転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

35 / 52
第三十三話:転生地球人が摩訶不思議な冒険を終えるまで

 女の胴程の太さの腕を持つボディビルダー、そのボディビルダーの胴ほどの太さを持った、暗い青緑色の腕。

 その拳が激突したならば、戦艦の装甲であろうとも、貫通は免れない破壊力。

 

 「ひぃぃあぁぁ!!」

 

 「シィッッッ!!!!」

 

 それを全力の回避と、『輝く手』によるパリングの併用でなんとか回避し、続けざまに、パンチを差し込む。

 差し込むパンチは俺のものではない。

 

 「がぐあああ!!」

 

 プリカの拳!

 

 「くっ……うっとおしいハエどもめ!!!」

 

 「うっとおしいで済まされちゃ困るんだけど……」

 

 俺が全力の防御で作った隙に、プリカの肉弾攻撃、正直、存在することは理解できても、にわかには信じがたいほどの頑強性。

 俺達、そしてギランが『ガーリック三人衆』を撃滅して数分後、ガーリックJr.は、部下を殺されたことにおかんむり……というわけでもなく、極めて冷静に、しかし、強い殺意を持って俺達に襲いかかってきた。

 そのパワー、スピードともに強力無比、おそらく、現地球最強。

 

 「そう言うな、済まなくしてやればいい」

 

 手を伝い、手首を濡らす輝きを纏った流血、そして、じわりと頬を伝う汗を、戦いへの高揚で塗りつぶしてごまかし、敵を見据える。

 『ガーリックJr.』

 かつて、先代の神が死ぬ時、今の神と後継者の座を争った魔族『ガーリック』の子供であり、生まれ変わり。

 その戦闘能力は、文字通り子供ほどの背丈しかない変身前の状態ですら神をゆうにしのぎ、そこから更に数メートルに巨大化する能力まで持っている。

 

 「流石はかつて神の後継者争いにまで参加したという存在、伊達ではない」

 

 「今更なにを白々しい……ルシフェルをも打倒したきさまらを生かすわけにはいかん!!」

 

 「生かすわけにはいかないのはこちらも同じだな、できるなら、闇の中で大人しくしていて欲しかったんだが」

 

 俺にとって、ガーリックJr.は、これまで幾度も激突を繰り返してきた魔族の親玉であり、師匠や同門の皆の間接的な仇であるのだが……。

 そんなことは関係ない、じめじめと恨みを蓄えるのは性に合っていないし、正しかろうが、間違っていようが、怒りなんてものを、『戦う理由』ってやつに混入させるのも、もう嫌だ。

 

 「ルシフェル……懐かしいな」

 

 「ああ、奴のように、今度も野望を砕いてやろう」

 

 俺がプリカと出会ったあの日、相対したあの魔族。

 奴の、あの強力極まりない力と、共に地球を手にすると誓った仲間達への想い。

 ガーリックJr.からは、あいつ程の脅威は感じず……俺達二人は、肉体という意味でも、精神的に、絆という意味でも、遥かに強くなっている。

 

 「行くぞッッ!!」

 

 「があっ!!!」

 

 「させるかぁ!」

 

 俺とプリカは一直線になってガーリックJr.へと向かう、将棋で言えば棒銀、ガンダムで言えばジェットストリームアタック、単純な連携だ。

 だが、まず飛び出した俺に向け、ガーリックJr.は猛烈にエネルギー弾を放つ。

 俺は速度を落とさぬままにそれを弾き、しかし、体勢を保てぬまま、斜めに流れた。

 

 「たあいもない、先に小娘から――――」

 

 「プリカ来いッッ!!!」

 

 俺は再攻撃に手間取り、プリカ一人を悠々と相手にする……そんなつもりのガーリックJr.の背後より、俺の声がかかり……。

 それと共に、プリカはこくりと頷き、勢いをそのままに斜めにそれ、軌道を俺に向ける!

 

 「なにっ!!?」 

 

 「行くぞッッ!!」

 

 プリカは更に頷く、何をするかはわからないが、合わせてみせる、そう物語る顔と、佇まい。

 その先に居るのは、お馴染みになった空力と姿勢変化、そして舞空術の合せ技で見事に静止して見せた俺。

 俺は手を伸ばして広げ、プリカはそれに合わせ、俺達の影が重なる!!

