転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第十一話:転生地球人が弟子入り試験を受けるまで

 「ならん!! わたしは弟子など取っていないし、取る気もない!」

 

 「何卒、お願いします、弟子入りをお認めください!!」

 

 平伏する俺の望みを、見向きもせずに断る男は、ピンクの男性向けチャイナ服に身を包んだ辮髪の男。

 この男こそ、当代随一の武道家の一人であり、世界一の殺し屋、桃白白だ。

 俺達の弟子入り志願は無残にも切って捨てられ、桃白白は今まさに門をくぐり、屋敷に帰ろうとしている……。

 

 「ええい、取っていないと言っているだろう、それにきさまら、天下一武道会で名をあげておいて、今さら弟子入りなどしてどうなる!」

 

 「天下一武道会では、亀仙流の弟子と拳を交わしました」

 

 桃白白の動きが止まった。

 

 「……ほう?」

 

 「亀仙流の弟子たちは、技術こそ未熟ながら、相当な鍛えこみよう、摩訶不思議な技まで兼ね備えておりました」

 

 「それで、あのおいぼれを不俱戴天の仇とみなすわたしたち鶴仙流に頼りたいと」

 

 何とか、桃白白の興味を引けたようだ、亀仙人との対立は兄の問題とはいえ、流派レベルでの対抗心はあるのだろう。

 

 「結果的には、おっしゃる通りです、強力な鶴仙流は亀仙流以上に強力な流派であると、聞き及んでおります」

 

 「…………ならん! そもそも、それなら直接、鶴仙流の道場へ向かえばよかろう! もっとも、二人の高弟を仕上げている兄者は、きさまらなど相手にせぬだろうがな」

 

 二人の弟子……天津飯とチャオズか。

 しかし、逡巡させることはできたものの、拒絶を破るには及ばない……か。

 

 「私は桃白白様に手ほどきを頂きたいのです」

 

 「何故、わたしにこだわるのだ?」

 

 「私と、ここにいるプリカは、魔物どもを相手に腕を磨いてまいりました」

 

 「城を一つ落としたのだろう? それは聞いた、だが、それがどうわたしへの弟子入りに関係がある」

 

 「試合でない、実際の戦いをもってその武名を轟かせる、桃白白様の武を、私達に」

 

 桃白白は、大きくうなった。

 

 「う~~む、どうしよっかな……」

 

 「何卒」

 

 「なにとぞ」

 

 「――――いや、わたしは弟子を取らん……だが」

 

 「…………」

 

 「だが、鶴仙流に入門する資格はあるかもしれん、兄者にとりなしてやろう、足はあるな?」

 

 どうやら、俺達は桃白白のお眼鏡にかなったらしい……鶴仙流の同門としてなら面倒を見てくれるということだろうか。

 そうでなくては意味がないのだが。

 ともあれ、プリカと二人で、もっともらしく頭を下げる。

 

 「は、もちろんです」

 

 「ありがとうございます」

 

 ……なぜ、俺達は完膚なきまでに悪役であり悪人である武道家、桃白白に必死に師事しようとしているのか。

 それは、今日の早朝、天下一武道会の翌日に遡る。

 

 

 ホテルの朝、朝飯としておじやの余りを食い尽くした俺達は、チェックアウトの準備を進めていた。

 

 「なあ、ソシルミ、なんかいそいで出たいじじょうがあるのか?」

 

 「ハッキリ言えばある、レッドリボン軍編は、非常に短いんだ」

 

 レッドリボン軍編の旅は単行本数巻分もあるのだが、その多くがダンジョンの攻略と戦闘であり、移動時間はすべて筋斗雲の高速移動で済ませてしまっている。

 

 「いや、というか、明日には聖地カリンが桃白白に攻撃される」

 

 「……そんなにみじかかったっけ」

 

 「短いんだ、ダイやジョルノも真っ青と言った所だな」

 

 プリカは食後の歯磨きをしている、サイヤ人とはいえ、歯のケアは重要だ……虫歯菌は幼少期のキスや口移しで感染るというが、実際どうなのだろう、実は要らないのか?

