転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第二十七話:転生地球人が背負うまで

 俺達は一路カリン塔にジェットを飛ばし、ボラ・ウパ親子への挨拶もそこそこにカリン塔への登頂を開始した。

 下部からは頂上が見えない、果てしなく高い塔、しかし、今の俺達にとっては朝飯前の小運動に過ぎない。

 

 「とっ! 落ちるなよっ!」

 

 「ンなヘマをするかッッ!!」

 

 軽口を叩きながらでも、常人のスプリンターが走る以上の速度で塔を駆け上っていく俺達二人。

 一時間もしない内に頂上である居住区画が見える……が、それと共に、何やら奇妙な音が聞こえてきた。

 

 「……風音か?」

 

 「いや、風ではない、生物か機械の音だ」

 

 ウォンウォン、あるいは、ギイギイ、その両方か、以前塔を用いて修行していた時には聞かなかった音。

 何かがおかしい、脅威というよりは純粋な不安感を煽るような音だ。

 

 「お、おい、なんかヘンじゃないか?」

 

 「……もう遅い、着いてしまった」

 

 俺達が居住区画にたどり着くと、もはやその音は気がかりでは済まない大音量になっていた。

 そして、はしごの末端から乗り込んだ俺達を、カリン様が出迎える、これも妙だった、わざわざカリン様が来るなど……。

 

 「よ、よう来たの、ソシルミ、それにプリカ」

 

 「カリン様自らお出迎えとは」

 

 「ことがことじゃからのう、いっそ、飛行機で来ても良かったんじゃがな」

 

 カリン様がわざわざ迎えに来た理由はすぐにわかった、それは、事態が逼迫しているからではない。

 それはこの音の正体、つまり、これが音、ではなく、声、叫び声であることにあるのだ。

 

 「悟空はもう超神水を?」

 

 「その通りじゃ、……よく知っておるのう」

 

 「なかば私がけしかけたようなものですから、『傷を癒せ』と言えばここに来ると思っていました」

 

 「それでわざわざ、オレにそこまで言わせたのか」

 

 プリカは合点がいった様子でオレを睨む。

 悟空が超神水を飲むのは元の歴史と同じ、非難される筋合いはないが……まあ、ひどい叫び声だ、同情心も湧くのだろう。

 

 「カリン様、私にも超神水を下さい」

 

 「おいソシルミ! やめとけって、悟空でもこんなひどい声で叫ぶ毒なんだぞ!?」

 

 「……とりあえず入って、悟空と会うとええ」

 

 俺達は言われるがままにメインフロアに付いていく。

 そして、足を踏み入れた瞬間に、絶叫はクリアな、完全なものになった!

 

 「ぎゃああああああっ!!!! ぐおおおおおおおお!!!!!」

 

 そこにいたのはもんどり打って今にも死にそうな大絶叫を繰り返す悟空!!!

 

 「これは……ッッ!!」

 

 「悟空……!」

 

 絶え間なく悶絶し、僅か数秒だけ苦痛を抑えて呼吸をしては、またその空気を全て絞り出すように叫ぶ悟空!

 その絶叫は悲惨というだけではない、もはや、それを聞いている俺達にまで苦痛を味わわせるような響き。

 満身の苦痛を叫ぶその悟空の声は、どんな地上の人間でも発することが出来ない声量でありながら、今にも消え入りそうな悲痛さをも感じさせるものだ。

 

 「これでわかったじゃろう、あの悟空でさえこんな有様じゃ、おぬしがいかに猛者と言えど、その力は人間から一歩か二歩はみ出した程度、それでは……」

 

 「か、帰るぞソシルミ! い、いや、ここで悟空を待って修行をするってのも……」

 

 悟空は全身をのたうち回らせ、絶え間なく叫ぶ。

 汗は滝のように溢れ、周囲を見れば叫びすぎて裂けた喉からであろう喀血があちこちに散らばっている。

 ……悟空でなければ死んでいる、それがはっきりと分かる姿がそこにあった。

 だが、俺はここで引くわけにはいかない、それは目的があるからであり、それが俺の生き方だからだ。

 

