転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第十七話:転生地球人と転生TSサイヤ人が願いを叶えるまで

 『ルシフェルを倒した』、目の前の魔族は、たしかに俺をそう称した。

 ……思えば、特段強く混乱すべき事態ではない、魔族同士なのだ、何らかのネットワークや監視があってもおかしくは、ない。

 

 「確かに、『俺達』が奴の野望をくじいた……魔族であるお前達からすれば、忌むべきことかもしれんがな」

 

 「われら魔界の者と奴らとは太古の昔に別れた存在、方針も違えば、今更かける情けもない」

 

 とんでもない爆弾発言だが、今騒いでどうにかなるようなものではない、俺たちは黙って、続く言葉に耳を傾ける。

 

 「もののついでだ、一つだけ言わせてもらおう……おまえたちはメシヤキ族の末裔を飼おうとしているらしいな」

 

 「ピラフ大王のことか、奴は危険な天才科学者だからな、保護が必要だ」

 

 シュラは一瞬、『カマトトぶりやがって』とでも言いたげに唇を歪めてみせた。

 

 「やつはかの『片割れ』の所在を知る者、何をしでかすか分かったものではない、ゆめゆめ用心を怠るな」

 

 「シュラさま!!!」

 

 ついにゴラだけではなく、メラまでもが声を張り上げると、シュラはようやく、潮時を感じたようだった。

 

 「さて、そろそろお暇させてもらおうか」

 

 「おいおい、一晩くらい泊まっていけばいいのに」

 

 「魔界の一晩の長さを知らんからな」

 

 「地上と同じだよ、……ま、正直に言えばもう荷は用意して、すぐにでも発てるようにしてある」

 

 シュラがわざとらしく腕を降ると、軍装の魔族たちがどんどん荷車を引いて地上方面に出発してゆく。

 

 「シュラ、また戦おう」

 

 「ソシルミ、いずれ機会は来るよ」

 

 この、天井知らずに強さの上がっていく世界、違う種族の俺達。

 再会できる保証も、再会した時、実力が伯仲している保証もなく。

 それでも、俺達は確かに、再戦の約束を交わしたのだ。

 

 

 

 俺達は、一抹の不安、変わりゆく、否、すでに変わってしまったこの世界への恐れを抱きながらも、あの国を去り、やっと家に戻ってきていた。

 ……天下一武道会から今まで、一週間足らず、だが……何もかもみな懐かしい。

 俺の家、俺達の家、8ヶ月暮らした、ホイポイカプセルの仮宿……。

 

 「思えば、8ヶ月間も互いの事を全く知らないまま暮らしてきたんだな」

 

 「……見て見ぬふりをしてきただけじゃないか?」

 

 「確かに、俺はお前の才能に酔いしれ、お前と自分を鍛え上げることだけに夢中だった、いずれ来る戦いの日に備えてな」

 

 「オレはあのとき、まだ戦う気はなかったんだけどな」

 

 視線が刺さる、少しくらい浸ってもいいじゃないか。

 

 「お前は別に死ぬってわけじゃない、友人としては、今後ともよろしく頼む」

 

 俺はそう言って、あえて少し出し抜けに、ドラゴンボールを入れた包みを、プリカに差し出した。

 

 「……いいのか?」

 

 「ああいいとも」

 

 わざと調子を外してみせたのは、それ以上何を言えばいいのか分からなかったから、辛かったからだ。

 ……それでもドラゴンボールを渡したのは、最後にプリカを超え直せたと思ったから、そして、友人の真摯な願いを、これ以上拒みたくはなかったからだ。

 

 「わかった、なんでくれたのかはわからないけど、おまえがくれるってなら、もらうよ」

 

 

 

 かくして、人気のない広野の真っ只中にて、神龍召喚の儀式が行われるのであった。

 

 「いでよシェンロン! そしてねがいをかなえたまえ!!」

 

 ぶわっと腕を広げたプリカが叫ぶ、割とノリノリだ。

 ドラゴンボールはその叫びに答えて強く輝くと、エネルギーのようなものと同時に、龍の体を吹き出した!

