転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第四十六話:転生地球人が『戦い』と向き合うまで

 気を持たない謎の敵――――もしかすると、この歴史を翻弄し続けた何者かの手先かもしれないそれ――――が全地球に迫る中、俺とプリカはギニュー特戦隊との戦いを強いられていた。

 目の前にいるのは、ジースとリクーム、そして隊長のギニュー。

 つまり、すでに殺害したグルドと、離れた場所にいるバータを除いた三人が俺達の敵だ。

 

 「ハァッッッ!!!!」

 

 「があ!!!!」

 

 並んで飛び出した俺とプリカの纏うエネルギーは数倍の差があり――――しかし、同時に敵とぶつかる。

 手を輝かせ、顔を厳しく食いしばった俺はギニューに向けてまっすぐ、『スター・モーニング・マルチプル』をいくつも展開した、絶叫のままの表情のプリカはジースとリクームを巻き込む軌道。

 どちらともなく無意識のままに決めた分担で、俺達は戦闘を開始した。

 まずは小手調べ、とばかりに俺は輝く手をそのまま拳にして、ギニューと相対する!!

 

 「……地球人の方が先か、分身に技量は見せてもらったが、パワーが100%だろうとオレさまにはかなわんぞ!!」

 

 「分身は所詮分身だ……見せてやろう!!!」

 

 俺とギニューの拳がぶつかり合い、激しい衝撃波が周囲を襲う。

 プリカはスター・モーニング・マルチプルのエネルギー弾によって二人を牽制しつつ、肉弾で攻撃を重ねていくスタイルを取って……優勢に立ち回っていた。

 一方の俺は――――やはり、優勢だ!

 

 「キエエエッッッ!!」

 

 「な、なんだこの拳の鋭さは――――」

 

 ギニューは俺の体捌きと、輝いたままの手が次々と形を変える変幻自在の拳術を前に困惑している。

 それもそのはず、こいつの体験した『俺の拳』と、今の、本当の俺の拳は違うのだ。

 

 「フルスペックでない身体で使える程度の技術を、俺の本領と思ってもらってはなッッ!!!」

 

 「くっ……なるほど、そういうことか!!」

 

 前世で有名だったレース漫画になぞらえて言うなら、『一万一千回転まできっちり回せ』と言ったところか。

 ……俺達武道家は、エネルギーをいくら絞っていても本人の持つ素の能力まで下がったりはしないし、速度まで下がったりしない。

 (エネルギーと全能力がリンクしているなら、元の歴史でも悟空が得意としていたような、要所でだけパワーを上げる戦い方はできない、下げた瞬間相手の動きに追いつけなくなって終わりである)

 だが、技術や体捌きはそうではない、毛分身の元ネタであり、同じくエネルギー量の小さい分身を作る四身の拳、その本来の使い手である天津飯はそこもなんとかなると思っていたようだが、やはり、技術と心身は切っても切り離せない関係にあるのだ。

 ギニューは予想外の苦戦に歯噛みしながらも、楽しげに口角を上げた。

 

 「ふん、プレッシャーから察するに戦闘力は一万程度、だが急激なパワーのアップダウンと綿密なやりくりで実際の数値の数倍……しかも、それではきかないほどの隠し玉を秘めているな?」

 

 「流石は宇宙最強の軍隊の更に精鋭部隊か、そんじょそこらの突然変異とは話が違う」

 

 敵と愉快に語りながら戦う、というのはベジータ以来でしかないはずだが、随分久々に感じる。

 ギニューも楽しそうだが……俺の心は踊らない。 

 

 「きさまこそ、武道家じゃマシな方……だっ!!!」

 

 言葉と共に勢いを増した拳が俺を襲う!

 その膂力、その技のキレはまさしく宇宙の帝王が頼みとするにふさわしいもので……だからこそ。

 だからこそ、技をかけるにふさわしい。

 俺は、体に僅かでも威力が通れば絶命は免れぬ拳をスウェーする肩と顎で捉え、重力加速度と組み合わせた高速回転で背後下方へと押し流す!!

 

 「なっ!!?」

 

 「た、たいちょお!!?」

 

 (行くぞ、プリカ!!!)

 

 (お、おう!!?)

