転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第二話:転生地球人が吸血鬼と戦うまで

 「があ!!!」

 

 サイヤ人が叫びながら放った光弾はまっすぐ進み、着弾地点から周囲10メートルの魔族と地形を消し飛ばす。

 それは溜めて溜めて放つ必殺技などでは全くない、手のひらにぐっと力を込めるような動作を挟むだけで、簡単にエネルギーの塊が作られ、放たれてゆく、それが一分間に数回のペースで繰り返されていた。

 

 「シャッッ! トアッッ!!!」

 

 一方、俺は俺たち二人に向かって迫りくる魔族の刃をへし折り、首をねじ切り、飛来する弾丸を弾き飛ばす役割、いわゆる前衛の戦士の役割を負うことになっていた。

 取り決めがあったわけではない、しばらく続いている戦いの中で、自然とそのような役割分担が、俺たちの中で生まれたのだ。

 

 「城には入れるな! ガキどもをぶっ殺せ!!」

 

 そう、戦いは長く続き、戦場は奴ら魔族の拠点である、不気味な城の足元に移動していた。

 しかし、魔族ども、うかつな奴め。

 

 「ヘッ! 自分から居場所を教えてくれるんじゃあ世話ねえな!」

 

 「ひっ……ぼげっ!」

 

 俺は腕を振り回してがなり立てる隊長格の懐に飛び込み、その首に水平チョップを叩き込んで、頚椎を破壊する。

 いかに人間より強靭な化け物といえど、天下一武道会優勝クラスの師匠を上回る実力を持った俺の前では常人と大差ないのだ。

 

 「おい、プリカ! そろそろ陽が沈むぞ! 奴らキリがないが……このまま朝までやるか!?」

 

 「があ! ……お、おれはこのままでもいい!!」

 

 「そうか、それも結構!」

 

 隊長格を失ったことで一瞬浮足立った魔族に対しサイヤ人……プリカは猛烈な勢いでエネルギー弾をぶちこんでいく。

 最初、俺を相手にああまで力を込めて放った一撃が木一本へし折って終わりだったのが嘘のようだが、プリカの凄まじさはそこだけではない。

 

 「死ね!!」

 

 「ちっ! あたるか! がぁっ!!」

 

 「ぎええ!!」

 

 プリカは機関銃を抱えて飛び込んできた翼のある魔族の弾丸をすんでの所で回避し、そのままエネルギー弾で魔族を撃墜……というか爆散させた。

 驚くべきことだが、プリカは初めて銃を見たあの森での戦いから半日しか経っていないというのに、もう魔族が放つ機関銃の弾を見切り始めている。

 流石に、俺のように放たれた弾丸を放たれた後から弾くような練度には達していない、だが……これが、戦闘民族サイヤ人が持つポテンシャルか。

 俺の体が、戦慄とも武者震いとも、単なる興奮ともつかない震えを起こす。

 

 「きえろ!! だっ! ぐがっ!」

 

 「絶好調のようだがスタミナは持つのか?」

 

 「へいきだ!」

 

 幼い顔に戦意を滾らせ、プリカは俺のなけなしの心配をあっけなく否定した、実際、かなり血色がいいので、大丈夫なのだろう。

 ……あの森での戦いは、実のところあっけなく終わった。

 頭に血が上って復讐戦を挑んできた魔族の集団は、俺の武術とプリカのエネルギー弾、それと力任せの『殴り飛ばし』や『えぐり取り』などを前に、手も足も出なかったのだ。

 だが、その戦後、ごく小さな会話が俺たちの間で交わされ、それが俺とプリカをこの不気味な城に駆り立てたのだ。

 

 『そ、ソシルミ、……こいつあ、こいつらはなんだ?』

 

 『魔族、魔物、化け物、呼び方はなんでもいいが面倒な奴らだ、夜にだけ出てきて、人間を襲う』

 

 『いまは、あさだ』

 

 『ああ、昨日の夜、そこの村の娘を拐って食おうとしてたんで俺が追っ払ったんだ、その復讐ってわけだろう、げに恐ろしきは食い物の恨みってわけだな』

 

