ピッコロが俺をぎろりと睨み、叫ぶ!!
「かぁっ!!」
「――――ッッッ!!!」
感じるのは強力なプレッシャー、それは、眼差しをキーとして放たれる不可視、かつ超高速の気の奔流!
一種のうちに解き放たれたそれを、俺はすんでの所で右手の輝く手刀で切り裂き、左手の手刀を差し込み爆散させる!
次の瞬間には、分かたれた奔流が背後の魔族を数体を巻き込みながら進み、雲を消し去った。
「ハッ、大した技だが、こんな小技で俺を仕留めるつもりじゃないだろうな」
「その小技で手を痺れさせながらよく言うわ」
……ピッコロの言葉は、事実。
圧倒的な『出力差』、小技ですら、俺の防御能力の限界に近いのだ。
「では遠慮なく、大技をどうぞ、大魔王陛下……!」
「その手には乗らん」
そう言うと、ピッコロは握り込んだ拳にボワボワとエネルギーを纏わし始める。
そして、そのまま、指を一本立て――――
「ほれっ!」
「シィッッ!!!」
指からのビーム攻撃、一撃ですら致命的なそれを、輝く拳で霧散させる!
だが、ピッコロはニヤニヤとした表情を崩さず、ゆっくりと、一本、二本と指を立ててビームを放つだけだ。
武道家に反撃の隙は与えない、ただ弄び、痛めつけるだけでいい、そう言いたげなピッコロに、俺は有効な反撃手段を見い出せずにいた。
「これ程とはな、大魔王ッッッ!!」
「武道家ごときが、ただ一人でわしに敵うと思ったか!」
確かに、そうかもしれない。
超神水の加護をもってしても、若返ったピッコロ大魔王は圧倒的な力を持っている。
仲間を頼らず俺一人で戦う、そのエゴは、俺自身、そして、仲間や世界中の人々、眼下で戦う軍人達の命を掛け金にした、わがままでしか――――
あー、あー、ちゃんと、聞こえてる?
聞こえてるんだ、よかった。
……ゴホン。
そうね、おれが、どうしてここにいるかって、話だっけ。
……おれたちは、軍人って言っても、大昔みたいに、人間とやり合うのが一番の仕事ってわけじゃない。
一番じゃないってのが、ミソね。
それで、おれたちの一番の仕事は、モンスターとか、魔族とかをやっつけること。
あの戦いも、そのため……って言っても、先生はよく知ってるか、軍にもカンケイあるもんね。
戦いだけど、あれは……ほんと、ひどかった。
あんな大きな都が魔族にやられたことなんてなかったしね。
でも、それだけなら、日常だよ、おれたちにとっては。
村とか、小さい町とかならだけどね。
やられてるのは見慣れてたけど、あんなに強いやつらははじめてだったよ。
うん、光の玉を飛ばす魔族はこれまでも何度か見た、倒したこともある。
でも、あんなに沢山出てくるとは、思わなかったなあ……一匹なら、なんとか戦車で土手っ腹ぶち抜けば倒せるんだけど。
あんなに沢山居ると、ちょっとやそっと撃っただけじゃ、ムリだから。
……倒してくれたのは、格闘家だよ、そうそう、それも、テレビとかプロレスとかのしょぼいやつじゃない。
田舎の道場にこもってずっと鍛えてる、ホンモノ。
でもね、先生、おれ、実は格闘家って嫌いなんだ。
いや、ちょっと違うな、おれ、格闘家のこと、嫌いだったんだ。
そりゃ、強い格闘家は、強いけどさ。
ただ強いだけなんだよね。
おれたち軍人とか、ケーサツみたいに、しっかり戦おうって、思ってたりはしてない。
それどころか、自分たちの力はトクベツだから隠すとか、ナニサマだよ、とかも、思ったりするし。
だから、マタギならともかく、スポーツ選手とか、お坊さんとかが出てきて戦っても、ありがたみがね。
……って、思ってたんだけど。
そう、今は違うのよ、今は。
おれたちの部隊は、いわゆる、直属部隊ってやつでさ、要するに、それなりにやる方なんだよね。
だから、魔族に都が取られたって聞いた時は、すぐに戻ってきて、どこの軍隊より早く攻撃をはじめて、それで、一番お城の近くまで、行ったのよ。
途中で何人か格闘家にも会ったけど、なんとも思わなかったね。
だけど、考えが変わったのは、最後の時だった。
おれの隣にいた別の部隊のやつが、いきなり、魔族の親玉が、のんきに座ってた椅子を立って、お城のてっぺんに飛んだって言い出したんだ。
おれは親玉のことなんか全然知らないけど、なんかマズいって思って。
戦車の影に隠れて、耐爆姿勢を取ったんだ、もう、カンだね。
……それがよかった、次に目を開けた時、まわりにはなんにもなくて、誰もいなかった。
当然俺もボロボロで、足は、ちぎれてたし、腕もね。
血もだくだく流れてたんだけど、実はおれ、そのときはそんなに気にならなくてね。
なにが気になってたのかって?
