソシルミくんは、どうして、チャパ王さんの道場から出ることにしたの?」
ブルマが声を上ずらせながらも、わざとらしく身を乗り出して聞いてくる、流石は大発明家にして大富豪だ。
その一声でようやく我に返った皆は集まってきたウェイターさんたちに甲斐甲斐しく世話されながら礼を言っているが、当の悟空はのほほんとしている。
このニブさが気持ちのいい男だというのはわかっているが、衝撃的だ……。
「う……む、道場はそれなりに居心地がよかった、試合に付き合ってくれる先輩方もいたし、給仕のおばさんの飯はうまかった」
「多林寺も、今思うと先輩がたが沢山いたっけ、ちゃんと仲良くできればオレももっと強くなれてたのかなぁ……」
師匠の見つめる先には、俺が食い尽くした皿の山がある。
まだ腹は満杯ではないので、まだ食うが。
「それじゃあ、どうして出ていったんだ? そのまま修行を続けて、師範にでもなればよかっただろ?」
「師匠超えは夢だったからな、それを果たした後は地上最強を狙うつもりだったし、師匠を倒して飛び出すしかなかった」
俺は意気を示すように、持ったままだった骨付き肉を一息に噛み砕き、麦茶で飲み干す。
追って、プリカが肉まんを食べ尽くし、そろそろと皆も食事と飲酒を再開し始めた。
「ともかく、こいつが散々ぱら他の弟子をいじめてくれたおかげで、随分修行がはかどったわ」
「道場内の私闘を黙認してくださり、感謝しておりますよ」
「わしらとは随分違う師弟関係じゃの……」
師匠は、俺との最後の決闘では、わざわざ俺を過剰に持ち上げて悪者にし、他の弟子を焚きつけるマネまでした。
互いに高めあい、互いに奪い合う。
始めはただ与え、後には争う。
亀仙人は呆れたような顔だが、俺達の師弟関係は、これでいいのだ。
俺は亀仙人に意識を向けつつも、師匠をちらりと見る。
「師匠は私を丸々太らせて食べるつもりだったのですよ」
師匠もまた、俺をちらりと見た。
「最後の餌はわたしか?」
「何を言いますか、弟子が師匠を食うなど、……腹が裂けるまで食わせてやっただけですよ」
「わかっているとも、……最高の馳走であったぞ、ソシルミ」
俺達は劇がかった口調で互いにふざけあうと、そのまま大笑いした。
一通り笑ってみると、悟空はその間に数皿開けているし、亀仙人はウェイトレスの尻を触ろうとしてブルマに叩かれている。
「ああ、そうだソシルミ……おまえはどうしてプリカと一緒に居ることにしたんだ?」
師匠は唐突にそう言うと、大きく身を乗り出してきた。
胸板でカラのジョッキを弾き倒しそうになっているが、そんなサービスカットはいらん。
「詳しいことはこれからですが……最高の素材が腐りかけていた、貴方と同じですよ、惜しかったんです」
「本当にそれだけか?」
「それだけですよ」
実際のところ、語ったことは真実だが……、まあ、プリカが『同郷』の人間であれば、とりあえず一緒に居るのが早いと思ったのだ。
「新しい師匠か修行場でも探していると思っていたが、まさか女を拾っておるとはなあ……」
「ある程度、師匠の目星は付いていましたが、プリカを教えるなら自分でやりたかったので」
「目星ってのは、武天老師さまもか?」
「チャパ王を倒すような達人を弟子に迎えたところで、わしが教えることはなさそうじゃがの」
「ご謙遜を、お弟子さんを見る限り、ソシルミにもまだ伸びしろはございましょう」
師匠は弟子二人の鍛え方をよく観察して、俺の練り込み具合と比較しているようだ。
「心身の鍛錬もさることながら、亀仙流には、かめはめ波の他にも素晴らしい気の術や武術の知識があると聞きます」
