転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第二十四話:転生地球人が決勝を闘うまで

 高高度に飛翔し、悟空の全身を極めた天津飯が狙うのは、言うまでもなく、敵を自分もろとも武舞台に叩きつけて全身を破壊することだ!

 

 「ヤムチャ選手を下した技が再び放たれます!! 今度は更に高く、更にがんじがらめに締められているーっ!!」

 

 激突すれば悟空であっても再起不能レベルに痛めつけられるであろうその威力と、あらゆる反撃を防ぐ、四本腕と二本足での拘束、敵を確実に破壊するという一点に集中した、殺さぬ殺し技!!

 

 「ぐ、ぐぎぎ……がああ!!!」

 

 「無駄だ!! 幾分か力を隠していたようだが、もっと早くに出すべきだったな……! 最早きさまは逃れられんぞ!!!」

 

 悟空は元の歴史と同じく、『試合用のパワー』『戦闘用のパワー』に分けて力をセーブしていたようだが……全力を出したところで、あの技から逃れるには足りないようだ。

 

 「悟空ーっ!! もっと力を出すんだーっ!!!」

 

 「ゴク……完璧な固め……あやつの執念を感じるわい」

 

 手を手で、足を足で封じ、口と尻尾というイレギュラー的な要素まで許さない、万全の極め技。

 やはり脱出の手段はないのか、会場の全員が想いを同じくして息を飲む。

 ――――その一瞬の静寂の中に、悟空のか細い、絞り出すような声がこだました。

 

 「か……め……」

 

 「なにっ!!!?」

 

 悟空の手が光り、エネルギーが高まってゆく!

 拘束された状況で気を練り上げたことに驚く天津飯だが、悟空は手をきつく拘束され、かめはめ波を撃てたところで、天津飯に当てることも、脱出のための推進力を得ることもできないことに気付くと、余裕を取り戻した。

 

 「クク……無駄なあがきだ、今更何をしようと……!」

 

 「は……め……」

 

 だが、悟空のかめはめ波は止まらない!

 

 「悟空のやつ、一体何をするつもりだ……!?」

 

 「わからん……ムグ……、しかし、悟空のやることじゃ、かならず意味があるじゃろう!!」

 

 亀仙人がおじやを食いながら吐いた言葉に、俺は全面的に賛同する。 

 

 「波ぁーっ!!!」

 

 およそ三分のニほど落下した時点で、悟空のかめはめ波が輝き……両手に一つずつ蓄えられたそのエネルギーは、そのまま、互いに衝突し合う!!

 

 「そうか!! 反動かッッッ!!!」

 

 「なるほど!! かめはめ波同士の反動で――――」

 

 押し合うエネルギーは単に宙に放った以上の反動を生み出し、両手をそれぞれ、外側へと激しく動かす!

 その力と、腕そのものが生み出す腕力が組み合わされば!!

 

 「たぁーっ!!!!!」

 

 「ク、クソっ!!!」

 

 悟空脱出!

 次の瞬間には、拘束から帰ってきた手が口にかけられた天津飯の手を激しく叩く!!

 

 「ぐあっ!!」

 

 「よっしゃ! これで!!!」

 

 悟空はそのまま、天津飯の足を支点にして位置を逆転、背後へと回り込み……。

 

 「くらえーっ!!!!!!」

 

 「ガハ――――」

 

 両腕を合わせた『ハンマー』の一撃を叩き込み、天津飯を武舞台へと叩きつけた!!

 

 「て、天津飯選手武舞台に……ダウン! 天津飯選手ダウンです!! 動けません!! カウントを――――」

 

 重力、舞空術、そして悟空の叩きつけ、3つの要素が合わさった天津飯の激突速度は、最早音速を超えている。

 常人であれば原型すら残らないであろう速度、超人であっても、ただでは済まない!

