転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第二十一話:転生地球人が異星人達の成長を見届けるまで

 二つのエネルギー、同じく黄色、大きさも同じそれが激突し、爆散する。

 その爆炎が晴れぬ内に、さらなるエネルギーが飛来し、けたたましい音と共に閃光をばらまいた。

 

 「プリカ選手、悟空選手、一歩も引かぬ撃ち合いです!! 格闘とはかけ離れたように見えるこの戦いも、また武の一つの姿なのかーっ!!」

 

 煙の中から飛び出した二つの影、二つの五体に二本の尻尾、本来この地球に二人としていないはずのサイヤ人同士が激突する。

 両者共に、常人であれば、その一撃どころか風圧ですら耐えられぬ打撃が交わされ、大気循環とは無関係な爆風が観客の頬を撫でてゆく。

 影の片割れ、孫悟空は頬についたススを拭いながら、実に愉快げにしていた。

 

 「へっへー、思いっきり力出して戦うのもひっさしぶりだな!」

 

 「……オレはそうでもないんだけど、どうして付いてこれるんだ?」

 

 「オラだってめいっぱい鍛えたもんね!」

 

 「そうか……!」

 

 試合が始まってから二分足らず、既に、前の試合でクリリンが放ったエネルギーの量を遥かに超える力が武舞台の上で炸裂している。

 ……恐ろしいことに、プリカも悟空も、一切疲弊していない。

 

 「ひええ、悟空もプリカさんもピンピンしてやがるぜ……!」

 

 「あれで全力じゃないのか!?」

 

 クリリンとヤムチャは全く消耗の見られない二人に恐怖しているが……俺にはわかる、二人共全力だ。

 その上で、圧倒的なスタミナが彼等の戦いを支えている。

 だが、サイヤ人の本領は『ただの全力』などではないし――――

 

 「どうしたプリカッッ!! お前の技を見せてみろッッッ!!!」

 

 「勝手言うなあ……!」

 

 「ん……? おお!! オラも見てえぞ!!」

 

 俺と悟空の催促を前に、プリカは小さく、愚痴のような台詞を吐き……その口元もまた、小さく釣り上がっていた。

 会場は更なる技の出現に湧き、ライバル達の顔は驚愕の表情に染まる。

 

 「ハ、ハッタリに決まっとるわい! 天津飯、惑わされるんじゃないぞ!!」

 

 「し、しかし鶴仙人さま……!」

 

 「ええい、黙っておれ!」

 

 二人共、3年分鍛え上げた肉体、研ぎ澄した気力を見せても、それに相応しい技、戦いを見せてはいないのだ。

 いくら全力を見せつけようと、既に全会場が戦慄していようとも、全てこの試合の真髄とは無関係だ。

 

 「が……ぐん!!」

 

 プリカはエネルギー弾を手に握り込み、そのまま更に気力を注ぎ込んでゆく。

 すると、拳から光が漏れ出し、続いて、拳そのものを光が包み始めた。

 

 「おおーっ! プリカ選手、あの技を、今度は手に掴んだまま膨らませてゆきます!! これはまるで――――」

 

 「――――ミソシルの技か!!」

 

 エネルギー弾は大きく膨らんで手を巻き込み、まるでハンマー鉄球のようになって腕の先を飲み込んだ。

 上体を下げ、両腕を後ろ手に、まさしくハンマーのように構えたプリカは、不敵に笑いながらも、小さくうつむいて目をそらすような仕草をする。

 

 「この技、あいつに怒られそうな気もしたんだけど……オレが考えた技だし、あいつがやれって言ったんだし、しょうがないよな」

 

 「怒られる? 誰が怒るんだ?」

 

 「こっちの話だっ!! があ!!! 『バイナリ・スター・モーニング』っ!!」

 

 技名!?

 俺がギョっとしている間に、プリカはスタンディング・スタートよりはるかに低くした姿勢から猛然と駆け出し、その腕を叩きつける。

 悟空は一瞬だけその腕を受け止めようとして……回避へと切り替えた!

