「えーっ!? ちょっと、困りますよ――――」
「とりあえず、ここは――――」
何やら、眼下が騒がしい。
あっちこっちで坊主や小僧、尼さん、それに寺の外から来たであろう様々なスタッフが駆け回っている。
「もうすぐ決勝だからかな」
「決勝だからってセレモニーをやるような大会でもないだろう、案外、賞金でも遅れてるのかもしれん」
「流石にそれはあるまい、……まさか、亀仙流の連中の流れ弾が通行人に命中でもしたのか?」
師匠がそう言うと、プリカは一瞬顔を青ざめさせ、何度も記憶をたどっている。
……それと、そう、師匠、師匠だ。
屋根の上には三人、俺と、プリカと、師匠が座ってコーラを飲んでいた。
「それで、怪我は大丈夫なんですか? 内臓に穴開いてるのにコーラ飲んじゃったからお陀仏、なんてのはゴメンですよ」
「わたしを誰だと思っている、おまえにヨガを教えたのはわたしだぞ、それくらいは把握できる……それに、なんだそのやけに具体的な心配は」
「そいつ、機嫌がいいと変なこと言うんだ、たぶん、愛しのお師匠さまと一緒で調子に乗ってるんだろうな」
プリカの憎まれ口、俺の上機嫌を他所に、眼下の大騒ぎっぷりは、ひどいものだ。
坊さんは何人かすっ転んでいるし、それに巻き込まれた観客が怒号を上げている。
「へっへっへ、こりゃあ失礼」
そんな中、我等が亀仙人は尼さんがコケかかった隙を突いて尻を撫でていた。
「何やってんのよこのエロジジイ!!」
「うらやま……ひどいことしやがるぜ、急いでるってのに!」
「あんたもよエロブタ!!」
「ぎゃーっ!!」
ブルマ、ウーロンにランチと言った、いつもの亀仙流メンバーも亀仙人のセクハラにあきれている。
(プーアルはヤムチャの付き添いで病院に行ってしまった)
亀仙人はしばし尻の感触を反芻するように撫でた手を眺め、まじめっぽい顔をすると、すっくと立ち上がた。
「む……わ、わしはちょっとメシ買いに行ってくるからの!! クリリン、後はまかせた!」
「あ、ちょっと、武天老師さま、ボク一人で応援するんですか!?」
亀仙人は一瞬にしてアウェーと化した環境から逃げ去るように観客席を飛び出した。
今から弟子の晴れ舞台だというのに何をやっているんだ。
「ふむ……しかし、プリカの言い回しも、えらいトゲがあるじゃないか、え?」
「何が言いたいんです、師匠」
「妬いているのだ、プリカは」
「……っ!!」
プリカは拳を振り上げ……流石に俺以外をほいほい殴るのはマズいと思ったのか、そのままぷるぷるしている。
「よしてくださいよ、プリカをからかうのは」
「いや、この反応は案外……」
「ソシルミ! チャパさん、ちょっと、あの試合の最後の八手拳について聞いていいか!? なんで、チャパさんは、あんなに、ソシルミの技に感心してたんだ?」
そう言って、プリカはこちらを向かないまま、ぐいっとコーラをあおる。
「随分と藪から棒だが、まあいい、語らねばなるまい……お前にも教えよう、八手拳の強さの理由を……」
「おい、そんな見え見えの誤魔化しにあっさり流されてどうする」
プリカをからかうのが悪いのだ、俺はコーラを飲み干す姿でそう語り、プリカに向き直る……が、そこで、時間切れになった。
「それではこれより、天下一武道会、第6試合、まご……孫悟空選手対、天津飯選手を開始致します!!」
俺達三人は同時に新しいコーラを開け、屋根から落ちないギリギリまで身を乗り出した。
……これは俺が最も憧れた男の一人の試合であり、同時に、俺が歪めた歴史、俺が歪めた男の試合だ。
これ以上の楽しみは、自分があの男たちと戦うこと以外にはあるまい。
「それでは第6試合……はじめっ!!」
アナウンサーの掛け声とともに始まった第6試合、向かい合う二人……だが、その片割れ、悟空の姿が明らかにおかしい。
悟空はいたずらっぽい笑みを浮かべた後、殆ど四つん這いと言えるほどに姿勢を下げ、しかもそのまま格闘戦を演じているのだ。
「悟空は一体どうしてあんな姿勢に……」
「見た目以上のことはまだ分からん、が、自信はあるようだな」
