転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第四十一話:転生地球人が愛を語るまで

 「さっさと小細工はやめて、きさまも大猿になれ!!!」

 

 四回目になる月への攻撃を防ぎ、大猿と化したベジータが叫ぶ、その相手は当然……プリカだ。

 悟空はかめはめ波の姿勢のまま怒号に耐え、界王拳により滾った気を投げ捨て、仕切り直しに備える。

 

 「プ、プリカっ!! 昔のオラは駄目だったみたいだけど、おめえならなんとか、あいつらみたいにしっかりしたまま大猿になったり出来ねえのか!!?」

 

 「う……悟空……」

 

 プリカは、そんな希望を込めた悟空の声を、その『希望』が実のところ完全に正しいことすら明かさずに、うめき声とともに拒む。

 

 「はーっはっはっは!! カカロット!! きさまは妙な技を覚えたようだが、そんなものより、オレたちサイヤ人が生まれ持った大猿の方がずっと強いぜ!!」

 

 ナッパの嘲りは、現時点では紛れもない真実だった。

 元の歴史より数段上昇した悟空のパワーと、界王拳の倍率――――今まで見たのは五倍まで――――では、ナッパのパワーすら正面からでは上回れない。

 

 「あ……あれが孫の種族の本領というやつなのか!? 確かに、あんな化け物になれるなら、人間のままでも強いわけだ……!!」

 

 「目玉が多いくせに言うぜまったく……、クソ、オレもふるえが来やがる……!! これまであいつらや悟空たちと戦えてた自分を褒めてやりたいくらいだ」

 

 ……莫大な気の応酬の中、サイヤ人以外は戦場の片隅へと追いやられていく、『Z』の世界が始まろうとしている。

 一方、そのサイヤ人の一人である我が相棒……プリカは、ただエネルギーをたぎらせ、サイヤ人に向けて断続的なビーム攻撃を実行していた!!

 

 「う、うああ……ぐああああ!!!!」

 

 戦闘力差十倍以上、効果の見込めぬ攻撃を繰り返す理由は、おそらく、一つ。

 

 「プリカ、あれを見て思う所があるのは分かる、だが、今はお前の戦力が必要だ、それに……お前はあの大猿、お前の産まれと向かい合わなくては――――」

 

 「……ソシルミ」

 

 プリカの目が俺を見る、プリカの声が俺を呼ぶ。

 しばらくその心を隠していたプリカだが、その一瞬だけ、感情をこぼした。

 これまで数度しか見たことがない程追い詰められたプリカ、今にも泣き出しそうなほどの激情。

 それでもここは戦場だ、皆で戦っているのだ、俺が勝手に許すわけにはいかない、いかないのだが……。

 

 「――――分かった、でも覚悟してくれ……長くは持たない」

 

 「ごめん」

 

 俺にか、誰にか、プリカは謝ってから戦いへと戻った。

 この戦場はシンプルだ、大猿が暴れ、戦士が撃ち、時折、大技のチャージや月狙いの攻撃をしては、妨害されて叩き落される。

 プリカの大猿が欲しい、二つの大猿を止める戦力がなければ、勝ち目はない。

 そう思った時、戦場一杯に広げた探知領域の片隅で、一つのエネルギーが膨れ上がっていくのを感じた。

 気が高まっているのではない、体が巨大に――――

 

 「な、なんだ!!? おいベジータ! プリカのやつじゃない誰かが大猿になってるんじゃ…………」

 

 「騒ぐなナッパ!! 純血はたった二人だが、もう奴らも年頃だ、これはひょっとしたら、ひょっとするかもな」

 

 大猿、純血、その言葉を聞いて俺の心臓が跳ね上がる、この地上で大猿になれるのは、プリカを除けばただ一人。

 だが、違う。

 エネルギー量そのものは膨れ上がってはいない。

 では誰か、何か……その答えは、瓦礫を持ち上げ、土煙の向こうから現れた姿によってようやく判明することになる。

 一番最初に気付いたのは、その姿を間近で見たことのある男、悟空だった。

 

 「ピッコロ!!!!」

 

 「そうか、巨大化かッッッ!!!」

 

 現れたのは、大猿と並ぶ背丈にまで巨大化したピッコロ。

 エネルギーの総量は変わらないが、その全身に溢れるパワーは元とは段違いに膨れ上がっている。

 ……元の歴史では見られなかった、まさかの異星人対決というわけだ。

 

 「ほーう、ナメック星人は不思議な技を使うと聞いていたが、まさか大猿並の巨大化をやってのけるとはな」

 

 「……きさまら、さっきも何やら言っていたが、まさかそれはオレのことか!?」

 

 「テメー以外に誰が居るってんだ、回りを見てみりゃ分かるだろう、緑で触覚の生えた地球人がどこにいるんだよ」

 

 ピッコロは思わずといったふうに、巨大になった顔をキョロキョロと見回す。

 その瞳に映るのは、地球人の戦士たち、遠くになりつつある群衆、そして、破壊された祭典の残骸……。

 

 「まさか……! (オレ)を産み出した神の野郎の憎しみが、まさかこんな……」

 

 「悪いが時間切れだ!! ふるさとを想うならあの世でするんだな!!!」

 

 焦れたベジータが、ピッコロへと迫る!

 一挙一投足が既に崩壊しつつあるアスファルトを砕き、コンクリートを煙へと変える大突進!!

 動揺の中でも戦意を失わなかったピッコロの振り下ろす攻撃的なガードが大猿と激突し、莫大な衝撃波を発生させる!!!