 

 「プリカ選手の一撃をたまらず避ける孫悟空選手! あの技の威力、達人には見るだけで分かるのでしょうかーっ!?」

 

 技から逃れた悟空は即座にかめはめ波のチャージを開始、短い貯めで即座に発射を試みる……が。

 

 「波ーっ!! お!?」

 

 プリカはバイナリ・スター・モーニングを前にかざし、かめはめ波を完全に抑え込んだ!

 

 「ぐ……これなら、いける!」

 

 「なんと、今大会二回目、かめはめ波を防ぐ選手です!!」

 

 気を発射する技にはどうしても生じてしまう『操作』のニュアンスを捨てることで気の収束率を高め、かめはめ波をも防ぐことが出来るだけのエネルギーを得ている。

 それをプリカの膂力、速度で振り回し、俺と鍛えに鍛えた安定性をもって支えるのなら――――

 

 「――――誰が怒るものか、パワーとスピードを活かして格闘戦技量の不足を無視する、い~い技じゃないか」

 

 俺の声が聞こえているのかいないのか、プリカは再び悟空に向けて突撃を開始する。

 だが、最初はその攻撃を前に逃げるばかりであった悟空も、数度、技から逃げるうちにその対抗策を思いついたようだ。

 

 「へへっ! これなら上手く当てらんないだろっ!!」

 

 「孫悟空選手増えましたっ!! これは前武道会で出た技、残像拳です!!」

 

 多重に出現した残像がプリカを取り囲む……が、言うまでもなく、どれだけ残像を増やそうとも体は一つしかない。

 

 「それでも、いたずらに避け続けることで危険を犯すよりは、機動力を発揮して大ぶりに回避した方がいい、冷静な選択だが……」

 

 「っがあ!!!」

 

 プリカはバイナリ・スター・モーニングの軌道を振り回すように切り替え、体ごと回転して悟空の『出現位置』を攻撃する。

 ……戦闘センスの面で特に優れている印象はないプリカだが、あくまでサイヤ人、あくまで武道家、『出現する悟空を振り回しに巻き込む』程度の読みはたやすい!

 

 「うげっ!!」

 

 「孫悟空選手、残像拳も通じず、壁に吹っ飛ばされましたー!!」

 

 悟空が激突した壁は、突入した質量に見合わぬ破壊と土埃を吹き出し、その威力の高さを物語る。

 

 「孫くん!!」

 

 その莫大な威力を前に亀仙流の弟子やブルマ達は悲鳴を上げ……。

 

 「やはり、次にオレと当たるのはプリカか」

 

 ……鶴仙流の弟子は小さく呟く。

 が、まだ試合は分からん、プリカを応援したいのは山々だが、悟空はこの程度で終わる武道家ではない。

 

 「プリカッッ!! 悟空はまだ来るぞ、備えろッッッ!!!」

 

 「言われなくたって……!」

 

 「やったな、プリカ!!」

 

 派手に壊れた壁のガレキから、悟空が這い出した。

 ピンピンして……いや、ダメージにも関わらずさらに活性化している、戦闘民族の本領はここからだ。

 

 「へへ、いいこと思いついちゃったもんね!」

 

 「……!」

 

 無邪気な、しかし、その声を知るものにとっては最大限の警戒を促す無邪気な笑い声と共に、再び残像拳が放たれる。

 今度は、プリカの間合いより絶妙に離れた距離を見計らった残像拳だ。

 狙いは明らかに体力消耗……ではない、悟空とプリカの体力消耗は今のところ互角、ならば、これは……。

 

 「ぐがあ!! どうした、届かないなら意味ないぞ!!」

 

 「!!!」

 

 その瞬間、悟空の目に戦闘知性の輝きが灯る。

 

 「波ーっ!!!」

 

 「孫悟空選手、かめはめ波です!! かめはめ波を――――」

 

 「宙にッッッ!!」

 

 「あっ!!?」

 

 かめはめ波で加速した悟空がプリカに激突する!