 「カリン様、まず仙豆を下さい、それで体力と栄養素を万全にします」

 

 「仙豆か……、や、やるのはええが……」

 

 「ソシルミ……」

 

 プリカが俺の服を掴んで引っ張る。

 それを外して、俺はカリン様に更に嘘っぱちの説明を並べた。

 

 「それと薬膳料理で、体力を万全以上に高め、毒に備えます、腹にものが溜まっていれば、毒は入りにくいということもあるでしょう……栄養学の基本です」

 

 「お、おぬしは勉強熱心じゃな……」

 

 カリン様が、濁したように小さく言う。

 カリン様の知る限りでも、14人の武道家達が超神水を飲み、そして死んでいったという、ならば、ぱっと思いつく対策などは全てやったに違いない。

 その上でカリン様が言葉を濁してくれているのならば、それは……。

 

 「私にはヨガの術もあります、心技体のうち、心と技ならば、悟空にも負けはしません」

 

 「ヨガ、ヨガか……そうじゃのう……」

 

 「カリンさま、こいつの言ってることって……」

 

 問いかけるプリカに気付かれないように気を払いながら、、俺はカリン様に向け、精一杯の覚悟、そして懇願の意思を伝える。

 口裏を合わせてくれ、合わせなくてもいいから、俺が超神水を飲むことに、もう反論しないでくれ。

 お願いします、と。

 

 「……そうじゃの、肉体はともかく、それを操る術と精神力はそこの悟空よりおそらく上、肉体もそんじょそこらの武道家より生来、丈夫なようじゃし……」

 

 「カリンさま、ソシルミに超神水を!?」

 

 「うむ」

 

 プリカは俺とカリン様を交互に見る、カリン様はつとめてプリカから目を逸らし……プリカは俺を見て、覚悟を決めたようだった。

 カリン様はどうやら、俺に味方してくれるらしい。

 

 「ありがとうございます、カリン様」

 

 「礼などええわい、危なくなったら、すぐ吐くんじゃぞ」

 

 プリカはもう何も言わず、俺を見つめている。

 その覚悟の意味は、信頼なのだろう。

 俺は今、友の信頼を利用してまで、死地に向かおうとしていた。

 

 

 俺が超神水を飲むのは、悟空とは別の部屋だ。

 ……互いの声がうるさすぎてヨガに集中できなくなるだろう、ということもあるし、料理を食べるのにもジャマだからだ。

 

 「……よく食べるな、まだ前の仙豆が腹に残ってるのに」

 

 「ゴク……メリ……ああ、俺の胃袋は宇宙だ」

 

 「こんな時にまで軽口か……」

 

 プリカは呆れた様子で俺の皿を取り替えてゆく、こいつには珍しく、こんな料理を見ても、腹一つ鳴らさない、かなりの自信作なんだが……。

 この薬膳料理は俺が各地の武術道場などから(道場破りで)頂いてきたレシピをベースに、ローティさん監修のもと味と効能を両立させたものだ。

 

 「ソシルミ、おぬし……」

 

 あぐらで食べまくる俺に、カリン様が語りかける。

 

 「これが本当に飲みたいのか?」

 

 ……かつて、『自分の気持ちに素直になれ』と言ってくれたカリン様の問いかけは、つまり、自分を信頼している友を騙してまで、そんな罪を背負ってまで、力を手に入れたいのか、飲んだとして、ただ死ぬだけかもしれないのだぞ、ということなのだろう。

 これは、俺が本当にやりたいことなのか?

