転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第十六話:転生地球人が才能を誇るまで

 「プリカ……お前は、ずっと嫌だったのか? 武道家として戦うのも、俺とこうして旅をするのも」

 

 8ヶ月の時と、幾度かの死線を共にし、拳で語り合った戦友、プリカ。

 俺はずっとこいつを根っからの女だと思い込んできたし、サイヤ人として扱ってきた、俺が男雄漢(おとこ)であるのと同じように。

 俺が、範馬であるのと同じように。

 

 「いやだった、わけじゃない」

 

 「なら、性別だけ直せばいい、そうじゃないのか……?」

 

 「ちがう!!」

 

 プリカが声を張り上げる、小さい体に全く見合わない、気が弱い人間や獣なら気絶でもしてしまいそうな大声だ。

 あまりの大声にピラフ一味が驚き、マシンごと倒れたのを見てプリカはトーンを下げた。

 

 「オレは、地球人になりたい、サイヤ人ではだめなんだ」

 

 「何が駄目なんだ、言っちゃなんだが、サイヤ人が地球人に劣っている点なんて何一つない、あったとして、十二分にカバーできるだろう」

 

 「サイヤ人のままじゃ、戦いはやめられない、オレは……メカをやりたい」

 

 「……前世と同じように」

 

 「もっとだ、この世界ならもっとすごいことだってできる、ピラフやブルマほどのてんさいじゃないけど、それでも……」

 

 サイヤ人の力、戦いへの適性、それが自らの夢の障害になる、ならば……そんなものは無い方がいい。

 プリカは本気で、そう思っているようだった。

 そんなはずはない、力があって、より健康なサイヤ人は科学研究にだって向いているはずだ。

 俺がそう言おうとした時……空の彼方から、更なる来訪者が現れた。

 

 「……ブルマたちか?」

 

 「いや、あれは……見覚えがある、ウチの、タンドール王国の国有機だ」

 

 「ウチ?」

 

 ぐんぐんとこちらに近づいてきた機体は、荒れ果てた地面の状況を見て数度躊躇を見せた後、思い切った様子で、比較的無事な地面……俺達の目の前に着陸した。

 

 「う、うわっ!?」

 

 「お、おお!!」

 

 強引な着陸に驚くプリカ、喜ぶ俺。

 その違いは、俺はその機体の中にいた人物の正体を知り、プリカにとってはどうでもよかったことが原因った。

 機体から飛び降りる影、俺より20センチほども大きく色黒で、光加減によってはその目を見ることすらできないほど堀の深い男!

 

 「ラパータッッ!!」

 

 「お久しぶりです、先輩!!」

 

 「いやあ、ずいぶんデカくなったなあ!!」

 

 ラパータ!

 それは、『タンドール王国』、俺の出身国でありチャパ王が治める国の名と同じく、元の歴史を知るプリカですら知らない名前だ。

 ……それもそのはず、ラパータは一介の門下生であり、俺の道場時代の後輩なのだから。

 

 「先輩もお強くなられたようで、みんな、話を聞いて頑張ってますよ!!」

 

 「そうか! いずれ一度顔を見せる、楽しみだ!」

 

 「師匠がまた先輩とみんなを比べてバカにしたときはヒヤっとしましたけどね……」

 

 「またやったのかあの人……、まったく、わざとやってるんだか、クセなんだか、大事に思ってるのは確かなんだから素直にしてやればいいものを」

 

 盛り上がる俺達をよそに、プリカはポカンとしている、というか、突然盛り上がり始めた俺を見て驚いているようだった。

 

 「プリカ、紹介しよう、こいつはラパータ、俺の弟弟子だ、見ての通りとんでもなくデカくていかついが、優しいやつでな」

 

 「先輩! 初対面の人にそういうのはやめてくださいよ!」

 

 「あ、ああ、よろしく……? オレはプリカ、ソシルミとはしばらくいっしょにしゅぎょうしてた」

 

 紹介を終え、積もる話に花を咲かせようかと思っていた俺だが、まだラパータの要件を聞いていないことを思い出した。

 

 「そうだ、ラパータも何か用事があるんだよな、というか、どうしてここが?」

 