魔族の親玉と、誰だか分からないけど、誰かが、戦ってたんだ。
格闘家だった。
目はかすんでて、血が滲んでて、片目だったし、早くて全然見えなかったけど……かっこよかった。
あいつにそんな気はなかったかもしれないけど、おれはこう思ったね。
おれたちを背負って戦ってるんだ、って。
それで、もう目が見えなくなるって時に、助けが来たんだよ。
うん、あんたの娘さんだよ、博士。
おれの戦争の話は、これでおしまい。
ついでに、格闘家ももう、嫌いじゃない。
おれはあの格闘家の戦いっぷりと、あんたの娘さんの友達……なんだっけ、多林寺の、おでこに焼印のついた……。
あの子の筋肉、あれがすごくてね、すっかり、ファンになっちゃったよ。
わかってたつもりだったんだけどね。
戦場に来る格闘家ってのは、自分の思う強さのために鍛えて……その後で、なんとかみんなの力になりたいと思ってるんだって。
あの人たちなりに、本当はスキじゃない、戦場っていう……戦場で、必死で戦ってるんだ、って。
とにかく、娘さんと友達、なんか凄い暴れてる女の人、それに、刀の人……友達にどことなく似てたっけ。
あの人たちにもう一回会いたいな。
は?
ステレオジャックから直接いい音を聞く機能!?
いや、いくらおれがこれからサイボーグになるったって、体に直接だなんて、ぞっとしないね、いやだよ。
それが付けられるなら、もっと早いものを見れるようにしたりできない?
……録画再生機能に、スロー再生か、いいね。
今度は両目で見て、絶対に見逃さないよ。
俺は目にエネルギーを集中、賦活し、ピッコロの手、全身をくまなく見据える。
放たれるエネルギーの色、形を、視覚だけではなく、気配から感じ、その速度、性質までもを、頭に叩き込まなくてはならない。
超神水で高まった俺のエネルギーと知覚力ならば、それが出来るはずだ。
「きさま……何を狙っている?」
「さあねッ!!」
新たなビームが来る、一発で俺の全力の拳と同等かそれ以上の力が指先一本に集中したそれは、普通のボクサーにとっての弾丸にも匹敵する脅威度だ。
俺はビームの軌道に輝く手刀を滑り込ませ、やさしくタッチし――――ひと息に弾き飛ばす!!
「………フッッッ!!!」
「な、なにっ!? くっ!!!」
弾丸すべりの要領でビームを弾いた俺に向け、ピッコロは更に続けてビームの釣瓶撃ちを始めた。
だが俺は構わず駆け出す!
「――――ッッ!!!」
「な、なに……!?」
焦りを含んだ連撃を前に被弾しながらも、急所への攻撃のみは避ける。
「フッッ!! フンッッ……グッ……タァーッッ!!」
ビームであろうと、技である以上は術理があり、性質がある、であれば、回避も防御も可能!!
「チェリアァッッッッ!!!!!」
弾いたままの勢いで叩き込む輝く手刀を、ピッコロは同じくエネルギーを高めたままの手で防ぐ。
だがそれは、弾丸を装填したままの銃で攻撃を防ごうとするのと似た無謀な行為でしかない!