 俺はすでに朝のヨガまでを終え、手の包帯を替えている。

 

 「グペッ、……ふぅ、それじゃあ、はやくカリン塔に行かないと」

 

 「カリン塔には行かない、いや、行くとしても最後の手段だ」

 

 「?」

 

 俺はポイポイカプセルでタンスを出した、このタンスには俺の道着、それにプリカのジャージの替えが無尽蔵に入っている。

 

 「ほら、パジャマ用は汚さないんだろ? 運動用はこれでよかったよな」

 

 「ん、ああ」

 

 「しかし、お前もそろそろまともな普段着を買ったらどうだ」

 

 「そういうのには……きょうみがない」

 

 「ジャージはお洒落以前だろう」

 

 「……そういうおまえも、いつもカンフーズボンにシャツだ」

 

 プリカは若干目をそらし、バツが悪そうに俺に水を向けた。

 

 「今はバキーパンツと言うのだ」

 

 「……?」

 

 カジュアルなバキーパンツに、しっかりした作りのポロシャツ。

 成長期だが、大きさはぴったり丁度、無礼でない程度には決まっている。

 俺の私服の中でも、どちらかと言えば、よそ行きの部類の、このチョイスは……。

 

 「よし、では、今日の作戦を説明しよう」

 

 「二人でレッドリボンぐんをぜんぶたおすとか言わないよな」

 

 「それも愉快そうだが、もっと愉快な作戦だ」

 

 プリカは壁の影で着替えながら、チラチラとこちらを見てくる、例によってジト目だ、俺がいつでも余計なことを言うやつだと思っているのか?

 

 「桃白白に弟子入りし、レッドリボン軍への仕事を貰う、あるいは同行するのが作戦の最終目標だ」

 

 「はぁ!!?」

 

 「大きな声を出すな! 隣の部屋に迷惑だろう」

 

 「な!! ……にかんがえてんだ、おまえ、桃白白って、どんだけれきしがかわると思ってるんだ!」

 

 わざわざ手で声を抑えながら、プリカが問う。

 

 「落ち着け、俺にだって考えはあるんだ」

 

 「……いや、ムリだろ」

 

 「何、簡単なことだ、悟空とボラに牙を剥くのはあくまでレッドリボン軍、桃白白はナイフにすぎん」

 

 「ナイフをにせものにすれば、なにもできないってことか」

 

 「その通り、その偽物に、俺達がなる」

 

 プリカは一瞬考えるようなそぶりを見せたが、すぐに頭を振って、まくしたてた。

 

 「……いや、あほか! ない! 悟空がたたかえなきゃれきしがかわる! つよくなれなきゃまける! しかも、おまえのさくせんはなんにもほしょうがないだろ!!」

 

 「もっともな疑問ばかりだ」

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 あまりのことに驚いたのか、着替えを一気に終わらせて、こちらに来ながら、プリカは息を切らしている。

 

 「――勝負は時の運、悟空と桃白白の戦力差は埋まったが、埋まったことによって生じる危険もある」

 

 「とどめをさすと?」

 

 「ありえないことじゃない、油断がなくなれば被害も増える可能性がある」

 

 「う……うーん」

 

 今度は腕を組んでうつむいている、動きが多いのは心身が活発な証拠だが、若年の体が影響しているのだろうか。

 

 「俺達も、悟空も、今から修業を行って桃白白を撃退するにはあまりにも時間が足りない」

 

 「……わかった、でも、でし入りにしっぱいしたらどうなる?」

 

 「諦めて引き下がる、もし攻撃されたとしても、二人揃っていれば撤退程度は可能だろう」

 

 「そのあとは」

 