 

 俺は思念のみでプリカに合図を行い、一瞬のうちに離脱を開始する。

 ……相手をしているヒマはない、この戦闘さえ仕組まれているかもしれないのだ。

 投げ技の勢いをままに、輝かせた手でえぐったアスファルトはプリカを除く二人を的確に叩き、土煙を纏わせながら数十メートル先のビルへと叩きつけた。

 

 「ソシルミ……」

 

 「相手してるヒマはない」

 

 小さなつぶやきをもって俺に問いかけるプリカに、俺は同じく短い答えを返した。

 全世界に現れたエネルギーの感じられない敵がロボット兵器ならば、『奴』の差し向けた、あるいは奴に利用された何者かの手勢である可能性がある。

 手がかりを掴まねば、そして、襲撃そのものに対処せねばならない。

 俺は――――

 ――――エネルギー弾が来る!!

 

 「ムゥッッッ!!!」

 

 「きさま、ソシルミ!!」

 

 「……ギニュー」

 

 立て直しが早すぎる、さすが手練だ。

 ギニューは怒りを滾らせ俺を睨む、奴は何に怒っている?

 一瞬でも出し抜かれたことか、小細工そのものにか、あるいは……。

 

 「きさま、オレさまと戦う気がないのか!!?」

 

 「俺はこの星のために戦う義務を負っている、それに、貴様を憎んでもいない」

 

 「きさまの事情など関係ないわっ!! オレはきさまと戦おうとしているんだ、そこの部下たちも同じだ!!」

 

 「…………ッッ」

 

 純粋。

 

 「そ、そうだ、隊長の言う通りだぞきさまらっ!!」

 

 「おうよ!! かかってこねえか!!」

 

 純粋だ。

 

 「……貴様ら、本当に俺と戦いたいようだな」

 

 「そう言っているだろう、足止めとでも思ったか?」

 

 「いや……」

 

 ああ。

 邪悪極まりないギニューの意思が、この瞬間……純粋なる『戦い』への望み、戦闘本能のきらめきを俺に見せた。

 同時に俺は俺自身を顧みさせられる、今の俺に純粋さはかけらもなく、目的であるはずの闘争手段を手段としてしか考えていない。

 ―――――。

 

 (ソシルミ)

 

 念話を用いていないはずのプリカの心が、俺の脳裏を叩く。

 プリカが、それほどまでに強く俺の名を念じたのならば。

 そのとき、俺の答えはもう決まっている。

 頬を釣り上げ、目尻を下げ、満身の力を滾らせ。

 腕を前に、手を縦にそろえてゆっくりと合わせよう。

 

 「よろしくお願いします」

 

 礼を返されることを望むことは出来ぬ、ならば望むまい。

 俺は地面を叩き、そのエネルギーを破壊ではなくすべて自らの加速に利用してギニューの鼻っ面へと輝く蹴撃をお見舞いする。

 その勢いで靴が破れ、ギニューの頬をえぐったのは素足だった。

 

 「なんて早いスウェーだ」

 

 「くっ……くくく!!! ようやくやる気になったようだ……な!!!」

 

 傷をものともせず俺の足を掴むギニュー……だが、掴むなどという手段を俺に使ったのは失敗だ。

 俺はしなやかな関節と精妙な舞空術を駆使し、ギニューの掴んだ足を上へと引き上げる。

 

 「う、うおおっ!!?」

 

 体に触れ、あまつさえ拘束さえする。

 接触によるエネルギー情報、身体情報の読みやすさに加え、何をするかまで教えてくれるのでは、俺がどう裁こうとそれは技ではなく据物斬りに等しい。

 俺は地面に付いたままの足を振り抜き……ギニューをかすめて飛んだ足の勢いは、そのままクローの形で強烈に輝いた手へと移動する!!

 

 「()ェアッッッ!!!」

 

 「ぬん!!!」

 

 だが、ギニューもさるもの、クローの手のひらに掌底を叩きつけ、俺の技を完全に防いだ!

 双方の衣が焼け、皮膚が裂け、色の違う血が空中で混ざり合う!!