 『……ソシルミ、こいつら、どこからきたんだ?』

 

 数時間後、俺とプリカはこの城の膝下で魔族と戦っていた。

 魔族の根城が、あの山からほど近い、この不気味な山脈地帯であることはすでに十分目星をつけていたのだ。

 しかし……この山脈、どこかで見たような覚えが……。

 

 「ぎぎぎっ!!」

 

 「げえっ! げえっ!」

 

 「に! にげう! にげるな!!」

 

 俺が戦いながら思考の海に潜ろうとしていると、突然、飛行型の魔族が数体、霧の上に向かって飛び立ち始めた。

 城に報告に行くつもりか、と思って見上げると、何やら上空を飛ぶ航空機が一つ。

 

 「まずいぞ!プリカ!」

 

 「く、くそ!!!」

 

 プリカは歯噛みしながらエネルギー弾を魔族に向けて投げつける。

 しかし、距離があって中々当てることができないでいるうちに、魔族どもはその小さな航空機に集り、墜落させてしまった。

 航空機を墜落させた魔族どもは、ゆうゆうと飛び去り、数匹は城へ、数匹は急降下して落ちる航空機を追ってゆく。

 

 「だめだ! くそ!」

 

 「まだ奴ら落ちた機を狙ってやがる! 生き残りに止めを刺す気だぞプリカ!」

 

 「そ……そうか! ぐ……があ!」

 

 大きく気を溜めて放たれたエネルギー弾は、落ちていく機体を追いかけていた魔族を完全に消し飛ばす。

 数発でカンを掴んでしまったプリカの凄まじさを更に褒めたいところだが、俺もエネルギー弾を撃てれば、当たらずとも牽制にはなった……いや、まず殲滅が間に合って、あの航空機が犠牲になることはなかったはずだ。

 そう考えているうちに、航空機は山頂にほど近い山肌に激突してしまった。

 

 「…………あそこにいく」

 

 「クルーが生きてるとは考えにくいが……」

 

 「いく」

 

 プリカは悲痛な顔持ちで墜落現場行きを宣言した。

 浮かぶ表情は、魔族に対する義憤、そして、自らが周辺住民にかけた迷惑を、魔族討伐をもって償おうとしたのであろうその意思が踏みにじられた痛みだ。

 

 「分かった……だが、気にするなよ、魔族はいくら倒してもキリがない、どう戦ってもどこかで犠牲が出る」

 

 「…………そうか」

 

 俺はプリカの肩に手を置き、のけられつつ、一応慰めてやる。

 こいつは俺の慰めを真に受けることは出来なかったようだが、俺が慰めているということくらいは、どうやら伝わったようだ。

 ……そして、魔族が粗方片付いた無人の山を駆け上って墜落現場にたどり着くと、驚くことに中に乗っていた人間は生きていた。

 

 「人に、服を着たブタに、……なんだこれ」

 

 「…………!!!」

 

 いや、こいつらの正体を、俺は知っている!!

 人、中華風の服装の青年は、ヤムチャ!人民服を着たブタはウーロン!!この……よくわからない生き物はプーアルだ!!

 全員、『ドラゴンボール』の初期レギュラーだ!!

 

 「……と、とにかく……こいつらが起きるのを待つぞ、魔族が来ても面倒だからな」

 

 「わ、わ、わかった……、いきてるなんて、すごいな……うん……」

 

 そして、この三人が目の前に居ることで、ようやく思い出した!

 この山脈地帯は、『悪魔の手』、そして『魔神城』!

 初期の劇場版作品『魔神城のねむり姫』の舞台だ!

