転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第三十四話:二人がもう少し先の未来を見据えるまで

 「……もうすぐ朝日が来るぞ」

 

 俺は、目の前に現れた男、最早懐かしき敵に、脅しというわけでも、心配というわけでもなく、一言だけ呟いた。

 

 「アエ・ソシルミ、……話をしようじゃないか」

 

 それを物ともしないこの男の名はルシフェル。

 7年前、俺と、まだ眠りの中にある相棒、プリカの手によって葬られた魔族の首魁。

 ……葬られたはずだった男だ、それが、紳士ぶった、吸血鬼らしい佇まいで、ここにいる。

 

 「立ち話もなんだ、家に入れ、カーテンくらいは閉めてやる」

 

 「それはどうも、お気になさらず」

 

 俺の警戒と動揺を楽しむような口調で礼を言って、ルシフェルはずかずかと家に上がり込む。

 来客ならば飲み物くらい、と思ったが、ルシフェルは一体何を飲むのか。

 血は振る舞ってやれないが、ワインもこの家にはない。

 

 「水か、緑茶か、コーヒーか、どうする」

 

 「紅茶はないのか」

 

 「紳士らしい趣味だな、チャイならあるぞ」

 

 「それでお願いしよう」

 

 ……魔族も人間らしい飲み物を嗜むのか。

 それとも、5000年か、7年の月日のいずれかが奴を変えたのか。

 確かガーリックJr.の手下はリンゴのような、謎の酩酊物質を含んだ果実を喫食していたが……。

 振る舞ったチャイを飲むルシフェルを、見張りながらも別の色の目で注視していると、ルシフェルは面白げにつぶやいた。

 

 「それで、吸血鬼を家に招いてよかったのかね?」

 

 俺の警戒心と好奇心を見抜いたような言葉に心臓が跳ねそうになる。

 

 「魔族の親玉に種族も何もあるまい、それで、わざわざ訪ねた要件はなんだ、復讐……という雰囲気でもないが」

 

 「久しぶりの上、腰を据えて話すのは初めてなんだ、少しは会話を楽しもうじゃないか」

 

 「朝日が近い」

 

 「なるほど、心配してくれているというわけだな、では、わたしもそれに答えねばなるまい」

 

 ……調子が狂う、という程でもないが、こうまで余裕ぶった奴と話すのは久しぶりだ。

 

 「とは言ったものの、わたしがここに来た理由は火を見るよりも明らかだろう」

 

 ルシフェルは余裕たっぷりに、さあ問題だ、とばかりの言葉をぶつけてきた。

 そして、俺はそれに対する回答を持っている。

 

 「ガーリックJr.の出遅れだな」

 

 「ピンポン、ピンポン、ピンポーン!」

 

 顔を恐ろしいモンスターのそれに変える……わけでもなく、美形のままのルシフェルがおどける。

 そうだ、あの戦いの最中、ガーリックJr.はわずか数分だけ出遅れ、それによって、手下の三人を失った。

 ガーリックJr.勢力そのものの敗戦に繋がったあの出遅れが、単なる偶然などであるはずがない。

 

 「するとあの日、ピラフと我々を救ったのもお前というワケだ」

 

 「そいつも大当たり、賞金も何も出ないが、なんだ、わかっているじゃないか」

 

 前回の天下一武道会を襲撃したピッコロ大魔王。

 奴と配下の軍団からの攻撃から逃げる我々を救ったのはピラフだが、なぜ、魔族に締め上げられたはずのピラフがあの会場までやってこれたのか。

 ピッコロ大魔王の追撃はないとピラフが言い、そして、事実そうなった理由とは何か。

 その答えは、ここにあった。

 

 「お前が俺達を助けた理由は……、自分の配下が壊滅している間に地球を奪われないため、と言ったところか」

 

 「満点じゃないか、流石は次期神様筆頭候補」

 

 納得の行く説明、本人も肯定している……だが。

 

 「――――いや、何かが違う、情報が足りない、それだけでは、同族ではなく俺達に手を貸す理由にはならない」

 

 魔族にとって、俺やプリカなどという強力な戦士が死ぬのに越したことはない、もっと言うなら、ピッコロも、ガーリックJr.も、好き放題暴れさせ、世界を荒らしてくれた方が、我々、光に生きる生き物と戦いながら勢力を育てるよりずっとラクになるはずだ。

 それにもっと大事な問いが隠されている、そもそもこいつは、何故大猿から生き残ったのだ?

 

 「……鋭いな、ソシルミ」

 

 「称賛ではなく、理由を聞きたい」

 

 ルシフェルは観念したように、一つため息をついた。

 

 「わたしがおまえたちを助けた理由が、利益だけではないのは確かだ」

 

 そして続いたのは、好意的に解釈するのならば、俺にとって何よりうれしい言葉だった。

 

 「お前……」

 

 「よせ、ここに来たのは、礼を言われるためでも、言うためでもない」

 

 ルシフェルは、チャイのカップを音を立てて机に置き、自分はすっくと立ち上がった。

 

 「地上にはびこる魔族の脅威は全て去った、後に残ったのはきさまらにとって無害か、取るに足らん連中に過ぎん……おまえたちの努力の結果だ、われわれは諦めないが、敗北は受け入れよう」

 

 「俺も寂しい、お前等とは武を競いたかった」

 

 「馴れ合いならシュラとするのだな」

 

 そう言いながらも、ルシフェルはニヤリと笑い、ドアへと歩く。

 ドアの隙間からは日光、まずい!