 

 「ええ、飲みたいです」

 

 ピッコロ大魔王と戦う、世界を守る。

 まさしく俺らしい行為じゃないか、

 

 「そうか……わかった、飲むとええ、わしは知らんぞ……」

 

 「ありがとうございます」

 

 カリン様は、俺という若者が命を賭して力を得ようとすることへの深い諦めと後悔、そして、覚悟を受け止める意思……仙人としての態度を持ちつつ、若干及び腰な様子で、俺の前に超神水の湯呑を置いた。

 

 「ほ、本当にいかんと思ったら吐くとええ、誰も責めはせんからの……?」

 

 「私以外は、ですがね」

 

 そして、カリン様は、いそいそと部屋を出ていった。

 残るは、プリカと俺のみ。

 

 「……飲むんだな」

 

 「ああ」

 

 俺は超神水を前に、いわゆる座禅の形に足を組んだ。

 ……ヨガの姿勢など、超神水の苦痛を前に、どれだけ持つか分かったものではないが……俺を心配そうに見るプリカを少しでも納得させるには、必要だろう。

 

 「さて、と、プリカ、飲んだら集中したい、少し外してくれ」

 

 「ああ、……あんな準備までしたんだ、大丈夫だよな」

 

 俺は何も言わず、超神水の入った湯呑を持ち上げる、特段危険な匂いがするわけでもなく、色はただ黒いだけ。

 だがこれは、カリン塔を登りきる程に強力な武道家達を葬ってきた危険な水だ。

 舐めるだけで悶絶するであろう超神水は、怖気付けば飲み込めない、俺は湯呑を掲げ、一気に流し込む!!

 

 「――――ッッッッ!!!!!」

 

 「ソシルミ!!」

 

 瞬間、口、喉、食道、胃袋を貫く激痛!!!

 痛覚ではない、風邪のような『病の感覚』を痛みのレベルにまで引き上げた苦痛だ!!

 まさしく『内臓がひっくり返る』痛みに悶絶しながら、なんとかプリカに答える。

 

 「は……がッッ…………!!」

 

 はずが、喉が焼けると同時に苦痛で締まり、声が出ない。

 一瞬、呼吸さえもが止まる。

 

 「おい!!?」

 

 「だ、……大ぃ、丈夫、だッッ……」

 

 再開する呼吸に乗せてなんとか吐いた台詞は、自分でも弱々しい響きだ。

 

 「や、やっぱり、やめた方が、喋れないんだろ?」

 

 プリカが俺に手を差し伸べる、とりあえず前に出されたといった感じの手は俺に触ることもなく、ただ、心配を示すばかりだ。

 俺はその手を振り払い、作り笑顔とサムズアップで無事をアピールする。

 

 「……駄目だったら、ちゃんと呼んでくれ、な?」

 

 苦しいアピールだが、プリカはなんとかそれで納得してくれたようだ。

 プリカは後ろ髪を引かれるように何度も振り向きながら、部屋から去っていく。

 それを見送って、一呼吸、二呼吸……。

 

 「グ、グブ……ガフッッッ!!」

 

 俺は座禅を崩してうずくまる、もはや姿勢を保つ意味も、余裕もない……!

 暴れる横隔膜を抑え込み、絶叫しようとする喉を広げ、ヨガの呼吸を保つ。

 鳩尾や金的の痛みすら、この『苦痛』の前では霞むに違いない、すでに焦点は合わない、握り込んだ手の感触がない。

 ……この苦痛が、悟空と同じならば6時間、あるいは――――死ぬまでか!!!

 

 だが、俺はこの苦痛を耐え抜き、乗り越え、命を保たなくてはならない。

 その先にある力こそが、この世界を救い、再開を約束するのだ。

 欺いた信頼に、答えなくては。

 

 

 

 あれから、数分か、数時間か。

 喉を押さえて悶え、波が引けば必死にヨガを取り戻し、呼吸を整えかけたところで、更に大きな波に引き裂かれ、全てを投げ捨てて悶える。

 これが何度繰り返されたのかも、一度の繰り返しにどれだけの時間を使ったのかもわからない。

 その度に俺の体はこの超神水の毒に蝕まれ……抵抗する力を、失いつつある。

 