 

 「お、おお……!」

 

 「いかにもご利益がありそうだ」

 

 空中でとぐろを巻いた赤目の東洋龍が、こちらを睨めつける。

 神龍!!

 あらゆる人間の望みを聞き、『神より強い力の持ち主に干渉する』こと、『同じ願いを二度叶える』こと以外ならばほぼなんでも成してみせる、神の龍!

 

 「さあ、願いを言え、どんな願いでも一つだけ叶えてやろう……」

 

 「プリカ」

 

 「……ああ」

 

 俺はプリカを促す。

 野人同然の生活を営むプリカを見つけたあの日から、今日まで。

 修行に明け暮れた日々、天下一武道会、ボラの命を救うために駆け抜けた数日間の戦い。

 その全てが、今では懐かしく思える。

 

 「どうした、願いはまだか」

 

 俺が物思いにふけっていると、神龍が困惑の声を上げた、願いを言うべきプリカが、何やら悩み込んでいるのだ。

 

 「おい、プリカ、神龍が困っている」

 

 「…………なあ、ソシルミ」

 

 「なんだ」

 

 「いや、ちょっといったん、ねがいはほりゅうにできないかな」

 

 プリカは気恥ずかしそうに頭を掻き、ここ数日分の葛藤を何もかも無にするような一言を放った。

 

 「ここに来てかァ……!」

 

 「……すまん、やっぱ、まだ、このままやってみたい」

 

 何らかの理由で心変わりして、今はこの体が嫌ではなくなった、ということなのか?

 

 「オレにもよくわからん、でも、今戦うのがいやじゃないなら、もうそれでいい……これでいいか?」

 

 「いいか、ってもなあ、お前の願いじゃないか、お前が決めればいい」

 

 「そうだよなあ……」

 

 俺の戦いをもう一度見て、何か思うところでもあったのだろうか。

 そう思っていると、上空から響き渡る声。

 

 「お、おい……願いはまだか……?」

 

 まさか、『神龍放置』を俺達がやらかしてしまうとは……!

 

 「す、すまん! いっかいもどってくれ!!」

 

 「わかった……次はちゃんと願いを決めてから呼び出してくれ……」

 

 ――――と、こんなわけで僕の初めてのドラゴンボール体験はクソミソな結果に終わったのでした……。

 

 

 

 俺の龍玉を見てくれ、コイツをどう思う。

 すごく……じいちゃんの形見です。

 ということで、神龍を見送った俺達はまず、四星球を悟空に返そうとした……が。

 亀仙人にあたってみても、悟空はもう新たな旅に出てしまったの一点張りだ、まあ追う程のことでもないのだが。

 さて、そうなると次にすべきことは、ラパータに拉致させたピラフの始末を付けることである。

 

 「シュラはピラフ大王が『片割れ』の場所を知っていると言っていたな、これは恐らく、ピッコロ大魔王のことだろう」

 

 「地球のかみさまの、悪の心がぶんりしたのが、ピッコロだいまおう、だったよな」

 

 「……そこからか? いや、俺が言いたいのは、シュラがピッコロ大魔王の顛末と、ピラフ大王のことを知ってるのは不思議だってことだ」

 

 「元のれきしと、まぞくとか、ちがうものがしっかりまざりあって、このれきしが出来てるってことか」

 

 よく分からないけど、みたいな口ぶりのくせに理解度が高い。

 

 「そうだ、最早この歴史は元の歴史とは言い難い……だから、俺はもう、変えてしまってもいいと思う」

 

 「何を、かえるんだ?」

 

 「ピッコロ大魔王が暴れれば万単位どころじゃない死者が出る、俺はそれを防ぎたい……ピラフを抑え、ピッコロの封印を永遠のものとする」

 

 「……本気、か」

 

 問いかけるというよりは、俺の『本気』を悟り、どう対応すべきか測りかねている、といった様子だ。

 

 「やることはこの間と変わらん、人死にを防ぎ、その分、俺達が奔走する」

 

 「しあいでおまえが言ったみたいに、オレたちでちゃんとたおせば……」

 