「技はわしがたまたま持っておるだけじゃ、盗むのは自由じゃが、技とは自分と今の実力に合ったものを自ら編み出し、見つけるものじゃよ」
「……ご忠告、ありがとうございます」
俺は一息に烏龍茶を飲み干して、再び話し始める。
「それで、プリカと出会ったのは旅の中、山奥で魔族に襲われながら、一緒に戦ったのがきっかけだ」
「山奥って……孫くんはおじいさんと一緒に山で暮らしてたらしいけど、プリカちゃんも誰かと一緒にいたの?」
「……オレはずっと一人でくらしてた、いつから居たのかも、わからない」
「オラもいつからじっちゃんとこに居たのか覚えてねえんだよなあ、じっちゃんもあんまし話してくれねえし」
「確か、ソシルミくんは孫くんのこと、結構知ってたわよね」
ブルマが厄介なパスを投げてきた、自業自得とはいえ、言葉に詰まる。
「……ああ、古い伝説で知っていた、人間の祖先は猿だと言うし、時々、先祖返りで猿らしい人も生まれるのかもしれん」
「しっぽだけ?」
「妙な話だが、それくらいしか説明の付けようがない」
さて、今の話、プリカは明らかな嘘だが、悟空のは本当だろう。
サイヤ人が惑星制圧のために子供を送り込む『飛ばし子』は通常、言葉を覚えた程度の子供に行われるが、悟空(そしてプリカ)は足腰が立った程度で送り込まれてしまっているため、惑星ベジータでの記憶はほとんどない。
その上、悟空は性格が変わるほど強く頭を打っているため、記憶喪失の疑いがある。
「もしかしたら、どっかに悟空の仲間が住んでる国があるのかも……」
「ははは、そんな国があったら、もうとっくにこの世は悟空の仲間のものじゃないか?」
「怖えこと言わねえでくれよ……」
ヤムチャはそろそろ満腹に近づいてきたようで、烏龍茶を飲みながら笑っている、クリリンとウーロンはまだ手前に皿があるのに、肝を冷やして箸が止まってしまった。
二人が思い浮かべる想像図を一笑に付すヤムチャだが、実際、少し前まではそんな連中の星があったのだからたまらない。
「オラやプリカみてえなのがたくさん居るなら、試合し放題だな!」
「俺も、そんな国があるなら行ってみたいものだ」
楽しいに違いない……悟空やプリカのようなサイヤ人ばかりが居る国なら、だが。
「それで、オレたちと会ったあの城でのことは、プリカと会ったすぐ後なんだよな」
「ああ、一気に本拠地を叩けば、あの周辺への迷惑も減ると思ったからな、全滅させる気まではなかったんだが……」
「あいつらはたくさんの人をころしてた、オレたちもおそってきたし、やるしかなかった」
「戦えば必ず敗北する者がいるのだ」
「そうは言っても、中々割り切れんものよ、あ、そこのビール取って」
「お注ぎしましょう、いやあ、武天老師さまも結構いける口ですな」
地上最高峰の武道家にして指導者たちも安酒をかっくらっていれば威厳も何もあったものではない。
とはいえ……、多少はラクになった。
「お兄さん、そっちの豚の丸焼き、こっちにもお願いします、ああ、自分で取り分けますから、シェフはいいです」
「ソシルミ、骨まで食うのはよせと前に言っただろう」
「効率的なカルシウムの摂取にはコレが一番です」
実際にはジャック・ハンマーごっこだ。
「そういえばミソシル、おまえ、城がぶっこわれたあと、プリカと二人で何してたんだ?」
「そりゃあ二人でやることといったら……アイタッ!」
ついに豚がブルマにぶたれ、手に持った豚の丸焼きが落ちた。
……豚、食べていいのか? 人が猿を食うのと同じだろうか……いや、人も猿はあまり食わないが。
「ハァ……城の財宝を漁っていたんだ、修行には何かと入用だからな……特に、食材が」
「オレをみるな」