 問うプリカを前に、俺はドラゴンレーダーを突き出す。

 ……いくつかの光点が集中している箇所が、一つ。

 

 「ジェット機で突入して、お前のんちゃ砲でここを爆撃する、雇い主が消滅すれば桃白白は出てこない」

 

 「んちゃ砲いうな」

 

 「だがまあ……これは、無茶な手だ、あまり使いたくはない、巻き添え被害も考えられるしな」

 

 「れきしもかわる、ゲロが死ぬかも」

 

 「だからこうして搦め手を使う、歴史の改変を防ぎつつボラの死を防ぐにはこれが一番いい手段だ、桃白白の戦い方も、事前に学べるかもしれん」

 

 「うしろがほんねにきこえる」

 

 「否定はせんが……」

 

 また唸ってから、プリカはことの本質に触れる質問をした。

 

 「……まず、今回のドラゴンボールにそんなかちがあるのか? ドラゴンボールなんて、いつでもいいだろ」

 

 確かにドラゴンボールの使用機会はいくらでもある……、俺はこの作戦の実行目的をもう一つ隠している、気恥ずかしかったのだ。

 

 「ボラの死を防げる、ウパはみなしごにならない、あと、服屋のおやじも助かるな」

 

 「人が死ぬのがいやなのか」

 

 「防げるなら防ぐべきだ、特に善人の死ならな」

 

 「……たしかに」

 

 ドラゴンボールで復活などということは、基本的に最後の手段だ。

 ……別に俺は、命の尊さなど高らかに叫ぶタイプではないが、今回は(成功さえすれば)得しかない作戦と言えるだろう。

 プリカも、『急にまともなことを言いやがって』とばかりの目で見たあと、納得した様子を見せてくれた。

 

 「俺達はドラゴンボールを得る、歴史の不確定要素を取り除く、人死にを防ぐ、カリン塔へは後で誘導すればいい」

 

 「桃白白のいどころはわかるのか」

 

 「あの男は自らの存在を隠しちゃいないからな、旅の途中にしっかりリサーチ済みだ」

 

 「じゅんびがいいな……」

 

 こうして、俺達は桃白白への弟子入りを求めるため、屋敷へ向かったのだ。

 

 

 ジェット機をゆるゆると飛ばす俺達三人が鶴仙流の道場に到着した時には、既に日が傾き始めていた。

 周囲は印象的な岩に囲まれ、まさしく、中華風の達人がいそうな気配が漂っている。

 門番は桃白白の姿を見るや否や平伏し、その紹介であればと、俺達も道場に入る許しを貰えた。

 

 「ここに来るのも久しぶりだわい」

 

 「門下生の方々が相当いらっしゃいますね」

 

 「亀仙流と比べているのか?」

 

 実際、亀仙流の『時折気に入った弟子を拾い上げてみっちり鍛える』体制とは全く違う、老若男女問わず、様々な実力の弟子たちが鍛えており、今は午後の鍛錬に精を出しているようだ。

 後年、弟子の一人が立てることになる天津流の、少林寺的なむささは見られない。

 

 「いえ、多種多様で面白い、と」

 

 「一般の入門者であれば、入門の条件は才能があることのみだ」

 

 俺達は一般では済まないので、才能だけでは済まされない、ということか。

 

 「鶴仙流が求めるのは亀仙流のような生ぬるい精神論ではない、力と、それを求める心だ」

 

 「どちらも備えております」

 

 ……桃白白と言えど、俺達が殺し屋に師事することに完全に積極的であるとは思っていないだろう。

 面従腹背を認めてでも力ある弟子を求めるのは、長寿を持った者が持つ余裕なのだろうか。

 

 「……それを今から見せてもらう、そろそろ兄者の部屋だ、娘の方は黙りこくったままだが、挨拶はしろ」

 

 「ソシルミがなにもかもはなしてしまうだけです」

 