 

 「おい待て、今マントでも出して――――」

 

 「ははは、やはりおまえは甘い」

 

 ルシフェルはドアを開け放ち、何のことでもないように朝日を背にして俺を見据える。

 逆光で見えない顔には、やはり、笑みが浮かんでいた。

 

 「奥で寝ているおまえの女はな、戦いの最後になって、技をあえてはずしたのだ、理性などないかのように見えた、あの大猿がな」

 

 「待て、俺の女というのは違う! いや、そうじゃない、プリカが……?」

 

 「やつは善人だが、やつにああまでさせたのは、おまえの、その悟ったような生易しさ、つまり――――」

 

 そこまで言って、ルシフェルは、わざとそうしたのか、単なる仕草か、頭をどけて、俺に太陽を見せた。

 一瞬、俺の目がくらむ。

 

 「おまえがわたしを生かし、わたしがおまえを生かしたのだ」

 

 「ルシフェルッッ……!!」

 

 ルシフェルが、太陽を横に置いたままふわりと浮き上がる。

 そして、目がくらんだままの俺を見て、『最後の問題だ』と呟いた。

 

 「さて、おまえが夜歩きした程度で魔族と出会えたのは、果たして偶然か?」

 

 「それは一体――――」

 

 「答えを聞けるのを楽しみにしているぞ、ソシルミ!!」

 

 腕を広げ、ルシフェルが太陽の方角へと飛び去ってゆくのを、ようやく慣れた目で見る。

 その姿は美しく……俺にとって、希望の象徴であるかのようにも見えた。

 

 

 

 東エリア、緑豊かな奇岩地帯。

 今日は快晴、穏やかな日差しの中、巨大魚は川で跳ね、翼竜は飛び回っている。

 久々に見る田舎特有の豊かな生態系に若干胸が躍るが、今日の用事はフィールドワークではなく、人を訪ねることだ。

 訪ねる相手の居る家は、森の開けた場所にある小さな一軒家。

 

 「おーい、誰かいるかー!!」

 

 「おまえなら聞かなくてもわかるだろ」

 

 隣の我が相棒はそんな冷たいことを言うが、あくまで儀式だ。

 俺がしばらく声を張ると、家の奥から『はーい』と甲高い女の声がして、程なくドアが開かれた。

 

 「どちらさまでしょうか?」

 

 活動的なチャイナ服、一つお団子に纏めたぱっつん髪、鍛え上げられた身体。

 一度も聞いたことのない、聞き慣れた声。

 

 「チチさんですね、始めまして、私は武道家のソシルミと申します、結婚祝いに参りました」

 

 「同じく、プリカだ」

 

 「えーっと……?」

 

 チチは首をかしげ、若干警戒気味だ。

 というか、俺達がジロジロ見るのがいけないのだが、こればっかりは仕方ない、久々の『よく知った初対面の人物』、つまり、漫画やアニメで見た存在が目の前に居て、どうして興奮と好奇を抑えられるだろうか。

 というか、実際、武道家としても興味深い存在なのも事実。

 悟空の妻で、牛魔王の娘、この世界においてもしっかり悟空と結婚した彼女は、この世界でも、十指、いや、二十指程には入る、有力な武道家だ

 

 「悟空さー! ちょっと来てくんろー!」

 

 「おーう!!」

 

 チチが俺達の肩越しに、遠くに向けて叫ぶと、やはり大声の叫びとともに、気が膨れ上がり、悟空が駆けつけてきた。

 普段着と化した道着、そして、3年前とは比べ物にならないほど成長した姿だ。

 駆けつけた悟空を見たプリカは目を輝かせている、嫉妬はすまい、誰が責められるだろうか。

 

 「ミソシル!! 久しぶりだな! するってえと、横のはプリカか!? なんかちっちぇえけど」

 

 「余計なことを言うな、ちょっとは伸びたんだ、これでも」

 

 俺が190センチ、悟空が175センチ、チチが160センチ代前半、プリカが150センチといったところか。

 流石に元男としては思う所あるのだろう、まさかピラフとつるんでる理由は小さいからではないよな……?

 蹴られた。

 

 「結婚おめでとう、悟空、チチさん、それで、ご祝儀というわけでもないんだが、仕事の話を持ってきたんだ」

 

 「仕事ぉ!?」

 

 悟空が大げさに驚く、働きたくないというよりも、単純に、藪から棒に言われて驚いた感じだ。

 

 「ああ、師匠が俺を師範として呼び戻そうとうるさくてな、駄賃も出るし、修行としても悪くはないんだが……、流石に俺も道半ば、かかりっきりにはなれん、それで、お前を誘いに来たんだ」

 

 「って言われてもなあ、オラ、人に教えたことなんかねえし……」

 

 「お前もそろそろ、人の親になるだろ? それに、人に教えられるようになれば、自分の修行も捗るとは思わんか?」

 

 「悟空さが仕事か……」

 