 

 「ぐ、ぐふっ……だ、誰が動けないだ……と……」

 

 ……その激突を受けてなお、天津飯は立ち上がろうとする。

 しかし……その試みは、一気に体を持ち上げた所で限界に達し、膝から崩れ落ちたことによって完全に挫折した。

 

 「――――ナイン……テン!! 天下一武道会準決勝第2試合を制したのは孫悟空選手です!! 会場のみなさん、名試合を演じたお二人に、惜しみない拍手をーっ!!」

 

 「く……ソシルミと戦うどころか、鶴仙人さまの指示も果たせず終わるとは……」

 

 「いい試合だったな天津飯! オラわくわくしたぞ!」

 

 悟空が未だに立ち上がれぬ天津飯に向け、手を差し伸べる、天津飯はそれを見て、一瞬目を輝かせる。

 しかし……。

 

 「いらん!」

 

 「……そっか! ははははっ!!」

 

 天津飯は更に気合を入れると、笑う悟空を置いて師の元へと帰っていく。

 鶴仙人は破れた天津飯に『確実性を重視しすぎて締め付けを怠った』とか『破壊を焦りすぎて武を見失った』とか盛んに叱っている。

 ……師として、教えるべきことを教えているのだ。

 

 「天津飯は更に伸びるな」

 

 俺がそう言うと、プリカは軽く睨んだ、大方、ここで歴史通り天津飯が離反しなかったことで起こる変化を憂いつつも、師弟が仲良くしているのを否定はできない、そんな苛立ちを俺にぶつけているのだろう。

 下を見ると、丁度亀仙人も、似たような葛藤を感じさせる顔で唸っていた。

 

 「それにきさま、あのハゲの弟子にほだされおってからに!!」

 

 「は、はぁ……」

 

 ……よい師弟関係なら、長く続いて欲しいが、果たして。

 

 

 

 バナナ、おじや、それに炭酸抜きコーラと、ウメボシ。

 もっといいエネルギー食は沢山あるのだろう、だが、俺が選ぶのはこれしかない……盤面この一手、だ、

 俺が憧れたヒーローは、孫悟空だけじゃないのだ。

 

 「ムリ……ムチャ……マク……グム……」

 

 「前と同じ、凄い食べっぷりだ」

 

 プリカが呆れたような、感心したような声色で茶々を入れてくる。

 

 「ブハッ……『気』と呼ばれるエネルギーは文字通り、気力のことも指すからな」

 

 「気合を入れるには、ガッツリ食った気になるのも大事ってことか、なるほど……」

 

 「半分は験担ぎだがな」

 

 そう言って、俺は更に炭酸抜きコーラを開けようとする……が、その時。

 

 「ソシルミ選手、そろそろ試合開始です!!」

 

 「……よし、プリカ、すまんが片付け頼む、食器のカプセルはケースの空きに適当に入れといてくれ」

 

 「わかった、すぐ追いつく、……ここまで来たんだ、相手が悟空とか気にせず全力で戦って、勝ってこい!」

 

 プリカは俺に拳を突き出し、俺もまた、それに合わせてプリカの拳を叩く。

 本当にやりたかった形とは違うが、こんな拳の交え方も、悪くない。

 

 

 武道会場の有様は、ひどいものだ。

 壁は砕かれ、石畳は割れ、焼け、しかも血が滲んで、まるで戦争でもやらかしたようになっている。

 

 「それではいよいよ始まります、天下一武道会、決勝戦!! ソシルミ選手対、孫悟空選手ー!!!」

 

 「「うおおーっ!!!!」」

 

 一方、アナウンスと共に沸騰する観客達、そして、武舞台の周囲でなおも忙しそうにする人々が演じる慌ただしさと熱狂は、俺達がこれから演じる試合にふさわしい熱狂を醸し出していた。

 (なんと武舞台の外には警察まで居る、まさか試合中の負傷が刑事事件化しているわけでもないだろうが……)

 武舞台と周囲の剣呑な雰囲気、観客達の熱狂、そして、雲ひとつ無い青空が、俺にこれから始まる戦いの激しさを予感させる。

 

 「おまえはわが道場の歴史を全て超えた大天才、門下最強の弟子だ……必ず勝てる、天下一を取ってこい」

 

 師匠が、振り向くヒマもなく言葉を叩きつけ、背中を叩く。

 『今のところ』とも、『今度こそ』とすら付け加えぬ潔い賞賛が、今は心地いい。

 

 「さあ、両選手、入場です!!」

 

