転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第四十話:転生地球人が侵略サイヤ人と戦うまで

 情を残すように強くプリカの手を握って、それから離す。

 そのまま両腕を広げた俺の目的は、サイヤ人との、停戦だ。

 

 「……不幸にも遭遇戦が発生してしまったが、我々は未だ……」

 

 「はーっはっはっは!!! この様子じゃ、やっぱりラディッツはやられたらしいな、間抜けなやつめ!!」

 

 高らかに笑って構えるナッパ――――呼びかけ中止!

 次の瞬間には、アスファルトを蹴り抉りながら飛び出してくるナッパ、突き出た拳。

 力いっぱいの、しかし、鋭さに欠ける甘い攻撃だ、おそらく当人も必殺を狙ってはいまい。

 ならば……。

 

 「シッッッ!!!」

 

 「はっはっ…………む!!?」

 

 俺は輝きを纏わぬまま、満身の力を込めた拳を、ナッパの一撃へと合わせる!

 衝撃波となったエネルギーが周囲の大気を揺さぶり、同心円状に土埃を巻き上げてゆく中、一瞬だけ時間が止まり、俺の笑みとナッパの驚愕が交差した。

 ……それはあくまで一瞬のことだ、ナッパは次の瞬間には激突の反動を利用して元の位置にまで戻り、いらついた顔を浮かべている。

 

 「な、なんて威力だ……ソシルミもあのサイヤ人も、まるで本気じゃないぞ……!!」

 

 「ええヤムチャさん、オレたちももっと鍛え込むべきだったかもしれません……!」

 

 俺とナッパの激突の威力を前に、仲間達はこの戦いのレベルを悟ってざわつく。

 当事者である俺自身の意識は、ナッパの膂力よりも、停戦の要求すら許されない、サイヤ人の攻撃性の高さに向けられていた。

 まさかしょっぱなから通るとは思っていなかったが、言うことすら出来ないか。

 

 「あ……あのやろう!! おいベジータ! もうやっちまっていいよな!!」

 

 「待てナッパ、どうせスカウターもないんだ、ちょっとは品定めを楽しむのも悪くないだろう……、なあ、そこの地球人」

 

 「俺か」

 

 ベジータを含め、この場全員の視線が俺に集中する。

 

 「そうだ、きさまがラディッツの言っていたプリカの夫だな、なるほど、きさまはこの星における有事の司令官……いや、まとめ役といったところか」

 

 「おいベジータ、なんで分かるんだ?」

 

 「さっききさまがやつに殴りかかったとき、プリカのやつも、回りの連中も、驚きはしてもかばいには出なかった……実力を認められたリーダー格でなければこうはいかん」

 

 なるほど、これが戦闘民族サイヤ人の王子か。

 技や戦闘全般における眼力には、まさしく目を見張るものがある。

 一方、俺とプリカ、悟空以外の皆はナッパが振るったパワーにこそ、脅威を感じているようだ。

 その恐れを感じ取ったナッパは、わざとその膂力をひけらかすようにして首ごと視線を動かし、皆を脅かしている。

 

 「へっへっへ……どいつから頂いちまおうかな……!」

 

 「滅んだ種族が今更何を食べる気だ、死体に餌なんていらない、地球にあるものは何もやらないぞ」

 

 驚くほどに攻撃的な言葉を並べ立てながら、プリカがゆっくりと前に出た。

 その纏う気配までもが、普段は絶対に感じさせない、怒りと拒絶に満ち溢れている。

 事前の話し合いでは、停戦に同意していたプリカだが……今は、サイヤ人への怒りでいっぱいだった。

 だが、同胞からの明確な拒絶を前にしてもサイヤ人の闘気は揺るがず、闘気に乗った互いの戦意が戦場を包む。

 ……それは戦士のみならず、周囲の民衆や軍人までにも影響を及ぼしている。

 

 「な、なんか止まってるし! 今のうちに逃げようぜ!!」

 

 「もしかしてあの浮いてるのって天下一武道会に出てきたマジュニアじゃ……」

 

 「孫悟空選手、ソシルミ選手……そうそうたる顔ぶれだ、この戦い、ぼくらの武器じゃ一矢報いることもできないだろうな……! クソ!! 一体何のために鍛えてきたってんだ!!」

 

 「市民を逃がすんだ! せっかく体力はあるんだ、ご老人をおぶっていくくらいはできる!!」

 

 ほんの数百メートル先には避難を急いでいる市民達の姿。

 俺達の後ろでは、そんな人々を守った二人の漢が、その弟子たちに看護されつつ、戦場を離れつつあった。

 (サイヤ人に情報を渡さぬため、仙豆使用を謹んでくれているのだ、ありがたい)

 

 「鶴仙人のじいちゃん、大丈夫かな……」

 

 「大丈夫さ悟空、なんたってあの二人がついてるんだ、後はオレたちがサイヤ人を通さなきゃいいだけだぜ」

 

 亀仙流の戦士たちは、鶴仙人とその弟の無事を願っている。

 ……尊敬しているのだろう。

 

 (プリカ、大丈夫か?)