プリカの前には、やはり大量の皿がうず高く積み重なっている、一応ウェイターさんが回収しているのにも関わらず、食い尽くす方が早いのだ。
「む? その時から一緒におると決めとったんか?」
「ほう……」
師匠組が一気に色めき立つ、言われるかもしれないとは思ったが、がっつきすぎだ。
というか悟空と俺達本人以外は全員興味ありげである。
「さっきも言っただろう、皆が期待しているような気持ちじゃないさ」
「お、おまえ本当にドライだな、もうちょっと、強く否定したり、恥ずかしがってみたりは……」
「俺がそんなタマに見えるか?」
「じゃあ一体どういうことなのさ! こんなかわいい女の子を……イテッ!」
今度はヤムチャにぶたれた。
「相変わらず、素直ではないなあ」
「そうそう、『かわいい女の子が一人寂しく暮らしてるから、我慢できなかったんだ』くらい言えないとモテないわよ?」
「無いと言っているだろう」
「うーん、オレもここまでひていされると、さみしいような……」
「ほら!」
まさかこいつまで乗るとは!
「はぁ、実を言うと、俺もそういう気持ちはありましたよ、こいつだってそれなりに整った顔をしてますし、女の子ですからね」
プリカは『信じられん、何を言っているんだこいつは』とでも言いたげな顔でこちらを見る、そもそもお前が先に乗ったんだろうが。
「……まあ、その後は知っての通り、8ヶ月ずっとヨガや基礎鍛錬、それに、気の扱いの練習に費やした」
「その間のことを聞きたいのだが……本当に何もなかったのか?」
すでに酔いどれに片足突っ込んだ師匠はテーブルに半ば体を預けるように肘を付いたまま、こちらに身を乗り出してくる。
「しつこいですよ師匠」
「いくらソシルミのししょうでもおこるぞ」
「はっはっは」
笑ってごまかそうとする師匠をプリカは睨み続ける。
「まあ、プリカくんがそうでなかったとして、おまえも早いところ、相手を見つけないといかんぞ、私の娘でもいいが」
「師匠の娘さんって、もう全員おばんじゃあないですか」
「人の娘をおばんとはなんだ! ……おばんだな」
師匠はすごすごと引き下がり、おとなしく骨付き肉の軟骨を齧り初めた。
……さて、俺達の話をひとしきり終えたあたりで、俺も聞きたいことがある。
今後の動向に関わる、極めて重要な情報を得たいのだ。
「……ところで、悟空、お前はどうやってこの連中と知り合ったんだ?」
「むぐ? ああ、ブルマがオラのじいちゃんの形見の四星球を取りに来たんだ」
「四星球ってのは、全部で7つあるドラゴンボールってお宝の一つね」
「ドラゴンボール、聞いたことのある名前だな、7つ集めれば、どんな願いでも叶うという珠だ」
「あら、見た目によらず博識ね」
実際はカンニングだが、一応、道場の蔵書をあたって、その存在を再確認していた。
ブルマはもう食べるのを完全にやめていた……まあ、俺やサイヤ人二人はまだまだ食う。
「オラはブルマについてって、一緒にドラゴンボールを探すことにしたんだ」
「大変な旅だったわよ、スケベな豚とかが襲ってきたり……」
「誰がスケベな豚だ!」
「本当のことじゃない、……ま、そんな旅の中で、ヤムチャと出会えたんだけどね」
ブルマはヤムチャの腕を取ってイチャイチャし始めた。
「それで、悟空、他にはどんなことがあったんだ?」
「ん、ああ、亀仙人のじっちゃんとこのウリゴメを助けて筋斗雲をもらったりしたな」
「牛魔王の城が燃えとるのをなんとかしてくれっちゅうて、わしを呼んだりもしたの」
「ああ、そうだ、牛魔王のおっちゃんもいた!」
……どうやら、映画『ドラゴンボール』のルートは通っていないらしい。