「ぐおっ……!!!」
明らかに随意的でない爆発が発生し、たまらず手を引っ込めるピッコロ、こうなれば、もはや気での攻撃は不可能だ。
つまり――――
「フゥ……ッッ! ピッコロ、今度はこっちの土俵でやろうじゃねえか!!」
俺が荒く息を吐き、距離を詰めると、ピッコロは観念して素手での迎撃を始める。
そうだ、俺はこれでいい、突っ込んでこそ俺だ。
この戦いもそうだ、仲間達を騙し、抜け駆けまでしてここにやってきた。
ならば、するべきことは一つ、その責任を負い切ること、ピッコロに勝つことだ!!
「素手なら勝てると思うか!」
「思うねッッッ!!!」
俺が輝く右手を突きこむと、ピッコロは素早く左手を迎撃姿勢へと変えた。
素晴らしい反射神経だ、これが若き天才武道家、ピッコロの姿か!
「やすやすと食らうものか!」
「そうは思っちゃいないッ!」
右手を逸らして迎撃の左手を絡め取り、自らの左手で指取りを仕掛ける。
このために、わざと左は輝きを纏わさずにおいたのだ。
「掴んだぞッッ!!」
「こざかしいっ!!!」
ピッコロは叫びとともにノーモーションからの回し蹴りを始めた。
まさか、指ごと俺を蹴るとは、ナメック星人とはいえ割り切ったことをする!!
「きええええい!!」
「ヌォンッッッ!!!」
回し蹴りに指を離した左肘、そして、持ち上げた膝をぶつける真剣白刃取り!
俺は蹴りの威力を殺しきれず、傷んだ関節二つを抱え跳ね跳ばされ、ピッコロは足と指から血を流してこちらを睨む。
「ハ、ハハッッ!! 初めての流血だな、ピッコロ!!」
「ただで防いだわけでもあるまい?」
「……かもな、だが、通じるのは分かった」
「ただ面倒なだけよっ!!」
ピッコロは俺の言葉に答えるように、一気に跳躍し、空中で制止した。
舞空術だ。
「やっぱ、使うんだな……!」
「卑怯とは言うまい?」
「そう言われた方が嬉しいか?」
「大魔王にほざきおる!」
そう言って、ピッコロは両手にエネルギーを纏わせ、再び、指からのビーム連打の狙いを定める。
ビームが来る!
「はぁーっ!!!」
「――――ッッ!!!」
俺に手を打つ隙を与えない連射、その威力は一撃だけで、悟空のかめはめ波に匹敵するか、それ以上。
威力よりまずいのは、俺の手には痺れ、体には近接弾のダメージが蓄積していく一方、ピッコロはぴんぴんしていることだ!
「グッ……大魔王ともあろうものが、随分と消極的な!!」
「その手はくわんぞ? 虫けらを潰すのにわざわざ手を使うまでもないというだけよ」
そう言うのと同時に、ピッコロは大分撃ち尽くした両手のエネルギーを最充填し始める。
これを待っていた!!
「トゥッッッ!!!!」
「工夫もなく飛んで当たると思うか、焦ったな若造め!!」
ピッコロの嘲笑が空に響く、無理に飛び上がった所で、俺に飛行手段がない以上、ピッコロは僅かに避けるだけで、対処出来る。
チャージの隙はわざと作られた撒き餌だった。
「工夫なく、ならなッッ!!」
……そう、俺は、それこそを、ピッコロが空を飛べぬ俺を侮り、嬲るためにわざと隙を作る瞬間こそを待っていたのだ!!
俺は今だ健在な袈裟と体勢を操作し、ほんの僅かに自らの軌道をずらす。
その僅かな軌道の変化がもたらすのは、俺の浅慮を笑うべく小さくとられたピッコロの回避距離を十分にカバーできる軌道の変化!
「な――――」
「ドァアーッッッッ!!!!」
跳躍時の回転力と空気抵抗を利用した胴回し回転蹴り!!
叩き落されたピッコロは城に激突、土煙とともに大きくめり込み、城を大きく傾かせる。
国王には申し訳ないが……俺にも、余裕はない。
「ぶッッ……ハァ!! ハァ……!! ハァ……!!」
使いたくもない搦め手に乗って、読み勝ってもなお、消耗が大きい!
