転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第三十六話:転生TSサイヤ人が森へと帰るまで

 「ぎゃうっ!!!!」

 

 ラディッツに腕を踏みつけられて、悟空が叫んだ。

 その腕は、踏みつけられる前からめちゃくちゃにへし折れていたけど、今の踏みつけで、もっとひどい有様になった。

 

 「あ……うあ……」

 

 「どうだカカロット、そこにいるプリカのように、オレについてくるというなら命まではとらん、体も戻してやってもいいぞ?」

 

 荒野に横たわった悟空の体は、ボロボロだ。

 まともな手足は一本もない、顔も、胴体もひどく痛めつけられていて、地球人が出来る普通の治療じゃ、絶対に治らないのがよく分かる。

 悟空の兄貴……そして、オレの兄貴、ということになる、このラディッツも、それをわかっているから、こんな意地の悪い脅迫をしているんだ。

 

 「い……いやだね、オラ、悪者の仲間になんかなんねえ……!」

 

 「プリカとおまえが仲間になれば、この星を見逃してやってもいいと言っているのに、残念だ、なぁ、プリカ」

 

 「ええ、お兄様」

 

 戦闘民族、サイヤ人。

 かつて惑星ベジータを根城にしていた、地球人にそっくりで、非常に強い肉体とパワーを持った種族。

 惑星の侵略や住民の民族浄化を仕事としているこの種族は、惑星ベジータの壊滅によって全滅した。

 生き残りはほんの僅か、他の星を侵略しに出ていた者と、星の住民の根絶やしのために送り込まれた子供だけ。

 他の惑星を侵略していたのが、オレの兄……ということになるラディッツや、その仲間のベジータとナッパ。

 送り込まれていた子供が、オレと悟空。

 それぞれ、ラディッツの弟と妹、バーダックの息子と、娘だ。

 

 「心配するなプリカ、カカロットが仲間にならずとも、おまえの夫だけは生かしておいてやろう、戦力としても、まったく役立たないというほどでもなさそうだしな」

 

 「ありがとうございます」

 

 「……プ、プリカ……ほんとうにそんなやつの仲間に……、い……いや! こんなことが前に――――ぎゃああああ!!!」

 

 オレは余計なことを言いかけた悟空の傷口に、即興の気功波を打ち込む。

 この地球では、オレとソシルミ、そしてピッコロと並んで最強の一人だった悟空も、ラディッツ相手じゃ、こんなものだ。

 戦いの始めには、悟空の不意打ちの繰気弾がスカウターをふっ飛ばしたりもしたけど……それだけだった。

 ラディッツも強くなっているんだ、気を見て、この歴史の戦いで元の歴史より強くなった悟空と比べれば分かる。

 

 「お兄様、言ったでしょう、こいつはどう脅しても、例え妻子を人質にとっても、自分の心を曲げはしません」

 

 「そのようだな、これでもたった三人の兄妹……殺す時くらいは、一撃で仕留めてやろう!!!」

 

 「す、すまねえチチ、悟飯……!」

 

 ラディッツは手に気を貯め、そのまま放ったビームで悟空の胸を貫いた。

 オレは一瞬だけ目を逸らしてから、死んだ悟空を見る、宣言通りの、即死だ。

 

 「ふん、せっかく惑星ベジータの爆発から難を逃れたというのに、つまらん意地を張って死におって」

 

 「まったくです、ですが、カカロットもまさか兄に殺されるとは……サイヤ人のさだめというやつでしょうか」

 

 オレとラディッツは二人で悟空の死体を見下ろす、ラディッツは更に勝ち誇り、悟空を見下げて小さく笑った。

 

 「はっはっは、親兄弟ですら殺し合うのがサイヤ人、それゆえに、われわれは強さを保ってきた……さだめとはよく言ったものだ」

 

 「ええ、まったく、その通り」

 

 オレはそんなラディッツの腰に巻かれたしっぽを握り込む。

 

 「はっ……ぐ……!!?」

 

