転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第四十二話:転生地球人が星に願いをかけるまで

 無限軌道が喚き立てる甲高い摩擦音と共に、飾り立てられた戦車が廃墟の街をゆっくりとめぐる。

 飾り立てられた戦車というのは、重武装を皮肉った言葉ではなく、文字通りの意味だ。

 兵士、それと、薄汚い格好をした市民たちに見守られるその戦車は、いかにも廃墟からかき集めましたという材料を纏って、極めつけには軍服を着た犬の獣人が乗っている。

 

 「よっ!! 国王陛下!!!」

 

 「期待してますぜ!!」

 

 犬の獣人こと地球の盟主たる我らが国王陛下は民と兵からの温かいエール、そして完膚なきまでに破壊された自らの居城を前に軽くまぶたをひくつかせながらも、ゆっくりと息を吸い込み、そして、言葉を紡ぎ始めた。

 

 「―――――えー、皆さん、大変おまたせしました、多少のトラブルはあったものの、無事、ソシルミ氏を始めとした幾人もの武道家と、王立防衛軍勇士諸君の活躍あって、会場を再び設営することができました…………ここに、ピッコロ戦争終結十年祭の、再開を宣言させていただきます!」

 

 国王の言葉は……駄目だ、記憶できていない。

 ……演説が始まったと思ったら、終わっていた。

 せっかく戦勝を祝われている(はずだ)というのに、どうしても目の前の事に考えがいかないのだ。

 そんな風にまた意識を飛ばしていると、広場ではわあわあと歓声が響いていた。

 

 「さっすが国王陛下!! やっぱこういうのは短くなくっちゃね!!」

 

 「実は酒だけ持って逃げてたんだ、どうだ、飲みたいやつはいるか!?」

 

 「そんなん……全員に決まってるだろ!」

 

 「大きな声じゃ言えないが、そこらの同業者の屋台から拾い集めた機材でなんとか焼きそばくらいは焼けそうだぜ! お代はつけといてやる、食いたいやつは来い!!」

 

 「オ、オラ食うぞ!!!」

 

 ……サイヤ人が去ってから数十分、キングキャッスル前の広場は、往時の数百分、数千分の一ではあるが、喧騒を取り戻していた。

 瓦礫の山で騒いでいるのは軍人と『巨大なソシルミを見た』と言って帰ってきた市民たち。

 彼等は同じく戻ってきた国王をとっ捕まえて……後は、ご覧の通りだ、バイタリティがあってよいことである。

 

 一方の俺はというと、流石にダメージの蓄積が大きかったこともあり、プリカと共に祭からほど近い瓦礫の山に座り込んで休んでいた。

 ……のだが、祭を離れてこちらにやってくる一団の姿が。

 やたらとハゲの多い集団、よく知った、とても良く知った俺の仲間達だ。

 俺はすっくと立ち上がり、仲間達……その先頭にいる、この戦いの立役者たる御老体を迎えることにした。

 

 「わしらに面倒な軍人どもの相手をさせてゆったり逢瀬とは、いいご身分じゃのう」

 

 「これは手厳しい、……さて、おふた方への報酬については、神様がとり計らってくださるでしょう」

 

 「おい兄者、一体何をせがんだのだ」

 

 「なに、鶴仙人様も後生のことが気になるお年頃ということですよ」

 

 皆は首をかしげるが、神と繋がりの深いピッコロだけはなにかに感づいたようで、小さく毒づいた。

 

 「ふん、善行を積んで神と閻魔の野郎におべっかか、武泰斗の弟子がくだらんことをする」

 

 その言葉に含まれるのは善行そのものではなく、下心ある善行への嫌悪の色。

 カタッツの子が持っていたであろう青臭い善意が、ここには帰ってきているのだと分かり、俺の頬は軽くつり上がる。

 俺は、調子が上がっている内に皆に言うべきこと……言いたいことを言っておくことにした。

 

 「皆! 皆のおかげで誰一人犠牲を出すことなくこの戦いを乗り切れた、そのことに、作戦の立案者として心から感謝する、ありがとう」

 

 「おまえのことだから、その中には、サイヤ人も入ってるんだろうな」

 

 ヤムチャが、ニヤリと笑って言う。

 そして、天津飯がより皮肉げな笑いをこちらに向けた。

 

 「年々欲が深くなるな、ソシルミ」

 

 「ご理解頂き感謝の極み……そうとも、皆のお陰で、全員の命を買えたよ」

 

 そう言って二人に笑い返すと、皆も思い思いの笑いと、照れ隠しを作ってそれに答えた。

 しばらくそんな暖かな雰囲気が続いた後、口を開いたのは以外なことに、悟飯だ。

 

 「ぼっ……ぼく、みなさんの戦いを見て、とっても感動しました! ぼくは学者さんになりたいと思ってるけど、みなさんみたいな立派な人になりたいから、武道も続けたいですっ!!」

 

 「おー、えらいぞ悟飯、勉強はちょっとおっつかないけどよ、武道の方はオラも頑張っちゃうぞ!」

 

 「うん! そ、それと……あの、サイヤ人の人たちとも、いつかしっかり会って、ご挨拶したいなって……お父さんと同じ星の人なんでしょ?」

 

 「そうだな、オラも今度は殺し合いじゃなくて、試合で戦いてえ、天下一武道会みたいにな」

 

 その言葉に反応するように、皆がぴくりと動く。

 周りを見れば、皆どうやら、天下一武道会には興味があるようだ。

 

 「天下一武道会か……オレもやりたいな、今度はもっと鍛え込んで、ソシルミ並の肉弾戦にプリカ並の気弾をぶん回して戦う、とかもいいかもしれん」

 

 ヤムチャの言葉を皮切りに皆は、サイヤ人より筋肉をつけたい、巨大化したい……夢物語から現実的なものまで、様々な展望を語ってゆく。

 俺も興味を惹かれるのだが、俺が本題としたいのは、こんな愉快な話ではないため、お預けだ。

 いつ話を切り出すかと悩んでいると、どうやら天下一武道会という言葉に釣られたのだろう、千鳥足のサイボーグ軍人がよろよろとやってきた。

 

 「や、やるんですか!!? 天下一武道会!!!」

 

