転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第十九話:転生地球人があの男と再戦するまで

 「それでは両選手、武舞台へ!」

 

 改めて語るまでもないことだが、天下一武道会の予選は100をゆうに上回る数の武道家が4つのブロックごとに2つ、計8つの出場枠を競い戦う一大トーナメントだ。

 俺は自らの出場枠を賭けた戦いの最終盤……つまり、予選決勝戦の武舞台へと上がっていた。

 

 「よろしくお願いします」

 

 「こちらこそ、あ、いえ、よろしく願います!」

 

 若干ぎこちない敬語で俺に挨拶を返すこの対戦相手。

 まず目を惹くのが、俺より頭一つ分はあろうかという巨体、次に、ワンショルダーのレスリングユニフォームに包まれた濃密な筋肉、身だしなみの範疇で剃り込んでいるであろう体毛は、闘争に適した男性的な性質を予感させる。

 

 「へへ、ちょっとアガがっちゃって、……いい試合にしましょう」

 

 「そのつもりだ」

 

 この男、俺の見立てが正しければ、かなりの実力者だ(常人の範囲では、と付け加えなくてはならないが)。

 ……その優秀な武道家が、前回準優勝者とはいえ17の少年を相手にこうもへりくだるのだから、何か並々ならぬ理由を感じさせる。

 

 「はじめっ!!」

 

 「どあっ!!」

 

 「……ふむ」

 

 敵の初撃、大振りのパンチを腕で防ぐ……大した膂力だ。

 しっかり体重が乗ったパンチであるし、なにより、大振りであるにも関わらず、こちらのリーチを冷静に計算して放たれているのが、いい。

 

 「さ、さすが……!」

 

 「いいパンチだ! もっと来いッッ!!」

 

 「お……おす!!」

 

 男は構えを変える、様子見から、敵を格上と認め、巨体が生み出す制空権を最大に活かしながら戦うスタイルへと。

 膂力、リーチ、自らの持つ優位性を活かす戦いを練り上げ、いざとなればすぐにそれを切り替えることすら出来る冷静な戦巧者。

 俺はこの武道家を知らない……が。

 

 「以前、お前と戦ったことがある気がする」

 

 「え?」

 

 この俺も武道家の端くれ、一度戦った敵を忘れることはないのだ。

 

 

 

 

 「おーい、ソシルミ、悟空たちと当たったりしなかっただろうなー!?」

 

 「こっちは無事終わった、お前こそどうだ」

 

 全試合終了後、解散しつつある予選会場の片隅に俺を見つけ、プリカが駆け寄ってきた。

 俺はと言えば、あの後少し気になることがあって、わざわざ控室に行かず、ここに留まっていたのだ。

 

 「またギラン、あとランファンと当たった、すぐ終わったけど……ん?」

 

 「どうした?」

 

 「いや、なんか話してたんだよな、そこのやつと、邪魔だったら先に行ってるけど……」

 

 プリカの言う『そこのやつ』、それは予選決勝で俺と戦っていた、あの男だった。

 

 「いえいえ、わたしはもうそろそろお暇させていただきます、観客席から試合を見させてもらいますよ!」

 

 「そう言うなバクテリアン、どうせ第二試合だし、補給は試合前に済ませてきた」

 

 「バ、バクテリアン!!?」

 

 あんぐりと口を開けてプリカが叫ぶのに対し、当の男、バクテリアンは、朗らかに笑って答えた。

 

 「あ、やっぱ驚きますよね、この間なんか免許の更新に行ったら窓口が止まっちゃって……」

 

 「え、いや、え!? バクテリアン!?」

 

 「二回も聞くことないだろ、こいつはバクテリアンだ」

 

 プリカは目を丸くして、それからしきりに辺りを嗅ぎだし、首を捻った。

 

 「……臭いがしない」

 

 「ほら、俺があの試合の時、『体を洗って真面目に鍛えろ』って言っただろ、今思うと大分失礼なセリフだったけど、真剣にとってくれたみたいで、な?」

 

