転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

41 / 52
第三十九話:地球人達が空からの敵に備えるまで

 鳴り響くサイレンをバックに、人々の怒号や悲鳴、電話・無線のコール音がこだまする。

 チカチカと光る電算機、モニター、スイッチ類、それらに齧りつくスタッフたちの目は真剣そのもの。

 ここは、タンドール王立宇宙センター。

 

 「エネルギー反応、なおも増大中です! 既に反応値は300を――――」

 

 「空間歪曲反応も同様で――――」

 

 「事前情報とは――――」

 

 あちこちから聞こえる専門家達の叫び声は、緊迫感を感じさせつつも、どこか心地いい。

 だが……事態の進展は、芳しくないようだ。

 

 「軌道の推定!? 計算機の出力があと100倍は――――」

 

 「データがもっとあれば……ええ! ええ!! 分かってます!!」

 

 「しかし、ここを――――」

 

 カリカリと喚くコンピューターと、次第に悲壮感を帯びてくるスタッフたちの声。

 それらに追い立てられるようにして、青い影が立ち上がった。

 

 「もういい! 全部こっちによこせ! わたしが見る!!」

 

 「ピラフ司令!!?」

 

 決断的に立ち上がったピラフは、モニタ群の前に立ち尽くし、目まぐるしく視線を動かし、冷や汗を垂らしている。

 

 「ピラフ大王」

 

 俺は急かすでもなく焦れたわけでもなくただ声をかける……が、隣のプリカはそうは思わなかったらしい。

 ジロっと睨んできた。

 技術者が全力を出しているのに催促とは何事だ、という目だ。

 

 「……わかっている」

 

 ピラフは焦ることなく、小さく声を上げて、ただ事態の重さだけを認めた。

 喧騒と機械音に包まれたているはずのこの部屋が、やけに静かに感じられる。

 ピラフはギョロギョロとモニターを見たまま動かない、ピラフを見守る俺も、プリカも同じだ。

 そして、数分が経過した頃に、ピラフは固く結ばれていた口を開いて俺達に向き直った。

 

 「およそ四時間半だ、場所はまだ分からん」

 

 「分かった、すぐ師匠に連絡しよう」

 

 「それがいい……、マイによろしくと伝えてくれ」

 

 プリカが、『マイ?』と首をひねる。

 それもムリはない、プリカはマイが今出張しているのを知らないのだ。

 今、マイは……。

 

 

 【残り4:20】

 

 

 わたしは今、ピラフさまの命令で中の都にあるキングキャッスルに来ている。

 目の前にいるのは世界の国王と、何人かのお付きの者だ。

 そして、わたしの役目は……伝令だった。

 

 「しかしそれは……大変なことだ」

 

 「その通りです陛下、確証もないというのに……」

 

 「確証ならあります、わたしの主であるピラフ大王さまがデータを集め、タンドール王立宇宙センターにて現在検証中です」

 

 世界の国王を相手にわたしは冷や汗もかかず、『大変なこと』を伝えてゆく。

 本当なら緊張するところだが、わたしもそれなりに王族とは付き合いのある身、今更これくらいで怖気づいたりはしない。

 

 「……マイさんと言ったか、これは確かに、チャパ王の命による通達なのだな?」

 

 「はい、チャパ王は、『事態を静観すれば多大な犠牲が出る、これはあの事件の再来を防ぐチャンスなのだ』……と」

 

 「チャンスだと!? バカな、今日が何の日なのか分かっていないのか!? そもそも……」

 

 「よしたまえ!」

 

 わたしの伝えた言葉に怒るお付きを止めて、国王は頭を抱える。

 

 「それにしても……まさか、よりにもよってこの日にとは……、なんという……」

 

 国王の苦悩は深いらしい……しかし、さすがは国王の器、すぐに持ち直して、わたしに別のことを聞くために頭を持ち上げた。

 

 「観測したというのは分かった、信じよう……だが彼らは、そんな情報をどこから?」

 

 「もともとはチャパ王の一番弟子、ソシルミから得た情報です」

 

 「……ピッコロと、魔族を倒した男か」

 

 「はい、今はどちらとも仲良くしているようですが」

 

 それを聞いた国王は、頭を抱えるでもなく、ただ小さく首をかしげた。

 そう言えば、いわゆる『魔族』と、ピッコロ大魔王本人は結構違う存在なんだ、と伝えるのを、忘れていたような気がする。

 わたしにとって魔族というのは、ピラフ大王様や……。

 

 

 【残り4:12】

 

 

 オレは映像を写すのをやめた水晶玉を玉座の脇に置いて立ち上がる。

 そして軽く飛んで、今まさに試合を始めようとしていた武舞台へと着地した。

 

 「シュ、シュラさま!?」

 

 「シュラさまー! どうして邪魔するんですー?」

 

 「次の試合はシュラさまがやるんですか!?」

 

 「それならちょっと見たいかも知れねえなあ……」

 

 魔族どもがぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。

 見れば、元から居た連中だけじゃなく、ソシルミが連れてきたやつらもだ。

 随分と厚かましくなった、いや、馴染んできたと言うべきか。

 

 「黙れい!! ……出撃準備だ、久々に門を出られるかもしれんぞ」

 

 黙れ、と言うとともに会場は静まり、次に、一声で沸き立った。

 久々に戦いを楽しめるのか、もしかしたら血を浴びることができるのか、と。

 だが当然、異を唱える者もいる。

 