 

 「最低限の戦闘力があれば、武道家の技術とはこうも厄介なものか!!」

 

 「俺も燃えてきたぞギニュー、ベジータ以外にこんなに興奮できる宇宙人がいるなんてなッッッ!!!」

 

 俺とギニューが戦うすぐ側では、プリカ、そしてバータとリクームもまた、激戦を繰り広げている。

 

 「がっ!! ぐおっ!! がああああ!!」

 

 「ちょこまかとしてくれちゃって、……ぎゃ!!」

 

 「リクーム! な、なんてパワーだ!!」

 

 二人の放つエネルギーを自らのエネルギーで受け止め、コンビネーションを体躯の小ささとヨガによって培った自由な動きで躱し、あふれる膂力でカウンターを加えていく。

 プリカの顔は真剣そのものだが……笑みのニュアンスが入っているのも、俺には分かった。

 サイヤ人の本能を色濃く持ったプリカとはいえ、地球の命運を、俺達の宿命をかけた戦いで笑う理由は、一つ。

 

 「いいもんだな、ギニュー……戦いたいという望みに答えてくれる敵というのは」

 

 「ああ、われわれ特戦隊についてこれる相手がいるとは思わなかった」

 

 互いの牙をむき出しにした深い笑いから、殺意のエネルギーが放たれる瞬間!

 俺はこれこそが、俺が愛してきた悪なる敵との戦いと確信した!! 

 

 「行くぞ、ギニューッッ!!!」

 

 「いつまで粘れるかな、ソシルミっ!!!」

 

 ――――俺達は示し合わせたかのように接近し、純粋なる近接戦闘を開始する。

 騙し、スカし、ごまかし、敵意と殺意をぶつけ合い、殺し合いながらも……向き合い続けることだけは裏切らない。

 純粋なエネルギー量で言えば圧倒的な差がある戦いを前に、肉は痛み、骨はきしみ、皮はひきつる。

 だが、この戦いにおいて俺は…………優勢を保っていた。

 

 「キィィィアッッッ!!」

 

 「くっ……、なぜだ、なぜ動きが……!!」

 

 俺の優位性は、まさしくギニューの格闘能力が達人級で、わずかに自他のエネルギーを感知・操作するすべを身につけていることにある。

 武道を持った種族など稀な宇宙での戦いにおいて、エネルギーを感知する技術は意識、無意識的にギニューを支えていたのだろう。

 

 「戦闘力の集中と探知、武道家としての体術技能……そこまではわかる、だがなぜここまで……!!」

 

 「なに、一人の天才が最高を得て20年鍛え、最高の敵を得て20年戦った、それだけさ」

 

 「ぐぐ……!!」

 

 目の前で歯噛みするギニューが戦闘のプロならば、俺は格闘のプロ、同じ土俵に上がれば俺が有利になる。

 だが、格闘戦能力で勝っていることだけが、俺の優勢の理由ではない。

 戦いのさなかにあって、俺の技術は再び一つの爛熟期を迎えていた。

 鍛え続けてきた技術が、単なる小手先ややりくりを超えてゆく。

 エネルギーの強弱を単なる目安と言い切れる領域へと高まってゆく。

 

 「これでもフリーザには遠いかもしれんが、奴が相手でも今なら、楽しむことくらいはできそうだ」

 

 「きさまごときがフリーザさまに敵うと思うか!!」

 

 「やってみなければなッッ!!!」

 

 俺達がこれまでにないほど強くぶつかりあった瞬間、かすかな機械音が戦場をかすめる。

 戦場の喧騒の中では聞き逃しかねないほど小さな音だが……しかし、俺とギニューは同時に耳をひくつかせた。

 そして次の瞬間、ギニューの目が激しく動き、続けて戦場に絶叫が響く!!

 

 「フォーメーション237!! 目標、サイボーグ!!!」

 

 「イエッサー!!」

 

 「オッケー!!」

 

 ギニューの視線の先にいたのはサイボーグ軍人、そして、三人の動きはまさしく、彼を目標にしたもの。

 プリカに圧倒されていた二人が即座に命令に応じたことへの驚きと同時に、別れたはずの仲間がこの場にいることへの困惑と、守らねばならないという単純な使命感と、また別の強い情動が俺を包む。

 だが、俺はその思いを抑え込み、サイボーグを守ることへと意識を傾けた。

 

 「プリカッッ!! 止めるぞ!!!」

 

 「あ、ああ!!」

 

 俺の声に応じたプリカの前に、エネルギーを滾らせたジースが迫り、叫んだ!