 

 俺は声に出さず、テレパシーでプリカに呼びかける。

 ……プリカが漲らせている闘志と攻撃的な言葉は、内心の怯えから来るものだ。

 怯えと言っても、サイヤ人の戦力に怯えているのではない、プリカが怯えているのはおそらく……自らが背負った産まれ、今なお自分の心の奥底に住み着く『大猿』。

 そして、自分の手で犯した、その産まれに関わる大きな罪だ。

 

 (…………ソシルミ)

 

 プリカが心で答える、俺をただ呼んでいるだけにも聞こえる心の声。

 だが違う、これは……。

 

 「プリカ、やるなら一緒だ」

 

 「ん」

 

 俺は一歩前進し、プリカに並び立つ。

 そして、プリカが俺を感じられるよう、強めに気配を放った。

 

 「へっ、ダンナと一緒じゃないと戦えねえってか、それじゃあやっぱり、おまえが相手をしてくれるのか? えーっと……」

 

 「ソシルミだ、俺は一向に構わん」

 

 「そうか、ソシルミ!! まさかさっきのが本気だと思ってるわけじゃねえだろうな!!!」

 

 「いーや、全然」

 

 凄むナッパだが、正直言って一切脅威を感じない。

 保有エネルギー量、技術力、身体強度、ナッパが持っているあらゆる要素を加味しても、この俺を正面から打倒することは不可能だ。

 スカウターが手元にない以上、これは推測とカンでしかないのだが……サイヤ人二人の戦闘力はおそらく元の歴史と何一つ変わってはいないのだろう。

 であるならば、より強化された地球人と、蛇の道をより早く駆け抜けより長く界王星で鍛えた悟空、更に俺とプリカを加えた地球の戦力で勝てない道理はないのだ。

 ……もっとも、戦闘民族サイヤ人はそれでも侮りがたい特徴を秘めているし、俺やプリカ、ピッコロでも、タイマンでベジータとやりあえば、良くて苦戦を強いる、悪ければ手こずらせる程度で終わるだろう。

 始まる前から決めつけられる戦力比ではないが、だからこそ、戦いは避けたい。

 

 「ベジータ、ナッパ、お前たちは――――」

 

 「ゴタクはそこまでだ、ナッパ!! こいつとプリカはオレがやる! 確か潜在能力が高いのはプリカの方だったからな!!!」

 

 叫びとともにベジータが構え……これは、来るか!!

 

 「オレが地球人どもとカカロットか……ちっ、はずれを押し付けやがって!」

 

 「カカロットってオラだっけ……」

 

 「お笑いだぜ、よわむしラディッツの弟はてめえの名前も分からねえとはなっ!!!」

 

 とぼけた会話を始めるナッパと悟空。

 そして、ベジータはついに俺達への攻撃を開始した。

 ベジータの拳と、俺の輝く手が交差する!!

 

 「ツァッ!!! ムォッッ!」

 

 「戦闘力を手に固めて戦うのか、使えそうな技じゃないか、だが、所詮はザコの涙ぐましい努力ってとこだな!!」

 

 やはり俺を押しつぶさんとするサイヤ人のパワー、強度。

 だが、小技に走れば戦闘センスに潰されるだろう、俺に出来るのはむしろ、技術力を正面戦闘能力の確保に回すこと!

 しかし、それよりも前にやらなくてはならない事がある。

 

 「二人とも、ラディッツのことは不幸な行き違いだった、俺も義兄を失ったのには思う所がある!!」

 

 「あんなやつのことはどうでもいい!!」

 

 「そ、そうだぜっ!! サイヤ人にザコも弱虫もいらねえんだ!!」

 

 「……っ」

 

 俺とベジータの会話、そしてナッパの反応を前に、プリカは、びくんと気配を揺るがせた。

 前世から小物と知っているとしても、実の兄にして自らの罪の象徴、それをどうでもいいと同胞に言われたなら……。

 俺もかつては、助けるのは難しく、意味も薄い、しょうもない小悪党としてラディッツを見ていたが、今では違う。

 一年前の、プリカを慰めるのための言葉ではなく、自分自身の心で考えれば、ラディッツですら死んでほしくはなかったのだ。

 ベジータは本気でラディッツは要らないと思っている、サイヤ人の誇りは馴れ合いではないのだろう。

 

 「……到着後の遭遇戦も詫びよう、僅かな生き残りのサイヤ人が相争うことはない、今からでも停戦するべきだ!!」

 

 「サイヤ人というならば戦ってみろ!! 詫びたいというなら、やつの言っていたドラゴンボールとやらをよこすんだな!!」

 

 仲間のうち数人の目が、一瞬、俺とプリカに向かう。

 『教えてしまったのか』あるいは、『教えたはずないよな』という目だ。

 だが、その僅かな視線は、ベジータにとって十分なものだったらしい。

 

 「はっはっはっは!! やはりあるようだな、ドラゴンボールとやらは!!!」

 

 「だったとして、貴様らには情報も実物もやれんッッッ!!!」

 

 「やっと本気で戦う気になったか、そうでなくてはなっ!!!」

 

 俺の敵意を喜ぶように、ベジータが飛び出す、俺へと飛び込む!!

 

 ベジータ!!!

 かつて破壊された惑星ベジータの名を持つ者にして、同星を根城としていた種族、サイヤ人の王子!

 戦闘民族と呼ばれ、圧倒的なパワーを中心として戦闘に適した能力の数々を身に着けたサイヤ人にあって、その特性をもっとも色濃く受け継ぐ戦士!

 おおらかなこの世界において特異的な程の強い誇り、それと表裏一体のナイーブな精神は作品としてのドラゴンボールを精神面で支える存在であった。

 しかし、今俺の目の前に立っているのは、後年の地球風の考えに染まり良き父となる前の、悪しき侵略者としてのベジータ王子に他ならない。

 その残虐性、戦闘センス、保有するエネルギーと肉体強度はどれをとっても一級品、もしこの地球の敵でなかったとしても有害で排除するべき存在であるはずのそれに……俺は喝采を送らずにはいられない!!