 「やりたいのは山々ですが、本家は休止中ですから、やるとしたら師匠に頼んで――――」

 

 「――――いや、そこは、わたしに任せてはくれないか?」

 

 サイボーグ軍人の影から、国王がぬっと現れた。

 

 「この星を守ってくれたのはきみたち武道家だ、その恩返しと、これからの武道家の養成のため、ぜひともその新大会に協力させてもらいたい」

 

 「王様……」

 

 誰からともなく、感嘆の声が漏れる。

 声を上げたいのは、俺も同じだった。

 国家と武道家が結びつく歴史はいくつか存在していたが、この歴史は、それらより大分早くそうなるのかもしれない。

 

 「感謝します、ですが、この勝利は貴方と、貴方の軍、貴方の民の協力なくしてはあり得なかったことも、お忘れなきよう」

 

 「……そう言ってくれるか、ソシルミくん」

 

 俺と国王は、しばし頷きあった。

 その後も、皆は久々の大集合ということもあって旧交を温めたり、新武道大会に想像を巡らせたりと愉快に話していたが、流石に疲れてきた俺がふらつくと、国王が俺の肩を支えてくれた。

 

 「大丈夫かソシルミくん、どうやらこの祭はまだまだ長くなりそうだからな、少し休んだ方がいい」

 

 皆も口々にそう言うが、未だに残るフリーザ軍の脅威など、話さねばならないことはゴマンとある。

 

 「まあ、一旦座れ、座りながらでも話せるだろ」

 

 プリカの説得に、いよいよ根負けして俺は座り込む。

 すると、そのまま引き倒されて、プリカの太ももに後ろ頭をうずめられる、膝枕だ。

 ……図られた。

 

 「さ、皆はお祭りを楽しんできてくれ、オレとソシルミはゆっくり休むからさ」

 

 プリカがそう言いながら暗に……というか露骨にあっちいけと迫ると、皆は愉快そうにしながらぞろぞろと立ち去って行く。

 そして俺は、芋色の盛り上がりに半ば隠され、夜空を背景とした我が相棒の顔を見上げる。

 

 「……あんまり顔が見えないとか思ってるだろ、いい顔しやがって、セクハラだぞ」

 

 「そういう姿勢だろう?」

 

 後頭部を占める、しっかりと筋肉が付きつつも柔らかさを失わない、完璧な感触。

 戦い疲れた身に、戦友にして愛する人の膝枕、こんな幸せがあるだろうか。

 そんな喜びを更に増す、辛うじて見えるジト目を堪能していると、その横から特徴的な黒髪が生えた。

 

 「ミソシル、辛えなら、お好み焼きもらってくるか?」

 

 「やめろって悟空、馬に蹴られるぞ!」

 

 「なんだクリリン、オラ馬くれえ平気だぞ?」

 

 「悟空、ありがとな、今はいいよ」

 

 妻子持ちのくせに何故こうも鈍感でいられるのか、礼を言いつつも自分を棚に上げて呆れてみるが、気遣いそのものはありがたい。

 結局悟空は、そのままずるずるとクリリンに引きずられて無事に退場した。

 

 「はぁ……どうする、このまま寝てもいいけど……」

 

 「お言葉に……いや、少し話そうか、体内のエネルギーが不安定だから、このままでな」

 

 遅発性乱気症(気のコントロールのやりすぎによって発症する一過性の病気)の類と思ったが、症状が異なる。

 単に疲れた、あるいはダメージが蓄積したというセンが有力だろう。

 調子の上がらない俺を気にして、プリカが顔を覗き込んだ。

 

 「オレの気も逆流してたよな……大丈夫だったのか?」

 

 「し、進化って気持ちいいねプリカくん……!!」

 

 「はいはい、わかった、わかった、そうだね、ソシルミくん」

 

 実際気持ちよかったと言えば気持ちよかった、肉体的な快楽とは少し違うが。

 プリカは俺の言葉に合わせて投げやりな同意をぶつけてから、じろっと顔を覗き込む。

 

 「それで、今度は何が気になるんだ? 言ってみろ、ピッコロが聞いてるから、話せる分だけな」

 

 「……分かるのか」

 

 「こんないいことあったのに、疲れてるから休むなんて、おまえらしくない」

 

 はっとしてプリカを見ると、わからいでか、というように微笑まれ、俺は何も言えなくなる。

 そう、俺の調子が上がらないのは不調からではなく、不安から。

 俺は気恥ずかしさに目を逸しがてら、中天から降りつつある月に視線をやる。

 

 「神様と一緒に隠したアレが出てきた理由が分からん、流れ弾ではないはずだ」

 

 「……まさか、誰かがやったって?」

 

 「その通りだ」

 

 俺達の関与の外で変化した歴史の、その『原因』となった……『何者か』。

 仮定に仮定を重ねることになるが、それくらいしか思いつかない。

 

 「考えすぎだ、ソシルミ」

 

 「そうかもな、だが……」

 

 「なにかがあるとしても、オレとおまえがいて、皆も鍛え込んでる、だからきっとなんとかなる……そうだろ?」

 

 「お前らしくないことを言う」

 

 「おまえの言葉だ」

 

 そういえば、ずっと昔に言ったことがある。

 あれから色々と(自業自得にしろ、釈然としないことにしろ)ひどい目にもあったが……確かに、俺達はそれを乗り越えもしたな。

 そんな感慨に浸ろうとしていると、プリカは俺の頭を手で挟んで、強制的に俺の視線を奪った。

 

 「……なあ、ソシルミ」

 

 「なんだ、プリカ」

 

 「ありがとな」

 

 まっすぐに笑いかけてくるプリカの理解不能な感謝は、俺の心に残るわだかまりを、ひとまず消し去ってくれた。

 だがまだ、語らなくてはならないことはあるのだ。

 俺はプリカを見上げたまま、不確定ながら存在し続けている脅威について話し始める。

 

 「ベジータ達からデータは行ってないはずだが、……まだ、フリーザは…………、だから……」

 

 視界が突然黒くなった、温かい、プリカの手だ。

 駄目だ、急に眠くなって。

 でもまだ、話すことが……。

 

 

 

 

 「そっちはもうわかってるから、ちょっとは休んでろ」

 

