炎と煙を撒き散らしながら迫るミサイル多数。
外見からすると接触信管、素手ではリーチの足りないそれに対処するため、折れた槍を掴む。
「フンッッ!!」
三度回して手になじませ、ひらひらと紐の揺れる石突(槍の尻)を穂(刃)に見立て、槍術と棒術と間の子にした技で扱う。
よい木、よい品だ、折れているのが惜しまれる。
「良しッッ!!」
俺は猛然とミサイルに向かって駆け出し――――
「よしっ!」
「悟空」
隣には、同じく如意棒を構えて飛び出す悟空の姿があった。
……頬が緩む、いや、こわばって釣り上がるのを禁じえない。
「俺は塔の側を守る!!」
「オラは反対だなっ!」
悟空と俺は勢いをそのまま、それぞれ別方向に駆け出し、ミサイルの迎撃にあたる。
さて、いかに強力な武道家といえど、近代兵器の爆発を正面から食らえばただでは済まない。
これは元の歴史で桃白白が悟空相手に手榴弾を使用し、しかもそれを返された爆発で痛手を負っていることからも明らかだ。
「――――ッ!!」
俺は棒をゆらりとミサイル群に突きつけ、信管を刺激しないギリギリの力で叩いてゆく。
正直言うと、この類のミサイルの性能は魔族どもとの闘いでさんざん体験済みだ。
「なんという腕だ、あのミサイルを簡単にさばくとは……!」
「ばくはつしないように気をつかってるのか……」
一方、悟空は如意棒を数十メートルに伸ばして振り回し、ミサイルを次々破壊してゆく、この距離ならば爆発は届かないと直感したのだろう、戦闘民族故の判断力か。
ミサイルを全て破壊し、一息つこうとしたところで、プリカが大声を上げた。
「……う、うわっ、ソシルミ!」
「今度は何だ……むッ!?」
焦った様子のプリカが空に向けて指を突きつけている。
その先には、ものものしい機関砲とミサイルポッドを構えた戦闘ヘリの姿があった。
「あ……あの軍隊のマークだ……!」
「レッドリボン軍だとッッ!?」
<<その通りよ!!>>
ヘリのスピーカーから、けたたましい音量でカマの声が流れた。
「ブルー将軍ッッ!?」
<<さっきぶりねえ! 今ので死んでくれてると思ったのだけど、ちょーっと甘すぎたかしら!?>>
「うそだろ、まだいちじかんだぞ!?」
タフって言葉はブルー将軍のためにある。
いや、現実逃避をしている場合ではない、なんという早い復帰だ。
俺は槍を後手に構え、ヘリに突きつける準備をする。
「また出やがったな! 今度こそやっつけてやる!」
<<おだまり! あなたとそこの二人が手を組んでいることはしっかり聞かせてもらったわ! あなた達全員の首とドラゴンボールがあれば、わたしはレッドリボン軍に戻れる!>>
「……先に着いて森で聞いてた、と、ヘリは大方、元部下あたりから奪ったものか」
プリカは、努めて冷静にする俺を一瞬、恨めしげな顔で見たあと、それを振り払うようにぎゅっと瞬きをした。
俺だって、ここまで早く因果が巡ってくるとは思っていなかった、プリカもきっと、そうだろう。
だが……こうなってしまったからには、立ち向かうしか、ない。
<<ご明察、逃げられちゃ元も子もないから、様子を見ていたのよ、でも……そのガキが居る限り、誰も逃げられないわ……!>>
「……息子のことか」
その場全員の意識が一瞬、ウパを向く。
ブルーは俺たちを仕留められると思っている、そして、懸念は恐らく、筋斗雲での離脱だった……ということなのだろう。
「逃げられない? 弱点が欲しかっただけだろう、ガキ三人相手に臆病なことだ」
「オレたちがただのガキってのはむりだろ」
<<悔しいけどその通りね、でも、結果は変わらないわ!!>>
その瞬間、ヘリのミサイルポッドと機関砲が同時に火を吹く!
「げげっ!」
「クッッ!!」
やつの言う通りなのはシャクだが、実際、ウパは俺達にとって最大の弱点だ!
大量のミサイルがウパに向かって放たれれば俺はそれを迎撃せざるを得ない……にも関わらず!
「機関砲ッッ!!」
分間数百発の重機関砲弾は確実に対処せねば命に届く威力、的確な狙いで放たれるそれは俺と悟空の迎撃を鈍らせ――――
「ウ、ウパっ!」
「父上!」
一瞬時が止まる。
俺と悟空は届かない、プリカとボラは睨み合っている、ウパが自分で助かるのには期待出来ない……!
