転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第三十話:転生地球人がただ一つ背負うまで

 『では、楽しませてもらおう』

 

 ピッコロはその()()()()()()()()を投げ捨て、こちらに向けて構えを取る。

 それを見れば、何が起きたのかはすぐに分かった。

 

 「炸裂寸前、エネルギーを腕に流したか……!」

 

 「どう弄くられようとも気は気、どこに当たるかわかればどうということもないわ」

 

 俺が流し込んだ衝撃波エネルギーは、ピッコロが持つ何らかの技術で左腕に逸らされ、そこで炸裂した。

 その後、ピッコロはナメック星人の生態、自前の再生能力を用いて破壊された腕を再生し、ゆうゆうと俺に見せつけているというわけだ……!

 今度は、俺の額に冷や汗がつたう。

 サラリと言った技術の難しさもさることながら、再生可能とはいえ、やすやすと片腕を――――

 

 「――――さあ、ソシルミよ、試合再開だっ!!」

 

 「……ッッッ!!!」

 

 舞空術と完全に調和した変幻自在超高速のステップに乗る膂力は先程よりも勢いがある……いや、俺が弱っているのか!

 受け流しが間に合わない!

 

 「グッッ……!!」

 

 「どうしたソシルミ、これで種切れというわけではあるまい!!?」

 

 全力の受けで拳を防ぎ、しかし、そのまま瓦礫の端まで吹き飛ばされた俺にさらなる攻撃が襲いかかる!

 ピッコロの攻撃の威力が上がって……いや、俺の体力がもうない、どうする、このままではジリ貧、なぶり殺しだ。

 俺は脳裏によぎった敗北のイメージを振り払うべく思考を巡らしながら、横っ飛びでピッコロの攻撃を回避する。

 

 「まだだっ!!」

 

 「~~~~ッッッ!!」

 

 回避途中の俺が巨大な瓦礫に差し掛かった時、ピッコロが追いつく!

 そのまま放たれる拳、足、絶大なパワー。

 防御しようにもしきれはしない、威力を瓦礫に流すことすらままならない圧倒的な破壊。

 これが、異星人の才能、これが、宇宙随一の優秀人種、ナメック星の天才児、その片鱗だけでも、今や地球人最強の一角となった俺を潰すのには十分すぎる。

 

 「はははははは!! しょせんは人間、こんなものか!!」

 

 保有エネルギー量、筋力、身体強度、体力、特殊能力、フィジカル的な要素はほぼすべてピッコロの圧勝。

 格闘技術、反射神経など、僅かな要素では俺が勝っているが……絶対的な不利を覆すに足るものではない。

 

 「ガッッ……ガフ……」

 

 すべてをもってしても敵わない、頼みの必殺技も既に使ってしまった。

 俺にピッコロの攻撃を防ぐ手段は――――

 

 「フン、最早声も出ないか、そろそろトドメにしてやろう……!」

 

 俺を殺すべくピッコロは拳を振りかぶる。

 ……その動きに、見覚えがあった。

 それは、悟空に似ている。

 そして、天津飯に似ている。

 ……ジャッキー・チュン、亀仙人に似ている。

 

 「――――ッッッ!!」

 

 「なに!?」

 

 鋭い拳を、爆発する手で逸らし、それと同時に、思わず口から言葉が漏れる。

 

 「武道家……」

 

 「きさま、わしを武道家と呼ぶか……っ!!」

 

 「確かに、武道の動きだ」

 

 そうだ、ピッコロは武道家だ。

 だからこそ、俺を相手にここまで圧倒できる。

 だが、武を使う相手ならば、更に勝る武を使えば、あるいは。

 

 「先輩……一手、御教授頂きたい」

 

 

 

 

 化物と戦うのではない、唯の化物になど、俺は負けない、追い詰められなど、するはずもない。

 敵は武道家であり、俺は武で立ち向かうのだ!