 

 「――――ッッッ!!!」

 

 「ぐぎぃっ!!!」

 

 俺の気合いとプリカの食いしばった声が同時に響く。

 強化した握力でプリカの腕を掴み、俺自身はその場に静止、プリカの動きを反転させつつ更に勢いを付け、ガーリックJr.に向け射出する!

 そう、この技こそ――――

 

 「舞空ブランコッッッ!!!」

 

 「ぐぼぉっっ!!!?」

 

 弾き飛ばされるガーリックJr.

 

 「ちょっと……ダサくないか?」

 

 戦場に相応しくないジト目のプリカ。

 お前の技名も大概だろうが。

 

 「調子出てきたじゃないか、もっと行くぞ」

 

 「バトルの途中にふざけてていいのか?」

 

 良くはないが、悪くない。

 どうせタイマンではないのだ、なら、俺達の持ち味、仲のいい二人だってところを活かしてもいいだろう。

 

 「ふ……ふざけおって……」

 

 「別に奇策を弄するわけじゃない、ただただ仲がいいだけさ、それとも魔族にゃそれだけでも眩しいかい?」

 

 「おのれーっ!!!」

 

 打てば響くように、煽れば飛び込んでくるガーリックJr.は正面から受ければひとたまりもなく、弾けば輝く手が裂ける、弾丸の速度の暴走列車!

 ならば、考えるべきは弾くことでもなく、防御でもない。

 俺は神経を集中しつつ、力を極限まで抜き――――

 

 「フッッッ……!!」

 

 「なぬぅ!?」

 

 ガーリックJr.の突撃を、その腕を、足を掻い潜るほどの距離で避ける。

 攻撃の沸点を外されたガーリックJr.がたたらを踏むように滑り込む先には、新たな技を準備したプリカの姿があった!

 

 「ぐ……っがああ!!! スター・モーニング・マルチプル!!!!」

 

 エネルギーが風を切り裂く音を立て、2つの光球が楕円軌道を飛び回る。

 感じずとも見てわかる超強力な密度と、超高速の回転軌道は、巻き込まれた犠牲者を決してただでは逃さない。

 

 「な、なんのこれし……きぃっ!!!」

 

 「ぐああああっ!!!」

 

 巨大化した身を縮め、スター・モーニング・マルチプルの破壊空間から守ろうとするガーリックJr.に、下手人、プリカが更に躍りかかる!

 そのパワーは、まさしく地球最大!!

 

 「ごがあああ!!!!!」

 

 「げえーっ!!!」

 

 満身の力を込めたキックを腹部に受けたガーリックJr.は舞空術を保てず、遥か地面の方角へと吹き飛ばされてゆく。

 俺はそれを見て、思わず賛辞を送る。

 

 「素晴らしいッッ!! まさしくお前らしい、前の技をしっかりと進化させたな!!」

 

 「バイナリ・スター・モーニング」

 

 俺の称賛に一瞬顔を明るくしたプリカだが、ついでに睨まれてしまった。

いや、実際すごい技だ、持ち前の気の制御能力を活かしつつも手足を自由にし、イメージも制御も容易い『楕円運動』を利用することで操作の手間を減らしたあの技は、技術屋のプリカらしい発想と言えるだろう。

 一方、プリカのとどめの一撃を前に地面に叩きつけられ、ようやく戻ってきたガーリックJr.は、なんとも言えない色の血液を垂らしながら、今にも怒りを爆発させようとしている。

 

 「お、おのれ……人間ごときが! ようやく眠りから覚めたというのに……!!」

 

 「なんか……かわいそうになってきたな」

 

 「元からあんなキャラだろう、あいつは」

 

 ガーリックJr.は元からあんなやつだ。

 作戦はちぐはぐ、地上最強クラスの力を持ちながら、どこか臆病。

 そして微妙に力及ばず、微妙な形で敗れ去る。

 まあ、それが味というやつなんだが。

 

 「ガーリックJr.、お前は本当に強い、だが、俺達二人を相手にするには少々力不足だったようだな」

 

 「二人がかりだからって意味じゃないよな」

 