 「ピッコロ大魔王と地球の神の命はリンクしている、元の歴史ではピッコロが死に際にすべてを受け継いだ子を産卵することで事なきを得たが……作戦として選ぶには不確実すぎる」

 

 神、そして神が作り出したドラゴンボールを失うのはこの星の未来にとってかなり致命的だし……第一、神も一人の命、勝手に犠牲にするわけにはいかない。

 そのようなリスクを孕んだ不確実な手段に頼らずピッコロ大魔王による被害を防ぎたいのなら、手っ取り早く確実な手段は封印を盤石のものにすることだろう。

 それはピラフ大王を抑えることで達成できる。

 

 「……わかった、オレも……それでいい」

 

 「じゃあ、ピラフ大王は俺が丸め込もう、なるべく、穏便に済ませたい」

 

 

 

 あの会話から数時間後、俺は懐かしきタンドール王国の王宮へとやってきていた。

 細長くしたピラミッド、あるいは多段の五重塔のような石造りの建築物群に、似つかわしくない物々しげな兵器やカプセルコーポレーション印の半球建築物が散らばっている。

 まさしくインド的カオスの様相を呈する王宮の片隅、厳重警戒の区画に、ピラフ大王が軟禁されている家があった。

 

 「よう、ピラフ大王、調子はどうだ」

 

 「げえーっ! きさまはあの時の!!」

 

 「そうだ、あの時の男、ソシルミだ」

 

 外から見れば作りは急ごしらえに見えたが、中は素晴らしい豪邸だ。

 調度品も上々、がなりたてるピラフ大王達も肌ツヤよく、服装もこころなしかリッチに見える。

 

 「お、おまえ何しに来たんだ!!」

 

 「三人とも、そういきり立つのはよしてくれ、俺はただ、いい提案をしに来たんだ」

 

 「わしたちをこんな所に閉じ込めといてよくそんなことを言うな!」

 

 「だが、あの頃より良い暮らしをしているじゃないか」

 

 「ぐ、わしだって故郷に居た頃はなあ……!」

 

 故郷、メシヤキ族……ルシフェルの一派に滅ぼされたという国。

 ピラフ大王の世界征服は、その国が健在だった時に父が抱いた野望らしいが……。

 

 「その故郷、自分の国を、自分の力で立ち上げてみないか?」

 

 「な、なんじゃと!?」

 

 「師匠……チャパ王陛下には俺から話を通す、タンドール王国の食客としてその腕を振るい、財力とコネクション、技術力を蓄え、折を見て旗揚げするのだ」

 

 「そんなことが出来るのか!?」

 

 食いついた!

 部下二人は『信頼できないですよこんなやつ!』とか『でも追い出されるよりいいかも……』とかいかにも子分らしいことを言っているが、これはトップ会談なのだ。

 

 「お前が望めば出来るとも……男一代の野望なのだから、自分の力でやってみたくはないか?」

 

 「わ、わしは……」

 

 「だが、一つだけ、俺から言っておきたいこともある」

 

 その瞬間、友好的な雰囲気をあえて消し去り、俺は最高の宿敵、あるいは最悪の好敵手を睨むのと同じ目、同じ気合を、三人にぶつける。

 

 「海底に眠る魔王に手を出すな、奴はお前の手には負えない、誰の手にも負えない、世界が滅ぶだけだ」

 

 「ひぃ……!」

 

 「きゃっ……!」

 

 「クゥン……」

 

 ……瞬間、溢れ出るアンモニア臭3つを、嗅がないふりする慈悲が俺にもあった。

 

 「師匠には伝えておく、後はお前達次第だ、強制するようで悪いが……元より敵同士なんだから、勘弁してくれ」

 

 震えるピラフ大王たちを捨て置き、俺はタンドール王国を去った。

 アメもムチもやったのだ、これで改心、いや、『おかしな手段』に頼らない世界征服を志してくれればいいのだが……。

 なにせ、ピラフ一味のやらかす失敗は文字通りケタが違うからな。

 

 

 再び帰ってきた我が簡易住宅。

 夕方に差し掛かる頃、飯が炊けるのを待つ俺とプリカは机の片側に並んで座り、大学ノートを前に語り合っていた。

 