 「おい、ソシルミ、カリン様がお前の対策は意味がないって……!!!」

 

 ……気がつくと、仰向けになって倒れた俺の目の前にはプリカがいた。

 カリン様め、話してしまったのか。

 

 「そ゛、そうか……」

 

 「何言ってんだ、おまえ、早く吐け!! 死ぬぞ!!?」

 

 「ヨガは……体に、残っている」

 

 プリカは俺の言葉に顔を歪めた。

 

 「そのヨガを教えた、その師匠の仇を討ちたいのか」

 

 「かも……しれん」

 

 自信はない、俺は一体、何故こうまでして、超神水を飲んだのか?

 そんな考えが浮かんだ矢先に、また『波』がやってきた!

 

 「ぐッッッ、ガッッ……、フゥッッフゥッッ……!!」

 

 「ソシルミ! しっかりしろ!! 吐け!! 出来るか!?」

 

 「ハァ……ハァ……グ……ッッ!! も、もうムリだ……!!」

 

 苦痛、そして、熱感や冷感、それらが体のあちこちで同時に、デタラメに吹き上がる、

 俺が辛うじて会話が出来るだけの体力を保っているのは、苦痛を抑え込む能力があるからだ、しかし、肉体強度が足りない俺の体は、おそらく悟空よりも遥かに急速に壊れつつある……!!

 

 「手遅れ、だ、い……胃粘膜で、吸収、した……」

 

 「そんな……!!」

 

 俺の胃にはもう超神水の気配はない。

 吐かされる心配も、吐かせてくれるという期待もなくなったのだ。

 

 「……ソシルミ、まさか、だけどな」

 

 プリカは、出し抜けに、何かをこらえるような、冷えた声で言う。

 冷たい言い方の裏に、何か、煮えたぎるマグマのような熱を感じさせる声だ。

 

 「まさかおまえ、最初っから、オレを騙して超神水を飲む気だったのか……?」

 

 答えられない。

 苦痛からではない、それは……事実だからだ。

 

 「お、おまえ……や、やりやがったな、くそ……なんで、こんな……!」

 

 「プ、プリ……ガフッッッ……!!!」

 

 今度答えられないのは、苦痛のせいだ。

 体中の筋肉がデタラメに収縮弛緩を繰り返し、横隔膜すら痙攣している。

 

 「そうだ、最初から、おまえが気づいてないはず、なかったんだ! なのに、こんな……!!」

 

 「ハァッ、ハァッ……期待、しすぎ、だ……」

 

 俺にだって何もかも分かってるわけじゃない、ピッコロ大魔王のことだってそうだ。

 そう言い訳しようとしたが、言葉が続かない。

 俺はなんでここまで苦しみながら、質疑応答にわざわざ応じているんだ、なんて疑問が浮かび、消える。

 汗がブワッと吹き出し、そして引く、毛穴が開いては閉じ、吐き気を伴わないままに胃がひっくり返るような痛みを訴えた。

 

 「バクテリアンが死んだ時、おまえはあんなに叫んでたのに、自分はいいのか!!」

 

 バクテリアンはあの時、桃白白を移乗させ、自分はそのための操縦と、敵をひきつけて落ちるという算段を立てた上で……それを隠して、俺とプリカを逃した。

 

 「フゥ、そ、そうか、フゥ、奴と……同じか」

 

 「バクテリアンとおまえは違う!! 他に手段があったかも知れないのに、勝手に、オレが止めるのを誤魔化して、安心させて……」

 

 そうか、と、俺はやっと合点がいく。

 プリカは俺がプリカを騙したと思って怒っているんじゃない、ただ、心配を踏みにじって、勝手に俺が死地に飛び込んだから、怒っているんだ。

 それが分かって、答えようと口を開くが、声は出ず、プリカが叫ぶのが先だった。

 