この場で対処出来るのは――――
「――――ぐっがあ!!」
次の瞬間、プリカのエネルギー弾が、ミサイルを爆発すら許さず完全に消し飛ばして森の中へ消えた。
「おっさん! ……オレたちのことはあとで話す、ウパをたすけるから、みのがしてくれ」
「……分かった」
なんとかプリカが取りなしてくれた……ということなのか?
攻勢に耐えつつも疑問を抱えた俺をよそに、プリカは未だに攻撃を続けるヘリへと気弾を放ち始めていた。
「があ!!」
「悟空! そのウパって子供を守れ、今度は俺が前に出るッッ!!」
「わかった!」
兵器が相手で更に守るものが居る状況、最早戦い方にこだわる意味もない!
俺は石突を使って地面の小石をミサイルに向け弾き飛ばし、誘爆させる!
「な、なんという腕だ……!」
「くそっ! ソシルミ、ヘリがよけた! あいつビームをよける! っがあ!!」
「何ィッッ!?」
見ると、ヘリは気持ち悪いほどの超高速で動き回り、放たれ続けるエネルギー弾をスイスイと躱している!
エースどころではない、明らかに性能を上回る挙動だ。
「超能力か!!」
<<おほほ、これまたご明察、あんたたちがどれだけ強くたって、わたしが操るヘリには敵わないわよ!>>
「がぐあ!!!」
プリカは回避を計算に入れ、わざと狙いを甘くしたエネルギー弾を連射しているが、やはり、ヘリは難なく避けてゆく。
単独での攻撃は不可能か……!
「クッッ……!」
「ソシルミ!」
俺の脇腹を機関砲弾が掠め、服越しに血がにじみ出た。
この程度の射撃であれば、何時間だろうと迎撃に支障が出るはずもないのだが……!
「……まるでへんかきゅうだ……!」
「変化……また超能力かッッ!!」
<<もうわざわざ言わなくたっていいんじゃあない!? それでも、すぐ気付けたのは褒めてあげるわ!>>
弾丸の速度や軌道を少しずつ変える事ができれば、迎撃するのは遥かに難しくなる。
「ガキ相手に大人気ねえこって!」
<<フン、何がガキよ、天下一武道会本選出場者と分かってたらわたしも最初っから本気だったわ!>>
――――今のブルーに一切の遊びはない、逆に言えば……これまでは遊んでいたとも言えるだろう。
美しい肉体や莫大な権力ではなく、自らの全能力と、その身の丈にあった兵器!
「ソシルミとやら!」
「カリンガ族のおじさんッッ!」
「……わたしの名はボラだ、何か事情があって奴らを裏切ったのか?」
「悟空に差し向けられる暗殺者となり替わり、一戦交えた後レッドリボン軍を倒す、それが俺達の計画だった!」
「一戦交えた理由が分からんが……とにかく、これを使えっ!」
そうボラが叫ぶと、後ろから飛来する棒状の物体あり……槍だ!
俺は新品の槍をしっかりとつかみ取り、折れたものと持ち替える。
「期待通りの槍だ、素晴らしいッッ!!」
<<何話し込んじゃってんのよっ!>>
次いで飛び込む機関砲弾をすべて刃先の曲面で滑らせ、誰もいない方向へ逸らす!
「灘神陰流ッッ!」
「たますべ……いやしゅうちゅうしろ!!」
暫し、俺を盾、プリカを矛とした砲撃戦が続く。
被弾はなし、されど、こちらからの命中弾もなし。
戦況は完全に膠着状態……が、そろそろか。
「ミソシル! ウパ逃がしてきたぞ!」
「よしッ! 同時攻撃を仕掛ける! 悟空、プリカ、俺に続けッ!」
俺はボラをチラっと見て、しかし言及はせず、武器を構えた。
悟空は如意棒を取って突撃する構え、プリカは掌にエネルギーを貯め始めた。
<<何度来ても無駄よ、無駄! 人質が居なくったって――――>>
「茶番は終わりにするぞッッ!!」
「おう!」
「……があ!!」
先陣を切ったのは、プリカの放つ大玉かつ高速のエネルギー弾。
弾丸に匹敵する速度の二連撃をヘリは難なく躱す……が。
「
「いいぞミソシル!」
回避座標を予測しての突撃、弾丸をすべて弾き返しながらのそれを前に、ヘリは更に強引な動きを強いられる。
超能力を絞り出しているのだろう、ガラス越しにブルーのゆがんだ顔を見ていると、瞬間、その歪みが更に増し、視界に赤が掠めた、如意棒だ!
