緑と黒、オレンジと紫に彩られた二足歩行の生物が俺とプリカの前にたたずんでいる。
視野を背後に広げれば、今でも町のあちこちで戦闘が繰り広げられ……。
フリーザ軍のロボット兵と、おそらく最後の予備戦力であろう地球の軍隊が戦い、命を散らしていた。
新たに現れる戦力は魔族との戦闘で使われていた旧式兵器が大半をしめ、俺の故郷、タンドール王国の民間航空会社のマークがついたままの機体までもが戦場を踊っている。
激化する戦闘には一切の余力がない。
この恐るべき敵―――――セル、第一形態を前にしても、最早援軍は望めないだろう。
そのセルは、俺がたった今吐いた単語、自らの名を呼ぶ俺の言葉に、深くうなずいて応えた。
「……やはりソシルミ、きさまはわたしを知っているのだな」
『何らかの一種類の悪の気』に染まっていたセルの気が爆発的に膨れ上がるとともに、本来の姿……幾多の戦士達のエネルギーの混合体へと変わってゆく。
もはや、目を逸らすことなどできはしない。
俺が、俺達が追い続けてきた影の、おそらく……正体。
『セル』……『人造人間セル第一形態』ッッ!!
こいつは今この時代に、ここにいるはずがない敵だ、いや、存在しているかすらわからない。
現在はエイジ762年末だが、こいつの元の歴史において活動する時代は767年春……つまり、未来の敵だ。
人造人間セルは、かつて悟空が戦った悪の組織レッドリボン軍の残党、科学者『ドクター・ゲロ』が、自らの所属していたレッドリボン軍を壊滅させた孫悟空を憎み、殺害するために作り出した人造人間。
もっと言えば、戦士の細胞から作り出した……正確には、作り出そうとした合成生物だ。
ドラゴンボールという作品においては、俺達が今直面している(はずだった)『フリーザ編』の次、『人造人間編』の後半の敵……はっきり言って、ケタ外れの強さを持っていると言って間違いない。
地球に現れた戦士の能力や技術、異星人の特殊能力を兼ね備え、そのパワーは初期の状態でもフリーザやそれを上回る実力を持った戦士たちとやりあえるほどだ。
極めつけは吸収能力、生命からエキスを吸収することによって自らのパワーを増す基本的な吸収能力に加え、別に用意された特殊な人造人間を吸収することによって、更に優れた存在へと変異することができる。
……だが、本来の製作者であるドクター・ゲロは時間がかかりすぎるこのプロジェクトを放棄し、細胞の収集から実際の製造までをコンピューターに任せた。
コンピューターは長い年月をかけ……エイジ780年代末にセルを完成させたが、セルの誕生した歴史において、抹殺対象の孫悟空も、吸収して完全体になるはずだった人造人間もすでになく……。
結果、セルが選んだのは、それより以前に別の戦士が人造人間を倒すのに利用したタイムマシンを奪って過去へと遡行することだった。
だから……セルが、彼の年代より過去にいるのは自然なことだ、が…………。
「なぜ、ここにいる、俺を知っているのか?」
「ふふふ……なぜここにいる、か……なるほど」
「…………ッ」
「なに、いまさら隠したりとぼけたりすることはない、きさまがなんらかの手段で未来を予知していることは、わたしも薄々感づいていた、おまえにとってわたしは未来の人物だ、そうだろう?」
……俺達の、誰へともなく、確固たる理由もなく隠してきた『正体』に迫る言葉。
それを前に一瞬硬直した俺をあざ笑いながら、セルは言葉をつなぐ。
胸騒ぎがする、ただの……情報を握られていることへの恐怖では、すまない。
「タイムマシン、きさまは聞き覚えがあるんじゃないか? わたしはそれを使って時間をさかのぼった、当然、きさまを含めた強者たちのこともよく知っている」
「……タイムマシンだと!?」
「白々しい質問はよせ、ソシルミ……! きさまはわたしの知る全ての事件に対して的確な対処をとってきた、それを崩した存在は2つの歴史でただ一つだけだ、それは、わたしも同じだった……そう、その忌々しい……」
動悸が収まらない、脂汗がにじみ、ヨガが狂いつつある。
セルは語りながら苛立ちをつのらせ、ついに、腕を振り上げて人差し指を立て、指をさす。
その先にいるのは……!!
