転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第二十六話:転生地球人が力を望むまで

 板状の金属に別の金属が衝突する甲高い音。

 回転する機械が風を叩く音。

 火薬の爆発音、動力機械の爆発音、肉が肉を叩いて破裂させる音。

 そして、叫び声。

 

 「…………ここは……?」

 

 戦場、そしてヘリコプターの中だ。

 それはすぐに分かった、聞き慣れた戦場の音、魔族……そして、よく知った人々の叫び声。

 ……だが、違和感が拭えない、何かが、足りない。

 俺は確か、突如、何故か現れたピッコロ大魔王に挑み、敗れたはずだが……。

 

 「プリカの奴め、見捨てろと言ったのに……」

 

 ヘリに乗り込んで戦っているなら、おそらく今は撤退中だろう。

 鶴仙人と亀仙人、そして桃白白は、ピッコロを倒せなかったのだ。

 いや、俺が気になっているのは、そんなことじゃない、声がしない、あるはずの『声』が足りない――――

 

 「師しょ……ゲフッッ…… 師匠!!」

 

 「ソシルミさん、目が覚めたんですね!!?」

 

 横から、大男が顔を覗かせた。

 ……バクテリアン、俺と戦い、俺から学び強くなった男。

 そうか、こいつも一緒に逃げているのか。 

 

 「し、師匠はどこだ……?」

 

 「チャパ王さまは……その……」

 

 顔を曇らせたバクテリアンが言いよどむ。

 俺は、もう分かった、言わなくていい、と、固く目を閉じることによって伝える。

 師匠は、死んだ。

 

 「俺達は負けた、師匠は死んだ、そして今、このヘリは逃げているんだな?」

 

 「その通りです、でも、逃げ切れるかどうか……」

 

 バクテリアンは目を伏せる……いや、地面の方を見る。

 おそらく、ピッコロ大魔王が地面から見張っていて、その気になればこのヘリは堕ちる、そう言いたいんだろう。

 ほんの数秒だけ難しい顔をしていたバクテリアンだが、すぐにはっと顔を上げ、ヘリに取り付こうとする魔族を叩きにかかった。

 もはや俺という重傷者にかまっている時間もないらしい。

 

 俺の体はひどい有様だった。

 手が焼け焦げているのは元からだったが、ピッコロの一撃を受けたせいで、同じくらいのやけどが全身に散らばっている。

 それだけではない、衝撃で内臓が受けたダメージもひどく、頭部を含めてあちこちが脳内出血を起こしていた。

 医者であれば、どうして生きているのか分からないと言うであろうダメージを、地球人としては規格外の生命力と、培ったヨガの無意識な活躍で、どうにか、生きていられるだけに抑え込んでいるのが、今の俺の状態だ。

 

 「師匠……」

 

 ドラゴンボールがある、そうどれだけ自分の胸に言い聞かせても、抑えることができない。

 俺を8年間養い、鍛え上げたあの好漢は死んでしまったのだ。

 しかも、魔族に殺された者の魂は成仏出来ずに苦しむという、今はどこで、どう『苦しんでいる』のか。

 師匠はなぜ死んでしまったのだろう、悔いはなかったのか?

 ドラゴンボールで生き返れると信じて、覚悟の上で自分の身を投じたのだろうか。

 俺は無念に浸ろうとするが、それを止めるかのように、叫び声が響く。

 

 「く……くそっ!!!」

 

 俺の無念を引き裂いたのは桃白白で、その理由は一瞬後にわかった。

 ガン、と大きな音の後、響くエンジン音が奇妙な……何か、致命的な気配を感じさせるものに変わったのだ。

 

 「エンジンをやられた!! 脱出するか……!?」

 

 「無理です!! 下はもう魔族に――――」

 

 天津飯がまた、絶望的な一言を放つ。

 どうやら脱出してもしなくても、俺達にもはや逃げ場はないらしい。

 それでも腹をくくるしかないか?