 互いに道着を替え、補給を済ませた俺と悟空が、ゆっくりと武舞台へと上がる。

 遠目に見ても分かるほどの数の生傷と、その大きいものだけを、申し訳程度に覆った手当の痕跡が俺達の体を覆っていた。

 

 「両選手ともに前試合の怪我が激しいようですが、試合の方は、大丈夫なのでしょうか?」

 

 「骨格と腱へのダメージは薄い、見た目より軽症だ、それに……」

 

 「それに?」

 

 「俺達はかつてなく気力が充実している、この程度の怪我で(リキ)が抜けるなど、ありえんことだ」

 

 「オラもだ」

 

 そうアナウンサーに答えながら、チラっと悟空を見れば、悟空は挑戦的に笑って、それに答えた。

 俺も悟空も、蓄えた力を叩きつけたくてうずうずしている。

 

 「さあ、試合開始のコールを頼む、みんな、待ちきれないんだ」

 

 「わかりました、それでは天下一武道会、決勝戦、始めさせていただきます!!」

 

 「よろしくお願いします」

 

 「……よろしくおねがいします!」

 

 俺達が礼を終えるのを見計らって、小太鼓、続いて銅鑼が鳴り響く。

 その瞬間、俺達はかき消えた――――ように、余人には見えたに違いなく。

 

 「ソ、ソシルミ選手、孫悟空選手、武舞台のあちこちに出現しましたーっ!!」

 

 次の瞬間には、そのような有様となった。

 

 「――――~~~ッッッ!!!!」

 

 「~~~~!!!!」

 

 ブゥゥゥン、という、大きなプロペラが回るような風音、パチパチという拍手のような音が武舞台から静かに響く、

 前者は言うまでもない、俺達が高速で移動する音、後者は、石畳から剥がれ落ちた石が弾き飛ばされ、敵に、あるいは『弾き飛ばした者自身』に衝突して砕け散る音だ。

 

 「ざ、残像拳!!! 残像拳です!! 両選手の残像が武舞台を埋め尽くすように広がっています、なんという高度な戦いでしょうか!!」

 

 「ヘン! あんな技、どーせ相手を捕らえられずに終わるわい、お互いも見えとらんじゃろ!」

 

 「いや……そうでもないようだぞ、兄者」

 

 敵が『見えている』場所には既に居ない。

 それは大前提として、『見えている敵』から読み取れるはずの情報、すなわち、重心、視線、佇まいもまた、ブラフに満ち、まともに読み取ることは困難だ――――が。

 

 「見えたぞッッッ!!!!」

 

 「見えたっ!!!!」

 

 それは不可能を意味しない!

 俺達は敵を捕捉し、更に、その敵が次に現れる場所までもを予見し、新たな決戦地を見出す。

 その姿は、見えぬものから見れば――――

 

 「――――まるで、戦いの彫刻館!! 二人の戦いがわれわれの網膜に焼き付き、まるで武舞台を彫刻の館に変えてしまったかのようです!!!」

 

 「もう始まってるのか!! ……前とは違う! 完全に見えてるんだ!!」

 

 ドップラー効果の中に霞む声が叫ぶ『前』の存在こそ、俺達が互いを捉えられる理由だ。

 互いの消え方、現れ方、それらへの理解を深め、シミュレートを繰り返したからこそ、俺達は互いを見失わずに済む!

 

 「俺達が見えているとしたら、残像に半生をかけてきた師匠くらいのものだろう」

 

 「いや、天津飯だって見えてるんじゃねえか?」

 

 小さく呟いた声が、少しのブレもなく、イヤにクリアに通って、俺達の間を往復する。

 そろそろ()()だ。

 

 「あやつら――――!!」

 

 「まさかあいつら、あの速度で寸分違わず互いを――――!!」

 

 並走する俺達二人は、歪んだ声を合図にするかのように、互いの足裏を蹴り飛ばし合った。

 そして!!

 

 「ムンッッ! ハァァ……ッッッ!!!」

 

 「か……め……は……め……!!!」

 

 武舞台の端と端、方や踊るように、方や、抱え込むようにして、気を高める俺と悟空!