 目を塞いでやるだけで眠りについた相棒の疲労困憊っぷりに、プリカは心配してやろうと思ったが、どうにも、腹の底から柔らかな笑みが湧いて、それ以外の表情が作れない。

 その理由は、プリカには分かっていた。

 

 「……おまえがこれだけやってるんだ、なんとかなるさ」

 

 最強になる、そんな大それた夢を、宇宙の運命ごと飲み込もうと足掻く人。

 自らが愛する世界をより良く生きるため、全霊で奔走し、戦う男のことを、自分はとてもとても深く信頼してしまっているから、だ。

 

 

 

 

 「もっとだ、もっと……、クリリン、武天老師様と見てるエクササイズはどうした、もっと体を柔らかく保て」

 

 「キツいぜソシルミ、それに、あのエクササイズは、エクササイズって言ってもだな……」

 

 「とにかく、まずは精神力だ、やれると思い込め、体が硬いなら俺が曲げてやる」

 

 「む、むちゃくちゃ言うぜ」

 

 とにかく急ピッチで訓練を進めなくてはならないのだ、そう伝えると、クリリンはダラダラと汗を流しながらブリッジの姿勢を取り、その高度をぐいぐいと高めていく。

 あれから一月ほどが経ち、ここはメカメカしく大きな部屋の中、俺とクリリンはヨガの訓練をしていた。

 

 「な、なあソシルミ……、おまえが焦るのって、ベジータの上に、もっと恐ろしい大悪党がいるって話と、つながってんだよな、多分……」

 

 「……その通りだ」

 

 あの宴会の後、俺は仲間達や国王に向け、新たな脅威となりうる存在として、フリーザとその軍のことを教え、戦力増強のため、ブリーフ博士やピラフ、プリカと相談して、皆に重力室の使用を進めることにした。

 とはいえ、この世界ではベジータ達のスカウターが失われたためナメック星の情報は伝わらず、ピッコロも死んではいないため、すぐに相対することにはならないだろうが……。

 それでも、因縁はあるし、例の『何か』の存在もある。

 どちらにしろ戦力の増強は急務なのだ、少々焦ってもバチは当たるまい。

 

 「そのためにも、もっと足を伸ばせ」

 

 「イテテテテテ!! む、ムリだって! 伸びな……あーっ!!!」

 

 ヨガの鍛錬の進捗はともかく、クリリンを含めた皆の信頼はとてもありがたいものだ。

 

 「い、いつ……くぅ……、お……おまえとプリカが考えたってこの部屋も、とんでもないもんなあ……確かにこんなとこで鍛えられるなら、ずっと強くなれるよ」

 

 クリリンの言葉と同時に、室温が50℃から、-20℃に急落し、汗に包まれていた俺達の体は、それがそのまま凍結した氷に包まれた。

 

 「ひっ……冷たっ!! 地球を守るためとはいえ二人とも太っ腹だよなあ、こんないいもの教えてくれるなんてさ」

 

 「一応プリカも噛んでいるが、メインはピラフとブリーフ博士だし、そもそも高重力訓練のアイデアは神殿にある精神と時の部屋から頂いたものだ」

 

 「そういう話じゃないって、ありがと……ぎゃーっ!!!!!?」

 

 照れくさくて目を逸しながら、息も絶え絶えのクリリンが眉間にシワをよせてこちらを見上げていた。

 恨みがましい目……ではない、真剣な目だ。

 

 「はぁ……はぁ……なあ、ソシルミ、もしフリーザってやつが来るとして、この機械でどれくらい鍛えたら勝てるかな」

 

 「…………悟空とプリカ、あの二人がカギだ」

 

 フリーザの戦闘力は圧倒的、集団戦法がうまく行けばマシにもなるかもしれないが……。

 楽観は絶対に出来ないし、いくら策を練っても、『何か』が出現してそれを破壊する可能性もある。

 ならば、正面から打ち破る超サイヤ人の出現に、頼るしかない。

 

 「そっか、――――なあソシルミ、おまえ最近、自分があいつらより力がないのに悩んでるんじゃないのか?」

 

 「~~~~ッッッ!!!」

 

 俺の言葉をあっけなく受け入れた次の瞬間、クリリンは、直球で、俺の本心に触れてきた。

 その瞬間、俺は多分誰の目にも明らかなほど大きくびくついたに違いない。

 ――――そうだ、俺は焦っている、もっと、もっと強くならなくてはならない、と。

 

 「……その通りだ」

 

 「やっぱ、悟空の『あれ』見ちゃったらなあ……、オレもちょっと尻込みしちゃったよ」

 

 「界王拳を見て、ちょっと、か」

 

 「まあな」

 

 クリリンはそう言って、上を見てほほえむ。

 界王拳を使った悟空の持つ、恐怖を煽られるほどの絶大なパワー。

 それを思い出しているであろうクリリンはにこやかに、ただ空を見た。

 

 「……力では追いつけないかもしれないけど、どんどん技を増やせばなんとかなるかもしれないだろ? だから、こうやって教わってるんだしな」

 

 「…………なるほど、な」

 

 ひどい生返事は、納得出来なかったからではなく。

 ただ、眩しかったのだ。

 そのまっすぐな楽観が、遠い強さの先を見る目が。

 

 「今日のところはこれくらいにしようかクリリン、焦っても、体の硬さは一日じゃどうにもならないしな」

 

 「ああ、ありがとなソシルミ、教わった分だけでも、ちょっと体の温め方がわかってきた気がするぜ」

 

 答えは……得られなかったが、憧れは得られた。

 そんな想いを胸に、俺は装置のスイッチを切り、部屋の外、カプセルコーポレーションの庭へと出る。

 俺は汗に戻りつつある霜を払って、ベンチへと腰を下ろした。

 周りにはいくつもの重力室が所狭しと並んでいて、その一つでは、プリカと悟空が盛んにスパーリングを行っている。

 

 「重力倍率は鍛錬開始当初より高く、それでも激突速度の鈍りは一切なし、か」

 

 余裕を残していたのやら、強くなっているのやら、どちらにしても……。

 やめだ、流石にうじうじしすぎだ。

 別のことについて考えよう。

 思いつく議題は……ただ一つ、月の偽装を解き放った『何か』か、『誰か』。

 