 

 「そうは問屋が卸さねえ!!」

 

 スタミナ度外視、両手に渾身のエネルギーを持ったジースを前に、プリカは自らの防御を強いられる。

 そこから離れた建物の上には、サイボーグを向いたまま大口にエネルギーを集中させつつあるリクーム……。

 そして、ギニューはすでにサイボーグへとエネルギー弾を乱射し始めている。

 推測される目的は一つ……俺を誘い出し、諸共消し去ること!!

 だとしたら……。

 

 「随分と舐められたもんだ」

 

 苛立ちの漏れる声でそう小さく呟いた俺のもとに、小さなエネルギー弾が飛来する。

 差出人はもちろん、プリカだ。

 プリカの理解に感謝しつつ、俺はそのエネルギーを加速材料にして全速力でサイボーグ――――否、ギニューの放ったエネルギー弾へと向かった。

 俺は虚空に自らの進むべき軌跡を描き……残像拳に近い高速移動で全ての弾を弾き返す!!

 

 「ヅァッッッッ!!!」

 

 「は!!!!?」

 

 驚くギニューだが、俺にとってはすでにこの程度、驚くほどのことではない。

 これほど長く打ち合った相手の、それも単純なエネルギー弾程度であれば、何百であろうと捌くのは容易だ。

 ギニューはあべこべにエネルギー弾の対処に迫られることになった、俺はそのうめき声を尻目に、大気を利用した方向転換でリクームへと進路を変える。

 

 「んごっ……!! ……リクームイレイザーカノン!!!!」

 

 「構わず放つかッッ!!!」

 

 俺は手刀にした右手の手首を左手で掴んで諸共輝かせ、それを先頭にリクームの名も知らぬ技へと突っ込む。

 一般人がこの瞬間を見たのであれば、接触の瞬間に飛び散ったビームの衝撃を前にまばたきをするに違いない。

 そして、次に開いた目には――――

 

 「あ、あが……ごぼ……べ…………」

 

 ――――俺の腕に口から延髄までを貫かれ、倒れゆくリクームだけが映ったことだろう。

 終わりだ。

 

 「リ、リクームっ!!!」

 

 「まさか……リクームのパワーが……」

 

 「小技使いには対処しきれぬエネルギーで対抗すればいい……か、遅れてるな、宇宙の戦闘は」

 

 武道家……いや、この俺を前にしては正反対だ。

 でかい技ほど捌きやすい。

 奴らは奸計を働かせたが、破ってしまえばむしろ与し易い、どうでもいい技だけがそこに残った。

 

 「戦闘のプロらしく正面から戦えば……よかったものを」

 

 「ソシルミ……」

 

 プリカが声に出して俺を呼ぶ。

 否、思わず俺の名を呟いたのだろう。

 相変わず俺は、随分感情が表に出やすい男らしい。

 ――――そうだ、俺が強烈に味わった感情……それは、悲しみだ。

 元の歴史ではついぞ放たれなかった『リクーム・ウルトラ・ファイティング……』その技名の続きを聞きたかった、技を見たかった、浴びたかった。

 このふざけた男と正面から殴り合ってみたかった、ふざけた技を交わしあってみたかった。

 こいつは残虐な敵で、侵略者で、もしかしたら希望なんてなかったのかもしれない、それでも殺した瞬間、俺の胸にはどす黒いものが飛び込んできた。

 

 「リクーム……!! そして、ギニュー……ジース……!!!」

 

 だが、死と同じくらい、惜しむべきものがある。

 どうして正面から戦わなかった、どうしてこんな小細工を弄した。

 これは性根なのか、後天的に獲得したものなのか、悪の気の持ち主というものはこういうものなのか?

 そんな俺の葛藤、もしくは感傷を諌めるように、たった今守ったばかりのサイボーグ軍人が俺とプリカに向けて発光信号を送る。

 

 『フリーザグン ノ ロボットヘイキ ゼンセカイ ヲ コウゲキチュウ ワガカタ フリ』

 

 俺は手を他に見えぬよう輝かせ、返信した。

 

 『テキノ ショウタイ ハ カクジツ カ セントウ ニ サンカ スルベキカ』

 

 『カクジツ ナリ カプセルコーポレーション サクセン リツアンチュウ コノママ セントウ ヲ ゾッコウサレタシ』

 

 『リョウカイ ケントウ ヲ イノル』

 

