桃白白!!
『元の歴史』と呼ぶべきいくつかの歴史で、一度孫悟空を破りながらも結果的に敗北を喫する立場にあった最強の殺し屋!
その身体能力と体捌きは通常の達人を遥かに超えるレベルにあり、エネルギー技であるどどん波も容易に使いこなす猛者だ。
だが、警戒すべきは単純な戦闘能力ではない。
カリン塔での修行を終えた俺にとって、桃白白そのものの戦闘能力は格下と言うほかないが……、武道家として積み重ねてきたであろう数百年と、殺し屋としての20年の経験によって重ねられた『本気』は脅威に値する。
元から劣勢とあらば兵器の使用をためらわない桃白白が、状況から察するに、俺達の現在の実力を知った上で挑んできているのだ
その脅威度は計り知れないレベルに達している――――
「――――随分と暴れたな、ソシルミ、プリカ」
「ほとんどは我々ではありませんがね」
猛烈な圧を飛ばす桃白白に相対しながら、俺はちらりと、倒れたままのプリカに意識をやる。
プリカはまだ目覚めない……もしこのまま戦闘に巻き込めば、命は……!
「フン、……おぬしらには支払ってもらわねばならん」
「……!」
「殺し屋としての上客と信用の喪失、賠償金はしめて15億ゼニー、さらにそこの門弟二人の慰謝料、10億、25億ゼニー、耳を揃えて返せ」
「!?」
は!?
「……と、言いたいところだが、なに、そんなことを言いに来たのではないわ、ほれ、おまえが撒いた『保険』だ、見てみろ」
桃白白はホイポイカプセルをこちらに放る。
煙が晴れた地面に転がったのは、頭だった。
「こ、これは……」
サングラス、赤茶けた短髪、一文字に結ばれた口、咬筋(エラ)のはった輪郭、これはまさしく……!
「アーノルド・シュワルツネッ――――!」
「メタリックだ! メタリック軍曹!! そう書いてあった!! よいな!!!」
「あ、はい……」
メタリック軍曹。
レッドリボン軍の基地『マッスルタワー』に配備されていたロボット(人造人間と呼ぶべきか?)だ。
少なくとも元の歴史では、圧倒的な巨躯と人間を上回る頑健性で悟空に食い下がるも、かめはめ波であっけなく破壊されていた。
「おまえの言っていた通りだな、レッドリボン軍はこんなものを……」
桃白白はさらにもう一つホイポイカプセルを投げた。
すると、大量のターミネー……メタリック軍曹の生首が出現する。
「……わんさか作っておった、本部の残骸には新型の設計図もあったぞ? もう燃やしてしまったがな」
「お手が早い」
「くそまじめな武道少年がわざわざ小賢しい真似をしてまでやりたかったことを見定めたかったのよ」
「それで、ご満足頂けましたか?」
また小さく鼻を鳴らして、桃白白は答えた。
「全部じゃないがの、まあええわい、兄者には話を通しといたが、ノコノコ顔出したらぶっ殺されるかもしれんから気を付けとけ」
「……注意しておきます」
「うむ、わしはこのまぬけ二人を連れて帰る……ああそうそう、本気で殺し屋やる気なら面倒見るぞ、上納金はたんまりいただくがな」
「分かってて言ってるでしょう、暫く血を浴びる予定はありませんよ」
「そりゃあ、残念じゃわい」
桃白白はニヤリと笑って、天津飯とチャオズを彼らが乗ってきた小型機の後部座席に(つまり一つの席に)ねじ込むと、そのまま乗り込んで空の彼方に消えた。
……大分気疲れしたが、俺にはまだ仕事がたんまりと残っている、まずはプリカを救命せねば。
「おい、プリカ、生きてるか?」
もちろん、意識はなくとも、生きていることは見て分かった。
だが……大分重症だ、『気傷』とでも一括すべきか、火傷や擦り傷、切傷のようなダメージは全身にわたって刻まれ、その影響でショック症状まで発生しているようで、顔色もひどい。
……脱臼や小規模な怪我への処置程度なら武術の範疇として学んだが、流石にこれは俺にはどうしようもなかった。
「虎の子だが、仙豆を使うか……」
あの時、カリン様に無理を言って数粒だけ仙豆を貰ってきたのだが、早速使う羽目になってしまった。
外傷と体力の消耗に対しては無類の効果を発揮する仙豆なら、この大けがも跡を残さず治るだろう。
さすがに、こんな大量の傷がそのまま跡になってはかわいそうだし、仕方ない。
「意識がない相手に仙豆を飲ますには……三つ手段があるな」
水で流し込む:水はあるが、そもそも可能なのか?
指でねじ込む:一番安全に思える策だ、首の骨が破壊されていても通用する
口移し :論外
「よし、ねじ込もう」
右手人差し指と中指で仙豆をつまみ、左手で口を開けさせる。
わずかに苦しそうな顔をするがそれは見ないふりをして、仙豆を舌の向こうに配置、そのまま中指でぐーっと押し込んでゆく。
プリカは意識がないまま顔をさらに歪めるが、救命措置であるため無視、仙豆が押し戻されないようにしたまま、声帯(男ならのどぼとけだ)のあたりをぐっと押し込み……。
「ぐぼっ!! がぶっ!!」
「~~~~~ッッッ!!!」
噛まれた!!