 素晴らしい、一つの種族の到達点!

 戦闘民族サイヤ人の王子ベジータは、今、一切の甘さもなく俺の目の前に居るのだ!!!

 

 この間、ゼロ秒。

 俺はベジータの突撃を潰すように、気力大移動による地面を介さないワンインチパンチを行って迎撃。

 ベジータはほぼノーダメージのままその激突に満足し、仕切り直しのため飛び退き、瓦礫の上に着地する……思考は、その流れの最中に行われたのである。

 戦闘の楽しみに情報の楽しみを重ねることはあっても犠牲にすることなどありえない、最早、俺の興奮は内心だけで楽しまれ、誰にも気取られることはないのだ。

 

 「……おまえなあ」

 

 訂正、一人を除いて。 

 後ろで呆れるプリカの声色は、先程の暗さを残しつつも穏やかなもので……。

 俺のしょうもなさを思い出して復調してくれるなら、いくらでも呆れて欲しい。

 

 「やはり、戦うしかないか……ッッッ!!」

 

 「そのつもりで戦力を集めていたんだろう? きさまも戦うのは好きそうに見えるぜ!!」

 

 その通り、大好きだ……ワクワクする。

 

 「そうだなベジータッッッ……陳腐な表現だが、拳で語らせてもらうぞ!!!」

 

 「楽しませてもらおうじゃないか!!!」

 

 ……この戦闘の第一目標は戦士含めた地球の住民の保護、そして、第二目標はサイヤ人二人を生かした状態での終戦、停戦だ。

 残念ながら、俺だけの力じゃベジータは倒せない。

 だが、プリカと合わせれば互角以上、皆となら撃退出来るだろう。

 誇り高いベジータを負かして、言うことを聞かせるなんてことは無理かも知れないが……対等の相手と思ってもらえれば、和解の可能性もある()()()()()()

 

 「ああ……楽しもう!!!」

 

 失礼ながら、今回、俺は欲張らせてもらう。

 かつて愛した世界の住民を。

 今愛している人の同族を。

 強力な才能を秘めた武道家を。

 俺は殺したくない、その意思に従う……欲張るためにこそ、俺は本来のプライドと違う行いもするのだ。

 

 「…………!!」

 

 俺の叫びに呼応するように、プリカは静かにその気の色を戦闘向けに変えた。

 俺もまた、気合のレベルを上げる。

 

 「ツエァァッッッッッ!!!」

 

 「どうやら全力を……いや、戦闘力を上げる種族か! スカウターがあれば騙されていたかもしれん!」

 

 互いのラッシュが交差し、舞空術とステップを併用した位置取り争いは限りなく続いてゆく。

 パワー、スピード、頑強性、スタミナ……テクニックとバランス、反射神経以外の全ての項目でベジータが優越している。

 

 「苦しそうじゃないかソシルミ、だがまさか、地球人ごときがここまで食い下がるとはな!!」

 

 「鍛え込んだからなッッッ!!!」

 

 重力室に加え、これまで謹んできた様々な鍛錬装置を作り、戦闘に備えてきた。

 極超音速の弾体を弾く鍛錬、超精密検査装置を利用したバランス修練、複数の極限環境を再現出来る装置を利用したヨガの荒行……。

 それらの効果は自分でも眼を見張るほどだ、特に重要なのは……筋力とエネルギー量。

 技量を高めることによってこそ戦いを堪能し、パワーを上げることは慎む、そんなやり方を志向してきた俺だが、鍛えたことによって見える世界も、確かにあったのだ。

 しかし、それをもってなお、俺とベジータの間には相当な力の差が横たわっている。

 

 「トレーニングか!! 確かに、こんな田舎星じゃあまともに戦いで強くもなれんだろう!!」

 

 「仲間と切磋琢磨し、師を仰いで暮らすのも楽しいものさッッ!!」

 

 仲間達……亀仙流の三人は今、ナッパを相手に優勢に立ち回っていた。

 クリリンとヤムチャによる見事な連携と、悟空のフォローはナッパの動きを封殺し、時折明確なダメージを与えてすらいる。

 悟空がフォローに徹し、一種静観とも言えるほどに手を出さないのは、敵を見極めるためだろうか、それとも……。

 

 「はいーっ!!!」

 

 「が……っつぅ……ちょ、ちょこまかしやがって!!」

 

 「へっ! サイヤ人ってのもどうやら大したことないらしいな!!」

 

 「言いやがる……ちょろちょろしたって一人じゃオレに潰されて終わりのくせによ!!!」

 

 ……ナッパが俺達共通の『痛い所』を突くが、これは戦いだ。

 全てを使って、望むものを勝ち取らせてもらう。

 

 「お仲間が気になるのかっ!!?」

 

 「お前はどうだ、ベジータ!!!」

 

 「ふん、サイヤ人にとっては勝者だけが仲間だ!」

 

 「オレも悟空もソシルミも!! そんなんじゃないぞ!!! ぐあ!!!!」

 

 プリカが叫び、俺とベジータの殴り合いにエネルギー弾で割り込む。

 さっきから、プリカは俺とベジータの戦いを援護という形で支えている、奇しくも兄弟である悟空と同じやり方だ。

 それは俺が内心でベジータとの戦いを望んでいることへの配慮なのか、それとも、まだ同族との戦いに動揺しているのか……。

 

 「くっ……プリカめ、そんなにダンナが心配なら、きさまが戦えばいいだろう」

 

 「…………」

 

 「だんまりか、まあいいっ!!!」

 

 ベジータは俺から距離を取り、上空に上がって構えを取る。

 見たこともない構えだ、しかし、構えを取ったベジータから滾るオーラ、あれは――――

 

 「さあ、きさまも戦闘力を扱うなら、これくらい耐えてみせろ!!」

 

 「ッッッ!!!」

 

 元の歴史でナッパを消し去ったビーム攻撃か!!