 

 「ツァーッッッ!!!」

 

 「急に調子づきおって……ぬぅ!」

 

 爆発する手は格闘技術を無力化する武道家殺しの技、本来武術で勝る俺が使えば強みを潰すが、爪を用いた抜き手を多用するピッコロには有効だ!

 

 「その程度の爆発!!」

 

 「効くとは思っていないさッッ!!」

 

 指を使った精密な戦いが難しくなればそれで十分、俺の優位は守られる。

 気力大移動の高速拳に爆発を乗せることで威力と速度を守ったこの技は、数日前には不慣れからの動揺を突かれ敗れたが……今の俺に迷いはない!!

 

 「武道家として、貴様を倒す!!」

 

 「わしはピッコロ大魔王だ!!!」

 

 ピッコロが叫びとともに俺をにらみ、エネルギーを噴射する!

 俺は手を輝きに変える余裕もなく両手の爆発で受けるも、激しく後退し、技の停止を余儀なくされた。

 ……圧倒的なエネルギー、全盛期はこの数百倍だったとするならば、この地上に敵はいない。

 

 「グ……オオ……ッッ!!」

 

 「きええええいっ!!!」

 

 下がった俺に対し容赦なく追撃を始めるピッコロ。

 俺はギリギリで立ち直り、爆発を纏わぬただの気力大移動を放つ!

 

 「シッッッ!!」

 

 「食らわんわ!!」

 

 高速打撃をあっさりと掌で受けるピッコロ、その身体強度と反応速度。

 地球人とナメック星人の間にある数十か数百倍の基礎能力差、にも関わらず、鍛え込まれたガードの技術。

 しかし、一撃で仕留めようなどとは思っていない!!

 

 「八百拳(やおこぶし)ッッッ!!!」

 

 「技に名とは、きさまらしくもない――――」

 

 ピッコロの嘲笑を受け流し、俺は八百拳のコンビネーションに入る!

 高速打撃による幻覚の虚と超高速打撃の実を合わせ、対応不可能の敵を撃滅するのがこの技、どちらも『見える』ピッコロ相手であれど!!

 

 「――――ッッッッ!!!!!」

 

 「ぬおおおおっ!!」

 

 残る体力の大半を注いだこの技、ピッコロにも効果あり。

 繰り返される低速の打撃はピッコロの目を慣らし、時折放たれる高速打撃への耐性を失わせる。

 このまま連撃を重要臓器に叩き込み、行動能力を奪う!!

 

 「トタタタタッッ!!!」

 

 「くだらん!! 連撃と言えど、腕が増えるわけではあるまい!!」

 

 だが、一つ腕を捕らえることすらできはしまい!

 そう答えようとする俺の手が止まる。

 

 「なッ……!?」

 

 「見ろ、捕らえたぞ!」

 

 輝きを保ったままの手が止まったのは、腕が壊れたからでも、掴まれたからでもない!

 腕はピッコロの左腕にめり込み、そのまま停止していた。

 

 「わざと力を抜いて俺の貫手を……!」

 

 「クク……」

 

 ピッコロは文字通り『気を抜く』ことで左手の強度を下げ、次いで、再び力を込め、刺さったままの手の動きを封じたのだ!

 この実力差で腕を取られたままは絶対的にまずい!

 突き刺さった貫手にエネルギーを投入し、脱出を――――

 

 「遅いわっ!!」

 

 「ガ――――」

 

 腹部に衝撃、ピッコロの蹴り!!

 俺は思わず飛び退くが、ピッコロはすかさず伸びる腕の手刀を追撃に放つ!

 回避はできない、だが……。

 

 「ただ伸ばしただけの腕などッッ!!」

 

 俺は腕を回避して懐に入り込み、すれ違いざま、その腕に満身の衝撃波エネルギーを流し込む。

 しかし、ピッコロは間髪入れずに俺のタックルに対応、俺の両肩をがっしりと両腕で掴みながら、両腕にエネルギーを流し込み始めた!