 「オレはまんまとかつがれて、おまえが見事に毒を飲むのを見てた!!!」

 

 「悟空だけじゃ勝てない!!! 賭けに、なってでも、力がなければ――――」

 

 そう叫んだのを最後に、俺の意識が一瞬飛び、そのまま体が床に倒れ込む。

 

 「それで死ぬつもりか!!」

 

 死ぬ、そう意識した途端、その言葉に呼ばれたように、寒気がやってきた。

 再び横隔膜が痙攣する、それをなんとか利用して、答えを。

 

 「死、死ぬ気は……ぎ……ヒ、ハァ、ハァ」

 

 死にたくてやったんじゃない、そう答えようとして、喉が詰まる。

 あちこちがもはや意思に従わず、めちゃくちゃに動いているのだ。

 答えないと、そう思うが、声が出ない。

 

 「くそ、人を騙してまでむちゃくちゃするんなら、もうそのまま死んでしまえ!!!」

 

 怒鳴り声が遠くなる、プリカの怒り顔が見えない。

 内出血か、俺には想像もできない何かが血流を阻害している。

 思考にもやがかかってきた、まずい、このままでは。

 苦痛ははっきりしたまま、でも、それを感じるための機能が失われていく。

 

 そうか、これは、前、最後に味わった――――

 

 

 

 暗い、暗い場所。

 ここはどこだ、あの世……ではない、あそこはこんな場所ではない。

 あの世ではない暗い場所に俺はぽつんと佇んでいる、生まれ変わって得た力強い肉体をそのままに。

 

 「ホウ……」

 

 後ろから、低く、感心するような響きの声が聞こえる。

 振り向くと、そこには――――

 

 「範馬勇次郎ッッッ!!?」

 

 「驚いてくれるねェ……、はじめましてだな、俺のガキ……『志望』クン」

 

 範馬勇次郎、国民的格闘漫画『刃牙シリーズ』の主人公である範馬刃牙の父親。

 作中世界で最強の戦闘能力を誇り、あらゆる格闘家、軍隊、生命体を凌駕し、地上最強の生物と謳われる男!!

 そして、俺が前世から、今に至っても抱き続ける『憧れ』の塊!!!

 

 「な、なぜ貴方がここにッッ!?」

 

 「お前がそう願ったから、じゃねえのか……?」

 

 「……確かに、貴方は私の憧れだ」

 

 「そうだ、『憧れ』……そんな不純な感情をもとにして、体、技、そして心を練り上げ、お前はここまで、たどり着いた」

 

 『ここ』とは一体。

 そう問おうとする俺を制止し、範馬勇次郎は更に言葉を続ける。

 

 「それでいい、それを貫け、そして……俺の子を名乗るならば、その世界の頂点を手に入れろ」

 

 「宇宙……最強」

 

 「事実がどうであるかなど関係ない、勝利しろ、毒に、敵に、それこそがキサマにとっての証明となる」

 

 範馬であるから最強なのか、最強であるから範馬なのか。

 どこから来たのかも知れぬ『範馬勇次郎』が語る。

 

 「この世界で、俺が最強に……」

 

 敵は余りにも強い、悟空があっさりと克服した試練すら、俺には荷が勝つ。

 そんな体たらくで、俺は……。

 

 「お前じゃ足りねェか」

 

 「……足りません、何度無理を通しても」

 

 奇跡、そう呼んできた、土壇場での逆転劇。

 幾度も繰り返したそれは、確かに、俺に力を与え……それでもなお、この無限に先がある世界を越えることはできなかった。

 俺は必死にこの世界の、高まり続ける戦いに挑んできた。

 もしかしたら、それは生き急いでいただけと言えるのかもしれない。

 

 「無理しすぎで死んじまうのは間抜けかい?」

 

 「いえ、それでも、俺はこう生きたかった、……その先に、死が待っていようとも、生きたかったのです」

 

 「難儀なもんだな」

 