見た目とはすなわち、互いの高さが違えば試合は噛み合いにくい……程度のことだ。
当の悟空、そして観客席で見守る鶴仙流の二人を除いた全会場が悟空の珍妙な戦い方に疑問符を浮かべていた。
「天津飯のやつ困っておるわ、あの小僧もなかなかいい所に目をつける」
「こりゃ、あのソシルミならまだしも、おまえがあのハゲの弟子の味方をしてどうする!」
……そう、鶴仙流の二人。
チャオズは師匠の激しい叩きつけによって深いダメージを負って、病院送りになっていた。
今頃はヤムチャの隣でうなされていることだろう……つまり、この試合にも、もしかしたらあるかもしれない俺と天津飯の試合にも、もうジャマが入ることはないのだ。
「たっ! たぁっ!! へへ、こりゃいいや!」
「く、くそ……! ちょこまかと!!」
そして、全会場、特に俺とプリカが期待した通り、悟空の不自然な戦闘法の効果は如実に現れつつあった。
天津飯は悟空を追うが、身長差がある所から更に悟空が低い姿勢を取っているせいで、かわいそうな程にかがんだ姿勢での戦いを強制されているのだ。
「天津飯の動きが鈍くなってるな……」
プリカが呟く通り、天津飯の動きは明らかに、『体を曲げているから』などという単純な要素では説明できないレベルで鈍くなっている。
俺の予想が正しいなら、この戦い方は恐らく、人間の本能そのものを利用する戦術と言えるだろう。
「なるほど、考えたな」
「……分かったのか、ソシルミ」
「ああ、これは恐らく、人間の思考や認知力そのものの限界を突く戦術だ」
天津飯が攻撃すれば悟空が反撃する、そのローテーションの中、互いにステップを踏むわけだが……。
本来天津飯が用いる、フットワークと舞空術を併用した立ち回りは、『体全体を下げる』動きをしながら浮き上がるという矛盾をクリア出来ず、不完全な形に終わる。
「下がりながら上がるという矛盾、それは急場で克服できるものじゃない」
「さすが、悟空……か」
「だな」
二人で満足げな笑みを浮かべていると、師匠は何やら混ざりたくなったらしく、姿勢を合わせてにんまりと笑った。
……ちょっと気持ち悪いな、この絵面は。
「両方大分腕を上げたようだが……まだ、悟空が優勢だな」
「『予想』通りな」
プリカが気を利かせて『予想』と言ったそれは、当然、この世界が辿るはずだった(と、前は思っていたが最近どうやら怪しいんじゃないかと思い始めている)歴史のことだ。
あの歴史でも、基本的に試合は悟空優勢で進行し、天津飯の勝利は気功砲による武舞台消し飛ばし戦術と舞空術の組み合わせ、それと運によるものだった。
「だが、あの天津飯というのもまだ負けてはおらんぞ」
奮闘する天津飯の動きを見て、師匠が口を挟む。
天津飯はこれまでの中途半端にかがんだ姿勢をやめ、自ら完全に体勢を下げての低空飛行を戦術に組み込み始めていた。
それによって、再び高速移動と自由自在な浮遊を両立したステップを取り戻した天津飯は、次第に試合を巻き返してゆく。
「天津飯選手もまた体勢を下げ……どうやら、ここで二人の機動力は拮抗したようです!!」
アナウンサーも、戦いの全ては見えないなりに、戦いの趨勢を見る能力はあるようだ。
しかし、これは……。
「……天津飯は悟空の技に対抗してるけど、逆に言えば、飲まれかけてる」
「ああ、試合のペースを握られているということだからな、天津飯のスタイルと、悟空のスタイルは噛み合わないんだろう」
屈んだ姿のまま、悟空が姿を消し……次に姿を表した場所を天津飯が叩けば、更に新たな場所に悟空が現れる。
いたちごっこ、という言葉が相応しい状況だ。
低空飛行によって速度で追いすがれば、さらに早い残像拳をもって上回る、悟空が再び巻き返した……ように、見えるが。
「このオレにチンケな残像拳などは通じん!!」
天津飯はギョロギョロと目を動かして悟空の姿を追う、残像拳を目で追うのは悪手のはずなのだが……悟空の動きを探る天津飯の三つの目は、次第にそれぞれ別の方角に向けて動き始めた!