 

 「まさか――――」

 

 「そのまさかよ、きさまのチンケな気など、種がわかれば容易く消しされるわっ!!」

 

 流し込んだエネルギーが消え去るのを感じる、だがそれ以上に危険なのは、エネルギーが両手に蓄えられているということ。

 嫌な予感は当たるもの、輝く手でロックを外そうとする間に、ピッコロは蓄えたエネルギーを起爆する!

 

 「グアアアアッッッ!!!!」

 

 「気を爆発させるなど初歩も初歩よ、技に至るまで練り上げた努力は買ってやるが、それまでだな」

 

 爆発によって弾き飛ばされた俺は、瓦礫を押しのけ、その端にめり込んで、ようやく止まる。

 ……エネルギー量が一流なら、エネルギーの操作もまた、一流。

 ピッコロ、いや、その前身、カタッツの子と呼ばれたナメック星人は地球において圧倒的な才能を持ちながら、ここまで技術を練り上げた。

 何故だ?

 気疲れなどではない、純粋な疲弊とダメージによってもたらされる脱力の中、普段ならば気にならない、いや、戦場にはそぐわない疑問が脳をよぎる。

 

 「ようやくきさまも死ぬ時が来たな」

 

 「そのようだな、ピッコロ」

 

 「……自分が死ぬ時までそれか、気色の悪いやつめ」

 

 「性分だ」

 

 違う、俺は生きたい、あくまで生きたいと思っているのだ。

 だが、最早抗う牙はない、自らを鍛える強者を前に弱者ができることは、強者より長く鍛え、強者より良い技術を得ることしかないのか?

 どうして、それが分かっていながら俺はこの世界の知識を使って更に自分を鍛えようとしなかった?

 重力室を使って鍛え込んで、敵対者を潰してのんびり鍛える、そんな構図を選ばなかった理由が、どこかにあるはずだ。

 

 「一体、どうしてこうなったのやら」

 

 「うわごとか、見苦しいぞ」

 

 「……ああ、見苦しいが、最後までやらせてもらう」

 

 俺は最後の力を振り絞って立ち上がり、ピッコロに向けてファイティングポーズを取る。

 構えですらない、ファイティングポーズだ。

 

 「ふん、座っていれば終わらせてやったものを!」

 

 立ち上がってみれば、ピッコロの言葉に言い返す余裕もなく。

 ただ、全力でやるだけ、そう思いながらも、雑念は止まらない。

 ――――ピッコロが向かってくる。

 

 「きえええええい!!!」

 

 「…………」

 

 何故、ピッコロは圧倒的な自分の力を更に鍛えたのだ?

 何故、俺は知識のアドバンテージを使って周りより力を高めようとしなかったのだ?

 

 ”門の外に向き直って見る道の先には、無限に広がる武術の世界が広がっていた。”

 

 武術を、全身で味わいたかった、気で膨れ上がった体のつま先でなく、指先でなく。

 

 『俺は、修行相手が……欲しかっただけだ! 強くて俺を殺しに来る、思う存分戦える相手が……!』

 

 全力で戦いたかった、必死で戦いたかった、命を賭けたかった。

 

 『滅びない、俺達が一緒に戦えばいい、仲間たちと切磋琢磨し、敵に立ち向かうんだ』

 

 並びたかった、高め合いたかった、鍛えあいたかった。

 

 『だから、今日はお前が産まれた日だ、俺も、お前が産まれてきた事を祝う、間違いなく俺にとっても、祝うべき日だからな』

 

 ――――間違いなく俺達は、祝福されてこの世界に生まれてきた、だから。

 俺は拳を握る、小指から順に関節を折り、人差し指から握り込み、親指で抑える。

 発射体制は、体に委ねる、決まった構えはそこにはいらない。

 

 「ヤケか、気の技すら使わず――――」

 

 違う、生きたいのだ、ただ、生きたい、自ら得た生を全うしたい、それだけなのだ!!!