 「と、いうことで、文字全体についてはともかくとして、数字そのものは一般的なアラビア数字と変わらない、位取り記数法ってやつだな」

 

 「デシマル……10しんすうか、分かりやすいのはいいけど、あんちょくだな」

 

 「五本指二本腕の種族が開発したってことだと思うが、流石に俺もこの文字の起源は知らん」

 

 俺達が一体何の話をしているのかというと、この世界の文字について講釈、授業をしているのだ。

 

 「文字と言葉がたくさんあるのにほとんど全部かざりで、ふつうに使われるのはにほんごっぽい言葉とアルファベットくらい……どうなってるんだ?」

 

 「俺も知らんと言っただろう」

 

 プリカと再び暮らし始めた俺達の生活には、これまで通りの『飯食って鍛錬して飯食って鍛錬して飯食って風呂入って寝る』のルーチンに、『勉強』が追加されていた。

 というのも、工学をやりたいプリカはまず文字やこの世界の常識なんかを学ばねばならないが、流石に何もかもジュニアスクール向け教材で学ぶのも嫌だし、こんな辺鄙な場所に教師を呼ぶわけにもいかない……ということで俺が面倒を見ることになったのだ。

 

 「8年ずっとしゅぎょうしてたとか言うわりに勉強できるんだな」

 

 「俺は一応、師匠の後継者として見込まれてたりするからな」

 

 「……なんかくやしい」

 

 「戦闘馬鹿は頭がいいと相場が決まっているのさ」

 

 自分で言うなよとばかりのジト目……うむ、中身が男と分かっていてもかわいいものはかわいい。

 というか、本人は馴染んでいないと言っていたものの、12、3年(実際の年齢は分からない)も暮らしていればそれなりの振る舞いも身についてくるものだ。

 『それ』に慣れないということかもしれないが。

 

 「まあ、宇宙のどこでも使える言葉なんて、神かドラゴンボール以外の原因はそうそうないだろう」

 

 「……それならむしろちいきやしゅぞくごとに言葉もあるってのがふしぎだけど……サイヤ語もあるのかな」

 

 「城攻めのすぐ後、買い出しのついでにお前が乗ってきたポッドを見分したが、その文字は俺にも分かったぞ」

 

 「あれ、けっきょくどうしたんだ?」

 

 俺は普段使いのカバンを広げ、一つのポイポイカプセルを取り出して見せる。

 そして、家の外に向けて投げ出した。

 

 「持ってきたのか」

 

 「捨てておくわけにもいかないだろ?」

 

 それもそうか、と合点の言った様子のプリカとともに、庭に出したポッドを見る。

 ポッド、いわゆる『一人用のポッド』、他には『アタックボール』と呼ばれることもある一人用の丸形宇宙船だ。

 俺はプリカと共にポッドの前に立ち、別に保管していたリモコンを使ってハッチを開け閉めしてみせる。

 

 「ほとんど認証もなく簡単な操作で開いたり閉じたり出来る、多分、その気になればこのままどこか別の星に行けるぞ、このまま出発した場合、到着地は惑星ベジータ跡地だろうがな」

 

 「……この大きさでこうせいかんこうこう、それにれいとうすいみんが出来るって思うと、やっぱりすごいな」

 

 「一体何で動いているのやら、ブルーオーラムか?」

 

 「なんだそれ」

 

 銅と同じタンク係数を持つ宇宙の金属……と言っても伝わらないだろう、実際それで動いているのかも知らん。

 銀河パトロールジャコでは宇宙の主要なエネルギー装置がそれで動いているという設定だった……はずだ。

 

 「そういや、お前はスカウターを船内に放置していたな、使う気はなかったのか?」

 

 「もじも分からないのにスカウターをいじってもろくなことにならないだろ」

 

 「スカウターは盗聴の危険性もある、使わないのは正解だった」

 

 と、前置きした上で、俺にはまだ言うべきことがある。

 

 「だから、文字が分かるようになったからと言って、迂闊に触るんじゃないぞ」

 