 『魔神城のねむり姫』は劇場版でも初期の初期、確か二作目の劇場版で、原作における亀仙人の弟子入り課題である『ピチピチギャルを連れてくる』を改変し、『ピチピチギャル』を『魔神城の悪魔に囚われたねむり姫』に限定し、悟空とクリリンは弟子入りのために魔神城へ向かう……というストーリーに仕立て直したものだった。

 はっきり言って、俺はこの作品がアニメドラゴンボールの中でもトップクラスに好きだ。

 『魔神城のねむり姫』は見どころに溢れた良作である。

 まず、初期ドラゴンボールらしいとも言えるが少し毛色の違う、SFファンタジー的な魅力を持ったギミックが目を引く。

 更に、『Z』以降の作品にありがちな間延びやこじつけの少ないすっきりとした構成と、バランスの取れたギャグとアクション、シリアス要素に加え、シチュエーションや演出に合致したBGMに、しっかりとアクの濃いボスキャラの『ルシフェル』を中心とした、コミカルながらもシリアスにも適合したキャラクターが魅力を与えている。

 特に、俺のイチオシはそのボスキャラである、魔物の親玉『ルシフェル』だ。

 普段は紳士的なリーダーとしての振る舞いと整った顔立ちを見せながら、いざ獲物や『憎き太陽』を前にすると残虐な本性を顕にし、顔は恐ろしげな『モンスター・ダンディ』とでも言うべき風貌へと変化するといった、二面性を持ったキャラクターであり、映画内では、紳士と怪物を激しく往復しながら野望の成就へと邁進する姿を見せた。

 ルシフェルは悟空やクリリンが同時攻撃をしかけても底すら見せずにあしらう格闘戦能力と、ビーム弾の発射能力に加え、かめはめ波を放たれた後にあっさりと回避する俊敏性と、登場時期を間違っているんじゃないかと思わせるスペックを持っていたが、何より凄まじいのはその野望だ。

 なんと、月光を利用して凄まじいパワーを持った宝石、『ねむり姫』を覚醒させ、それを使った大砲で太陽にビームを打ち込んで破壊しようという、シリーズ序盤にあるまじき凄まじい野望を持っている。

 ……初期作だけあって、出自不明の魔物の類が跋扈しているなど後期の作品との整合性はあまり取れていないのが玉に瑕といったところだが、そこは広い視野、温かい目で見るほかないだろう。

 総括すると、初期ドラゴンボールの雰囲気を比較的精密にトレースしつつ、独自の魅力的な要素もふんだんに盛り込んだ作品。

 それが、俺にとっての『魔神城のねむり姫』だった。

 

 「ソシルミ、おい、ソシルミ」

 

 ……まさかねむり姫が……こいつは面白いが、太陽が吹っ飛ぶのは少し困るな。

 

 「おい、ソシルミ、こいつらおきそうだぞ」

 

 「む、すまん、少々もの思いにふけっていた」

 

 と、そこまで思い出したところで、ジト目のプリカが俺の服のシワを掴んで呼びかけてきた。

 どうやら俺が記憶の海に沈んでいる間に、ヤムチャたちは完全に意識を取り戻しつつあるようだ。

 

 「う……うう……ここは……」

 

 「……! おきた!!」

 

 「目が覚めたか」

 

 「お、おまえたちは……ま……魔物!?」

 

 ヤムチャはガバっと起き上がり、傍らに居たプーアルを庇うように立ちふさがった。

 

 「お前らを襲った連中は俺たちが倒したよ、俺たちは魔物を退治しにきた武道家だ」

 

 「……に、人間……なのか?」

 

 「ああ、俺はソシルミ、こいつはプリカだ」

 

 「オ、オレはヤムチャだ、ここは遊園地と聞いて来たんだが……」

 

 「ちがう、まものの、すだ」

 

 プリカの無慈悲な宣告に、ヤムチャはショックを受けた様子だったが、すぐに別の重大な事実に気付き、周りを見回す。

 

 「ブ……ブルマがいない! ソ、ソシルミ! 髪の青い女の子を見なかったか!? オレと同じ位の歳なんだが……!」

 

 「そういえば、魔物が最初にこの飛行機を襲った時、一人誰かが引っ張り出されていたような気がするが……」

 