 回避……は不可能、ならば俺の手で防いでやるしかあるまい、しかし、ベジータが全力でないにしろ、保有エネルギー量は数倍、俺に出来るか――――

 ……プリカが、俺の肩を小さく叩いて、それから気を高めた。

 

 「お前がやる気か」

 

 にやり、と笑うプリカ、俺のマネだ。

 それだけで、俺にははっきりと分かる。

 プリカはこの戦いを楽しんでいる、楽しもうとしているのだ。

 戦いを楽しみ、愛する世界との体面を楽しみ、俺と並ぶことを楽しみ……自分の産まれと向き合おうとしている。

 ……気を高めたプリカは、両手を前にやり、それから、腰へと下げてゆく――――見慣れた技だった。

 

 「かぁ、めぇ……ぐぁ、ぎぇ…………」

 

 プリカの手に、よく知った青白いエネルギー塊が、よく知った音を伴って現れる。

 ベジータのエネルギーもまた、既に臨界まで高まっているが……俺に恐怖はなく、ただ待つこと以外をする気もなかった。

 

 「任せた」

 

 「がぁーっ!!!!」

 

 あまりにプリカらしい掛け声とともに、放たれるかめはめ波!!!

 だが、その閃光は間違いなく、本家家元、本式のかめはめ波……いや、超かめはめ波そのもの!

 

 「むっ!!?」

 

 「ぐぉあーっ!!!」

 

 放たれた二筋のエネルギービームは、互いの中間点にて一瞬の均衡の後爆発。

 その爆風は戦場を包みこみ、中の都全体を煽ってゆく!

 

 「かめはめ波、習ったのか」

 

 「……ああ」

 

 「しかし、逆にどうしてこれまで習わな……まさか、遠慮してたのか?」

 

 「遠慮しなくなった理由は、おまえが知ってるだろ、もうこれ以上言うな」

 

 土埃の中でも分かるほど顔を赤くして、プリカが睨む。

 俺は一陣の風が土埃を飛ばし切るまでそれを堪能した後、ベジータへと向き直った。

 

 「まさか、軽く放ったとはいえこのオレの技に対抗できるサイヤ人がいるとはな……!!」

 

 「強いだろう、プリカは」

 

 プリカはかつて自分が夢見た、そして俺が見せた、戦士達とともに鍛え、戦うというビジョンを我が物とすることで、さらなる力を得たのだ。

 そんな伝えようもない喜びを表現するように自慢してやると、ベジータはわずかに顔を歪めた、俺は別に挑発していないが……なんというか、なんだろう。

 

 「ベジータ、こいつは、こういうやつなんだ、許してやってくれ」

 

 「ふん、すぐ二人ともあの世に送ってやる」

 

 「それまでは楽しませて貰おう、ベジータ王子、戦闘民族の王子と戦闘を楽しめる機会など、そうはないからな」

 

 「ふざけやがって、王子を前にしてると思ってるなら、もっとそれらしい態度を取ることだな」

 

 「それは失礼、だが、お前との戦いは本当に楽しみなんだ」

 

 ベジータはちいさく鼻を鳴らし、こちらを睨んだまま僅かに態度を和らげる。

 そうとも、戦いを和解のための段階として置くならば、それはコミュニケーション。

 コミュニケーションならば、楽しむことこそが肝要なのだ。

 プリカは再び俺の隣に、前でも後ろでもなく、隣に立った。

 そして気を高め……俺とともに構える。

 

 「仲のよろしいことだ」

 

 「羨ましいか、地球人とサイヤ人は近い、この星で嫁を見つけてみるといい」

 

 「こいつとやりあえる嫁をか? ソシルミ、それは難しいぞ」

 

 俺達の軽口を叩き潰すように、突っ込んでくるベジータ!!

 俺は初撃に合わせ、全力の気力大移動を叩き込む!

 ベジータを止めるには足らない全力だが、初撃は防いだ、その拮抗に――――

 

 「スター・モーニング・マルチプル!!!」

 

 プリカの光弾二つが迫る!

 

 「なっ……!!」

 

 両側から迫る光弾を防ぐため、思わず両手を開いて防御するベジータ、だがその隙は。

 

 「八千拳(やちよ)ッッッッ!!!!」

 

 「新狼牙風風拳(ぎんごうぐぁぐぉぐぃぐげぁ)!!!!!」 

 

 二つのラッシュ技の起点となるに十分!!

 伊達に10年以上を共にしてはいない、俺達の呼吸は完璧以上に噛み合い、戦闘力で言えば遥か格上のベジータを完全に翻弄する。

 

 「ぐっ、ぬ……ぬぅ……ぐおおおお!!! 舐めるなよっ!!!!!」

 

 打撃を受け続けるベジータが突如体を丸める。

 球体は防御に優れた姿勢とはいえ、格下である俺達からの攻撃を一瞬防ぐ程度にしか使えないが……ベジータはその一瞬を利用し、体内のエネルギーを高めた!!