 「シュラさま! 神や閻魔との盟約はいかがなさるおつもりなのです!!」

 

 「勝手に門を出ればソシルミも黙っちゃいません!!」

 

 メラとゴラが大声で叫ぶ……が。

 

 「まさしくその神とソシルミが出てこいと言っているのだ」

 

 「神が……!?」

 

 「ソシルミが……?」

 

 二人は首をかしげる。

 無理もない、神もソシルミも、われわれと友好な関係を築こうとしつつも、この地から出さぬことに関しては徹底していた。

 だが、二人にはもっと困惑してもらわねばな。

 

 「血に飢えた諸君には悪いが、今回の目的は殺しでも略奪でもなく、戦いですらないのだ」

 

 魔界にはソシルミに恩を受けた者が多い。

 返せる機会があるならば、返しておくのもやぶさかではないだろう。

 そのついでにオレはまた恩を売れる……売った恩で何を求めようか。

 そうだ、以前は断ってしまったやつの同門との試合でも、やってみるのも面白いかもしれんな。

 

 

 【残り3:58】

 

 

 『……というわけだ、ラパータ、至急これを皆に伝えてくれ、追って連絡する』

 

 「は、はいっ!! それでは!」

 

 受話器を自分でも乱暴だと思うくらい勢いよく戻して、ぼくは走り出した。

 理由は一つ、皆に、たった今知らされた一大事を教えるためだ。

 ぼくは人気の失せた道場の廊下を駆け抜け、半地下の鍛錬場へと飛び込むように駆け込む。

 

 「ソシルミ先輩から連絡です!! 以前の話の通り宇宙人が来ます、到着地点によってはうちが住民避難の手伝いをすることになるので、すぐ用意してください!!」

 

 いきなり現れたぼくの叫びに、鍛錬に勤しんでいた先輩方が一斉にこっちを向く。

 刃引きもしていない剣で演舞か試合でもしてたんだろう、血みどろの顔だ、怖い。

 (普段は、ぼくが顔が怖いといじられる側だけど、今度ばっかりはそう言ってもいいはずだ!)

 

 「ラパータ!」「戦いか!!?」

 

 「プリカちゃんと同じ種族だって聞いたぞ!! 強いんだよな!?」

 

 ケララ先輩にパタラ先輩、チャルク先輩は一通り言いたい事を言うと武器を掲げたまま雄叫びを上げている。

 いや、その……。

 

 「ソシルミ先輩も、プリカさんも、悟空さんでも敵うかどうかわからない相手ですよ?」

 

 「つまり!」「オレたちがやれば!」「大金星!!!」」

 

 「宇宙人をぶった切れると思ったらゾクゾクしてくるぜ!!」

 

 「ああもう、みなさん! 避難です避難!! 戦って死んでしまっても知りませんよ!? 覚えてますか? ぼくたち、もう生き返れないんですからね!!?」

 

 なんて叫びながらも、ぼくの握られた手には、緊張以上の汗と火照りが滴っていた。

 自分が戦おうと戦えまいと、戦ったら死ぬとしても……強い人が現れると思うと、どうしても滾ってしまう。

 武道家の本能だと、ソシルミ先輩は笑って言うんだろうな。

 ……先輩と並び立って戦える人たちが羨ましい。

 ぼくも、一度道場から出て世界を巡ってみるべきなのかもしれない、だとしたら、まず尋ねるのは……。

 

 

 【残り3:45】

 

 

 「武天老師さまー、無線が入ってますよー!」

 

 「むぅ……わかった、すぐ行くわい」

 

 ソシルミのやつが置いていった無線機が受信音を立ておった。

 今日は何やら胸騒ぎがして、修行をほどほどに切り上げ、ゆっくり休みながらお宝ビデオでも見ておこうか、などと思っていた矢先のことじゃ。

 ……このタイミングで急用、そしてこの胸騒ぎ、……とうとう来おったか。

 

 『お久しぶりです武天老師様、まずは本題からよろしいでしょうか』

 

 「お主のその焦りようは、まさか……」

 

 『サイヤ人の宇宙船は、数時間後には到着します、場所は、座標にして…………以上です、まだあまり絞れていませんが、予測エリア内には中の都もありますね』

 

 「……それはまことか」

 

 もちろんです。

 ソシルミはそう言って、から、仲間たちを到着予想地点内のあちこちに送り出したい、クリリンとヤムチャにも伝えてくれと頼んできた。

 わしが、もちろんと答えてやると、ソシルミは安心するでもなく礼を言って、それから、もう一つだけ質問をしてきよった。

 

 『それであいつは、そっちには顔を出しましたか?』

 

 「おお、来たぞよ、じゃが、すぐに出ていったわい……やっぱり、恋しいんじゃろうなぁ」

 

 『でしょうね……これで肩の荷が降りた思いです、ではお元気で武天老師様、もし何かあればその時はよろしくお願いします』

 

 「年寄りを頼りにするでないわい」

 

 そう言い返してやると、ソシルミはいやらしく笑ってから、ひと声かけて無線を切った。

 ……振り返ると、そこにはもう皆がいて、わしとソシルミの話の内容も既に分かっているようじゃ。

 

 「なんじゃ、盗み聞きしとったのか」

 

 「そんな人聞きの悪いこと言わないでくださいよ、……中の都ですか」

 