「その女だけだっ!!!」
「ッッッッ!!!!!?」
「な、お、オレが……!!? オレは、セル、おまえの歴史では……オレとソシルミは……」
「どういうことだセル、貴様はいつから俺達に干渉していたッッ!! 月か!? スカウターか!? まさかもっと――――」
プリカがおののくとともに、俺の心もまた、深い衝撃に襲われた。
形のない恐怖、不安、もしくはこれは……罪悪感なのか?
理解できないままに、自分が何かをやらかしたという深い後悔のようなものが湧き上がってくる。
セルはそんな俺を嘲笑する。
「この歴史に降り立ってはじめて試みたのは、ソシルミ、きさまら親子の抹殺だ」
―――――。
ッッッッ!!!!!???
「親子だとッッッ……!!?」
「……ふふふ、なるほど、そこへ食いつくとは、きさまでも自分のたどっていない歴史のことはわからんか」
俺は聞き返すことしかできず、セルの嘲りを受け止める。
自分の知らない、自分の関係する歴史、これまで俯瞰してきたはずの自分が誰かに知られている、見られていたという感覚に、動揺が収まらない。
いや、それよりも強いのは、俺の捨てられた家――――
「一体どういうことだ、俺は貴様に出会ったことはないッッ!!」
「事情があってな、直接は会わなかったが……確実に、わたしはきさまに攻撃をくわえたぞ?」
「…………ッッッ!!」
俺が生きたこの歴史の始まりから、こいつはいた。
何を意味しているのかも分からないそんな言葉が、俺の脳をかき乱す。
先の言葉の推測すらロクに立てることができず、俺は焦点の合わぬ目で、焦点の合わぬ質問を返した。
「いや……アエ家を攻撃したとして、俺はその時すでに家にはいなかった、そうじゃないのか?」
「なんだか話がすれ違っているな……悪の気を持つものは操りやすいというのは知っているだろう? 攻撃手段というのは『それ』だ、使えたのは役立たずばかりだったが、目的の半分は達成できた」
「半分……まさか、ソシルミの親父を殺したのかっ!!?」
「ふん、皆殺しにさせたはずだったが、まさかチャパ王などのもとに逃げ延びているとはな」
未だに健在な路面に立っているはずなのに、足場が揺らぎ、体が傾いたかのような感触を覚える。
俺の実家、アエ家が滅ぼされていただと、それも……こいつの手によって。
俺の親が……捨てられたとはいえ、俺を産み、5歳まで育んでくれた、俺の……。
「やっぱりソシルミの親を……でも、一体どうして……」
「こいつら親子は強力な戦士だった……、殺さねば武道家どもはすぐに育ち、手に負えなくなる、それを防ぐ目的も、やはり半分は達成できた」
「そ、そんな……俺の……」
「だが半分が失敗しために、わたしは今こんな苦労をしているわけだ、連中は扱いやすかったが、所詮は下等生物でしかなかったということだな」
脳裏に、かつて聞いた言葉がよぎる。
俺の人生の一つの原点とも言える戦いで、生涯の連れ合いとともに撃破し……生かし、そして俺を生かした存在。
闇夜に生きるはずのあいつが、太陽を背に語った言葉。
『さて、おまえが夜歩きした程度で魔族と出会えたのは、果たして偶然か?』
まさか、あいつの、ルシフェルの言っていたことは。
「魔族を操ったのかッッ!!!!」
魔族――――この星で闇に潜み生きるもの。
多くが太陽を忌み、太陽と生きる生命を害して生きている。
俺が友と呼ぶ……呼びたいあの吸血鬼は、太陽そのものすらも害そうとした。
「ようやく理解したか……ついでに言うと、幼いガーリックJr.を操って、ピッコロ大魔王を復活させ、軍隊を与えさせたのもわたしだ、……結局役に立たず、使い捨て同然に突っ込ませてしまったがな……、エキスはもったいなかったかもしれん」
「貴様――――」
弱りゆく生命を抱えながらも自らに付き従う者共のために戦い、それを殺した俺に怒りを燃やしていたルシフェル。
故郷から遠く離れた見知らぬ星で……自分がその星の住民でないことすら知らずに育った男の生み出した無念の化身、俺との戦いを楽しみ、生まれ変わっての再戦を誓ってくれたピッコロ大魔王。
語らうことすらできなかった、かつて神となることを望んだ男の後継者――――俺の遠き同輩とも言える男、ガーリックJr.……!!