 サイボーグはちらりと俺の歪んだ顔を見ると……俺の全身にべったりと降り掛かった血糊と組織片を前に目を見開き、少しだけ自らの顔を曇らせた。

 その後サイボーグはすぐに顔を精悍な軍人のそれに戻し、一礼して物陰へ隠れ新たな敵へと向かっていったが……。

 俺の心には、さらなる苦痛が残った。

 ……俺は歪んだ顔を更に自嘲へと歪める。

 そうか、ロボットは……フリーザ軍の兵器か。

 隠れた敵がいると分かったからと焦った結果が、この取り越し苦労に……血まみれの右手、体。

 未だ睨み合ったままのギニュー達を前に、俺は――――

 

 「何をぐだぐだと考えこんどるのかあっ!!! かかってこんか!!!!」

 

 「ッッッ!!?」

 

 「どうした、きさま……続きがしたいんじゃないのか!?」

 

 「ギニュー、お前……!!!」

 

 ああ。

 目の前で殺害された仲間の死に怯み、自らの常識を超えた技術の持ち主におののき。

 卑劣な手段をとっても、なお。

 その目は未だに、純粋だ。

 これがきっと……戦闘のプロというやつなのだろう。

 ならば、俺がするべきことは――――

 

 「――――そうだな、ギニュー……いけるか、プリカ、それに……ジース!!」

 

 「……おう!!」

 

 「敵にそんなこと聞くやつ、初めて見たぜ……」

 

 ここまで来て、ためらうことはなにもない。

 彼らの望む『戦い』が全手段を尽くした殺し合いならば、応じよう。

 遠ざけるべきものと断じてきた、この破壊欲と殺意を、受け入れよう。

 俺はエネルギーを滾らせ、輝きによって全身の血糊を消滅させ、そのままエネルギ-を両手へと移し、構える。

 煙となって漂う血糊だったものを吹き飛ばしながら、俺は叫びではない大声で宣言した。

 

 「全力で行く、ギニュー特戦隊、貴様らを全員殺す」

 

 「……それでいいんだな、ソシルミ」

 

 これでいい。

 

 「どうやら……まずいことになったようですね、隊長」

 

 「ふん、やるしかあるまい」

 

 ジースはどうやら、俺に怯えているらしい。

 ギニューは眉をぴくりと動かし、額の汗をわずかに垂らしながら強がる。

 まずはジース……距離は、目算で20メートル。

 俺は足裏より爆発を放ちながらの踏み込みによってその距離を零にし、手刀での頸部切断を試みることにした。

 

 「――――ッッッッ!!!!!」

 

 「な、なめるなよ!!!」

 

 手刀はジースの腕に阻まれ、戦闘服を切断して腕の皮膚を切り裂いたところで、止まる。

 

 「やるじゃないか、ジースッッ!!!」

 

 「ウチには宇宙最速がいるんだ、この程度っ!!」

 

 俺とジースは、手刀と腕とで鍔迫り合いのように押し合い、にらみ合う。

 純粋な押し合いとなれば、やはり……分が悪い。

 惜しいパワーだ。

 

 「くく、どうした地球人、こんな程度のパワーでオレと力比べする気だったのか?」

 

 「……ハハ、ハハハハ……!!!! そうだな、力比べをしようじゃないか!!!」

 

 俺の腕力の弱さに自信を取り戻して嘲るジースに俺は笑い返しながら、右手首を掴み、さらなるエネルギーを流し込む。

 力比べに負けたから両手で挑むのか、そんなふうにジースは嘲りの色を深くするが……奴の上司は違うようだった。

 

 「ジース!! 手をはなせっ!! ジースっ!!!!」

 

 「は、はい!? 隊長!!!?」

 

 俺の赤い対戦相手は、素直にも俺との鍔迫り合いを解消し、そのまま背後へと飛び退き――――。

 ――――その腕が、爆ぜた。

 

 「ぎゃあああああっ!!!!!!」

 

 「体まで持っていくつもりだったが、優秀な上司を持ったな」

 

 真マッハでも放ったかのような有様の腕を抑えて呻くジースを前に俺は呟く。

 この技の術理は簡単、極限まで増幅させた爆発エネルギーを傷口から流し込む……ただそれだけ、俺の持つ『力』を活かした技だ。

 だが、その前提条件はエネルギー差の小ささや傷口への接触など多岐に渡る、こんな繊細で卑劣なやり方は俺の流儀ではないが……。

 望むならば使ってやろう、それも楽しいかもしれない。

 