 「それが、お師匠さまから使いを仰せつかりまして……」

 

 ラパータは懐からドラゴンレーダーを取り出して見せた。

 

 「……師匠もそれ貰ってたのか」

 

 「はい、師匠の伝言をお伝えします、『わたしの知己が治める国が恐ろしい敵に襲われている、ラパータに地図を持たせるから、向かって助けてやってくれ、ドラゴンボール制覇おめでとう』……だそうです」

 

 「恐ろしい敵……師匠がわざわざ伝えてくるということは、俺達でなければ立ち向かえないということか」

 

 「そうではないかと……」

 

 「師匠の頼みで、人命がかかっているとあらば見過ごせん、すぐに向かおう」

 

 俺が地図を受け取ると、プリカは少しだけ迷う様子を見せた後、俺と同行する覚悟を決めたようだった。

 だが、それなら、俺はここを離れる前に、一つだけラパータに頼み事をすることになる。

 

 「ラパータ、頼み事がある、あそこの顔が青いのはメシヤキ族という滅んだ一族の王子なんだ、保護してやってほしい」

 

 「保護……道場にですか」

 

 「そうだ、話は通してないが……まあ、お前が口数少なくにじり寄ってやれば従うだろう」

 

 「それ、保護じゃなくて拘束じゃないですか……」

 

 「はっはっは」

 

 どちらかというと気弱な部類に入るラパータは、自分の容姿と強さを利用して人を拘束するのに拒否感を抱いているようだ……が。

 

 「彼等を抑えておくことは彼等自身にとっても、我々にとっても必要だ、頼む」

 

 「……はぁ、分かりました」

 

 まあ、ラパータなら悪いようにはしないだろう。

 そうプリカに言い含めて、俺達は一路、地図に記された国に向かうのであった……。

 

 

 

 薄暗い、神殿と洞穴を組み合わせたような穴ぐらの中、俺はいくつものきらめきに囲まれていた。

 きらめきは、槍であり、剣であり、そして、我が戦友の放つ光である。

 

 「ツアァッッ!!」

 

 「っがああ!!」

 

 俺の蹴撃が腹にめり込んだ敵は力なく倒れ込む。

 プリカの爆撃の風圧を浴びた敵はなすすべなく吹き飛び、倒れ込んでゆく。

 

 「おい、お前は俺の不殺に付き合わなくてもいいんだぞ」

 

 「はぁ……はぁ……オレがやりたくてやってるんだ!!」

 

 次いで、プリカはつとめてゆっくりとしたパンチを敵に叩きつけ、その意識を奪った。

 ……俺達が相手にしている『敵』、それは魔族だ。

 

 「たたんじまえ!!」

 

 「シュラさまのジャマをするやつは許さねえ!!」

 

 この国に、はるか昔から存在する『魔界の門』、本来はそうそう開くことのないはずのそれがある時から開きっぱなしになり、それ以来、毎夜魔族たちが侵入してくるようになった。

 それは、魔界の武道家にして有力者、シュラによる地上への侵略……否、挑戦である。

 王はたまらず、各国に救援要請を出し……唯一応じる事ができたのが、俺達だった。

 

 「ぐがあ!!」

 

 「ダァッ!」

 

 門を越えて襲い来る魔族を叩き伏せ、逆に門に侵入してからはや数十分、だが、俺達の間で交わされる会話はほとんどなく、さっきのやり取りが一番長かった程。

 理由は分かっている、ギスギスしているのだ。

 

 「キリがないな、どうする、閉所でゲロビをぶっ放すわけにもいくまいが!」

 

 「ぜんぶなぐってたおせばいい」

 

 「……投げやりだな、だが、やってもいいッッ!」

 

 同時に、しかし別の方向に駆け出した俺達は、それぞれの場所で魔族を叩き始めた。

 矢を避け、払い、剣を折り、槍を掴んで逆に振り回す。

 そして、武器を失った魔族のドテッ腹なり、脳天なりに一撃を叩き込んで意識を奪い、後は運を天に任せるのだ。

 

 「こ、こいつら強えっ!」

 

 「シュラさまは来られないのか!?」

 

