転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第二十話:転生地球人が現地最強地球人(候補)と再戦するまで

 武舞台の中央で向かい合うクリリンと俺、観客達の歓声、そして、亀仙流の仲間達の声援が俺達を包む。

 観客席には様々な人種が居た、人間、獣人、それと、種族名も分からないような連中(前世の設定本ではモンスター型とか呼ばれるやつだ)、その誰もが、俺達の戦いに注目していた。

 

 「頑張れよー! ちゃんと見ててやるからなー!」

 

 「どっちも頑張りなさーい!」

 

 「クリリーン! それとソシルミー! 頑張るんじゃぞー!!」

 

 ……亀仙人、もといジャッキー・チュンには、観戦より大会に出て欲しかったんだが。

 それと、プリカ、何も言わずにニコニコしてるんじゃない、応援はどうしたんだ。

 

 「ソシルミ選手、クリリン選手ともに現在17歳! 前回大会より3年、成長期のお二人はあの頃よりだいぶ、大きくなられましたね」

 

 「オレはソシルミに比べりゃ全然だけどな……もうちょいリーチが欲しかったぜ」

 

 「このレベルの戦いにおいて肉体的な大きさは一要素にすぎん、図体がでかくて得するばかりでもないしな」

 

 「なるほど、どちらも武道家らしいご意見です、……お二人が戦うのは3年ぶりということになりますが、何か意気込みなどは?」

 

 クリリンが少し悩む姿勢を見せる中、先に口を開いたのは俺だった。

 

 「あの日、クリリン選手を打倒した時、俺は大きな喜びを感じた、最高のごちそうを喰らい尽くして、満腹だった……そのごちそうがあの日より豪勢さを増して、趣向を凝らして今ここにある、これは最高以上の喜びと言っていいだろう」

 

 「あ、ありがとうございます、ソシルミ選手」

 

 「オ、オレも負けないぞ! 今度こそ二回戦に行くんだ!!」

 

 わざと脅すように語る俺に対し、クリリンは一歩も引かず啖呵を切った。

 その頬は僅かに釣り上がり……引きつっているのではない、笑みを浮かべている。

 

 「いい試合にしよう、クリリン、……こうして一回戦でもう一度当たれるなんて、望外の幸運だ……よろしくお願いします」

 

 「そ、そうだな? あ、よ、よろしく」

 

 一礼を終えた俺は、観客席で行儀よく試合を観戦する天津飯達、鶴仙流三人組を見やる。

 天津飯は俺のわざとらしい軽口に歯噛みし、亀仙人は我が意を得たりとばかり、対戦相手であるクリリンは、困惑しっぱなしだ。

 

 「それでは、試合を開始させていただきます……はじめっ!!」

 

 アナウンサーの掛け声で銅鑼が轟き、俺達は一斉に駆け出す。

 

 「覇ッッ!!!」

 

 「たっ!!」

 

 初撃は、俺の放つ引き絞ったストレートのパンチ、クリリンはそれを両腕ガードで受け切るが、高すぎる威力、そして慣れないであろう高高度の一撃を前に衝撃を流しきれず、一歩下がる。

 

 「おーっと! ソシルミ選手、始めから凄まじい一撃です! しかしクリリン選手、これをうまくガードしました!」

 

 「さ、さすがソシルミ、一発で効く……!」

 

 「カマトトぶる気ならそのままぶっ飛ばしてやろうかッ!」

 

 脅し、挑発、というよりは、誘いをかけると、クリリンはニヤリと笑って、下がったままの体勢から引き絞ったストレートを放つ。

 今度は反対の構図!