 のんびりと見物している間に、鶴仙人が居る奥の部屋の前までたどり着いた。

 

 「ッッ!!」

 

 扉の前に立った途端、凄まじい威圧感が俺を襲った、隣のプリカも同じく冷や汗をかいている。

 一方、桃白白は一瞬ぴくりと眉を動かし、そのままドアに手をかける。

 

 「ノックくらいせえ、桃白白」

 

 「気付いているならばいいだろう」

 

 ――――壁の向こうからこちら側の動きを察知する程度は容易い、とでも言いたげに、しわがれた、しかしハリのある声が響く。

 桃白白は結局、兄の声をものともせずそのままドアを開け、俺達を部屋に入れた。

 

 「わたしの兄でこの道場の主、鶴仙人だ」

 

 「ソシルミと申します」

 

 「プリカです」

 

 「フン、結局勝手に開けおって……で、この二人が弟子入り志願という天下一武道会出場者か」

 

 部屋は、いかにもな中華風に装飾された社長室、と言った風情だった。

 その主である鶴仙人は……小柄な老人だが、見るからに老いてなお止まない野心をたたえた面構えと、溢れ出す闘気。

 鶴仙人はそれらを威厳たっぷりに保ったまま、俺たちを睨めつけた。

 

 「……なるほど、それなりにやるようじゃの、じゃが、桃白白から聞いたとは思うが、わしは今、有望な弟子を二人仕上げておる、おまえらの相手をしておるヒマはない」

 

 「その弟子、あの天津飯とチャオズに匹敵する力を持っているとしたらどうだ?」

 

 「桃白白! きさま、わしの弟子が『準優勝』と『ベストフォー』のガキごときに……」

 

 「おい、ソシルミ……そのニヤケ面、戦いの気配がすればすぐそれか」

 

 桃白白は、恐らく俺に『弟子』との試合の意思を問おうとしたのだろう。

 だが、こちらをちらりと見ると、すぐに俺の意思を察し、若干呆れ顔で鶴仙人に向き直った。

 

 (なあ、俺そんなにニヤけてるか?)

 

 (おまえほどわかりやすくニヤけるやつ見たことない)

 

 「おい!!」

 

 「はい、鶴仙人様」

 

 「ソシルミとやら、わしの高弟と戦い、力を示してみよ……どーせ、大したことはないがな!」

 

 鶴仙人は……溢れる威厳にそぐわない意地の張り方だ。

 一方、桃白白はこうなることが最初から分かっていたような感じで構えている。

 

 「承知しました、必ずや、貴方のお眼鏡に適う力をお見せしましょう」

 

 「だが、ソシルミ、おまえは手をケガしているが大丈夫か? 試合は別にそこのプリカでも構わないだろう」

 

 「この程度はかすり傷、ちょっとテーピングすれば戦えます」

 

 ……実のところまだ痛い。

 

 「こいつはたたかえるならなんでもいいんです」

 

 「そのようだな」

 

 プリカと桃白白は何やら合意に至って頷き合っている。

 悪役の仲間になりたくないんじゃなかったのか……!

 

 

 俺達が桃白白について試合場に向かうと、そこは既に人払いがなされ、居るのは俺とプリカ、鶴仙人兄弟に、更にもう二人だけだった。

 その二人とは……言うまでもない、天津飯とチャオズだ。

 

 「鶴仙人さま、あの二人が弟子入りを志願しているという……」

 

 「そうじゃ、おぬしら二人のどちらかがあの男の方、ソシルミと戦い、実力を見極めろ」

 

 「では、わたしが」

 

 「チャオズでよかろう、よいなチャオズ」

 

 チャオズ。

 第22回天下一武道会で初登場した鶴仙流の高弟、鶴仙流の技に加えて、一種の超能力を持っており、それらを利用した戦闘を行うのが最大の特徴だ。

 三年後までに相当腕を上げたのでなければ、今の俺には扱うことすら出来ない技術を少なくとも3つも持っていることになる……かなり楽しみな相手と言えるだろう。

 

 「うん、鶴仙人さま、やれます」

 

 「チャオズがいいならいいんだが……」

 

 そのチャオズと、俺がやる、やつの全盛期と言える天下一武道会の三年前に!