 そう思った時、船の無線機が甲高い音を立て、何か、電波を受信し始めた。

 

 《ザ……ザザ……わたしは……ザ……》

 

 しびれを切らした桃白白が、戦っている連中に声をかけようとした瞬間、ヘリの無線機がひとりでに無線を受信し始めた。

 原理すら不明だが……ただ一つ言える、こんな事ができる奴は、この世にほんの数人しかいない。

 

 《わたしはピラフ大王、きみたちを助けに来た、ギリギリまで速度をあわせる、わたしの機体に移乗してほしい》

 

 「ピラフッ!?」

 

 痛みを堪えて後ろを見ると……確かに、ピラフの機体、元の歴史ではピラフがピッコロ大魔王に譲り渡した機体だ。

 それが、めちゃめちゃに砲台を動かし、魔族を撃ち倒しながらこちらへ向かっている!

 唖然としていると、ヘリから身を乗り出して戦っていたプリカが機内に戻ってきた。

 

 「お、おい、桃白白! どうす……ソシルミ! 起きてたのか!!」

 

 「ああ、……この状況、不可解だが、奴の申し出に乗るしかあるまい、機体ももう、持ちそうにない」

 

 「その通りだ」

 

 桃白白が俺の言葉につなぐ。

 

 「だが、ピラフ大王とやら、ピッコロ大魔王はどうするのだ?」

 

 《そ……それはなんとかなる、とにかく乗り移ってくれ!》

 

 「フン、秘密か、まあいいだろう」

 

 そのやり取りを聞いたプリカは少し考え、自分の意見を加算し、多数決が成り立つと思ったのだろう、『残り二人』のクルーに声をかける。

 

 「天津飯!! バクテリアン!! この機体を捨てて、後ろから来るやつに乗り移る!!」

 

 「ダメですよプリカさん! 空は魔族でいっぱいです!! あの機体だって、狙われてます!!」

 

 バクテリアンが悲鳴を上げた。

 確かに、航空機や身一つで飛ぶ魔族の軍団で、空はいわゆる『青く見えない』状態になっている。

 だが、やるしかない。

 

 「しょうがあるまい、舞空術を使えるオレが先に出て露払いをする、そこをきさまらと桃白白さんが飛ぶんだ!」

 

 「天津飯……お前の実力は分かっているつもりだ、だが……」

 

 「ソシルミ、きさまに心配される筋合いはない、わたしはただ、鶴仙人さまの仇と戦うための戦力を減らしたくないだけだ」

 

 天津飯はそう言って、魔族の群れへと飛び込んだ!

 その瞬間、あちこちから魔族の弾丸、砲弾が天津飯に殺到する、天津飯はある弾は手で掴み、ある弾は腕で受け、そして、ある弾は覚悟を決めた腹筋に迎え入れていく。

 ――――あんな戦いは長くは続かない、このままだと天津飯は袋叩きの末、死ぬ!!

 

 「プリカ、早く飛べ!!」

 

 「お、おまえを置いてく前提で言うな! つかまれ、さっさと行くぞ!!」

 

 プリカは俺を無理やりに背負い、ヘリの出入り口へ向かい、そこで立ち往生する。

 俺を背負い、敵だらけの魔族の中に踏み込むには、このヘリは脆く、プリカの力も足りないのだ。

 

 「わ、わたしが投げます! その瞬間にプリカさんも飛べば、なんとか……!」

 

 「そ……そうか! よし!」

 

 「待て、バクテリアン、お前の脱出はどうなる!」

 

 「追ってすぐに行きます」

 

 バクテリアンはやけに清々しい笑顔でそう言い放つ。

 何か、まずい気がする、このままだと、また……。

 

 「考えてるヒマあるか、行くぞソシルミ、バクテリアン!!」

 

 「はいっ!!」

 

 プリカとバクテリアンは勢いよく掛け声を放ち、バクテリアンが差し出した手の上にプリカが立つ。

 そして、そのままの勢いで一気に、二人の満身の力でピラフの飛行機へと――――

 

 「ガッ……グオオ……!」

 

 「だ、大丈夫かソシルミ!?」

 