 

 「ぐぅっ!!」

 

 「はっはっは!! ただフーセンみたいに膨らんだわけじゃないようだな!!」

 

 両者弾き飛ばされ、ごく小さく呻くピッコロ、ベジータは笑う。

 予想外の食いでのある獲物に、再度突撃を食らわせてやろうとベジータはいきり立つが、次の瞬間に驚いたのはベジータだった!

 

 「波ぁーーっ!!!!!」

 

 「むっ!!?」

 

 悟空、クリリン、ヤムチャのかめはめ波!!

 莫大なエネルギーを秘める大猿も、ピッコロの影に隠れて長くチャージされたかめはめ波を前にしては、防御姿勢を取らざるを得ない……が、それが悟空達の狙いだった!

 

 「「曲がれっ!!」」

 

 「なにーっ!!!?」

 

 悟空のかめはめ波がベジータへと直撃、そして、残る二筋は大きく曲がり、明後日の方角……否、かめはめ波は夜空を突き刺し天高く、月へと向かってゆく!!

 だが、ここに来て、ぶつかり合いを眺めていただけのナッパが動き出した!

 鶴仙流の二人、そして俺達も参戦し、それを止めにかかる!

 

 「させるかッッッ!!!」

 

 「そりゃあこっちのセリフだぜっ!!!」

 

 口を空に向けたナッパに向け、二筋のどどん波、プリカの大玉エネルギー弾、続いて俺の突撃が向かう……が、ナッパは僅かに血すら流しながらも、こゆるぎもしない!!

 俺達は全力でナッパへの攻撃を繰り返すが、大猿化で動きが鈍くなっているとはいえ、出の早いナッパの『ゲロビ』を止めるには、全く時間が足りなかった。

 

 「があっ!! ぐあ!! ご!!!」

 

 「ツァァァッッ!!!!! ……駄目か、なんという耐久力……ッッッ!!!」

 

 天高く、月を僅かに逸れる軌道で放たれたゲロビはクリリン・ヤムチャのかめはめ波を飲み込み、そのまま宇宙の彼方へと消えてゆく。

 

 「ま、こんなもんよ……おいプリカ、そろそろ変身したらどうなんだ? オレたちもちょっぴり……イライラしてきちゃうぜ!!」

 

 威圧的に語るナッパの言葉は真に迫るものがある、それは……サイヤ人の攻撃性、とでも呼ぶべきもの。

 悟空と違って頭を打ったことのないサイヤ人と長く戦いを共にした俺には感じ慣れた感触だ。

 サイヤ人は攻撃性を発揮すること、いや、苛立ちすらも楽しんでいるような雰囲気がある。

 真の姿と言うからには、それを振るうのが楽しいのか、サイヤ人にとって大猿になるということは、サイヤ人であるということ一体どういうことなのか。

 俺はそれを知りたい、愛する人のために、かつてこの世界に抱いた愛のために。

 だが、奴等が楽しめば楽しむ程、攻撃性が高まれば高まる程……。

 

 「…………」

 

 隣で沈黙を貫くプリカの『それ』は鳴りを潜め、次第に技のキレまでもが下がってゆく。

 今のもそうだ、本調子であれば『ウエスト・モーニング・サンシャイン』なり、それこそ奴と同じくゲロビなりを叩き込んで、より有効な攻撃が出来たはずだ。

 それが今は、消極的にビームやエネルギー弾を打ち込むばかり。

 

 「プリカっ! どうして変身してくれないんだよ!!」

 

 「う、ああ……」

 

 誰からともなく、次々と声が上がってゆく、変身してくれ、と。

 だがプリカは答えない、沈黙と、喉から漏れ出るような声を否定の代わりとして、ただ戦い続ける。

 人間として戦いたいだとか、そんなポジティブな意思から来たものじゃない。

 これは、これまでも何度も見せつけられてきた……そして、俺自身が味わった、プリカの逃避だ。

 かつて犯した罪、そして自らの本性、産まれの不幸。

 それらの象徴としての大猿を前に、プリカの心は萎縮しきっている。

 

 「プリカッッッ!!!」

 

 どうしようもなくなって俺は叫ぶ、変身してくれと言いたいが、それは言えない。

 しかし、せめて、今ここで戦うだけの意思は取り戻してもらわなくては。

 だが、プリカは強く肩をびくつかせ、強い罪悪感の籠もった目で俺を見る。

 それから敵を見て、なけなしの気力を振り絞って叫びだした!

 

 「うご……ぎぃぃぃっ!!!!」

 

 いつもの濁った叫びは、こんな時でも変わらない。

 あれはあいつに残された吐き出す戦いへの意思なのか、それとも、あいつは戦いに染まることを拒むがゆえ、あえて声を出すのか。

 どちらにしろこれはまずい、プリカは……仕掛ける気だ!

 

 「お? またやる気になったのか、大猿にならねえなら、このまま捻り潰してやるだけだがよ!!」

 

 「バイナリ・スター・モーニング!!!! うああああああ!!!」

 

 「よせプリカッッッ!!!」

 

 プリカはエネルギー弾を手に纏わせ、そのまま猛烈に突進してゆく!

 あいつは俺の言葉を自分への責めだと思ったのか!?

 それとも、俺が言葉をかけるだけでも辛いのか?