 二人はもつれあいながら武舞台の端まで転がり、途中で弾かれるように飛びのいた。

 

 「悟空の戦いに真新しいものは何もない、しかし残像拳に、かめはめ波……同時使用を可能にした技量には目を見張るものがある」

 

 技の組み合わせと技量向上をこなし、新たな局面に遭遇した時でも、既存の技術を必要な形で使用することで打破する。

 他選手の試合を見ずに寝てしまうことすらある程のマイペースさを前提としたその武の形は、新技を連発するよりもよほど本来の武に近いともいえるかもしれない。

 

 「が……ぐ……!」

 

 「孫悟空選手のクリーンヒットです! プリカ選手たまらず技を解いてしまうーっ!」

 

 ……プリカは即座に体勢を立て直す、……しかし、俺はあの技が命中した瞬間、何か、決定的なものを感じてしまった。

 俺はそのカンが当たらぬことを祈るが、戦いは非情に進んでゆく。

 

 「っがああああ――――」

 

 「!! たあーっ!!!」

 

 そして、数分後、エネルギー弾と打撃戦を織り交ぜた激戦の中、プリカは密かに大技のチャージを始め……秘匿されたその隙をついた悟空の一撃によって、試合は幕を閉じた。

 

 

 

 「よう、おかえり」

 

 「……ああ」

 

 俺が通路までプリカを迎えに行くと、プリカはこちらの顔を見ようとすらせず、うつむき加減で答えた。

 

 「元気がないな」

 

 「間抜けだ、チャージ中にぶっ叩かれて終わりって、そりゃ、ないよな」

 

 「あの技はしっかり隠されていた、動作も、意もな……、俺は横から見ていたから分かったが、対面だったら怪しい、誇っていいはずだ」

 

 「そうかな」

 

 俺のフォローも、落ち込むプリカには通じない。

 ここまで敗北に弱いやつでもないと思うのだが……悟空相手だとか、わざわざ応援させておいて、とか、思うところはあるのだろうか。

 

 「途中までのアレも良い技だった、できれば最後のも見たかったがな」

 

 「アレ……バイナリ・スター・モーニングか」

 

 「そういやお前、技に名前付けたり叫んだりするタイプだったんだな……」

 

 「悪いか」

 

 プリカはふてくされたようにこちらを睨む、少しはマシになったか?

 

 「別に、俺のやり方じゃないが、そうやって愛着を持って鍛えれば技も、武も、答えてくれるかもしれん」

 

 「……ちょっとおまえっぽくない言い方だな」

 

 「気色悪いか」

 

 「いや」

 

 そう答えるプリカの声にはまだ覇気がない、直接慰めても足りないか……ならば。

 

 「ま、どちらの技も、防いだ悟空が上手だったということだ、流石と言ったところだな」

 

 「悟空は新技とか出さなかったぞ」

 

 「あいつが新技を自分で出してきた試しはないだろう、いい意味でマイペースな戦い方と鍛錬、それが悟空の強みだ」

 

 「おまえとは正反対か」

 

 プリカはようやく、皮肉っぽい笑みを浮かべた、プリカらしくはないが、少しは元気が出たか。

 

 「流石は我等のヒーロー、まだこれからの試合がどうなるか分からないが……俺も楽しみだ」

 

 「悟空は強いぞ、楽しみにしとけ」

 

 「言われなくたって楽しみにしている、元から大した奴だと知ってる上で、あの試合だぞ」

 

 「それもそうか、いやあ、先に味わっちゃって悪いなあ」

 

 そうこう話していると、何か居心地悪そうにする気配が一つ。

 山吹色の道着……話題の人、悟空だった。

 

 「よう、悟空、いい試合だったな!」

 

 「あんな締めで悪かった、次はもっと頑張るから、期待しててくれ!」

 

 「お、おう! へへ……」

 

 悟空は照れくさそうに頭を掻く。

 うむ、多分、自分をホメまくる会話を前にして、さしもの悟空も近寄りがたかったと言ったところだろう。

 ……ふと視線を感じて振り向くと、ヤムチャとクリリンが口を半開きにしてこちらを見ていた。

 

 「悟空も恥ずかしがったりするんだな……」

 

 「なんか不思議な感じだ……」

 

 その後もしばらく俺達は試合について……というか、悟空について語らっていたが、すぐに次の試合、天津飯・ヤムチャ戦のアナウンスがかり、屋根に戻ることになる。

 

 「ソシルミはどっちが勝つと思うんだ?」

 

 「なんとも言えん、元の歴史通りなら天津飯だが、ヤムチャも相当鍛え込んできている」

 

 「それが地の能力差をひっくり返せるほどか、ってとこか」

 