 激突しながら、転がるようになんとか甲板へと着地(着艦? 着機?)した。

 うろたえるプリカを宥めながら、俺は甲板の隅に配置されたハッチへと這う。

 

 「ぐああっ!!! こ、このままだとこっちも持たん! バクテリアンと桃白白さんはまだか!!」

 

 天津飯が腕と足に大きな銃創を作って叫ぶ。

 ヘリはふらふらと飛び、すぐにでも墜落しそうだ。

 

 「とああっ!! 天!! 早く機内に入るぞ!!!」

 

 「バ、バクテリアンのやつはどうしたのです!?」

 

 「桃白白様、バクテリアンはッッ!!!」

 

 俺と天津飯が叫ぶのはほぼ同時のことで。

 よろめく機体が踵を返し、魔族に攻撃されながらゆっくりと高度を下げ始めたのも、また、ほぼ同時のことだった。

 

 「バクテリアンッッッ!!! 戻ってこい、バクテリアンッッッッ!!!!!」

 

 ハッチを閉めると共に急速に加速し始めた機体は、ピラフの予言通り、地上で目を光らせているはずのピッコロに攻撃されることなく、魔族の群れを引き離し。

 ……こうして、俺達による二度目のパパイヤ島来訪は、終わりを告げたのだった。

 

 

 

 機体の中に迎えられた俺に、プリカは即座にホイポイカプセルを展開――――案の定、一分ほど見つけられずあたふたしながら――――仙豆を俺の口にねじ込んだ。

 元気いっぱいになった俺がやったことは、ただ一つ、ブリッジへと乗り込み――――

 

 「貴様ッッ!!! ピラフッッッ!!!!!」

 

 「ぐ、ぐげ……」

 

 「や……やめろソシルミ! お、おい!!」

 

 何をやめるのか、俺はピラフの首根っこを掴み、その顔を俺の顔より更に高くへと釣り上げているのだ。

 それをやめろと言われている。

 やめる気はない、プリカもそれが分かっていて、俺に突っかかることもなく、ただ怯えるだけだ。

 

 「ピラフ、これは一体どういうことだッッ!!!」

 

 「わ、わたしたちは、間違った道を選んだのだ……」

 

 ピラフが要領を得ないことを言い出すのを、力を緩めて聞いてやる。

 

 「メシヤキ族はもともと、魔族だった、父上が、あいつの、ピッコロの封印を見てから、変わった」

 

 「ピッコロの封印とメシヤキ族に何の関係がある」

 

 「隠し場所を、外交の、切り札にした」

 

 魔族であったピラフの父は、ピッコロ大魔王の封印を目撃し、それを外交カードに魔族の群れから独立した、そう言いたいのだろうか。

 

 「そ、それは間違っていた……やり方が間違っていたのかもしれない……」

 

 「何が起こった」

 

 「わたしたちの国はルシフェルに襲われて滅び、そして今も……魔族に襲われ、ピッコロの封印を解く手助けをさせられたのだ……!」

 

 「そしてお前はむざむざと情報を吐き、のこのこ俺達の所までやってきた!!」

 

 「すべてはわたしのせいだ……道場のみんなも、殺されてしまった……ラパータも、ローティさんも……!!」

 

 予想外の名前に、俺は再び手の力を強め……そこでようやく、プリカが俺の腕に手をかけ、頭を横に振った。

 …………。

 

 「皆を殺した奴らに、従ったと」

 

 「ピッコロ大魔王の居場所とドラゴンボールのことを吐かねば、シュウとマイを、殺すと言われたのだ……」

 

 シュウとマイ、ピラフの二人の部下。

 俺は3年前、そいつらを助けようとするピラフに仙豆をくれてやった。

 その時感じたのは喜びだった、生命の尊重、部下への愛、それらを助けるのは、俺にとって何より心地のいい、自分らしいことだと、思えたのだ。

 ……ピラフの首にかけた手をゆっくりと下ろし、襟を離す。

 

 「げほっっ……げっ……」

 

 「ピラフ、感情的になってしまった、すまない」

 

 「あ、謝らなければならないのはわたしだ、わたしなんだ……」

 