 クリリンの言葉にうなずいてやると、皆は神妙な顔になって、クリリンとヤムチャを見た。

 戦うのはこの二人だけ、わしは留守番じゃ。

 

 「ほ、本当に来るのね……」

 

 「オレは行かねえかんな!!」

 

 「ウーロンが行ってもジャマになるだけだよ、頑張ってくださいね、ヤムチャさま!!」

 

 「お……おう! やってやるぜ!!」

 

 「おふたりとも、頑張ってくださいね」

 

 ……皆やる気に満ちあふれておる。

 強い相手を前にしても楽しみを忘れんのは、誰の影響やら。

 

 「悟空とソシルミに強くなったオレたちを見せてやります!」

 

 「ピッコロの時は病院だったからな……オレも今度こそ!!」

 

 「気合を入れるのはええが、功をあせるでない、ソシルミがああも怯える相手じゃ、二人とも、油断せずにかかるんじゃぞ」

 

 「「はいっ!!!」」

 

 「それと……」

 

 「「?」」

 

 「あの鶴の弟子にはぜーーったい負けるでないぞ!! ええな!!!」

 

 クリリンとヤムチャ、それに皆が一斉にずっこけた。

 ま、あんまり真面目になりすぎるのもよくないからの。

 

 

 【残り3:35】

 

 

 「わかった、直ぐに出る」

 

 『ああ、頼んだぞ、天津飯』

 

 虫のようなヘリコプターのような機械がフラフラ飛んで、オレの前から去っていく。

 

 「天さん、あれ何?」

 

 「プリカのよこした通信用の機械だ、まったく、あいつら……通信機を忘れたからといって妙なものを遣わしやがって」

 

 チャオズは、ふーん、とだけ言ってそのまま飛んでいく機械を眺めている。

 いや、少しくらい通信の内容に興味を示したらどうなんだ?

 

 「……もう少しで中の都の辺りにサイヤ人が来るらしい、オレたちも出るぞ」

 

 「中の都に来るなら、人がいっぱい死ぬ」

 

 「そう決まったわけじゃないが、もしそうなったらソシルミのやつは嫌がるだろうな」

 

 「あいつ、なにか仕掛けたのか?」

 

 「それについてだが……厄介な、いや、面白いことになるかもしれん」

 

 やつの不可思議な知恵も、陰謀も、こうまで表に出されればいっそ清々しいものだ。

 そんな想いを込めて笑うと、チャオズもまた、わけもわからずに笑い出した。

 

 

 【残り3:16】

 

 

 「喜べソシルミ、国王陛下が落下予想エリアに戒厳を布告した、しかも、中の都の避難には警官隊と軍を出すらしい」

 

 「本当ですか師匠!!」

 

 「大分渋っていたようだがな、まあ、国王陛下の気持ちも分からんでもない」

 

 わたしの声とともに、ソシルミはガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。

 ソシルミは憂いが晴れた、とばかりに顔を明るくして、そのまま出支度を始めにかかる。

 随分騒がしくなってきたこの宇宙センターは、休むにしろ、待機するにしろ、あまり居心地はよくないからな。

 

 「しかし、大分影響力が伸びてきたとはいえ、よく国王がウチの言うことを聞いたものです」

 

 「はぁ……、ウチだからではない、おまえの予言だから聞いたのだ、ソシルミ」

 

 ソシルミはいかにも照れくさそうな感じで顔をしかめ、プリカはニヤニヤと笑いながらそんなソシルミの脇腹を肘でつついている。

 孫……じゃなかった、子供はまだか。

 

 「まったく、宇宙船の発見はわたしの成果だというのに……」

 

 「そう拗ねるなピラフ……ゴホン、ソシルミ、あいつはどうした? 武天老師さまの所に行くと言っていたが……」

 

 「もう挨拶して、今は天界に向かってますよ」

 

 「そうか、国王は今すぐ避難を開始すると言っているが、お前も急行するのか?」

 

 「いえ、先程、荒事に慣れた方々に連絡を済ませた所です、ひとまずはあの方々におまかせしようかと」

 

 「ほう……」

 

 わたしがわざとらしく首を捻ってみせると、ソシルミはさあ当ててみろとばかりに笑い、プリカはそんなソシルミをジロっと睨む。

 全く愉快な、いつもの光景だ。

 

 

 【残り3:12】

 

 

 「兄者、すぐに出るぞ」

 

 執務室の兄者は、片方だけ小さく眉を潜めて椅子から立ち上がった。

 おっくう……じゃないな、これから始まる依頼に真剣なのだろう。

 

 「まさか兄者が、それも自らこんな依頼を受けるとはな」

 

 「ふん」

 

 「あの世で師匠に会ったとは聞いていたが、まさかここまで……」

 

 「やかましいわい桃白白! さっさと準備せんか!」

 

 中の都は、舞空術にもジェット機にもちと遠い。

 わたしは兄者を柱の発着場に案内しつつ、事前にやつがよこした依頼書を読みきかせることにした。

 

 「要約するぞ、『サイヤ人宇宙船落下予想地域より住民を避難させよ、具体的な仕事を行う場所は追って指示する、殺害を除き手段を問わない、ただし、公権力が動いている場合は、なるべくそれに従え……by、神』……今回は、中の都ということになるな」

 

 「何がbyじゃ、もっと真面目にせえ」

 

 「神の依頼というのについてはノータッチか、確か兄者も……」

 

 「……今回のことはソシルミの差し金、何が起こってもおかしくはないわい」

 

 兄者はぷいっとそっぽを向いた。

 機嫌がよくない……違うな、こっ恥ずかしいのだろう。

 

 「まさかやつも、殺し屋にこんな依頼を飛ばしてくるとはな」

 

 「戦い以外のことでも、亀と弟子連中に負けるわけにはいかん! たっぷり戦果を上げてあの餓鬼と神から報酬をふんだくってやるぞ! いいな、桃白白!!」

 

 ……殺しとメンツにしか興味のなかった兄者が、まさかここまで変わるとはな。

 どれもこれも、始まりはあの餓鬼、ソシルミだ。

 さて、サイヤ人とやらを相手に、お前は何をしでかしてくれるのだ?