 この地球で、ただの拳で輝く手を傷つけられる存在など、最早こいつしかいない。

 しかも、こいつにはまだ隠し玉があるときた、プリカと二人ということでわざと気を抜いて挑んではいるが、一人で挑めば、ピッコロ大魔王戦以上の苦戦を強いられるのは確実だ。

 だが、俺達二人でなら、もしかしたら、こいつが『隠し玉』を出す前に倒せる可能性もある。

 

 「……こいつが最後の技を出す前に終わらせるぞ、プリカ、合わせろ」

 

 「ああ」

 

 俺はゆらりと両手を前に構え、足を前後に広げる。

 

 「八千拳(やちよ)

 

 「もうその手は食わん! パワーで押しつぶしてくれるわ!!」

 

 ガーリックJr.が俺の正面でエネルギーを蓄積し始めた。

 だが、俺にとってそれは些細なことだ、……八千拳、その名の通り、八百拳のバリエーション、空対空仕様。

 

 「行くぞッッッ!!!」

 

 「ぎえええええい!!!」

 

 ひと息に飛び込む俺に対し、奴が選択したのはエネルギー弾の高速連射!

 俺は奴のエネルギー弾を前に弾ききれず突進を保つ事ができない、その事実を覚えているのだ。

 だが、ガーリックJr.に見せた事実は、戦場の真実ではない。

 

 「ムンッッ!!!」

 

 エネルギー弾に手をかざし、手を衝撃波の輝きに満たす。

 そして、先程感じ取ったガーリックJr.のエネルギー弾の『理』に合わせて調整!

 手に触れる寸前に衝撃波によって雲散霧消させ、消し去る!!

 

 「はぁっ!!?」

 

 「さあ、ちょっと付き合ってもらうぞ、ガーリックJr.ッッッ!!!!!」

 

 この八千拳を常人が見たならば――――否、常人には、俺を包む空気の歪み、エネルギーのきらめきしか見えはしない。

 師匠が俺に見た八手拳の未来、『見えぬ拳』はここに実現した。

 それに加え、輝く手を自在に動かして武術を運用し、そのエネルギーの形質変化までも『拳の変化』として取り込んだこの技は、エイジ753年までの冒険の集大成。

 例えそれが、ガーリックJr.という格上を殺すことは出来ずとも。

 

 「ちょこまかと!!!」

 

 「グッッッ……!!」

 

 裂ける腕、頬、額、だが、それでも。

 

 「ウエスト・モーニング・サンシャイン!!!」

 

 「ま、またしてもおっ!!!」

 

 本来5年後に現れるはずの魔族の首魁を翻弄し、我が友の必殺技を誘い出すだけの時間は整った!!

 高く掲げられたプリカの手には、小さなエネルギーの塊が鎮座する。

 その名の通り、まばゆく輝くそれは、プリカの号令とともに極超音速でガーリックJr.の腹部に着弾!

 

 「ぐおおおおおっ!!!!!」

 

 ほとんど瞬間といえる程の間に、エネルギー弾はガーリックJr.もろとも地面へと激突し、まるで大型爆弾でも直撃したかのような巨大な火球を形成した。

 ……やはり、恐ろしい威力、流石はプリカだ。

 俺はその恐ろしさを感じた顔をあえて残したままプリカに向き直り、頷く。

 プリカも、呆れたような、照れくさそうな顔で頷き、また、火球を見た。

 

 「ガーリックJr.……あれが最後の一匹とは思えない」

 

 「そこは『やったか!』じゃないのか――――うわっ!!?」

 

 次の瞬間、強力な、重力にも似た引きずり込まれる感覚!

 間違いない。

 

 「デッドゾーンッッッ!!!」

 

 「まさかきさまがこの技を知っているとはな……だが、もはや驚かん!!」

 

 遥か下で叫ぶガーリックJr.の姿。

 自分『で』作られたクレーターの端の小高い部分に立ち、構えを取って発動したこの技は、巨大な異空間『デッドゾーン』へとあらゆるものを吸引する封印技!