 互いの最大のエネルギーを叩きつけ合うことをもって、この果てしない『序盤戦』を終わらせる!!

 

 「来いッッッッ!!!!!」

 

 「波ぁ~~~~っ!!!!!!」

 

 瞬間、()()、極光が湧き出し、迫りくる瞬間が見える!

 極限にまで引き伸ばされたあの時間の中で、俺は極光に閃光を叩きつけ――――

 

 「うわああっ!! 見、見えません、何も見えません!! 凄まじい力の激突です!!」

 

 輝きを掴んだ俺の腕は、そのままぐるりと一周し、その勢いを宙に逸らす。

 逸らす方向は『周囲』ではなく、空中そのものへの拡散である、これによって、武舞台や俺の体はこの廻し受けによって、壊れることなく、この無防備に受ければ細胞一粒たりとも残らないであろう一撃を消し去る事ができるのだ。

 

 「マ・ワ・シ・受ケ……やっぱり、こうなるのね」

 

 足元に、ぽたぽたと液滴が滴る音がする。

 破れた手のひらから溢れた血だ。

 

 「はぁ……はぁ……っ! や、やっぱミソシルはすげえや!!」

 

 「……散々鍛えたってのに、このザマだぜ?」

 

 俺はわざと、痛む手のひらをひらひらさせて見せる、その痛々しさに観客席のあちこちから悲鳴が上がるが、俺はあまり痛くない、脳内麻薬とヨガのおかげだ。

 

 「オ、オレの時はどんなに頑張っても傷一つ付かなかったのに……!」

 

 「威力が……いや、わしが教えたかめはめ波とはすべてが違う、プリカの技を取り込んだか……」

 

 ……血の滴る拳を握る、開く。

 

 「今度は俺の番だ、いいな?」

 

 「おう!!」

 

 笑いかける俺に、笑って答える悟空、これは師匠との儀式じみたやり取りとは違う、互いが出す技という料理を、敵の肉を、すべて喰らい尽くしたい戦士同士のプレゼント交換なのだ。

 俺はもう一度拳を見て、エネルギーを高め……今度は、ただの輝きではない、更に強く輝かせてゆく。

 滴る血が、光る、そして、爆ぜる。

 

 「ソ、ソシルミ選手の手が、いいえ、傷口から出る血さえも輝き、小さく発泡……いえ、爆発しています……!!」

 

 「オレをやった時の技か!!!」

 

 そうだ、この技はクリリンの曲がる気弾を消し飛ばし、試合の趨勢を決めた『爆発する拳』……その応用形。

 エネルギーに『爆発』という分かりやすい形の破壊のニュアンスを練りこんだこの拳は、これまでのように『ただ固いから殴っても強い』などという消極的な力ではなく、応用によって更にすさまじい威力を発揮する!

 

 「ッツァアアッッッ!!!」

 

 「いっ!!?」

 

 決め技、そう思わせる程に高まったエネルギーに反して、俺の拳は極めて軽快な速度で悟空を打つ!

 

 「ぎゃああ!!!」

 

 「ご、悟空ーっ!!」

 

 「孫くん!!!」

 

 悟空に叩きつけた拳を腰まで引き戻し、俺は次の一撃に向けて気力を練る。

 かつて気力大移動と呼んだ技は、エネルギーを拳の加速に使う全関節に向け順番に流し込み、打撃の速度とインパクト力を上げるだけの技であった。

 しかし、この技は違う、加速しつつ拳へと向かうエネルギーとその速度をそのまま爆発力へと変えることで、拳の命中せぬ敵にまで叩き込むことができる!

 

 「タトタタタッッッ!!!」

 

 「くぅっ……!!」

 

 俺の拳が悟空を叩けばそこが爆発!

 悟空を掠めれば爆発!!

 それが一体どーゆーことかッ!!