 プリカは少し悩む素振りを見せて、何かに気付いたように、こちらを見た。

 

 「天津飯はおまえにこっぴどく負けたろ、それを根に持ってるみたいだし、当然、めちゃくちゃ鍛えたんじゃないか」

 

 「確かに、亀仙流への遺恨は相対的に薄れたかもしれんが、実力差は逆に広がったかもしれん」

 

 「元の歴史だと、ヤムチャの肘か膝ぶっ壊す流れもあったよな……大丈夫か?」

 

 「……少なくとも、この試合は『赤勝て白勝て』とはいかんだろうな」

 

 俺がそう締めくくると、プリカは緊張したようにつばを飲む。

 試合は間もなく始まる、俺は……赤勝て白勝てとは思えず、しかし、二人の成長と戦いへの隠しきれぬ興奮を抱いて、銅鑼の音を迎えるのだった。

 

 

 

 『亀仙流の弟子二人とソシルミを潰し、オレが鶴仙流の最強を証明する』

 

 試合前にそう吐いた天津飯は、その宣言通りの苛烈な攻撃によってヤムチャを追い詰めつつあった。

 

 「はっ!!! たっ!!!」

 

 「く……! はいぃ!!!!」

 

 互いに交わされる拳、天津飯が優勢であればヤムチャはフットワークでそれを覆し、ヤムチャが優勢になろうとすれば、天津飯は舞空術でそれを躱す。

 天津飯の戦闘法はチャオズとは対照的で、フットワークを重視した戦闘の中、敵の攻防におけるタイミングを外すように舞空術を用いるものだ。

 

 「チャオズが用いた舞空術とステップの組み合わせの発展型、あるいは別の形と言った所か、完成度は天津飯が遥かに上だがな」

 

 「ヤムチャも頑張ってるぞ」

 

 プリカの言う通り、武舞台を見れば、一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 舞空術を併用したハイキックに対し、ヤムチャは素早く上体を下げて、自らはミドルキックを放ち返礼する。

 天津飯は苦し紛れの肘で辛うじてを受け……力づくでそれを跳ね除けた。

 片足を取られかけたヤムチャは、しかし全く動じることなく飛び退き、体勢を立て直す。

 

 「確かにヤムチャの進歩には目を見張るものがある、体捌きと突き込みの鋭さだけで言うなら、天津飯を上回っているかもしれん」

 

 フットワークに舞空術を交える天津飯に対し、ヤムチャは自らの足だけでそれに対抗している。

 舞空術という圧倒的な技術、弟子入りの遅れによる鍛え込みの差、地球人と三つ目人に存在する根本的なフィジカル差を抱えつつも、動きのキレの良さによって、決定的な攻撃を防いでいるのだ……が。

 

 「天津飯選手、果敢に攻めます! ヤムチャ選手は今の所防戦一方です! これからどうするーっ!!」

 

 ……アナウンサーが言うように、今の所、試合は天津飯優勢で推移している。

 しかし、俺はまだ、ヤムチャの勝ち筋がないとは考えていなかった。

 

 「ヤムチャは適切に地盤を固め、手持ちの能力を昇華した……後は互いの隠した手札と、底力が勝負を決める」

 

 「その二つなら、天津飯が大分有利になる」

 

 「だろうな……だが、まだ勝機がないって程じゃない」

 

 俺の言葉に応えるように、二人は同時に飛びのいた。

 天津飯がヤムチャとのインファイトを拒むように腕を振るったのだ。

 当然、隙は生じるが……それを突かせる天津飯でもない、武空術を使って後方に飛び、ヤムチャもまた、取って返しての攻撃を警戒して飛びのき……この状況が生まれた。

 天津飯は自信をもって語る。

 

 「ふん、このまま殴り合いを続けてもいいが、それではつまらん」

 

 「ビームの撃ち合いがしたいってか? ヘっ、あのまま続けりゃ勝ち目がないと踏んだかい?」

 

 「どうする?」

 

 ヤムチャの強がり、あるいは本気の挑発を無視して、天津飯は一歩踏み込み……ヤムチャは、手を二つ、前にやった。

 

 「これは……かめはめ波の構えです! 武天老子さまの三人目のお弟子さんも、かめはめ波を使えるようです!!」

 