 「どうした、元気がねえなあ魔族ども、一方的な分捕りじゃなきゃあそんなもんかッッッ!?」

 

 「てめえ!!」

 

 こいつらの習性、身体的特徴は、その知性が全体的に高いことを除けばほとんどルシフェル配下の魔族と変わらない。

 宇宙からやってきたあいつらと地上のこいつらが変わらないというのも、不思議な話だが……。

 

 「……があ! ……はぁ、はぁ ……っだぁ!!」

 

 「プリカめ、荒れてやがる」

 

 遠目に見えるプリカの姿は、普段の気持ちよさそうにエネルギーをばらまく姿と違って、どことなく苦しそうに見える。

 というか、苛ついているのだ。

 

 「何度も言うがこれは俺の趣味だ、付き合わなくてもいい!!」

 

 「うるさい!!!」

 

 ……知性ある魔族はなるべく殺さない、門を閉じれば戦わなくていい、俺は戦い始める前にそう言った、言ってしまった。

 結果、プリカは意地を張っているのか、それに追従し、しかも、無理に手加減をしているものだからフラストレーションを溜め始めている。

 一方で、それを言い出した俺は気楽なものだ、なぜなら――――

 

 「へっへっへ、よそ見してていいのか………へれ?」

 

 「よそ見はお前だったな、『いっちょ上がり』だ、間抜けめ」

 

 ――――楽しいのだ、手加減した攻撃を叩き込んで敵を無力化し、全力を振るいつつも敵を殺さない手段を模索し、時には、技術を用いて敵の意識を奪う、その過程と結果そのものが。

 今も、360度回した腕の先で3体の魔族の脳を揺らし、仕留め、悦に浸っている。

 

 「こ、こいつ強え!」

 

 「先にあのアマからやるぞ!!」

 

 「馬鹿めッッ!!」

 

 俺はプリカの方に向かおうとした魔族の後頭部を小突き、なじる。

 はっきり言ってプリカは今、俺より強い、実力を発揮出来ていなかろうと、戦う姿を見れば肌で感じるのだ。

 その一方、初めて会った時から増した心の余裕は同情心を養い……2つの成長が衝突してしまっているのは、傍目にも、明らかだった。

 

 「()ッッッ!!」

 

 「ぶげえーっ!!」

 

 「く……くそ……! シュラさま、いや、メラさまとゴラさまさえ来てくだされば……!」

 

 さっきから、魔族どもはしきりに首魁である『シュラ』、そして2つの知らない名前を呟いている。

 俺達がいい加減疑問に思い始めるころ、魔族の群れがザッと裂け、向こうから二人の影が現れた。

 

 「待て、きさまら、通行証を持たぬものが門を出入りすることは許さん!!」

 

 その人影の一つ、半裸に兜の出で立ちで、棍を携え、青みがかった男が叫んだ。

 体高は目測で4メートルほどの大男、どう見ても魔族だった。

 

 「現在、お前たちと俺達は戦闘状態にある、一般の法は適用されん!!」

 

 「この法は神と閻魔、魔界のお偉方が決めたもの、通行証も神か閻魔が発行する、きさまの勝手になるものではないわ!!」

 

 「では、このあらくれ共はその通行証を持っているのか!?」

 

 「ぐぬ……!」

 

 俺の反論を前に青色の男……ゴラは押し黙り、続いて、もうひとりの女、普通の背格好に、ピンク色の肌と髪色が目立つ女……メラが言う。

 

 「下がらなければ痛い目を見てもらうことになる!」

 

 「下がるわけにはいかん、我々は助けを請われてここに来たのだ!!」

 

 俺がそう一蹴すると、青い巨漢、ゴラがいきり立ち、こちらに棍を振りかぶって――――

 

 「――――ごが!!!」

 

 「が……うぐ……!?」

 

 みぞおちに『飛来』したプリカの正拳突きによって、うめきながら仰向けに転がる。

 ……この時点で、俺は完全にこいつらの正体を思い出していた。

 アニメオリジナル回の登場人物、魔界の門番、メラとゴラ。

 魔界にさらわれた姫を助けるために侵入した悟空を引き止めるも、シュラを倒すという目的の一致によって協力することになる……そんな役回りの二人だ。

 