 「……候補は……絞りきれない、か」

 

 単なる偶然、潜伏中の悪党、和解したはずのいくつかの勢力、未だ存在を確認出来ていない既知の悪党の数々……。

 複合して考慮すべき要因も絞りきれない、魔族の出現、ラディッツのパワーアップ、果ては俺とプリカの出身まで。

 だが、それでも、この世界における一つの法則と呼べるものが、考えの放棄を迫る。

 

 「……何にしても、倒すしかない」

 

 この世界の存在は、どうやっても『力』を得る時、強くなる。

 そして、敵が強くなっているのならば、倒すしかない。

 そしてそして、強い敵を倒すためには。

 戻ってきた『うじうじ』に、俺の眉間がムキッと音を立ててシワを寄せる。

 

 「もっと鍛えるしかない、それも、危機の程度によっては、俺は主戦力ではなく……」

 

 「――――なあ、ソシルミくん、何を悩んでいるんじゃ?」

 

 後ろからの声に振り返ると、そこにいたのは、工具箱を抱えたブリーフ博士だった。

 ……行き詰まったのなら、年長者に相談するのもいいかもしれない。

 伝えていいことといけないこと(俺の勝手な予想で皆を混乱させたくない、というやつだ)を考えながら、俺は言葉を紡ぐ。

 

 「ええ、なんというか……これからの戦い、ちゃんとついていけるかなあ、と」

 

 「きみは中の都でも大活躍したっていうじゃないか、もっと気楽にやったらいい」

 

 「気楽に、と言われましても……」

 

 「なんでも、楽しんでやらないとつまらないよ?」

 

 ……そういえば、この人は地球存亡のかかった宇宙船の出発を、ステレオの配置にこだわって遅らそうとするような人だった。

 そして、この意見、トートロジーだが一理ある。

 だが、その一理は……。

 

 「戦うのも、鍛えるのも、楽しいんですよ、でも、楽しいだけじゃ、足りないんです」

 

 プリカも悟空も、皆も俺も楽しんでいる。

 絶対負けないように限界を極め続けているし、相手を殺すことにだって拘っていない。

 想いで負けているのかと言われたら、絶対に違うと叫ばせてもらう。

 だが、それ故に、出すべき答えも限られるのだ。

 

 「……もっと、頑張らなきゃいけません」

 

 「そっか、休みはちゃんと取るようにするんじゃぞい」

 

 俺の根性論に何を言うでもなく、ブリーフ博士は軽く手を振って重力室の様子を見に行った。

 それを見送った俺は、また嘆息する。

 

 「――――いかに強くなろうとも、共に走る仲間がより早ければ……俺は最強にはなれん」

 

 いや、それどころではない。

 フリーザ軍、ゲロ、バビディ、そして、この歴史に潜んでいるかもしれない『何か』。

 立ちふさがる危機を前に俺は主戦力になれないかもしれない、その危惧……いや、事実に、追い詰められているのだ。

 俺がどうしようもない悩みを抱えながら、じっとプリカと悟空の入る重力室を見ていると、今度は隣から声がかかった。

 

 「……ソシルミ、おまえはプリカと鍛えてると思ったが、違うんだな」

 

 「ヤムチャか、……ああ、誘われはしたが俺から断ったんだ、耐えられる重力の差が大きすぎる」

 

 さわやかな汗をそのままに、ヤムチャは控えめな感じで。

 そして、俺の答えを聞くと更にバツが悪そうに本題を切り出した。

 

 「ク、クリリンから聞いたんだが、あいつらとのパワー差で、悩んでるんだって?」

 

 「……その通りだ、打開策も見当たらん、技の一つや二つなら思いつかんこともないが、これからの戦いはこれまでとはわけが違う」

 

 やけに踏み込んでくるヤムチャに、それを咎めるくらいの気持ちではっきりと不安を伝えると、ヤムチャはちょっとたじろいで、それから、今度は普段のへらへらした調子で言葉をつないだ。

 

 「じゃあ、どうするんだ? 技じゃどうにもならないなら、ドラゴンボールに願って、何かしてもらうとか……」

 

 「俺はドーピングを気にするタチじゃないが、それは流石にズルだな」

 

 「だ、だよな……」

 

 「しかし……星に願いを、ってくらいなら、アリかもしれん」

 

 空を見ながら放った、若干本音の混ざった言葉に、ヤムチャは息を飲む。

 そして、その弱音を咎めるように強く、しかしおずおずと声を張った。

 

 「な、なあソシルミ! オレと……いっちょ、スパーリングしてくれないか!? か、軽くでいいんだ……!」

 

 

 

 

 俺とヤムチャの拳が次々と交差し、生半可な建物ならばそれだけで倒壊しそうな程の衝撃波が舞い散る。

 これでも重力をかけていることで動きはぬるくなっているのだが……それをものともしないほどに、スパーリングは盛り上がっていた。

 

 「さて、そろそろこの試合の意味を教えてもらいたいものだ……なッッ!!!」

 

 「ぐっ……な、なんのことだか……!」

 

 「――――シィッ!!!」

 

 「うわっ、ととっ!!」

 

 俺は軽い拳打とフットワークを組み合わせ、ボクシングのように立ち回っていた。

 ヤムチャは劣勢だ、捌いてはいるが力の差はいかんともし難い、この現状はまさに俺と……。

 

 「ま、まだくらくらするぜ、重いだけじゃ済まないのが厄介だな、この部屋は!」

 

 「生体機能への負荷はいい修行材料になるだろ? それとも、慣れるまで手加減しておいてやろうか?」

 

 「ぬかせっ!!」

 

 そう言いながら俺の拳を捌き続け、次第に高重力に慣れてくるヤムチャ。

 だが、やはり、正面からの打撃戦では俺に分があるのは変わらない。

 

 「さっ……さすがソシルミ、言わなくても抑えてくれてるんだろうがっ……それでもキレが違うぜ!!」

 

 「ありがとうヤムチャ、だが、少しくらい効果的に打てたところでッッッ……!!」

 

 俺は感謝された加減を消し去り、あえて全力に近い一撃をヤムチャへと叩き込む。

 拳に込める意思は詰問、若干の苛立ちと共に、こうまで踏み込んできた理由を問いただす!!