「……そこだ!!」
「いぃっ!?」
天津飯の拳が出現直後の悟空を捕らえ、武舞台端まで吹き飛ばす。
読んでいるのではない、完全に、悟空が見えている動きだった。
師匠が思わず叫ぶ。
「散眼か!!」
散眼、それは本来二つで一揃いの動きをする眼球を巧みなコントロールによって別の方向に動かす技だ。
本来は四方八方から飛来する矢を効率よく視認し、対処するための技なのだが、天津飯はそれを高速移動への対処技として使用し、そればかりか、視野を分散することによって失われるはずの立体視機能を三つ目の目を使うことで補うという芸当までこなしている。
しかもあれは……本来、元の世界で言うところのインド武術に伝わる技であって、カンフーの技ではない。
「私に負けたことをきっかけに研究したのでしょうが、すさまじい練度です」
「うむ、われらの技をああも使いこなすとは……」
タイミング、練度、共に完璧に用いられる散眼を前に、多少の速度や残像などは通じないだろう。
その予想を裏切らず、天津飯は激しく動く悟空をその都度捉え、的確に反撃してゆく。
「この三つの目はごまかせんぞ、孫悟空、かめはめ波でも撃ったらどうだ?」
「んなこと言って、どうせなんかよけちまう技があるんだろ?」
足を止めて口を尖らせた悟空を前に天津飯はにやりと笑い、しばしの膠着状態の後――――
「たぁーっ!!!!」
「来るか、孫!!」
またもいたずらっぽく笑い、突撃する悟空!
「あ、あの構え……一体、何をする気なんだ悟空!」
クリリンが困惑するのも無理はない。
その手の形、腕の振り、足運び、誰もが初めて見るその動きの正体に気付くものは会場でたったの二人だった。
「「八手拳か!!!!」」
俺と師匠の声が被る、どれだけ独自解釈と換骨奪胎を行おうと、その動きを俺達が見紛うはずもない。
悟空が放とうとするその技は、紛れもない八手拳だ!
「うひゃあ! 突然叫ぶな!」
「叫ばずにいられるか、あやつ、こうも簡単に八手拳を盗むとは……!」
「あ、あれも八手拳なのか……?」
「体格や技量、シチュエーションに合わせたアレンジが激しいが、間違いなくな」
悟空は手を八つの残像に変え、天津飯へと向かってゆく。
「でも……八手拳ってあんなに簡単な技じゃないだろ?」
「悟空は既に残像拳と、八手拳に相応しい拳の速さを身に着けているからな、あいつのセンスなら、真髄やら拳の種類やらはともかく、骨子を真似るのはさほど難しくない」
「……ふん、おまえが最後に使った、あの技が盗まれておらんなら、何を盗まれようと今更だ」
そう言って強がる師匠に、プリカは問う。
「ああ、そうだ、あの技!
「俺が最後に放った
「いや、それもあるけど、なんであの技をチャパさんはあんな褒めてたんだ?」
「そうだな……、それは、八手拳が不完全な、諦め、妥協の産物とも言える技だからだ」
師匠はあっさりと、自らの必殺技の存在意義を否定した。
……いつものクセだな、こりゃ。
「それだけ言っても分かりません、八手拳は、どれだけ速く動かそうと必ず残像という形で見えてしまう拳を、むしろ残像を見せる形で利用して敵を幻惑する連撃技だ、と言わないと」
「良く言いすぎだ、見えてしまう、の方が重要だろう」
「だから、見えない拳の入ったソシルミの技に感心したのか」
「関節の同時動作と気力による強化の相乗効果、それによって、拳を限界を超えて加速し、しかも八手拳の連撃の技の中に組み込んだのだ……全く、いい弟子を持った、真の後継者とは、こういうものだ」
こっ恥ずかしい事を言う師匠に、思わずむせる。
……師匠の言う通り、あの技は以前使った『気力大移動』の原理と、その更に源流であるグラップラー刃牙の技、『マッハ突き』を応用したものだ。
それを語るか悩みながら視線を感じて横を見れば、師匠、それにプリカがニヨニヨと見てきている、こういう役目は俺じゃなくプリカがやるべきだろう。
誤魔化すように試合を注視すると、膠着状態にあった二人の撃ち合いが次第に変化していく様が見て取れた。
「おーっと!! 孫悟空選手の八手拳が、次第に天津飯選手を押してきています、これは一体どういうことかーっ!?」
悟空の動きが素早くなっているのではなく、天津飯の動きが明らかに鈍く、いや、混乱してきている。
目の動きもおぼつかなくなり、まるで……。
「目を回してるのか……?」
「お前もそう思うか、プリカ」
「……なるほど、あの三つ目が残像を見切るなら、見せてやれ、そういうことだな」
師匠が意味深に呟いた言葉を俺は噛み砕く。
残像拳を見切るほどの認識力、知覚力を持った三つ目の天津飯、そんな彼に、八つの残像を見せる秘拳を至近距離で叩きつけたら、一体どうなるか。
「つまり、情報を処理しきれなくなったというわけですか」
「おそらくな、しかも、なまじ見えてしまう分……」
ノックアウト寸前の三つ目を必死にぐりぐりと動かして必死に食らいつく天津飯、だが、悟空が突如体を回転させると、そこには――――
「な、なにっ!?」
「へへっ!」
「孫悟空選手、しっぽの一撃です!!」
――――高速で飛来する、長い尻尾があった!