読み勝っているのは俺だ、激突時に勝つのも俺、だが、体力消耗とダメージの蓄積は確実に俺を追い詰め、戦いの趨勢で言うならば、今だに、ピッコロに分があるのだ。
クリリンとの戦いで語った、格上に無理攻めを仕掛けて負ける格下という構図が、まさしく俺に当てはまりつつある。
……だが、俺はやらなくてはならない、内に潜む力に頼るのではなく、自らの手で、ここまで鍛え上げた力によって!
俺は煙の向こうに沈んだピッコロに集中しながら姿勢を制御し、慎重に落下地点を選ぶ。
そして、着地の瞬間、背後から急激にプレッシャーがやってくる、回避、いや、防御を……間に合わない!
「あら、失礼!!」
「ッッッッ!!?」
着地する瞬間の俺を掠め、数メートル吹き飛ばしつつ、飛び上がった『何か』が傾いた尖塔に立つ。
ローブを着込んだ影、あれは……!
「貴様、例の魔族か!」
「何が『例』かは知らないけど、そうなんじゃない?」
不敵に笑うオカマの魔族。
そうだ、こいつこそが、ピッコロの封印を二度に渡って解き、道場を破壊した恐るべき敵であり、歴史の歪み。
俺達が立ち向かうべき本当の敵と言ってもいい。
その魔族に怒りと敵意を向けようとしたまさにその時、魔族は手にエネルギーをチャージし始めた。
そして、エネルギーをぞんざいに丸め、ピッコロの『眼差し』で焼かれた都市へと向ける!
「ピッコロのやつ、あんなにお残ししちゃって、もしかしてあなたにビビって手を抜いたのかしら……ねっ!」
「おい、待て――――」
放たれたエネルギーの量は、ぞんざいながら、あの区画に残っていた軍人たちの命を焼き尽くすには、十分!!
突っ込んででも防がなければ、だが、息が整わない……そう思った時、別の極光が視界を横切った。
青いエネルギーが塊を押し切り、エネルギーを霧散させたのだ。
「あら、これは……武泰斗の流派の技ね、確か……」
言葉を詰まらせた魔族に答えたのは、俺ではなかった。
「『かめはめ波』だ、まったく、忌々しい……」
「あら、起きたのね」
「寝てなどおらぬ、きさまがジャマに入っただけよ」
瓦礫から這い上がったピッコロ大魔王はジロリと魔族を睨む。
ピッコロの眼差しはただの敵意を意味しない、それは明確な害意までもを示すのだ。
……奇妙な光景だった、魔族同士がいがみ合うなど、見たこともない。
「あらら、怖い怖い」
「やつはわしだけでやる、きさまらの手などは借りん」
「変わり者ねぇ、わかったわ、じゃあね」
魔族は勢いよく跳躍し、そのまま都市の外へと飛び去っていく。
あとに残されたのはピッコロと、俺。
「どうした、随分嬉しそうだな、人間」
「ソシルミだ」
俺が名を伝えると、ピッコロは一度、二度、それを口の中で転がし、次に、何かを確かめるような口調で、俺に問いかける。
「ソシルミか……なあ、ソシルミよ、わしは今たったの一人、おまえには仲間がいる、それが嬉しいか?」
「……違うな、仲間が別の場所で生きて戦っているのが、嬉しいのさ」
俺には分かる、あのかめはめ波はクリリンのものだ。
クリリンは生きていた、そして、ここで戦っているんだ。
一つ肩の荷が降り、それより重いものを背負うような感触が俺を襲う。
そうとも、俺は、俺が背後に置いてきた仲間達の分まで、それ以上に、戦わなくてはならない。
「仲間がいて、それでも一人でわしに抗うか、わからんな、人間は頭まで悪いらしい」
ピッコロは嘲笑と、それとは別の何かを含ませた笑みを俺に向ける。
「馬鹿じゃなきゃあ、そもそもこうまで鍛えないとも」
「おかげでわし自らの手によって殺される栄誉にあずかれるというわけだな?」
「いや、俺は貴方を殺す栄光を頂くつもりだ、大魔王陛下」
俺はそれとなく地面を踏みしめる、その動きに鋭敏に反応したピッコロは、かつて自分が学んだのであろう、武術の構えを取った。
神の分身を相手取って、地上の命運を争う……こんな大事な戦いを、俺はただの格闘試合にしようとしている。
その責任は、取らなくては。
崩れ去った城の上、輝く拳と緑の拳がぶつかり合い、足に伝わったその衝撃が瓦礫を砕く。
足元を失った二人は別の決戦地を求め、また別の石を踏みしめ、また砕いた。
そして、更に次の瓦礫を求めて駆け出した頃になって、ようやく最初の拳が生み出した衝撃波が追いつき、全身を小さく震わせる。
「ハァ……ハァ……」
「クク……!」
再び息が上がりつつある俺を見てほくそ笑むピッコロ大魔王。
奴にとっては今こそ仕留め時と言ったところか、ピッコロは両手を抱えるような形にしてエネルギーを貯める。
莫大な破壊力を感じさせる攻撃だが、妨害に移る余力はない、ここで防ぐ!