 俺はいつの間にか垂れていた涙を、ボロボロの僧衣で拭う。

 ……僧衣はボロボロだが、体は仙豆で新品同然だ、そのミスマッチが気色悪い。

 よし、くだらないことを考えるだけの余裕はある、戻ってきた、そのはずだ。

 俺が調子を取り戻そうとしていると、それを待ち構えていたのだろう、桃白白が話しかけてきた。

 

 「それで、ソシルミ、感動の和解もいいが、状況が分かったところで、次にどうする?」

 

 「ひとまず魔族は撒きました、となれば、次は着陸し、戦いに備えるべきです、この機体は大きいが、やれることは限られていますから」

 

 「……この分では、亀仙流、鶴仙流ゆかりの地は危ないだろうな」

 

 「あいつらの情報収集能力を考えると、そうなるか……」

 

 桃白白とプリカの言う通り、この歴史の魔族はおそらく非常に情報収集能力が高い。

 となると、我々の拠点は抑えられているだろう……と言いつつ、俺の脳裏にはすでに撤退先の候補地が浮かんでいた。

 十分な居住空間と機材があり、ある程度秘匿性の高い基地――――

 

 「ピラフ、座標は俺が入力する、そこに向かってくれ」

 

 「あ、ああ……わかった」

 

 俺はピラフ、桃白白、プリカを伴って操縦席へと向かい、コンソールを操作する。

 座標を入力していく俺に、ピラフとプリカは首をかしげ、桃白白は、ニヤリと笑った。

 プリカが座標を見て、それから俺の顔を見て聞く。

 

 「それで、ここにはなにがあるんだ?」

 

 「マッスルタワー!」

 

 今度はプリカも笑った。

 

 

 

 『臨時ニュースを――――正体不明の武装勢力がパパイヤ島に――――スクランブル発信した空軍機からの連絡が――――』

 

 ボサついた髪を掻きながら、着崩した……というよりは、急いで着込んだであろう、汚いスーツの男が必死の形相で原稿を読み上げる。

 内容は、俺達がさっきまで体験してきたこと、そして、俺達が知らないことの数々。

 

 『――――武装勢力はパパイヤ島に点在する複数の仏閣を襲撃し――――未確認情報ながら、パパイヤ島中央病院になだれ込んだとの――――』

 

 「チャオズ……!!」

 

 俺の隣で横たわる男、天津飯が悔しげに呻く。

 ……ヤムチャとチャオズ、二人が担ぎ込まれた病院は、確かあそこだったはずだ。

 

 『空港及び、空軍基地などが中心的に攻撃されているとの報告の後、パパイヤ島全土との交信が途絶え――――今入ったニュースです! パパイヤ島への襲撃と時を同じくし、西の都を含む世界各地域に武装勢力が現れ、西の都の○○地区では大きな爆発が――――』

 

 ニュースは続く。

 

 「す、すごいことになってるんだな……」

 

 「ああ、『ハッチャン』、魔族どもは好き放題の大暴れだ……嫌になったなら今から逃げてもいいんだぞ、ここだっていつまで安全かわからん」

 

 天下一武道会の会場で行われた殺戮は、おぼろげながら俺の記憶にも残っている。

 ……俺が避けた最初の一撃の時ですら、数十人の観客達が消滅したのだ。

 あの暴威が世界を襲う、戦いが嫌いな『ハッチャン』も例外ではない。

 

 「いや……、困ってる人ほっとくの、いけない、それに、おまえたちはソンゴクウの友達だ」

 

 「オレは違う」

 

 天津飯はまともに動かない体を無理に動かして、プイとそっぽを向いた。

 ……魔族との戦いで重症を負った天津飯に、俺はたった一粒しかない仙豆を、半分くれてやるつもりだった、しかし、プリカの奴はあまりにも焦っていたのか一粒の仙豆を俺の口にねじ込んでしまったのだ。

 残されたのは命に別状はないまでもひどい怪我をそのまま残した天津飯、俺は負い目を感じた……という程でもないが、自分から申し出て助けに来てくれた人造人間8号、ハッチャンと共に、マッスルタワーの医務室で看護を行っていた。