 「ゴ、ゴラ!?」

 

 「……俺達はシュラを打倒し、魔界の門の勝手な通交を止めるために来た、戦闘は本意ではない」

 

 「イヤミかソシルミ」

 

 「今のは示威行為の部類に入る……ということにしておこうか」

 

 なんとも締まらない。

 

 「俺はソシルミ、こいつはプリカ、王の依頼によって、シュラを打倒し、門を封印するためにやってきた」

 

 「……本当にシュラさまを倒すつもり?」

 

 「何も殺すわけじゃない、『呪い』を解くには打倒するだけでいい、そうだろう?」

 

 「そこまで知ってるとはね……、いいわ、付いてきなさい」

 

 「メラさま!?」

 

 踵を返し、俺達を誘導することにしたメラ、それに驚きながらも手を出せないゴラ……と、その他魔族たち。

 魔族の階級社会を垣間見る事ができ、非常に興味深いと言えるが……俺達は文字通り、魔物の巣へと入り込むことになった。

 

 

 燃え盛る篝火、松明、石造りのおどろおどろしい建築物、武舞台、そして、君主の座すべき玉座。

 魔族たちが住まう魔界の行政府はそのような有様だった……武舞台が中心地にあるとは、よほどの武術狂いと見える。

 

 「ほう……きさまが」

 

 「その通りだ、シュラ、門を開放……いや、閉鎖しろ、俺達は種族間戦争などやりたくない」

 

 シュラ、魔族たちに共通する尖った耳に、青みがかった肌、道着を着込んだその姿は、まさしく魔界の武道家だ。

 有力者にして武道家、武道家にして有力者である奴は、魔界と地上との間に存在する『門』に呪いをかけた、それを解く条件こそが――――

 

 「――――ならば、わたしを倒すことだ、あの呪いはわたし自身でも解くことはできないが、どんな手段でも、どの程度でも、わたしを打倒すればたちどころに解かれる」

 

 「決闘の申し込みか?」

 

 「武道家だろう? まさか集団戦で決着をつけようなどと言い出すつもりでもあるまい」

 

 「分かった、受けようじゃないか」

 

 「おい、ソシルミ!」

 

 ここの魔族ごときに囲まれた所で痛くも痒くもない……が、それでは完全に魔界との全面戦争になってしまう。

 

 「地上に兵士を差し向けておきながら、人を傷つけさせず略奪だけで済ませておいたのは、武道家を招き寄せ、こうして戦うためだったんだろう?」

 

 「その通り、きさまも目的は同じようだな!」

 

 ……いや、殺し合いを避けるなど、単なる戦う理由付けにしかならないだろう。

 

 「どちらか、武舞台に上がれ、きさまらが勝てば大人しく兵を引き、奪った物も返してやろう、残っている分だけだがな」

 

 「俺がやる」

 

 「……オレがやったほうがしょうさんは高いんじゃないのか?」

 

 強敵と戦う機会をこの俺が逃すはずもない。

 ……今まさに相棒が捨てようとしている優位性、それを実際に捨ててしまう前に、なんとしてでも上回るため、悔いを残さぬため……俺にはそのチャンスが欲しいのだ。

 

 「俺がやりたいのさ」

 

 「わかった、見てる、かってにしろ」

 

 「どうやら、決まったようだな」

 

 俺達は眼下に広がる丸い武舞台へとそれぞれ飛び降り、相対した。

 周りを見渡せば、首領の戦いを見ようと集まってきた大小様々な魔族どもが俺達を囲み、酒やら何やらをかっくらっている。

 

 「こいつら、ちゃんと文明があるんだ」

 

 「試合をするためだけに統制の取れた軍事作戦を行うとは、文明的なんだか野蛮なんだか、分かったもんじゃないがな」

 

 とはいえ、二人の心はここにきて一つになった。

 迂闊に殺さなくてよかった……と、もちろん、こんな手段で収めることが出来ないなら、殺し合いもやむなしな事態ではあるのだが。

 

 「それはそれ、これはこれ、さあ、試合を楽しむとするか……よろしくお願いします」

 

 俺は眼前のシュラに、合掌礼をする。

 シュラは道着をはだけ、ネット状の下着が見えた状態である、奇しくも、両者、偏袒右肩だ。

 シュラもまた一礼をし……次の瞬間には、互いの蹴撃が交差した!