 バクテリアンが『いやあ、あのセリフでこっちも憑き物が落ちまして』などと言っているのを聞きながら、プリカはまだ驚愕している。

 

 「大分鍛え込んで、体も洗ってるもんだから、俺でも一瞬分からなかったんだ」

 

 「一瞬って、結局わたしがあの、なんかよく分からない技で投げ飛ばされて負けた後じゃないですか、気付いたの」

 

 「合気の技だ、持ち味を活かすのはいいが、もっと欲張って技術を学ぶのも大事だぞ」

 

 「参考にします!」

 

 バクテリアンはそのまま、2、3個のアドバイスを俺に求めた後、観客席の方へと歩いていった。

 俺はその後ろ姿に、『ちゃんと歯医者に行けよ! 今からでも遅くないからな!!』とお節介をぶつけ……プリカがようやく人心地ついたのは、バクテリアンはが完全に姿を消し、会場の人がまばらになる頃だった。

 

 「バクテリアンが……」

 

 「元から怪力でならした武道家だからな、これからしっかり鍛え直せばもっと伸びるだろう、案外、次の武道会では本戦にも来るかもしれん」

 

 「それはないと思う」

 

 ……まあ、そうかもしれんが、夢を見るのは自由だろう。

 そう言い返そうかと思ってプリカを見ると、何やら、顔をほころばせてこちらを見ている。

 

 「なんだ?」

 

 「いやあ、楽しそうだなって、おまえはずっと、工夫して戦うやつが好きで、強くなろうとするやつも好きだから、バクテリアンが強くなったのはめちゃくちゃ嬉しいんだろ?」

 

 「嬉しいとも、もしかしたら元の歴史じゃ起こらなかったかもしれないと思えば、特にな」

 

 「そっか」

 

 プリカも何やら機嫌が良さそうだが、まさか、気難しい同居人が上機嫌だから安心、とか考えているわけではないだろうな。

 ……俺がプリカにどう見られているのかはともかく、そろそろ控室に行かなくては、そう考えていると、数十メートル先からでもはっきり聞こえる、やけに通る大声が俺を呼んだ。

 

 「よーうっ!! ミソシルー!!」

 

 ……間違った名ではあるが。

 声の方向を見れば、惑星ポポルのカエルの糞の色……もとい、山吹色の道着が3つ、駆け寄ってきている。

 

 「おう、悟空、それにクリリンとヤムチャ、お前達もしっかり予選を通ったのか」

 

 「オレは悟空と同じブロックでヒヤヒヤしたぜ……」

 

 「案外見る目のあるのが裏にいて、いい選手が潰しあわんように組み合わせを操ってるのかもしれんな」

 

 「ブロックごとの選手数がまちまちだから正確には計算しにくいけど、……えっと、完全に偶然で被らない確率は、今回なら2%弱くらい……、いや、もしかしたら0.24%ちょいか?」

 

 「プ、プリカちゃ……さんって、こんなに頭のいい子だったんだ……」

 

 数学的な話を始めたプリカを前にクリリンがおびえている。

 そう言えば、こいつらはまだたどたどしい言葉遣いしか出来ない頃のプリカとしか会っていないのか。

 

 「元からこれくらいはできた、あんまり人と会わないから、言葉を忘れてただけだ」

 

 「口が動かんせいで付いたぶっきらぼうな喋り方と突っ込みは後遺症として残ったがな」

 

 「うるさい」

 

 ほら早速出た!