 

 「退避ッッ!!!」

 

 「お、おうっ!!」

 

 俺とプリカが思い思いの方角へ逃れた瞬間、莫大なエネルギーの奔流が空間を包み込む。

 格上相手は苦し紛れでもこのザマだ、しかもベジータは既にこの爆炎の中にはいない、既に回り込み――――

 

 「後ろかッッ!!」

 

 「もう遅いわっ!!!」

 

 超高速移動で背後から突撃してくるベジータに、俺はとっさの舞空術で回転、足による防御を行う。

 当然、ムリな防御で俺は死に体、プリカは一歩遠い。

 だが、そのプリカがひと味違うのだ。

 

 「どどん゛!!!」

 

 「む……くそっ!」

 

 出の早いどどん波がベジータの突撃を防ぐ。

 鶴仙流・新鶴仙流の技はどこまでも実践向けだ。

 (この歴史では見られなかった排球拳は別としておこう)

 そして、その使い手達はと言うと、二人の師匠格の介抱を終え、戦場へと復帰していた。

 

 「ど・どどん!!」

 

 幾筋ものどどん波を矢継ぎ早に放ち、ナッパの急所(ここで言う急所は生殖器のことではなく人体の弱点全般を指す)を狙う天津飯。

 対するナッパはそれに反撃しようとするが、時々体の各所を抑えたり、目を拭ったりと様子がおかしい。

 

 「ぐぉっ…ああっ……!! ち、ちくしょう、なんだってんだ!!!」

 

 原因は言うまでもなく、チャオズである。

 チャオズの超能力はナッパの五感を撹乱し、更には念動力らしきものによって瓦礫や空気を弾丸として叩きつけ、動きを阻害していた。

 武道会の見えない技の正体はあれか……!!

 ……そして、俺がそれとなくあちらの戦いに気を払っていると、どうやらベジータも同じように向こうが気になったようで、一瞬、こちら側の戦いが停止した。

 

 「ナッパめ、手こずりやがって……!」

 

 「……ベジータ、このまま争い続けることに意味はない、戦いならば、後からでも試合として行える、むしろその方が互いにとって有意義だ」

 

 「まだ言うか、戦いをやめたいというなら、ドラゴンボールとやらをよこせと言っているだろう」

 

 「それはできない……いや、そもそもベジータ、お前はどこでドラゴンボールの話を聞いた?」

 

 戦いを行いながらも脳の片隅にあった疑問をぶつける。

 ベジータにドラゴンボールの存在を教えられる人間がいるとすればそれはラディッツだが、ラディッツもまた、ドラゴンボールの事を知らないはずだ。

 (プリカは間違いなく教えていないし、悟空が喋ったという情報もない)

 

 「……きさま何を言っている、ラディッツに決まっているだろう、あいつはドラゴンボールを使うために、オレたちを呼びつけたが、……来てみればこれだ」

 

 「なっ……!!?」

 

 「ッッッ!!!」

 

 プリカと俺が同時に驚き、更には恐怖した。

 俺はプリカと和解して、ベジータを呼び出したのがプリカではないと知ってからこれまで、ベジータを呼び出したのはラディッツによる何らかの、ドラゴンボールとは無関係の申し出であると考えていた。

 地球はいい星だとか、あるいは、プリカだけじゃなくその婚約者も仲間にするから向かえに来てくれ、とか……。

 だが、違う。

 ラディッツはドラゴンボールの存在を知り、ベジータに伝えた。

 ……どういうことだ、いや……そもそもおかしかったのだ、ラディッツはどう連絡する時間を捻出した?

 俺は意識を失い、プリカはそれどころではない中、確認出来なかったのは事実だが――――

 

 「――――ソシルミ、戻ってこい!!」

 

 「はッッッ!!!?」

 

 困惑と思考の海におぼれている間に、ベジータはエネルギーを高め、今まさにこちらに放とうとしていた。

 

 「まずきさまらを殺して、あっちのカスどもを締め上げてやるとしよう!!」

 

 ベジータが放った無名の莫大なエネルギー塊は、まっすぐ俺に向かってくる。

 先程の一撃に勝るとも劣らない威力、弾くには強く、消そうとすれば今度は余波が俺を襲うだろう。

 ……だが、俺は努めて静かに心身を整え、迫りくる技へと備えた。

 

 「………………」

 

 目すら閉じ、手足はぶら下げ……感覚だけでエネルギーを捉える。

 1秒にも満たない瞑想。

 その効果とは!!!

 

 「ヂェェッッッ!!!」

 

 気合とともに、淡く、しかし広く輝いた両手をエネルギーに突き込む。

 そして、その輝きをビームと同化させ……一気に捻じ曲げた!!

 

 「ズォワッッッ!!!」

 

 「何ぃ!!!?」

 

 捻じ曲げたエネルギーは、軌道をそのまま反対にしてベジータへと向かう。

 これぞ、輝く手による気功波防御の最新バージョン。

 技としての気功波を見抜き反転させる、天津飯やマジュニアの用いた技の、俺なりの形だ。

 

 「く、くそったれ……つおおおお!!!!」

 

 自身のエネルギー波に襲われたベジータは回避を試みるかと思われたが、雄叫びを上げて逆にエネルギー波に突っ込んでくる!!