 「案外、隙だらけだな」

 

 「き……きさま……一体何を……!?」

 

 「親兄弟でも殺し合うのがサイヤ人、あんたの言った通りだ、兄さん」

 

 しっぽを握り込んだのと反対の手に、エネルギーを貯める。

 ラディッツは脂汗をかいて、今にも倒れ込みそうだ、しっぽを鍛えておかないとはうかつなやつだ。

 いや、鍛えていても、血の繋がった家族には通じないのかもしれない。

 

 「バ、バカな!!? このオレを殺すつもりか!!」

 

 「その通りだ、オレはこの星を守る」

 

 「オレを殺せばすぐに仲間が来る、オレよりも何倍も強いサイヤ人だぞ!!」

 

 「強いサイヤ人が妹に殺された間抜けを助けると思うか? 偉大な戦士バーダックの息子が情けない命乞いをするもんだ」

 

 ラディッツは小さくうめく。

 下級戦士でありながら超強力な戦闘力を誇ったバーダックの息子……コンプレックスの一つや二つあるか。

 でも、オレはソシルミほど、オレが裏切ったあのソシルミほど、優しくない。

 

 「せっかくオレたちは平和に暮らしてたのに……惑星ベジータのことなんか知らずに」

 

 「戦闘民族サイヤ人が平和だと!? それこそ、なによりの苦痛のはずだ!!」

 

 戦闘民族にとって殺すことじゃない、戦うことが幸せなんだ、それは平和の中でも出来る。

 戦いの相手と高めあい、どちらが勝っても喜べる戦いが、オレたちには幸せだったのに。

 

 「平和を勝ち取って……互いに鍛えあって! オレと悟空は互いが兄妹だと知らないままでも!!」

 

 「よ、よせっ!!!」

 

 「互いに大切な人を見つけて、幸せに暮らしてきたのに――――!!!!」

 

 気はもう十分に溜まった、元の歴史より強くても、仕留めるのには十分なパワー。

 それを指に移し、敵に突きつける。

 名前はない、魔貫光殺砲のパクリに、技名なんて要らない。

 

 「死ね、ラディッツ!!!!!」

 

 「ぐぶっ!!!」

 

 ビームは喉を貫いて、ラディッツの命を奪った。

 終わった。

 悟空は死んだ、ラディッツも死んだ、オレの仕事は終わった。

 脂汗体中から滲み出して、ジャージが重たくなっている。

 あまりの気持ち悪さに額を拭っても、拭う布、ジャージが濡れていて拭いきれない。

 

 「はぁ、はぁ、……はぁ……はぁ、ま、まずは、ラディッツの死体の装備と、スカウターの残骸の回収、悟空は……」

 

 気を探ると、遠くの空から、Z戦士たち、そして、近くでふらふらと飛ぶソシルミ。

 

 「あいつらに任せて、オレは、もう行こう」

 

 用意しておいたホイポイカプセルから、ステルスジェットを出す。

 これに乗って、気を抑えていれば、誰にも見つからない。

 行き先も、しっかり目星をつけてある。

 ……ソシルミも、Z戦士も、いない所だ。

 

 

 

 

 「っがああああ!!!!」

 

 深い密林の中、オレは叫びながら、殴る。

 拳から、相手の骨がめちゃくちゃに砕ける感覚が伝わってくる。

 相手を殺しながら、血を浴びないやり方は、ずっと前に会得した。

 殴ったのは恐竜、オレは恐竜を仕留めて、今から肉にするんだ。 

 

 「ひさしぶりだけど、案外覚えてるもんだ……な!」

 

 皮を引きちぎってそこらに投げ、肉をバラバラにして、用意しておいた鉄板に叩きつける。

 

 「ふん!! とお!!!  そいっ!!」

 

 残った骨は、適当な大きさに砕いて……。

 破片が鉄板に入りそうになった、もっと丁寧にやらないと。

 

 「ふぅ……さ、食うか」

 