 精一杯に今を生き、生を謳歌し、今の戦いを戦い抜いてこそ、宇宙を揺るがす戦いにも手が届くはずなのだ!!!!

 

 「(ジャ)ァァッッッッッ!!!!!!」

 

 「むぉぉっ!!?」

 

 俺の放った拳が、ピッコロの腕を叩く。

 おかしい、今の俺が放った拳を防御する価値などないはずだ。

 にも関わらず、俺の目の前にあったのは、腕をクロスさせた腕から血を流したピッコロが、俺の鼻先数メートルで目を見開いている姿だった。

 

 

 

 自らが持つ最高の能力を最高に発揮して生きる。

 俺はかつて、力においてそれを望んだ、自らの力は、宇宙にも通じるのではないかと思った。

 しかし、それは圧倒的な強さと才を持つ異星人たちの前に否定され、俺が頼みとしたのは、技術であり、戦法であり、そして、最後に頼ったのは、奇跡だ。

 

 「……おい、ソシルミ、何をやった」

 

 「何かは……わかんねェが……」

 

 霞みかけていた視界はクリアになった。

 学んできたものを捨て去ったかのような、無様なファイティングポーズ、そこから放たれた拳は、迫りくるピッコロに防御を強い、その防御すら貫いたのだ。

 

 「やらせてもらうッッッ!!!!」

 

 「むっ!!!」

 

 ファイティングポーズから拳を腰だめに下げながら突撃し、そのままパンチを放つ!

 律儀にも待っていたピッコロは、再び防御姿勢を取るが、貫ける。

 確信とともに放ったパンチが腕に突き刺さり、金属同士が激突するような音とともにピッコロを弾き飛ばした!!

 

 「調子に乗るでないわ!!!」

 

 「ヌンッッ!!」

 

 放たれる両手の手刀を、チョップで迎撃、二つの交差から、ピッコロの赤い血が垂れる。

 反射力までもが向上しているのだ。

 俺達は互いに一瞬、動揺し……同時に互いに向けてキックを放ち、蹴り合って飛び退いた。

 

 「きさま……どこにそんな力を隠していた?」

 

 ピッコロは忌々しげに笑う。

 ……力は隠していたのではなく、隠れていたのだ。

 そして俺は、この力を失ったのでも、出せなくなったのでもなく、どうやってこの力に呼びかければいいのか、見失っていたのだ。

 

 「鬼の貌、俺の背中に蓄えられた打撃用筋肉(ヒッティングマッスル)の塊、それがたった今、目覚めた」

 

 「背中の筋肉で反射速度まで上がるのか?」

 

 上がる、俺がそう答えると、ピッコロは忌々しげな表情を消し去り、愉快げに笑った。

 

 「わしの本当の力を見せてやろう、寿命までもが縮まる真の全力だ、見せたくはなかったが……」

 

 「見せてくれ」

 

 「言われなくとも!! ぬ、ぬおおおお………!!!!」

 

 気を高めだすピッコロ、見守る、俺。

 試合ではない、本当に倒すべき相手であるはずの敵を前に、手心どころか、その強化を待つことすらしている。

 だが、それはお互い様だ、互いに、敵を殺すことより、戦いを楽しむこと……あるいは、自らの生をぶつけることこそを、楽しみとしているのだ。

 

 「お……おお……!! はぁ、はぁ」

 

 「終わったか、ピッコロ!」

 

 「ああ、これできさまも終わりだ!!」

 

 緑の肌に青筋を立てたピッコロが笑い、体を前後に大きく開いた……亀仙流のような……構えを取る。

 俺は体を左右に広げた構え、範馬勇次郎の構えを取った。

 互いに本来の限界はとうに超えた領域、ただ、おそらく互角だと肌で分かる。

 ……ここまでやってもまだ、ピッコロが本気を出すだけで互角とは恐れ入るが、勝つのは俺だ。

 パワー、スピード、技術、エネルギー、体格、あらゆるものが関係ない、ただ強い、それこそが範馬、その根源こそが、腹の底から湧き上がるこの高揚感、戦闘意思だ!!