 

 「ち、ちくしょう……近づけねえのか、プリカと同じだ!!」

 

 「プリカには悪いが、あの技より上だ、快速にして高威力、奴の技は技術を必要としないが、この技は拳の当たり方すら必要としない」

 

 当たり方を問わないのであれば、打ち方が可能になる。

 逆に、迫る側にとっては、こちらのあらゆる動作が脅威となるのだ。

 

 「ま、まさかミソシルがこんな技を使ってくるなんてな……」

 

 「驚いたか」

 

 「オラ、ミソシルは殴り合いがスキだとばっかり思ってた」

 

 「今でも大好きさ」

 

 ……そう、この技は邪道だ。

 鍛えた格闘技術を投げ捨て、敵にもまともな戦いをさせない、『持ち味を活かす』戦いとは正反対の技術。

 だが、これもまた武!

 

 「師匠が教えてくれたんだ、持ち味を活かすことが戦いなら、活かさせないことも戦いだとな」

 

 「……フツーのことじゃねえのか? それ」

 

 「確かに、笑っちまうくらい普通だ」

 

 会話はそこで止まり、再び、武舞台上は俺の爆発に支配される!

 悟空はまさしく天性のセンスで、俺の拳が描く新たな軌道を把握し、攻撃を回避していくが……甘い!

 俺は中空で右手に爆発を引き起こすことで悟空が刻むステップの起動を変化させ、左手でその隙を突く!!

 

 「ぐぎゃああああ!!!」

 

 爆発の威力に喘ぎながらも、悟空はしっぽを含めた五体で必死に姿勢制御を行い、武舞台上へと着地する。

 どうした孫悟空、この程度ではないだろう!

 悪役のようなセリフが脳裏を掠めるのは、俺の中に一筋の引け目――――悟空相手だからではない、自らの技への――――があるからに、他ならなかった。

 

 「悟空、俺の体力消耗を待っても無駄だぞ……今の俺は完全に気力が充実してるんだ、一日だって戦っていられる」

 

 「そうみてえだな、でも、オラはもう、おめえの技がわかったぞ!」

 

 「シャアァァッッッ!!!!」

 

 見せてもらおう、そう口で言う代わりに、俺は再び突撃する。

 その瞬間、悟空は俺を飛び越すように飛び上がった。

 

 「たっ!!!」

 

 「()ッッッ!!!」

 

 続けて、俺の腕が悟空を追い、爆発が悟空を地面に叩きつける!

 

 「貴様、今のが策とは……」

 

 悟空は、にぃっと笑い、再び俺を見据え……今度は正面から殴り合うための構えを作った。

 いいだろう、お前に攻略されてやろうじゃないか。

 俺は期待を抑えきれずに笑い、手足を広げて構えを取る。

 

 「()ッッッッ!!!!」

 

 「きええええっ!!!!」

 

 俺の右腕が袈裟斬りに振り下ろされる……その瞬間、悟空は腕を上げて手を防ぎ……爆発の瞬間腕を下げ、爆風の勢いを逸らす。

 避けるだけならば容易い、だが、これ以上どうするつもりだ、俺には左手があり、足までもが残されている――――そう考えた瞬間!

 

 「っ!!!!!」

 

 「なッッッ!!!?」

 

 悟空は体勢を下げる勢いをそのまま、逆立ちをするように足を振り上げ、俺の右手を蹴りつける!!

 

 「やっぱそうかっ!!!」

 

 「シィィィッッッ!!!」

 

 ダメージはさほどない、苦痛などいくらでも耐えられる、だが、拳と足の衝突によって生まれた間隙は――――

 

 「たああーっ!!!」

 

 「ガブ…………!!」

 

 悟空の拳を俺の鳩尾に届かせ、体ごと壁に激突させるに十分な大きさがあった!!

 

 「命中ーっ!! 孫悟空選手の攻撃が命中しました!! ソシルミ選手、大きく壁にめり込み……壁ごと崩れ落ちたーっ!!」

 

 「ソシルミーっ!!! おいっ、どうってことないだろ! さっさと起きてこい!!」

 

 騒がしい観衆やアナウンサーの声がやたらと悟空を褒めそやす中、頭上では相棒が好き勝手言ってくれている。

 立たねば。

 

 「はっはっは、……ゲホッ、いいのを貰った、流石だな」

 

 「ミソシルが本気じゃなかったからな」

 