 「わかる?」

 

 「さっきまで勉強していた文字、あれは宇宙じゃ大々的に通用している文字だ、フリーザ軍も使っている」

 

 「……おまえ、そういうのは先に言え!」

 

 「サプライズというやつだ、ははは」

 

 あれこれ駄弁りながらポッドの中を検分する、久々に異星テクノロジーに触れるプリカの表情は真剣そのもの……鍛錬の時よりも真剣だ。

 プリカもなんだかんだ言って、文字が少し分かるのが嬉しいらしく、内部の文字をなぞっては笑みを浮かべている。

 

 「読める……読めるぞ……!」

 

 「かってにアフレコすんな」

 

 むっとした様子のプリカがこちらを向くのと同時に、船内のあちこちが光り始めた。

 

 「うわっ! な、なんかスイッチ押したか……?」

 

 「いいや?」

 

 その直後、機械音声が小さな船内に響いた。

 

 《プリカ、生年――――フリーザ軍隷下:惑星ベジータ王軍所属兵士、兵種:飛ばし子》

 

 「オ、オレのことか……?」

 

 《肯定する、星の制圧が完了したならば、惑星ベジータへの帰還を……》

 

 「待て、まだ星の制圧は完了していない、それより、コンピューター、現在を地球の太陽暦で750年――月――日とし、おっと、12月刻みで各月の日数は………………としたとき、プリカの生年月日はいつだ」

 

 「おい、ソシルミ……?」

 

 戯れに近い俺の呼びかけに、船はわざとらしくチカチカと点滅し、ビープ音を鳴らす。

 ほんの一秒にも満たない思考時間の後、コンピューターは答えをはじき出した。

 

 《閏日を四年に一度として概算し、737年――月――日、現在満12歳》

 

 「結構、コンピューター、電源オフ」

 

 俺が命じると、ポッドは速やかに電源を落とし、ハッチも眠るように閉まっていった。

 この日付は……。

 

 「……数日後か」

 

 「いや、なんでわざわざあんなこと……」

 

 「聞けたら嬉しいじゃないか、これで誕生祝いだって出来る」

 

 「する意味あるのか……?」

 

 「もちろんあるとも! 師匠に連絡してパーティーを開き、お前の誕生日を祝ってやるッッ!!」

 

 プリカは気恥ずかしい……というよりは困惑した表情で俺を見上げた。

 かくして、プリカの13回目の誕生日、そして恐らくは初めての誕生日パーティーが決定したのである。

 

 

 

 「「「ハッピバースデートゥーユー! ハッピバースデートゥーユー!!」」」

 

 ひたすらに明るく、しかし野太い声の大合唱。

 ハッピバースデートゥーユーはこの世界でも相変わらず誕生日を祝うのに定番の曲だ!

 

 「「「ハッピーバースデー……ディア、プリカ!!」」」

 

 「ハッピィバースディッッ!! 」

 

 「……あ、ありがとう」

 

 10人と少しの会場が異様な熱気と拍手に包まれと、やたらと大きいケーキに突き刺さった無駄に豪華なろうそく13本の火が次々とプリカによって吹き消されていく。

 周りを見渡せば、プリカに師匠、ラパータと先輩数人、それに炊事役のおばちゃん、更にピラフ一味が満面の笑みで祝っていた。

 

 「おめでとうプリカちゃん! ま、あたしゃあんたのことなんも知らないけどね!」

 

 「そ、それはご法度ですよローティさん!」

 

 「硬いぞラパータ!」

 

 師匠がガンガンとラパータの背中を叩く、人体同士がぶつかり合っているとは思えない音だ。

 テーブルの反対側を見れば、プリカが先輩(俺が時折『高弟』と括っていた人達だ)に絡まれている。

 

 「プリカちゃん! 天下一武道会じゃソシルミと大接戦をやらかしたんだってな!!」

 

 「どうだ!」「オレたちと!」「「試合してくれないか!!」」

 

 「オレたちからの誕生祝いだ!」

 