 地球人に投げ返せたものを避けるようではサイヤ人の名がすたる、とでも言いたげなその行為に俺とプリカは一瞬息を飲んだ。

 

 「やってくれやがったな……!!」

 

 「流石、サイヤ人の王子」

 

 そして……エネルギー波を全て相殺して消し去ったベジータは、ところどころ焼け焦げた体と戦闘服で俺を睨んでいる。

 ……素晴らしい土俵際の粘りだ。

 

 「すまないベジータ王子、貴方との戦いの中で別のことに気を取られるなどとは」

 

 「ふん、いきなりかしこまりやがって、不気味なやつめ」

 

 苛立ちとともにそう吐き捨てるベジータだが、その顔には、例え弱小種族相手であっても、王子と呼ばれるのはやぶさかではない、そんな色がかすかに見えた。

 

 

 

 

 夕暮れの空をビームが駆ける。

 ゴーストタウンになりつつある中の都を戦士達の雄叫びが包む。

 俺の目の前で、血みどろのベジータが吠えた。

 

 「くそったれええ!!!!」

 

 同じく、遠くでナッパが吠える。

 

 「ぢ、ちくしょ……お!!」

 

 ……否、その声は既に疲弊しきり、咆哮と呼ぶには余りにも悲壮なものであった。

 だが、苦しいのは敵ばかりではない。

 

 「ソシルミ」

 

 「大丈夫だ」

 

 プリカは、エネルギーが失せ、代わりにダメージを溜め込んだ俺の体を見てしきりに心配そうにしている。

 事実、ヨガの呼吸と鍛え上げた精神力がなければすぐにでも苦痛に悶えてもおかしくはないダメージが、俺の体には蓄積していた。

 ベジータはそれとなく回りを見渡しながら、俺に毒づく。

 

 「ハァ……ハァ……きさまも随分苦しそうじゃないか、この分なら、余裕できさまにトドメをさせそうだぜ……!!」

 

 「俺がバテるのを期待してるならやめておけ、死ぬまで止まらんぞ」

 

 ……だが、いくらスタミナをヨガで補い、エネルギーを効率的に運用し、技術を使おうとも、サイヤ人と地球人の根本的な力の差はやはりいかんともし難いものがある

 俺は一年の間全力で鍛えたが、それでも、パワーの伸び率そのものはプリカの方が高いのだ。

 正直を言えば悔しいが、エネルギー以外の項目を合算しても、それは変わらないかもしれない。

 恐るべき戦闘民族、……ベジータ、そしてナッパが周囲を見回しているのも、サイヤ人の優越性がゆえだ。

 

 「お、おいベジータ、この星には確か……」

 

 「バカやろう、言うんじゃない!!!」

 

 二人が探しているのは月、サイヤ人の真価の一つである変身能力のキーとなる満月を探しているのだ。

 だが、見つかるわけはない。

 神のかけた術によって、月は存在を厳重に隠蔽されているのだ。

 (俺が死ぬ直前に発売されたゲームにそんな話があったはずだとあたりをつけて頼んだらドンピシャだった、悪魔の脳みそは記憶力も凄まじいのだろう)

 

 「……!! まさかオレたちを倒すためだけに月を消しやがったのか!!?」

 

 ベジータはようやく月の不在に気が付いて叫ぶ。

 考えもしなかった手段で打開策を奪われた二人は狼狽するが、ベジータの立ち直りは早かった。

 月に見切りをつけるや否や、こちらを睨みつけたまま満身に力を込める!

 

 「かあーっ!!  うおおあああお――――!!!!」

 

 放たれたのは、ベジータの代名詞の一つ、連続エネルギー弾!!

 突っ張りのような動きと共に放たれる大量のエネルギー弾の嵐は、一つ一つが技と呼ぶに相応しいもの!

 質と量を兼ね備えた連打は、同格以下を相手にするならばまさに必殺の攻撃、俺とプリカは対処に迫られ、一瞬動きが止まる。

 

 「シィィィィッッッ……ハッ!!?」

 

 「上か!!」

 

 俺達がエネルギー弾の処理を終えた時、ベジータは上空にて、エネルギーの塊を持っていた。

 見れば分かる、俺はあれを知っている!!

 

 「どうせ知っているだろうが教えてやろう! 限られたエリートサイヤ人は人工的な満月を作り出し、自ら変身することが出来るのだ!!!!」

 

 「悟空、プリカッッ!! あれを止めろ!!!!」

 

 俺の叫びに呼応した二人がベジータを止めにかかるが、その試みはエネルギーを高めたナッパがビームを乱射し始めたことによって強制的に中断された。

 避けるのは簡単なことだが、流れ弾が出れば未だ外縁部に残る避難民達が巻き添えを食ってしまう!

 だが、ここで大猿化を許してしまえば、さらなる被害が、いや、地球そのものが危うい!!

 

 「ハァ……ハァ……ふんっ!!!」

 

 俺達が必死でビームを防ぎきった頃には、ベジータは既に体力の多くをつぎ込んだエネルギー塊……パワーボールを完成させ、空に向けて投擲するところだった。

 今から防ぐことが出来るか、いや、そもそも二人でもあのエネルギーを止めるだけのパワーを蓄えるのは間に合わないだろう。

 

 「はじけて、まざ――――」

 

 「魔貫光殺砲!!!!!」

 

 掛け声と共に、一筋のビームがベジータに向け突入する。

 間一髪でそれを避けたベジータ、しかし、奇妙に捻じくれたそのビームはベジータが居た空間を越えて遥かに伸び……。

 

 「……な、なんてこった、ベジータのパワーボールが……!!」

 

 魔貫光殺砲はパワーボールを貫き、完全に霧散させた!