エネルギーを燃やし、界王拳を練り上げ、睨む、睨む先へと跳ぶ!!!!
「……ソシルミ!!!?」
「――――ッッッッ!!!!」
プリカの声が背後に溶ける。
輝きが俺の足で爆発し、身体と共に空を駆けながら脚へ、腹へ、腕へ、拳へと昇り弾ける!!!
拳は確かに当たり、だが防がれ、怨敵の手をごく小さく揺らした。
「セルッッッッッ!!!!!」
「ふふ、さすがのきさまも普段のクールさを保てなくなったか!」
セルの嘲りは俺の耳を抜け、再び大気に散る。
俺の拳はセルの皮を小さく揺らし――――エネルギー同士の触れ合いの感触を、俺だけがしっかりと覚えた。
怒りによって恐怖は失せ、ついさっきまでのパワフルで精密な感覚が戻ってきたのだ!!
「許さんッッッ!!!」
あの男たちの生命の、生涯が、この存在に弄ばれたのならば。
俺が願った、甘ったるい共存の道が、この存在に絶たれたのならば。
「許さんぞ、セルッッッッ!!!!!!」
「許さんからなんだというのだ、きさまらはここで死ぬ!」
嘲りを爆発と衝撃波によってかき消し、俺は更に拳を進める。
「
「ふふ、お相手してやろう……新・狼牙風風拳っ!!!」
新・狼牙風風拳、俺の仲間……ヤムチャの技。
だがそこに、サイヤ人との実力差に心折れかけていた俺を救った『あの技』のニュアンスはなく、俺の心はわずかに冷える。
だが、そのパワーは本物だと、ぶつかり合いを通じて魂が理解してゆく。
俺とセルの拳が持つ全要素――――スピード、パワー、格闘技術、エネルギー量、密度。
互角といえるのはせいぜい、技術と密度。
セルはこの先の歴史の敵、当然だ。
だが――――
「思っていたほどではないな、何がお前を弱くした、時間遡行か、経年劣化か、サボりすぎか!!!?」
「質問が多いがもっと聞きたいことがあるんじゃないのか!? ベジータが来る原因になった通信、ラディッツの強さ、不自然に暴れる魔族、隠したはずの月、……この戦争の正体、どうだ!?」
空間にエネルギーが飛び散る中、セルはまたも、俺の心を揺さぶろうと真実をほのめかす。
それは……完全に、成功していた。
「まさか――――!!!?」
「まさかとは白々しい、きさまも感づいたからここに来たのだろう? サイヤ人どもはどいつもこいつも後々厄介に成長する、悪い芽は早めに摘むしかあるまい!」
魔族の悪の気につけこむ技術があるならば、未来の歴史におけるバビディの魔術のような手段を使って力を与えることは容易い。
高度な歴史知識と知能を持ったセルにとっては、ラディッツのスカウターを使ってベジータを誘い出すことも、そののポッドに新たなスカウターを忍ばせることも十分に可能な作戦だ、隠した月も――――
「――――だが、やはりきさまはしぶとい、だから成体となったわたしがこの手で……!」
力を込め、俺の拳を払うセル!
やはり嬲るために手を抜いていたか、だがまだ戦力を出し切っていないのはこちらも同じこと……ッッ!!
「があああああ!!!!!」
収束されたエネルギーを持ったプリカが、俺のエネルギーにまぎれて空間へと飛び込んだ。
その目的は一つ!!