俺は鍛え上げた舞空術、プリカはエネルギー弾を断続的に放って、その反動で吸引に抗うが、……長くは続きそうにない。

 もっと悪いことに、死にかけであったり、単に気絶していた魔族どもが吸引によって叩き起こされ、吸われながらも、立ち上がろうとし始めていた。

 

 「ああなったガーリックJr.は戦闘力で言って数倍ないと倒せないはずだが、試してみるか?」

 

 「そんな余裕ない!!」

 

 「だろうな」

 

 俺達のパワーをいくらかき集めたところでデッドゾーンを超えることは出来ない。

 だが、たった一つだけ、有効な手段を、俺は知っていた。

 神様の下で学んだのは武術だけでも、歴史だけでもない。

 

 「この地域の経度、時刻、そして日付……、満月は今、俺達の真上に浮かんでいる!」

 

 「満月!? でも、この空間の中じゃ……!」

 

 「その通り! ちゃんと修行したんだ、この程度の結界なら、穴をあけるくらいできる!」

 

 俺の叫びに、プリカは渋い顔をするばかりだ。

 俺はガーリックJr.の吸引に耐えながらも、プリカの説得を試みる。

 

 「じ、自信ないぞ、正気とか無理だし、あの時がうまくいきすぎたんだ」

 

 「俺の言う事を、聞いてくれたじゃないか!」

 

 「おまえが死にかけだったから、敵に見えなかったのかも」

 

 嫌がるプリカ、迫る俺。

 だが、これしか策はない。

 

 「あの日はできたじゃないか、今日だって……できるはずだ」

 

 「むちゃくちゃ言うなよ! 大猿を止めるのは親子でもないと無理だ!!」

 

 「言っちゃなんだが、俺達の間柄はそんなに薄いもんじゃないだろ」

 

 プリカは押し黙った。

 吸い込まれないようにする他は、しゃべるのが精一杯、そんな状況でプリカの姿までは確認できない。

 だが、プリカは揺れているとはっきりわかった。

 

 「どうする、プリカ」

 

 「おまえは……」

 

 小さく、躊躇するように呟く、いや、言葉を始めようとするプリカ。

 俺は黙って、それを待つ。

 

 「おまえは、オレが大猿になっても、目の前のおまえじゃなくて、あいつを襲えると思うか? ……オレは大猿になっても、おまえの言うことなら、覚えてられるって思うのか?」

 

 「思う」

 

 腹にずっしりと来るプリカの言葉に、条件反射かと思われかねない程の即答を返す。

 足掛け七年分の関係だ、俺も、軽くとらえているわけじゃないが、だからこそ。

 

 「お……おまえが、そこまで思うなら、なってやってもいい」

 

 「ありがとう、死力を尽くす」

 

 俺は全身に力を込め、舞空術を使い、天高く登ってゆく。

 そして、貫手を強く、鋭く輝かせ……空間へとねじ込んだ!!

 

 「()ァッッッッ!!!!」

 

 そしてそのまま、空間を割り開く。

 カーテンを開け放つようにたわんだ夕暮れ色の向こうには、想像していた通りの漆黒の空、そして。

 満月!!

 

 「…………!!」

 

 俺は空間を開け放ったままプリカを見る、プリカはエネルギーの射出をやめ、吸引に流され始めながらも月から目を逸らさない。

 成功だ、プリカの身体はどんどん大きくなり、ジャージはそれに合わせて伸びていく。

 多分、戦闘服を参考に作った伸縮性のある素材なのだろうそれは、大猿の完成とともに破れた。

 

 「アチャー~~モロ……」

 

 「ゴガアアアアアアア!!!」

 

 うっかり耳を塞ぎそうになる程の雄叫びとともに、大猿が大地に立つ!

 ズシンと響いて大地を掴んだ大猿は、その大地が砕け、吸い込まれるのすら意に介さぬように微動だにせず吠えた!!

 

 「さあプリカ、七年分の進歩を見せてくれッッ!!」

 

 「グル…………ゴオオオオオ!!!!」

 

 そしてプリカはガーリックJr.……ではなく、こちらにエネルギー弾を発射した!!

 

 「ムゥゥッッ!!!?」

 

 命中すれば消滅は免れない一撃!

 俺はとっさに空間の裂け目を手放し、砲撃から逃れ――――爆発!!