 

 「やめろ蹴るな! 人前だぞ!」

 

 俺がしばらくプリカにじゃれつかれていると、見かねたのか、ヤムチャが助け舟?を出してくれた。

 

 「そ、そういや、なんで今まで会わなかったんだんだろうな、オレたちもけっこう長い間、門の前にいたんだけど」

 

 「ハァ……ハァ……自家用機で島に来ていち早く会場入りしたからな、補給も済ませておきたかった」

 

 「そりゃ、あんなに食うんだもんなあ……」

 

 「しかしソシルミ、食うと言えば、おまえ一段とデカくなったな、もう抜かされちまったか?」

 

 「僅かに俺が上だろう、身長にさほど意味はないが」

 

 ヤムチャが俺の背に感心する一方、クリリンとプリカは伸びなかった身長に歯噛みしているが、悟空はあっけらかんとした様子だ。

 小さく強いファイターで居ることに慣れているのか、どうにもならないことを気にしないだけか。

 何にせよ悟空が正しい、力も技も際限なく鍛えられるこの世界において、体格などいち要素に過ぎないのだ。

 

 「……全員、大分腕を上げているな、見ただけでも鍛え込んだのが分かる」

 

 「ヘヘ、今度は負けないぞ!」

 

 「オレだって次こそは二回戦に……!」

 

 「オレも、今度は本気だ」

 

 「今度こそオラが優勝しちゃうもんねー!」

 

 「残念だがそれは叶わん!」

 

 はっきりと宣言する大声!

 そこに居たのは、見知った三つ目、そしてキョンシー。

 

 「久しぶりだな、天津飯、それにチャオズ」

 

 「きさま……ぬけぬけと、ソシルミ!!」

 

 「なんか用か?」

 

 天津飯はえらい剣幕だ。

 ……いや、師である鶴仙人を謀り、自らと相棒であるチャオズをぶちのめしたのだ、怒るのは当然か。

 

 「……きさま! くそ、この大会への参加はあくまで亀仙流の打倒が目的だが、オレはきさまを許さん!」

 

 「ボクもだ!!」

 

 「上で話は付いたというのに、随分義理堅いことだ」

 

 「なんとでも言うがいい、決勝で待っているんだな!!」

 

 それだけ言い残して、天津飯は控室へと消えてゆく。

 しかし、決勝で、とは……自分で不正を自白しているようなものではないか?

 ……普通に聞けばただの捨て台詞にしか聞こえないか。

 

 「ソシルミ、おめえあいつらに何かしたんか?」

 

 「お前を殺してやるって言ってレッドリボン軍を騙したことがあっただろ、あの時一緒に騙した殺し屋が奴らなんだ」

 

 「あ、あんなおっかない殺し屋たちをだましたのか……」

 

 「前から思ってたけど、おまえたちって結構いい度胸してるんだな……!」

 

 クリリンとヤムチャがドン引きし、プリカは『巻き込むなよ……』とばかりにこちらを睨む。

 悟空はよく分からないまま楽しげだ、俺も笑っておく。

 

 「わはははは!」

 

 「はっはっはーっ!」

 

 「はぁ……」

 

 ため息は言うまでもなくプリカのものだ。

 さて、俺達も向かおう、もし予選でジャッキー・チュンが天津飯達に出会って未来を託していたりしない限り、俺にも再戦の機会が与えられるのだ。

 ……今度こそは全力で挑み、そして勝つ!

 

 

 

 武舞台に二人の男が上がる、一人は小柄で、一人は大柄。

 一人は不自然なまでに白く、もう一人は黒い。

 

 「さあ! 天下一武道会、第1試合は、チャオズ選手対、チャパ王選手です!!」

 

 どうしてこうなった。

 

 「チャパ王選手は前々回である第20回とその前、第19回の優勝者で、今大会では8年ぶりの出場となりますが……」

 

 「まだ衰える歳ではない、8年間鍛え上げたわたしの新しい戦いぶりをここにいるみなに見てもらうつもりだ」

 

 残り一つの枠を抑えたのは、なんとジャッキー・チュンこと亀仙人ではなく、我が師匠だった。

 

 「頼もしいお言葉、ありがとうございます! それではチャオズ選手――――」

 

 「――――おまえ、ソシルミの師匠なんだって?」

 

 「その通りだ」

 

 「ソシルミ! 今からおまえの師匠をぎったんぎったんにしてやる! 見てろ!!」

 