「見えてしまうならば、それに頼ってしまう、目が見せるものは今と過去のみ、ゆえに、目を重視すれば、未来までには『目』が向かない」
「ふはは、三つも目を備えておいて、見えぬものが生まれるとは、皮肉なものよ」
「どんな特徴も、良いことばかりじゃないってことか……」
そう言うプリカも、サイヤ人の強みであり弱みである尻尾の鍛錬を行っていたな。
(どういうわけか俺に隠れてだ)
……結局あの戦いでは、俺が変に気を使ったり妙に深読みしただけで、尻尾はまだ鍛えきっていなかったのだ。
「フツーより多いのはお互いさまだな!」
「お、おのれ……!!」
尻尾の一撃に怯み、更に拳を食らった天津飯は、背後に引っ込み、再度ファイティングポーズを取る。
悟空も同じく、その場でファイティングポーズを取り……膠着状態が訪れた。
「……手詰まりか」
「でしょうね」
悟空はかめはめ波を迂闊に放って反撃される愚を犯そうとはしないだろうし、新たな奇策を簡単に思いつきはしない。
一方の天津飯も、かめはめ波をいくら撃ち返そうと悟空相手では一発芸に過ぎないし、まだまだ元気な悟空を相手に迂闊に気功砲などを使えば、反撃されるのは必然だ。
動きの止まった試合を見て、ぼそりと師匠が呟く。
「天津飯、あやつも真面目な奴よ、もっと自分から手を作るなりすればよいものを」
「真面目って、あいつが使う技は大体相手に怪我をさせるぞ、ヤムチャも、かなりひどい目にあったし……」
プリカが口を尖らせて言うその内容は、俺にも、師匠にも頷けるものだ。
確かに、ここまで天津飯の動きを見れば、分かる者には、悟空を確実にぶっ壊して動きを止めてやる、という意思が感じ取れるだろう。
しかし……。
「残虐と真面目は両立する、敵を効率よく仕留める……ということに関して、この上なく真面目である、という形でな」
「嬉しそうだなソシルミ、おまえが狙われてるってのに」
ジロっとこちらを見るプリカの言葉に、俺は笑って返す。
誤魔化しの笑みではなく、肯定の笑みだ。
その次の瞬間には、試合が新たな動きを見せる……動いたのは、天津飯だ!
「天津飯選手動きました! 今度は完全な直立姿勢、まっすぐ立って突っ込んでゆきます!」
駆け出した天津飯は、そのまま、激しい足技の動きで悟空に立ち向かってゆく。
舞空術のステップも健在、両足での足技を活用した動きには、これまでに見せた陰りは一切ない。
敵が低いなら足で攻める、姿勢を下げてはいけないなら下げない、ごく普通の……師匠の言う通り、真面目な攻め手だ。
「どうということはない、きさまを倒すのに、奇をてらった技などいらん!!」
戦いを真面目な領域、自分の土俵に持ち込んだ天津飯はしばしの優勢を手に入れた。
しかし、悟空は必ず、何らかの手段で巻き返す……俺がそう思っていると、屋根の下から俺を呼ぶ声がする。
誰だ!
「おうい、ソシルミくん、わしにちょっとおじやを分けてくれんかのう、いい屋台がなかったんじゃ!」
亀仙人だ!
……なんで?
「いや、武天老師様、弟子の試合ですよ!?」
「だ、だめかのう……」
「そりゃあ別にいいですが、ちょっと、ああもう!」
弟子の晴れ舞台、しかも楽勝でもなんでもなく、今まさに追い詰められている弟子を前に、一体何を言っているんだ。
というかその食い意地はなんだ、悟空かプリカじゃあるまいし……!
「おおーっと!! 孫悟空選手飛び上がりましたーっ!! しかし、飛ぶ相手を前にジャンプとは、一体何をするつもりなのでしょうか!!?」
「あ!? ……武天老子さま、、ホイポイカプセルです、返さなくていいですから、どうぞ!」
対応している試合が進んでいく!
俺はその焦りのままに、懐のホイポイカプセルを一つ投げ渡す、軽く俺の10食分はある中の一つだから、惜しくはないが……!