 爆発する手は使用時に必ず、エネルギーチャージか気力大移動を必要とする。

 そのどうしようもない『貯め』の一瞬、輝く手では発生しない『再装填』を突かれた。

 ……だけではなく、再装填の隙をカバーする動きさえ完全に阻害された……謙遜されても嫌味に感じるほどのやられっぷりだ。

 

 「全力のつもりだったんだが、まあ、慣れないことはするもんじゃないって、ことなんだろう」

 

 「いつものミソシルなら多分、飛び上がったら掴んでくるだろうなって……でも、そうじゃなかったろ?」

 

 ……なるほど、技の限界と、慣れない技への動揺……、そこまで読まれていたというわけか、と、続く腹部の激痛を抑え込みながら呟く。

 俺は打撃命中時に、内臓の配置を操作しダメージを軽減し、更に、命中後は内臓のショックを最大限に抑える。

 決してやせ我慢などではない防御技術を駆使し、ギリギリまでダメージを抑え込み、ようやく平然と会話出来るレベルまで回復したのだ。

 

 「よし、真面目にやるぞ、付き合え」

 

 「よっしゃ!」

 

 俺は性懲りもなく、悟空に挑みかかる。

 今度は殴り合いの構え、悟空も同じだ。

 俺達は互いに血まみれの笑みを浮かべるが、青空を観客席越しに背負った悟空の姿は清々しく……いい。

 青空には先程まではなかった幾筋もの飛行機雲が刻まれ、俺にはそれが悟空が放つ後光の輝きにさえ見えた。

 実にいい、これこそ、天下一を競う舞台に相応しい武道家だ!

 

 「()ァッッッ!!!!」

 

 「!!!!」

 

 小技など弄さない、大技で誤魔化しもしない!

 俺の拳が悟空の頬を切りつけ、悟空の拳が、俺の脇腹を抉る!!

 

 「――――ッッッ!!!」

 

 「しっ!!!」

 

 拳と拳を叩きつけ、足と足を払い合う、時に背を向け、時に飛び退きながらも、純粋な戦いの鼓動だけは敵を貫き続ける。

 これこそが試合!

 

 「()ッッ!!!」

 

 「ふへ!!!?」

 

 俺は悟空の拳に手のひらを合わせ、軽く捻り上げる、すると、悟空は激しく一回転し頭から武舞台に……ではなく、足から着地した。

 戸惑う間に叩き込まれた俺の拳が、悟空の顎を撃ち……大したダメージも与えず、悟空の体を跳ね上げるだけ跳ね上げ、体を一歩後ろへと追いやる。

 

 「ミ、ミソシル、おめえ今――――」

 

 「効くは効く、かッッッ!!!」

 

 更に、悟空の足の筋を指で踏みつける!

 すると、悟空は叫び、その動きを止め……ずに、苦悶のままにぎこちない動きで俺の頭を薙ぎ払おうとする!

 間一髪で避けた俺に、再び疑問の視線を向ける悟空、その放つ拳の軌道をこれまでの経験から読み、回避、拳を肩から流して投げれば、武舞台の外へ――――

 

 「――――うわっとっとっとぉ……!」

 

 「……やっぱ無理か」

 

 俺が今使った技術はいわゆる合気の類に属する技であり、敵の体の構造と力の流れを利用し、少しの力で敵を自滅へと追いやる技……なのだが。

 そもそも体構造からして違うサイヤ人には通じない、というか、通じるのかもしれないが理解が足りない……サイヤ人も悟空も、理解を深めてきたと思ったが、まだまだ足りないようだ。

 

 「くっそう……せいやーっ!!」

 

 「甘いッッ!!!」

 

 相次ぐ不可解な技にしびれを切らした悟空が放つ全力のパンチ!

 だが、俺はその直情的で不規則な一方、同調すれば読みやすいとも言える悟空の拳を読んで手を広げ、そのまま腕をはっしと掴み、そこに潜む力の流れと筋骨の流れを操作して……投げる!!