 

 「試合形式は天下一武道会と同じでよかろう、場外と戦闘不能、降参で勝負は決まる」

 

 「異存ありません、今すぐにでも」

 

 「わしに力を見せたい、というよりは……ただ戦いたいだけかの、まあええわい、チャオズ、武舞台に上がれい」

 

 「はいっ!」

 

 さて、あちらが上がるならばこちらも、と、俺が中庭に足を踏み出そうとすると、プリカが裾を掴んだ。

 

 「なんだ」

 

 「いいのか? チャオズとたたかって、またキレたりしないよな」

 

 「……?」

 

 「こりゃ! 何をくっちゃべっておるか! さっさと上がらんか!」

 

 ともあれ、俺とチャオズは武舞台へ上がり、合掌礼をする。

 

 「始めいっ!!」

 

 鶴仙人の号令がかかったのはその直後、ノーモーションでチャオズが来襲したのも、その直後であった。

 チャオズの動きはなめらかで、まるで滑るように……ではない、チャオズは舞空術で滑っている!

 

 「ッッッェエィ!!」

 

 「うわっ!!」

 

 腰丈ほどの相手の突撃に対し最も有効な策はタイミングを合わせての蹴撃である。

 俺は先輩に散々やられて難儀したものだが、チャオズはこれに反応して進路を後方に変更、次いで手で受け、着弾の衝撃をゼロ近くにまで軽減した。

 

 「これが音に聞こえる舞空術かッ!」

 

 「まさか、チャオズの突撃をさばくなんて……!」

 

 「舞空術のことを知っておれば、あの程度予想がつくわい!」

 

 実際この技のことは漫画で知っていたので、俺は何も言えん……が、鶴仙人の言うこともまた、事実だ。

 『地面への蹴り』を介さない舞空術による突撃は変幻自在とも言える一方、意思が直接動作に繋がるため、わかりやすい、分かっていればどうとでもなるのだ。

 ……これを受けていても千日手になるだけだな……ならば!

 

 「こちらから行くぞッッ!!」

 

 「!!」

 

 今度はこちらから、チャオズと同じく正面衝突の体勢で飛び込む。

 勢いそのままの蹴り込みを、軽く浮きながらのガードで弾き、足の外側を抜けて側面に回り込もうとするチャオズ。

 が、そこは俺の腕の射程圏内である、すくい上げるアッパーを前に、再びチャオズは後退を余儀なくされた。

 

 「むむ……」

 

 「なるほど、浮くってのは中々厄介だな、手応えがない」

 

 回避、受け流し以前に、打撃の衝撃が完全には伝わらないのだ。

 有無を言わさぬレベルの打撃か、カウンター気味の打撃であれば通じるだろうが、チャオズは慎重だ。

 どちらかと言うと子供っぽい調子乗りのイメージがあるチャオズだが……ふむ。

 

 「こうもビクビク戦われちゃあ、こっちも気が萎えてくるぜ」

 

 「ソシルミがでかいから、こわいんだろ」

 

 「なにぃっ!」

 

 「こ、これ、乗るでないぞチャオズ!」

 

 鶴仙人の制止は間に合わず、チャオズは自分の足で地面を蹴り、更に舞空術で加速する!

 

 「てーいっ!!」

 

 「蛇ッッッ!!」

 

 弾丸並の速度に加速したチャオズの飛び蹴りを躱してカウンター……を、狙うも、着弾の一瞬、チャオズはほんの少し舞空術の方向を変え、そのまま足で俺の腕を弾いた!