 チャオズは凄まじい剣幕で、屋根の上でプリカと座る俺に向けて叫ぶ(前回のように塀の上に座ろうとしたら叱られた)。

 親子で罪を共有することはありえないが、弟子の罪を師匠に、というなら筋違いでもないのかもしれない。

 ……師匠が負けると決まったわけではないが、天下一武道会はルール的に武舞台上の過剰攻撃を防ぐことができないのだ。

 

 「そ、ソシルミ選手と何やらただならぬ因縁がおありのご様子ですね……ありがとうございました」

 

 何やら危ない臭いを嗅ぎ取ったアナウンサーがインタビューを急いで切り上げ、こちらを見る。

 サングラス越しで視線は読み取れないが、どことなく問題児を見る目のような……。

 

 「赤勝て白勝て、とはいかないか」

 

 「俺は試合結果を見守るだけだ、師匠に勝って欲しい気持ちはあるがな」

 

 試合より、なぜ師匠がやってきたのかが気になる。

 俺が優勝できなかったから不甲斐なく感じた……なんてことも、今更ないだろう。

 なにかの戦力になりたかった?

 それはなおのこと『今更』だ。

 

 「それでは第1試合……はじめっ!!」

 

 俺が思案する間に、小太鼓と銅鑼が鳴り響き、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 「むっ!?」

 

 先に動いたのはチャオズ――――その手段は、舞空術を用いたホバリングでの高速接近。

 はっきり言えば、武道家という人種に対してこれほど有効な技術はない、武道家が頼みにするフットワークも呼吸もなく、敵への攻撃を開始できるからだ。

 

 「むん!!」

 

 「……!」

 

 が、その不意の筈である一撃を前に、師匠は一歩下がり、タイミングを合わせてのパリングで弾き飛ばした。

 俺は師匠にあの技を教えたことはないのだが……、攻撃の『意』を見抜きさえすれば、既存概念にはない技ですら見切ることが可能なのだろうか。

 

 「チャオズ選手、不思議なステップです! 一気に踏み込んでチャパ王選手を攻めるーっ! おーっと!! チャパ王選手も負けじと攻撃を弾いたーっ!」

 

 「あれ、おまえとの戦いと同じ技か」

 

 「身体、気力、練度、どれを取ってもレベルが違う、俺への恨みか、元からか、大分鍛え込んできたな」

 

 師匠はチャオズの苛烈な攻撃を捌き続ける。

 チャオズに肉弾戦イメージはないが、それでも、鶴仙人の直弟子に対し、五分五分……いや、それ以上の戦いをしてみせるとは。

 

 「ふふ、きさまも3年前、ソシルミと一戦やらかしたと聞いたが、どうやら同じ『負け組』でも、おまえとわたしでは随分差があったようだな」

 

 「こ、この……本気で行くぞ!!」

 

 「あ、ああ~!! なんとチャオズ選手、浮きました! 浮き上がりましたっ!!」

 

 前代未聞の大技を前に、俺達含む数人を除き、全会場が沸騰する!

 ――――しかし。

 

 「浮いたからなんだというのだ、逃げてみせるか? それとも、足で手を攻めるなら勝ち目があるとでも?」

 

 「この!!」

 

 師匠は一切動じない、チャオズの四肢をフル活用した攻め手を前に一歩も引かず……。

 

 「ほいっ」

 

 「え、あ――――げぶっ!!?」

 

 チャオズからは師匠が突如消え、次の瞬間には打撃を叩き込まれた……と感じるであろう、その一撃を持って、その応酬は終わった。

 

 「さ……逆立ちです! チャパ王選手、一気に体を伏せ、逆立ちの勢いでチャオズ選手を蹴り飛ばしましたー! チャオズ選手、空中で踏みとどまる!」

 

 「く、くぅ……」

 

 うまい。

 重力と体捌きによる体勢の変化を利用して、一方的に空中戦を仕掛けられると思っている敵の精神的優位に漬け込んだのだ。

 チャオズはダメージを残したままよろよろと上空へと上がってゆく。

 