 なんて言ったはいいけど、恐竜の縦だか横だかわからんステーキの軍団は、ちょっとやそっとじゃ焼けそうにない。

 気弾で焼く……と、ソシルミには間違いなく見つかるから出来ない、焼けるのを待つ。

 ただ待つ。

 

 「久々とはいえ、ちょっと乱暴だったなぁ」

 

 今更だけど、少し反省する。

 恐竜がかわいそう、なんて言うタイプじゃないけど、食べ物を粗末にしちゃいけない。

 鉄板も痛む。

 

 「よし、そろそろ焼けたか」

 

 いくらサイヤ人でも、そこらのケダモノの肉を生焼けでモリモリ食ったら、お腹を壊す。

 オレは肉汁もクソもないくらいに焼けた肉を豪快にかじる……美味しくない、でも、肉を食ってるって感じだ。

 

 「ぐあっ! がぐっ!! あごっ!!」

 

 わざと声を出しながら肉をガツガツ食べはじめて一分足らずで、10000グラムくらいを食い尽くし……。

 

 「がっ……んがっ……げふ! げふ!」

 

 ……むせた。

 がっつきすぎだ、こんなに急いで食べる理由は……ああ、なるほど。

 

 「や、やけ食いだな、これは……」

 

 今やってるのはやけ食い、さっきのは、八つ当たり。

 自分でも分からないくらい深い所で……荒れてるんだろうな。

 ……ラディッツは、オレと会うや否や、オレを妹と呼んだ。

 オレと悟空の父親、バーダックは二人の子供を別々のポッドに乗せて地球に送り出した、場所がズレた理由は多分、単純な計器の誤差、それか、銀河パトロールって宇宙の番人……気取りの連中に発見されにくいようにしたかったんじゃないのか、って、ラディッツは言ってた。

 ラディッツ、バーダック、聞いたことのある名前が、ずっしりと、リアリティを持ってオレにのしかかってくる。

 オレはそんな重荷を腹にとどめておくことが出来なくなって、ゆっくり、口から吐き出す。

 

 「ラディッツは、死んだ、あいつがオレの兄さんだなんて、これまで知らなかった、でも、殺すしかなかった、ソ……、あいつは殺していいと言ったけど、やっぱ、イヤだろうな」

 

 苦しい、口から出る言葉と一緒に、目にも涙がにじんで、胸が苦しい。

 あまりの苦しさに、オレは一瞬出そうになった名前を一度飲み込んで、別の言葉に言い換えて、言葉を終わらせた。

 

 「ベジータは来ない、ドラゴンボールの情報は与えてない、兄さんを殺すハメになったけど、その代わりに、地球を救えた、誰かがやらなきゃいけないことだった」

 

 元の歴史では、マジュニアが悟空もろともラディッツを殺す、そして、冥土の土産に、悟空はドラゴンボールで蘇るのだと教えた。

 その言葉が、ラディッツの何倍も強力な戦士であるベジータとナッパを呼び寄せてしまったんだ。

 でも、あいつなら、もしかしたら、ラディッツでも。

 

 「あー!!! うあああーっ!!!!!」

 

 オレは頭をガンガン叩いて、側に置いた水を、2リットル一気に飲み干す。

 駄目だ、完全に精神がやられてる、というか、これは禁断症状だ、あの存在が、オレの思考回路に深く根ざしてしまって、取れないんだ、考えるだけ苦しいだけなのに。

 

 「……まずい、でも、気弾で焼いたのよりは、マシか」

 

 気弾で焼いた肉のまずさから、あの味噌汁の旨さと、それを振る舞うあいつの、それがオレをあの森から……。

 オレは悟空を殺した!

 どうして、悟空を殺したんだ!?

 あの、気のいい、憧れの、妻をもった、一児の父、つい数分前に兄弟だと知ったあの男を!!