 

 「ッッ!!」

 

 「とりゃっ!!」

 

 チャオズの本命は、残った片足によるサッカーボールキック!

 空中攻撃の自由度を侮ったつもりはないが……!

 

 「――――ッハァ!!」

 

 「……なんとかふせいだか」

 

 腕を捌かれてから着弾するまでの一瞬、俺の体は前進を選択した。

 舞空術を使用しているとはいえ、質量差は歴然、タックルで体勢を崩せば、技は中途半端なものに終わる。

 

 「一瞬のやり取りは大得意だからな」

 

 「フン、蹴りが効いとらんわけでもなかろうに」

 

 確かに、苦し紛れながら放たれた蹴りは俺の腹部に炸裂したが、威力は削がれている。

 痛いものは痛いのだが……面白くなってきた、変幻自在というやつは悪くない。

 第22回天下一武道会の三年前という前提で甘く見ていたが……これは楽しいことになった。

 

 「では、今度は俺の手番か?」

 

 「へへん、もうおしまいだよ!」

 

 チャオズは俺の反撃を待たずして高度を上げ、飛び上がれば場外になる位置に陣取る。

 本来の歴史では、第22回天下一武道会で見せた戦術だ。

 格闘戦で戦うには手強しと見たのか、それとも、腕を見せつけたいだけか?

 

 「確かに、浮いていればこちらは攻撃できないな」

 

 「ボクはできる!」

 

 チャオズは位置を保ったまま、指を掲げて『光らせる』、その指から感じるほのかなプレッシャーは、プリカのエネルギー弾やかめはめ波と同質のものだ。

 すなわち、気の力!

 

 「どどん!!」

 

 「シィッッ!!」

 

 大ぶりの回避にはなったが、危なげはない。

 ビームに近いが、着弾点で爆発する性質上、上から撃たれれば小さく避けるのは難しい。

 ずいぶん舞空術と食い合わせがいい技だが、そのように調整しているのだろうか、俺にはそれが出来るのかもわからないが。

 

 「へん、どんどん行くぞ!」

 

 「やってみろ!」

 

 俺が挑発した次の瞬間から、降り注ぐどどん波の雨!

 溜め動作もないこの連射力こそがどどん波最大の特徴と言えるだろう……が、当たらなければ意味はない。

 

 「チャオズのどどん波をああも簡単に……!」

 

 「気の流れどころか、指の動きまで読まれた上でホイホイ撃ってちゃ、当たるもんも当たらんわい」

 

 「こりゃ! 余計なことを言うでないわ!」

 

 クリリンも恐らくこれで避けたのだろうが、チャオズのどどん波はほとんどテレフォンパンチだ。

 ……とはいえ、反撃手段もなく、連続回避を強いられるこの状況はこちらにとっても、苦しいものがある。

 

 「くそー!」

 

 「フゥ! どうした、俺はピンピンしてるぞッ! 当たる攻撃をもってこいッ!」

 

 「うぅ……鶴仙人さま!」

 

 「ぐぬ……、いいじゃろう、やってしまえチャオズ!」

 

 あちらもしびれを切らしていたらしい、鶴仙人が何らかの許可を出すと、チャオズは慎重に降りてきた。

 そして、俺の間合いを見計らいながら、手を振り上げ――――

 

 「やっ!!」

 

 「――――グッッッ!!!!」

 

 腹痛!!

 これが、チャオズの超能力か!!

 

 「ていっ!」

 

 「ムゥッッ!!」

 

 辛うじて体勢を保つが、単調な蹴りに対処すらままならない。

 

 「へへっ、おなかを押さえなくていいのか!?」

 

 「これでもヨガを修めた身ッッ!!」

 

 この程度の苦痛は……消えないが、根性で我慢だ!