 だとしたら俺は――――

 

 「おおっと!! オレを忘れてもらっては困るな!!!!」

 

 「ぐぼっ…………!!!!?」

 

 横合いから飛び出したベジータがプリカを思い切りはたき飛ばす。

 大猿のパワーで成されたそれは、金属音にも似た音と共にプリカを弾き飛ばし、そのまま崩れ去ったビルの瓦礫の一つに沈めた。

 

 「プリカッッッ!!!!!」

 

 「はっはっは!! 他人を気遣ってるヒマはないぞ?」

 

 ベジータが俺を笑い、そしてねめつける。

 プリカは、瓦礫の下で動かない。

 

 「ミソシル、プリカが……!!」

 

 「死んじゃいない」

 

 「す、するってえと……」

 

 「そういうことだ」

 

 悟空は息をのむ、自分と同じ苦悩を共有している相手なのだ、何が起こっているのかは、よく分かるに違いない。

 完全に気力を失ったプリカは、ダメージから立ち直ることも出来ずにいる。

 

 「これで大分捻り潰しやすくなったぜ!!!」

 

 「油断するなよ、ソシルミとカカロットを見ろ、まだまだ余裕だ……プリカはオレたちが思う以上にタフということだろう」

 

 プリカの援護が望めない今、戦況は最悪と言っていい。

 更には、……悲しみ、罪悪感、忌避感、俺の胸は、勝手にあいつが感じているであろう苦痛を拾い上げて痛む。

 苦痛は俺の魂を蝕み、消沈させる、何故もっと寄り添えなかったのだ、という後悔と共に。

 俺はベジータの視線に抗うように睨み返し、叫んだ。

 

 「ベジータ、ナッパッッッ!!!」

 

 消沈する魂、だが一方、俺の中には煮えたぎる闘志が存在していた。

 忌み嫌う自分の本性を突きつけられ、それになれだなんて言われて、冷静で居られないのは当然だ。

 瓦礫の中に埋もれたプリカが起き上がれるまで待つ、それまで戦う。

 なんだ、人が反対なだけで、あの時と同じじゃないか。

 なら、やることも同じ――――

 

 「――――俺が相手だッッッ!!!!」

 

 「虫けらが言いやがる!!!」

 

 ナッパの言葉をゴング代わりに、俺は二体の大猿に向け、一直線に舞空術で突撃する。

 望むところだ、飛んで火に入る夏の虫、とばかりに伸ばされた大猿の手は、しかし、俺を捉えられずに空を切った。

 

 「なにぃっ!!?」

 

 俺の舞空術は、本来神様が俺に学ばせたかった本式のものとは異なり、実際の物理法則にかなり依存する我流のものとなっている。

 大猿は通常の数倍の助走距離を取れる格好の相手、その懐に入って飛び回る俺の動きは、上品に言えば蝶のような舞い、下品に言えば……。

 

 「ちくしょう、うっとおしい小バエだぜ!!!」

 

 「小バエ、大いに結構ッッ!!! 図体がでかい苦労を存分に味わえ!!」

 

 突撃を始めると、仲間達もそれに合わせて援護、本命の攻撃を次々と繰り出してゆく。

 

 「超能力をくらえ!! ガレキがうざいのに強さは関係ないぞっ!!」

 

 「プリカは地球を守るために、辛えのを我慢して頑張ったんだ!! 姉ちゃんなのか妹なのかはわかんねえけど、今度はオラが守る!!!」

 

 「フン、きさまらとの貸し借りはチャラのはずだったが、鶴仙人様と桃白白さんを救われてしまったからな……オレたちも、筋は通させてもらうぞ!!」

 

 ……ああ。

 

 「グブッッ……!! お、俺達は果報ものだなあ、プリカ!!!」

 

 (お、おいソシルミ!! きさま、吐血しているのか!!?)

 

 俺の口端からは血が溢れつつあるのを見て、ピッコロがテレパシーで問いかける。

 敵にバレないようにする細やかな気遣いは、流石ナメック星人、流石神の片割れか。

 物理法則に依存した俺の舞空術は、必然的に肉体にかかる負荷も大きい、本来であれば、むしろ風を感じられて心地良いくらいのものだが……。

 

 「妙な技と無理な加減速で体を痛めたか、まるで戦闘機パイロットだな、なあソシルミ?」

 

 「さっすがベジータ、いいこと聞いたぜっ!!」

 

 せっかくの気遣いも、戦闘民族の目ざとさを前には儚く終わり、二体の大猿はいかにも猿といった感じのいやらしい笑みを浮かべ、俺にわざと大ぶりの回避を迫るような激しい動きを繰り返し始めた。

 体内にダメージが蓄積するだけではない、全身の血液までもが……揺さぶられて……!!

 視界の色が黒と赤をゆらゆら往復する、

 

 「きさまっ!!! プリカ!!!!!! いつまでも甘ったれてるんじゃない!!!」

 

 「ピッコロ!!? おめえ……!!」

 

 「孫、きさまは黙っていろ! プリカ!! 大猿に化けるだとか、連中が罪深いだとか、きさまはそんなことを気にしているのかもしれんがな……奴を見ろ!!! 大猿に化けるだの、人間を殺すだの、そんな連中と向き合い続けてきた男が、今、自分の技で口から血を流しているんだぞ!!!?」

 

 大猿のエネルギーと、仲間のエネルギー、そして風の動きだけを捉える。

 耳も目もうまく働かない、思考も次第に鈍り始めた。

 だが、止まるわけには――――

 

 「よせミソシ――――のまま飛んで――――おっ死ん――――」

 

 「―――っはっは――――」

 

 気を捉えた動きは目や耳を使うよりも遥かに的確だ。

 だが、環境の要素も忘れてはならない、風に乗り、大気を切り裂いて飛べば、舞空術も――――

 

 「こいつ――――まだ――――むしろ――――」

 

 「もう――――やってやる――――」

 

 強いエネルギーの滾り、回避を――――違う、これは!!!