ドラゴンボール原作の映画作品として最初の作品にあたる『ドラゴンボール』は、漫画版初期の内容を混ぜ合わせつつ、一つの筋に仕立て直した作品であり、以前遭遇したルシフェルの所属する『魔神城のねむり姫』の前作、その次に放映された『摩訶不思議大冒険』とともに、初期三部作とでも言うべき、原作の筋を変えながらも内容をなぞっていく作品群を形成している。
これら三作は、ドラゴンボール初期の冒険を別の形で描き出し、独自の世界観を作り上げているという点で非常に楽しいものだったが、今の俺にとっては、あまりに漫画版と違う歴史をたどったこれらが歴史に混ざることで、未来予測が困難になってしまう点が恐ろしくもあった。
一応、それらの舞台となる『グルメス国』と『ミーファン国』が存在していないことは把握していたが……。
何より恐ろしいのは、今話題に出た牛魔王の娘、チチが将来悟空と結婚し、彼を支えるという重要な歴史がなくなり、同時に、その息子であり強力な戦士である孫悟飯の存在までもが消滅してしまうことだったが……。
一応、杞憂に終わった、と言っていいだろう。
「牛魔王と言うと、悪名、武名共に高いフライパン山の主だな」
「へー、チャパ王のおっちゃんも知ってるんだ」
「燃え盛る城の財宝を守り続けていると聞いたが……、そうか、解決したのか」
師匠は何やら感慨深そうにビールを煽っている。
この世界に浸透した伝説がつい最近終わったのだから、感じるところもあるのだろうか。
「ん? どうだ、おまえも腹が膨れてきただろう、そろそろ一杯……」
「結構です」
師匠でもこれは譲れん。
「それで、そのあとはどうしたんだ?」
「ああ、ほとんど集まったところで、ピラフってやつの仲間に、ドラゴンボールを盗まれちまったんだ」
ピラフ大王、ドラゴンボールにちょろちょろと出てきては、世界に爪痕を残したり残さなかったりする高いテクノロジーと世界征服の野望を持った小悪党だ。
「それで?」
「ピラフに囚われてしまったところに、魔物が来たんだ」
ヤムチャが非常に気がかりなことを言った。
俺は思わず、食べかけの肉まんを放り出して聞き返してしまう。
「魔物だと?」
「まものがそこにもでてきたのか!?」
俺に続いて、プリカも声を荒げた。
俺達が知っている歴史にない流れを恐れるのは当然のことだ……が、それは今に始まったことではない。
あのルシフェルの登場、ルシフェルが登場しているにも関わらず、初期三部作の内容がほぼ反映されていない流れそのものが、もはや未知なのだ。
「恥ずかしい話なんだが、オレたちはあの青いチビ……ピラフに誘き寄せられ、ドラゴンボールを奪われてしまったんだ」
「どんな願いも叶う珠とやらが奪われてしまうとは、穏やかなことではないな」
世界征服の願いが何を意味するのか、俺にはとうてい分からない。
記憶を消すことができるなら、忠誠を誓わせる事もできるのだろうか、それとも、王の座がすげ変わるだけなのだろうか。
……戦闘力が数千あれば直接の干渉は防げる地球のドラゴンボールでも、悪用の手段はいくらでもあるのだ。
「ま、ウーロンがなんとかあいつらの願いが叶うのを防いでくれたから、そうはならなかったんだけどな」
「くっだらない願い事でね!」
「くだらないとはなんだ!」
「女の人のパンツだなんてくだらないに決まってるじゃないか!」
「おまえ、そんなものを願ったのか! どんな願いもかなうのに!?」
「そうよ! 『みんなをあの城から出してくれー!』とか言えば全部解決だったのに!」
再び、ウーロンに冷たい視線が降り注ぐ。
だが実際、ファインプレーだ、世界の救世主かもしれない。
「ウーロン、あの剣の使い心地といい、やるときはやるじゃないか」