 チチは悩ましそうにしている、新婚夫婦だ、二人の時間は欲しいが、悟空が働き、武道家としてキャリアを積むのもやぶさかではないってところか。

 それに、結婚してからしばらく経って、チチもいい加減、悟空の食費のヤバさを感じ始めた頃だろう。

 

 「プリカさんはソシルミさんのお嫁さんなんだろ? お互い苦労するなあ」

 

 「あー、いや、それもちょっと違うんだが、ウチの家計はプリカで、苦労してるのもそっちなんだ」

 

 「理解しているようで何よりだな」

 

 ならもっと考えろ、とばかりにプリカが睨む。

 

 「まあ、あれこれは、おいおい考えるとして、ちょっと、見せたい……いや、一緒に見たいものがあるんだ、悟空、ちょっと家に入れてくれないか」

 

 「それはいいけど、オラと見てえもの?」

 

 俺と悟空、チチが家に入ると、後からプリカがテレビ画面とあれこれのメカがくっついたモニターを運びこんでくる。

 

 「この間、ブルマの家に行った時のことだ、妙な気配の男が俺に駆け寄ってきて、『俺はあんたのファンだ、こいつを受け取ってくれ』って言って、小さな記録媒体を渡してきた」

 

 その男は直ぐに立ち去ってしまったが、なんとか聞き出したことによると、どうにもあの媒体に入ったデータは、そいつが自ら録画した、天下一武道会の動画データだったのだ。

 ブルマやプリカに見せるまでもなく、カプセルコーポレーション製のものだと分かったこのデータ。

 どうせなら参加者と一緒に見たい、ということで、一石三鳥、結婚祝いがてら、バイトに誘いがてらはるばるやってきたのだ。

 

 「理屈はよくわかんねえけど、あの天下一武道会がまた見れるっちゅうことか!」

 

 「しかも、常にハイスピードカメラ以上のフレームレートで録画されているらしい」

 

 「プリカが言ったのは、試合の大分細かい動きまで写ってるだろう、ってことだ、流石に、悟空とピッコロのは分からんが……」

 

 技術の分からない孫家の二人は首をかしげるばかりだが、それでも、愉快なことが起こりつつあるのは分かってくれたらしい。

 俺達四人は、わくわくそわそわしながら、並んで動画を見始めた。

 

 

 桃白白と天津飯が向かい合う、元の歴史と同じ光景。

 

 「兄弟弟子対決、燃えるシチュエーションだ」

 

 「おらはあんま好きじゃねえなあ、おっかねえもん、鶴仙人さまのところのお弟子さん」

 

 「そういうなよチチ、あれで、しっかり手加減もしてるんだからさ」

 

 殺人技を、殺さぬ制圧に用いてぶつかり合う、矛盾しているようだが、極まった術理を本来とは違う形に生かすのも、また戦闘術だ。

 一見殺し合いにも見える鋭い技の応酬は、まるで早撃ち対決のような、同時発射のどどん波により……天津飯の勝利で、幕を閉じた。

 

 「そして、次はその弟弟子のチャオズと、正体不明の武道家、マジュニアか……」

 

 「んもー、ミソシルったら、わかってるくせに!」

 

 マジュニアVSチャオズ。

 マジュニア、俺と大一番で雌雄を決したピッコロ大魔王が全てを託した実子にして、生まれ変わり。

 それと相対するのは、、俺に破れ、3年の月日の後、その師を相手に同じ破れ方をした男。

 だが、画面の中に居るのは――――

 

 「素晴らしいぞチャオズッッ!! 最早画面からでは、何が起こっているかすら把握できん!!」

 

 「分からないのに言うなよ……」

 

 チャオズはあちこちに飛び回ってはビームを乱射している。

 カメラは武舞台の映像、音声を完全に捉えているが、それでもなお、何が起きているか分からない。

 

 「だが、マジュニアを痛めつけているのは事実だ!」

 

 「悟空さ、この人ちょっと怖えだよ」

 

 「心配すんなチチ、ミソシルは自分が戦った相手が強くなってると興奮するんだ」

 

 「これが興奮せずにいられるか、俺は今すぐ鶴仙流道場に飛びたい気分だッッッ!!!」

 

 超能力か、エネルギー運用か、俺と同じ新たな舞空術か。

 変幻時代の軌道、エネルギーの奔流、そして更にそれは確かな戦術と武を感じられる動きでピッコロを追い詰め……そして、最後には、ピッコロの華麗なパリングによって姿勢を崩され、武舞台袖へと墜落、あえなく場外となった。

 

 「……この目で見たかった」

 

 「突然しょげるなよ、次が始まるぞ」

 

 「今度はオラとヤムチャだな!」

 

 「さすがに、悟空相手だとキツそうだけど……」

 

 プリカはそう言うが、画面の中の展開は全くそうではない。

 ここまでの二試合で展開された殺し技の応酬や空中戦とは全く違う、骨太の肉弾戦!