 範馬勇次郎はわざとらしくポリポリと頭を掻いて言う。

 

 「弱者とて、群れればマシにもなるだろう、仲間を作ってみたらどうだ」

 

 「仲間なら居ます、でも、戦う時は一人です」

 

 「なら、喰っちまえばいい、喰ったもんが腹の中に居るのは、誰も咎めやしねェよ……ちょうど、お誂え向きのがいるじゃねえか」

 

 「は!? それは一体……」

 

 俺が聞き返そうとすると、範馬勇次郎は大きく拳を掲げ……。

 

 「後はテメエで掴みな――――」

 

 

 

 ――――衝撃、頭痛、激突音!!

 

 「ガ、ハッ……!?」

 

 「ソシルミ! 目を覚ませ! 大丈夫か!?」

 

 無意識のまま一気に息を吸い込み、血の滲んだ肺を満たす。

 生きている、そうだ、まだ死んでいない!

 

 「ゼヒュッ……ゼ、……ハァ……!!」 

 

 「よ……よかった、まだ息してるよな……?」

 

 酸素が体を巡り、意識が、思考が戻り、鼓動の音がまた聞こえるようになった。

 死、死にかけていた、というか、一瞬心臓が止まっていた!!

 

 「バ、バカっ!! 本当に死ぬやつがあるか、くそ!」

 

 プリカが俺の頭を抱えてこちらを覗いている。

 その顔は怒りに歪んでいる、死ねと言ったり、死ぬことに怒ってみたり、忙しいやつだ。

 ……いや、振り回しているのは、俺か。

 波どころか、苦痛はどんどん強くなる、一方で呼吸は穏やかで。

 

 「し、しぬのは、いやだな……」

 

 駄目だ、舌がうまく回らない。

 呼吸が穏やかなのも、激しくするだけの力がないだけなのだ。

 このままだと俺は、完全に死んでしまう、耳鳴りと頭痛がする。

 

 「じゃあ死ぬなよ!! こんな勝手して、勝手に死んで、オ、オレはどうすればいいんだ」

 

 「ち、ちあ、ちがう……」

 

 死にたくはない、でも、せっかくの二回目を、無駄にしたくない。

 そう言おうとして、舌が回らない。

 

 「も、もういい!! おまえが好き放題やるのは、いつものことだ、どうこう言うのは、おかしいか」

 

 「プリカ……」

 

 プリカが叫ぶ、長くない俺に、なんとか言葉を伝えようとしている。

 熱感と冷感に包まれていた俺の体から、熱感だけが消えてゆく。

 体は冷え、再びの、本当の死が近づいてくる……その一方で、心だけは、何か、熱を持ったものを感じ始めてていた。

 

 「でも、こうやって、騙し討ちにして、オレを、置いてくような、こんなことなら、あの森で……!」

 

 プリカが俺の冷えた手を取る、そのぬくもりすら、もはや感じることが出来ない。

 

 「冷たい、なんで冷たいんだ、試合の時は、もっと……」

 

 「もう、げんかいだ」

 

 俺の二度目の命は尽きようとしている。

 生きるだけ生きた、少々間抜けな死に様かもしれないが、掴みたいものに手を伸ばした。

 プリカの顔が、怒り顔から更に歪む、広がった口角が下がって、下唇の真ん中が上がる。

 

 「嫌だ……」

 

 プリカが呟く。

 俺も死にたくない、生きられるものなら生きなくてはならない。

 それと同時に、望みのままに生きたならばそれでいいという思いがある。

 だが……今は違う気もする、何か、果たされていないという感覚がある、俺は、今死ぬべきじゃない。

 

 「嫌だ、ソシルミ……死なないでくれ、頼む、おまえのむちゃくちゃが、オレには大事なんだ、何をやってもいいから、死なないでくれ」

 