「ヘン、男に握られたことだなんて思い出したくもないやい」
俺はウーロンに、席をまたいでお茶を注いでやるが、やはり『男のお茶なんて飲めるか!』と叫んで突っぱねられてしまった。
……鍛えた変身能力者が武器に変身するという戦い方は案外、ありなのかもしれない。
俺はあまり武器を使うつもりもないが、使う戦士は使うだろう。
「魔物が来たのは、その後か」
「うん、あいつら、どんどん爆弾を使って、オラたちを閉じ込めてた檻も、城もぶっ飛ばしちまった」
確か、最初に閉じ込められた牢は、かめはめ波で穴が開くような石壁の外壁近くの部屋だったはずだ。
本来の歴史ではその後、金属製の檻に移され、どうしようもなくなったところで、悟空が大猿と化し、牢が壊れるのだが……その歴史は俺が彼らと出会った時点ですでに失われていたのだ。
俺は、もう一度烏龍茶を煽る、こういう時は酒飲みが羨ましい。
「オレたちはギリギリのところで、筋斗雲に乗った悟空に引っ張ってもらって脱出できたんだが……」
「あいつら、ピラフのヤローを襲ってきたってのに、オレたちにまで襲いかかってくるんだもんなぁ」
ウーロンはうんざりした感じで肩を落とす。
……『ピラフを襲った』?
「待て、どうして魔族の襲撃がピラフ目当てだとわかったんだ?」
「あいつら、『ピラフを倒せー!』って、ぎゃんぎゃん叫んでたわよ、ピラフの方も戦いながら……ええと、『我がメシヤキ……なんとか』のカタキだとかなんとかって」
「メシヤキ族だと!?」
メシヤキ族とは、俺が死ぬ少し前に開示された設定で、滅んでしまったピラフの出身部族だ。
ピラフはその部族の王子であったが、王が世界征服を目論んで始めた最初の戦いで部族は壊滅、ピラフは財宝を持って落ち延び、それを資金に武装を蓄えていたという。
「知っておるのか、ソシルミ」
「ええ、かつて存在し、今は滅亡してしまった王政の部族、というところまでですが」
「ミソシルはなんでも知ってんだなぁ」
「オレももっと勉強しようかなぁ……」
「うむ、よく学ぶこともこれからの人生には大事じゃからの」
オタク知識が歴史知識に化けるとは、人生何が起こるか分からないものだ。
横を見ると、プリカが『なんだそれは』とばかりに凝視してきている……が、ここで話すわけにもいかん。
「しかし、俺が居るときでさえ魔族相手は苦戦していたというのに、よく切り抜けたな」
「ピラフのでっけえロボと悟空たちが一緒に戦ったんだ、あいつら、人のこと閉じ込めといて、イザとなったらあてにしやがってさ」
「それ、あんたが言える話?」
「ウーロンのことはいいから、つづきをはなしてくれ」
ついにプリカから催促が入った、食べるのに夢中かと思われたが、この話題は見逃せないようだ。
「オラとヤムチャ、あとピラフのでっかい乗り物で魔物をやっつけた」
「やっつけたあと、どうした」
「ピラフはオラたちもやっつけようとしたんだけど、なんか、駄目だったみたいで逃げてった」
「弾切れよ、調子に乗ってぶっ放してたみたい」
なんともピラフらしい幕切れだ。
さて、悟空たちは話し終わって一息ついて飯をがっついている、ヤムチャも落ち着いたようで、ちまちまと箸を動かし始めている。
俺もゆったりしたいところだが……新しい情報が多すぎて疲れてきた。
「その後、わたしとヤムチャ、それにウーロンとプーアルは西の都にあるわたしの家に来たわ」
「オラは亀仙人のじいちゃんに修行付けてもらいに行ってたんだ!」
「そこで、オレと一緒に弟子入りの課題で魔神城に行って、あとはソシルミが話した通りだ」
「わたしたちはこのスケベじじいにテーマパークだって騙されて行ったのよね……!」