「なっ…………ぬおおおっ!!!?」
「ウエスト・モーニング・サンシャイン!!!!」
プリカは手で持ったままの『ウエスト・モーニング・サンシャイン』をセルの脇腹に押し付け、そのまま満身の力を込めてセルごと射出する。
小型のエネルギー弾として発射され、後に膨れ上がるタイプの攻撃であるウエスト・モーニング・サンシャインは、プリカが持つ気功波の才能を端的に表している技だ。
俺の最高の友にして、愛する人、プリカ……だが、俺はそれを知らない人生もあったのだと、強く意識せざるを得ない。
「俺の知らない……前の歴史」
親に捨てられ、師匠に拾われて育ち、プリカと出会って愛し合った……多くの友と敵に恵まれた俺の人生。
だが、そうでない人生があった。
セルはプリカを知らなかったが……俺は父親とも、共に生き、共に戦っていたのだ。
俺は魔族と戦い、そして友誼を結んだ。
だが、その戦いそのものが、セルに仕込まれたもの、あいつらにとって、どこまで本意だったのかわからない。
サイヤ人の死もそうだ、ライバルになり得たベジータとナッパ、義兄と呼べたかもしれないラディッツ……。
たぎる怒りの中に、悲しみが染み渡り、さらなる怒りと……悔やみによって押し流される。
奴は、セルは、俺の干渉が育てたのだ。
俺の……別の人生の俺とはいえ、間違いなく、俺が…………。
「ソシルミ、考え込むのもいいが構えろ、アレで仕留められるわけがない!!」
「あ、ああ……! すまん、プリカ」
また思考の中に意識を沈めたこと……だけではなく、突然セルを殴ったことも含めて、俺は謝罪を差し出す。
行動爆発、という言葉が脳裏をよぎる、追い詰められた動物がやけになって起こす反撃。
セルの言葉に押し付けられた罪悪感と、今まさに犯した独断専行の失態が俺を……。
「さっき、カッコよかったぞ、おまえ」
「~~~~ッッ!?」
柔らかく笑ったプリカが放った突然の『褒め』に、顔が赤くなるのを感じる。
いや、お前。
「こんな時に――――」
「――――こんなときだからだ、こんな時におまえは動いてくれるから、何度も地球を救って……オレを連れ出してくれた」
エネルギーを通したテレパシーではなく、言葉と、雰囲気がプリカの心を伝えてくれる。
そうか、プリカにとってはそれこそが……。
「プリカ……」
「ソシルミ、おまえの親はもしか――――」
その時、セルの体を押しながら膨らみつつあった『ウエスト・モーニング・サンシャイン』の光弾がついに爆発的膨張を見せ……。
……次の瞬間には、遠くの空へと投げ捨てられ、フリーザ軍の円盤を消し飛ばした!!
プリカは予想していた結果にも
「やっぱりだめか、くそ、肝心なときに……いいか、ソシルミ、悪いのはあいつだ!! ラディッツを殺したのはオレだけど、でも――――」
「ああ、だからこそ許してはおけん……なんとしてもここで倒す!!」
「でも、どうして、どうしてあいつはわざわざこんなパワーを持っといて闇に潜むような……」
プリカの言葉を遮る……いや、プリカの言葉につなぐように、あの聞き慣れたよく通る声が響く
「闇、闇……か」
……流石、ナメック星人由来の地獄耳だ。
セルはゆっくりとこちらに近づきながら、俺達へと更に問いかける。
「闇というのは、何の闇だ、『歴史』か?」
「……っ!」
「きさまはわからんが、ソシルミはすでに気づいているだろうな……私の弱体化に」
「はっきりと……、弱みを見せてくれたな、セル」
俺の皮肉っぽく挟んだ言葉に、セルは妙に神妙な態度をとった。
「そうだ、きさまの慎重ぶりはすさまじく、さすがのわたしでも、カプセルコーポレーションが秘密裏に建造した試作型の小さなタイムマシンを盗むのが精一杯だった」
「…………」
「ふふ、思い当たるフシはあっても、口に出せばわたしに情報を与えるだけだ、という顔をしているな、ソシルミ、そしてプリカ」
「話したいなら話せよ」
プレッシャーを受けながら会話まで焦らされるストレスに耐えかね、プリカが呆れた言葉を放つと……。
「そ、そうだな……ゴホン」
セルは少し目を丸くして、咳払いをした。
「わたしが盗み出した試作型のタイムマシンはとても小さく、わたしがそのまま入れるサイズではなかった……」
セルは俺の顔をじっくりと見て、ほくそ笑む。
何をしたのかは知っているはずだ、とばかりに。
「わたしは自らをタマゴに変えることでこの問題を解決した、だが……それでも、もう一つ問題があった」
「問題……燃料か?」