 避けた先には巨大な手が……。

 

 「……グブッッッ!!!」

 

 「ようやく捕まえたぜぇ……!!」

 

 俺を掴んだナッパが愉快そうに笑う、無理をすれば思考が鈍り、次第に技も鈍る。

 その隙を突かれたということは、俺の自業自得か……!

 僅かな動きすら許さない凄まじい力で圧迫され、俺の口からは、更に血が吐き出されてゆく。

 

 「ガ、ガフッッ……ヌ……ウゥ………ッッ!!!」

 

 控えめに見て10倍のパワー差は足掻いてもどうしようもない、だが、それでも俺は全力でナッパの指を開こうと力を尽くす。

 仲間達も必死で俺を解放しようとしているが、ベジータが、遊びを捨てた動きで皆の動きを潰している……。

 そうこうしている間にナッパは俺を握る手にもう片方の手を添え、俺の頭に向け親指を突き立てた。

 

 「へっへっへ、楽しかったぜ、ソシルミちゃんよ!!!」

 

 「グ…………――――!!!!」

 

 俺は、力を込めだしたナッパを憎むでも威圧するでもなくただ睨む……が、その瞬間。

 迫る親指の向こうで膨れ上がる、エネルギーの塊!!!

 はっきりと分かる、何よりも愛おしいその気配は、いかに姿を変えようとも!!!!

 

 「ぐっがああああああ!!!!!」

 

 「な、な――――ぐべっ!!?」

 

 雄叫びと共にいきり立ち、頭部へのパンチでナッパを地面に叩きつけたのは、間違いない、大猿の拳。

 いや、臙脂色の布を身に纏ったその大猿は……。

 

 「プリカッッッ!!!!」

 

 「ソシルミ、待たせた、……ピッコロ、ありがとな」

 

 「な、なんだと!!? か、下級戦士が……!!」

 

 俺に笑いかけるプリカ、ベジータは驚愕にわななく。

 

 「下級戦士ごときが、どうして正気を保っていられる!!!?」

 

 「見れば、分かるだろう?」

 

 土煙の中、俺は意識を失ったナッパの指から這い出し、プリカと、ピッコロを見た。

 そして、高らかに、しかし静かに語る。

 

 「これが、地球で築いてきた絆の力だ」

 

 「はっはっ……バカめ、絆だと!? 何の術を隠していやがる!!!」

 

 あくまで強がり、一笑に付そうとするベジータの顔に浮かぶ強い動揺の色……。

 それを見抜けるのは、多分、今はこの世界で俺だけなんだろうな。

 

 

 

 月は中天に登り、自らが生み出した二体の大猿を見守る。

 

 「つおおおおおおっ!!!!!」

 

 「がああああああ!!!!!」

 

 大猿はその野蛮なる姿とは裏腹に技巧を尽くし、その野蛮なる雄叫びに違わぬ暴れっぷりで、完全に無人と化した中の都を蹂躙していた。

 

 「これでは割って入れん……なんという……!!」

 

 「繰気弾で狙うのもムリか……クリリン、なんか手はあるか?」

 

 「手は……ないです、ヤムチャさん」

 

 果てしなく続く殴り合いに介入出来るのは、大猿と同じ宇宙人、巨大化したピッコロと、神をも越える実力者によって教えを受けた悟空、そして……辛うじて、という条件付きだが、この俺。

 俺達三人がいることによって、大猿同士の果てしない戦いの趨勢は、臙脂色の大猿、プリカに傾いている。

 だがその優位もまた、覆りつつあった。

 

 「うおおおっ!!! やりやがったな、このクソアマァ!!!!」

 

 「ナッパッッッ!!!!」

 

 気絶から立ち直ったナッパ!

 その気力は強く立ち上がり、顔に浮かぶのは怒りと、戦士の誇り。

 プリカの大猿は俺達に力を与えたが、それと同時に宇宙から来たサイヤ人にも、種族の誇りを思い起こさせたのか!!

 

 「下級戦士のくせに、あっぱれだぜ……プリカちゃんよ、だが、このエリートをちょっと出し抜いたくらいで調子に乗ってもらっちゃ困るなっ!!!」

 

 「またしくじったら、おまえもろともこのオレが殺してやる、……行くぞ、ナッパ!!!!」

 

 「おう、まずは……」

 

 こちらを睨む四つの目、大猿の巨体が残像を生み出す程に動く!!

 一歩遅れて二人を追うプリカ!!

 

 「ぐっがああああ!!!」

 

 「うすのろめ、追いつけるか!!」

 

 それを振り切って迫る大猿!!

 その腕、足、しっぽ、10本が束となり、竜巻となって俺に襲いかかる!!!