 

 「凄いぞ、ヤムチャは腕を上げた、俺の見込み通りだ!」

 

 「嬉しいか、ソシルミ」

 

 プリカがニヤリと、というよりは、俺の笑みを見たい、とばかりにこちらを覗き込む。

 いい笑みが浮かんでいることだろう、動画を見る俺の頬は釣り上がりっぱなしだ。

 結局試合は悟空の勝利に終わったが、ヤムチャは前回の反省を活かし、視覚に頼らない認識能力を更に鍛え、やはり入手した新技『繰気弾』を鋭く操り、悟空を終始脅かし続けた。

 

 「次の試合はいまいちパッとしねえけんど、オラは好きだ」

 

 「無名選手、シェンと、クリリンの試合か……なるほどな」

 

 俺と悟空は顔を見合わせ、プリカはその意図に気付き、チチはぽかんとした。

 シェン、神様に乗り移られた男。

 

 「ま、結局かみ……シェンはクリリンにやられちまったんだけどな」

 

 「強くなったな、クリリンも」

 

 またこちらを見るプリカ。

 だが俺は、それより、敗北の瞬間、シェン……いや、神様が浮かべた穏やかな笑みこそが嬉しかった。

 自分が鍛えてすらいない下界の人間に敗れるとはどういう気持ちなのか、きっと、いい気分なのだろう。

 

 「よかったな、『ピッコロ』」

 

 

 二回戦、始めの試合は天津飯VSマジュニア。

 本来の歴史には存在しない試合が続く、愉快だ。

 天津飯はチャオズの仇を討つと息巻いている。

 

 「流石の天津飯も、マジュニアが相手では荷が重いか……?」

 

 「でも大したもんだろ? オラたちみてえに超神水飲んだわけでもないのに、すげえリキだ」

 

 「鶴仙人に大分しごかれたらしい、今を見すぎて未来を忘れる癖も、手が回るからと何もかもやろうとして全てを手薄にする癖も消えた、技のキレも十分」

 

 だが……それでも、我がライバル、ピッコロには及ばない。

 天津飯が鍛えに鍛えた技のキレ、それはなんと、ピッコロに素のパワーと技術力で突破されてしまった。

 あの技のキレ、ピッコロなりに俺との再戦を考えてくれたのだろうか。

 

 「ニヤけるな、ちょっとキモいぞ」

 

 …………。

 ともかく、天津飯VSマジュニアは、マジュニアの勝利に終わった。

 

 「……見たかった」

 

 「まだ言うのか……」

 

 そして、次なる試合、は悟空VSクリリン、これもまた素晴らしい試合だ。

 互いに、舞空術とエネルギー波を巧みに組み合わせた高機動戦と、亀仙流らしい地に足ついた格闘術のせめぎあいを展開してゆく。

 

 「やはり格闘戦が好きだが、エネルギーを使ったハデな試合は、純粋に見応えがあるな」

 

 「ああ、親の顔より見た、ってやつだな」

 

 「俺達が言うとシャレにならん、お前まで浮かれて我を忘れては、俺が困るぞ」

 

 激しく続いた試合の最後を飾るのは、クリリンが放つ、後の『魔空包囲弾』に通ずる所のある複数気弾同時操作技。

 美しい軌跡を描くエネルギー弾で悟空の逃げ道を塞ぐも、悟空は得意のかめはめ波推進を回転力に転用した技で包囲を突破し、そのまま捻りを加えたキックでクリリンを撃破。

 クリリンは錐揉み回転しながら武舞台に撃墜した。

 

 「大丈夫なのかこれ……」

 

 「亀仙流だし、そうそう死なないだろ……多分……」

 

 「クリリンはピンピンしてたぞ!」

 

 「おらはこのままだと獄中結婚になっちまうってビクビクしてただ……」

 

 ……そういや、チチはまだこの動画に出てきてないな。

 だが、武道会は容赦なく進み、そして、終わってゆく。

 

 

 「悟空の勝ち、か」

 

 結局、マジュニアは自分がピッコロの生まれ変わりであることを明かし、観客達を追い出したが……。

 それでも、武舞台を消滅させるような暴挙には出なかった。

 もしかしたら、最後まで俺と戦う望みを捨てていなかったのかもしれない。

 

 「いい試合だった」

 

 「そうだろ? 次は、一緒にやろうな」

 

 「ああ」

 

 神は、穏やかに試合を行ったピッコロを殺そうとはしなかった。

 その代わりに、悟空、そして、俺との再戦のため、自らを鍛えろと諭して開放する。

 ……こんな所にも、俺達の影響が現れるとは……というか、このカメラマンの根性は一体何なんだ。

 

 「あ、そろそろだな、チチ」

 

 「んもう、恥ずかしいだよ」

 

 二人は何やらイチャイチャしている、すると、画面の端で、チチが泣いていた。

 亀仙人が理由を訪ねると、予選敗退で情けなく、会いたかった人に会わす顔がないという。

 それを聞いた亀仙人はチチを優しく諭し、悟空のもとへと向かわせたのだった。

 後は、見るまでもない、元の歴史と同じ出来事が起こっただけだ。

 

 「なるほど、二人の馴れ初め、というか、再開は、こういう形だったのか」

 

 「おらが弱かっただけなのにあんな泣いちまって情けねえだ……」

 

 「チチは強えよ」

 

 うーむ、微笑ましい。

 そう思っていると、悟空がこちらをチラと見て、話を予想していなかった方向へと持ってきた。

 

 「それで、ミソシルとプリカはもう結婚したんか?」

 

 「あ、いや、俺達は……」

 

 「まだ、まだじゃなくて、その、おい、聞くなよそういうの!!」

 

 俺とプリカは一緒になって悟空の言葉を否定する、そう、これには深い理由があるのだ……!