 

 

 拳と拳がぶつかる。

 足と足がぶつかる。

 頭と頭がぶつかる。

 

 「はははははっ!!!」

 

 「アハハハハハハッッッ!!!」 

 

 殴りながら笑う、殴られながら笑う、狂気ではなく、狂喜がある。

 相手がやることなんて関係ない、ただ自分がうまく殴れれば、気持ちよく殴れればそれでいい!!!

 パンチにはパンチをぶつけて、めいっぱいぶつかり合いを楽しむ、たまに肉を殴るのも楽しいな。

 気持ち悪いと思ったらみぞおちに拳が当たっていた、痛いけど、どうってことない。

 どうってことないけどやり返そう。

 

 「ドアアアアアッッ!!!!!」

 

 「ちぇえええいっ!!!!!」

 

 凄い力だ、この力があれば、俺は師匠にジャマなんかされずに済んだ。

 そうだ、こいつにはジャマしてくれる師匠もいなかったんだ、どんな気持ちだっただろう。

 圧倒的な力を持って、自分は善人で、止めてくれる人はいないなんて。

 もやもやと考えている間に、五百回くらい、パンチが俺達の顔に当たった。

 

 「キエエエエエッッッッ!!!!」

 

 「しぃぃっ!!!!」

 

 顔にも拳が当たる、ピッコロにも当たる。

 ピッコロの血と俺の血は、肌の色が違ってもどっちも赤色だ、嗅いでないけど、鉄臭いのか。

 これじゃ、自分が宇宙人だって気づけなくてもしょうがないか。

 

 「ひょああっ!!!!」

 

 「キィエッッッ!!!!!」

 

 どうだ、宇宙人、地球は退屈だったかい?

 つまんない場所だった?

 だったら、ごめんな、俺もよそ者だけど、お前を楽しませてやるから。

 

 「死ねぃ!!!」

 

 「グガアアッッッ!!!!!」

 

 楽しいなあピッコロ、戦うってのは。

 お前は今、自分のためだけに戦ってるのか?

 実は俺もそうなんだ。

 誰かを背負ってちゃあ、重くって戦えないもんな。

 

 「くたばれ大魔王ッッッ!!!!!」

 

 「ちぇええええい!!!!」

 

 お、クロスカウンター。

 それでもお前は倒れないんだ、俺も倒れないけど、そろそろ足がふらついてきた。

 ……目の前にはお前だけがいて、背中には鬼だけが背負われてる。

 仲間はもっと後ろか隣。

 大事なやつらは、俺の腹の中、俺の一部だから、どこにもいない。

 拳が当たる、必死の思いで再装填して、解き放って、当たる、精一杯引っぱってまた当てる。

 

 「拳……を……」

 

 おかしい、拳が下がらない、また殴りたいのに。

 気がつけば、目の前にピッコロがいない。

 どこへ行ったんだ?

 俺の拳は吹っ飛んで、ピッコロは呆れてどこかに行ってしまったのか?

 それなら、悪いことをした。

 

 「……気色悪い、あっちへ行け」

 

 「ん?」

 

 ピッコロが俺の肩を掴むと、腕にずるりと生肉の感触がして、それから、背中が瓦礫に当たった。

 突き飛ばされ、その拍子に拳が引っこ抜けたと気付いたのは、その後だ。

 俺は呆然とピッコロを見上げてつぶやく。

 

 「ピッコロ……胸、穴が開いてるな」

 

 「きさまが開けたのだ、まったく、このピッコロ大魔王にここまでしつこく……」

 

 「それは、ご無礼を」

 