そしてその一瞬後には、俺は腹部を蹴り上げられ……すんでの所で回避に成功した。
「げっほ、げっほ!! あ、あが……!?」
「うまくいったか!」
プリカの肌にあった傷跡の数々はなく、全身の血色も元に戻っている。
異常と言えば、俺の指がねじ込まれた喉くらいのものだろう、よかった。
「プリカ、無事治療は成功したようだな」
「ひ、ちりょう……? せんづ、仙豆か?」
プリカは喉を抑え、若干よだれを垂らしながらこっちを向いた、うむ、意識も正常に回復したようだ。
「そうだ、あまりに酷かったからな」
「……天津飯とチャオズはどうなったんだ」
「あの後俺はキレちまって、奴らをぶちのめした……その後、桃白白が来て、連れて行った」
「桃白白……あれがきいたんだな、でも、たおすのはナシだったはずだ」
いつものジト目より少し厳しいプリカの追求の目だが、しばらく耐えていると、収まってしまった。
なんだか元気がない。
「ああ、そうだプリカ、お前、やっぱり足破りすぎだ」
「ん……?」
プリカは、自分の格好を改めて見て俺の発言を確かめようとしているようだ。
……『匿名希望選手』風のノースリーブのカンフー服は、足部分がなくなったことで、そのままチャイナドレスへと変貌を遂げていた。
「う、うわあっ!!」
「これじゃピラフでなくても一言言いたくなるのも仕方あるまい、向こうでジャージに……」
「……ピラフ!」
「あ!」
急いで確認したピラフマシンは大きく破損し、内部のピラフ一味もかなりの重傷を負っている!
俺達は着替えも何もかもほっぽり出してピラフマシンをさらに砕き、内部のピラフたちを救出した。
……一番軽傷なのは上部にいたピラフ、次にシュウ、一番ひどいのはマイだ。
「とりあえずピラフを起こす、仙豆はなくてもいいだろう、水のホイポイカプセルをよこせ」
「あ、ああ」
「目を覚ませ、この水流でーッ!!」
大量の水を叩きつけると、ピラフは無事(?)目を覚ました。
目を覚ましたピラフが行ったことはまず状況確認、周囲を見渡し……俺達をスルー……壊れたピラフマシンもスルー、そして、自分の子分二人が隣に横たわっているのに気付いて、叫ぶ。
「シュ、シュウ!! マイ!! お、おまえたちぃ!!!」
ピラフは救急セットか何かを探そうと自らの車を探すが……その車は戦闘中にどどん波で爆破され、完全に見る影もない。
「あ、あわわ……」
「おい、ピラフ、手を出せ」
「な……なんじゃきさま……ま、豆?」
「仙豆だ、一人一粒、どんな怪我でも治す力がある」
俺が親指でプリカを指してやると、ピラフ大王はその持ち前の頭脳で事態を把握したようで、血相を変えて俺に躍りかかってきた。
「それをよこせ!」
「くれてやると言っているんだ、早くしないと死ぬぞ」
「う、うおお! シュウ! マイ!! 今助けるからなぁ!!」
体格相応の甲高い声で叫びながら、なんとか部下に仙豆を飲ませようとするピラフ大王。
それを見物していると、プリカは特に文句を言うでもなく、小さくつぶやいた。
「これで三つ、仙豆はそんなにもらってないよな」
「まあな、カリン様がケチってより、有事でもないのにふんだくった俺達が悪いんだが……」
プリカは特に、責めている気配もない。
「なんだ、元気がないな」
「……ちょっとつかれただけだ、おまえらしいよ、すぐに仙豆をあげるなんて」
「俺も鬼ではないのさ」
……正直に言って、俺はあの大暴れの違和感がまだ心のどこかに残っていた。
だからこそ、あえて寛大になってみせて、いつもの……何でもかんでも生かそうとする俺に戻りたかったのかもしれない。
「ピ、ピラフさま! これはいったい……!」
「おおー! シュウ! 早くマイも治療するぞ!!」
「ど……どういうことですか!?」
そうこうしている間に、ピラフ大王はシュウを復活させ、次いでマイにも仙豆を飲み込ませていた。
二人して口移しするか悩んで体をくねらせている、キモい。
「さて、ピラフ大王、無事で済んでよかったなあ」
「ああ!」
「いやあ、俺は全く、感動してしまったよ、まさかドラゴンボールと引き換えにでも、俺の使っていた万能薬を欲しがるなんて!」
「……え?」
「『ドラゴンボールも世界征服の野望もいつかは叶う、しかし、優秀な臣下をみすみす死なせたとあっては、たとえドラゴンボールに復活を願おうとも、その罪をあがなうことはできないだろう、第一、わたし自身がわたしを許せなくなる』だったか? さすがは大王を名乗るだけある、メシキヤ族も最後にこんな王を持てて幸福だろう」
「そ……そうなんですか!?」
「ピラフさま……そんなにわたしたちのことを……!」
ピラフ大王は顔面蒼白になり(元から青いが)、俺を驚きの目で見つめてくる。
「い、いや、わたしは……」
「素晴らしいことだが、約束は約束だ、このドラゴンボールは俺が頂いたよ、次はあんな邪魔が入らず、公正な争奪戦ができるとうれしいものだね」
そう言いながら、ピラフマシンから抜き取ったドラゴンボールをかかげる。
ピラフ大王はそれを見て歯噛みしながらも、俺への恩と恐怖、そしてせっかくいい雰囲気になっている子分に水をさしてしまうことへの恐れとが重なり合って、動けないまま、俺がドラゴンボールをしまい込むのを見送った。
「さて、これにて一件落着……と、言いたいところだけど、ピラフ大王、ちょっといいかな」
「な、なんじゃい!」
「後でちょっと話がある、すぐにどっかに行ったりしないでくれ」
「言われんでも乗り物がないわい……」
ピラフはそういって大破した車とピラフマシンを交互に見た。
もしかして、あれらとこのドラゴンボールがやつらの最後の財産だったのか?