 武器術の達人チャルク先輩に、双子の兄弟ケララ先輩にパタラ先輩が気色の悪いマッスルポーズでプリカに迫る。

 

 「い……いや、オレはいいです、そういうのはソシルミと……」

 

 「もうやって散々な目にあった!」

 

 「見ろ!」「ボロボロだ!」

 

 先輩たちの顔はあざだらけ、全身は擦り傷だらけ。

 当然、やったのは俺である、道場に帰るなり襲われたので仕方ない。

 

 「ソシルミ以外の弟子はみんなこのざまだ、わしは弟子選びに失敗したのかもしれん……!」

 

 「師匠またッッ!!」

 

 「まあまあチャパ、その辺にしとこうじゃないか」

 

 またしても愚弄を始めた師匠と止めにかかる俺の間に挟まり、非常に馴れ馴れしく仲裁に入ったのは、なんとピラフ大王だった。

 

 「しかしだな、ピラフよ……」

 

 「おまえはちょっと部下を急かしすぎるんじゃい、こういうのはもっとだな……」

 

 「また始まった……」

 

 「ピラフさま、結局王様と仲良くなっちゃいましたね」

 

 そういうことなのだ。

 どうにも、師匠とピラフ大王は王者同士何やら気が合ったらしく、ピラフ大王のテクノロジーを軍備や民生に活かすための事業のために日夜走り回っているという。

 

 「ま、これで『あの』心配はなくなったってことでいいだろう」

 

 「これだけまんぞくしてて、ぶちこわしにするようなやつらじゃないか……」

 

 ピッコロ大魔王の復活を防ぐ、俺達、いや、俺が腹案として抱えていたその計画はもはや完全に達成された。

 同時に、俺は腹にどすんと来るような緊張感を覚える……変わってしまった歴史に、自分の手で止めを刺した感触だ。

 プリカも隣で、じわりと冷や汗を流した。

 

 「おい、ところでソシルミ、プリカ、ドラゴンボールの使いみちは決まったのか?」

 

 「ドラゴンボールならプリカにやったんですが、こいつ土壇場で使いたくないって言い出しまして」

 

 「ソシルミは返すと言ってもうけとらないし、悟空に返そうにもどこにいるのかわからないし……」

 

 「……ぐぬぬ」

 

 最後のはピラフ大王が恨めしそうに呻く音だ、まだ未練があるらしい。

 プリカはそんなピラフを見て、思い出したかのように話しかけ始めた

 

 「ピラフ、おまえ、この国でけっこういろいろやってるんだってな、ちょっと聞かせてくれ」

 

 「企業秘密だ!」

 

 「ピラフ、そう言わずに教えてやってくれ、誕生日プレゼントの代わりとでも思ってな」

 

 「チャパが言うなら仕方ない……よし、祝いに聞かせてやろう」

 

 ……ピラフとプリカの話は専門用語が多すぎて俺には理解できない、俺はただのオタクであって技術者じゃないのだ。

 まあ、大半はプリカも理解できていないようだが。

 

 「ソシルミ!」「プリカちゃんにはフられてしまった!」「「久しぶりにやろう!」」

 

 「ま、まだやるんですか!? さっきやられたばっかじゃないですか!!」

 

 「なに、ラパータ、試合と不意打ちは別腹だ」

 

 というか先輩方も俺も、やりたいだけだが。

 俺はわざとらしくゆっくり立ち上がり、先輩達を睥睨する、ついでにラパータの腕を掴む。

 

 「え……」

 

 「お前も来い、久々に揉んでやる」

 

 「あ……ああ~!!」

 

 先輩と一緒にラパータを引きずって修練場へ向かうと、道中でどんどんパーティー未参加の連中が集まり、終いには大行列が出来上がっていた。

 ある先輩は俺を憎み、ある先輩は俺を愛し、後輩たちも同じだった、その全てが、俺を叩き伏せようと目をぎらつかせている。

 

 「これじゃあ誰の誕生祝いだか分からねえが……いい日にゃ祭りが付き物だッッッ!! 全員まとめて来いッッッ!!!」

 

 

 