 

 「ぐっ……つぅ……!! お、重い……!」

 

 いきなりの加速を前に、ヤムチャはすんでのところで対応しつつも、腕をクロスさせる強引な形に留まったその防御はダメージを逃しきれず、強い重力の中で数メートルは後退するほどの衝撃を受けた。

 

 「――――わかりきったことだが、悟空はちょっと力を込めるだけで、これよりずっと高威力の打撃を繰り出すぞ」

 

 「お、おまえはあのベジータとだってやりあえてただろうが!!」

 

 「サイヤ人の成長速度と伸びしろを舐めるな、あいつらに望むだけの負荷を与えられるこの部屋は……俺達にとって、終わりの始まりだと思え」

 

 「ソシルミ……」

 

 ヤムチャは吐き捨てるように放った俺の言葉を前に、眉をひそめ、歯噛みする。

 仲間との才能の違いを叩きつけられたことへのいらだちか、突如ぶつけられた意思への反発か、戦友が敗北主義に堕したことへの怒りか。

 俺もまた、自分が放った言葉に動揺していた。

 これが俺の本音か、だからさっきも、わざと手加減などと言ったのか?

 

 「そ、それでも……!!」

 

 「――――ツアアッ!!!」

 

 ヤムチャが紡ぐ言葉を切って、俺は蹴撃を叩き込んだ。

 避けるヤムチャだが、その先には刈り込むように回った俺の腕がある!!

 

 「さっき、あいつとの鍛錬を断ったと言ったろう、実力差があるからとなッッ!!」

 

 「ぐぅ……っ……そ、それがどうした!!」

 

 「なっさけないツラで俺を見たんだ、俺が弱いからって断ったら、そりゃもう、ひどい顔でな………キエエエエッッッッ!!!」

 

 かすりながらも追撃を避けたヤムチャに襲いかかるのは、先に体勢を整えた俺による追い打ちのサッカーボールキック!

 そうだ、プリカのあの苦痛に歪んだ顔……!!

 どんな気持ちだろうな、一度は自分を破った男が、今は完全に体の性能で破れ、共に鍛えることすらままならないというのは!!!

 

 「ぎっ!!! ……な、なんて威力だ!!」

 

 「それだけじゃない、あの顔は優しかったよ、追いつけないなら仕方ないと、見下すわけでもなく……そうだ、俺はもう、ただ鍛えてるだけで、優しくされなきゃいけないんだぜッッッ!!!?」

 

 「あの戦いはおまえがいなくちゃ勝てなかっただろ!!!」

 

 「勝つだけなら悟空が殺せばよかった!! クリリンが切り刻めばよかった!!!」

 

 精神を制御できない。

 俺はヤムチャから距離を取って、息と気を整えつつ、それでも言葉を吐き出し……いや、言葉が吐き出され続ける。

 

 「当然、悪いのはプリカでもなく悟空でもない、俺だ、俺の弱さが悪い、ああでも、サイヤ人の鍛錬効率が……!!!!」

 

 「やめろソシルミ、そんなことを言っても仕方ないだろ、おまえは十分に強いじゃないか!!」

 

 「ヤムチャ……お前は、平気なのか? お前と悟空の間に何倍のパワー差があるんだ、成長速度だって違う、勝ち目はないぞ」

 

 「オ、オレは…………」

 

 答えながら、ヤムチャはじりじりと俺の背後へと回り込んでゆく。

 あくまでスパーリングだが、俺に何を見せる、ヤムチャ。

 筋違いの怒りを吐きつけながら、俺は10年来の友に、強く期待を寄せていた。

 寄せていながらも……自分を止めることができない。

 

 「コンピューター、重力操作オフっ!!」

 

 「ッッ!?」

 

 「新々狼牙風風拳!! はいーっ!!!!!」

 

 急激に軽くなった体、背後から迫るヤムチャ!!

 その気迫は殺意さえ感じさせ―――――

 

 「はい!!! はい!!!!」

 

 「~~~~ッッッ!!!」

 

 初撃の蹴りを捌くと、それを掴みにかかるヒマさえ与えず飛び込む連撃――――疾い!!!

 浴びせかけられる広がった手の打撃が俺の頬を裂き、腕を削る。

 全力で捌いて致命打を避けるが……有効範囲の広いそれを防ごうとうかつに防御を固めれば、ヤムチャはその隙を突いてくるだろう!

 だが――――

 

 「はいはいはいはい!!!!」

 

 「シィッッ!! ツィ!!! グゥッッ……!!!」

 

 この打撃、疾さだけではない!!

 解析しきれぬ動きを前に、俺の防御は機動的なものから、そうあってはならぬ、『固める』ものへと近づき。

 

 「オウ~~~~!!!!!」

 

 「…………ッ」

 

 必殺の一撃が来る。

 腕を上下対照に重ねた奇っ怪な拳がこの連撃の終着点、防ぐ手段は既にない。

 受け入れ、跳ね飛ばされてしまえば、このスパーは終わりだ。

 何を伝えられたのかも、わからないままに――――指先が、腹に触れる。

 

 「――――ッッッッ!!!!」

 

 「なっ!!?」

 

 その『瞬間』。

 腹がぐるりと回転し、背になる。

 防御姿勢の腕は、回転の間に拳となり……!!!

 

 「()ァァァァッッッッ!!!」

 

 「ご―――――」

 

 全力の拳が、ヤムチャへと突き刺さったッッ!!!!