「ク、クク……はぁーっ!!!」
「ッッッ!!!」
猛烈なエネルギーの奔流が、掠めただけで瓦礫を消し去り、回し受けで防ぐ俺の手を焦がす。
轟音の中、肉の焼ける音を幻聴しながら感じるダメージは、悟空のかめはめ波以上!
だが、俺はそれだけでも窮地と言えるこの技に構う余裕を持たない。
足元から振動が伝わる、これこそ、エネルギーの勢いに隠された真の意図――――
「腕かッッッ!!」
「よく知っておるな!」
ナメック星人の特性、伸びる腕。
エネルギーが消えると、そこには砲身冷却中とばかりに掲げられた左手と、土に埋もれた右手!!
「シィッ!!」
だが、俺とピッコロの実力差は、腕を足でさばけぬほど大きくはない、俺はピッコロの足を振り払い、本体に向かって走る!!
しかし……ピッコロは笑みを崩さず、俺をあざ笑った。
「かかったなっ!!」
「何ッッ!!?」
次の瞬間、ピッコロは激しく腕を引き抜き……瓦礫が俺を襲う!!
腕をあえて差し向けたのは隙を見せて俺を誘うためか!
「俺にこの程度の足止めは――――」
「――――何のことを言っている?」
瓦礫をひっくり返す腕を引っ張ったピッコロはそのまま体ごと猛烈な勢いで――――
「回転だとッッッ!!!? グッッ……!!」
腕そのものの威力、更には、腕が更に拘束で弾き飛ばす瓦礫を輝く両手で弾くが、いくつかの攻撃が体と腕に命中し、俺はたまらず後方に吹き飛ばされた。
「ゲ、フ……人間じゃない相手との試合はやっかいだな」
「これが試合だと?」
「力を持った二人が、罠も仕掛けず正面からやり合うんだ、試合と呼ぶしかないだろう」
「ク、ハハ……そうかもしれんなぁ!」
ピッコロの腕、否、派手な回転に隠された肘、爪、拳に抉られた腕が痛む。
これまでの、人間には不可能な技をただひけらかすだけの戦い方ではない、そこには俺を仕留める工夫があり、力以上の技術が込められている。
だが、それだけに、俺には不満があった。
「ピッコロ、お前はまだ実力を隠している、そうだろう?」
「きさまも力を隠し持っているではないか、まさかこの期に及んで出せないのか?」
「出せないな……」
鬼の貌、俺が得たはずの力は、この戦いにおいて、未だに目を覚まさずにいる。
理由は分からない、まだ追い詰められ足りないのか、何か、自覚すらしていない迷いでもあるのか。
……だが、だとしても、俺はピッコロに勝たなくてはならない、そうでなくては、仲間に、師匠達に、プリカに、報いる事ができない!!
「出せないなら、それが実力だと諦めて……死ね!!」
「そうはいかないさ、自由にならない力に頼るなど、不純そのもの……俺は、今ある力で貴様を倒す!!」
技術、戦術、身体能力、反射神経。
常人を遥かに超えた超人、その中でも、当代の地球人では随一の実力が俺にはある。
それを与えたのは、魔族共に殺された師匠達であり、この地球そのものなのだ!!