 チャオズの蹴撃は激しさを増してゆく、天内悠は飛び上がっての攻撃で対戦相手を苦しめたが、自分で浮いているのとは完全にレベルが違う。

 

 「とりゃっ! おりゃっ!」

 

 「……ッ!!」

 

 ただ腕を伸ばせば避けられ、そのまま蹴られるのみ、効果はない。

 かくなる上は、最大威力の一撃を!

 

 「ツアアッッ!!」

 

 「へっ!?」

 

 「あやつ気を使えるのか!?」

 

 ――――『輝く手』の貫手で、奴の足を叩き潰す!

 その決意と共に力を込めたその瞬間、俺を苛んでいた腹痛が失せた。

 今なら!

 

 「ダァッ!!!」

 

 「あっ!!」

 

 包帯越しに鈍く光った腕が、チャオズの両足をしっかりと掴んだ。

 このままひねるか、叩きつけるか、どちらにしろ逃がす手は――――

 

 「そこまでぇ!!!」

 

 「ッ!」

 

 「は、はい!」

 

 鶴仙人による試合終了の合図。

 それと同時に、俺の手と……チャオズの指に蓄えられていた光が薄れ、消える。

 

 「もうよい、おぬしの実力はわかった」

 

 「では……」

 

 「早合点するでないわ、桃白白、確か、近々、一つ仕事を請けると言っておったの」

 

 「ああ、レッドリボン軍からな」

 

 「その仕事、あやつらにやらせてみい、やり遂げたら、合格とする」

 

 ……これは、望外の展開かもしれない。

 俺はチャオズの足を開放し、一礼してから、鶴仙人に向き直る。

 

 「お任せいただけるのであれば」

 

 「よいか、桃白白」

 

 「あそこは大口だ、失敗したら信用問題になるぞ」

 

 「その時はこやつらを始末してから、安売りでもしてごまかせばよかろう、そのときは天津飯にも手伝わせる、よいな天津飯」

 

 「はっ! ……それが終われば、彼らが同門に加わるのですか」

 

 天津飯は、こちらを見ながら感慨深そうに呟いた。

 この世界でも、超人的な能力を手に入れる事ができる武道家はあまりに少ない。

 近い年代の同門は得難いものだ……裏切ることを前提に弟子入り志願した身で言うのもなんだが、少し罪悪感が湧く。

 

 「合格したらじゃ、合格したら!」

 

 「ボクが先輩かあ!」

 

 チャオズもすっかり浮かれている、プリカはわざと真面目ぶった表情をしてこみ上げる感情をごまかしているようだ。

 

 「しあい、たのしかったか」

 

 「ああ、いい試合だった」

 

 「それならよかった」

 

 舞空術、どどん波、超能力、それに鶴仙流の体術にそれを使いこなす技巧、存分に堪能させてもらった。

 ……プリカには何か含むところがあるようだが、それはここで話すことでもないだろう。

 そう思っていると、桃白白がこちらにやってきた。

 

 「ふむ……、おまえたち、わたしの代理として出るには、その格好はそぐわないな」

 

 「確かに、都会風ではありますが」

 

 「……都会はそんなのが流行っているのか?」

 

 流行っていない。

 

 「余所行きの道着を貸す、着替えてくるがよい」

 

 

 さて。

 更衣室の中、仕切りの向こうではまだプリカが着替えているが、俺は着替え終えた。

 俺に与えられた道着は、桃白白のそれに近い、典型的なカンフー道着で、胴体の色は青。

 そして、胸には『鶴』の文字……所属する気のない団体の制服というのは少し倒錯的だな。

 

 「十分動きやすく、多分頑丈……念の為に後で慣らしておくか」

 

 「おい、そっちはおわったのか」

 

 「終わったぞ」

 

 「……そうか」

 

 しばらくくすると、ごそごそと布を放る音がして、仕切りの影から、プリカが姿を表した。

 袖なしでズボン付きのチャイナ、それとカンフーの間の子といった感じだろうか、赤い胴体の真ん中には、やはり鶴の一文字。

 