 プリカは続けざまにエネルギー弾を放って魔族の群れを消し去り、のっしのっしと歩いて地上で吸引に抗う魔族を踏み潰し始めた。

 プリカは完全に制御を失っている、……ここに、地上最強、理性ゼロ、完全に制御不能なモンスターが誕生してしまったのだッッ!!

 

 「空間の裂け目は無事だが……このままではまずい!!」

 

 「お、おいきさま!! 何をしたんだ! どうしてきさままで攻撃されている!!?」

 

 ガーリックJr.がうるさいがそれどころではない。

 プリカの攻撃は完全に無差別、破壊衝動にまかせてあっちこっちを壊しまくっているし、裂け目の維持も、長くは続かん。

 空間の裂け目を閉じるか?

 だが、そうすれば今度はパワーを失ったプリカがデッドゾーンに飲まれるのは必然だ。

 

 「止まれ、止まるんだプリカ! ガーリックJr.を攻撃しろ!! 気弾じゃキツイかもしれんが、地面ごと抉ってやればすぐだ! 早く!!」

 

 「グオオオオオオオ!!!」

 

 反応なし……いや、こっちにエネルギーを湛えた口が向いている!!

 

 「ここで俺達が負けたら地球はどうなる、ガーリックJr.がもしピッコロと合流したら世界はとんでもないことになるぞ!!」

 

 「ガアアアアアア!!!」

 

 エネルギー弾……いや、ビーム!!

 横薙ぎに放たれたそれをすんでのところで回避した俺は、溢れたエネルギーに煽られ、木の葉のように回転しながら吹き飛ばされた。

 吸引に抗いながら回避、裂け目の維持、これは……!

 

 「研究室も、タンドール王国もどうなるか分からん、プリカ! 起きろ!!」

 

 俺の叫びに、ただ、大きく喚く獲物としての反応を示したプリカは、魔族を踏み潰す傍ら、しきりに俺に向けてビームやエネルギー弾を放ってくる。

 

 「悟空やクリリン、桃白白たちも――――」

 

 言葉への反応は、なし。

 

 「全部で七年、一緒に居る時だけで四年も付き合ってきてこれか、プリカ!! 俺じゃ足りないのか!!?」

 

 サイヤ人の下級戦士は大猿になった時、意識を保つことが出来ないが……同時に、十分に関係の近い人間の説得によって正気を取り戻す例も存在する。

 俺とプリカはそれになりうると思った、だが……。

 どこが間違っている?

 伝える言葉か、それとも、関係か、どちらかが足りないと想うしかない。

 

 「ハァッッ……ハァッッ……プリカ……」

 

 ついに息が上がる、エネルギーがもうない、ビームの余波だけで、俺の身体は最早限界に近づいている。

 

 「何が足りない?」

 

 俺は、風音に飲まれるように、小さく、自分に問いかける。

 ……間違いがあるはずだ。

 どこぞのオカマの言葉を引くまでもなく、時間と絆の深さとは関係ない。

 共闘の数も関係ない、地球も悟空も関係ない。

 あるはずだ、俺達のつながりが。

 

 『お、おれもたたかう!』

 

 初めて出会った時、奇妙なサイヤ人の存在に、驚きながらも、胸が踊った。

 わくわくするような既知に包まれた俺の人生に現れた、予測できない未知の存在。

 

 『おれは……とめられない、じぶんではおさえられないものがこわくて、あそこにいたんだ』

 

 その正体は、自分の持つ知識を恐れ、自分の持つ力を恐れる一人の人間だったのだ。

 そんなプリカが森を出た理由は、自分がかけた迷惑を償うためだった。

 誰に言われるでも、誰に責められるでもなく、自分から責任を取ってみせた。

 

 『……楽しかったよ、嫌になるくらい』

 

 そんなあいつに、楽しんで力を振るうことを教えたのは、俺だ。

 俺はあいつに見た力に焦がれ、それを引き出し……俺達は互いが抱える、同じ秘密を知った。

 

 『オレはしょうじき言って、ちきゅうじんの男にもどりたいんだ』

 

 もう一つの秘密と願いを知った俺は、プリカに、その願いを叶えさせようとした。

 だが、プリカはその願いを放棄し、代わりに、俺達の家を作った。

 この世界で、二人で暮らすために。

 