 

 「ムンッッッ!!!」

 

 「ふはっ!」

 

 期待通り、とでも言いたげに笑うシュラ、威力は互角……だが、奴には俺の持たぬ手がある!

 奴は俺から離れるや否や、ゆっくりと座禅を組み――――

 

 「――――ういたっ!?」

 

 「シュラさまは呪術の天才、試合中に浮くくらい当然よ」

 

 メラはさも当然であるかのように言うが、試合中に浮かれたら溜まったものじゃない。

 天内悠の例を再び挙げるまでもなく、浮いている奴とは戦いにくい、踏ん張りも足さばきもクソもない、浮いてしまっているのだから、完全に自由な足を、こちらの自由な場所に叩き込む事ができる。

 

 「……また舞空術か、厄介なものだ」

 

 「よもや、卑怯とは言うまいな」

 

 「まさかッッ!!」

 

 魔族らしくニタリと笑うシュラに、同じく、範馬らしくニンマリと笑い返す。

 相手が何を使おうと知ったこっちゃない、武術の舞台に何を持ち込もうと知ったこっちゃない、そこには相手を必ず倒すという意思と、自らの抱く誇りがあるだけだ!

 

 「トアッッッ!!!」

 

 「あ、あれは……分裂!?」

 

 俺の残像拳を見て驚くゴラに、メラは自らも驚きながらも説明してやる。

 

 「残像だ、今も使える人間がいるとはな」

 

 浮遊には自由の力があるように、接地にはフットワークの力がある!

 そう考えて放った残像拳を前にしても、シュラは落ち着き払ったままだ。

 

 「ッッッ!!! ツアッッッ!!」

 

 「ム!! フン!!」

 

 ある時は死角から、ある時は正面から放たれる油断を許さぬ連続攻撃、だが、シュラはこの俺の攻撃を受けつつも、巧みにダメージを抑えてゆく。

 しかし、この程度で余裕を保てるなどと、甘い考えを持つシュラでも、それを許す俺でもないはずだ。

 

 「むん!!!」

 

 そう思っていると、シュラは掌に力を蓄え、それを塗りつけるように両腕に広げ――――

 

 「まず――――ッッ!!」

 

 「はぁっ!!」

 

 衝撃波!

 全身を襲うそれを前に、俺は体を屈めて防御を敷く、残像拳のフットワークなどは完全に消し飛び、その瞬間!

 

 「ふん!」

 

 「~~~~~ッッッッ!!!!」

 

 胸部に打撃、否、『掌から直接放たれ、防御を貫通した衝撃』!!

 

 「ッカ、……カハ……!」

 

 「ソシルミ!!」

 

 「その程度で止まるタマか、来い!!」

 

 「…………応ッッ!!」

 

 周囲からは俺達の姿がかき消えて見えたであろう。

 俺は残像拳の勢いをそのままにシュラに向け打拳を叩き込み、シュラはそれを受け、数メートルも瞬間的に飛び退いた。

 

 「……ふん、効いているのはフリだけか」

 

 「化け物や異星人と一緒にするな、俺はただの人間だぞ」

 

 「ただの人間にそんな力があるか、はあ!!」

 

 再びの衝撃波!

 俺は戦いが全力のスパートに入ることを確信し、『輝く手』を衝撃に向けてかざす――――その瞬間だった。

 

 「くっ!!」

 

 「きゃあっ!!」

 

 「ぐえーっ!!」

 

 シュラ、そして周囲の魔族どもが一斉に悲鳴を挙げる。

 

 「お、おい、メラ、ゴラ、なにが起きたんだ!?」

 

 ……プリカは事態を飲み込めないようだったが、俺には、たった今何が起きたのか、はっきりと分かった。

 

 「そうか、魔族は強い光を嫌う……!」

 

 「きさま、ソシルミ!!」

 

 「なんだ、シュラ」

 