 ……ヤムチャはそのまま部屋の壁に叩きつけられ、ずるずるともたれかかるように腰を下ろす。

 

 「ハァ……ハァ……う、腕を上げたな、素晴らしい技だった……」

 

 「か……開口一番にそれか、……おまえらしいぜソシルミ」

 

 苦しみながらもヤムチャは笑う。

 一方の俺は、このスパーリング、いや、試合となった殴り合いの最後に使った技……否。

 技とも言えぬ力について想いを巡らせていた。

 

 「優れた反射神経が的確な技を導き出す……俺の持つ最大の能力の一つだが、ここ数年、こうまで研ぎ澄まされたことは、なかった」

 

 「……忘れてたからじゃないのか?」

 

 「忘れていただと?」

 

 「なあ、ソシルミ、やっぱりお前は強いな」

 

 いきなり何を。

 自らの技への疑問も、弱さへの失望も、踏み込まれたことへの怒りも忘れて問おうとする俺に、ヤムチャは言葉を続ける。

 

 「力の話じゃない、反射神経とかとも違う、おまえはどこまでも強さを求めているじゃないか、だから、磨き上げた技では悟空でも勝てないし、かめはめ波なんか使えなくっても、誰よりもたくさん技を持ってる」

 

 「…………ヤムチャ、それは」

 

 「違わないはずだよな、おまえは、謙遜で力の差を見誤るようなやつじゃない、……前の前の天下一武道会でチャパ王さんとやったあの戦い、あれをやれるのは、この世でお前だけだ」

 

 あの戦いを思い出しているのだろう、ヤムチャは遠い目をする。

 技巧の限りを尽くし、戦いながら戦い方を進化させ、新たなる技を繰り出し、最後には死力を出し合って相手を倒す。

 あの戦いには、俺のすべてが詰まっていた。

 

 「だから、いつかきっとあいつらのパワーに届く技が使えるぜ、おまえは……オレも、オレの技にそんな日が来ると思って鍛えてるんだ、オレも、あんな試合をやりたいしな」

 

 「それは、まさか、俺を見て」

 

 俺を見て、俺の戦いを見て、そう思ったのか。

 そんな俺の震える声に割り込んで、ヤムチャは答えを突きつけた。

 

 「さっきの技、新々狼牙風風拳……見覚えがあるはずだ」

 

 ……確かにあの技、俺の記憶に存在する『ある技』と、僅かに似ていた。

 連撃をただ疾さだけではなく、敵への幻惑としても用いる必殺拳、それは――――

 

 「――――八手拳……ッッ!!!」

 

 新々狼牙風風拳が八手拳を取り込んだ技だというなら、話がつながる。

 師匠との戦いを最後に長らく触れることのなかった、速さと重さを超えた場所にある純粋な武道のやりとり。

 それが俺の……強さを求め続ける存在としての本能を呼び覚ましたのだ。

 

 「おまえが好きそうな話だろ?」

 

 「ああ、ヤムチャ……俺は――――」

 

 何を言えばいいのかすら分からない、ただ、まずは感謝を。

 俺が万感の思いでそれを伝えようとしたまさにその時、重力室の無駄に高性能なステレオから、超音質大音量大迫力の音響で博士の声が響いた。

 

 『ソシルミくん、ヤムチャくん!! 大変じゃ!! 中の都に、またサイヤ人の宇宙船が着陸したんじゃ!! 王立防衛軍から電話が入っとるぞい!!』

 

 「な、なにっ!!?」

 

 「分かりました、すぐに!! ヤムチャ、ありがとう、ひとまずこれで俺はなんとかなりそうだ……、今参りますッッ!!!」

 

 

 

 

 人払いの済んだ中の都。

 瓦礫と化したキングキャッスルの前に、ぽつんと一つ、クレーターとポッドだけが佇んでいた。

 それを囲むのは、俺とプリカ、悟空、ヤムチャ、クリリン、そしてブルマ、後方に控える数人の軍人達。

 

 「……せっかく復興中だったのに、またこんなことになるなんて」

 

 ブルマのその言葉は、皆の心境を代弁していた。

 一月近くの間に復旧と復興が進められていた中の都を襲った再びの脅威……。

 だが、その嘆きから一歩踏み込めば、数々の疑問が湧いてくる。

 それを口に出したのは、ヤムチャだった。

 

 「だが、サイヤ人は納得して帰ったはずだろ? なんで今になって……」

 

 「――――俺は、嫌な予感がする」

 

 「大丈夫か、ソシルミ」

 

 プリカが俺を気遣うが、気は晴れない。

 それは、俺自身が気を揉んでいるからだ。

 なぜ落着したはずのポッドが開かないのか、なぜ、宇宙センターがポッドの襲来を検知出来なかったのか。

 

 「……とにかく、開けてみないとどうにもならないだろ」

 

 そして、なぜポッドは、一つしかないのか。

 クリリンの言葉は真実だったが……俺にとっては……。

 

 

 

 

 メッセージが録音された、血まみれのスカウター。

 

 『最初に結論から言う……、オレもナッパもこれから死ぬ、カカロット、プリカ、サイヤ人の最後の王子の、最後の言葉を聞きやがれ、それから先は……きさまらが決めろ』

 

 スイッチを押すと始まったのは、録音メッセージ……いや。

 ベジータの、遺言で……。

 

 「再生、一旦止めろッ!!」

 

 「ソシルミ!?」

 

 止まるメッセージ、俺はポッドをもう一度見る。

 覗き込む、漁る。

 ……中にあるのは、血まみれになったコンソールだけだった。

 

 「これだけ……か、本当に……」

 

 ……ポッドに乗っていたのは、血まみれの、通信機能が破壊されたスカウターが、一つ。

 間違いない、ベジータが、自分の遺言を録音し、ポッドで送り出したのだ。

 

 「……ソシルミ、大丈夫か?」

 

 俺の顔を覗き込むプリカは、ひどく辛そうな顔をしている。

 だが、そんなプリカが更に俺を心配しているのを見ると、俺はどうやら、ひどく辛そう、どころじゃない顔をしているらしい。

 ……ベジータが本当に死んだならば、俺が歴史を変えたことによって産まれた死者、ということになる。

 悪さをしている魔族や山賊なんかと戦うのとはわけが違うその重みを、感じざるにはいられない。

 だが、辛いのはプリカも、悟空も同じだろう。

 

 「ベジータ……あいつが遺言を、それも、オラたちに遺すなんて……」

 

 「悟空……」

 

 悟空は複雑な顔をしている、思うところがないはずもないのだ。

 プリカの慰めと時間に動揺を取り去ってもらった俺は、ようやく人心地ついた。

 

 「すまない皆、取り乱した」

 

 「おまえが一番、あいつらとの戦いをやめるために頑張ってたもんな……」

 

 ヤムチャの言葉は事実なのだろう。

 だが、いつまでも苦しみに悶えているわけにもいかない。

 

 「奴が何か、俺達に言葉を残したというならば、聞くのが道理だ、奴等にとって最後に触れ合った相手は多分、俺達なんだからな……」

 