 

 「ヌゥゥゥゥッッッ!!!!!」

 

 避け、弾かれ、合わせ、風に揉まれ――――これは。

 

 「――――捉えたぞ!!!!」

 

 「グ――――」

 

 衝撃。

 

 一瞬の無音の中、景色が流れ、回転し……アスファルトが。

 俺の体はめり込み、擦れ、抉りながら10メートルほど転がり、跳ね跳んでからやっと着弾した。

 

 「ガ、フ…………ゲフッッ……ゴフッッッ……グプ…………」

 

 縮みきった肺を広げようとすると、その隙に血が溢れ出し、必死に行ったはずの呼吸は吐血に化ける。

 骨も破損し、筋肉や筋にも、いくつか機能しない部位が出始めている。

 受け身すらまともに取れずに受けたダメージ、呼吸すらままならぬそれを、残された部位で取れるヨガをもって全力で抑え込む。

 大猿の全力、サイヤ人という種族の全力を満身で味わった。

 戦力が足りない……いや、敵が戦いの最中に進歩しているのか。

 

 「こ、このままで……は」

 

 このままでは、悟飯を戦わせなくてはならなくなる。

 悟飯を大猿にして、ひと悶着しながらなんとかサイヤ人にけしかけて…………。

 

 「嫌だ、俺が、戦わなければ……!!!」

 

 だが、体は動かない。

 

 「ハァ……ハァ……ッッッ!!?」

 

 なんとか息を整えようとする俺のいる通りへと飛来する、巨大な物体!!

 そのエネルギーは、紛れもなく……。

 

 「プリカッッッ!!!!」

 

 「――――ごああああああああ!!!」

 

 自ら飛んだ……のではない、激しいダメージを感じさせる受け身すらまともに取れぬ飛行と、落下!!

 俺の隣に残っていたビルに着弾したプリカは、ゆっくりと滑り降りてくる。

 それを見て笑うのは、ナッパだった。

 

 「はっはっはっはっは!!!! 思い知ったか、これが名門のエリートサイヤ人の力だぜ!!! さっさと立ち上がってこい、またぶっ飛ばしてやる!!!」

 

 ……実に楽しげだ。

 こちらを見て大喜びで笑うその姿はまさしく猿、だが、これこそ戦闘を生業とする種族のエリートといえるのかもしれない。

 一方のプリカは、ビルを押し潰しながらずり落ち、ちょうど、頭が俺の隣に来る形で地面へと衝突した。

 

 「う、ぐぐぐ……」

 

 「プリカ」

 

 「……なんだ、ソシルミ」

 

 「悟飯を呼びたくない」

 

 プリカは一瞬だけキョトンとして、それから、同意の色とともに顔をしかめる。

 

 「悟飯は、戦わなくていいはずの人間だ、5歳の子供だ、俺達がしっかりしてれば……」

 

 俺達二人がちゃんと戦っていればあいつを戦わせなくてもいい、それは俺達が手に入れた、この世界に与えることが出来る大事なことなんだ。

 身勝手に世界を変えておいて悟空まで殺した俺達に出来る罪滅ぼしなんだ。

 言葉にして伝えてはならないその叫びを込めた俺の言葉に、プリカは、俺に望まれた立場から忠告する。

 

 「……でも、このままだと、絶対に勝てないぞ」

 

 「最後のアイデアがある、大猿がお前一人のままでも、奴等に勝てる技が」

 

 プリカは目を見開き、俺の提唱する作戦ならばとばかりに、じっと耳を傾け始めた。

 

 「俺は今からお前にしがみついて、そのエネルギーに同調する」

 

 「ばっ……ばか!! オレの気がおまえの何十倍だと思ってるんだ!!? いくらおまえの方が気の扱いがうまいからって、そんなことしたら……」

 

 「俺がお前のエネルギーを取り込めばひとたまりもないだろうな、だが、逆ならどうだ?」

 

 「逆……!?」

 

 驚くプリカに、俺は説明を続ける。

 

 「ああ、お前のエネルギーを俺に入れるのではなく、その逆、俺がお前のエネルギーに干渉し、その運用を助ける」

 

 「確かに大猿だと気はうまく使えない、それを助けてもらえば、でも……」

 

 「このやり方なら、俺の負担は最小限に抑えられる」

 

 「おまえのそれ、信用できると思うか」

 

 プリカは大猿のまま器用にジト目を作り……それを、ジト目では済まない非難の目に変えて、更に、逡巡するようにまばたきをした。

 

 「なあ、ソシルミ」

 

 「なんだ」

 

 「オレの毛並みはどうだ」

 

 「悪くないと思い始めていた所だ、ジャージの大猿も、たまにはいいかもな」

 

 プリカが、のそりと起き上がる。

 巨大なはずの大猿が、いつも家で見るそのままのプリカに見えてきた。

 というか、そうにしか見えない。

 そして、プリカはぶっきらぼうに、手を差し伸べた。

 

 「さっさと乗れ」

 

 「ああ」

 

 俺は導かれるままにプリカの肩に登り、それからしっかりと柔らかな、それでいて頑丈極まりない毛に体をうずめ、固定する。

 それから、プリカのエネルギーと、俺のエネルギーを繋げ始めた。

 ……技の練習のときや体を重ねるときに、気を同調させることはあったが、今度は更に深く、やらなくてはならない。

 俺は更に深く合一するため、テレパシーを用いて心身の接触を図る…………!!?