「ツァーッッッ!!!」
「来るかっ!!」
俺はピッコロに向け駆け出す、その手には、輝きよりもなお純粋な力が握られ……収束されてゆく!
これは、本来悟空に使うはずだった、そして、魔族から地球を守るにはもってこいの技だ。
「なにかくだらん技を出すつもりらしいが、わしには通じん!!」
あざ笑うピッコロの初撃は伸びる腕、肩肉でブロックし、前に進む!
俺は踏み込みながらのローキックでピッコロの足を制するが、ピッコロはそれを回避し、爪を俺に突きつける。
まともに喰らえば骨を切り裂き命に届く爪を、自爆覚悟の『爆発する手の掴み取り』で防ぎ――――後ろ蹴りをピッコロの腿に叩き込んだ!!
「ッッッ……トアァーッッッ!!!!」
「ぐ、おお……!!」
ピッコロが苦しむ一瞬を利用し、俺は拳を構え、技の最後の下ごしらえをする。
全力の格闘を持って敵の動きを封じ、その果てには、手に収束させた衝撃波エネルギーを叩きつけるのが、この技だ!!
「行くぞ、ピッコロ!!!」
「まさか、その技は――――」
シュラから盗み取った衝撃波エネルギーの操作は、俺が使えるエネルギー操作の中でも最も高度なものであり、穏健な魔族であったシュラの技は、魔族の暴走から世界を守るにふさわしいもの。
そして、それを叩き込むための格闘技術は、俺がこの世界で強さを極めようとする理由となった、師匠の美しい戦いを真似、昇華したもの!
その組み合わせによって作り出されたこの衝撃波拳のコンビネーションこそが、俺が今放つことが出来る最大の技、これまで築き上げてきた戦いの歴史が生み出す技だ!!
「
俺の必殺拳がピッコロの鳩尾に突き刺さる!!
拳はその勢いだけでピッコロを瓦礫の海に叩き込み、激しい土煙が上がる……が、これが終わりではない!
「ぐっ……おおおお!!!?」
「ッハァ………これが、俺の奥の手、だ……!!」
ピッコロの叫び声とともに、空気が震え、土煙が爆ぜた。
インパクトの瞬間に拳より侵入した衝撃波エネルギーが敵の体内で起爆し、体内を完全に破壊する。
それこそがこの技の本質、いかに再生能力を持つ種族といえど、打撃戦でダメージを受ける以上、体内をかき回すようなダメージを受ければ、ただでは済まない。
「ハァ……ハァ…………」
俺は息を整えながらピッコロを待つ、死んだとは思えない、だが、無防備に近づくほど、楽観はできない。
最後の最後に逆転するのは、俺自身の十八番なのだ。
俺は煙の向こうの気配を見張り――――殺気!
「ッッッ!!!」
左手のクロー!
だが避けられる、それを回避し、再び臨戦態勢を取った俺に、ピッコロは笑いかけた。
「はっはっは、まさか、人間でここまでやるのがいるとはな!!」
「ご、ご無事のようで、大魔王陛下」
「おかげさまでな」
ピッコロは左手に持った左手をぷらぷらと見せつけ、明後日の方角へと放り投げる。
笑うピッコロだが、小さく冷や汗をかき、無傷ではない、それは分かっている、分かっているが……。
「どうした、手詰まりか? ソシルミ」
「……まだまだ、これからだ」
体力は削れ、ダメージは大きく、敵は健在。
「では、楽しませてもらおう」
最大の技までも破られ……それでも、戦いは、まだ始まったばかり、だった。
→つづく
ちょっと遅めの投稿になり、申し訳ありません。
理由は……ちょっとビョーキやってました、入院とかするまでもなく治りましたが、ちょっと面倒なことがあれこれ。
ということで、ピッコロ大魔王戦もいよいよ佳境……ではなく、始まったばかり。
ソシルミは果たして、一人のままピッコロ大魔王を倒す事ができるのか!?
次回もお楽しみに!