 

 

 【残り3:00】

 

 

 タンドール王国の空は清々しく晴れており、その向こうには宇宙空間の黒が滲んでいる。

 俺とプリカが今まさに飛び立ったその大空の果てから響く、この地上を揺らさんばかりの濃密な気配が一つ。

 

 「悟空だ、プリカ」

 

 「……ああ」

 

 悟空があの世から帰ってきた。

 天界に感じられる気配は5つ、悟空、神様、ポポ、そして悟飯とチチ。

 事前の嘆願は受け入れられ、悟飯とチチは悟空の出迎えに天界を訪れていたのだ。

 

 「悟飯も強くなった、悟空も喜ぶだろう」

 

 「……少し寂しいな」

 

 「おいおい、自分から弱みを見せるとはお前らしく……」

 

 蹴られた。

 ……悟飯は結局、師匠と亀仙人に面倒を見てもらいつつ、俺達も時折教えてやる、という形に落ち着いた。

 悟空を向かえに行くまでに挨拶に行っていたのはそのお礼を言うためだ。

 だが、悟飯を鍛えたのは、戦力のためではない。

 

 「悟飯が戦士の道を選ぶにしても、選ばないにしても、この鍛錬はあいつのために必要だった」

 

 「ソシルミ、悟飯は戦闘に出さない……それでいいんだよな?」

 

 「……ああ、あいつを鍛えたのはあくまであいつ自身のためでもある、戦力として扱わないわけにはいかないが、あくまで伏兵……予備戦力だ」

 

 二つの星の血を継ぐ大天才、あいつの体は、あいつが望まなくとも宇宙規模の力を秘めている。

 俺達は一年かけて、ありうるかもしれない『元の歴史より遥かに強いサイヤ人』に対抗する戦力としてあいつを鍛え……それでいて、あいつを戦場に出すのは最後の手段だと定めた。

 だが、もしこの戦いをあいつ抜きで越えられて、あいつが自分の力を永遠に戦いに使わないとしても……。

 あいつは、あいつ自身を鍛え、その力に見合うだけの精神力と技を身につけなくてはならない。

 俺達の考えは結局そんな所に落ち着き、チチと悟飯自身も、それに同意したのだ。

 

 「生まれながらの宿命を乗り越えるためには、それを自ら選び、自らのものとするしかない」

 

 「……まるで、オレたちだな」

 

 そう言われれば、通じる所もあるのかもしれない。

 二度の人生を生きた人間としてではなく、前の人生の記憶を残して産まれた一人の人間としての俺達に……。

 俺が自分の人生観を見直そうかと思っていると、懐の通信機が甲高く鳴り響いた。

 発信者は……桃白白か。

 

 「もしもし」

 

 『ソシルミか、こちらだが……面倒なことになりそうだ』

 

 「面倒? 中の都では軍も動き始めているし、もしトラブルがあったにしても、貴方方に敵うレベルの人間は……」

 

 『下調べを怠ったな、聞いてみろ、今マイク感度を上げる』

 

 桃白白はそう言って黙り込み、俺は向こうからの音声に耳を傾けた。

 

 『――――ッコロ戦争十年祭は、終戦の――――キングキャッスルの足元から始まり――――半年かけ――――最後には――――パパイヤ――――』

 

 「……ま、まだ避難は始まってないのか?」

 

 横で聞いていたプリカが焦った声を上げる。

 その声は向こうのマイクとの間でキィンとハウリングし、桃白白はマイクの感度を下げた。

 

 『ああ、軍もそろそろ動き始めているが、会場のアナウンスがまだ生きてる有様では、順調とは言えんだろう』

 

 「ピッコロ大魔王の件の被害を悲しみ、人々が復活した奇跡を喜ぶ祭典が開かれると聞いてはいたが……まさか、よりにもよって今日この日から始まるとは」

 

 『フツーの人間に、獣っぽい奴ら、おお、魔族の類までおるぞ! ……まあ、ああもハデに不思議なことが起こったら、こうもなるか』

 

 桃白白ははしゃぎ気味に、ちょっと他人事のような様子で祭りの様子を実況してくれている。

 ……普段なら喜ぶか頭を抱える所だが、あいにくそれどころではない、中の都全住民に、しかも今は祭りの参加者たちの命がかかっているかもしれないのだ。

 

 「ど、どうするんだ!?」

 

 『どうもこうもあるまい、現状、わたしたちにできることは――――』

 

 桃白白……ではなく、通信機に設定された割り込み着信音が鳴り響き、俺は顔をしかめる。

 表示された発信者は……ピラフ大王だ。

 

 「すいません、一度あちらに対応します」

 

 『了解した、しばらくはここで静観する、何かあればかけ直せ』

 