 

 「だあーっ!!」

 

 「――――ッッッ!!!」

 

 俺はその一撃を片腕で受け、もう片腕でバランスを取り、右足をクリリンへと叩き込む……瞬間、クリリンは太陽を背にしながら飛び上がり、武舞台の端へと着地した。

 

 「あの頃のようにはいかんか」

 

 「当然だ!」

 

 言っておくが、俺は本気でやっている。

 『純粋な素手での本気』であるが、掛け値なしの全力だ、それで、ここまで迫られているのであれば……。

 

 「これで、3年で鍛えたかめはめ波もあるとなれば、厳しいかもな」

 

 「おまえこそ、あの技、まだ使ってないだろ」

 

 「あの技ってのはこれか?」

 

 「出ました!! 前武道会で見せた、プリカ選手のビームを弾いた技です! まばゆく光る手! これを前にはかめはめ波もかたなしかーっ!?」

 

 実戦と鍛錬の結果、完全に使いこなせるようになった『輝く手』の必殺技。

 俺にとっては既に日常で、クリリンにとっては驚異の技であり、脅威の技であろうそれは、エネルギー攻撃に対する有効な防御手段であり、打撃技の威力を飛躍的に高める手段でもあった。

 そんな技をわざわざ誘うのは、『気に入らないタイミングで出ては困る』と言った単純な理由か、それとも……。

 

 「じゃ、オレもいくぞっ!」

 

 「応ッッ!!」

 

 その瞬間、クリリンは手を揃えて後ろへやり、光を放ち始める。

 かめはめ波の構え、だが、避けられる状況にないとはいえ、無策でかめはめ波を放てば――――

 

 「か……め……は……め……波!!!」

 

 「フンッッ!!」

 

 「クリリン選手、かめはめ波……ソシルミ選手も回し受けで防ぐーっ!!」

 

 ――――何一つ俺にダメージを与えず、かめはめ波は消し去られる。

 だが、俺がかめはめ波を消し去り、再びクリリンを見た時……クリリンはそこにはいない!

 

 「シッッッ!!!」

 

 カンに従って裏拳を放つと、風圧だけが標的に当たる感触。

 

 「くっ……!」

 

 「ツアッッ!!!」

 

 回避体勢のままのクリリンに、追ってミドルキックを放つ。

 クリリンは添えて防御にするも……足は手を巻き込んで腹に入り、クリリンの体をふっ飛ばした。

 

 「あなたのかめはめ波を目眩ましにするとは、なんとも贅沢な戦術ですな」

 

 「技は技じゃ」

 

 「ごもっとも」

 

 「クリリン選手、空中で体勢を立て直し、なんとか場外は免れました!!」

 

 師匠は亀仙人と並んで何やら戦術談義を繰り広げている、一方で、クリリンはダメージを残しつつも、闘志を新たにこちらを睨む。

 

 「もう一度だっ!」

 

 「受けて立とうッッッ!!!!」

 

 クリリンはかめはめ波の構えを取る……今度は飛び上がりながら。

 

 「わざわざ不安定な空中に上がるとはなッッ!!」

 

 「波ーっ!!!」

 

 俺は手の輝きを強め、かめはめ波を防ぐ……今度は本気の威力!!

 

 「ッッッ!!!!」

 

 「再びのかめはめ波です! さっきよりも強い!! ソシルミ選手、力をこめて防ぎます!!」

 

 観客を気にかけない全力のかめはめ波!!

 いい!

 クリリンの本気の威力、意思、それを前に俺は一瞬、防御に意識を奪われ――――

 

 「はっ……!」

 

 「クリリン選手、手に力を貯めていきます……あ、あれはプリカ選手の技です! ビームを両手に!」

 

 「何ッ!?」

 

 かめはめ波を終え、落下するクリリン、両手には『気弾』!

 

 「とうっ……たあーっ!!」

 

 「む………!!」

 

 そのまま放たれる気弾を『輝く手』の防御で到達前に爆散させる……が、爆散の衝撃と、それに耐えるための強張りの一瞬は――――

 

 「――――きえええーいっ!!」

 

 「グッ……!!」

 

 「す、すげえ! クリリンが一撃入れたぞ!!」

 

 一瞬の硬直を利用した全力の飛び蹴りが俺の腹に突き刺さり……俺は腹部へのダメージと共に、小さくたたらを踏む。

 エネルギー攻撃を防御するのに否応なく発生する一瞬の隙、それに漬け込むため、あえて必殺のかめはめ波までも囮に使い、気弾を貯めながら接近するために必要な集中力の問題を、落下しながらの攻撃によって迂回したのだ。

 

 「素晴らしい……!!」

 

 「そ……それで済まされちゃ、困るんだけど……」

 