 

 「オレは悟空を殺した、その理由は、悟空を殺さないと、悟空は界王様の所で修行できない、そうなれば、パワーアップは頭打ちで、界王拳も使えないからだ」

 

 元の歴史では、悟空は一年後にやってくるベジータを倒すため、界王様の住む界王星で修行をするはずだった。

 あの世にある蛇の道、その先に住んでいる宇宙の管理者の一人、界王様が、元の歴史での、悟空の次の師匠だ。

 界王様から教われる戦闘力を何倍にもする界王拳と、周囲のパワーを集めて敵に叩きつける元気玉が無ければ、これからやってくる数々の危機に対抗できない。

 それに当然、界王様と修行しないなら、そのコネもなくなる、界王様とのコネがなければ、これから起こる危険な事件はもっと苦しくなるはずだ。

 悟空が死なない道は……ない。

 

 「ゲームみたいに、界王様のことを教えて自殺してもらうなんて、できるわけないんだ、悟空は夫で、父親だ、子供を置いて一年も死んでるなんて、できるわけがない」

 

 それを強制的にさせたのは誰だ、オレだ!

 良心と、悟空、そしてチチとの友情が、オレを責める。

 

 「人としてやっちゃいけないことだ、それは分かってる、でも……」

 

 綱渡りの、しかも大味な戦力バランスで訪れる数々の危機。

 それを乗り越えるのに、悟空の力は絶対に必要なんだ。

 正直な懸念、恐怖、でも、……どうしようもなく、言い訳がましい。

 オレは自分自身の言い訳から逃げるように、もっと深く、罪を思い出そうとする。

 

 「オレはソシルミを、オレを信頼しきって、疑うのも辛いって目で見てくるソシルミを、ぶん殴って、気絶させて、あいつの親友を殺して、あいつの親友の兄貴を殺して、逃げた」

 

 食が進んでない、肉が焦げ付き始めてる。

 オレは無理やりにでもそれをかっこむ、料理の方法くらい、ちゃんと教わっとけばよかった。

 あの、できそこないのシチューの方がよっぽどマシな……いや、あれは、比べ物にならないくらいうまかった、あいつと食べたから、あいつと作ったからうまかったんだ。

 

 「あいつは強くて、賢くて……正しいことが何なのか分かってた、甘ちゃんだけど、行動力があって……世界を、いい方向に変えてった」

 

 オレはどうだ。

 あいつが来なきゃ、オレは一生、あの森で暮らしてたはずだ。

 ソシルミがいないと何もできないだなんて、そんなことはない、それに、オレにだって出来ることはある、でも、オレは世界を変えられない、そんなタマじゃない。

 

 「だから、あいつの代わりに、オレが地球を守らないと、あいつが、きれいでいられるように」

 

 きれい、そう言った途端に、オレの心の中にあいつの姿が浮かぶ。

 いつでも笑っていて、ちょっと子供っぽくて、何をするにも、正しい未来を選ぼうと必死だったあいつ。

 あいつが!

 

 「あいつがオレを見た、あの情けない目が、消えない、見たくなかった! ああしたのはオレだ、誰だって、恋人に裏切られればそうなる!!」

 

 憧れていた、前世でずっと見てきたあの悟空よりも実際に見た悟空よりも、テレビや漫画で見てきたどんなヒーローたちよりも強く、ソシルミに、ソシルミが見せる未来に。

 だから。

 

 「あいつに死んでほしくない! あいつの地球を守りたい!!! あいつに殺しなんてさせたくない!!!!」

 

 いつのまにかこぼれていた涙を撒き散らしながら叫んだ言葉。

 綺麗事だ、ごまかしだ。

 何を誤魔化しているのか、考えたくない、でも、頭じゃなく、胸の中でくすぶっているこの気持ちは。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 オレはなんとか息を整えて、まだ、鉄板に残る肉に取り掛かる。

 考えていることとやっていることが違うのは、自分でも分かっていた。

 あいつへの憧れと、愛情と、オレたちが背負った責任と、のしかかるおかしな未来にオレの頭はやられてしまったんだ。

 

 「こんなことなら、あの日、あの森で、出会わなければ――――」

 