 「ジースっ!!!」

 

 「さて、これでこいつも戦闘不能だな、ギニュー、降伏するか? それともポッドに戻って予備のスカウターで応援でも呼んだらどうだ」

 

 ベジータも確か、ポッドの中にスカウターを忍ばせていたはずだ。

 もちろん、それを使わせる気など毛頭ないが……。

 

 「……事情通かと思ったら、そうでもないようだな……そんなものは許可されておらん、備品管理と指揮系統の邪魔になるだけだ!」

 

 「何ッッッ!!!?」

 

 予備のスカウターが……ない?

 どういうことだ、ベジータがフリーザたちに裏切りを疑われたのは、ポッドの中にあったスカウターから、地上での会話の情報が漏れたせいだ。

 それが、予備でないとするならば。

 ……思えば、元の歴史においてはフリーザたちですら、スカウターの予備など装備していなかった。

 ならば、あのスカウターはどこから来た?

 ベジータが規則違反で持ち込んだのか、いや、ベジータはそんなところで意味もない規則違反をするような人物ではない。

 答えは、ひとつに絞られる……地上、あの中の都の戦いの最中、何者かが忍ばせたのだ。

 俺達とベジータの目を盗んだその行動の目的として、推測できるものは限りないが、結果から見れば、ただ一つ。

 フリーザをこの星に呼び込むこと。

 なぜ呼び込むのか、その答えも、これまでの『影』の動きとつながっているとすれば見えてくる。

 影は、俺達が表舞台で活躍する影で動き……ラディッツのふりをして通信を送り、ベジータのポッドにスカウターを忍ばせた。

 その目的とはすなわち、戦士の抹殺。

 サイヤ人を地球に呼び込み、隠された月を出現させ、フリーザまでもを呼び出す理由があるとしたら、それくらいのものだ。

 だが、なぜ、何者が?

 ドクター・ゲロを含むレッドリボン軍残党……は、地球の滅亡を望むまい。

 その配下の人造人間、13、14、15、16、17、18、19号、そしてセルもそうだろう(そもそも多くの人造人間はおそらくまだ生まれてすらいない)。

 魔族……ルシフェル、シュラ、ピッコロ大魔王、ガーリックJr.奴らには……怪しい動きはあれ、地球そのものを滅ぼしてしまうような悪意は感じられなかった。

 宇宙の勢力、クウラやコルド、スラッグ、バビディ……奴らに、地球一つに干渉する理由はない、第一、地球などその手で滅ぼしてしまえばよい。

 トワ、ミラ、フュー、ドミグラ……暗黒魔界に由来する時空犯罪者も考えられるが、奴らの干渉はタイムパトロールが防ぎ、消し去るはずだ。

 俺やプリカとは別の『転生者』が地球にいる?

 ……だとしても、こんな長期にわたり潜伏する理由も、戦士を殺そうとする理由もないはずだ。 

 一体誰が、誰がこんなことを。

 俺が決死の思いで選び取った、生き残る戦士を増やし、不慮の死を遂げる人を減らすための道を……。

 サイヤ人の生き残りが手を取り合って生きる夢を壊したのは。

 一体――――。

 

 「――――死――ソシ――――」

 

 叫び声とともに、エネルギーを掴んだ腕が俺に迫る。

 紫のそれを、俺はかき乱された心から吹き上がる怒りにまかせて、殴り潰した。

 

 「が……!!?」

 

 「……鬼面閃光拳」

 

 完璧なカウンターだ。

 奇しくも、ジースとギニューは同じく右手を粉砕された形になる。

 ギニューは特に、胸までもっていけた、長くはないだろう。

 くそ。

 

 「わからない、プリカ、俺は……」

 

 「ソシルミ、大丈夫、地球を襲う敵を倒しただけだ、それにおまえは強くなってる、大丈夫だから、な?」

 

 プリカは、わざと軽薄な結果論を俺に伝えてくれる。

 だが、俺は何と戦ってるんだ。

 敵を見ているようで見ていなくて、見ていないまま殺してしまった。

 だが、俺は強くなっている、ならば何かを掴んだのだろう。

 ……何を掴んだのかもわからないままに。

 頭がおかしくなりそうだ。

 今まさに破壊した敵を見下ろせば、何かをしきりに話している。

 