 ……どうにも嫌な予感がしながら、俺は通信機のスイッチを押す。

 

 『お、おい! やっと出たか!! 聞こえているか!?』

 

 「ピラフ大王、よほど急を要する伝達のようだな」

 

 『ああそうだ!! ……サイヤ人の宇宙船が加速している!! 原因は分からんが……落下は予想より相当早いぞ!!』

 

 俺とプリカは一瞬息を飲み、先に口を開いたのは、俺だった。

 

 「なんだと!? それで、予想時刻は――――」

 

 『あと一時間足らず! 落下地点もわかった……中の都だ!!!!』

 

 

 【残り00:42】

 

 

 俺達は地表に影響のないギリギリの速度まで加速し、一路中の都へと向かう。

 避難の補助と万一の対処のために、仲間達には当初の落下予想エリア全体に向かってもらっていたが……それももう要らない、なるべく合流しつつ、中の都へ向かうように連絡した。

 多分、一番遅れるのは天界から出発した悟空と悟飯だろう。

 

 『――――城下からの避難誘導、未だ――――』

 

 『わからないんですか――――100万――――ただでさえ――――』

 

 『――――車で脱出しようとする市民が……ええ、降ろさせてはいますが……』

 

 特例措置として通信周波数を貰って傍受している王立防衛軍の回線からは、避難が難航しているという通信ばかりが流れてくる。

 例の祭りの影響で人が増えていることもあり、住民の避難は思うように進んでいないようだ。

 

 「……何よりまずいのは、奴らが来るのが中の都だってことだ、一年後にドラゴンボールを急いで集めても、中の都の犠牲者の多くは二度と復活できないッッ!!」

 

 対策はしてきた、重力室まで使って体を鍛え、互いに隠し事などせず全力で技を磨き、ヨガを極め、本来戦闘用でない特殊技能も高めてきた。

 それだけじゃない、ピラフと師匠に相談して宇宙センターも作ってもらったし、いくつかの『仕込み』もしてある。

 人事は尽くした、というやつだ……が。

 

 「オレたちが間に合わなきゃ、ナッパの指の動き一つで、中の都に住む全員と、鶴仙人と桃白白が……」

 

 プリカが、俺達の脳裏を支配する懸念を言葉にした。

 元の歴史でのサイヤ人は、地球に着陸して都市の喧騒を見た瞬間、指を腕ごとちょっと持ち上げるだけの技を使い……東の都を、まるごと完全に消し去ったのだ。

 それも、『あいさつ』などと言いながら、何の理由もなく……。

 

 「武道家に言うのは失礼だが、あの二人では絶対にサイヤ人には敵わない、事態も……止められないかもしれない」

 

 「急ぐぞ、ソシルミ」

 

 絶対に許してはならない、だが、俺達には祈ることしかできない。

 はやる気持ちを抑え、出せる範囲の全力で中の都へと飛んでいると、次々と仲間達の気配が集まってきた。

 

 「ソシルミ! プリカ! 無線は聞いたぞ、マズいことになったな……」

 

 「早く行かなくちゃ、中の都の人たちが殺されちまう」

 

 「クリリンッッ!! ヤムチャッッ!! 」

 

 俺達は再会の喜びを分かち合うよりも、焦燥感を共有する。

 事態に対応しやすいよう配慮していたのが、今度は仇になったのかもしれないと感じるが、どうすることもできない。

 ただ祈りながら飛ぶと、下で俺達を指差して驚く農家の人達が見えた。

 もし敗北すれば、彼等の命もまた、失われる。

 ……それから数分後に、天津飯とチャオズが合流した。

 

 「鶴仙人さま、桃白白さん……!!」

 

 やはり、師匠達に迫る危機に冷静ではいられないのだろう。

 二人は冷や汗を垂らし、必死の形相で飛んでいる。

 これには、鶴仙流に隔意のある亀仙流の二人も同情を見せた。

 

 「中の都の避難さえ済めば、住んでる人たちも無事で住むし、鶴仙人や桃白白だって逃げられるさ」

 

 ヤムチャがそう言った言葉に、俺達も望みを託すしかない。

 それから数十分後、ようやく悟空と悟飯がたどり着いた。

 

 「オッス! 久しぶりだな、皆!!」

 

 「悟空、相変わらずのんきだなあ……」

 

 元気な、しかし気の抜けるような挨拶に、一瞬で空気が緩む。

 その一方で、俺は二人が並ぶ姿に一瞬ドキリとするが、それを抑え込み、努めて冷静に振る舞う。

 プリカはより葛藤が強いらしく、実際ほんの僅かに飛行姿勢が揺らいだ。

 手でも握ってやろうか? と、皆には分からない程度にジェスチャーをするが、要らないと、またジェスチャーで帰ってきた。

 心配だが、辛くなったら自分からそう言ってくれるだろう、言ってくれないならしっかり見ておくだけだ。

 

 「ソシルミ、プリカ、悟空にクリリンにヤムチャ、そしてオレたち……一堂に会するのは第22回天下一武道会の時以来か」

 

 「オッス! へへ、このままオラたちだけでやりてえくらいだ、皆鍛え込んできたなぁ、見たら分かるぜ、へへ……」

 

 「お前の伸び幅が一番だってのも見れば分かる」

 

 「なにを! ボクだって負けてないぞ!!」

 