 「よもやきさま、卑怯とは言うまいな」

 

 シュラはこちらをまっすぐ見据え、叫ぶほど強く、しかし、ゆっくりと問いかけた。

 俺は答える。

 

 「……まさか」

 

 俺は笑って、シュラも笑う。

 そして再び、シュラは浮かび、俺の手は光りだした。

 

 「さあ、続きだッッッ!!!」

 

 「オウ!!」

 

 俺の輝く抜き手を、奴は衝撃を纏わせた腕で弾く。

 一合で分かる、輝く手の光は、奴の目を眩ませるどころか、光への敏感さによって俺の攻撃を受ける助けとしているのだ。

 

 「簡単に弱点でマイっちまうようじゃ、武道家とは呼べんわな!」

 

 「その通り!!」

 

 ――――ただ、撃ち合う、全身全霊で。

 たったこれだけこと、道場ではいつもやっていたはずの普通の……戦いが、今や、はるか遠くの、貴重なものであるように感じられる。

 だが、このレベルですら、俺にとっては……。

 

 「クッ……!」

 

 「どうした、こんなものではないだろう!!」

 

 プリカには今、力で引き離されている、技では勝っているが、いつまで続くか知れたものではない。

 そして目の前の敵、シュラもまた……。

 

 「やっちまえー!」

 

 「よっしゃー!」

 

 魔族どもが囃し立てる、そうだ、俺は押されている、力で互角であろうとも、身体構造そのものが違うのだ。

 俺の戦力の伸びは悟空とプリカ……サイヤ人に及ばない、タフネス、頑健性で言えば、地球人以外のすべての種族に劣ると言ってもいい、サイヤ人はたやすく限界を越え、先に進んでいくのだろう。

 だって、オラは人間だから。

 そんな台詞が、脳裏をかすめた。

 

 「……どうした、ソシルミ、そんなものか?」

 

 「そう見えるかッッ!!」

 

 少し前までは乾坤一擲であった、そして、今は安定して攻防に用いることができる『輝く手』は、結局、目の前の敵が持つ『衝撃』の技、そして感知能力と拮抗し、その力を発揮できずにいる。

 

 「グゥ……!」

 

 「地上の戦士がここまでのレベルに達しているとはな、だが、それももう終わりだ!」

 

 「ソシルミ!!!」

 

 追い詰められた俺に、プリカが叫んだ。

 

 「おまえはどんな敵でも、どたんばで、すごいわざで倒してきた!! そうだよな、地球人でも、若くても!!!」

 

 「プリカ……」

 

 「きさまらも地上人らしく、ああいう馴れ合いをするんだな」

 

 「……馴れ合いではない」

 

 道場を飛び出してから……いや、プリカと出会ってから、俺は何回有利な戦いを経験してきた?

 数えるほどもない、出会った時のプリカすら、俺の手には余っていた、ルシフェルも、悟空も、亀仙人も、鶴仙流の二人も、俺にとっては皆、手に余る強敵だ。

 俺にはもったいない程の、強敵だった!!

 

 「きさま、構えを……」

 

 「ああいうのは、信頼と呼ぶんだぜ」

 

 腰を低く落とし、半身に構える。

 左腕を胴体を庇う形で曲げ、肩は持ち上げ、顎の守備に回す。

 右腕は発射体制、ガッツポーズに近い形に曲げ上げた、その構えは。

 

 「ばき……」

 

 「範馬だからって勇次郎気取る意味はねえさ、俺は刃牙でもいいし、ジャックだっていい、最高だ」

 

 「なんだ、そっちの流派の話なら、後で……」

 

 「いや、もう済んだ、言いたかっただけだ、さあ、続きをやろう、シュラ」 

 

 ――――サイヤ人が限界を超えるなら、(はんま)は奇跡を起こしてやる。

 俺の腕も、足も、一切は光らず、ただ自然体のように構える俺を、シュラは見つめ……。

 ゆっくりと、迎撃の構えを取った。

 

 「ソシルミ!!」

 

 「シュラッッ!!」

 

 俺達は極めて、ゆっくりと、互いに向け近づく。

 俺は新たな技を使うため……そして、シュラはそれを受けるため。

 そして、互いの影が重なるその瞬間――――

 

 「――――ッッッッ!!!!!」

 

 「しぃっ!!!!」

 

 限界を超えて加速された俺の拳が、シュラに迫る。

 その刹那、互いに交差する意思。

 打拳の威力が足りない、速度だけはあっても、これでは意味がないだろう?