 口から出かかった言葉を潰すために、炭になりかけた肉をガジガジと噛み砕いて、飲み込む。

 

 「むがっ、がふ、げほ……だめだ、あいつと会わない人生なんて、もう、想像できない」

 

 むせた喉の痛みも、あんな言葉をいい切ってしまうより、ずっとマシだ。

 もうオレはあの山の大猿じゃない。

 ソシルミと出会って、あいつに救われて、あいつに憧れ、あいつを愛したオレだ、自分が生まれたことを否定することは、できないんだ。

 

 「や、やっぱり……」

 

 それでも、止めた言葉の代わりに、どんどん吹き出してくる、この気持ちは。

 

 「一緒に、いたい……おまえが好きだ、ソシルミ……」

 

 未練だから、しまい込んで。

 やってしまったことを、やり通さないと。

 

 

 

 あらゆる都、カメハウス、カリン塔、オレがいた森、タンドール王国。

 かつての仲間たちにうっかり見つかりっこない場所にある、大きくも小さくもない密林、それがオレの選んだ、オレがこれから住む場所だ。

 そんな密林の中のひっそりとした渓谷に、オレはホイポイカプセルを放って、隠れ家を作った。

 

 《ロボAからZD、オールグリーン、偵察行動中、登録された人物の反応のある地点、1》

 

 「どこだ」

 

 《ロボLとM、カメハウスです》

 

 Z戦士や、ソシルミにまつわる重要人物の居場所には、既に自前の偵察ロボットを配備してある。

 流石に神殿やカリン塔は不敬だし、見つかりそうだから置いてないけど、どうやら、無用な心配だったみたいだ。

 

 「音声と映像、つなげ」

 

 オレが短く命令すると、二つのカメラからの映像と、二つのマイクによって拾われ、処理された音声が繋がってくる。

 どうやら、Z戦士はカメハウスに集まって、状況を整理してるらしい。

 その中でも、中央に立ってみんなに説明をしてるのは……ソシルミだ。

 

 『……ず、悟空が死んだのが分かった、まだ生命力は残ってたから、多分、一撃で殺されたんだと思う、その次に、ラディッツが死んだ、プリカが殺してくれ……殺したんだと思う』

 

 『ラディッツっちゅうのが悟空を殺して、その後、ラディッツをプリカちゃんが殺した、ということじゃな?』

 

 『ええ、そう見てよろしいかと、ラディッツを油断させるために近付いたのでしょう』

 

 『それで、わざわざ孫とおまえを? つじつまが合わんな、気の大きさくらいオレにもわかった、三人でかかれば、やってやれない相手じゃなかったはずだ』

 

 『分からない、だが、何か理由が……いや、すまん、これは俺の欲目だ』

 

 ソシルミはオレをかばうようなことを言っては、自分で言い直したり、天津飯なんかの仲間につつかれたり、まさに、板挟みだ。

 申し訳なさが溢れてくる、長く見ていられない、それでも、みんなが何を考えてるのかしっかり把握しておかないといけない。

 それに、これでわかった、オレは……。

 

 「ソシルミを、ちゃんと突き放さないと、いけない」

 

 また、口に出して確認して、また、胸が苦しくなる。

 あいつを、オレの犯した罪に、オレがやる汚れ仕事に巻き込まないためには、あいつがオレに気を使わなくて済むようにするには、オレは勝手に希望を捨てたクソ野郎で、あいつは信じていた仲間に裏切られた被害者じゃないといけない。

 ……いや、その通りなんだ。

 そのためにあいつが傷付いたとしても、オレがどれだけ孤独になったとしても。

 オレがあいつの世界を守る、後は、あいつは、あいつのやり方で世界を救ってくれるはずだ。

 それで、あいつが守りたいものを傷つけるとしても……やるしかない。

 

 「そうだ、まずは、ラディッツが持ち込んだ機械を見ないと」

 

 技術力で世界と関わり続けるという手だってあるんだ。

 オレは赤くなっているのが自分でも分かる目元をもう一度拭って、ラディッツから奪った戦闘服、スカウター、ポッドのスイッチを見る。

 