 立ち上がらねば、追撃が来る。

 だが、俺の足は最早動かない……当然だ、とうに限界を超えた所から、更に限界を超えた戦いを行ったのだから。

 俺がホラー映画の腰の抜けた被害者のように四苦八苦していると、ピッコロは大声で笑い出した。

 

 「はははははははっ!!!! 無様だな、ソシルミ!」

 

 「滑稽なのは承知だ」

 

 「きさまのしつこさに免じて、決着は預けてやる」

 

 一体何を言い出す、魔族が倒れた敵を目の前にしているのだ、さっさとトドメを刺せばいいものを。

 そう言おうとする俺の目の前で、ピッコロは喉を急激に膨らませた。

 

 「ま、待てッッ……!!」

 

 「おごっ!!!」

 

 ピッコロはそのまま、とてつもない勢いで『卵』を吐き出す。

 卵、それはピッコロのすべてを込めた分身だ、つまり、今ここにいるピッコロは、死ぬ!

 にもかかわらず、ピッコロは何やら清々しい笑みを浮かべて、飛んでゆく卵を見ている……。

 

 「わが子よ、いつの日か……父のかたきを取ってくれよ……! そしてさらばだ、ソシルミ……うっ!!」

 

 ピッコロの肉体から光が漏れる、死とともに、蓄えていた力が開放され、爆発しようとしているのだ。

 まだ決着が付いていない、後でなどと言い訳をするな、お前を復活させたのは何者なのだ、なぜそのようなことをした、あらゆる言葉が脳裏を掠めて消えてゆき、最後には、ただ一つ、好敵手の名だけが残る。

 

 「ピッコローッッ!!!!」

 

 だが、俺の叫びも虚しく、ピッコロから吹き上がった爆炎は瓦礫を吹き飛ばし、爆風は俺の体を包んでゆく。

 ……そして、ピッコロの命によって巻き起こった爆風は、俺の目からこぼれた涙をさらって虚しくどこかへと吹きさっていった。

 その涙は、好敵手の死を前にして流れた、理屈すらもない、ただ死を惜しむ涙だったのだろう。

 

 「……また……戦おう」

 

 宙に放たれた再戦の誓いとともに、俺の意識もまた、中の都の空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 目が開く。

 まぶたが開き、光がやってくる、視界の端に地面が映る。

 写った地面は荒野だった、荒野に見えるほどに荒れ果てた、中の都だった。

 

 「む……ん……」

 

 叫びすぎたのか、拳が当たったのか、痛む喉でうめき、首を回して周囲を確認する。

 ……ところで、頬に何やら、柔らかいものが触れた。

 

 「お、起きていいのか?」

 

 触れた柔らかいものの正体が喋った、プリカだ、若干声が上ずっている。

 するとこの頬の感触……ではなく、俺の頭が乗っているのはプリカの足ということになるだろう。

 いや、待て、俺は今何をされている?

 違う、それより、答えなくては。

 

 「……魔族はまだいるのか?」

 

 「全部逃げてった」

 

 「じゃあ、しばらく寝ていよう」

 

 「本当に寝るのか、このまま……」

 

 プリカは俺をからかうつもりだったのか、膝枕にそのまま寝た俺に動揺している、しかし、もう手遅れだ。

 正直傷を広げているだけな気もするが、もはや止まることはできん。

 それに、もうホイポイカプセルを開くのも面倒だし、案外こういうのも悪くはない。

 しばらくそうしてくつろいでいると、遠くから聞き覚えのある甲高い声が飛び込んできた。

 

 「うわあーっ!! ハ、ハ、ハレンチだぞきさまら!!!」

 

 「うるさいぞピラフ、戦いを終えた戦士が仲間とくつろいでいるんだ、そっとしておいてくれてもいいじゃないか」

 

 「そ、そういうのはオモテでやっちゃいかんのだぞ!!」

 

 「なんでだ?」

 