 

 「天津飯、チャオズと鶴仙人様を復活させる方法があると言ったら、どうする」

 

 「なにっ!!? きさま、一体……いや、あるのか……?」

 

 「ある、俺があの時、ピラフ大王と争っていたのはその手段、ドラゴンボールだ」

 

 「では、今すぐにでも……」

 

 「ピッコロ大魔王を撃破しなければそれは叶わない、ピッコロ大魔王は間違いなくドラゴンボールを抑えている」

 

 天津飯は、ぐう、と歯を食いしばった。

 憎んでいたはずの兄弟弟子との共闘の末、無念のうちに果てた師匠、おそらくは戦うことすら出来ずに斃れたであろう、弟弟子、蘇らせることが出来るならば、なんとしても手を伸ばしたいに違いない。

 ……俺も自分の手の届かぬ場所で師匠を失い、半生を共にした道場もまた、魔族の襲撃によって壊滅したのだ。

 俺は機内でピラフから聞き出した道場の最後を想って歯噛みし、とりあえずその想いを抑え込んで、天津飯に語りかける。

 

 「意外だな、天津飯」

 

 「なんだ、藪から棒に」

 

 「お前は……俺がこう軽薄に、不思議な情報を提供したら、意味なく反発すると思っていた」

 

 「ソシルミ、なんだかわからないけど、そういうことを言っちゃいけない気がする……」

 

 ハッチャンが俺に釘を刺す……ああ、そうか、『人造人間8号』。

 かつて俺が鶴仙流を裏切った理由として選んだカバーストーリーは、武道家全てを過去にする人造人間を製造するレッドリボン軍の脅威だった。

 それがわかりやすい形で真実だと分かってしまえば、俺を憎む理由そのものが限りなく小さくなる。

 

 「そうだ、おまえが想像している通りだ、おまえは、オレたちよりよほど多くのことを知って、それをなんとかしようとしてきた、そして今……オレもまた、おまえが防ごうとしてきたこととの対決を迫られているんだろう?」

 

 天津飯の理解は事実の全てではない、それどころか、過程には大きな偽りまでもが入り込んでいる。

 ……だが、それでも、俺達の行為を、思いを、十分以上に理解しているのだ。

 

 「――――ああ、奇遇ですね、桃白白さん! 一緒に入りましょう、ちょっと話したいことがあるんです」

 

 病室の外で、プリカの、やけに白々しい声がする。

 ドアが開くと、プリカ、桃白白、そしてピラフがわっとなだれ込んできた。

 

 「桃白白さん!」

 

 「弾丸程度で情けない、いくら力があっても少し囲まれた程度でそれでは、先が思いやられるな」

 

 喜色を浮かばせた天津飯を、桃白白は強くはねつける。

 だが、ハッチャンはプリカたちと挨拶していてその会話に気付けていなかったようだ。

 

 「ん? そのひと、オレがここに来るときもそこにいたけど、もしかしてずっといたのか?」

 

 桃白白がぴくりと眉を上げる、……かなり動揺しているようだ。

 天津飯は一瞬顔を明るくしたが、次の瞬間には桃白白にジロっと睨まれ、気まずい空間が生まれる。

 そして、自分が生み出した気まずい空間を吹き払おうとするように、桃白白が俺に小さく聞いた。

 

 「ドラゴンボールの話、あれは……本当か?」

 

 「本当です」

 

 ……ピッコロ大魔王はおそらく、ドラゴンボールの使用後に神龍を殺害するだろうが、それも神様に頼んで復活させてもらえばよい。

 取らぬ狸の皮算用かもしれないが、全てはピッコロ大魔王の撃破につながっているのだ、この程度の省略は、許してもらうしかないだろう。

 

 「そうか」

 

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、桃白白は小さく頷いてそれっきりだ。

 

 「……プリカ、ピラフ、さっきニュースが入った、西の都が襲撃されて……」

 

 「オレたちの家が壊されてドラゴンボールが盗まれたんだろ?」

 