 

 「うわっ!!?  ……波ーっ!!」

 

 「……やっぱだめか、期待もしてなかったが」

 

 投げ飛ばされた悟空はそのまま、空中でかめはめ波を撃ち、滑り込むように武舞台へと戻ってきた。

 

 「お、おめえ……、いま何やったんだ?」

 

 「合気だ、敵の力や体の構造を利用する……これこそが本来の技というもの、機会があれば学んでみるといい」

 

 「じゃ、後で教えてくれよ」

 

 「いいぞ」

 

 武舞台の上とは思えぬ、和やかな会話が繰り広げられる、というか俺が悟空に合わせ、悟空はそれに甘えている。

 戦いの中とはいえ、この程度の楽しみは許されるだろう。

 だが、そんな甘えも、これで終わる。

 俺は八手拳、否、八百拳の構えを取り、悟空を睨んだ……その瞬間、会場は息を飲み、鳥は逃げ、飛行機雲を塗り潰すように空を覆い、悟空はこれまでになく広い構えを取って俺の攻撃に備えた。

 

 「……やるのか!」

 

 俺は何も答えず、その気迫のみをもって、答えとした。

 

 

 足下の石畳が砕け散る感触を確かめながら、刹那の間に距離を詰める。

 その時には既に、俺の体は無数の残像に包まれ、次なる技を示す『意』すらも巧妙に隠された拳が悟空に狙いを定めていた。

 いくら早く動かそうと、腕の数は二本……ではない、偽装された腕、二の矢として用意された腕、全てを合わせれば、技が名乗る800すら、ゆうに上回る腕が悟空を狙う!

 

 「――――ッッッッ!!!!!」

 

 「へ、ヘヘッ!!」

 

 悟空は目の前、視界いっぱいに……それ以上、過去と未来、虚と実の全てへと広がっていく拳を、感覚、頭、反射、全てで捌き、凌ぎ、迎撃し、そのいずれも及ばなければ後退によって、かわしてゆく!

 

 「八手拳は動くのもできるのか!!」

 

 「あれは試験用の技などではなく、実践技だ、敵が逃げれば追うのも当然!!」

 

 俺が追えば悟空が逃げ、悟空が抗えば、俺はそれに合わせて更に拳を突きつける。

 付け焼き刃の八手拳を出そうなどと考える暇も与えない、絶対的な連撃、空間だけではなく、時間と虚実へと広がる支配、制空権、それこそが八手拳が持つ真の価値!!

 

 「ご、悟空……!」

 

 「チャパ王を真に伝説にしたと言われる八手拳、それを上回る技があれか……!」

 

 すんでの所で避ける、などという甘えはこの技には通用しない。

 何故ならば、俺には強力無比の輝く手があり、鍛え上げた指技の威力を斬撃の域にまで高めているからだ!!

 

 「あ、あやつら、よもやあそこまで…………!」

 

 「どうだ、天津飯、見えるか」

 

 「……いえ」

 

 拳が貫き、指が切り、掌が打ち据える!!

 この地球上屈指と言える俺の連撃は、気力大移動の高速拳によって最早抵抗を許さぬ領域へと加速する!!!

 否……それ以上、俺も悟空もこの激戦の中で、残像拳にすらかかる僅かなタガが外れ、これまでにはあり得ない……最高以上のコンディションを更に越える、限界を超えた力を発揮しているのだ!!!!

 

 「く……もう、後が……ねえ……!!」

 

 敵手の足が武舞台の端を撫ぜる感触が拳を通じて伝わる。

 どうする、悟空。

 熱狂の中にある心が、最後の最後、追い詰めた敵の再起を願った。

 

 「……ったあ!!」

 

 「何ッッッ!!?」

 

 飛び上がる悟空、高く飛び上がれるはずがない、足を曲げる暇すら与えてはいない。

 俺の拳から逃れられる高さでは決して無い、何故だ、何故飛び上がる―――――

 

 「これで……!!」

 

 「五本全て使うためかッッッ!!」

 

 孫悟空の五体、五本の手足、尻尾!

 その全てを俺に突きつける悟空!!

 

 「たあ~~~~っっ!!!!!!!」

 

 「()ェェァアアアアッッッッ!!!!!!」

 

 拳2つに対し、拳2つ、足2つ、尻尾一つ!

 飛んで戦うのはサイヤ人の血の記憶か、以前の戦いの記憶か、それとも単なるこの場での思いつきか!!