 嘘だ、俺の視力は優れているが、日が沈みかけ、霧の立ち込める中、上空の航空機にへばりついた数人の人影が何をしていたかまでは分からない。

 ただ、原作でブルマは空を飛ぶ魔物に拐われ、ヤムチャたちとはぐれてしまったということを覚えていただけだ。

 

 「そ、そうか! おい! プーアル、ウーロン! 起きろ!」

 

 「……むにゃ……なんだよヤムチャ、まだ夜じゃねえか」

 

 「そうですよヤムチャさま、夜ふかしは健康によくないですよ……」

 

 「寝ぼけてる場合か! ブルマが魔物に拐われちまったんだ!!」

 

 俺もこの世界で13年は生きてきた身だ、獣人の類は見慣れているが……、『妖怪』と呼ばれるような激しい異形は中々見慣れない。

 しゃべるブタと……何かよくわからない獣、目の当たりにしてみるとかなり異様で、それでいて面白いものだ。

 こいつら『妖怪』は全く別のものに変身する能力を持っていて、その能力まである程度コピー出来たり、武道家でもないのにふわふわと空を飛んだりと、シリーズ序盤の登場だけあって中々謎の多い種族である。

 と、物思いにふけっている間に、ヤムチャは二匹への説明を終えたようだ。

 

 「助けに行きましょう!」

 

 「じょ……冗談じゃねえ! オレは帰るぞ!」

 

 「おまえも来い! 第一、それで帰ったらおまえ……後でブルマに殺されるぞ?」

 

 「わ……分かったよ……行けばいいんだろ……ちくしょう……」

 

 「よし、じゃあまず、ウーロンは適当な魔物に化けろ、プーアルはお面にでも化けて、変身できないオレの変装を助けるんだ」

 

 「はい! 変化!」

 

 「げっ……マジで行くのかよぉ……オレはそんなに長く変身出来ねえから、城に入る時な……」

 

 プーアルは善良な従者、ウーロンは姑息な隣人、ヤムチャはごく普通の気のいい兄ちゃんと言ったところか。

 姑息と言っても、根っからの邪悪さを持っているわけではないのだろうが……まあ、魔物のはびこる城に突入すると言われたら誰だって断りたくもなるだろう。

 と、忍び込む算段を立て始めた三人を眺めていると、プリカが小さく俺に問いかけてきた。

 

 「…………ソシルミ、こ、これかあ、これから、どうする?」

 

 「ふむ、こいつらに同行するか、代わりにブルマ……という女を、助けに行きたいのか?」

 

 「い……いや……、しんぺゃっ、しんぱい、だけど……」

 

 プリカはどうにも、ブルマ救出に対しては及び腰のようで、ここ数時間はなりを潜めていた舌っ足らずも息を吹き返してしまっている。

 さっきまでああも戦意を滾らせておいて急に何をしおらしく……と思ったが、もしかしたら、急に周囲に人間が増えてストレスを感じているのかもしれない。

 俺としては、貴重な『ドラゴンボール』への合流の機会だし、優秀な武術家であるヤムチャや悟空たちの活躍を見たいという気持ちもあるし、何かの拍子に救出が間に合わず、ブルマが死んでしまう危険性も鑑みれば、ぜひともヤムチャたちに同行を申し出たいところだが……。

 同行者としては先客にあたるこいつ、プリカが嫌がるなら、俺はこいつと共に、別行動をとってもいい。

 

 「では、俺たちだけで突入して助けに行くか? 俺はそれでも構わんぞ」

 

 「うう……、ああ……」

 

 俺が譲歩してやると、プリカは頭を抱えて、深く悩みだした。

 10年近くも山奥で潜伏するだけの理由がある苦悩だ、簡単に答えが出るものでも、ないのだろう。

 苦悶の声を上げながらフラワーロックのようにくねくねするプリカを、俺はだまって見守るしかない。

 

 「な、なあ……さっき、あんたらが一緒に来てくれるって、言ってたよな?」

 

 「ああ、俺は構わんが、こいつが嫌と言えばどうにもならん、主戦力はこいつだしな」

 

 「な! なあ! あんたら強いんだろ!? 頼むから付いてきてくれよ!!」

 