 「大本が同じだけはあって、匿名希望選手に近いスタイルだな、ビキニアーマーじゃなくてよかった」

 

 「……さすがにそれだったらきない」

 

 想像したのだろうか、プリカは肩を抱き、ただでさえかなり渋めの顔を、更に嫌そうに歪めてみせた。

 

 「ノースリーブはいいのか」

 

 「いいというか……まあ、いいけど、こんなガキの体になんも感じないだろ」

 

 と言いつつも、若干顔が赤い。

 着替えた服をホイポイカプセルにまとめていると、桃白白がドアを叩く。

 

 「おい、そろそろ着替え終わっただろう……レッドリボン軍から連絡だ、そろそろ出発しろ」

 

 「はい、承知しました……乗り物はあのジェットでよろしいですか?」

 

 「いいだろう、少し遅いが仕方あるまい、先方は明日までに着けばよいと言っていたからな」

 

 「あれでも最新型ですよ」

 

 ドアを開けながらそう反論してみるが、桃白白はニヤついてみせるだけだ、自分の方が早いと言いたいのだろう。

 桃白白は、小さな紙切れを俺に渡して、そのまま意味深に背を向けた。

 

 「座標と無線周波数、それに合言葉だ」

 

 「処分はいかがいたしましょう」

 

 「合言葉だけは念入りに始末しろ」

 

 「承知しました」

 

 ただ単にレッドリボン軍か桃白白のセキュリティのレベルが低いのか、それとも……。

 やってみる価値はあるか。

 

 「桃白白様」

 

 「なんだ、もう行っていいぞ」

 

 「いえ……レッドリボン軍のことで」

 

 俺があえて小声気味に言うと、桃白白はぎろりと振り返った。

 

 「レッドリボン軍がどうした」

 

 「いえ、あの集団のことでは、よくない噂を聞きます」

 

 「……悪名高かろうと、むしろ付き合いやすいだろう」

 

 「彼らは、我々武道家を上回る人型ロボットを作ろうとしているとか」

 

 「お、おい」

 

 プリカが制止するが、ここで止まる理由はない。

 

 「それを聞いて、わたしにどうしろと?」

 

 「いえ、噂は噂ですので……お気に留めて頂ければ」

 

 「……へん、こざかしいやつめ」

 

 桃白白は、ぷいっと視線を外して、そのまま歩き去った。

 

 

 数分後、俺達は空にいた……座標が示す基地までは、そう遠くない。

 

 「お、おい!! あれはなんだ!」

 

 「下心だよ、ちょっとしたな」

 

 「オレは……あいつらのなかまになる気はないぞ!」

 

 「だが、鶴仙人一派が仲間になる可能性はある」

 

 椅子を蹴られた。

 

 「ま、まあ待て、この作戦の結果襲撃される可能性を考えたら、あそこで布石を打っておいてだな……」

 

 「こんなさくせんはいらない、うまく桃白白をたおせば、れきしもかわらないし、あんさつしゃがたおれれば人も死ななくなるだろ」

 

 「……確かにそうだ」

 

 うまく考えが纏まっていない。

 俺は人死にを防ぎたいわけでもなく、歴史を変えたくないわけでもない……のか?

 

 「強いぶどうかがなかまになってくれるかもしれないと思ったら、とまらなかったんだな」

 

 「そうかもしれん」

 

 「まるで悟空だ」

 

 俺が悟空?

 戦闘バカって部分くらいしか、共通点がないように思えるが。

 

 「そういうことにしておけ、今回はつきあってやるから」

 

 「俺は悟空ほど、我儘を聞いてもらえる功績をあげちゃいない」

 

 「あげた、ちきゅうをすくっただろ」

 

 ――――。

 

 「ありがとな」

 

 「ん、よろしい」

 

 

→つづく




今回は比較的早めに投稿できてほっとしています。
できれば、このペースが続けばいいのですが……。

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