 ちょっとした同窓会だ。

 さっきからだんまりの悟飯は、親父の友達に囲まれた子供と言った所……いや、そのまんまだな。

 俺とプリカが皆を制してやると、悟飯はおずおずと、しかし元気に挨拶を始めた。

 

 「こ、こんにちは! ボク、孫悟飯です! きょ……今日は、みなさんの戦いを拝見させていただきます!!」

 

 「妙に礼儀正しい小僧だ……ソシルミ、おまえが仕込んだのか?」

 

 「何故俺に振るんだ天津飯、座学と鍛錬には一枚噛んでいるが、余計なことはしてないぞ」

 

 「おまえがいつも面倒くさい言い回しばっかりするからだろ、でも今回ばっかりは関係ない、元からだ、チチは教育熱心だからな」

 

 チチと悟飯は一年の修行期間中も、ちょくちょく会っては親子の団欒を楽しんだり、教育を行ったりしていた。

 元の歴史におけるピッコロと悟飯の関係を否定する気はないが……やはり、子供と親は離れすぎるべきではない。

 

 「そうだそうだ、チチのやつ、悟飯の勉強が前より進んだって喜んでたぞ! 悟飯はバッチリ強くなったし、うかうかしてっと、オラもすぐ抜かされちまうかもなぁ……」

 

 「頭の方はもう抜かされてるんじゃないか?」

 

 「ひっでえなあクリリン! オラだって、チャパさんとこで武道を教えるからって、ちょっとは勉強したぞ!」

 

 悟飯は父が望むように強くなり、そして、母が望むように賢くなった。

 あの日、俺達の呼びかけに応えて修行に応じることを決めた悟飯……その選択は、幼子には酷すぎるものだったかもしれないが……。

 それによって愛する両親の望みに答え、今は同じ景色を眺めている。

 

 「なあ、プリカ」

 

 「……これでいい、だろ? オレはまだそこまで割り切れないけど、ああまでニコニコされちゃうとな」

 

 「ああ、後は俺達が努力するだけだ、あいつを戦場には――――」

 

 『――――こちら――――市民の一部がパニック状態に――――至急――――』

 

 「何ッッ!!?」

 

 音量を落としていた無線機から、剣呑な知らせが届く。

 まさか、この局面で!!

 

 

 【残り00:07】

 

 

 中の都の大通りを見れば、視界を埋め尽くすのは、歩道まで乗り上げたエアカーと、そこを縫うように動き回る人、人、人。

 その人々の耳を満たすのは、クラクションと叫び声、時折鳴り響く激突音だ。

 

 「くそぉ……一体何が起きてるんだ!!」

 

 「おまつり、楽しみにしてたのに……」

 

 避難者は大量の車両で詰まった道を通りあぐねて立ち往生。

 交通整理すべき警察官も車両に埋もれ、軍人すら立ち入れない有様だ。

 その大惨事を悲痛な瞳で見下ろすのは、この都の主、世界の国王だった。

 

 「国王陛下、時間がありません」

 

 「い、いや、まだだ、国民を……それも、わが城下の住民を見捨てて行くわけにはいかん!」

 

 「やつらはビームを使うと聞き及んでおります、せめてヘリにお乗りください、街からの脱出は……努力します、ですから……」

 

 国王の座す街の中心、再建が完了したキングキャッスル周辺のみはかろうじて人払いが済んだものの、街からの住民避難は遅々として進んでいない。

 

 「こ、こっちの道もふさがってやがる!!」

 

 「歩いて逃げろっておまわりさん言ってたけど、いつ車がすっ飛んでくるのかわかんねえのに降りられねえよ!」

 

 「せっかくピッコロ戦役を助かって退役したっちゅうのに……まさかこんなことになるとはなぁ」

 

 人口の多さ、祭りの規模、そしてパニック。

 あらゆる要素が、住民のスムースな避難を妨害していた。

 そんな大惨事の街を見下ろす老人がもうひとり……いや、二人。

 

 「兄者、これこそわたしたちに向いた仕事じゃないか?」

 

 「そうだのう桃白白、ようやく好みの仕事が来たわい」

 

 そう言って、兄弟はひょいと群衆へと飛び込んでゆく。

 彼等はこれまで状況を見守りつつも、舞空術を用いた怪我人の救助や車両の引き上げなどによって避難に貢献してきた。

 だが、彼等はあくまで武道家……それも、長らく闇の世界に浸り続けた武道家だ。

 

 「どけい!! 誰じゃ、騒いでおるのは!!!!」

 

 「ひぃっ!!?」

 

 パニックを起こした住民に割り入ってゆく鶴仙人が放つのは、しおれた老人の体から放たれたとは思えぬ濃密な殺気と怒号。

 泣く子も黙るとはまさにこのことか、声を直接聞いた住民達は即座に口を噤み、ゆっくりとその場を離れてゆく。

 

 「どどんっ! ……死にたくないならあっち行った方がいーよ?」

 

 「オレのバイクがぁっ!!!」

 

 精神的な厚みによって圧倒する鶴仙人から少し離れた場所で、桃白白がどどん波を乱射、次々と路上に放置されたバイクやエアカーを破壊してゆく。

 ……いや、破壊されたのは放置されたものだけではない、人が乗ったままのそれもまた、運転手を傷付けぬよう巧妙に破壊されているのだ。

 

 「あー、ボクちゃん、ちょっと車とかニガテなのよん、だから……ひょい!!」

 

 「ひぃぃぃ!!!」

 