拳を握りしめるブルマを前に、亀仙人はビールを置いて汗を流しながら弁解しているが、意味が通った言い訳はできない、武術の神と言えど、ギャルの拳には敵わぬようだ。
それを愉快そうに眺める師匠を横目に見ながら、俺はそろそろ箸を置き、俺にとって本題と言える話題に入ることにした。
「しかし……ドラゴンボールか、俺も一つや二つ、願いたいことはあるのだが……」
「不老不死ならやめといたほうがいいぞい、つまらんからな」
「いえ、私は修行に使う設備や資金などを」
「げ、現金なんだか真面目なんだかわからんやつじゃのう……」
そもそも亀仙人は不老不死ではないはずだが……。
なにはともあれ、悪人を襲撃するなりなんなりで稼いでもいいが限度があるし、そもそも悪人とはいえ、収奪のために襲うのであればどちらがケダモノなのかわかったものじゃない。もう手遅れかもしれんが。
……俺やプリカ、悟空の目の前に大量に並んだ皿、このような暴食を行うにも、金は重要なのだ。
「神龍にまで願って手に入れる設備か……」
「あら、トレーニング道具くらい、いくらでも作ってあげるわよ?」
ヤムチャがボソッと言った言葉に反応するブルマ、非常に羨ましいと言うほかはない。
「じゃあミソシル、オラこれからドラゴンボール集めるから、それ使わせてやろうか?」
「……いいのか?」
「うん、なくなっちまうわけじゃねえんだから、また探せばいいしな!」
「かっるいわねぇ……」
悟空は快活そのものの笑みを浮かべて、俺へのドラゴンボール提供を約束してくれた。
俺は最後の一皿、胃袋を洗う温かいスープを飲み干そうと器を取るが、先にクリリンが口を挟んだ。
「む、武天老師さまやチャパ王さまはこういうのって、お止めになられたりは……」
「ズルっこいとかかの? フツーの日常で働きながら鍛えるのも、めっちゃんこ金持ちで鍛えるのも変わらんわい、……そもそもわし、ソシルミの師匠とかじゃないし」
「戦いで奪おうと神に願おうと、金は金だ、金稼ぎを修行にするのは自由だが、訓練効果は当然本腰入れた修行に劣る」
「ということらしい、お前も噛むか?」
そう聞いてやるが、クリリンは大金に怯えたのか、身を固くして首を振った。
俺は諦めるそぶりを見せ、スープを啜り直す。
「こいつはかりにもてらの子だ、そんな、金のはなしをするな」
「金の話は大事だろう、武道人生にも金は大事だ、金があれば武名を穢す行為もせずに済む」
「か、仮ってなんだよ仮って!」
魔神城の財宝がなければ、俺達も各地を放浪し、どこかで用心棒になるか各地を荒らし回り野の獣を狩って生きる野人二人組になっていただろう。
お金は大事だ、腹いっぱい食べようではないか。
「ミソシルはドラゴンボール集めに付いてくるんか?」
「それは魅力的だが……俺には少し用事がある」
ある意味、俺にとって真のドラゴンボール集めとも言える大事な用事だ。
「用事って何よ、ドラゴンボール使わせてもらうんなら、一緒に集めるのが道理ってモンじゃない?」
「オラは後からでもいいぞ!」
「では、後から合流させてもらうとしよう……なにせ、まずこの手を休ませなきゃならんからな」
俺は両手をばっと持ち上げる、布が七部で肌が三部、残った肌にも軽い傷と炎症。
プリカが目をそらす気配を感じるが、とりあえず気にしない。
「う……、それはしょうがないわね」
「気色悪っ! さっさと引っ込めろよ!」
「ウーロン!」
最後の最後でウーロンが正しいことを言った。
俺はすみやかに手を机に乗せ、そのまま、悟空に頭を下げる。
「ドラゴンボールのこと、プリカ共々よろしく頼む」
「う……、よろしくたのむ」