「波ぁーっ!!!!」
「な、なにぃーっ!?」
急いで空を見上げた俺の目に写ったのは、激しく吹き飛ばされる天津飯と、かめはめ波の姿勢のまま固まり、天津飯に背を向けた悟空の姿!
「悟空は飛んで逃げた後、かめはめ波を二回撃って、一回目で天津飯に太陽を見せて目潰しして、二回目で倒したんだ」
「孫悟空は三つ目の、視覚が強化されるという強みと表裏一体となった弱点を短期間に二度も突いた……全く、大したものだ」
詳細は後で聞こう、とにかく、悟空は再び天津飯の技を打ち破ったということだ。
ふっ飛ばされた天津飯はすんでのところで体勢を立て直し、舞空術を用いて武舞台に着地、再び悟空と睨み合う……が。
その眼光は明らかに鋭く、そして、ギラついていた。
「あ、あやつ……ここでアレを使う気か!」
「ソシルミとの私闘ではなく兄者ご執心の亀じじいの弟子相手に使うなら、大歓迎じゃないのか?」
「何を言うか、わしはソシルミのやつのことも、まだ許してはおらんぞ!!」
天津飯は悟空を睨み……そして、第三の目だけで俺をちらりと見て、右手で、左腕を撫でる。
その左手には、五本の細い抉ったような傷跡、そして、一本の深い切り傷があった。
「おいソシルミ、あの傷ってまさか……!」
傷跡をなぞった手が、手刀というにも余りに真っすぐな形へと変わる。
なぞられた腕の先は対照的に、半分握ったような、獣の鉤爪の形で……。
「あの傷、あの技、奴は俺との戦いをッッ!!」
俺への復讐のため鍛えた技を、俺との戦いではなく、目の前の強敵のために蔵出ししたのだ。
腕を撫でたのは、敵討ちのための技を本人に見せつけるため、うずく傷を撫で、戦意を燃やすために。
「なんだ……? 動物のまねっこならオラも……」
「きえぇぇぇい!!!!」
とぼけようとした悟空の声を引き裂く雄叫びと共の、天津飯は飛び込む。
武道家生命、否、命に届く威力と軌道!!
「きえええええい!!!!!」
「っ!!!」
飛び込む瞬間、電子音にも似る聞き慣れた音、『気』が出す音がか細く奏でられ、その手は不確かながら、『輝き』を纏っていた!
「まさか、ここまで俺の技を!!」
元から命を狙うに値する威力を持ったその技は、『輝き』を手にすることで更に威力を増し――――
「――――ぎぃっ!!!!」
「悟空ーっ!!!」
悟空の道着を切り裂き、弾丸をも弾くはずのその皮膚を割く!!
「これで終わると思うなよ……あのヤムチャと同じ目にあわせてやろう!!!」
苦しむ悟空の手を両手でがっしと掴んだ天津飯は、そのまま腕を増やす!。
「く、くそ……ヤムチャをやった技か……!」
「太陽拳!!!!」
「ぎゃああああ!!!!!」
天津飯の勢いは止まらず、そのまま四本の腕で悟空を拘束し、豆粒ほどにも見えない高さまで飛び上がっていく!
「天津飯選手、孫悟空選手を抱えて飛びました、再び、あの技を出すようです!! きゅ、救護班!!!」
脱出不能の技が再び放たれる。
四本の腕で敵手を拘束し、腕を極めながら、敵の胸で落下する超高速の、理外の落下技!!
「ゲーッ! 阿修羅ナパームストレッチ!!」
「ふ、ふざけるのはやめろソシルミ! 悟空がヤバいんだぞ!!?」
プリカが俺の『悪ふざけ』を止めようとするが、俺にはそれを止める理由がない。
俺はまさしく、悟空が脱出することそのものを……最高の楽しみにしているからだ。
増えた手で悟空の両手を、元の手でしっぽと口元を抑え、プリカと悟空に使われたサイヤ人の技、ゲロビと尻尾の反撃を警戒したその形は、ヤムチャに放ったそれより徹底的で、あらゆる脱出手段を許さぬ構えで――――
「――――さあ、どうする孫悟空ッッッ!!」
→つづく
皆様ごきげんよう、桐山です。
さて、天下一武道会もいよいよ大詰めです。
準決勝を勝ち抜き、ソシルミと戦う事になるのは天津飯か、それとも悟空か。
激しい戦いの先にあるのは、友情か、それとも更なる憎しみか!
三人の師匠たちが見守る第22回天下一武道会の行く末は!
次回もお楽しみに!