 ウーロンは情けなくプリカにすがりつく、プリカはうっとおしそうにしつつも、振り払うわけでもなく、更に苦悩を深めてうなりとうねりを増している。

 

 「やめろウーロン!」

 

 「またエッチなことを考えてるんだろ!」

 

 「え!? あ、そう言えば結構やわらか……ぶぎゃっ!」

 

 プーアルの指摘によってウーロンがスケベ心を出した瞬間、猛烈な勢いで横っ腹に打撃が突き刺さり、1メートル吹っ飛んだ。

 

 「イ……イテテ……何すんだよちくしょう……あ!」

 

 「どうしたウーロン! ……あ! シ……シッポ!」

 

 「本当です! シッポがあります!」

 

 「何だ、こいつにシッポがあるとそんなにおかしいか」

 

 「いや……友達にシッポが生えたヤツがいて、めちゃくちゃ強いんだ、こいつもシッポが生えてるなら、魔物をぶっ倒せるくらい強くてもおかしくないのかもな……」

 

 ウーロンを弾き飛ばしたのはプリカ自身のシッポだった。

 それも、姿勢を崩さずに打撃を加えて弾き飛ばしたらしく、プリカ自身はまだ頭を抱えている。

 まあ、突然初対面の、それも異種族の男に性欲を向けられて気持ちのいい女児はそう居ないだろう、サイヤ人であっても、多分それは同じだ。

 

 「う……うぅ……」

 

 「大丈夫か」

 

 「お、おれは……へいきだ」

 

 そう言ってるが、顔を覗いてみるとかなり赤い。

 

 「まあ、お前が無事と言うならいいが……さっさと決めないと、手遅れになるぞ?」

 

 「い……いく……」

 

 プリカは真っ赤なまま同行を承諾した、俺が真性のロリコンだったら大興奮の絵面だが、そこまでではないのでただかわいいだけだ。

 兎にも角にも、急がなければブルマの命、ひいては地球そのものが危うい。

 俺たちはすぐさま、魔神城に乗り込むことにした。

 

 

 岩山の洞窟を利用して作られた魔神城の内壁を閃光と爆炎が貫いてゆく。

 バルカン砲を持った魔物たちが駆けつけるも、密集した陣形をエネルギー波で貫かれ、まるでカトンボのように墜落、あるいは爆散する。

 数少ない命中コースの弾丸すらも、俺の手によって弾き飛ばされ、接近する陸上の魔物は俺とヤムチャの手によって防がれるので、魔物たちはなすすべもない。

 

 「があ!! だあ!!! うぐああ!!!」

 

 「あの女の子……なんてやつだ! かめはめ波のような技をどんどん撃つなんて!」

 

 そう言いながらも、ヤムチャは俺たちに襲いかかってくる魔族の剣を避け、蹴り飛ばして撃退した。

 俺が三体殺す間に一体倒す、くらいのペースだろうか、実力伯仲とは言えないが、素手で魔族を倒せる時点で達人に変わりない。

 魔神城に乗り込んだ俺たちは、これまでと同じフォーメーションのまま、防衛対象に二匹を、前衛にヤムチャを加えて戦っている。

 ヤムチャはと言うと、プリカの撃つエネルギー波の凄まじさに驚愕しっぱなしのようだ。

 

 「プリカだ、威力は話に聞くかめはめ波ほどではないと思うが……あの連射性は凄まじいものがある」

 

 「ああ……だが、ソシルミ、おまえも凄まじい使い手だな、オレよりも若く見えるが……」

 

 「13だ、あんたは見たところ16くらいか?」

 

 これも、実際は知っているだけだ。

 

 「そ……それでオレより強いのか……」

 

 「ズルいなんて言わないでくれよ? 俺もそれなりの修羅場をくぐってきたし、鍛錬だってしてきたんだ、多分俺より才能のあるやつだってこの世界にはゴマンと居るだろうしな」

 

 「ゴク……」

 