「てりゃああ!!」
「集団戦というのもなかなかオツなものだが……これで終わりだ!!」
気合と共に、槍を、一直線に奴のヘリに投げつける……その瞬間、更にヘリが急上昇した!!
<<や、やった――――>>
「――――むん!!」
腹の底に響くような唸り声を上げたのは、ヘリの真下へと回り込んだボラ。
『大地に向かって垂直に力を込められたなら』そんな格闘者、スポーツマンたちの願いを実現するような『地球拳』ならぬ『地球槍』は俺の放った槍を上回る速度でヘリを串刺しにし……。
<<あ、あら……?>>
メインローターをシャフトごと粉砕されたヘリは真っ逆さまに落下。
ついでに、燃料タンクに引火し、ブルーを飲み込んだまま炎上を遂げた……。
「いきてるかな」
「……これで生きてたら恐ろしいが」
俺とプリカは目を見合わせ……なんだか笑ってしまいそうで、同時に目をそらした。
ともあれ、あらゆる意味で想定していない戦いだったが、危機は去ったのだ。
戦いが終わり、周りを見渡すと、かなりの大惨事だ。
ミサイルの破片に、機関砲弾の弾痕、極めつけには、燃え盛るヘリコプターの残骸。
「散らかしたものだ」
「なに、元から奴らの武器でこの聖地は荒らされていた、息子が助かってよかったよ」
残骸を見て一種の感慨に浸る俺に向け、ボラは慰めのような言葉をかけた。
「……俺達が持ち込んだ災いですよ」
「ソシルミ、息子を助けてくれてありがとう」
元は二人を守るための策だったが、結局、その先で新たな危険を負わせてしまった。
別に気に病むというわけでもないが、それは事実だ。
「ソシルミ、受け取っとけ」
「きみもだ、プリカさん」
「こちらこそ」
……微妙に取り残された。
「分かった、分かった、どういたしまして、ありがとうございます」
「感じわるいぞ」
「ミソシルも素直じゃないことがあるんだなあ」
悟空にまで突かれるとは……まあ、いいか。
ボラを助けられたんだ、それでよしとして、今は笑っておこう、朗らかに。
「そのゆうじろうっぽいわらいかた、ふつうにキモいぞ」
…………。
小さく、控えめに腹鳴の音。
「ちちうえ、お腹がすきました」
「む……そう言えば、飯がまだだったな……どうだ、三人とも、一緒に食べるというのは」
続けて、サイヤ人二人の腹が同時に鳴った。
「いいのか!」
「いや……足りないだろ、たぶん」
「蓄えは十分にあるつもりだが……」
「ご馳走にはなりますが、こっちでも用意しますよ、この二人も俺も、とんでもなく食いますから」
「それは見ものだな……ところできみはもしや、このカリン塔に――――」
瞬間、俺達の背後、燃え盛るヘリより、突き刺さるような殺気……否、気配!
「ま、まさか!」
「く……くそぉ……!」
そこには怪我と火傷にまみれ、軍服がビリビリに破れながらも無事ヘリの残骸から脱出したブルーの姿が!