 「オレのとそう変わらない、技術力の進歩は、それほどでもないのか……」

 

 壊れたスカウターも、若干形が違うだけだ。

 スカウター、ソシルミは『盗聴の可能性がある、ヘタに触るべきじゃない』なんて言っていたけど、もういまさらか。

 この技術はとても魅力的だ、ソシルミたちの居場所も、地球に侵入した異星人の居場所もすぐにわかる。

 それに、気を読み取る手段がわかれば、ごまかす手段だって、わかるかもしれない。

 

 「まずはそーっとだ、爆発でもしたら、コトだからな」

 

 オレはスカウターに触る、アニメや漫画じゃ一見して使い方の分からないよく分からないマシンに見えたけど、実際に手にとって見るとなかなかどうして、わかりやすいデザインだ。

 くるくる回す、装着用の装置も、見てみれば簡単だ、様々な異星人の耳に付けるのに適した、考えられた形をしている。

 さて、何から触るか、バラすにしても……そう思いながら回していると、カチ、と、小さく音がなった。

 

 《ガ、ガガ……》

 

 「わっ!!? う、動いた、まだ生きてたのか!」

 

 《ロ、ロロ、ロロクオ……メッセージヲ……サイセイ……シマス、ゴジカン……マ……》

 

 録音メッセージ……?

 誰の、何の録音なんだ、留守電か?

 録音時期は丁度、オレがラディッツと行動を共にしてから、ラディッツを殺すあたりの時刻だ。

 何か……嫌な予感がする。

 

 『ピー…………い、ラディッ……オレたちを……度胸……だ……』

 

 ノイズが混じったその声には、聞き覚えがあった。

 ベジータの、声だ。

 

 『……いも……とは……なんなのか……だが、いい……たいく……今から……』

 

 「ラディッツは何かを教えていたのか、いや、それともオレたちの会話を傍受したのか?」

 

 オレとラディッツは一緒にいたはず、もし通信したなら、いつだ?

 ……そんな呑気な考察は、すぐに打ち切られた。

 

 『出発……する、一年かか……ヒマを……この際……レーニングでも、はっ……は……っは……ブツン』

 

 とぎれとぎれでも、何を言っているのかすぐにわかった。

 前世でさんざん胸に刻みこんだ、印象深い出来事だ。

 

 《サイセイ……、シュウ……ウ……ガピ》

 

 「ベジータが、来る……!」

 

 サイヤ人の王子ベジータ、戦闘力19000。

 その部下ナッパ、戦闘力推定5000。

 戦闘民族サイヤ人の数少ない生き残り、宇宙の地上げ屋、フリーザ軍の手下。

 元の歴史では、地球にドラゴンボールがあるという情報を傍受して地球に来たはずの連中。

 それが……この歴史でも、理由なんてないはずなのに、やってくる。

 

 「ま、まさか……」

 

 せっかく、ソシルミを裏切ってまで防いだ、そのつもりだったのに。

 最悪の、本当に最悪の想定だった、どうして来るんだ!

 壊れたはずが、少しの間だけ動いてたのか?

 オレがほんの少し目を離したスキに、ラディッツはあっちと話を通していたのか?

 歴史の修正力、なんて馬鹿げた言葉まで思い出す。

 何が起こったんだ、わからない、でも、起こってしまったことは事実だ。

 スカウターからのノイズの代わりに、ばくばくと心臓が暴れる。

 やばい。

 ラディッツさえ強化された状態で現れる、更に強くなったベジータとナッパ、そして不確定要素。

 それを、なんとしても防ぎたかったのに。

 

 「……ソシルミたちにこれを伝えよう、まだ間に合う」

 