 プリカが、涙をこぼした。

 何か、根本的な所で、間違えていたような気がする。

 俺の顔に、プリカの涙がしたたる、それを指で拭いて、次に、プリカの目尻に溜まった涙を拭い……。

 舐めた。

 

 「へ?」

 

 「ん……あ?」

 

 なんか、舐めてしまった。

 いや、確かこれは、刃牙もやったんだ、だから、これが、俺のために流された涙なら、効くと思ったんだろう。

 それで、間違っていたことも、はっきりとわかった、俺はこいつを騙すべきじゃなかった、一般論じゃない。

 

 「いや、おい!! なにやってんだ、お、おまえーっ!!!」

 

 「どくにきくんだ、うん……」

 

 「はぁ……!?」

 

 プリカは顔を真赤にして何やらがなり立てはじめた、だが、俺は体を癒やし、思考を巡らすのに忙しい。

 俺の心身は、目一杯、酸素、それと力を吸い込んでいく。

 

 「おちついてきた」

 

 「こ、こんなバカな……オレは一体なんであんなに必死になってまで……」

 

 そうだ、こいつにああまで言われたら死ぬわけにはいかない。

 こいつを騙すのがいけないのは、こいつを騙すのは、そもそも俺がやりたくないことだからだ。

 しかし、思えばとんでもないことをしてしまった。

 

 「カリン様には、謝らないとな……」

 

 「先にオレにあやまれ、色々とあるだろ!!」

 

 謝る……何を謝るべきだろうか。

 無茶をやったことか、止めるのを聞かなかったことか、騙したことか、死にかけたことか……。

 …………。

 

 「ありがとう、プリカ」

 

 プリカは何かすごい顔をして、それから、大笑いした。

 俺も笑ったような気がするが、その後のことはしばらく記憶にない。

 とにかく、もう大丈夫だということだけが、俺達の間を駆け巡ったのだ。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………。

 

 あれから数時間、カリン塔の一室で俺はあぐらを組み、プリカがそれを枕に眠りこけていた。

 いつものジャージに、若干ボサついたサイヤ人らしい黒髪、安心しきった寝顔。

 表情が多くて楽しいやつ(と言っても大体睨まれている)だが、こうして完全に無防備な様も、それなりに見ていて楽しい所がある。

 ……気疲れからか深く眠りこけたこいつは、枕にした俺がカリン様と話しても起きず、よだれを垂らして寝ているという有様だ。

 だが、あまり長く寝られていても困る……そう思いかけたとき、悟空の悲鳴にも劣らぬ爆音が部屋を包んだ!

 

 グギュルルルルルルル!!

 

 「うわぁ!!」

 

 「よう、起きたか、プリカ」

 

 ……こいつが自分の腹鳴で起きるのを見るのは二回目だ。

 

 「ソ……ソシルミ、おはよう?」

 

 「おはよう、お前の寝起きを見るのも久々だな」

 

 俺がそう言いながら自分の口元を指で撫でると、プリカはようやく自分の顔によだれが垂れているのに気付いたようだ。

 

 「うわあああっ!!」

 

 プリカは凄まじい勢いで起き上がって、同時によだれをジャージで拭き取り、俺の顔とよだれが垂れていそうな場所を勢いよく見比べる。

 

 「そんな焦ることないだろう、もう見飽きたぞ」

 

 「いや……涙は舐めたから今度はよだれとか言い出すんじゃないかと……」

 

 「なんだそれ」

 

 「ディ、ディスコミュニケーション……」

 

 いや、会話が成立していないことは分かっているんだが。

 

 「さて、さっき悟空が来てな、マッスルタワーに行くと言ってたぞ」

 

 「……あっちに連絡はしたのか?」

 

 「もう済んだ、あっちじゃ天津飯がケガをおして特訓中、ピラフの兵器も完成しかけているらしい」

 

 「ちょっと、寝すぎたか……」

 

 プリカは恥ずかしそうに頬をかく。

 

 「それで、ソシルミ、どうだった?」

 

 「超神水か」

 