「おう!」
「なんでプリカちゃんまでなのよ」
「い……いちばんくうのは、オレだからな……」
目を逸しながら言うプリカ、これは約束を果たすという真の目的をごまかす動きか、それとも大食いを恥じてのことか。
まあ、サイヤ人が大食いを恥ずかしがっても仕方あるまい。
そう思う俺をよそに、ゆったりと食い続けていたプリカはそっと箸を置く。
……一方、悟空はまだ食う構えだ。
「これもうひとつちょうだい!」
「すいません、皆様よくお食べになるもので、もう食材の方が……」
「そっか、ま、腹八分目って言うもんな」
金を手に入れたら、その金ででもいいから腹いっぱいの料理を食わせてやろう。
俺がそう決意する中、最後に粘り続けていた二人が食べ終わったことで必然的に宴は終わり……。
「け……計算が長く、おまたせしました、しめて94万ゼニーです」
「…………」
(武天老師様、お出しします、お納めくださいッッ!!)
1ゼニーの価値は平成末期における日本円の1.5倍程度である、つまり、94万ゼニーは概算すると147万円程度になる。
元の歴史では足が出なかったので、はみ出した分は確実に俺達だ。
(わたしからも、少ないですが……!)
(や、やめい! 伊達に仙人やっとらんわい! 金くらい気にせんでええ!!)
(私はドラゴンボールに願います、お気になさらずッッ……!!)
(武術の神と弟子に払われては面目が立ちませんっ!!)
俺と師匠は奮戦の甲斐あり、なんとかしめて45万ゼニーを押し付けることに成功。
こうして、下らないが意地をかけた小戦争は幕を閉じた。
――――そして、ついに本当の終わりの時間がやってくる。
「俺達は一晩、島でゆっくりしてから発つことにした、宿は近いから、このまま帰るよ」
「オレはソシルミといっしょだ、悟空、またこんど?」
「ああ、また今度な!」
まだ俺が始めようとしていることが把握しきれていないプリカは疑問符を浮かべながら再開を誓うが、悟空は旅の中で俺と会うことを確信しているようだった。
俺は視線を悟空からクリリンに移す。
「クリリン、次の武道会でもやろう、俺が勝つ」
「次はオレだ! ……へへ、また会おう!」
「オレも今度は二回戦に行けるようにしないと……!」
「そこはドーンと、優勝するって言っちゃいなさいよ!」
ヤムチャも今まで見た人間の中では確実に10本の指に確実に入る人材なのだ。
次こそ、Z戦士の伊達じゃないところを見たい。
「師匠もお元気で、そのうちに顔をお見せします」
「ははは、またわれわれのケツを叩きに来るのか?」
「師匠とも、またお手合わせしたいものです」
本心だ、師匠にもまだまだ伸びしろがあるし……あれはあくまで卒業試験だ。
全力を出し合う戦いであったが、それ故に、俺達は全力という枷に縛られていた。
……師匠と挨拶している間に、悟空は着替えで預けていた如意棒とドラゴンレーダーを亀仙人から取り戻している。
「じゃ、オラもう行くよ、早い方がいいからな!」
「悟空が行くのはいいが、ソシルミたちはどうやって付いていくんだ?」
「む、それは……考えてなかったな」
実際は考えているが、カバーストーリーのない不自然な手段しか手元にはない。
「あんたもたまには天然じゃないポカもやるのね……、はい、これ」
「これは……レーダーか?」
「カンがいいわね、それはドラゴンレーダーって言うの、ここをこうすると、ドラゴンボールの場所が出て……」
ブルマは丁寧にドラゴンレーダーの使い方を教えてくれた。
ボタンで電源と範囲の広さを調整するだけの簡単な操作だが……これ、どうやって地球全土をサーチして平面に表しているんだ?