 「これでは互いに攻撃が出来ない、手詰まりだな」

 

 「ボクはできる!」

 

 わざとらしくかぶりを振ってみせた師匠の挑発に乗る形で、チャオズはどどん波へと移行……この流れは。

 

 「おまえの試合と、同じ流れだ」

 

 「まさか、そんな……」

 

 チャオズは次々とどどん波を放つが、師匠には全く命中しない。

 チャオズのどどん波はあの頃より静かで、それでいて早く、速く放てるようになったようだが、それでも、達人相手に命中を狙うには……。

 

 「……そろそろチャオズが疲れてきたな、じゃあ、次は超能力か?」

 

 プリカが小さく呟く。

 その予言に従うように、チャオズはゆっくりと降下し……。

 

 「はっ!」

 

 「……今、何かしたのか?」

 

 「え――――」

 

 超能力のために突き出した腕を捕まれ、武舞台へと真っ逆さまに叩きつけられた。

 

 「不発……?」

 

 「恐らく、師匠はヨガで内臓の動きを操作、あるいは痛覚と痛覚への反応を制御し、超能力を無力化したんだ」

 

 「おまえはあの時そんなことしなかったよな?」

 

 「できなかったんだ、俺は天才とはいえ、当時14の若造……格闘技術はともかくヨガには限りがある」

 

 「……エイト……ナイン……テン!!」

 

 ……俺達が評している間に、アナウンサーのテンカウントが終わり、チャオズの一回戦敗退が確定した。

 観客達は、序盤戦の盛り上がりを裏切るあっけなくかつ意味不明な終焉にブーイングを飛ばす者が半分、師匠の鮮烈な復活に興奮し歓声を送るものが半分。

 俺は……。

 

 「なんだったんだ、今のは……」

 

 「見たまんまだろ、元の歴史とほとんど同じ流れで、対戦相手がクリリンじゃなくてチャパ王だっただけだ」

 

 「いや、……そんな、まさか」

 

 まさか、3年もあって、進歩したのは技術力と身体能力、気力だけ、なんてことが……。

 

 「チャオズが何年経っても全然変わらないのは元からだろ、おまえの師匠が、一枚上手だったってことでいいじゃないか、そういうの好きだろ?」

 

 「そうかもしれん、だが……」

 

 だが、の後に続けられない理由は、プリカが正しいことを言っているからだ。

 変わらない歴史だってある、バクテリアンが変わったのだって、ほとんど偶然じゃないか、と。

 違う、俺が言いたいのは、そうではない。

 言葉に詰まって、ほんの数秒か数十秒、黙り込んでいると、プリカが俺の肩を叩いた。

 

 「おい、ソシルミ、師匠がお呼びだぞ」

 

 屋根の下を見ると、武舞台から戻ってきた師匠が俺を手招きしている。

 どちらにしろ次は俺の試合だ、……降りなければ。

 

 

 

 控室の片隅、指でボトルキャップをねじ切って、瓶を手渡す。

 

 「はい、コーラ、炭酸入りです」

 

 「入りって……、相変わらず炭酸抜きコーラなんて飲んどるのか」

 

 「栄養効率が極めて良いですからね」

 

 「……ロボットのお抱えコックが居るのだから、好きな栄養素を組み合わせたドリンクくらい作れるだろうに」

 

 師匠が呆れたように言うが、仕方ない、この炭酸抜きコーラが俺のゲン担ぎであり、出陣式なのだから。

 この世界でしっかりしたスポーツドリンクが売り出されるようになっても、俺は炭酸抜きコーラだ。

 

 「それで、何の用です、どっちもですよ? なぜ今更武道会にやってきたのか、私を呼び出したのか」

 

 「まずは今おまえと話す理由だな、……おまえは、あの試合をどう思った?」

 

 「彼は3年前も私を相手に『あの試合』をやりました、私のヨガが未熟で、別の手段であの腹痛の超能力を克服したこと、実力差が彼に傾いていたこと以外はほぼ同じです」

 