 さて、ヤムチャは俺の腕を見てビビっているようだが、この世界の普通の感覚というやつを知っている俺にとっては、ヤムチャの実力は眼を見張るものがある。

 師匠の道場でもヤムチャに勝てるのは高弟の一部と師匠、それに俺くらいのものだろう、……俺が言うのもなんだが、16歳でたどり着けていい領域では決してない。

 間違いなく、この時代の地球人でも指折りの才能を持っているし、強さそのものも、かなりの上位に入るだろう。

 そう考えているうちに、周囲の様相は様変わりし、ほとんど洞窟のままだった壁は、石レンガや各種の装飾で彩られたものになってきていた。

 

 「……と、話している場合ではないようだな、周囲の壁の内装が本格的になってきたぞ」

 

 「そろそろ城の中心ってことか……!」

 

 「ああ、連中はブルマをその場で食い散らかさずにわざわざ持ち込んだんだ、おそらく、城主に捧げるためだろう、生きているならそこに居るはずだ」

 

 「待ってろよブルマ……!」

 

 『魔神城のねむり姫』の本来のスジでは、プーアルの変化を活用していつの間にか潜り込んでいたヤムチャだが、今回は俺たちの助力によって完全に勢い付き、魔物たちを蹴散らしている。

 

 「!! あの扉、でかいぞ、ぶっとばせプリカ!」

 

 「うっ……があ!!!」

 

 「くっ……!」

 

 「うっひゃあああああ!!」

 

 プリカが放ったエネルギー弾は扉をぶち壊し、向こう側の部屋を露出させた。

 その、吹き抜け構造の大フロアの中には大量の怪物たちがウヨウヨしており、その中央付近には天蓋付きのベッドのようなものが配置され、更に、椅子にくくりつけられた女の子……ブルマ、更に、この城の主であるルシフェルとその従者の姿がある。

 従者は、今まさにブルマの血を吸い出そうとしていた注射器を取り落し、ルシフェルは忌々しそうにこちらを睨んだ。

 

 「何者だ!!」

 

 「俺たちは旅の武道家だ! 先程この城に奪い去られた少女、ブルマの身柄を預かりに来た!」

 

 「い、一体何が……ヤムチャ!?」

 

 「ブルマ!!」

 

 ブルマは首だけを動かしてこちらを見ると、自分の恋人……ヤムチャの姿を確認して、希望を取り戻した顔になった。

 ヤムチャもまた、恋人の窮地と生存を目の当たりにして闘志をみなぎらせている。

 

 「き、きさま!! まさか魔族狩りのガキか!」

 

 「狩ってたつもりもないが、まあ多分それで合ってるんだろうな……プリカ! ヤムチャ! 行くぞ!」

 

 「わかった!」

 

 「よっしゃ――――うわぁ!?」

 

 ヤムチャはもちろん、プリカもまた、救出対象を前にいきり立っているようだ。

 だが、そうして俺たちが突入しようとしたその瞬間、けたたましい音と共にフロアの反対側で爆発音が響き、爆炎の中から小さな影が2つ飛び込んできた。

 

 「うわああああああ!!」

 

 「な……また新手だと!?」

 

 2つの影は宙を舞い、フロアの中央、天蓋付きのベッドにも見える祭壇に向かって放物線を描いて飛んでいく。

 俺の目は、その影の片方に釘付けになる。

 尻にシッポ、背中に赤い棒……如意棒!

 あどけない顔に、独特すぎる髪型、無邪気で戦いが好きな、優しいサイヤ人!

 そうだ、あれこそがこの世界の主人公!

 

 「ご……悟空!?」

 

 「そ、孫くん!?」

 

 「!!!!!」

 

 そう、あれこそが、俺の前世における最大のヒーロー!

 孫悟空だ!