「なるほど、これを持っていれば、ドラゴンボールを集めている悟空の場所も分かるというわけか」
「そういうこと、念の為にもう一つ作っておいてよかったわ」
「ん、じゃあオラはもう行っていいんか?」
「そうらしいな、では、旅の途中で!」
「おう! ……筋斗雲!!」
悟空が呼ぶと、黄色い雲の塊が空の果てから現れ、悟空の目の前にやってきた。
亀仙人は筋斗雲を知らないであろう俺達のために説明をしてくれているが、俺はすでに知っているし、乗れない人間が『心が清くないと乗れない』と言うのは一歩間違えば自爆ではないだろうか……。
「ばいばーい!!!」
「達者でのー!」
「またなー!!」
「元気でね-っ!」
各々が別れを告げる中、悟空を乗せた黄色い雲は、再び空を裂いて彼方へと消え去って行った。
天下一武道会は終わり、主役は新たな冒険の旅へと向かう。
俺達もついていかなければ、ならない。
山腹に建った見晴らしのいいホテルは、天気が良い日なら、パパイヤ島の控えめな夜景に彩られた南国の風情と、波が打ち寄せる美しい海岸と海を楽しむ事ができる。
天下一武道会で客が増えるのを想定しつつこのホテルを予約したのは、実に6ヶ月前のことだ。
「……やっぱり、オレもつれてくる気だったのか」
「ははは、まあ、最悪一人で来たさ」
「その気はなかっただろ」
皆と別れた俺達は、チェックインを済まし、風呂まで入った。
後は寝るだけだが……並んで夜景を見ながらコーラをあおっている、階級がないから多少の体重の増減は許容範囲内なのだ。
折角南国に来たのだから、旅の風情というやつを味わっておくのも悪くないだろう。
「連れてきたかったのさ、『同郷』のヤツが、思うところあって引きこもってたなら、ほっとけないしな」
「オレの力だけをみてひろったってのは、うそか」
プリカの表情は見えないが、俺の答えを欲しているのは分かる。
「ああ、嘘だ、色々あるがな、サイヤ人が暴れたら困るし、色々な意味で、お前を助けたかった」
「よけいなおせわだ」
「『ほんとにそうか?』」
「うるさい」
俺はコーラを再びあおって、大きく伸びをする。
「そろそろ眠い、次の予定を話すぞ」
「きずをなおして、ドラゴンボールさがしをてつだうんじゃないのか、せんずもらうとか言わないよな?」
「少し違うな、この程度はすぐ治るが……ドラゴンボールを使うには、歴史では死ぬはずのボラを生き延びさせなきゃならんのだ」
「ボラ……ああ、ウパのおやじか」
ウパとボラはカリン塔のお膝元を守るカリンガ族の親子だ、今回集められるドラゴンボールは、道中で悪役に殺されてしまった、ボラの蘇生に使われることになる。
「そうだ、死ねば、復活にドラゴンボールを使うことになる、俺達にとっちゃそこが難問だ」
「じゃあ、まもりに行くのか」
「……いいや、違う」
「?」
プリカはまた、大きく首をかしげてみせた。
俺もまだ出来るかどうか分からないが、ここまでの旅で、この作戦のための情報は集めてきている。
……次の冒険も、楽しくなりそうだ。
→つづく
お待たせしました。
そして……今度もまたかなり長くなってしまいました、投稿の遅れは、予想以上の長さと、あまり触ったことのない分野ゆえの難産、推敲の多さが原因です。
もっと早く投稿できればよいのですが、クォリティのアップが優先です、あしからず。
それでは、次回までごきげんよう。
2022/03/07 追記修正(DELICIOUS菜館の食材を増量)