 

 

 

 口いっぱいに頬張れる、大きな特注のスプーンで、ガプガプと音を立て、シチューを貪る。

 いつもの光景、俺にとっては3年越しに初めて帰宅して以来、数ヶ月の時を過ごした我が家のダイニング。

 

 「ムチャ……ムグ……ン゛……!」

 

 喉に若干つっかえるものを感じた俺は、コップの水がもうないのに気付き、ピッチャーに手を伸ばす。

 

 「むが……!」

 

 ……そして、小さなテーブルの対面で同じく喉から音を出したプリカの存在に気付かないまま伸ばした手は、一回りも小さい、プリカの手と重なった。

 

 「モ、モガッッ!?」

 

 「が、ング、ご、ごめん!!」

 

 方や、口に物が入ったまま呻く俺。

 方や、ごめん、だなどと、中々使わない言葉で謝るプリカ。

 なんたる醜態。

 青春どころの話ではない。

 

 「な、なあ、ソシルミ、悟空とチチのことだが」

 

 「ああ、うまくくっついたようで安心したよ、あれくらいの流れの変化なら、案外なんとかなるもんだな!」

 

 「チャオズが出てきた時にはビビったよ、オレ」

 

 「あいつが強くなって、本当に良かった」

 

 脊椎反射で捲し立てあって、更にシチューを食う。

 

 「なあ、それで、プリカ、悟飯の話なんだが」

 

 「ご飯、今食って……孫悟飯、子供の方か」

 

 「ああ、チチの中にはもうすでに命がある、俺にはそれが分かる」

 

 うまく回らない会話の中で、ようやく、一つ取っ掛かりを作る。

 脳裏に浮かぶのはあの野生児の悟空と、箱入りらしきチチの顔。

 

 「早い、な」

 

 「早いよな、俺には実際見ても信じられん」

 

 「…………」

 

 奇妙なタイミングで、プリカは沈黙した。

 他人が見てもわかりはしないだろうが、俺には分かる。

 早いという言葉に反応したのだ。

 俺とプリカの間には、何を話そうにも、うまく話せない、何を話そうとしても、卑しく見えそうで怖い、そんな空間が生まれていた。

 

 「プリカ……」

 

 「あああああ!!! おい、ロボ、ビール出せ!」

 

 「なッッッ!?」

 

 プリカは突如怪気炎を上げたかと思うと、次の瞬間には食卓用ロボットからビールをひったくって、ビンごと飲み干した!

 

 「いや、おい、イッキはマズいぞ!?」

 

 「うるせえ、これくらいじゃないと酔えないんだよ、無駄に頑丈だからな」

 

 「それならいいが……大丈夫なのか?」

 

 俺は苦手な酒を目の前で飲まれた事実さえ忘れて心配したというのに、当のプリカはまったくもってケロリとしている。

 そして、そのまま、新しいビールを箱ごと呼びつつ、ビンをドカンと机に叩きつけ、俺を座った目で見据えた。

 

 「オレは前世じゃ、結構な大酒飲みだったんだ、合コンなんかにも、そういう芸人みたいな感じで誘われてな、だから、今生の身体が下戸じゃあ困ると思って20年生きてきた、今じゃ、もうちょい下戸でもいいと思ってる」

 

 「合コンって……」

 

 「妬くなよ、その時のオレは男だ、それに、オレの度胸じゃ、誰も潰せも食えもしなかった」

 

 そう言って、プリカは少し黙って、しかめっ面で、『どうだ、これがお前が知りたかった、オレのことだ』と言った。

 

 「お前のこと……」

 

 プリカが急にこんな事を言い出す理由には、身に覚えがある。

 誰に告白するのでもないが、思い起こすだけで全身が縮こまるような情けなさ。

 ……あの日、俺はプリカと共にベッドに入って、ただ温めあって安眠したのだ。

 

 そりゃ、そうだろう。

 俺ははっきり言って前世から継続してン十年連続童貞記録達成中、とっくに魔法使い!

 プリカはプリカで男性としてどうかは知らんが20年女やってきて経験は一度もない(あったら泣く自信がある)!!!

 加えて言うなら、あの日は疲労と時差ボケでとても眠かったのだ!

 心の通じ合った戦友と初めて共にする褥の暖かさにおぼれて何が悪いというのだ!!!