 天蓋に落下した悟空たちを見送った俺は、なるべく冷静を装って、わざとヤムチャに尋ねる。

 

 「……アレがお前達の、シッポの生えた友達か!」

 

 「そうだ! こりゃツイてるぜ! もうひとりの方は知らないが、あいつまで居るならもう安心だ! 待ってろよ! ブルマ!!」

 

 そうだ、もう一人の名はクリリン、孫悟空の終生の友であり、地球人としてはトップクラスの実力と、戦士たちの中で有力な人格者としての立場を得ることになる。

 ……そうだ、元の歴史での純粋地球人最強、それは、俺にとって一つの『越えるべき壁』……あるいは、『抜かれてはならないライバル』なのだ。

 と、俺が無駄に対抗意識を燃やしている間にも、ヤムチャは全速力でブルマの方に駆け込む……というか、ほとんど飛び込む形で突撃していく。

 恋人を救わんとするその熱意は当然あってしかるべきだが……今はやばい!

 

 「やめろヤムチャ! 親玉はお前が敵う相手じゃ――――」

 

 「ぎゃあーっ!!!」

 

 「――――お、遅かったか……!」

 

 ブルマに向けて一直線に飛び込んだヤムチャは、そのままの勢いでルシフェルに蹴り飛ばされて明後日の方角にすっ飛んでいった。

 あの叫びようだと死んではいないだろうが、厄介なことになった!

 

 「……くそ! 妖怪どもは魔物にでも化けてやり過ごしていろ!」

 

 「わ、わかりました……変化!」

 

 「変化! ま……間違えて俺たちをぶっ飛ばしたりしねえよな……」

 

 「プリカ、ヤムチャを頼む、俺はブルマを拾いに行く!」

 

 「わ……わかった!」

 

 だが、その瞬間、更に事態を混乱させる出来事が発生した。

 不気味ながらも厳かな気配を纏った城に相応しくない轟音、これは自動一輪のエンジン音……そう、これは……!

 

 「人呼んで、いただきランチ!!」

 

 「またしても侵入者だと……!」

 

 「くそっ! ねむり姫をかえせ!」

 

 一輪を駆る金髪の女……ランチが、魔族を蹴散らして天蓋に飛び込み、巨大な宝石……『ねむり姫』を盗み取った。

 ランチ、ドラゴンボールシリーズ初期の準レギュラーキャラで、くしゃみをきっかけにして、黒髪の色々とゆるい乙女と、金髪の粗暴な盗賊の人格がスイッチするという性質を持っている。

 『魔神城のねむり姫』でも、その特徴によってストーリーを大きく動かしていたのだが……こう、目の前に現れてみると厄介だ!

 そして、あまりに目に毒な格好だ!

 

 「ルシフェルさま、城のすべての兵士を集めました」

 

 「よろしい! 祭壇の間を封鎖し、あの小娘とガキどもを捕らえろ!」

 

 「ルシフェル、お前の相手はこの俺だ!!」

 

 この城の中で、ルシフェルに対抗できる戦力はおそらく俺とプリカしかいない、そのプリカをヤムチャ救出にあててしまった以上、俺がルシフェルを抑えるしかないのだ。

 ルシフェル、出身地すら定かではない、太陽を嫌い吸血行為を行うこと以外一切不明のこの男は、現時点では地上最強の候補に上がる程の実力を備えている。

 立ち上る妖気は、これまで撃破してきた魔族どもとは全く比べ物にならない。

 

 「きさま……アエ・ソシルミ!」

 

 「俺の名を知っているとは光栄だな、光栄ついでに、お相手願おうかッッ!!」

 

 「魔族狩りめ……きさまは許さん!!」

 

 俺が構えを取ると同時にルシフェルもまた、顔を端正なものから厳しい怪物のそれへと変え、臨戦態勢に入った。

 この場の武道家としては一枚劣る位置にいるヤムチャだが、その実力はまさしく本物、それをあっさりと破ったルシフェルの戦闘能力の高さも、実感と理性、両方で感じられる。

 ――――だが、俺にとっては脅威を感じるより強敵を目の前にした喜びの方が大きいのも、また事実だ。

 俺のこの思いは、こいつが俺にとって、まだ勝利の見込める相手だから湧くものなのか?

 その問いは、戦いの火蓋が切って落とされた瞬間に四散した。

 

→つづく


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