 そして、遺言の再生が再開される。

 その遺言はことの発端を説明することから始まり……。

 その内容は俺達への、警告だ。

 

 スカウターから聞こえる、風切り音と、爆発音、射撃音、断末魔、ベジータは基地を破壊しながら、この遺言を録音していた。

 フリーザはなぜかポッド内に放置されていたスカウターから盗聴を行っており、地球での会話と状況証拠から、ベジータが地球のサイヤ人と結んで反乱を試みていると判断し、粛清を決意したのだ。

 当然否定するベジータだが、あのフリーザが聞く耳を持つはずがない。

 

 『……やつは笑いながら言ってたぜ、惑星ベジータの破壊は隕石じゃなく、自分のやったことだ、今おまえも仲間達のところに送ってやる、とな……ふ、ふふ!!』

 

 それは、サイヤ人への運命に向けた笑いか、自分への怒りか。

 ……フリーザの言葉を受け、太陽拳を再現して奴の元から逃げたベジータ達だが、自分達が星を脱出出来る可能性は既に存在しないと確信していた。

 故に、俺達に遺言を残したのだ。

 ベジータはナッパを大猿にして、基地を破壊しながら、ひたすら逃げ回る。

 

 『勘違いをするなよ、借りを返すだとか、生き残り同士の甘ったれた情だとかでやってるんじゃない』

 

 結局、遺言を残す理由を、ベジータは語らなかった。

 だが、俺達と通じ合ったことによって、何か変化があったのだとすれば、それは、俺達にとってきっと、救いになるだろう。

 

 『いいか、三日だ、オレたちが暴れてもせいぜい三日しか稼げん、やつは必ず、軍を引き連れて地球を滅ぼしに行く、きさまらは……、好きにするんだな』

 

 好きにしろ、という言葉が意味するのは、逃げろということか、戦えということか。

 それとも本当に、好きにしろと思っていたのか。

 

 「……遺言を残した理由は分からんが、とにかく、あいつが俺達に遺したものを、無駄にするわけにはいかん、早くこれを皆に――――」

 

 「――――待てソシルミ、まだ、もう一件ある」

 

 「何ッッ!!!?」

 

 

 

 遠くで、ナッパが基地を踏み荒らす足音が響く。

 近くでは、兵士達ががなり立て、その度にベジータの拳で一撃の元に粉砕される。

 そして時折響く、ベジータのうめき声。

 基地での戦いは、最終段階に近づいていた。

 

 『こ……こんなことを言ってやるのはシャクだが、これでフリーザの野郎が泡吹く可能性がちょっとでもあるんなら、やってやる……!!』

 

 苦しげにしながらも、ベジータはスカウターを再び握り、ポッドのスイッチ系をしきりに弄りながら、遺言の最後のページを埋めようとしていた。

 

 『いいか、カカロット!! プリカ!! サイヤ人の誇りを忘れるな!!! フリーザのやろうには絶対負けるんじゃないぞ!! サイヤ人ってのがいやなら、善人でも、格闘家でもなんでもいい、とにかく、やつに負けるようなことは絶対に許さんからな!!』

 

 「ベジータ……おめえ……」

 

 思わずといった感じで、悟空がつぶやく。

 ……やはり、ベジータは戦闘民族の誇りを何よりも大事とする、サイヤ人の王子なのだ。

 そう、俺達が思ったとき……嫌々ながらといったふうに、ベジータが言葉を続けた。

 

 『それと、ソシルミ……』

 

 俺に皆の視線が集中する。

 一体何を伝えたいのか、『まとめ役』と見込んだ俺に伝えたいことがあるだけか?

 俺は疑問と不安、そしてほのかな期待を胸に、血まみれのスカウターをじっと見続ける。

 

 『いいかよく聞け、まず、プリカはサイヤ人最後の女だが、おまえにやる、王子としておまえたちを祝福してやろう』

 

 「い、いま言うことかよ!?」

 

 『だが……ソシルミ、きさまは自分の誇りを見失っている、このままではサイヤ人最後の女の夫は務まらん、……いいか、あんな卑屈な戦い方は二度とするんじゃない!! きさまも種族最強の戦士なら、誇りを持て!!!』

 

 ベジータはそう叫ぶと、十秒後の録音停止をスカウターに命令する。

 ポッドにそれを投げ込むと、続けてポッドの起動音と大猿の悲壮な吠え声が中の都に響き……。

 最後に告げられる音声終了の通告が、俺達を現実に呼び戻した。

 

 「誇り……」

 

 だが、俺の胸には今も、ベジータの言葉が響き続けていた。

 誇りという、ありふれた言葉。

 何を言っているのかすら、今の俺には分からない。

 にも関わらず、俺の心はそれをようやく訪れた、待ち望んだ『何か』だと感じ、捉えて離さないのだ。

 そしてそれは、隣の悟空も、そうらしかった。

 

 「サイヤ人の誇り……そうか、オラの父ちゃんも母ちゃんも、フリーザってやつに、殺されちまったんだな……」

 

 「サイヤ人はみんな、ひどいやつらだった、あちこちの星を侵略して滅ぼして、それを売って暮らしてたし、オレたちの親もそうだった、……でも、オレたちの両親は、最後に、オレたちを逃してから死んだんだ」

 

 「……父ちゃん、母ちゃん、会ったらケンカになっちまうのかもしれねえけど、オラは会ってみてえよ」

 

 兄弟か、兄妹か、姉弟は、悲壮な顔で同意しあった。

 自分達はみなしごなのだと、二十余年もかかって、やっと理解したのだ。

 仲間達が悟空とプリカを気遣う中、俺はその思いに同調しつつも――――たった一つだけ、問わずにはいられない。

 

 「皆、よく聞いてくれ、俺は一年の間に、三隻の宇宙船を用意した」

 

 プリカ、悟空、そしてラディッツの宇宙船をタンドール王国にて改造した宇宙船だ。

 元の歴史で悟空が用いたそれよりも多機能で高性能なそれの使いみちは、『いくつか』想定していたが……。

 

 「それを使えば地球を脱出してしまうことも出来る、カプセルをしこたま積み込めば、どこか遠くの星で平和に暮らすことも出来るだろう」

 