 「……かめはめ波か、いいだろう、来いっ!!」

 

 「か……め……!!」

 

 ヤムチャは脇腹に両手をやり、挟み込むようにしてエネルギーの蓄積を開始する。

 かめはめ波の構え、『にわか仕込み』ではない、亀仙人が教えたであろう、本式のかめはめ波だ。

 ヤムチャには知る由もないが、天津飯はかめはめ波を消し去る技術を持っている、もしそのまま放たれたのであれば、試合の流れは完全に天津飯のものとなるだろう。

 

 「は……め……」

 

 だが、ヤムチャは四文字目、エネルギーを懐に蓄える段階に入って、その口を閉ざした。

 そして、抱えたかめはめ波をそのままに、重心を下げに下げ……一気に力を解放し、前方に飛び出す!

 

 「はいーっ!!」

 

 「なっ!!?」

 

 「ヤムチャ選手、なんと、かめはめ波を持ったまま走り出したーっ!!」

 

 駆け出したヤムチャの手にはかめはめ波……おそらく、今武道会だけで二度も防がれたエネルギー技を信頼せず、突撃して直接放つつもりなのだ。

 天津飯はそのたくらみを防ぐため、今度はヤムチャに向けて自ら突撃を開始する。

 荒野のハイエナ、砂漠の狼、そう名乗るだけはある足腰の強さが、気力を貯めながらの突撃という現時点では高等極まりない技を支えていた。

 

 「ヤケになったか! 両手がふさがった状態でこのオレに――――」

 

 「――――田舎もんめ、スポーツもダンスもやらないのか!?」

 

 ヤムチャは倒れかけの姿勢を更に下げ、同時に体を反転させる……これは!

 

 「抜けたーっ! ヤムチャ選手抜けました! 背中で床を滑る、ブレイクダンスのような動きです!!」

 

 「!!!?」

 

 「道着じゃちょっと滑りにくいが、これで――――」

 

 だが、天津飯は完全に予想外の動きに辛うじて反応し、ヤムチャに回り込まれたその瞬間、天高く跳躍する!

 その狙いは間違いなく、ヤムチャが抱えたかめはめ波の照準を逸らすこと!

 しかし、プリカは空を見上げて、それから地面のヤムチャがかめはめ波を構え直したのを見てかぶりをふった。

 

 「でも、飛んだだけじゃまた狙い撃ちだ」

 

 「ヤムチャが狙いを定める間にどどん波を撃てるなら……いや、まさか!!」

 

 跳躍の勢いそのままに上空を浮遊する天津飯、ヤムチャはその決して高速とは言えぬまでも、生半可な集中力ではとらえられぬ動きを見逃さぬよう、()()()()()

 

 「プリカ、目、閉じとけ」

 

 「え!? あ、ああ!」

 

 プリカが目をぎゅっと閉じ、俺は汗を拭うような仕草で誤魔化しながら天津飯の直視を避ける。

 そして、次の瞬間――――

 

 「太陽拳!!!!」

 

 「ぎゃっ!!?」

 

 天津飯が叫ぶと同時に、武舞台のヤムチャ、そして会場のあちこちから悲鳴が上がる。

 

 「天津飯選手が閃光を放ちましたっ!! その輝きに目を焼かれたヤムチャ選手、それと会場の皆様が非常に苦しそうにしています!!」

 

 「くああ……目閉じただけじゃダメか……」

 

 ついでにプリカまでやられた。

 ヤムチャはばっちり目を焼かれたらしく、目を押さえて悶える……といった醜態は避けたものの、かめはめ波は霧散し、かろうじてファイティングポーズを保っているだけの有様だ。

 

 「約束通りいいものを見せてやっただろう……? だが、もうショーは終わりだ、どどん!!」

 

 そこに追撃のどどん波が突き刺さる、ヤムチャは声と音を頼りに防御姿勢を取ったものの、まともに食らって焦げながら数メートル吹き飛んだ。

 最早趨勢は決した、後はどどん波で押し出せばいい、会場の誰もがそう思ったであろうその時、天津飯は吹っ飛ぶヤムチャに向け急降下を始めた。

 会場の半分は更なる技に興奮し、もう半分は、過剰な程の攻撃に恐怖を抱きつつある……師匠はどうやら前者、亀仙人は後者のようだ。

 