……いや、本当に生きているとは。
「ほんとうに生きてたのか……」
「悪い!? ……今日の所は引き上げてあげるわ、でもいつか、あなたたちを――――」
「――――いいとも、傷を癒やし、身を寄せる場所を見つけ、鍛えてこい」
「ソシルミ!」
「あれで生きてるならいいじゃないか、ダブルジョパディーだ」
「いちじふさいり? ……わかった、いや、このばで正しいことばじゃないけど」
プリカは引き下がった、だが、残る三人は……。
「あやつは聖地をけがし、息子を人質にとるような卑劣な戦いを行った、このまま行かすわけには……」
「いいんじゃないかなあ、あいつもう軍には帰れないんだろ?」
「……ちょっと、かわいそうですね」
「おまえまでそう言うのなら……」
こうして、ブルーは最後まで俺達を警戒し、捨て台詞らしき憎まれ口を10回ほど吐いた後、森の向こうの、どこかへと消えた。
聞き慣れたジェットエンジンの動作音。
背後からは食べ尽くした食器のかき鳴らすカチャカチャという接触音。
自動操縦の機体をプリカに任せた俺は、しばし睡眠を取ろうとしていた。
「オレたちのドラゴンボールはまだ先だ、ねるじかんはあるだろうけど……」
「三日間もあんな環境で寝食していたんだ、サイヤ人のお前にとっちゃその程度かもしれんが、俺にはこたえた……ちょっとだけな」
「いじをはらなくてもいい、分かったから、ねてろ」
聖地カリンの一件から三日、俺達……二人と悟空は、カリン塔で修行に明け暮れていた。
今は修行を終え、ドラゴンボールを探すためと称し、悟空と二手に分かれて飛行中である。
俺達は顔が割れているし、余計な改変を防ぐためにも、レッドリボン軍基地は悟空だけに任せることにしたのだ。
「しかし、それにしても充実した修行だった……!」
「でも、さいごにカリンさまが言ったことだけは分からなかった」
「アレか」
三日間の訓練の終わりに、カリン様は俺達二人にだけ、意味深な言葉を残していた。
『おぬしら、もっと自分の心に素直になってみたらどうじゃ?』
『オレはともかくこいつは素直だぞ』
『どっちも全然素直じゃないの、ま、よく考えておくことじゃ』
……カリン様は俺達の心は読めない、その理由は他人には決して開かせぬ秘密をかかえるためだろう、と言っていた。
しかし、仙猫にもなれば、読めずとも若者が将来何にぶつかるかくらい、わかるということなのだろう。
「さあな、全く分からん」
「なげだすなよ、多分、これも修行だろ」
「……いや、分からんな、それより、ドラゴンボールに動きはないか?」
「動き?」
プリカが首をひねって聞き返す、俺は分かっていると思っていたんだが……。
「あのドラゴンボール、レッドリボン軍も悟空も持っていない一つは、ピラフ大王が手にする予定のボールだ」
「は!?」
「落ち着け、俺もあのボールをただ奪い取ろうなんて考えちゃいない、それをすれば、占いババ編がなくなってしまうからな」
ピラフ大王が特殊な遮蔽ケースに隠したドラゴンボールを探してもらうため、占いババが用意した戦士たちと悟空たちが戦う、その歴史を変えてしまえば……俺には特段デメリットがないが、気分が良くなかった。
「孫悟飯、じいちゃんとのさいかいもなくなるか……」
「それはあんまりだからな、今回は監視にとどめて、ピラフ大王には……いや、待てよ?」
「おい、何を思いついたんだ」
「いや……、これは本当に慎重にならないといけない案件だが……」
「おかしな歴史改変はやめろ、今回だって結構痛い目を――――」
その瞬間、大きな揺れとともに、コックピットがアラートに包まれた。
俺は目をこすり計器を……見るまでもなく飛び込む、『エンジンからの反応消失』の警告表示!
燃料流出中、火災発生、これは……考えるまでもない、墜落する!!
「メーデーを発信、いや、それより脱出の……」
「ソシルミ! まどみろ、あっち!」
プリカの体越しに見る窓の向こう、並行して飛行する航空機一つ。
尾翼に大きく描かれた『鶴』。
「キャ、キャノピーの上!!」
「――――天津飯ッッッ!!!」
小型ジェットのキャノピー上に身を低くして張り付き、こちらに向ける指は輝き……。
「来るぞ、どどんぱだ!!」
「脱出する、忘れ物はないかッッ!?」
「きいてるばあいかーっ!!」
俺がレバーを引いた次の瞬間、俺達は下方数十メートルで、乗っていた機体の残骸が降りかかりつつあるのを感じていた。
……厄介なこと以上に、こいつは危険だ。
薄皮の張った脇腹の傷が疼くのを感じながら、俺とプリカはパラシュート無しで地上へと降下してゆくのであった。
→つづく
お久しぶりです。
特に何も異常がなかったのに勝手に構成失敗して難産になったりしてました。
ブルー将軍が使ったヘリは『AH-64』的なのを想像しています、いわゆるジェロニ……もといアパッチですね、詳しいわけでもないですが。
ドラゴンボール世界でも結構兵器の類は優秀だったりするので、一度やってみたかったんです、はい。
さて、原作を掠めて明後日の方角に飛んできたレッドリボン軍編も、ついに着地……いや、墜落することになりました。
いよいよ大詰め、彼らの迷走の果てにあるのは目的地への完走でしょうか、それとも……。
それでは次回まで、ごきげんよう。