 俺は、今までずっとだんまりだった『仲間』を見上げ、声をかける。

 

 「ピッコロ、助かった」

 

 「ふん」

 

 ピッコロはおそらく、俺達が和解を狙っているのを知り、あえて戦闘に参加せず、互いの全力を出し合えるよう見守っていてくれたのだろう。

 だが今、看過し難い事態が起きたと察し、それを止めてくれた……。

 

 「またピッコロにデレデレしやがって」

 

 そんな言葉と裏腹に、プリカの気配は屈託なく俺の喜びに同調してくれている。

 ……一方、上空のベジータはわなわなと震え、歯を食いしばっていた。

 

 「わざわざ無関心を装って伏兵に徹するとはな……く、くそ……してやられたぜ……!!!」

 

 そのいらだちは自分への怒りだろうか。

 サイヤ人の王子は残ったエネルギーを、それでも地球人達を震えがらせるほどに燃やし、ただ浮かんでいる。

 だが、ナッパは違った。

 

 「ふざけるなよ!! 地球人にナメック星人ごときが!!! もう許さねえっ!!!」

 

 そう言いながら、ナッパは喉元にエネルギーをチャージする。

 宇宙では一般的な、口腔を薬室・砲口としたビーム技、それをナッパは――――戦士の居ない明後日の方向、避難中の市民たちのいる方角に向け放とうとしていた!!

 

 「や、やめろ-っ!!!」

 

 地球戦士が叫ぶが、ナッパは止まらない、目的は八つ当たりか、かばって受けるダメージを狙っているのか。

 どちらにしろ、防がなければ被害が出るだろう……俺は叫ぶ。

 

 「プリカッッッ!!!!」

 

 「ご、が、ががあああ…………」

 

 プリカも叫ぶ。

 今からナッパの技を止めるのは現実的ではない、ならば、放たれた後に処理するのみ。

 俺は『射線』を見計らい、プリカの前に立つ。

 

 「があ!!!!!」

 

 「――――ッッッッ!!!!」

 

 プリカのビームが俺を撃つのと同時に、ナッパの口からエネルギーの奔流が突き抜ける。

 そして、次の瞬間には、俺は全身に纏った輝きをナッパのエネルギーに叩きつけ、ビームを上空へと捻じ曲げて地球の外に投げ捨てていた。

 

 「なっ……!!!!?」

 

 ナッパは驚き、仲間は『鶴仙人達を助けた技か』と口々に言う。

 その通りだ、この技こそ、プリカのビームを俺のパワーとして流用することで放たれる合体技。

 まさか防御目的ばかりで二度も見せることになるとは思わなかったが……。

 

 「小技は通じん、正面から――――」

 

 「――――きさま!!! ナッパ!!!!!! 少し不利になったからって恥知らずな真似をしやがって!!!!!!」

 

 ほとんどカラの体力に限界を越えた怒気をたたえ、ベジータが睨み、叫ぶ!!

 ナッパばかりではなく、地球の戦士達までもが一瞬ビビるその迫力!

 

 「今度あんなマネをしやがったら、まずはきさまから殺してやるぞ!!!!」

 

 「す、すまねえベジータ……、ど……どうかしてたぜ、こんなカスども相手によ……」

 

 体をすくめたベジータは鼻を鳴らしてナッパを見下ろす。

 

 「あいつ結構いいとこあるじゃねえか、オラちょっと見直しちゃったぜ」

 

 「ああ……、戦闘民族って言ってたし、戦いにはプライドがあるんだろうな……」

 

 皆は、サイヤ人の王子が見せたその誇り高き態度に感心したらしく、静かに唸っている。

 ベジータはそれを一瞥し、それからまた俺を見て吐き捨てるように言った。

 

 「やけに嬉しそうじゃないか、ええ?」

 

 「俺はそんなに嬉しそうかい?」

 

 「ムカつく野郎だ、ニヤニヤしやがって」

 

 「連れ合いの出身部族の王子が高潔な人物だと分かったからな、それを喜ばないわけにはいかないさ」

 

 俺の答えを前に、ベジータは小さく眉をひそめる。

 

 「バカにしやがって、サイヤ人を舐めるなよ」

 

 「もう散々味わわせて貰った、貴様も、ナッパも、ここにいる二人もな」

 

 ベジータは小さく顔をそむけ……その気配に、怒りの色はなかった。

 ……闘争によるコミュニケーションを期したこの戦いは、成功しつつあるのかもしれない。

 リスクのある挑戦だが、このままやり遂げれば、あるいは。

 

 「ベジータ、俺達で切磋琢磨すれば、いずれ――――」

 

 「はっはっはっはっ!!! きさまの甘ったるいセリフも聞き飽きた、そろそろ終わりにさせてもらおう!!」

 

 「なにッ!?」

 

 「どういうわけかは分からんが、運はオレたちに味方したようだな!!!」

 

 突如不可解な言葉を吐き、ベジータは天高く上がってゆく!!

 嫌な予感を感じながらナッパの気配も探ると、奴も上空に上がりつつあった。

 見上げると、そこには――――

 

 「――――夕月ッッッ!!!?」

 

 まずい。

 一体何故。

 考えている場合ではない、止めなければ、月の破壊も視野に入れ………!!

 事態に気付いた俺とクリリン、ヤムチャが対処に当たろうとするが、ベジータ達が動き出す方が一瞬早かった。

 

 「ナッパ、オレに合わせろ」

 

 「お、おう!!!」

 

 二人はパワーを高め、それをそのまま真下……つまり、今までの戦場に叩きつける!