 クリリンは息を荒くしながら、非難するというよりも、愚痴を言うようにつぶやく。

 確かに、格上の相手に必死で一撃を加えたというのに、相手が痛がるだけじゃ、愚痴も言いたくなるだろう……が。

 

 「済まないようにしてくれるんだろ?」

 

 「当然だ!!」

 

 ――――3年前、第21回天下一武道会で俺が打倒した二人の選手には、共通点があった。

 それは、最大威力のエネルギー波を決め技として放ち、俺に防がれ、抵抗するもそのまま殴り飛ばされた、という単純な構図だ。

 無論、クリリンもプリカも、その時できる全力の戦術で俺にあたったのであり、攻撃が成功してさえすれば、俺も危なかったのだが……クリリンは今回、その構図を打破することに、3年の月日を費やしたのだろう。

 その成果は、今この武舞台の上に、表れつつあった。

 

 「ハァ……ハァ……」

 

 「ど、どうだ!」

 

 「クリリン選手怒涛の攻撃! プリカ選手の技を完全に使いこなし、華麗なコンビネーションでソシルミ選手を追い詰めます!!」

 

 クリリンの攻撃は単なる気弾と格闘の連続攻撃から、波状攻撃、同時攻撃へと形を変え、次々と俺の防御を貫いていく。

 威力こそ低いものの、このまま戦い続ければ……。

 

 「お、おお! クリリンのやつ、これはいけるんじゃないか!?」

 

 ヤムチャの言う通り、俺は斃れるだろう……が。

 

 「さあクリリン、もっと打ち込んでこい、この攻撃が止まった時がお前の最後だってことは、もう気付いてるんだろう?」

 

 「……言われなくたってやめるもんか!」

 

 「クリリーン! このままだとおまえもへたばっちまうぞー!」

 

 悟空が叫ぶ、その言葉もまた真実。

 このままのペースで攻撃を重ねたならばクリリンが俺を仕留めるより早く、クリリンの体力が尽きる。

 そうなれば、この華麗かつ苛烈なコンビネーションは、格上に無理攻めを仕掛けてスタミナ負けしただけ、という結果に終わるだろう。

 

 「…………そろそろだな」

 

 「ヘヘ、まあな!」

 

 俺も、クリリンも、それを理解しているし、互いが理解していることもまた、理解している。

 特にクリリンは3年の間、このひと時を予想し続けてきたはずだ。

 俺も、奴も、やることはたった二つ。

 

 「――――ッッッッ!!!!」

 

 「…………!!!」

 

 俺は奴が出す最後の奥の手を退け、俺の奥の手を叩き込む。

 奴は俺が出す奥の手を退け、奥の手を叩き込む。

 その二つだ。

 

 「たあーっ!! ……とりゃあーっ!!!」

 

 「~~~~ッッ!!」

 

 「クリリン選手、次々とビームを放ちます、ソシルミ選手動けない!!」

 

 これまでの『全力』を超える気弾のつるべ撃ちを前に止まる動き、爆炎の向こうのクリリンを見据えるが……やはり、そこにはいない!

 

 「上かッッ!!」

 

 「かー! めー! はー! めーっ!!」

 

 今日三度目、渾身のかめはめ波!!

 だが、かめはめ波はクリリンにとって『俺とクリリンの時間を交換する技』に過ぎない。

 それを目眩ましにする作戦すら、時代遅れの品だ、一体、それをどうやって……。

 

 「波ーっ!!」

 

 「フンッッ!!」

 

 拮抗するかめはめ波と輝く手、3度目となれば最早互いに慣れたもの、この競り合いは俺の有利に働く。

 一方、クリリンは更に気力(文字通りの意味でもだ)を消費し、額に汗が滲んでいる。

 ならば一体、この後どうする?

 そう思った瞬間、クリリンの目が決意の色へと変わった。

 

 「――――はぁーっ!!!」

 

 「ク、クリリン選手、かめはめ波を放つ手を二つに分け、ソシルミ選手に向けて加速していきます!!」

 

 「ッッ!!」

 

 そうきたかッッ!!

 クリリンのプランは、『俺を抑え込むかめはめ波』をそのままに俺に接近すること……だが!