 「お、おまえはどうするつもりだよ」

 

 皆が息を飲む中、クリリンがそう問いかけた。

 

 「俺は……」

 

 プリカをチラリと見る。

 プリカは、頷いた。

 

 「プリカと共に最後まで鍛え、フリーザに決戦を挑む」

 

 「オレもそうする、地球をそんなやつらの好き勝手にされてたまるか!」

 

 「クリリンの言う通りだ、オレも戦うぞ!!」

 

 「オラもだ」

 

 各々決意を固めてゆく中、ブルマが震えていた。

 だが、震えるブルマは、次第に肩をいからせ、目を吊り上げてゆく。

 

 「……か、かってにビビって、かってに殺しに来るなんて、そんなこと、許せるもんですか!! あんたたち、やっちゃいなさい!!! ヤムチャ、負けたらただじゃおかないからね!!!?」

 

 「あ……ああ!! オ、オレがフリーザと正面から戦うとは、限らないけどな……」

 

 ヤムチャの弱気でゆるんだ空気に割り込むように、今度は後方の軍人……サイボーグ軍人が身を乗り出した。

 

 「わたしたち王立防衛軍も、非力ながら最後まで戦わせてもらいます、敵は軍団、であれば、今度こそわれわれにもお鉢が回ってくるというものです」

 

 「……フリーザ軍は、雑兵でも、前回の天下一武道会を戦った時の皆より強いですよ」

 

 「武器も人も、あの時のままじゃありません、それに……もし本当に死んで、甦れないとしても、地球のために命をかけて戦うのが、王立防衛軍の使命です」

 

 元の歴史ではあり得なかった地球へのフリーザ来訪、潜み続ける謎の影。

 だが、その分、戦士の数は少し……いや、もっと、かなり多くなりそうだ。

 ……巻き込む、なんてことは考えない。

 俺達は共に戦う、武道家も軍人もない、地球の戦士全てで、宇宙の帝王に抗うのだ!

 

 

 

 

 偏袒右肩を着込んだ俺が立つのは、人っ子一人、動物一匹いない荒野。

 俺の隣でしゃがんだプリカが、ヘッドセットと通信機をがちゃがちゃといじりながら俺に語りかける。

 

 「宇宙センターから、もうそろそろだって連絡が来てるぞ」

 

 「……もうそろそろも何も、気配だけで分かる、やはり世界中に同時侵攻する気だな」

 

 「そうか? オレは逆に、気がでかすぎてわかんないな」

 

 どこまでも続く荒野は、非常に好都合だった……こんな化け物みたいなエネルギーを秘めた連中と戦うには。

 

 「他の連中はどうだ、戦闘準備は?」

 

 「Z戦士は世界に散ってる、軍隊も有志の皆もバッチリだ、あっちが各個撃破狙いなのはわかってるけど……」

 

 「逆に一網打尽にされる危険もない、奴等の予想を上回って逆に撃滅してやれば、フリーザを袋にするチャンスだ」

 

 「やることはやった、これで駄目ならどうにもならない、怖いのは運と、おまえの言う『だれかさん』くらいだな」

 

 スカウターを持つフリーザ軍相手には避難も意味がない。

 何より、プリカの言う通り、予想外の要素や危惧される謎のファクターの影響で戦士が全滅すれば……地球はそのまま滅ぶ。

 フリーザはサイヤ人が第二の故郷と定めた(と思い込んでいる)この地球の人間を全員殺すだろう。

 (多分、地球を破壊したりはしない、フリーザはちょっとやそっと脅かされた程度で星を破壊できるほど、プライドが低くないからだ)

 元の歴史にはない戦いで訪れた地球滅亡の危機に、自責の念がないと言えば嘘になる。

 

 「結局、俺達のやったことは、破滅を招いただけなのかもしれん」

 

 俺が、とは言わないと誓ったが、やはり、俺なのだ。

 そんな想いを秘めて、後悔……いや、不安を口にすると、プリカは表情を作らないまま、ヘッドセットを置いて立ち上がった。

 

 「……オレたちのことを……オレたちと同じことを知らなくても、沢山の連中がオレたちを、おまえを受け入れた、オレだってそうだ」

 

 照れる様子もなく、真正面から俺を見据えるプリカ。

 俺がそれに答え、じっとその目を見ていると、その視線に割り込ませるように、地図を見せつけた。

 この星の地図……書き込まれる勢力の数々は、元の歴史では考えられない、あるいは存在すらしないもので……。

 その意味が分かりかけた時、プリカは地図の影から右腕を伸ばし、俺の首に手を回して、そのまま俺の頭をぐっと自分のそれの近くまで引き下げた。

 

 「悟空の横取りなんて言わせない、おまえはおまえの、ソシルミの道を歩んできた、だから、この世界がこれから辿る運命は……自然な、この世界の行く末だ」

 

 「だからこそ、この星を――――」

 

 そう言おうとした時、プリカの左手が俺のほほに添えられ、顎を閉ざし、そのまま近づいた顔が、俺の唇を奪った。

 

 「…………ッッッ!!!」

 

 突然受けた、しかも何度やっても慣れそうにないその感触に戸惑う俺に、プリカはいたずらっぽく言い放った。

 

 「バーカ、悟空とオレは双子の兄弟だ! ……なんてな、オレとあいつが近づくたんびにジロジロ見やがって」

 

 「あ、あのな、プリカ……」

 

 「……女はもちろん、男だって一番はおまえのものだ、オレのヒーローはおまえだよ」

 

 そう言って、いつになくいい笑顔で笑うプリカの背後から、幾筋もの流れ星が広がる。

 戦いの時が来たのだ。

 

 

→つづく




お久しぶりです、桐山です。


投稿間隔も相変わらず長く、文章に関してはいつになく長くなってしまい、申し訳ありません。


さて、ベジータ編の次はフリーザ編です。

……が、バトルオブナメックはキャンセル、バトルオブアース。
地球本土で、敗北の許されない戦いが始まります。
襲いくるフリーザ軍の脅威に、地球は立ち向かうことが出来るのか。
そして、月を現した者とは、一体。
最強を目指す男の、新たなる挑戦が始まります。

次回もお楽しみに!
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