 「孫悟空、おまえは黙っていた方がいいぞ……」

 

 「何を言うか天津飯、こいつらで遊べる機会など次いつ来るかわからんぞ」

 

 「桃白白さん、わたしはこいつらと馴れ合う気は――――」

 

 ピラフの叫び声に続いて、戦いを終えたあちこちのメンバーがなんだなんだと集まってくる。

 潮時だ、流石に続けていたら何を言われるかわからん、というか普通に恥ずかしい。

 俺はようやく動くようになった体を持ち上げてあぐらをかき、わざと真面目っぽく語気を整えて、みんなに話しかける。

 

 「……これで全員、ピラフの飛行機に乗ってきた連中は全員生還か」

 

 「メタリックどもは何体かぶっ壊されていたがな」

 

 桃白白が茶々を入れる、メタリック軍団はどいつもこいつも中破から大破、五体満足なのはいても、無傷なのはいない、多分、武道家や兵士、民間人を庇って負った傷だろう。

 ピラフとプリカは壊れたメタリック達に複雑な視線を向けているが、とりあえず、今考えるべきはそれじゃない。

 

 「皆、聞いてくれ、これは俺達武道家、いや、地球全体の命運にも関わることだ」

 

 「地球全体だと? ピッコロをおまえが倒した今、これ以上何かあるのか?」

 

 天津飯が驚いたように言う、まあ、それも無理はないだろう。

 悟空とプリカはすでに何を話すのか感づいているようで、神妙な表情になった。

 

 「ドラゴンボールのことだ」

 

 「……ピッコロに殺された兄者や亀じじい、それとおまえの縁者を蘇らせるのだったな」

 

 「ええ、ですが、作戦前の予想通り、ドラゴンボールはピッコロ大魔王によって使用され、ピッコロは若返っていました」

 

 「ドラゴンボールは使っちまうと一年は石っころになっちまうんだ、だから、しばらくみんなを生き返らせるのはムリってことだな……」

 

 悟空がガラにもなく説明してくれたが、それは違う。

 この世界では俺とプリカしか知らない、さらなる秘密があるのだ。

 

 「いや、ピッコロ大魔王はおそらく神龍を殺害している」

 

 「なにぃっ!? あの神龍を殺すだと! そ、そんなことが!!?」

 

 ピラフが驚くのも無理はない、神が直々に作り出した、いわば化身とも言える存在、死者蘇生から住宅の建築までそつなくやってのけるあの龍が簡単に死ぬと言われて、誰が信じるだろう。

 

 「強さと能力は違う、全能の神龍とはいえ、ピッコロ大魔王のパワーに晒されれば死んでしまってもおかしくはない」

 

 「では、ドラゴンボールはもう、使えない……鶴仙人さまも、チャオズも……!!」

 

 天津飯が3つの目を驚愕と悲しみに見開く。

 ……話がここで終わりなら、俺は不確実な希望で皆を釣った詐欺師ということになるが、そうではない。

 桃白白はそれにすでに気付いているらしく、焦りながらも、頬を釣り上げて俺を見た。

 

 「きさまのことだ、何か策があるからこそ、わざともったいぶっているのだろう?」

 

 「その通り、ドラゴンボールとはいえ一つの道具に過ぎません、壊れたのであれば、それを作った人物……すなわち、神に面会し、ドラゴンボールの再生を嘆願するまでです」

 

 真剣な顔で宣言しながら、俺は内心で微笑む。

 あいつが……ピッコロ大魔王がその命を遺してくれたお陰で、俺は今、こんな提案をできている。

 

 「神に直訴だとぉ!!?」

 

 またピラフが大げさに驚いた。

 魔族とも繋がりがあるらしいこいつにとっては、神の存在は俺達やそこらの武道家より、よっぽど身近なのだろう。

 ピラフとプリカ以外の皆は、神の存在を信じきれず、しかし俺の言葉を疑うでもなく動揺するか、特に違和感もなく受け入れてしまったようだ。

 このおおらかさが、この世界のいいところだな。

 