 

 「一手足りんッッ!!」

 

 かめはめ波の終わり際に重ね、俺は一気にその場から飛び退く。

 膠着状態が終わればその場から去る事ができるのは必然、それを拘束する手がないのであれば――――

 

 「くらえっ!!」

 

 「エネルギー弾ではなあッッッ!!!」

 

 クリリンが再び放つ二つの気弾!

 だが、ここまでは予想通り、輝いたままの手が気弾へと向かう。

 

 「ふんっ!!」

 

 「なッッッ!?」

 

 「曲がったーっ! 技が曲がりました、ソシルミ選手を挟むように曲がります!!」

 

 曲がる気弾!!

 次の武道会で出るはずの技が、まさか今ここで出るとは!

 

 「たあーっ!!」

 

 「行けーっ! クリリン!!」

 

 次いで突入するクリリン、攻撃タイミングはほぼ同時!

 時代劇やバトルものではお馴染みの投擲武器と本人の同時攻撃だが、効果は絶大!

 どちらを回避し損ねても、俺の場外は必至ッッ!!

 

 「そうか、ソシルミの防御は気弾の爆発を防げても、その衝撃までは防げない!」

 

 プリカが叫ぶ。

 その叫びは真実だ……が。

 

 「今度は俺が見せる番だ」

 

 俺は腕を振りかぶり、その輝きを高め――――

 

 「()ェェェッッッ!!!」

 

 「なっ……」

 

 ――――腕は二つの気弾を巻き込んで爆裂し、『留まることなく』そのまま振り抜かれた。

 これが俺の3年間、その一つ!

 纏わせた『力』を攻防のための硬化ではなく、爆発力へと変化させる、より攻撃的かつ防御にも優れた新たなる技術!

 

 「こっちが爆発しちゃいけない道理もあるまいッッ!!」

 

 「……くっ!!」

 

 結果的に、クリリンは無防備のまま俺の前に現れる。

 相対するのは、万全の状態の俺であった。

 

 

 

 「場外!! クリリン選手場外! 第2試合はソシルミ選手の勝利です!! 激戦の末、再挑戦を振り切り、二回戦への進出を果たしましたーっ!!」

 

 その後は、あっけないものだった。

 武舞台の外へ叩き落されたクリリンに最早なすすべはなく、地面にめり込み、あえなく場外。

 試合は俺の勝利という結果に終わった。

 

 「イテテ……、また負けちゃったな……」

 

 「何度もヒヤっとさせられた、特に、最後の曲がるエネルギー弾はタイミング含め、完璧だった」

 

 「よせやい、おまえ、まだなんか隠してただろ」

 

 「全力で戦い、最も効果的な技を出した、それだけだ」

 

 俺は倒れたクリリンに手を差し伸べる。

 クリリンはそれを掴み、言い放った。

 

 「次こそは勝つ!」

 

 「次も俺が勝つ」

 

 クリリンは不敵な笑みで、俺はいつものニヤついて笑みで笑っていた。

 どこまで逃げようと追い上げてくる挑戦者がいる喜び、そして、ある強敵を追い続け、挑戦し続ける喜び。

 立場は違えど、同じ喜びがそこにあると、俺は感じた。

 

 「次の試合は師匠なんだろ? ちゃんと休んで……絶対勝てよ」

 

 「当然、師匠の再挑戦も、しっかり阻んでみせるさ」

 

 俺達は武舞台を通って控室に向かう、その途中で別れた。

 俺はコーラを開け、屋根に飛び乗る。

 

 「炭酸入りか、珍しいな」

 

 「飲むか?」

 

 「いいよ、次はオレの試合だからな、腹が膨れたらまずい」

 

 俺が一息にコーラを飲み干すと、プリカはその俺を見て、何やらニコニコとしている。

 試合前に見たのと同じ笑みだ。

 

 「なんだ、俺が厄介なことを言い出さないのがそんなに嬉しいか?」

 

 「……クリリンが強くなっててよかったな」

 

 「ああ、クリリンの成長と、試合形式の恐ろしさを感じた」

 