 俺達の思い出も、絆も、もっと沢山ある。

 足りなくなんかない、積み重ねてきた。

 

 「プリカ……」

 

 それでも、"これ"ではないのだと、俺の中の、何かが叫ぶ。

 観念して、俺はその叫びに、従うことにした。

 

 「お前の優しさが好きだ、俺が振りかざす、理詰めの博愛主義なんかとは違う本物の優しさをお前は持っていた」

 

 プリカは優しいやつだ。

 人が傷付くのを本当に嫌だと思っている、その優しさが好きだ。

 

 「お前が天津飯にやられた時、あんなに怒ったのは、お前がやられたからじゃない、お前が優しいのが分かって、そのせいで倒れたのが、辛かったからだ」

 

 天津飯とチャオズにとっては、本当に、理不尽な怒り。

 あれは、あの二人に向けられた怒りですらなかったんだ。

 

 「何度助けられたか分からない、あの時守って貰ったピラフなんかより、俺の方がよっぽど、お前の優しさを味わってきた」

 

 思えば、七年も。

 力が凄いとか、功績を上げたとか、つまらないことばかり褒めてきた気がする。

 ずっと、全く考えも合わないまま、合わせないまま、俺の理屈ばかりに付き合わせてきた気がする。

 何度も心配をかけて、時には俺がそのまま殴り飛ばしたことだってあった、それでも、愛想もつかさず、一緒に居てくれた。

 それはプリカが優しいからか?

 

 「お前が優しいから俺に付き合ってくれたんじゃないなら、俺も言わなきゃいけないことがある」

 

 いつの間にか、大猿の動きは止まっていて。

 いつの間にか、尽きかけていた俺の気は、永遠に浮かんでいられそうなほどに充実していて。

 七年越しに放ち始めた、ずっと意地っ張りの俺の腹の中にこもっていた言葉は、止まりそうになく。

 

 「プリカッッッ!!! 優しさだとか強さだとかかわいさだとかは関係ない!! もともとどうだったかとか、どうでもいい!! いいや、知りたい!!」

 

 俺は叫ぶ、わざと以心伝心を気取っていても、言わなくちゃどうにもならない言葉があるってことを忘れていた、七年分の言葉を。

 唯一年月が意味を持つ、積み重なった想いを。

 

 「本当のことなんてどうだっていい、俺がお前を連れてきたのも、お前とずっと一緒に居たのも、お前を鍛えようなんて言ったのも、理由はたった一つなんだ!!」

 

 止まったプリカに、何をするべきか叫ぶことも、すっかり忘れて叫ぶ俺に。

 

 「俺はお前が好きだッッッ!!!」

 

 大猿は、甲高い声で叫び返した。

 

 「あ、あ、あーっ!!!!?」

 

 意識が戻ったのか、いや、今のは流石に口が滑ったような、言い過ぎたような、でも否定はできないような。

 いつものオタクらしい言葉遣いを取り戻そうと俺があたふたしている間に、プリカはエネルギーを口に溜め。

 

 「ぐあーっっっ!!!!!」

 

 こころなしか涙声な雄叫び一閃、ガーリックJr.を周囲数キロの大地と共に完全に消し去った!!

 

 

 

 

 

 

 大地に刻まれた、超巨大なクレーター。

 中心には、ドーム型の、6年前に使っていたあの家。

 家の中、ソファーの上で毛布にくるまっているのがプリカ、台所に立って、鍋をかき混ぜているのが俺だ。

 

 「……これで、俺達の摩訶不思議アドベンチャーは終わりだ、おかしな歴史、湧き出した悪者は、ひとまず全部片付いた」

 

 「まだ終わりじゃない、これは何度も繰り返してきた戦いの一つだと思う」

 

 「『もうちっとだけ続くんじゃ』……か」

 

 プリカに月を見せた裂け目が消えるのは、結界そのものが消えるよりも少しだけ早く……プリカは結局、大猿から戻ると同時に全裸で自分が作った爆心地にへたり込むことになった。

 俺は、身体を冷やしたプリカをねぎらうために、更にお玉を回して、少しだけ感傷に浸る。

 孫悟空/カカロットという人間の半生、一代記とも言えるドラゴンボールの物語、その折り返し地点に、俺達は立っているのだ。

 