 「バ……バータを、バータを呼べば」

 

 「駄目だ、ジース……やつは、死んだ」

 

 「そんな、隊長!! どういうことです!!?」

 

 「に、逃げろ、フリーザさまにこのことを……ぐっ……」

 

 部下と上司のことを想う言葉を吐きながら、ギニューは大きく血を吐き出して……死んだ。

 ギニューが今際の際に吐いた言葉は俺を再び、現実と理想の両面からかき乱す。

 俺はこの強敵が抱いていた想いに触れるとともに、『バータが死んだ』という確信めいた言葉とも向き合わねばならない。

 ギニュー特戦隊の最後の一人、青い異形の男、ずっとエネルギーは感じていた。

 それが死んでいるという信じがたい言葉と、それがもたらす意味。

 すなわち、今まさに俺達が騙され、企みに巻き込まれているのだという感覚がもたらす背筋を這うような恐怖から……俺は思わず、町の外れでうごめくエネルギーを見る。

 

 「あ、あっちかっ!!!!」

 

 「しまった、目の動きから……ッッ!!!」

 

 俺がミスを悔いるのと同時に、ジースは瞬時に莫大なエネルギー塊を形成、これは!

 

 「プリカッッ!!」

 

 「っ!!!!」

 

 瞬間、俺とプリカは全力の防御を行いながらその場から飛び退くと――――

 ――――それを追うように火球が膨らみ、町の一角を完全に飲み込んだ!!

 

 「ソシルミ! あいつは何を……」

 

 「……プリカッッッ!!! ジースを……いや、ジースの向かう先にある気を叩くぞ!!!」

 

 「は!!? ……わ、わかった!!」

 

 ジースは(おそらく、もう生きてはいない)バータを追ってしまった。

 あいつは手負いでも十分に危険だ、止めなくてはならない。

 だが、それ以上に危険なのは、あのエネルギーだ。

 俺達に『バータのふり』をしながら、平然と居座っていた存在。

 奴こそが。

 

 「奴こそが、俺達の真の――――!!!!?」

 

 「どうしたソシル…………!! あの気が消えたのか!!!」

 

 俺とプリカは驚愕と、焦りを共有する。

 エネルギーをかなり低レベルに抑えたのだろう……つまり、隠れたのだ、俺達から。

 疑惑は決定的になったと言える、だが、見つける手段はもはや……。

 

 「これじゃ、目で見るしかないってことか……?」

 

 「俺の探知力ならまだ可能性はあるが、この混乱しきった戦場では……」

 

 「い……急ぐぞ!!」

 

 危険な、そして因縁あるその敵を逃してはならぬという焦りが俺達を襲った。

 ソニックブームによる町への被害など、最早気にしてはいられない、俺達は全速力で奴がエネルギーを断った地点へと向かう。

 事態は混乱を極めている、特にプリカは、事態についてくるだけで精一杯だ。

 それでも、俺達の間には一つの想いがあった。

 

 「あれが、もし奴が本当に、一連の事態の原因だとしたら」

 

 「……ああ」

 

 小さく返事を返してきたプリカに言葉を続けるより先に、俺は必死に自らのエネルギーを空間に塗り拡げる。

 いわゆる気の探知には敵が放つものを受けるパッシブレーダー方式と自らの気を広げてそれで敵を触るアクティブレーダー方式があるが、今使うのは後者だ。

 敵がもし見慣れぬエネルギーを持っているならば、これで少しは探知しやすくなるだろう。

 

 「『円』か」

 

 「円ゆーな」

 

 この言い回しも、『HUNTER×HUNTER』も、懐かしいものだ。

 プリカはわざと冗談めかして、俺の張り詰めつつある心と、荒れ始めたエネルギーをなだめてくれる。

 だが、俺の心は収まってはくれず、口は更に言葉を紡ぎだした。

 

 「……もし奴が、強敵(とも)と呼べたベジータとナッパが、義兄(あに)と呼べたかもしれないラディッツが、死んだ理由で」

 

 もしかしたら、もっと前から続く戦いの。

 俺が師匠や道場の皆を一度失ったあのピッコロ大魔王との戦争すら、もしかしたら。

 