 いい汗を流した、ついでに血も流したが、流させた血の方が何倍も多いからよしとしておこう。

 ……チャルク先輩が剣を持ち出してくるのは予想外だったがな。

 俺がひとっ風呂まで浴びて帰ってくると、ケーキ含め料理は食らい付くされ……一皿だけ残っていた。

 

 「なんだ、食わんのか」

 

 「……いや、たべる」

 

 残されていたのは、丁度『プリカちゃん誕生日おめでとう』のチョコレートプレートが付いたピース、プリカ本人に与えられた部分だった。

 食欲が無いのかと思えば、料理の方は道場の大食らい共がヒく程食っている、しかし……浮かない顔だ。

 

 「理由を聞いてもいいか?」

 

 「なんだ、おまえにしては気を使うな」

 

 「誕生日会だってのに、当の本人がケーキを食わないんだ、これで気を使わずなんとする」

 

 「……ちょっと、こっちこい」

 

 そう言うとプリカは俺の手を引き、部屋の隅に引っ張っていく。

 隅に付くと、チラチラと辺りを見渡してからひそひそ話のように俺の頭を近づけさせた。

 

 「あのな、たんじょうびって言っても、オレは、ただ産まれて、地球にとばされただけだ」

 

 「愛されてないから、誕生日も意味ない、ってことか」

 

 「そこまでは……いや、そうだな」

 

 プリカは小さく目を伏せた。

 ……確かに、もっともな悩みだ。

 

 「なあプリカ、俺は『アエ』という名字を捨てた……いや、捨てられた、だから今じゃ名乗っていない」

 

 「おまえもすてられたのは同じだって?」

 

 「違う……俺はアエの家に捨てられたが、それでも、範馬とか、別の名字を名乗っちゃいない、ってことだ」

 

 「たしかに……そうだな」

 

 プリカはとりあえず暗い雰囲気を捨ててみせ、興味深げにこちらを覗く。

 

 「……別に転生がなくてもこの俺は捨てられていただろう、異常な才能のある子供だったからな……でも、それでも俺は祝福されて生み出されたんだ、その事実を捨てる気はない」

 

 「おまえはそうかもしれないけど、オレは……」

 

 「飛ばし子だからか?」

 

 「ああ」

 

 「それも違うと思うがな、本来、お前の年じゃ飛ばし子なんてありえないんだ」

 

 プリカは目を丸くした、赤ん坊が送り込まれるんじゃないのか、と言いたげだ。

 

 「本来は言葉をしっかり覚え、侵略行為が可能になってから送る、お前は話を聞くと3歳程度だろう?」

 

 「……まさか」

 

 「おそらくな、お前は悟空……カカロットと同じ、滅びゆく惑星ベジータから逃された子供だ」

 

 間違いなく愛されていた、言外にそう伝えると、プリカは黙りこくって、うつむいた。

 

 「だから、今日はお前が産まれた日だ、俺も、お前が産まれてきた事を祝う、間違いなく俺にとっても、祝うべき日だからな」

 

 「おまえ、自分がなにいってるのかわかってるのか?」

 

 プリカがこころなしか震える声で言う。

 ……笑いをこらえてやがるッッ!!

 

 「いや、すまん……ちょっと、さすがに……!」

 

 「俺がたまに良いこと言ってみればこれか!」

 

 「ぶっ……はははは!」

 

 「笑うな~~~~~~!!」

 

 とは言いつつ、俺も笑い始め……俺達はひとしきり笑って。

 それから席に戻り、プリカはしっかりケーキを平らげた。

 

 「プリカが何か思いつめていたが、それはもういいのか?」

 

 「済みましたよ、ま、こいつも孤児ですから、思う所あるんでしょう」

 

 「本人のめのまえで言うなよ」

 

 「そうか……、プリカ、来年も、再来年もここで誕生日を祝おう、ここはソシルミの家みたいなものだ、だから、おまえの家でもある!」

 

 いやそのりくつはおかしい。

 二人の心が一つになったのを感じたが、師匠の言葉は確かに手放しで賛同したくもある。

 

 「らいねんか……」

 