 「ああ、それと、ソシルミ、もう一つ」

 

 「繰り返しというなら、よく言う、『円環じゃなくて螺旋』というやつだな、俺達も、この世界も、あの始まりよりは進歩したはずだ」

 

 敵の親玉は自分達の力で対処できて、悪あがきを潰す大猿は、ぼんやりと敵だけを意識できて倒せたなんて不確実なやり方じゃなく、完全に意識を取り戻して力を発揮したのだ。

 

 「ああ、おまえの説得のおかげだ、あの時……」

 

 「しかし、魔族どもとの戦いを勝利で終えたのはいいが、天下一武道会参加の希望は完全に潰えてしまった」

 

 はるか遠くで、大きな力が激突するのを感じる。

 地球の地理が頭に入った俺にはそれがパパイヤ島、天下一武道会会場だとはっきりとわかった。

 

 「悟空たちを信じるしかない」

 

 「……ピッコロの負けを信じたくはないがな」

 

 「元の歴史の通りに行けばいいけど」

 

 そう言って、プリカはソファから立ち上がった。

 ジャージの擦れる音と、素足の足音が近づいてくる。

 

 「そうそう、元の歴史通りなら、チチと悟空の結婚も、この武道会だったよな!」

 

 突然語気を強めたプリカが、右肩に置いた手。

 俺の肩が、自分でも驚くほどに激しく跳ねた。

 

 「ぷっ……ちょ、ちょっとおもしろいぞ、ソシルミ」

 

 「料理中に脅かすな」

 

 「ちょっと触ったくらいでビビるなんて、意外だった」

 

 全然、意外じゃなさそうな口調に、むずがゆさを感じる。

 確かに、普段の俺なら、包丁を使っている最中に殴りかかられたところで、微動だにせず料理を続けるのだが。

 今は違う、そして、プリカはそれを分かっているのだ。

 プリカは肩に手を置いて、それから、鍋の中身……味噌汁に少しだけ鼻を動かす。

 そして、俺が『じゃあ味見でもするか』と切り出そうとしたのを見計らったかのように、言葉を続けた。

 

 「火止めて、こっち向け」

 

 「お、おう」

 

 「正直、どっから意識があったのか、オレも曖昧だ、でも、最後の言葉は、バッチリ聞いた」

 

 真正面から俺を見つめて、俺が目を逸らすのは絶対に許さないとばかりに睨むプリカ。

 俺は気の利いた返しどころか、言葉を返すことすら出来ず、続きを聞く。

 

 「あれは、口からでまかせとかじゃないよな」

 

 「本心だ」

 

 否定する事ができなくて、引き伸ばすのも不誠実だと思って、食い気味に放った言葉が、言った後になって、『言ってしまったぞ』と、胸の中でガンガンと響く。

 だが、もっと恐ろしいのは、俺の、軽薄な『出任せ』の一つだと思われてしまうことだ。

 ……プリカはそんな俺を見て、こころなしかドヤ顔気味に、ぺちんと俺の頬を叩いた。

 

 「その顔見て、でまかせなんて思わないから、安心しとけ」

 

 「そんな顔、してたか」

 

 「してた、……味噌汁、味見させろ」

 

 俺が遠慮がちに小皿を出すと、プリカはくいっと飲んで、『うまい』と一言だけ言ってから、そのままソファーに戻った。

 座ったプリカは、顔を赤らめながら話を始め、俺は鍋に向き直り、プリカの話を背中で聞く。

 

 「あの日、あの戦い以来、オレが大猿にならなかったのは、なんでだと思う?」

 

 「闘争本能が満たされたから、じゃないのか?」

 

 「それもあるけど、違う、オレがああなってたのは、寂しかったからだ、狭い山の中に引きこもって、必死に自分を抑え込んで、心は乾く一方……それを無理やり八つ当たりして、本当に砕きたかったのは、山じゃなくって、自分の作った心の殻ってやつだったんだ」

 

 「……それが、外に出て、いらなくなった、と」

 

 「おまえが出してくれたんだ、白馬の王子様」

 

 思わず振り返ると、今度はプリカが顔を逸らした。

 調子が狂っているのはお互い様らしい。

 