 「何もかもの戦いを、誰かが引き起こしていると、するならば」

 

 エネルギーを広げ、目を皿にしながらも、手を白くなるほどに握りしめた俺の震えるつぶやきに、プリカは心配そうな顔をする。

 そして、しばらく言葉を選ぶような素振りを見せた。

 

 「でもソシルミ、オレには……わからない、なにが起きてるのかも、どう思えばいいのかも……」

 

 「……俺もだプリカ、でも、俺は違う」

 

 プリカは理解を超えた現象に、感情が追いついていない。

 単に俺の推測を考えすぎとみなしているだけかもしれないが……俺は、違う。

 考えた上で湧いてくるのは、怒りだ。

 

 「俺もわからない、だが……だけど、あれが本当に隠れ続けてきた何かだとするなら、俺が、お前が、師匠が……みんなが戦ってきた戦いが仕組まれたもので、道場の皆や、軍人達や、命をかけても救いたかったライバル達が死んだ理由なら、今死にかけてる理由ならッッッ!!!!」

 

 「ソシルミ……」

 

 「俺は、戦いを楽しみたかった、楽しめない戦いは粛々と進めたかった、戦いに、こんな想いは、持ち込みたくなかった…………!!」

 

 「なあソシルミ、怒るのは……悪いことじゃないだろ? 大事なものを傷つけられて怒るのは当然だ」 

 

 一般論で俺をなだめながら、プリカは白く握られた手をそっと覆ってくれた。

 超音速の風の中でも、プリカの手は柔らかく、温かい。

 ……怒りは収まらないが、心が静まっていくのを感じる。

 滾った熱をそのままに、穏やかさが戻ってきた。

 

 「……俺は地球人だ、怒りにさほど意味はない」

 

 「そうでもない、さっきのおまえ……おまえは嫌がってたけど、かっこよかったよ、あれはあれでよかった」

 

 体温に続いて、声も……言葉もまた、俺の心に染み渡る。

 ずっと俺は、武道家として純粋になろうと心掛けてきた。

 だが、それ以外のやり方があるならば…………。

 ――――その時、ほんの僅かに、視界とアクティブレーダーの範囲外でエネルギーが膨らむのを感じた。

 

 「ソシルミっ!!」

 

 「ああ!! まだ町中にいたか、だが一体何を……」

 

 プリカは頷き、『あんなところで何を』と首をかしげ、青ざめた。

 

 「そ、そうか!!あの通りには!!!」

 

 「ッッッ!!!! ……ジースッッッ!! 奴がいる!!!」

 

 でも何を。

 俺とプリカの脳裏をその言葉が支配したが、すでに体は動いていた。

 

 「――――ッッッッッ!!!!!!」

 

 何かが起きている、いや、奴は何かを狙っている。

 超音速で移動する俺達より早く、奴の気は莫大に膨れ上がり――――

 

 「ジースの気が減ってるぞ!! 殺されたのか!!!?」

 

 「違う、いや、何が……!!!」

 

 単に減っているのではないと、俺にはわかる。

 

 「なにが起きてるのか、わかるのか!!?」

 

 「わからない、違和感があるだけだ、だが何かが……いや、奴は……奴の気が膨れ上がってる!!」

 

 「わからないじゃないだろ、それじゃまるで……」

 

 プリカの飲み込んだ言葉は、俺の脳裏にも像を結びつつあった。

 だが、ピンぼけしたまま、確信にはたどり着けないまま、奴がすぐそこに。

 

 

 「……遅かったな、アエ・ソシルミ、それに……プリカ」

 

 

 初めて聞く『聞き慣れた声』が、風音に疲れた耳を叩く。

 地面に転がる2つの物体。

 一つは、カラになった戦闘服。

 

 「お前は……」

 

 一つは、粘液を滴らせる、奴の抜け殻。

 ……奴の姿、三本の指に支えられた足。

 黒い斑点を持った、緑の甲殻。

 鋭く尖った尻尾。

 みぞおちを彩る、紫色の透明感ある物体。

 そして、たった今初めて聞いた、だが本当に、本当によく聞いた声。

 見間違えも、聞き間違えもできない、こいつは……。

 

 

 「セルッッッッッ!!!!!!!」

 

 

 

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