 「あそこから更に技を重ねるとは、慎重ですな!」

 

 「こりゃ! 人の弟子だと思って!!」

 

 そして、天津飯はヤムチャを地面に叩きつける……のではなく、むしろ、ヤムチャを掴んで上空へと加速する。

 未だ苦痛にあえぐヤムチャの抵抗をあっさり制圧した天津飯は何やら全身に力を込め始めた。

 

 「て、天津飯!! よさんか!!!」

 

 「言っても無駄だ兄者」

 

 天津飯が放たんとする技の正体を知るものは本人含め会場にたったの五人。

 鶴仙流の三人、そして歴史を知る俺達だけだ。

 

 「お……おい、ソシルミ、あれって……」

 

 「四妖拳!!」

 

 慌てる鶴仙人が見守る中、天津飯の肩の後ろ、背中に差し掛かる辺りから二本の肉の塊が突き出始める。

 四妖拳、二つの腕を追加で生やし、合計四本の腕で敵にあたる技だ。

 

 「技っつーか……見れば見るほどおかしいぞ! どの骨につながってるんだあれ!」

 

 「通常の技の概念どころか、解剖学まで無視している、俺にもどうなっているのか分からんが……」

 

 それより更に分からないのは、天津飯がなぜこの局面であんな技を使うのかということだ。

 既にヤムチャは言葉通りの死に体、どどん波でも決着はつくし、直接攻撃で手を下したいとしても、そのまま蹴るなりなんなりすればよく、わざわざ拘束した上で腕を増やす理由はないはず!

 

 「便利な技に見えるだろう、だが……人の形から離れれば鍛えた武術を自ら捨てるのと同じ、よって――――」

 

 「――――天津飯選手が増やした腕でヤムチャ選手を更に拘束しています、まさかこれはーっ!」

 

 「あ、阿修羅バスターっ!!?」

 

 プリカは思わずといった感じでそう口にしたが、それも無理はない。

 四本の腕でヤムチャの両手をホールドし、天津飯はそのまま地面に向け加速していく!

 

 「確実に敵を仕留めるために使う!!」

 

 天津飯の叫びを前に、やっと技の本性を理解した観客達が恐れおののき、ヤムチャの兄弟弟子二人は必死に脱出を訴える!

 

 「ヤムチャーっ!! なんとか逃げろ!!! 死んじまうぞーっ!!!」

 

 「ヤムチャさーん!!!」

 

 しかし、無情にもヤムチャは既に抵抗する術を完全に失い、呻くことしかできない。

 

 「が、ぐ、ぐああ……」

 

 「安心するといい……このオレが迂闊に敵を殺すようなヘマを……すると思うか!!!」

 

 ヤムチャは碌な抵抗も出来ぬままに地面に激突。

 まず落下したのは胴体、それだけでもダメージは計り知れないが、さらに、落下の衝撃で拘束……否、『極め技』が完成し、腕が完膚なきまでに破壊されている!

 

 「け、決着!! 明らかな戦闘不能のため、カウントは省略します!! 早く救急車をーっ!!」

 

 「キャーっ!!! ヤムチャーっ!!!!」

 

 「ヤムチャさまーっ!!」

 

 恋人と子分、そして、全会場がヤムチャのために叫ぶが、ヤムチャはピクリともせず、血が混ざった泡を吹くばかりだった。

 

 

 

 「おい、ソシルミ、オレの試合を見ただろう」

 

 「ムグ……モニュ……ああ、見た」

 

 俺が控室の片隅、おじやをかっ食らっていると、そこに天津飯がやってきた。

 ホコリを舞い上げて食べ物にかからないよう、そっと歩くおまけ付きだ、細かい所で育ちがいい。

 

 「きさまもああしてやる、決勝戦でああなりたくなかったら、棄権でもしたらどうだ?」

 

 「いやあ、いい試合だったじゃないか、余計に楽しみになったね」

 

 「お、おい、ソシルミ!?」

 

 「いい試合だと……!?」

 

 プリカは慌てたように、天津飯は驚愕と侮られた怒りの入り混じった表情で俺に聞き返す。

 