 これは、接続が深すぎる、意識同士が飲み込あって――――

 

 

 ……………………。

 

 

 ………………。

 

 

 …………。

 

 

 

 『まず、自己紹介と行こうか、俺はソシルミ、一応『アエ』という名字があるが……、5歳で親に捨てられてからは、この名字が嫌いだ、名字では呼ばないでくれ』

 

 大柄な少年が、だらだらと冷や汗を垂らしながら自己紹介をしている。

 その顔に浮かぶ笑みは、恐怖に引きつっているが、確かに強い友好と、そして隠しきれぬ好奇心を表現していた。

 

 『プいカ……プリカだ、としは……わかあ、わからない、たぶん……じゅうにさい』

 

 それに答える少女は年若く小汚いが、環境によって一切傷付けられることのない美しい髪と肌が、泥や血糊の向こうから滲む。

 少女は、この星において既に圧倒的とすら言える戦闘力を持っているはずなのに、どこか怯えたような顔で、おずおずとこちらを見上げている。

 

 

 俺達は互いの存在に強い警戒心を抱いていた。

 互いに正体不明、それどころか、この地上で唯一のはずだった『プレイヤー』……指し手の立ち位置を同じくする存在。

 だが、俺達は、互いという未知に身を委ね、戦いを共にすることになったのだった。

 

 

 『騒ぐなよ、緊急避難じゃないか、それより続きを教えてくれ、なんで俺に付いてきたんだ?』

 

 『そ、それは……おおざるが、めいわくだったから、おまえにきいたまぞくを、たおして……』

 

 『……罪滅ぼしをしたかった、ってわけか』

 

 

 思えば、そう、オレたちの共闘の始まりは、プリカが抱いた罪悪感だった。

 生まれ変わって得た肉体、そしてそれを扱いきれず他者を傷付けた自分への深い失望。

 それを償うチャンスをくれたのは、ソシルミだ。

 

 

 『なんとなく分かっちゃいたが、そんなもんか、まあ、村人たちにも結構楽しんでたヤツは居たみたいだし、あまり気に病まない方がいいぞ?』

 

 『そんなこといっても……やっぱり、だめだ』

 

 『今更何を言うんだ、村を攻撃する魔族をぶっ潰して、地球まで救ったんだ、罪滅ぼしは完璧以上に終わってるはずだろう?』

 

 

 気持ちの悪い、今となっては慣れ親しんだその笑いが、償いは果たされたと語る。

 何もかもを割り切って、今から楽しく生きよう、そんな想いを伝えたかった。

 想いは伝わって、プリカは一つの救いを得たのだ。

 

 「い、いきなり心の中に入ってくるなよ!!」

 

 そんな景色を眺めていた俺の隣で、プリカがわめく。

 奇妙な……暗い場所で、プリカと俺の姿だけがはっきりしている、前もこんな所に来たような……。

 俺は素直に詫びようかと思ったが、俺をはねのけることもなく、ただ顔を赤くして怒るプリカを見ていると、それも面白くないな、と思い直した。

 

 「ここまですんなり入れるとは思ってなかった」

 

 「…………もう入れないぞ、くそ」

 

 「さあ、ここから出ようか、あいつらが待ってる」

 

 俺はプリカの手をとって、共に戦いへと意識を戻していく。

 あいつらとはもちろん、サイヤ人二人のことだ。

 存分に、見せつけてやろう。

 

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………。

 

 

 足元には瓦礫の街が広がり、遠くには街から離れゆく車列のテールランプが見える。

 空には満月。

 ここは、現実の戦場……中の都だ。

 どうやら、あの意識空間での出来事は、現実ではほんの一瞬のことだったらしい。

 

 「ソシルミめ、きさま、ついに自分で飛ぶ気力もなくなったと見えるな」

 

 ベジータが嘲るが、くだらない挑発に乗る気はない。

 肉体から伝わる温もりと、エネルギーの繋がりがもたらす温もり。

 その暖かさに溺れぬようにするだけで、俺は背いっぱいなのだ。

 

 「行くぞッッッ!!!!」

 

 満身の力を込め、俺は……違う、プリカは拳を固め、一気に飛び出した。

 その力はまず足、脚、そして背骨へと移り、腕を登り、拳へと至る!!

 

 「っがアアああああああッッッ!!!!!」

 

 「な、速――――がっ!!!!?」

 

 気力大移動、大猿バージョン。

 今の(プリカ)は、ベジータより疾いッッッ!!!

 

 「なんだこいつ、急に……まさか、ソシルミが何かの術で技を教えているのか!!!?」

 

 ベジータの言葉に答えようとするより早く、プリカの体は攻撃へと移る。

 次なる技は、爆発する拳!!!

 俺の意思ではない、上がりきったプリカの戦意、大猿の戦闘本能が俺から技を引き出しているのだ!!

 

 「おがあああッッ!!!!」

 

 「妙な技を次々と!!!」

 

 莫大な戦闘本能が持つ甘美な狂気がプリカから伝わり、俺を包む。

 抗わねばならぬと直感させられるその力が、プリカを幾度も狂わせてきた原因であり、そして、狂うまいとするプリカが自らを苦しめ続けた原因。

 ……そして、俺と楽しんだ戦いの喜びの、根源なのだ。

 

 手を振るい、足を回し、息を吸って、吐く。

 全動作が心地いい、これが本来の姿なのだと、プリカの意識と無意識は語る。

 かつて森に籠もっておいて、この姿という欲望を抑えきれなかった自分。

 サイヤ人として伴侶を裏切り、兄弟を殺した自分。

 凶悪な意思を持って産まれた、邪悪な種族の末裔である自分。

 悍ましいその本性への嫌悪。

 それを乗り越えられたのは

 

 (お前が俺と共に戦うと決めたからか、プリカ)

 

 (おまえがオレのことを好きでいてくれるからだ、ソシルミ)

 

 ……プリカはこの力を嫌い、森へと籠もり、俺に連れ出された。

 心でそう伝えられたが、違う、なにか違和感がある。

 俺への想いではない、なぜプリカは、自分の本能と歴史の改変という、重要だが差し迫ってはいないはずの課題を前に、そんな極端な選択を――――

 

 『おかあさん、あした病院がおわったら、――――につれてって、ヒーローショーがあるんだ』

 