 プリカは顔をしかめながらも、知っている、というふうに携帯端末を見せてくる。

 家の管理をしていたロボットや様々な管制プログラムの情報から、とっくの昔に知っていたようだ。

 

 「す、すまない、せっかく電波遮断容器に入れていたというのに、わたしが話してしまっては……」

 

 「この件についてお前が謝ることはもうない、ピッコロを倒す努力だけでいい、俺達もそうする」

 

 「財産は大体銀行にあるしな」

 

 プリカが俺の知らない情報を付け加えた、金の勘定と管理はプリカにまかせている。

 

 「パパイヤ島は良くて壊滅、最悪、全土が消滅しているだろう、ヤムチャ、チャオズ、クリリン、及び亀仙流絡みの非戦闘員の複数人が行方不明だ」

 

 「行方不明、と言ってもあの戦場で行方不明になったのだ、ほぼ……」

 

 俺達は一斉に顔を見合わせ、曇らせる。

 俺の師匠であるチャパ王、桃白白の兄であり天津飯の師匠である鶴仙人、亀仙人、バクテリアン、道場の皆、会場や世界中で殺された、そして今から殺される人々。

 犠牲はあまりにも大きい。

 だが、だからこそ、戦わねばならない、その犠牲を取り戻すためにも。

 

 「わたしはこの基地に残された機械を使って、ひとつ、ピッコロとの戦いに役立つものでも作ろうと思う!」

 

 「オレは傷を癒やし、ピッコロとの戦いに備える!」

 

 「……こやつの傷が落ち着いたら、鍛え直す、連中との戦いをさせるには鍛え方が甘いと、よく分かった」

 

 「じゃあ、オレは手伝う、たたかうのはスキじゃないけど、特訓の手伝いくらいはできるぞ!」

 

 みんなの決意表明が住むと、俺達に視線が向いた。

 

 「オレはピラフと――――」

 

 「――――俺とプリカは孫悟空と合流し、共にピッコロ打倒のための力を蓄える」

 

 「居場所は知っているのか?」

 

 俺は笑いを持って答える、……多分、間違いないはずだが、自信はそこまで強く持てていない。

 

 

 俺達は解散し、俺とプリカは誰もいない司令室で対面していた。

 理由は……さっきの俺の言葉の意味を確かめるためだ。

 

 「おいソシルミ、いきなりなんだ、悟空の居場所と、力って……」

 

 「カリン塔だ、お前が俺の言葉をしっかり伝えてくれたなら、きっと悟空はそこにいる」

 

 「……そうか、悟空と合流すれば、戦力は十分だし、ついでにカリンさまに鍛えてももらえるだろうからな」

 

 プリカはばばっとまくしたてる。

 何か焦っているような感じだ。

 

 「カリン様は一度鍛えた俺達をもう一度鍛えるようなタイプじゃない、それに、悟空と合流したから戦力が十分だと? そんなはずはない、絶対に足りない、俺は悟空と共に――――」

 

 その瞬間、プリカがぐわっとにじり寄り、腕を振りかぶり、殴る……のではなく、胸ぐらを掴んだ。

 身長差から、引き上げるのではなく、引き下げるような動きになり、俺はたたらを踏む。

 

 「悟空と何をするつもりだ!!!」

 

 「……分かってないはずないだろ、俺は」

 

 「超神水を飲むつもりだな!? ダメだ!!!」

 

 超神水。

 カリン塔に秘蔵された、飲んだものに隠された力を引き出す水。

 ただし、カリン様が就任して以来、ただ一人もその水を飲んで生き延びた者はいないという、強烈な毒物としての性質も併せ持っている。

 元の歴史においては、老いたピッコロ大魔王に倒された悟空が飲み、6時間苦しみぬいた後に克服、それによって得たパワーは、若返ったピッコロ大魔王をも圧倒したという、非常に効果の高いパワーアップ手段だ。

 

 「……オ、オレは……チャパさんに、おまえのことを頼まれてるんだ」

 

 「その師匠の仇をとるためだ」

 