 桃白白は渋滞が脱出の妨げになっていることを悟り、それらを破壊しながら。

 鶴仙人はあらゆることを意に介さず、ただひたすら市民を黙らせながら、パニックの中心へと向かっていく。

 そして二人は理解した、パニックの中心にあるもの、それは――――

 

 「はっはっは!! オレたちはそもそもあんな祭り大っきらいだったんだ!! 」

 

 「ソシルミのヤローの顔に直接ドロを塗ってやれなかったのは残念だが、行きがけの駄賃ってことで、楽しませてもらうぜ!!!」

 

 ――――そこに居たのは、二体の魔族だった。

 それも、ピッコロ大魔王の騒動で見られた魔族ではない、更に古くから各所で暴れていた魔族……ソシルミに言わせれば、『ルシフェルの所の奴ら』と言うであろう魔族が暴れていた。

 

 「むぅ……」

 

 「魔族が今更何をしておるか!! こやつら……」

 

 「兄者」

 

 「……わかっておるわい、殺せば余計騒ぎになる」

 

 民衆をかき分けるように歩いていた二人が、突如、姿を消す。

 次に出現したのは、暴れる魔族達のちょうど真後ろだ。

 

 「武道家め、出やがった――――ぐ!! が……は」

 

 「こ、これでも喰ら、ご!! ぶげ……」

 

 そして、魔族達は次の瞬間には既に意識を失い、ゆっくりと地面に倒れ伏した。

 熟練の武道家であるか、ハイスピードカメラを搭載したサイボーグであれば、二人が魔族に対し、それぞれ二回ずつ、鋭い攻撃を叩き込んだのが見えただろう。

 鶴仙人と桃白白は魔族たちを見下ろし、目を見合わせた。

 

 (一撃で倒せんとは……、妙に強いぞ、こやつら)

 

 (ああ、しかもこの状況で『ひと暴れ』とは、辻褄が……)

 

 だが、魔族の異常な行動への思考を巡らせるのは、そこまでだった。

 

 「――――兄者!!!」

 

 「き、来おった!!!」

 

 そして、兄は空を見上げ、弟もそれに続いた。

 

 「間に合わなかったか……!!」

 

 鶴仙人は眉を強くしかめ、音より早く迫りくる流星を見る。

 

 「サイヤ人、なんと厳しい気よ……」

 

 流星から溢れる気配、宇宙においては戦闘力と呼ばれる生命エネルギーが放つそれは、見上げる彼等の数十倍。

 彼等が本来悪に生きることを誓った身でなければ、『禍々しい』と形容したであろう濃密なる悪意が、中の都を突き刺す。

 

 「な、なんじゃあれは……!!」

 

 「国王様!! もう限界です! 離陸しましょう!!!」

 

 大魔王よりもおぞましく、神よりも強い者共を載せた丸形宇宙船は一直線に都へと飛来。

 そして……キングキャッスルの足元、かろうじて避難の済んだ広場へと――――

 

 

 【残り00:00】

 

 

 ――――轟音とともに落下した。

 

 土煙の中から溢れる禍々しい気配と、うっすら見える奇妙な人工物を前に、その場に居るもの全ての視線が釘付けとなる。

 

 落下の衝撃が作った二つの小さめのクレーターは、大げさな落下とは異なる印象を与え……だが、それに安堵する暇もも与えぬとばかりに、落下物からは不気味に機械音が響く。

 機械音の正体、それは球体状の人工物は備え付けられたハッチが開く音。

 開いたハッチから、それぞれ大小一つずつの人型が、のそりと身をかがめて歩み出た。

 

 「――――地球――――いい感じじゃ――――どうする――――」

 

 「ラディッツのやろ――――しかしこうも――――まあいいか、ちょっと――――」

 

 和やかに、しかし邪悪で攻撃的な気配を隠そうともせず談笑する二体存在、宇宙人。

 彼等の真の脅威を察することが出来たのは、この場ではたったの二人だけ。

 瞬き一つ出来ぬままに宇宙人を見つめる二人は、武道家としての感覚で、宇宙人のうち大柄の一体がこれから行う、()()()()()()()()を察知することができた。

 ほんの僅かな……右手の指を腕ごと軽く持ち上げるだけの、その動きを察知した鶴仙人は――――。

 

 「太陽拳!!!!!」

 

 「あいさつで――――もぉっ!!!?」

 

 鶴仙人は、その動きを前に最後の隠し玉……相手の動きを実力差と無関係に封殺する、新旧鶴仙流最強の切り札を、あっけなく使い捨てた。

 

 「な、なんだっ……光の……、目つぶし兵器か!?」

 

 「くっ……落ち着けナッパ!! うかつに動けば敵の思うつぼだっ!」

 

 だが、今まさにこの地へと必死で飛行を続けるソシルミとプリカならば断ずるだろう。

 その判断は間違いなく、英断であったと。

 鶴仙人の判断は、中の都がナッパの暴挙によって灰燼と化すことを防ぎ、鶴仙人自身の命をも守ったのだと。

 ……しかし、彼等にとって本当の恐怖は、そこからだった。

 

 「兄者、もう回復しそうだぞ!」

 

 「目まで強いとは、なんという……」

 

 「ナッパのやつはまともに喰らいやがったが、オレはそうはいかん……発想力だけはあるようだな、地球人というやつは」

 