 「神だと……? 存在しているならば、オレも頼みに行きたいところだが……」

 

 「神が受け入れるのはおそらく、強さと清らかさを兼ね備えた者だけ、つまり、権利人は悟空だけだ、カリン塔までは俺も付き添うがな」

 

 鶴仙流の二人は清くなく、力もおそらく足りないのでアウト。

 俺は強いが、そこまで清くないのでアウト。

 プリカは清いと言いたいが筋斗雲に乗れるほどではないし、ピラフは論外。

 神との面会が許されるのは、おそらく元の歴史と同じく、悟空だけだ。

 そう伝えてやると、清くない連中はおとなしく引き下がった。

 

 「わかった、オラ、神様にあってくる」

 

 「良い返事だ、後でジェットに乗って行こう」

 

 「オレはどうしてる?」

 

 「ぶっ壊された家の片付けがあるだろう、ブルマに手伝ってもらわないと、研究所から漏れた汚染物質もあるんじゃないか?」

 

 プリカは『あ゛っ……』という感じの顔で固まり、青い顔でブツブツ言いながら設備の脳内リストを確認し始めた。

 俺はトレーニング設備がなくなるくらいで気楽なもんだが、プリカは大変だ。

 ……さて、業務連絡は終わったが、俺にはまだ、皆に言わなくちゃいけないことが残っている。

 

 「最後に、皆、俺の抜け駆けを見守ってくれてありがとう、おかげで気持ちよく戦い抜けた」

 

 「オラも、もうちょっと空のやつらを倒したら行くつもりだったからな……お互いさまだ!」

 

 「ありがとう悟空、代わりと言っちゃなんだが、武道会の決着はまた今度付けよう」

 

 俺が悟空と話していると、横で天津飯が何かを言おうとしているのに気付いた。

 天津飯は鶴仙人の仇を討ちたかっただろう、一度謝っておくか……と思ったが、天津飯はプイと顔をそむけてしまった。

 

 「拗ねるな天津飯、……フゥ、なに、ソシルミ、仇を横取りされたのは事実だが、裏を返せばかわりに討ってくれたということ、貸しや借りはなし、それでいいな?」

 

 「ええ、桃白白様、十分です、天津飯も……次は直接やろう」

 

 天津飯は顔を背けたままだったが、もはや敵意はない。

 ……これで、長く続いた鶴仙流との因縁も終わり、これからは新たな関係が始まるだろう。

 それが薄いものか濃いものか、良いものか悪いものかは分からない。

 分からないのは、この歴史が、善人の悟空を通した見たかつての歴史ではなく、悪を取り込んででも活かそうとする、俺達が作る新たな歴史だからだ。

 

 「ピラフ、ピッコロ大魔王は倒した、魔族は俺達で全部倒した……これで終わりだ、丸く収まった、お前が部下を助けたのは、間違いじゃなかった」

 

 「おまえの頑張りも、オレがおまえを送り出したのも、な」

 

 俺がピラフに向けて言った言葉に、プリカが重ねて、俺の背を小さく叩く。

 ……そうだ、間違いはなかったんだ。

 長く続き、始まりも苦しかったこの戦いだが、戦い終えた俺達はただ、晴れ晴れとした表情を浮かべていた。

 

 

→つづく




またちょっと投稿遅れ気味、桐山です。


ということで、ピッコロ大魔王編、これにて終了、あとは戦後の話となります。

二人の武道家として決着をつけた魔族と人間。
しかし、生き残った者にはまだまだ仕事が山積みです。
一つは、さっき倒した魔族の片割れに面会すること。
彼らは果たして無事に神と面会することができるのか、ドラゴンボールの運命やいかに。
激動の戦間期編の幕が今上がる!
……といいなあ。

次回からもお楽しみに!
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