 なにせ、斃れずとも押し出されるだけで負けてしまうのだ。

 戦闘の規模に対してあまりにも武舞台が小さい……押し出しを恐れ、気を使いながら戦えば、今度は敵に足元を掬われる。

 

 「最後の曲がる気弾、本気でビビってたろ」

 

 「ああいう技があるということは既に知っていた、だからこそ、防げたのかもしれん」

 

 戦いに事前知識によるアドバンテージの差はつきものだが、入手法が入手法だけあって、素直に『違うのは当然だ』と受け止めるのは難しい。

 そんな俺の苦悩を知ってか知らずか、プリカは反論してみせた。

 

 「どうだろう、おまえの反射神経とカンなら、知らなくても……」

 

 「かもな、それに、前提知識があるのだって、俺の能力と言えば、俺の能力だ……ま、どちらにしろ、いい試合だった」

 

 それは間違いないな、と、プリカも首を縦に振った。

 

 「次の試合はオレと……悟空だ」

 

 「一回戦じゃ最高のカードだ、それに、本気でどちらの勝ちも願わずに済む」

 

 俺がそう言うと、プリカは少しむっとした。

 

 「ちょっとくらい応援しろ、赤勝て白勝てじゃないぞ」

 

 「俺は決勝で強い方とやりたいんだ、応援して何が変わる、それに、お前だって俺を応援しなかっただろう」

 

 「……アレは、おまえが勝つと思ってたからだ」

 

 「当然、俺も勝つ気でいたが……分かった、お前を応援してやる、それでいいな」

 

 プリカは満足げに頷いて、屋根から飛び降りようとする。

 俺はそれを引き止め、ビンを投げ渡した。

 

 「コーラか、炭酸入りはマズいぞ」

 

 「抜いて、その後で締め直してある」

 

 「ありがとな」

 

 プリカは俺が渡した炭酸抜きコーラを一息で飲み干すと、そのまま屋根から飛び降り……思い出したように、ビンをこちらに投げて見せた。

 

 「頑張れよ」

 

 「おう!」

 

 天下一武道会、第3試合、それは俺にとって前世で最も憧れたサイヤ人と、今生で最も共に過ごしたサイヤ人の試合。

 

 「それでは、第3試合、プリカ選手対、孫悟空選手を開始いたします、両選手、武舞台へ!!」

 

 マイクなしでも会場に響き渡りそうなほど、はっきりと通るアナウンサーの声が会場に響き渡る。

 真にどちらが勝とうと喜べる、最高の試合が、今始まろうとしていた。

 

 

→つづく…………?

 

 

 

 第3試合の開始を宣言するアナウンサーの声を、不機嫌そうに尻尾で弾いて、のっしのっしと歩き抜けていく一つの影があった。

 

 「ねえあんたどこ行く気だい、試合が始まっちまうぞ! 前大会ベスト・フォー同士の試合だぜ!?」

 

 「うるせえ!! どきやがれ!!」

 

 「ひゃあ!」

 

 引き止める格闘ファンを腕と尻尾で蹴散らして、観客席の端から飛び降りた影は、人間の形をしていない。

 飛び降りた矢先に翼を開き、飛び去っていく彼は獣か、あるいはモンスターか。

 

 「このギランさまの本戦行きを二度も阻みやがったガキの試合なんて……見てられるか!!」

 

 ギラン、彼は、本来の歴史でも、第21回天下一武道会の第4試合で悟空に敗れ、以降はピッコロ大魔王による武道家狩りで死亡したニュースを除き全く音沙汰なし、という弱小武道家であるが、この歴史では一層試合組に恵まれず、本戦出場すら果たせぬまま燻っていた。

 

 《お二人は共に、前大会で尋常でない力を見せてくれた選手であるとともに、孫悟空選手は亀仙流の奥義かめはめ波、プリカ選手は――――》

 

 「……オレさまだって必殺技の一つや二つ!」

 

 ギランの性質は、武道家というより、ゴロツキであった。

 武道大会に容赦なく特異な身体能力を持ち込み、それが通じないとなると即座に降参する『武』へのプライドの欠如、地元では知らぬものがいない程の暴れっぷり、にも関わらず、名誉と金を求めて武道会に参加する根性、非の打ち所のないゴロツキである。