 どれにしても素晴らしい、どれにしても……凄まじいッッッ!!

 

 「アアアア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!」

 

 「~~~~~っ!!!!!」

 

 最早、誰の声も聞こえはしない、どんな喧騒も、武舞台の姿も、気になりはしない!

 互いの雄叫び、五体が奏でる音、感触、それだけが俺達の全てだ。

 数える気にもならない時間、だが、悟空が飛んでから、落ちるまでの、ほんの一瞬の間に――――

 

 「だあーっ!!!!!」

 

 「~~~~ッッッッ」

 

 ――――俺の最強、最後の必殺技は打ち破られ。

 

 「ソ、ソシルミ選手ダウン! 武舞台中央のソシルミ選手横たわっています! ……ワン……ツー……!」

 

 俺の胸に突き刺さった拳は、俺が持つ立ち上がる力を、全て奪い……。

 …………仰向けに転がった俺の眼に、寺の屋根が、その上の、2つの影が映る。

 ………………。

 

 「ミソシル」

 

 「大丈夫だ、まだやれる」

 

 「シックス、セブ……ソシルミ選手、立ちました!! 立ち上がりました!! 試合続行!!!」

 

 よろけながら立ち上がる俺の心臓は明らかに異常な振動をしている。

 一呼吸、二呼吸してそれを抑え込み、三呼吸、四呼吸のうちに、全身の震えを抑え込む。

 

 「……人のことは言えないタフさだ、我ながら、呆れるね」

 

 「オラとは違うんだろ? ミソシルは頑張って我慢してるんだ」

 

 「頑張ってる……か、ああ、そうとも、お前とか、そこで俺が寝ちまわないように番をしてくれてるあいつとか、そういうのと殴り合うにゃ、この体は不便だからな」

 

 もちろん、良いことだって沢山ある。

 俺は生まれ変わって得たこの新たなる相棒に言い訳をするように心の中だけで呟いて、悟空を見た。

 そして、屋根の上の相棒を見る。

 

 「今度もちゃんとやってやる、だから、見ててくれよ」

 

 相棒は小さく動く……霞んだ目でも、頷いたのだと分かった。

 それを黙って見逃した悟空に向き直り、俺はエネルギーを集中する。

 

 「………………やるぞ」

 

 「おう」

 

 溜めが長いから殴っちゃった、なんて言わない、理解ある態度に感謝し、俺を立ち上がらせた全てと、立ち上がった体に礼を言う。

 そして、拳を腰だめに構え……視界が暗くなった。

 俺の目はブラックアウトしつつあるのか、今いいところなんだから、待ってくれ……。

 

 「悟空!!!! ソシルミ!!! 避けるんじゃあ!!!!」

 

 「え、あ!!!!?」

 

 「なッッッ」

 

 違う、なんだこれは、上空からプレッシャー!!

 亀仙人の怒鳴り声!!?

 俺達は反射的に屋根の上――――ギリギリ、場外を免れそうな領域――――へと、同時に飛び乗り。

 武舞台に振り向くと、武舞台が、客席の一部ごと、消え去っていた。

 

 「……は?」

 

 「ふはははははは!!! 避けおったか、どうやら、随分鍛え込んだやつがいるようではないか!」

 

 上からの声……どこか聞き覚えのあるその声を見上げる。

 緑色。

 

 「喜ぶがいい、きさまらは、この時代で最初に……」

 

 触角の生えた老人、胸に丸い文様と、何やら文字。

 

 「このピッコロ大魔王に殺される人間となったのだ!!!」

 

 

→つづく




都合、今年最後の投稿になります、桐山です。
今の所は予定通りのペースです、転生地球人。
そろそろ早めないと連載期間が凄いことになってしまいますが、難しい局面なのもあって、ある程度は許容しておきます。
とりあえず、年末年始の挨拶はあと3回くらいにとどめておきたいところですが、どうなることやら。

さて、ついに出てきた、結局出てきた、ピッコロ大魔王です。
何故封印が解かれたのか、何故天下一武道会へとやってきたのか、あらゆる謎が明かされる……時はきっと来ます。
来年もお楽しみに!

それでは皆さん、良いお年を。
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