 「互いに武術の技を交わし、気を用いた技も出し合い、その上で策を競い、勝利者は油断することなく止めを刺す、これをいい試合と言わずなんとする……まあ、俺はああまで敵を痛めつけようとは思わないが」

 

 「きさま……!」

 

 「やめとけ、多分ソシルミは本心で言ってるぞ、オレもちょっとヒくけど……」

 

 ジト目、というか本気で引いている視線だ、解せぬ。

 確かに、試合前こそ、天津飯がヤムチャを過剰に痛めつけるのではないかと心配していたし、実際行われた試合でも、ヤムチャは過剰に痛めつけられたが……。

 あくまでそれは、試合の中で、敵手を確実に仕留めるためのもの、大会ルールや本人の優しさが許さないというのでないのなら、第三者が口を挟むことでもなんでもない。

 

 「きさまら、おちょくるのもいい加減に……」

 

 「おっと天津飯くん、わたしの弟子が何か失礼を働いているのかね? すまないが、こいつは昔からちょっと挑戦的な所があってな」

 

 天津飯がいきり立って、俺達に詰め寄ると、追って師匠が現れ、天津飯の肩を掴んだ。

 師匠は『全く誰に似たんだか……』と呟き、友好的なムードを演出するが、その筋肉は隆起し、『ここで私闘をする気なら三対一になるぞ』と言わんばかりである。

 

 「くっ……いいか、ソシルミ、決勝戦で待っていろ!!」

 

 分が悪いと察したのか、天津飯は捨て台詞を言って去っていく、まあ、俺も天津飯とやりたいのは山々だが……

 

 「お前が悟空に勝てたら、な」

 

 捨て台詞に独り言で返すと、隣の師匠はわざとらしく肩をすくめてみせた。

 

 「全く、おまえも厄介なのを敵に回したものだな」

 

 「あの件については師匠筋と話が付いているのですから、私相手の復讐戦は私闘です、ま、嬉しいものですがね、私にとっては」

 

 「相変わらずだな……プリカ、おまえも苦労しているだろう」

 

 「結構楽しいですよ、今みたいにびっくりすることもありますけど」

 

 プリカが俺のこういう話題でフォローに回るとは意外だ……師匠はそれを見て、何かゲスい顔をしている。

 師匠は弟子である俺が女と同居しているのが気になって仕方ないのだ、3年間否定され続けても全く諦めない。

 

 「そうだ、ソシルミ、相変わらずと言えば、おまえ、今も試合前にその、変な食事をやっておるのか」

 

 「ヘンとはなんです、ヘンとは、いいですか、炭酸抜きコーラで当座のエネルギーとカフェイン、それに水分を、おじやで炭水化物と食物繊維、タンパク質、それに……」

 

 「いい、わかった、補給と験担ぎだったな、散々聞いたわ」

 

 「どうです、師匠も、これから試合でしょう、それも……多分、大一番」

 

 そう言って、俺は新たにホイポイカプセルを取り出して師匠に差し出すが、『お前のよく言う"超人的消化力"は持っていない』と突っ返されてしまった。

 

 「どちらにしろ……時間だ、ソシルミ、そろそろ行くぞ」

 

 「ええ、よろしくお願いしますよ」

 

 俺が手を差し出すと師匠はそれをしっかりと握り、次いで不敵な笑みを作る。

 

 「鶴仙人の小姓を叩き落とした程度でわたしの力を測れたと思うなよ、リベンジマッチは……弟子の特権ではない」

 

 俺は何も言わず、ただ、"あの笑み"でそれに答えた。

 

 

→つづく




お久しぶりです、桐山です。
最近のペースからするとちょっと遅めですが、まあ色々、芸の肥やしということで新しく作品を摂取したり、体調を壊したり、単に難産だったりしてました。


さて、ついに一回戦全試合が終了し、続く二回戦第一試合は、ついにソシルミ対チャパ王、因縁の師弟対決となります。
果たして、チャパ王にとって、ソシルミと別れてからの約四年はいかなる月日だったのでしょうか。
それは、ソシルミが戦ったあの日々を超え、一度は上回られた弟子を叩き伏せるだけの力を持っているのでしょうか。

次回もお楽しみ頂ければ幸いです。
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