 

 なさけない。

 

 「俺がアルコールを嫌ってるのは、前世で病院通いだったからだ、死んだのも病気、そんな前世の内は平気だった病院とそれに絡む匂いは、たいして通わなくてよくなった今生になって、いっぺんに、大ッ嫌いになった、トラウマって奴なのかね」

 

 代わりとばかりに自分のことをぶちまけたのは、うまく会話できないなりの強がり。

 そんな俺に、プリカはしかめっ面のまま、言葉をつないだ。

 

 「おまえが、死ぬのは嫌なことだから、みんなも死なせたくない、とかそういうのをよく言うのは、それか」

 

 「ああ、そうだ」

 

 俺が散々語ってきた、悟ったような優しさの根本の一つは、ただ単に、俺は死ぬってことの痛みと苦しみをよく知っていて、出来ることなら、一度でも味わわせたくない。

 味わうならば、一度でもいいと、思っているからだ。

 

 「前世がそうだから、今生では、生きる喜びってやつを味わおうと思ったのさ」

 

 「へえ、ああまでして女一人抱けずにぐっすり安眠で、生きる喜びか」

 

 「ッッ!?」

 

 一瞬、言い返すのも、リアクションを取るのも忘れて、息をつまらせた。

 正直言うと、大分傷付いたのだ。

 だが、次の一瞬に考えをめぐらせれば、プリカがこんな、ふてくされた怒りをぶつけてくるのも当然だと思え、今度はこっちに、後ろめたさが湧いてくる。

 そして、それをごまかすように、俺はビールをひっつかんで、プリカにならい、半分ほど飲み干した。

 

 「ゴプ……ゴプ……ゴ……ゲッフ!! ガフッッ!!」

 

 むせた。

 

 「お、おまえ……ぷぷ……ふん、ビビりめ、まともに話すのが怖いからって、今度はオレのマネで酒か」

 

 若干の笑いや心配を押し殺して、プリカは強がるようにオレを罵る。

 感情豊か、複雑というわけでもない感情をいくつも腹の中で転がして、それをいっぺんに表に出す。

 かわいらしい、愛らしい、前世で酒飲みの男だったと知らされても、その気持ちは全く衰えることを知らない。

 

 「何がビビりだよ、俺が偶然話を聞かなきゃ何年でも山で暮らしてたくせに、猿酒じゃなくてビール飲めてよかったな」

 

 「はあ!!!?」

 

 が、心でどう思っていても、口の方が先に言い返してしまった。

 そしてそれを聞いたプリカは、俺が思っていた以上に怒りを爆発させた、というか、若干泣いてるように見える。

 なにかまずいことを言っただろうか。

 

 「チャパ王に拾われなきゃ浮浪児だったくせに、おまえ、何が元の歴史だ、気取りやがって!!」

 

 「言葉は関係ないだろ!!」

 

 「はっ!! 暴れ過ぎて親に捨てられて? 偶然うまくモブキャラに拾ってもらって、それで何が元の歴史がどうこう変えるがどうこうだ、おまえがちょっと魔族殺してただけで、中の都はあのざまだ!!!」

 

 「おま、お前!! あれはお前も同罪ということになったじゃないか!!!」

 

 プリカは一本ビールを開けた。

 俺も合わせて、残りを飲み干し、更に一本、手刀で口を切り落とす。

 

 「そんなこと言ったっけ!? 知らねー、どうせ、オレはまぬけな原始人だからな、一生森の中にいりゃいいんだ」

 

 「何を拗ねてるんだ、おい、ちょっと酒やめろ!!!」

 

 俺がプリカの掴むビール瓶を取ろうとすると、プリカは逃げるように中身を飲み干した。

 更に一本手を出そうとしているのを見て、俺はたまらずにそれをひったくって飲む。

 

 「おまえ、くそ、この世界の運命だけじゃなくて酒までもってくのかよぉ……」

 

 「わけの分からん事を言うな、流石にサイヤ人でもこれ以上はまずいぞ」

 

 「しるか! おまえももっと飲め、くそ、オレだって、オレだってもっと、グスっ、うまくやって、悟空たちにしんらいされて、うああ……バシバシやってなあ……ソシルミィィィ!!!」

 

 しまいには泣き出し、泣くのが終わると、まるで親の仇のようにオレを睨みだした。

 

 「いい加減にしろ、俺がどれだけ気を使ってると思ってるんだ、もっと伸び伸びやりたい! 今からでも天下一の参加者全部ぶっ飛ばしにいきたい!!!」

 

 「そんなどきょうないからこの家と道場行ったり来たりなんだろこの原始人二号!!!」

 

 「誰がお前の二号だ!!!」

 

 プリカが酒をケースからひったくり、同時に、俺もひったくる。

 そして、いっぺんに飲み干した。

 

 

 

 

 目を開くと、少し欠けた月明かりが、窓から差し込んでいる。

 とっぷりと夜はふけていた、ここは……プリカの部屋だ。

 

 「……プリカ?」

 

 居ない。

 そして、呼んだ辺りで思い出した、俺は先に酔いつぶれたプリカを運んで、このベッドにやってきて……そのまま一緒に倒れたのだ。

 壊滅的な出来事を思い出した俺は慌てて周囲を見渡すが、噂に聞く寝ゲロなどもなく、周りは綺麗なもの。

 俺達の化け物っぷりは、どうやら、肝機能に関してもばっちりらしい。

 

 「起きたか、ソシルミ」

 

 「プリカ」

 

 また、バカみたいに名前だけを呼ぶ。

 今度は、明確な相手に。

 プリカは2つ、なみなみと水の入った特大のコップを持っていた。

 

 「おまえも、二日酔いなんかしてないみたいだけど、飲んだほうがいい」

 

 「ああ、アルコールの分解には水が必要だからな」

 

 俺はプリカから受け取った水のコップを一息に飲み干し、プリカに問う。

 