 悶える大男を捨て置いて、小男が二人ににじり寄る。

 かつて彼等を欺き、それでいて守ろうとしたあの男が、あの男に呆れ顔で寄り添い続けたあの女が、心底恐れた存在はあれなのだと、鶴仙人と桃白白は理解した。

 莫大な気は彼等の魂魄を押し潰し、鍛え上げたはずの心身は怖じ気に震える。

 だが、彼等の背後には救うと誓った民がいて……その地にはもうすぐ、彼等の弟子と、そのライバル達がわんさとやってくるのだ。

 

 「……桃白白」

 

 「おう」

 

 二人は逃げるのではなく、前に出た。

 その直後、激しく、それぞれ別の方向にあるビルに激突することになった。

 

 「ご……」

 

 「ぐっ……!」

 

 「む? 見た目よりは頑丈のようだな」

 

 小男……サイヤ人『ベジータ』は左耳から同じく左目にかけて装着した装置、スカウターの表示を見る。

 そして、二人がめり込んだビルに向け、ぞんざいにエネルギー弾を叩き込んだ。

 

 「「気功砲!!!!」」

 

 「なっ……!!」

 

 あらゆる意味で枯れた喉から絞り出した声が、同時に響く。

 その生命の全てを叩き込むというほどの必殺技である気功砲、最高の技を、またしても使い捨てる暴挙。

 だが、その狙いは自らを狙うエネルギー弾ではなく――――

 

 「――――なっ……こいつら、スカウターを!!」

 

 「ぐおおっ!! ベ、ベジータ! 何が起きてる!!?」

 

 崩れ落ちてゆくビルに取り残され、力なく落下してゆく二人。

 本来の歴史ではサイヤ人が自ら放棄したスカウターだが、この歴史ではそのきっかけはない。

 意図せず取った、武道家としての観察眼とカンによる行動は、まさしく二度目の英断であり……。

 

 「ゴミのくせによくもやってくれたな……」

 

 「ベジータ! オ、オレにやらせてくれ! このままじゃ収まんねえっ!!!」

 

 「……フン、好きにしろ」

 

 サイヤ人の大男、『ナッパ』は遥か格下に一瞬でも戦闘不能に追い込まれた屈辱を晴らそうとエネルギーを溜め込む。

 そして、大ぶりなエネルギー弾を二つ作り上げた。

 

 「死ねっ!!!」

 

 この地球でかつて解き放たれたことのない絶対的なエネルギーの塊。

 それが、せいぜい一般的な地球人の100倍程度のパワーしかない老人二人に向けて突き進む。

 だがそれでも、当の二人は笑っていた、それはこの危機的状況を切り抜ける技があるからではない。

 ましてや、弟子達や小憎たらしい同盟者が後始末をするからという希望ゆえなどでは断じてない。

 それぞれ、一人の悪を志した武道家として、敵に負けぬため、怖じ気に負けぬために笑ったのだ。

 

 「く、くくく……」

 

 「ははは、気ばかり膨れあがりおって、ケダモノめ」

 

 声を張るだけの体力すらもなく、それでも二人は立ち上がるため、瓦礫に足を、手をかけようとする。

 だが、その両手は気を握ることすらなくただ空をさまよい――――

 

 「つああっ!!!」

 

 「()ッッッッ!!!!」

 

 二筋の光が、戦場を貫いた。

 一つは細い筋のような光。

 もう一つは、太く、しかし滑らかな大ぶりの光。

 二つの光が大玉を切り裂き、跡形もなく霧散させたのだ。

 

 「なにっ!!?」

 

 「鶴仙人様、桃白白様、ご無事で」

 

 「ど、どこが無事じゃ……さんざん遅れおって……」

 

 地面に降り立った光、輝きが振り向いて、中の都の人々を守った英雄の名を呼び……続けて小さく、友の名を呼ぶ。

 

 「無事ということにしておきましょう、――――ピッコロ、ありがとう」

 

 「礼などいらん、……武泰斗の弟子などどうでもいいが、こいつらにくれてやるのはシャクだからな」

 

 続けて空の後ろからやってくるのは、山吹色の道着が三。

 

 「あれが、オラとプリカの仲間……」

 

 「……悟空、あんな気の連中がおまえの仲間なわけないぞ!」

 

 「クリリンの言う通りだ!」

 

 緑と黄の道着がニ。

 

 「仙豆だ、天津飯、チャオズ! 鶴仙人様達の介抱をッッ!」

 

 「分かっている、くっ……まさかお二人がこんなになってまで……!!」

 

 「い、急がなきゃ!!」

 

 そして、臙脂色のジャージが一。

 

 「……クリリンはあんなこと言ってるけど、見れば分かる、あれは、オレの仲間だ」

 

 「それじゃあ、案外楽しく付き合えるのかもな」

 

 ジャージの女は、ぎゅっと手を握りしめ。

 偏袒右肩の男の手が、それを覆った。

 

→つづく




お久しぶりです、桐山です。


ということで、ついに始まりました、ベジータ編。

兄を殺し、連れ合いを裏切ったプリカ。
その裏切りの原因を自分に求め、戻ってきてくれと呼びかけたソシルミ。
二人の思いが重なった先に彼らを迎えたのは、更に続いてゆく脅威と、自ら選ばねばならないいくつもの分かれ道。
そして、築き上げてきたこの世界との絆でした。
二人はついに、本格的な『宇宙の戦い』へと挑むことになるでしょう。

次回もお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。