 

 《さらに、お二人は前武道会で準決勝を争った経験をお持ちですが、今回の武道会では――――》

 

 「オレさまも次は……クソっ!」

 

 次は、次こそは、そう言いながら、敵手の試合を見ずに武道会場を離れる彼の目的は、……何のことはない、ジュースを買いに行くことである。

 重要な試合を見る機会を捨ててまでジュースなど買いに行く理由は二つ、一つは、自らの必殺技と言える、粘性の高い分泌液を飛ばす技『グルグルガム』によって消費した水分と栄養素の補充を体が求めていること、もう一つは、そもそも試合を見ようと思えないことである。

 ゴロツキ、あるいは、荒くれ者である彼にとって、再戦を誓うことは戦いを研究し、その敵のために自らを高めることではない、憎悪を滾らせ、いつか敵を射抜くことを、自らに誓うことなのだ。

 だから、わざと敵の試合に背を向けて、それを自らに表明する。

 

 「あいつ……?」

 

 そんな彼がパパイヤ島の空を飛んでいると、武道会場からほど近いビルの屋上に、何やらローブを纏った『不審な』人影を見つけた。

 飛行生物であるギランの目は一般的な人間より遥かに高い分解能を持つ、その男の風体がおかしく、武舞台の方をまじまじと見ていて、何か、球体のようなものを持っているのが、遠目にも認識できたのだ。

 

 「おい、あんた、なんでこんなとこで見物してんだ、会場はまだ席空いてるぜ?」

 

 「うるさいわ、あっちに行ってちょうだい」

 

 「な、なんだ、オカマ野郎! せっかく人が教えてやったのに……ん?」

 

 ギランは男の酷い態度に苛立ちながら踵(翼?)を返そうとし……男が持った球体、水晶玉であったそれの向こうに、何かが写っているのを見咎めた。

 

 「あれ、その水晶玉……」

 

 「見たわね……!」

 

 野生のカンと呼ぶべきか、悪寒がしたギランが一歩大きく羽ばたき、のけ反った瞬間――――男の手刀がギランの顔があった場所を薙ぎ払った。

 ギランの思考が一瞬で呑気な出稼ぎ武道家から、地元を統べる匪賊へのそれと変わる。

 

 「な、なんだテメエ!!?」

 

 「ケダモノらしくカンがいいのね、でも、もう終わったわ」

 

 「は――――へ?」

 

 まず覚えた違和感は、男の顔が、自らと同じ高度にあること。

 翼を持たない人種は(ごく一部の例外を除き)地べたや樹木、建造物に身を委ねねば自らの位置を保つことができない、それは常識のはずだ……が、この男は地面のない場所に立っている。

 そして――――

 

 「オレさまの……はね……」

 

 「やあねえ、握って振り回すつもりだったのに、あんまりモロいから……ちぎれちゃった」

 

 男の両手には、ギランの翼が握られていた。

 

 「じゃ、さようなら」

 

 彼の体はいやにゆっくりと感じられる落下の中、翼の代わりであるかのように血液を噴出させ。

 

 《――――プリカ選手――――孫悟空選手――!!―――!!》

 

 ギランは、熱狂する観客達の声援と、興奮気味の実況を、遠ざかりつつある意識の端で捉え、『やっぱり見ておいた方が良かったかもな』とぼんやり呟こうとして……。

 そのまま、パパイヤ島の路地裏へと墜落していった。

 

 

→つづく




マジで始まりましたね、異世界烈海王。
刃牙キャラの『格』を異世界に持ち込む試みは、SS書きが繰り返してきたものですが、それが本職の漫画技術によって世に出されたとき、どのような化学反応が起こるのか……楽しみです。


さて、天下一武道会一回戦も折り返しを迎える中、武道家達を覗く不穏な影が一つ。
……それはともあれ、次の試合はソシルミ曰く『最高のカード』、その次の試合は、またしても元の歴史の再演となるのか、天津飯VSヤムチャです。
天下一武道会、残り5試合、彼等の行く末は一体どうなっているのでしょうか。
次回もお楽しみ頂ければ幸いです。
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