 「なんで、わざわざ俺の前であんな飲み方をしたんだ」

 

 そんなふうに聞きながら、内心で、俺はすっかり、ある一つの答えを期待している。

 期待しているというよりも、そうでないならがっかりだと、口に出して言ってしまいそうなほどだ。

 そんな俺に、プリカは何も言わず、ただただ詰め寄って、俺の顔を正面から見て、ようやく口を開いた。

 

 「……まだ、酒は嫌いか」

 

 プリカのこんな顔は、初めて見る。

 知り合って7年、初めて見る、拗ねたような、期待するような、いじらしい顔だ。

 俺は最早、何も言えない、多分、プリカも俺が口で言うよりは、言うのではなくもっと別のことを期待している。

 俺はプリカの、まだ酒で赤らんだほほを両手で撫でて、そのまま強く引き寄せ、唇を重ねた。

 

 「…………ッ………!」

 

 「………ぅ……ぁ……ん……」

 

 唇だけではないが、深く繋がっているわけではない、俺達は息を止め、影を重ね続ける。

 ひたすらに強い心臓は、何に使うわけでもない血液をただぐるぐる回すために全力運転している、うるさい、目が回りそうだ。

 その、口付けというにはあまりに深く、大人らしい接吻というには不器用な行為は、俺達の人間離れした肺活量の限界まで続いた。

 

 「ぷぁ、はぁ、ふぅ……」

 

 「ハァ…………これで、いいか」

 

 唇を話、俺はうつむき加減で息を整えながら、プリカに問いを返す。

 ただ単に、プリカの問いに、答えずにごまかす、という答えを返しただけじゃない。

 こうして俺がアプローチすればいいのか、分からないなりに、俺から動けばいいのか、そんな問いだ。

 その答えを得るため、顔を上げると、プリカは、目を丸くして、くちをもごもごさせて、それから、ゆっくりうなずいた。

 

 「なんだ、今更恥ずかしくなったのか、ああまでやっといて……」

 

 プリカは俺をジト目で睨む、睨もうとして、気恥ずかしさや嬉しさ、そんな感情に邪魔されて、わけのわからない、意味を為さない半目になって、それが嫌で更に目をしぱたかせるが、いっこうに、顔は戻らない。

 俺は……そんなプリカの顔を直視できなくなり、その、余りにも目に毒な目を見なくて済むよう、更に口付けをかわした。

 

 

 

 

 

 あれからまた数週間、俺とプリカは、タンドール王国の道場にいる。

 目的は一つ、悟空の初仕事を見守ること……だったのだが、それより先に、師匠は歓迎会を開くなどと言い出して、……俺達も巻き込まれた。

 今は盛り上がりを見せる会場の端で、師匠と呑んでいるところだ。

 (そもそも、宴会に積極的に参加しない俺に、師匠が合わせているとも言う)

 

 「それで、子供はいつだ」

 

 そんな中、突然師匠がぶちまけた言葉に、俺は酒を吹き出しそうになった。

 突然なんてことを言うんだ、この人は。

 

 「師匠!!? なんです、藪から棒に、まだですよ!!」

 

 「そうか、まだか……」

 

 「なんで我々に、子供が出来るだなんて思ったんです」

 

 「おまえたちの子供だ、わたしにとっては、孫のように思えるわい」

 

 ……『お前とプリカは我が子同然、手に取るように分かる』か。

 俺は居心地がいいんだか、悪いんだか分からない奇妙な感触を手にとって、酒とともに飲み干す。

 

 「酒が飲めるようになったのだな、ソシルミ」

 

 「ええ、ですから師匠、我々は、もう少しだけ、二人だけでやっておきたいことがあるのです」

 

 まるで夫婦生活を楽しむかのような言葉だが、実際はそんな、お気楽なものではない。

 それをあえて、ごく一般的な夫婦が感じるようななまっちょろい、文字通り甘いものに包んで返した。

 

 「熱い熱い、薄着でよかったわ」

 

 「茶化さんでくださいよ」

 

 「まあいい、ソシルミ、おまえたちの『それ』はいつものことだ、わたしは応援するぞ、好きにするといい」

 

 師匠は意味深に笑って、そのまま立ち上がって去っていった。

 俺は急な離席に一瞬首を傾げたが、その理由はすぐに分かった、プリカが来たのだ。

 

 「なに話してたんだ?」

 

 「子供をせびられた、師匠はどうやら、見ただけで俺達のことが分かったらしい」

 

 「……まだ、無理だな」

 

 プリカは意外にも、過剰に顔を赤らめてみたりはせず、ただただ冷静に答えた。

 

 「俺達特有の、悩みってやつだ」

 

 「ああ、時間的に無理ってわけじゃないんだろうけど……」

 

 「近いうちにあんな戦いがあるって分かっていて、のんびり子育て、なんてのは無理がある」

 

 「そうだな」

 

 未来を知る者、特有の悩みだ。

 平和になるかもしれない、という希望すらもない、約束された戦いの到来を前に……幸福を、素直に享受することは難しい。

 俺とプリカはしばらく、顔を突き合わせて渋い顔で黙りこくっていたが、しばらくすると、暗い雰囲気を感じとったのだろう、悟空がやってきた。

 