 

 「グッッッ……ヌゥ………!!!」

 

 「くっ……あ、あいつら一体何を……」

 

 何も知らない悟空が爆煙に煽られながら呟く。

 

 「あ、ああ……!!」

 

 「あいつらもなれるのかよ!!?」

 

 クリリンとヤムチャは何が起きたのかを完全に察し、驚愕の呻きと叫びを上げた。

 天津飯やチャオズは理解出来ていないが、それでも膨れ上がりつつあるエネルギーに事態をおぼろげながら理解し、わなないている。

 俺は……俺の喪失感と困惑は、この場の誰よりも強い。

 何故、この、やっと会話が成立しそうだった、このタイミングで。

 何故、月が現れた?

 流れ弾か?

 そんなはずはない、術を破壊しかねないレベルの流れ弾は常に警戒していたはずだ。

 ならば、まさか。

 ……不可解な通信、不可解な解除。

 同一の原因が、あるとするなら。

 

 「ソシルミっ!!!!」

 

 プリカの叫びが俺を再び呼び戻した時には、上空での変化は終わり、爆炎もまた、晴れていた。

 二つの大猿――――戦闘力は生身の10倍――――が、降ってくる!!

 一つは広場に、一つはキングキャッスルを薙ぎ壊しながら!!

 

 「はーっはっはっはっはっは!!!!!」

 

 「ぐははははは!!!!」

 

 間一髪キングキャッスルから逃げ出した一機のヘリ――――国王専用機だ、まさかまだ都に残っていたのか!!?――――に目もくれず、大猿二体は高笑いを上げる。

 ……先程まで優勢だった戦力比が、完全に向こうに傾いた。

 だがそれと同時に、いや、それ以上に……彼等にとって対等以上の脅威、目の前に立ちふさがる敵対者としてみなされつつあった俺達が、再び、弱小な原住民に成り下がったことを意味しているのだ!

 黒い戦闘服を着た大猿……ナッパの大猿が、高笑いの勢いをそのままに叫ぶ!

 

 「どうだカカロット!! これが大猿だ!! きさまの捨てたサイヤ人の本当の力だ!! プリカ、てめえはしっぽがまだあるんだろう? 変身してかかってこい!!!」

 

 「くっくっく、調子のいいやつめ……」

 

 呆れるような、同意したような様子でベジータがほくそ笑み、プリカは息をのむ。

 10年以上の時を経て再び目撃する、自分達の……『本性』の姿を前に、心を揺さぶられているのだ。

 ……そして俺の隣には今、同じく心を揺さぶられたサイヤ人がいた。

 

 「……満月の日には大猿の化け物が出るって、じいちゃんが言ってた、そのじいちゃんは、そいつに踏み潰されて死んじまった」

 

 「悟空」

 

 「ミソシル、おめえは最初っから全部知ってたんだよな」

 

 悟空の問いかけに責めるニュアンスは一切なく、ただただ、俺を知恵者と見て頼っているのだと分かる。

 それでも俺は、答えに窮した。

 

 「お前は…………、お前は、お前ほどの武道家は他に居ないよ」

 

 いずれ悟空にもサイヤ人としての誇り、自らのルーツを愛する心が芽生えるだろう。

 だが、それは今でなくてもいい、今はただ、サイヤ人としてではなく、武道家としての悟空を褒め称えたい。

 そんな意思を込めた俺の答えに悟空は満足してくれたらしく、小さくうなずいた。

 

 「……ありがとな! で、でも、プリカは大丈夫なんか?」

 

 「オレは大丈夫だよ、オレも……全部知ってたからな、おまえが兄さんか弟ってこと以外、全部な」

 

 「な……なーんか恥ずかしいよなぁそれ、今更わかっても、どっちにしろ一緒に戦えて嬉しいってのは、変わんねえし……」

 

 「そ、そうか」

 

 プリカはまたとても嬉しそうな気配を醸し出す。

 ……ここからが本当の正念場だと、皆は恐怖し、いきり立っている。

 だが、俺達二人だけは、ほんの少しだけニュアンスが違った。

 

 「プリカ、最後までやるぞ」

 

 「ああ、ソシルミ」

 

 巨大になった困難を前に、それでも俺達は、サイヤ人をただ穏便に追い払ってやるのだという希望を、野望を捨てる気はない。

 それどころか、その挑戦心は更に膨れ上がっている。

 プリカはかつての自分の似姿……戦闘服を着た大猿を前に、失われた故郷を意識しているのだろう。

 俺もまた、目の前の敵が、愛する人と故郷を同じくする同種であると、強く確信していた。

 

 

→つづく




お久しぶりです、桐山です。
最近、投稿間隔が長くなってきてますね、本文の長さと終盤故の難しさに比例する形です。
あと、今回は……その……範馬勇次郎さんのセクシャリティが明かされたショックで寝込んでました(誇張表現)
こんなにおもしろい設定があるならちゃんと組み込みたかったのに!!


さて、ついにやってきたサイヤ人、立ち向かうは現状の地球戦士一軍フルメンバー。
幼い悟飯のみを後方に待機させ、ソシルミたちは力いっぱい戦います。
その先に見るのは平和か、あるいは共存か。
そして、戦うべきは戦闘力にして、現宇宙第二位の怪物、大猿ベジータ、同じくナッパ。
一体彼らはどう立ち向かうのでしょうか。

次回もお楽しみに!


☆NGシーン

ベジータ「バカにしやがって、サイヤ人を舐めるなよ」
ソシルミ「舐め……まあ舐めたが(チラッ」
プリカ「お、おい!! 戦闘中だぞ!!?」
ベジータ「くそったれー!!!!」
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