 そう問うシュラに、笑み、いや……笑みを形にすら出来ない刹那の中、意思のみで笑いかけ……。

 閃光が、空間を包み込んだ。

 

 「め……目があ……!」

 

 「バカ、あんな光るやつの戦いなんてまっすぐ見るからだ!」

 

 ボクシングは地面を蹴る格闘技なんだ。

 そう、この構えの主である範馬刃牙は言った。

 ある者は足から力が現れると言い、ある者は丹田から現れると言う、ある者は力など幻想であり、勁こそ全てと言う。

 

 「……ぐ」

 

 「シュラさま!!」

 

 「シュラ!!」

 

 防御を掻い潜り……否、防御が為される直前に叩き込まれた拳によって、シュラの体がゆっくりと武舞台に沈む。

 ……どのように言語化を図ろうと、武道家のやることは一つ、拳を最大に加速し、最後の瞬間、その激突の威力を敵に押し付ける、ただ、それだけだ。

 シュラは仰向けのまま、呻くように呟く。

 

 「……あの光に回す力を全て体の武術に必要な部分のみに回し、強化したのか」

 

 「そうだ、足から順に力の集中点をずらし、拳に到達した瞬間に炸裂させた」

 

 新たな技、これまで、かすかな片鱗しか見えなかった技を、俺は土壇場で創り、形にしてみせた。

 俺が名乗る範馬、それは、最強を得てもなお飽きたらぬ、進化への渇望を抱き続ける血液。

 正真正銘最強であれた『あの世界』ではなく、『この世界』、弱小種族の若輩である俺がそれを持っているのならば……それはどんな頑健性より、気の高まりより優れた才なのだ。

 

 「あの男、そんな技を……」

 

 「試合の中じゃ、使う気配さえ見せなかったってのに!」

 

 「それがソシルミだ、オレも前、ああやってやられたよ」

 

 プリカは何やら嬉しそうにしている、試合相手自慢はいつだって楽しいのだ。

 魔族たちは首魁の敗北に恐怖するもの、試合に興奮するもの、首魁の敗北が気に入らないものでそれぞれ三分の一ずつと言ったところか。

 

 「……ありがとうございました」

 

 俺が合掌礼をすると、シュラもまた、無言で礼をした。

 まさか、魔族の狼藉を鎮圧に来て、こうも清々しい試合が行えるとは。

 

 「あれから8ヶ月、腕を上げたとはいえ、聞きしに勝る強さだな、アエ・ソシルミ」

 

 「アエは要らない、捨てた名だ……いや待て、俺はそこまで名乗った覚えは……」

 

 「……魔神城を破壊し、ルシフェルを打倒した男、正直、きみが来てくれるとは……期待以上だった」

 

 

→つづく 




投稿ペースは早めを維持できましたね……まあこれでも結構ダレたりしたんですが。
ということで、お久しぶりと言わずに済んだのはいいけどそう言えない挨拶が思いつかなくて困る作者です。

出ましたオリキャラ、ラパータくん、特にたくさん出る予定はありません、容姿はベルセルクの『ターパサ』が目や手に改造を受けていない状態をイメージしています、こわい。

文中にもありますが、国名『タンドール』もオリジナルです。
ドラゴンボール地球は統一国家であるという設定がどの媒体でも貫かれていますが、劇中に複数の王が登場している以上、統一王朝の下にいくつもの国家が存在しているか、統一王朝そのものが名目上のものであるかのどちらかになると思われますので、今回は、前者を採用することにしました。

さて、突然のアニオリ回でしたが、お楽しみ頂けたでしょうか。
ドラゴンボール史上最大の謎と言ってもいい(過言)魔族と魔界の謎に迫る!
……というのがこの作品の命題の一つだったりします、今後ともお楽しみに。

それでは次回までごきげんよう。

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