 「ミソシル、プリカ、なに睨み合ってるんだ?」

 

 「気にするな、……そうだ悟空、あの時聞きそびれた、天下一武道会の話なんだが」

 

 俺は話を逸らす。

 ちょうど、聞きたいこともあった。

 

 「なんだ?」

 

 「ピッコロの話だ、あいつ、俺と戦いたがってただろう、怒ってなかったか?」

 

 悟空は首を捻り、『ああ!』と手を叩いた。

 

 「楽しそうに試合してたぞ! 最初は、ちょっとイライラしてたみたいだけどな」

 

 「そうか、そりゃあ良かった」

 

 嫉妬心がないでもないが、あいつ、ピッコロ大魔王に幸福な来世が与えれたならば、素晴らしいことだ。

 是非再戦したい、対等な戦いを楽しみ、切磋琢磨したい。

 

 「ああ、それと、おめえが来ないって分かった後、ピッコロはなんかヘンなこと言ってたっけ」

 

 「ヘンなこと?」

 

 「本当は慎重な性格の、ガー……なんちゃらが、父の解放に続けてこんな、大胆なことをするなんて、だとか、なんとか……」

 

 「……ガーリックJr.、オレたちが戦った魔族だ」

 

 「そう、それ!!」

 

 悟空は失礼にも、こちらに指を指して言う。

 更に、道場するように一言付け加えた。

 

 「魔族っちゅうんは、よっぽどミソシルが嫌いなんかな」

 

 「……そうかもな、ところで悟空、チチとはどうだ、家事の分担はうまくいってるか?」

 

 「ああ、そうだよミソシル! チチのやつがさあ!!」

 

 俺はまたしても話を逸らした。

 素直に逸らされてくれるやつでありがたいが、いつか何かに騙されそうな気もする。

 それとも、邪念あって逸らしている相手は分かったりするのだろうか。

 

 

 

 ……さて、『歓迎会終了後はちょっと組み手でも』なんて言っていたくせに、師匠含めたほぼ全員が酔いつぶれ、悟空はいつの間にか居なくなってしまった。

 生き残っているのは度を越した下戸で一切飲まない数人、酒気抜きのヨガを極め、うまく高弟に潰されることもなく切り抜けた数人、そして俺とプリカだけだ。

 

 「後片付け、手伝わなくていいのか?」

 

 「知らん、潰れたやつは自分で自分の始末をすればいい、師匠もだ、ちょっとは薬になる」

 

 そして、その俺達はまだ呑んでいた。

 酒好きだから、楽しんで呑んでいるからというよりは、やることがないから場に残った酒をひたすら飲み干しているという感じだ。

 

 「なあ、プリカ、ルシフェルも、妙なことを言っていたよ、俺が夜歩きするだけで魔族と会えたのは、おかしいはずだ、ってな」

 

 「うん、ピッコロも、ガーリックJr.は慎重で、あんな手を使うはずがないって言ってたって、悟空が」

 

 『魔族っちゅうんは、よっぽどミソシルが嫌いなんかな』

 悟空の何気ない一言が、俺の脳裏を反響する。

 歴史改変の裏に存在する、かすかな違和感、それが、俺達の前に、重たく横たわっていた。

 

 「なあ、ソシルミ」

 

 「なんだ?」

 

 「おまえの居る世界で、みんなが鍛えた、オレもそうだ、おまえとどんな関係になろうと、張り合うのをやめるつもりはないよ」

 

 プリカが俺の肩に手を回し、ポンと乗せつつ引き寄せる。

 身長の低いプリカに引き寄せられた俺は、自然、より掛かるような姿勢になった。

 

 「それに、宇宙でまで歴史の違いがあるかなんてわかんないからな!」

 

 「……ありがとう、プリカ」

 

 「よろしい、じゃ、もうちょっと呑もう」

 

 プリカは師匠の前にあったいかにも高そうな酒をひったくって、まだ酒が残ったままのでかいコップに注いだ。

 

 「さあ、乾杯だ」

 

 「何に?」

 

 「おまえの宇宙最強と、全てが終わった後に出会う、オレたちの子供に」

 

 小さく、ガラスの鳴る音が、俺達を祝う鐘の音だった。

 

 

→特別編-SAGA-、もしくは第三十五話へ、つづく




ちょっと長くなりましたね、お久しぶりです、桐山です。

ということで、実はやっていなかったあの二人!
それが分かると同時に、本当にゴールインです、いやあ、長かった。

次話からはついにエイジ761年、アニメで言うところのドラゴンボールZ編開幕……と見せかけて、もうちょっとだけ続くんじゃ。

しかし、次回は別作品として投稿します。
タイトルは、ズバリ、『転生地球人が地上最強になるまで:特別編-SAGA-』
……はい、やります、今回の話の幕間、18禁の作品です。
なので、読めない方も出てきますから、シナリオ上、大きな意味は持たせないつもりです、見逃しても大丈夫!

それでもわざわざ書く理由は……まあ、やりたいからですね。
二人の人生の大きなターニングポイントですし、なにより、本作は刃牙パロ作品ですから!
……そろそろ、忘れられてそうですけど。


それでは、特別編、もしくはZ編一話目となる次話をお楽しみに!
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