 「ああ、力は……手に入ったのか」

 

 「バッチリだ、のたうち回ったせいでまだちょっと筋肉が痛いがな」

 

 俺がそう言って節々の痛みをアピールすると、プリカはいい気味だとばかりに笑った。

 

 「しかし、舌の回らないおまえはケッサクだった、ああも弱るもんなんだな、おまえも」

 

 「蹴ってやろうか」

 

 「今はおまえの方が強いから嫌だ」

 

 

 

 俺達は小型機に乗り込み、マッスルタワーへと向かう。

 操縦はロボットに任せた、気楽なふたり旅だ。

 

 「ソシルミ、おまえ、ちょっと汗臭いぞ」

 

 「……そうか? いや、そうだな、あんなにうめけば当然かもしれん」

 

 「着替えろ、ちょっと拭いてやる」

 

 どうしてわざわざお前が拭くんだ、と言ってもプリカは止まらず、タンスのカプセル、それと飲料水とタオルで作った濡れタオルを持ってこちらにやってくる。

 何かおかしい、とは思うが、死ねとまで言った手前、負い目があるのかもしれないし、今回本格的に死にかけた俺を労いたいのかもしれない。

 まあ、自業自得とはいえ、あそこまでの試練に打ち勝った俺だ、ちょっとくらいいい目を見てもいいだろう。

 

 「むう……ふむ……」

 

 プリカは俺の体を拭きながら、何が疑問を解こうとするような、あるいは、納得するような感じで鼻を鳴らす。

 というか、筋肉や傷跡を重点的に拭かれているような気もしてきた。

 何故わざわざ、超神水の効果に興味でもあるのか?

 

 「よし、じゃあ次は背中……ん?」

 

 「どうした」

 

 「なんか、ちょっと、おかしいぞ、これまさか……!!」

 

 プリカはタンスの上に置かれた手鏡と、ドアのガラスを合わせ鏡にして、俺に俺の背中を見ろと叫ぶ。

 背中、その気がかりな響きへの期待を裏切らず、俺の背中は、異様なものを背負っていた。

 

 「鬼……ッ!!」

 

 超神水は飲んだ者に秘められた力を引き出す水だ。

 俺の背中には、かつて夢見た、名乗り続けた血の証、鬼の貌(おにのかお)が。

 

 「範馬勇次郎の、背中についてるやつ、だよな」

 

 「ああ」

 

 「なんだ、ようやく手に入ったんだからもっと喜べよ」

 

 プリカは俺の顔を覗き込んで、ニタァッと笑ってみせる。

 

 「いや、これはなんか、当然だって感じでな」

 

 「それにしちゃ、気分良さそうだ」

 

 「そうか? ……まあ、そう言われれば、そうかもしれん」

 

 「オレのサービスが良すぎたのかね、まったく」

 

 普段は俺が言って蹴飛ばされるような台詞だが、プリカは平気でつらつらと語る。

 何の心境の変化があるのかはわからんが……。

 

 「なんだ、その呆れた感じの目は」

 

 「なんでもないとも」

 

 

→つづく




投稿が早いと何も言うことはありません。

はい、超神水回でした。
人間と比べ概算10倍程度に強靭なサイヤ人が6時間悶絶し、14人の少なくともカリン塔登頂クラスの武道家が全滅って、パワーアップアイテムとしてもリスク高すぎですよね。
ということでソシルミも危なかったのですが、そこは愛と範馬の奇跡、ということにしておきましょう。
涙という霊薬のパワーはすさまじいのです、なにしろ遠くの星から来た男も知っていたというほどですから。

さて、雨降って地固まる、という言葉の通り、更に絆を深めた二人とその仲間たちの手には、協力な力が握られ、いや、背負われています。
彼らの前に立ちはだかるは、数百年越しにその姿を現した神の影、ピッコロ大魔王。
果たして彼らの運命やいかに。
次回もお楽しみに!
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