 「ソシルミ、オレは最初、おまえが怖かった、当然だと思う、おまえはなんでそこに居るのかわかんないし、オレがあんなになってまで守ろうとした世界を、あっさり壊そうとしてた」

 

 「……これで良かったと思う」

 

 「オレもそう思う、おまえはオレが守りたかった世界を壊して、代わりにオレに、希望と自由をくれた、結局、自由って言っても、おまえにべったりだけど、それも、オレが自分で選んだ結果だ」

 

 「お前の自由を奪ったつもりはないが、それは、嬉しいな」

 

 「ああ、だからオレも言うよ、ソシルミ、おまえが好きだ、オレがおまえにべったりなのは、成り行きでも流されたからでもないし、おまえを見張るためでも、おまえの歴史改変を手伝うためでもない、おまえが好きだからだ」

 

 そう言うと、プリカは押し黙ったまま歩み寄ってきて、無言で小皿を差し出してきた。

 ほんの少しだけ味噌汁を注いで返すと、プリカは、しょっぱいから味を見ろとのたまって、肩を叩く。

 振り向いた瞬間、ぐいっと、肩ごと引き下げられた顔に、顔が。

 

 「~~~~ッッ!!!」

 

 「………ん!」

 

 「…………! ……!?」

 

 混乱に包まれた俺から、ゆっくりと離れたプリカが、小皿を差し出してきた。

 塩を入れすぎたか具が少なかったか、いや、そうじゃない、キスだと……!?

 

 「ウソだ、味はちょうどいい、たまには、オレがおまえを騙したっていいだろ」

 

 「お、おい……プリカ……!?」

 

 「文句があるなら、いつもどおり、お前らしく理路整然と、論理的に言い返してくれ」

 

 「俺は……家族の事を言わないなら、前世も含めて、これが最初だった……」

 

 「何一つ論理的じゃないな、早く味噌汁よそってくれ」

 

 俺は言われるがままに味噌汁をよそい、席につく。

 プリカは渡した味噌汁を持ったまま俺の隣に、というか、密着するように座った。

 

 「天下一武道会は、今から行っても混ざれないだろ、ゆっくりしてこう」

 

 「戦いを見届ける以外にも、するべきことは……」

 

 俺の腰を引き寄せるように、プリカのしっぽが巻き付く。

 またしても言葉が続かなくなった。

 

 「とりあえず身体を温めてから考えよう、ソシルミ」

 

 ……強さとは我儘通す力、最愛に比べれば最強なんて。

 なるほど。

 

 「風呂でも入れるか」

 

 「ベッドがあるだろ」

 

 俺は敗北を認め、二人で身体を温めることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ドアを叩く音がする、窓から差し込む光は、晴天の明け方。

 一体こんな時間にどんな来客だ、迷惑極まりない。

 隣で寝るプリカを……(一瞬、息を飲んだ)起こさぬように立ち上がり、応対に向かおうとして、ようやく異常に気付いた。

 そもそも、ここは人の住まぬ荒野、クレーターの最奥、来客があるとすれば、それは俺達の存在を感じ取れる特殊な知り合いしかいない。

 

 「はいはい、今開けますよ」

 

 もしかしたら目上かも、そんなふうに思って、申し訳程度の敬語を使いながら、開け放ったドアの向こうには。

 

 「久しぶりだな、アエ・ソシルミ」

 

 青白い肌、いつぞやの吸血鬼がいた。

 

 

→つづく




お久しぶりです、桐山です。

ついにやらかしましたこの二人、文庫本で言えば2巻半越しくらいですかね。
オリヒロインとの恋愛にどれだけ尺使えば気が済むんだって話ですが、しかし私は謝らない。

ということで、残念ながら天下一武道会はキャンセルで、エイジ756年、つまり、摩訶不思議な冒険はおしまい…なのですが、もうひとりだけ、相手にしておかないといけない人がいるようです。

ルシフェル。
かつて二人が戦った難敵、二人が辿った異常な歴史の始発点。
彼の再来は何を意味するのか、そして、なぜ彼は生きてきて、今さら姿を現したのか。
それらの謎は、彼らを巡る運命の正体、その答えの一端を与えてくれることでしょう。
次回もお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。