カンカンと金槌が金属を叩き、キュリキュリとネジとネジ穴が擦れ合う音が続く。
ピラフは俺が飛行機の工具箱から貸してやった道具を巧みに使って、見事にピラフマシンのサンコイチ(イッコイチか?)修理を進めていた。
「流石はピラフ大王、見事なもんだ」
「すごいうでだ、自分がつくったきかいとはいえ、ああもかんたんに組み合わせて、新しいものをつくってる、たぶん、もうピラフの中にはせっけいずがあるんだろう」
プリカは俺以上に驚いているようだ。
「ネジの大きさも、多分さいしょからまぜやすいようにそろえてあるんだろう、でも、それでせいのうが下がったりはしてないはずだ」
「大分、マシンに詳しいな」
「ま、まあな」
少し恥ずかしげに目を逸したプリカは、すぐに作業の見物に戻った。
早く着替えに行け、と言ってやるべきか?
そうこうしているうちに、ピラフマシンはガシガシと両足を動かし始めた、起動テストのようだ。
「見ろ、あしもうでも左右でちがうのに、なめらかに動いてる、でんしせいぎょがすごいのか、たった今ちょうせいしてるのかも分からないけど、どっちにしてもピラフのぎじゅつはすごいぞ」
「……随分楽しそうだな」
「オレは……その……、鳥山メカがすきだったんだ、それに、自分でもメカをいじってた」
「前世は工学畑だった、というわけか……」
「アラレちゃんも、ドラゴンボールも、ドラゴンクエストも、クロノトリガーもすきだった」
いつもの思い出話だ。
そう思った俺が、また自分の身の上話でもしようかと思った、その時。
「なあ、ソシルミ」
「何だ?」
「オレはしょうじき言って、ちきゅうじんの男にもどりたいんだ」
「……は?」
わざわざ弱い地球人の……男。
男!?
「~~~~~ッッッ!?」
「う、うわっ、なんだよ!」
「お前、男だったのか!?」
「は!?」
今度驚いたのはプリカだった。
いや、驚きたいのはあくまでもこっちだ!
「前世男で、今は女!?」
「そ、そうだよ、……まて、今まで、言ってなかったか? 言ってなくても、きづくくらい……」
「サイヤ人の種族特性でアマゾネスぎみの……『オレ女』……かと」
「おまえ……あのデリカシーのかけらもないたいど、オレが女だと思ってやってたの……?」
…………。
「戦闘民族サイヤ人はそんなことでイチイチ恥ずかしがったりしないと思って」
「してただろ!?」
「……思えば、結構」
「こっちはちっこいこの体で天然ボケのハンマユージローもどきとおっかなびっくりくらしてたってのに……!」
「酷い言い草だ、全部事実だが」
――――俺がそう言って会話を区切ると、プリカも俺と張り合うのをやめ、こっちに向き直って真剣な表情を作った。
「オレはちきゅうじんにもどって、西の都あたりで平和にくらしたい……ドラゴンボールをくれ、ソシルミ」
「まさか、お前がそんな事を願っているとは……」
プリカはずっと俺と一緒に戦い、その戦いを楽しみ、戦果に一喜一憂してきた。
俺はプリカを仲間として、ライバルとして、共に戦う戦士として、そして……。
「オレにボールをくれ、ソシルミ、じさつしようって言ってるんじゃない、ただ、戻りたいんだ、いいだろ?」
「……プリカ」
→つづく
なんか投稿速いけど急いだというわけでもなく上手いこと筆が乗ったというだけのことでありました。
お久しぶりと言わないのは久しぶりですね。
さて、レッドリボン軍は壊滅し、占いババ編は預かり知らぬ所で終わり、鶴仙流には許され、ピラフ大王は自らドラゴンボールを譲ってくれた今、第二次ドラゴンボール集め編は終焉へと向かいつつあります。
果たして、ソシルミはプリカの願いを受け止めるのか。
そして、プリカはなぜ今、地球人になろうとするのか。
ドラゴンボール集めもいよいよ大詰め!
彼らを待ち受ける運命やいかに!
次回もお楽しみに!