 だらだらあふれる汗、割れそうな心臓、震える手、揺れる心をすべて無視して、口と、思考だけが動く。

 そうだ、やることは最初から決まっていたんだ。

 死んだ悟空を界王星に送り込んで鍛えてもらう、強くなった悟空が、ベジータたちへの強力な戦力になる。

 これは考えてみれば、オレが本来やりたかった生き方じゃないか、原作の事件を、そのままクリアしていけばいい。

 不確定要素はオレが潰す、ソシルミは頼らなくていい、ソシルミももうオレが憧れた世界の一部なんだ、なら、会いたいだとか、一緒に居たいなんて考えない。

 

 「何も変わらない、やることは同じだ」

 

 オレは目元を触る。

 赤く腫れた目から、新しい涙はこぼれていない。

 ちゃんと、乾いていた。

 

 

 

 スカウターをいじる手を止めて、空を見る。

 知ってるけど、見慣れてるわけじゃない天井だ。

 オレの視線の向こう、渓谷の上で、よく、とてもよく知った気が旋回していた。

 

 「き、来たのか……!」

 

 ソシルミが来た。

 気はしっかり消していたのに、どうやってここを見つけたのかもわからないけど。

 とにかく来たんだ、あいつなら、おかしくない。

 

 「と……とにかく、出迎えて、違う、いや、違わない、それで……」

 

 しっかり突き放さないと。

 そう思って、口に出そうとしたのに、言葉が詰まってしまう。

 嫌だ、あいつがオレを探しているなら、今からでも。

 きっとそれで間に合う。

 

 「違う、違う! それじゃ、何も変わらない、ソシルミはオレを許すだろうけど、許したら……あいつまで」

 

 あいつまでオレと一緒になる。

 人としてあるまじきやり方で歴史に介入して、仲間を裏切ってもいいんだと、そういうことになってしまう。

 でも、全てを打ち明けて、ちゃんと謝ったら……あいつは……。

 荒くなった呼吸と心臓の音が耳にまで聞こえてくる中、控えめな、ドアノックの音が響いた。

 

 「いるのは分かっている、ここまで近づけば、感覚でも分かるぞ、プリカ」

 

 自分の意思とは関係なく喉がすぼまる。

 オレはあいつと会うのが怖いのか?

 ……違う、あいつが来たのに、あいつの声に興奮してしまってるんだ。

 来てくれてうれしい、って、そう思っている。

 

 「……ああ、いる、鍵も、開いてる」

 

 「入るぞ」

 

 絞り出した言葉に答えて、あいつがノブをひねる。

 そんな単純な動作すら意識してしまう、たった数時間で……こんなに飢えてしまうものなのか。

 ソシルミはオレの身長に合わせて買った小さめの隠れ家の小さめのドアを窮屈そうにくぐって、正面で待っていた、オレを見る。

 不安げな目だ、まだオレを信じている、腹を殴られたことなんて、全然気にしてない、いつもの……あの、ソシルミをそのままに、弱りきっていた。

 

 「プリカ、この家は……あらかじめ、用意していたのか?」

 

 オレを信じてるくせに、まるで裏切りの計画を非難するようなことを言う。

 こういうやつだ、気遣いは出来るくせに、妙に無神経で……。

 ああ、オレは本当に。

 

 「そうだ、前から用意してた」

 

 「プリカ……」

 

 ソシルミは言った後になって自分の質問の意味が分かったみたいで、ゆらゆら目を逸らす。

 不器用なやつ。

 こんな時でもオレは、こいつが好きだと思うのをやめられない。

 オレは本当に、こいつのことが好きなんだ。

 なら、しっかりやらなくちゃ。

 

 「ずっと前から、こうなると思って準備してた、もう、おまえとは一緒にやれない、そう思ってたからな」

 

 「お前がラディッツを殺すのを目的にして離脱したのは分かっている、だが……」

 

 「だが、なんだ? 悟空を殺す必要はなかった、か? まさか、ラディッツ一人殺せばそれで終わりなんて思ってたわけじゃないよな」

 