 ――――幼子の姿が見えた。

 その景色はこの地球ではなく、かつて生きた地球のもの。

 この記憶は…………。

 

 「ハッッッ!!!」

 

 「何をぼやっとしてやがる!!」

 

 ピッコロと組み合っていたナッパが俺の見せた隙を狙って襲いかかる。

 だが、夢と現をさまよう表層意識とは裏腹に体は動き――――

 

 「ツァッッッッ!!!!」

 

 「はぁっ!!!!?」

 

 俺はとっさに、ナッパを合気で投げ飛ばした。

 

 「見たか悟空、技だけじゃない! あれはソシルミの動きだぞ!!?」

 

 「ああ……それに、なんだか一瞬、プリカがソシルミに見えたような……」

 

 同調が深まっている、技だけではなく意識が無作為に混在し、肉体の操作権までもが混在しているのだ。

 俺……違う、今度はプリカが、倒れたナッパにゲロビを叩き込む!

 ……が、ベジータが割って入り、防がれた。

 

 「きさまにしては随分と甘いッッッ!!!!」

 

 「黙りやがれっ!!!!」

 

 「ぐッッがああああああ!!!!!」

 

 プリカが俺の愚弄は許さぬとばかりにいきり立ち、拳を振るう。

 それに合わせて放つのは、超巨大な衝撃波!!!!

 

 「つあああああッッッ!!!」

 

 「こ、こんなことで強くなるだと……サイヤ人の力が、こんなカスのおかげで強くなるだと!!!? そんなことは許さん!!!!!」

 

 「オレはやってやる!! あんなガキとゴミが合わさったくらいで、このオレがやられてたまるか!!!!」

 

 ベジータとナッパは合体攻撃への困惑を凄まじい怒りと戦意に変え、気をたぎらせている。

 回りに意識をやれば、仲間達は疲弊し、戦場となった中の都は更に破壊され……そして、当の俺とプリカの疲労やダメージも、ついに限界に近づきつつあった。

 

 「ぐわあああっ!!!」

 

 「ピッコロッッッ!!!!」

 

 ナッパと競り合っていたピッコロがしっぽの一撃で吹き飛ばされ、キングキャッスルの残骸へと突っ込む。

 死んではいない、ダメージは致命的ではない、だが……。

 

 「ぎッッッ!! むんッッッ!!!! ……くッッッ!!」

 

 仲間達の援護をものともしない連撃が、俺達を襲う。

 多勢に無勢か、いくら気の運用能力を高め、俺の技術を使えるようになっても、あくまで戦闘力の劣る一体の大猿、まずい――――

 ――――その時だった。

 遠くから、拡声器のけたたましいハウリングが聞こえたのは。

 

 『電磁波・光線遮断発煙砲、全弾発射ァ!!!』

 

 「な……なんだ!! こ、この星の軍隊か!!?」

 

 「王立防衛軍の……サイボーグになった人だ!!!!」

 

 ちょうどナッパの問いに返すようなタイミングで、クリリンが叫ぶ。

 そうだ、たしかに聞き覚えのある声だ。

 ナッパはエネルギーを口に溜め、防衛軍の方に向けた!

 

 「させるか!!!」

 

 「それはこっちのセリフだぜっ!!!!」

 

 更にその背後からピッコロが襲いかかり、顎を掴んでしがみつく格好になる。

 ……一年前、俺はサイヤ人襲来に備えるため、師匠を通して国王含めた各国重鎮に対してその事実を通達したが、大猿の件だけはおいそれと明かすことは出来なかった。

 それは、既に大猿を認知した人々による混乱の発生(つまり、悟空やプリカへの迫害だ)を避けるためだったのだが、国王を含めた、信頼をおける僅かな人々にだけはそれを伝えたのだ。

 だが、まさか……国王が独自に、あんなものを開発しているとは……!!

 

 「国王のヘリが最後まで残っていたのは、大猿の出現を見張っていたから……というわけか、つくづく、俺達は果報者だな」

 

 「ああ、最後まで……やろう!!」

 

 「……望む所だ、さっさと捻り潰して、ぶち殺してやるから覚悟しろ!!!」

 

 俺/プリカとベジータはどちらともなく腕を高く掲げ、強く握りあった。

 手四つの形だ。

 見れば、ピッコロとナッパも、自然と力比べのような形になりつつあり――――

 

 「ククク……オレが宇宙人か、言われた通りの不思議な力を使うのも悪くないが……やはり、武道家は武道家らしくなければな!!!」

 

 その手は巨大なまま、激しく輝き始めた。

 消耗の激しい隠し玉と言ったところか。

 ……この戦いは、ついに終着点へとたどり着きつつある。

 

 「ボクたちもやろう!!!」

 

 「ああ、チャオズ!!!!」

 

 超能力とどどん波、かめはめ波に繰気弾、界王拳のままの突撃。

 仲間達の技がサイヤ人へと突き刺さり、空には煙幕が広がってゆく。

 

 『――――プリカ、おまえは――――プリカ――――きっと――――』

 

 再び高まった同調の向こう側から、優しげな声が聞こえた。

 俺にとっては聞き覚えのある、プリカは知らないその声は、バーダックの妻、カカロットの、そして……プリカの母親の。

 

 「ぐ、ああッッッ!!! ぎぎぎぎぎ!!!!!」

 

 「こ、こいつどこにこんな力が……!!!?」

 