 「ダメだ!! ここで鍛えろ、桃白白だって、頼めば教えてくれる!」

 

 プリカはどうしても、俺を行かせる気はないらしい。

 かくなる上は……。

 

 「俺も死ににいくわけじゃない、勝算はある」

 

 「……なんだ」

 

 「俺の流派は実践武術の性質を持つ、毒その他、肉体に異常をもたらす要素への耐性は強い、薬膳料理などによる毒抜きの手段も持ち合わせている」

 

 「それで、超神水の毒性に立ち向かうのか」

 

 食いついた、これなら……。

 

 「ああ、それに、超神水に対抗するには、体力と精神力、生命力が必要だ、範馬の血を持ち、ヨガを修めた俺にぴったりじゃないか」

 

 「……そう言われれば、そうなの……か?」

 

 プリカは考え込むような感じで押し黙った。

 超神水がそんなやわな毒でないことなど、俺には分かっている、だが、どうしてもピッコロに対抗する手段が欲しいのだ。

 これは賭けだ、その上で、俺は挑戦したい。

 

 「プリカ、ピラフが、道場の皆の最後を話してくれた」

 

 「ソシルミ?」

 

 「ケララ先輩、パタラ先輩、双子のあの人達は故郷じゃ忌み子でな、拾われたことに恩義を感じていた」

 

 「……この世界にもそういう所があるのか」

 

 「ああ、それで、自分たちを育てたローティさんと、同じく拾われ子のガキどもを守って戦ったらしい……そして、ピラフはその首を、魔族どもに投げつけられたと言っていた」

 

 プリカが顔を歪める、気持ち悪い話をされたからではない、道場の面々とは、もう3年の付き合いになる。

 俺も話しているだけで胸糞が悪い、プリカが3年なら俺は12年だ。

 最低限平静を装うため、俺は拳を握り、怒りをそちらに移す。

 

 「チャルク先輩は大事にしていた武器を次々使い捨てながら、魔族を銃ごと切り捨てていた」

 

 「ああ、組み手がヒートアップすると、自分だけ剣を持ち出して切りかかってくる……」

 

 「ピラフが連れ出された時には、全身に自分の剣を、突き刺された姿で、壁に磔にされていたらしい」

 

 武器術の修練に余念がなく、刃物だけではない、木剣まで丁寧に扱っていた先輩。

 俺は拳を更に強く握りしめて、次を言おうとする。

 

 「ラパータは、最後まで、ピラフたち三人を庇っていた、だが――――」

 

 強く握られていた俺の手を、プリカが上から柔らかく包んだ。

 手を見ると、握りすぎて完全に白くなっている。

 

 「もういい、わかった、どれだけやつらを倒したいのかもわかった、勝算も、あるんだろ?」

 

 「……ああ」

 

 プリカにこうされてみて、やっと分かった。

 俺は自分から道場の悲劇を話したがったんじゃない、自分が戦う力を得るために選んだ手段――――友をだますことが、自分で我慢ならなかったんだ。

 だから、それを誤魔化すために、わざと自分の気持ちを高めようとしたのだろう。

 ……しかし、それが分かったところで、俺が止まることはない。

 俺は力を得る、そして、ピッコロ大魔王を倒し、地球の平和と、殺された武道家達を取り戻すのだ。

 自分自身のために、変化した運命の責任を取るために。

 

→つづく




投稿スペース戻せてホッとしています、桐山です。

さて、無事に撤退出来たソシルミたちですが、彼等には多くの課題が立ちふさがっています。
強大な敵の首魁、それを守る兵力、そして、その戦いに望む自分たちの中に隠された不和。
彼等はそれを克服し、ピッコロ大魔王に拳を突き立て、貫くことが出来るのでしょうか。
次回もお楽しみに!


……ところで、最近知ったんですが、感想や感想返信って、あれ、後から修正入れたりするとその都度連絡行くんですね。
元からノリとテンションがおかしい方なのに、繰り返し送りつけるようなマネまでしていたとは……。
今後は控えます、ご迷惑おかけしました。

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