 ソシルミが、答えに窮するというよりも、ただただオレの剣幕に驚いた感じで、息を呑む。

 悟空が死ななければ、重要な技術、界王拳は手に入らないし、師匠の一人が居なければ強化もどこかで止まるかもしれない。

 ソシルミはそれもなにかの手段で取り返しがつくと思っていたんだろう、オレは……思えない。

 意見をすり合わせれば、和やかに話すことも出来る内容を、オレはわざと、鋭い言葉でぶつける。

 

 「オレに言われてようやく気づいたのか? 計画性のなさは、相変わらずだな」

 

 「プリカ、戻ってこい、ドラゴンボールがある、事情を説明すれば、皆……」

 

 「おまえの所には帰らない、おまえとじゃ戦えないから、こんな手を使ったんだ」

 

 「ッッッ………!!」

 

 ソシルミが目を見開く。

 何を思っているのか、ぐるぐる巡る複雑な感情が、全部伝わってくる。

 今すぐ、なんちゃってとか、そう思ってたけど……とか、誤魔化して抱きつきたい。

 オレの居場所は、おまえの隣にしかないんだと伝えたい。

 ……それは、できない。

 

 「おい、お前がラディッツを殺したなら、あと11年は平和になる、人造人間やバビディが来るまでこうしてるつもりか」

 

 「ソシルミ、この世界は原作とは違う、なにが起こっても、おかしくない」

 

 オレにもそれは分かっていた、それなのに手を出せなかったのは、オレも同じ。

 オレは迫りくる危機を、兄弟二人の血で押し流すことしか……それすら、出来なかった。

 でも、お前なら。

 

 「……まさか、ベジータが来るのかッッ!!?」

 

 「そうだ、ベジータは来る、これで、悟空を界王星に送る理由が出来たな、フリーザ編も始められる」

 

 聞いたよな?

 帰ったら、すぐに悟空を界王様のところにやるんだ。

 オレはそう目で伝えたくて……それすらも誤魔化して、これがオレの本意であるかのように、ほくそ笑む。

 

 「おい、どういうことだ、ベジータが来るだと、プリカ、お前が――――」

 

 「おまえの生やさしいやり方では、世界は守れない、だからオレはここにいる、だから、もう終わりだ」

 

 ……ソシルミ、おまえが作った世界に、作る世界に、オレは要らない。

 おまえの優しさが届かない場所にオレは手を伸ばせる、でも、オレには血を流すことしかできないんだ。

 それでも、その罪を背負って、おまえを守る。

 

 「いや、まだ間に合う、なあ――――」

 

 「よせよ」

 

 情けなく顔を歪めて、手を差し伸べるソシルミを。

 突き放す言葉を言わないといけないのに、できなくて、小さく、吐き捨てるように呟いて。

 手を、血が出るまで握って、心の中で、泣きわめく今までの自分を縛り付けて。

 ちゃんとした言葉を、後に続ける。

 

 「もう、おまえは信用できない」

 

 「プリカ――――」

 

 駆け寄るソシルミを、オレはただ手を伸ばして、押し返す。

 その瞬間に感じた胸板の暖かささえ、オレの決心を壊そうとしてくる。

 やらなくちゃ。

 

 「帰れ、オレはオレでやる、おまえは勝手にすればいい、もう、どうでもいい」

 

 例え、それで一番傷つくのが、おまえに一番強く変えられた、救われた、オレそのものだったとしても。

 

 

→つづく




お久しぶりです、桐山です。


この世には深い理由と因縁のある出来事もあれば、突然降って湧くものもある。
誰も知らないと思っていた因縁が、突然顔をのぞかせてくることも。

ドラゴンボールの世界……いや、あらゆる、戦いのある世界に生まれた人間であれば、かならず直面するであろう、問題、あるいは選択。
力を得て運命と戦うか、運命に従って力を得るか。
惑星そのものを破滅させるような危険の前には、あらゆる人間的価値観、人間的葛藤は小さく見えて……。
果たして、分かたれた彼らの道は、どこへ繋がっているのか。
導かれた『答え』の先にあるのは。

次回も、お楽しみに。
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