 「それか、その無様な顔のワケは」

 

 「そんなに、ひどい顔をしていますか」

 

 ……バクテリアンの再起で盛り上がった気分が全部吹っ飛んだのは確かだ。

 師匠の上達を喜ぶ気力すら、半ば奪われてしまった。

 確かに、俺はひどい顔をしているのだろう。

 

 「やつは技術と体力以外まともに進歩していなかった、だからおまえと同じ流れで、わたしにも負けた……それがおまえは、気に入らなかったのか」

 

 「……流石、師匠」

 

 自らの成長と、新たな技術の発見によって、目まぐるしく変わっていく『武道』に追いすがり、追い越すことが、武道家の使命であり、本懐。

 俺はいつからかそう思うようになっていたし、他人にそれを期待するようにも、なっていた。

 

 「昔はそれほど人の成長に期待する男でもなかったのになあ……」

 

 「人は変わるものです」

 

 「だとすれば、強欲になったものだ、……悪く言っているんじゃないぞ?」

 

 「でも、さっきのは勝手な期待でした」

 

 一度負けたから強くなる、自分にそれを誓うのは人の勝手だし、尊いものだと思う。

 だが、負かした相手がそれで強くなってくれることを期待するなど……。

 

 「はっはっは、おまえもまだそんな殊勝なことが言えたとはなあ!」

 

 「笑いごとですか、弟子が落ち込んでいるのだから、慰めるなり、ひっぱたくなりしたらどうです」

 

 「そんなタマか」

 

 「あいつには言ってもらえましたよ、繊細だってね」

 

 師匠はまた大爆笑した。

 

 「……ふぅ」

 

 「それで、笑いに来たんなら、そろそろ試合なんでお暇させて頂きます、……その爆笑っぷり、少しは気休めになりました」

 

 「ソシルミ、待て」

 

 俺が立ち去ろうとすると、師匠はそれを引き止め、肩を掴んだ。

 3年前の宴で触ったのより太い腕、3年前と8ヶ月に交わした拳よりごつい手だった。

 

 「慰めるのもひっぱたくのも、ちゃんとやってやる、それをやりにきたんだ、だから、次の試合、必ず勝ってこい」

 

 オレのリベンジが残っているというのに、先に負けるのは許さん。

 師匠はそう言って、俺の肩を優しく押した。

 第二試合は、俺の試合だ。

 

 

 

 

 俺と対戦相手が武舞台へと上がると、あちこちから歓声が上がる。

 単に試合に期待して興奮しているわけではない、それには、理由があった。

 

 「いよいよ始まります、第二試合は、なんと前武道会第一試合のリベンジマッチ!! ……ソシルミ選手対クリリン選手です!!!」

 

 そう、第二試合は、俺とクリリンの試合だった。

 

 「今度は負けないぞ!」

 

 クリリンの強い意気が心地いい。

 

 「今度も楽しい試合にしようじゃないか」

 

 かくして、かつての約束通り、再戦は叶ったのであった。

 

 

→つづく




お久しぶり……でもないですね、投稿速度が異様に早まっています、桐山です。
そろそろ限界かも。

ということで、始まりました、第22回天下一武道会!
ひっそりと登場機会そのものが消滅した男狼さんは画面外でこれまたひっそりと亀仙人に救済されていたりします、まあ流石に裂ける尺もなかったので、ここで。
本人的には数日~数年後に戻ってくる月さえあれば満足なので、別に放っておいてもよいのですが。

さて、次回は第2試合、ソシルミVSクリリンです。
チャオズの見せた変化のない3年を前に沈み込んだソシルミの前に、この世界における『技巧派』の代名詞とも言える男が立ちはだかります。
果たして、彼等は一体どのような戦いを繰り広げるのでしょうか、そして、その戦いは一体どのような結末を迎えるのでしょうか。
お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは次回まで、ごきげんよう。
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