 「ここがプリカの家かはともかく、俺も、誕生日くらいはちゃんと来ますよ」

 

 「ふふ、いっそ、来年はこちらから出向いてもいいな……まだホイポイカプセルの家に住んどるのか?」

 

 「あまり不満はないので」

 

 「いかんな、放浪なら放浪、定住なら定住、しっかり腰を据えてこそ、鍛錬にも身が入るというものだ」

 

 俺と師匠がそのまましばらく駄弁っていると、プリカが突然、俺の肩を叩いてきた。

 

 「なあ、ドラゴンボール、たんじょういわいってことでさ、使っちゃっていいか?」

 

 「元からやると言っただろう、何を願う気だ?」

 

 「それがな――――」

 

 

 

 神の龍が再び天を衝いて現れる。

 全能なる神龍に対し、願いたいことはいくつもあるが、今の願いはたった一つ。

 

 「にしのみやこに家をくれ! 大きくて、オレたちがなんばいも強くなっても使えるしゅぎょうばと、こうさくせつびとじっけんしせつのととのったごうていだ!!」

 

 「たやすいことだ……」

 

 シェンロンの目が赤く、一瞬だけ輝く。

 

 「願いは叶えてやった……家の鍵を受け取れ、では、さらばだ」

 

 神龍は俺達の目の前に箱を落とした、プリカはそれを拾い……そのままジャンプして四星球を回収する。

 これで悟空への義理は果たせたと言っていいだろう。

 

 「……はこ?」

 

 「中身は……家の鍵と住所、それに権利書だな」

 

 書類をよく見てみれば、不動産税が掛からないよう、特段の配慮までしてくれているらしい……楽な願いへの配慮だろうか、単にサービスがいいのか……。

 一度待たせたというのに、律儀なことだ、ありがたい。

 

 「じゃあまず、この家をたたまないとな」

 

 「向こうには庭があるみたいだし、カプセルにして運べばいいさ」

 

 誕生日を来年も祝う、再来年も祝う、これからも暮らしていくために……プリカは家を願った。

 

 「さあ、行こうじゃないか、我が家に」

 

 全能なる神龍に願うにはあまりに大それた願いかもしれない、だが、俺達が今願うにはもってこいの、切実な願いだ。

 

 「とりあえずの目標は三年後の天下一武道会、悟空も天津飯も、お前も……全員食ってやる」

 

 「負ける気はないぞ、オレもほんきでやる」

 

 「……嬉しいな、これほど嬉しい日はそんなにない」

 

 「なんだ、きゅうに」

 

 プリカは茶化すように笑い、俺はいつものにやけ面を作った。

 

 

→つづく




半月ペースはなんとか維持できました、お久しぶりです。

道場の人々は完全オリジナルです、基本的に容姿イメージもありません。
多分出番もそこまで多いってことはないでしょう、出しただけにする気もありませんが。


さて、これでエイジ749~750年の冒険は終わりです。
次回からはエイジ753年、第23回天下一武道会の年になりますね。
お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは次回まで、ごきげんよう。


2020年10月24日修正、日付計算に不満があったため修正、また、表現を変更。
具体的には、『ポッド移動中に年齢計算するのおかしくない?』ということでちょっとアレンジしていた部分を削除しました。
これにより、プリカは誕生日を迎えた時点で13歳ということになります。
宴会回では『13は行ってる』と言っていましたが、『12歳くらいだろう』と目算されたエイジ749年の出会い8ヶ月経過していたため、多分13歳だし、年齢が分かることも今後ないだろう、という計算です(これは劇中でも元からこんな感じの計算でした)。
どうしてサイヤ人の年齢を目算出来るのか、というと、これは悟空が14歳と名乗っても違和感ない容姿と体格をしていた(14歳ってことに文句を言われなかった)からです。

2021年6月7日修正、言語や文字の種類についての表現を修正。
ストーリーのニュアンスはそこまで変わらないので、大々的には告知せず。
べ、別に設定ミスの露見が恥ずかしいとかじゃないんだからね!
というか厳密にミスというよりは単にドラゴンボールの言語関連の描写や設定がゴニョゴニョ…
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