 抑え込み合う中、プリカの背中に、奇妙な感触が現れ、それと共に劣勢になりかけていた力比べは、一気に逆転した。

 俺には覚えがあるその感触、プリカもすぐに俺を通して、その感触の正体を知る。

 

 (鬼の貌……)

 

 当然だ。

 何故か自然と、俺はそう思った。

 ――――そして、ついに待ち望んだその時がやってくる。

 

 「空が……ち、ちくしょう……!!」

 

 「くそったれめーっ!!!! ぐううううう……」

 

 三体の大猿が一気にその力の根源を失い、縮んでゆく。

 大猿の大きさ分、サイヤ人達と俺達の間には距離があり、俺は、プリカに肩を貸されるような形で地上へと降り立った。

 それと同時に、力を使い果たしたピッコロも縮み……戦場は、一気に静まり返る。

 響くのは、戦士達の息切れだけだ。

 

 「ふ、ふぅ……よ、よく頑張ってくれたな、ソシルミ、プリカ、ピッコロ!!」

 

 「はぁ……はぁ……再戦のまえに、きさまらを食われては溜まったもんじゃない」

 

 地球の戦士達は全員、満身創痍。

 同時に、大猿による強化を失ったベジータとナッパの疲弊っぷりもまた、凄まじいものだった。

 俺はプリカの肩から抜け出し、一歩、また一歩と、ゆっくり歩を進めてゆく。

 これが、最後のチャンスだ。

 

 「やめろソシルミ!! もうおまえには、ちっとも力が残ってないはずだ!!」

 

 ヤムチャが叫ぶ。

 だがこれが、最後のチャンスなのだ、俺は、やらなくてはならない!!

 

 「ヤムチャさん、ソシルミを止めましょう!!」

 

 「オレが行く、二人は待っててくれ」

 

 そんなヤムチャを制止して、プリカが駆け寄ってくる。

 ……ヤムチャの言葉は事実だ。

 俺の体は、この中の誰よりもボロボロだった。

 ベジータと殴り合い、大猿に握られ、弾き飛ばされ、挙句の果てに10倍以上のパワーのプリカにくっつき、そのエネルギーの奔流に身を晒したのだ。

 正直言って歩くだけで精一杯……。

 プリカが、俺の肩を掴んだ。

 

 「プリカ……」

 

 「なあ、ソシルミ」

 

 「今度は、死なせたくない、頼む」

 

 プリカが目を見開いて、悲しげにして、ぎゅっと瞑ってから、開いて、名残惜しそうな色を残したまま俺の肩を手放す。

 俺はその勢いのままにゆっくりと歩き出し、サイヤ人二人の前に立って、手を広げた。

 

 「ベジータ、ナッパ!! ……停戦しよう、もう手出しはしない、地球から去ってくれ!!」

 

 俺の行為と、叫びを前にサイヤ人……ナッパは困惑し、ベジータは、じっと俺を見る。

 仲間達も、再び静まり返った。

 これは都合がいい、語らせてもらおうじゃないか。

 

 「なあ、俺達の戦い方をたっぷり味わっただろう、堪能してくれたか? 面白いことを考えたな、なんて思わないか? あのカカロットは生身のまま何倍も力を増やす技を手に入れた、プリカは俺と一緒になって、大猿なのに機敏に動いて見せた」

 

 俺は宣伝する、この地球を、武道を。

 

 「だがそれも、サイヤ人が持っていた凄まじいポテンシャルあってのことだ……戦いが大好きで、死ぬほど強くて、どんどん強くなる、俺にとっては、最高のパートナーだ」

 

 そして、この俺の愛を。

 

 「なあ、ベジータ、ナッパ、俺は――――」

 

 「……おい、茶番はよせ」

 

 俺の演説を止めて、ベジータがエネルギーをチャージする。

 掲げた腕の先に居るのは、もちろん、俺だ。

 

 「ソシルミ、一つだけ聞くぞ」

 

 「ご自由に」

 

 「何故、大猿になったオレたちのしっぽを狙わなかった?」

 

 …………。

 そう言えば、そんな手段もあった。

 俺は思わず、プリカと、クリリンを見る。

 

 「考えもしなかった」

 

 「…………フン」

 

 ベジータはチャージしたエネルギーを虚空へと捨て、踵を返した。

 あの方角には、確か宇宙船がある。

 

 「ナッパ、帰るぞ」

 

 「お、おいベジータ! なあ、この星に残って……いや、ドラゴンボールってのを奪ってよ、ラディッツを……」

 

 「二度は言わん、さっさと付いてこい」

 

 二人の背中がぼやけ、ぐらつき、地面がいやに恋しい。

 俺は浅くなってきた呼吸を無理に深くして、二人に声をかけた。

 

 「また来てくれ」

 

 振り返ったベジータの忌々しげな顔を最後に、俺のまぶたと意識は、ゆっくりと閉じられていった。

 

 

→つづく




お久しぶりです、桐山です。

投稿期間が毎度長く、申し訳ありません。
やはり、終盤故に展開が難しく、文章量も大きくなってしまっているのが原因ですね。


ともあれ、サイヤ人編はこれにて終了。
次回からは戦間期と……次の話、ということになります。

無事、犠牲なくベジータたちを追い返した地球戦士。
一方で、それは未知の未来に突入しつつあることを意味します。
地球で何が起こっているのか、宇宙で何が起こるのか。
この歴史に存在する、拭い去れぬ違和感、それは一体。

……次回もお楽しみに!


追伸
感想、応援、誤字修正等、非常に励みになっております。
ついに佳境に入りつつある本作、最後までお付き合いいただけると幸いです。
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