元の歴史でも、タイムマシンの燃料問題は取り沙汰されたことはあった、タイムマシンはどうやら、結構な燃料を食うらしいのだ。
本来の歴史より長く旅したならば特にそうだろう。
「その通り、わたしは足りない燃料を補うため、タイムマシンと自らを接続することにした」
「……まさか自らのエネルギーをつぎ込んだのか!!!」
潜在エネルギー、気、元気、戦闘力、キリ、スピリット、そんな風に呼ばれる一連の『エネルギー』は、生命力や精神力と……完全にイコールというわけではないにしろ、同質のものといえる。
それを移動のためだけに使うというのは、尋常の武道家には考えられない行為だ。
一体なぜ……。
「歴史に頭角を表すとともに宇宙を股にかけ、フリーザをも上回るパワーを手にしたきさまを殺すにはそれしかないと判断したまでだ」
俺は『この俺』とは無関係な言葉に……しかし、思い当たるフシがあって、図星を突かれた、というような気分になる。
――――もし、もし俺が師匠のもとに留まらず、戦闘が持つ『武』の側面に惹かれることなく生き続けていたら。
その生き方はきっと、あらゆる知識を用いてパワーを手にし……。
『範馬』
かつて感じた天命のまま戦うことを望み、最強を目指し続ける、そんなものになっただろう。
それが幸福であるか、不幸であるかは、知る由もないが……。
「ふふ、そうして変えた歴史のきさまはわたしのこのパワーでも圧倒できるほどに弱い存在だったわけだがな」
「……俺は武を手にした、貴様の歴史と比べようと何も劣ってはいないッッ!!」
「人間でないわたしにもきさまが揺らいでいるのはわかるぞ、ソシルミっ!!!」
セルはいきり立って飛び上がり、揃えた手のひらを前にやる。
かめはめ波だ!!
「かぁ……めぇ……」
幾度も放たれ、防いできた……前世では憧れたこともあった必殺技、かめはめ波!
「地上に向けて撃つのかっ!!?」
「プリカ、上がるぞッッッ!!!!」
「わかってたけど、おかまいなしかっ! くそっ!!!」
町……否、地球への直撃を避けるため、俺達二人もまた空へと飛び上がる。
セルはニヤりと笑い、俺達へと照準を変えてきた、最初からコレがお望みというわけだ……!
奴はごく軽くエネルギーをチャージしている、それはわざわざ探知するまでもない。
だがこれは――――
「プリカ、避けるのはムリだッッ!!」
かめはめ波は曲射可能であるし、そもそも奴のかめはめ波の規模と速度は、俺達の回避行動を大きく上回るだろう。
冷や汗が風に溶ける、状況を打破しうる可能性はもはや一つ!!
「俺に全力の気をくれッッッ!!! 回し受けだ!!!!」
「ムチャクチャを言うな、死ぬぞっ!!!?」
「あれから荒行もヨガもたっぷりしたさ、今のコンディションならば……!!!」
「はぁ…………………めぇ………………」
わざとらしく、掛け声を空に響かせるセル―――――
「プリカッッッ!!!!」
俺は背中を預けてプリカの名を叫び。
プリカは俺の背に手を置き、俺の名を叫んだ。
『いつもの』だ……戦場にあって、ほんの少しだけ俺の心がぬくもり……。
「……ソシルミっ!!!」
そして、セルもまた、侮りの笑みをそのままに、叫ぶ!!
「……波ぁーっ!!!!!!」
「ッッッッッッ!!!!!!」
俺の全身、否。
全霊までもにプリカのエネルギーが侵入する。
俺が普段エネルギーの操作に使う部分はもちろんとして、使わぬ部分、心や魂までもが、身の丈に合わぬエネルギーの奔流にさらされていた。
……が。
「心地いいくらいだ!! かめはめ波など、何度受け流したか――――」
「追加だ、持っていけ!!!」
「…………ッッ」
無慈悲なるエネルギーの上乗せ、手が焼け爛れる気配とともに、体全体が押し流される。
持たない。
そう確信した瞬間、プリカが俺の背を掴み、かめはめ波の外へと投げ出した!!
「プリ――――」
やめろ、そう伝えようとした言葉が奔流に溶ける。
俺はプリカの膂力によってかめはめ波より逃れ、しかし、セルがわずかにパワーを操作するだけでその抵抗は崩れ去だろう。
プリカもまた、俺を投げ飛ばした反動でかめはめ波から逃れたが……見ただけで分かるほどに傷は深く……だが、消滅していないだけで奇跡と呼ぶべきか。
これが人造人間、セル…………。
『攻撃開始!! 目標、緑の人型生物!!!!!』
『撃て!! 撃て!!!』
下から声がする。
霞む目を開けば、回転する視界に映った、一点へ……セルへと集中するビームと実体弾の火線。
「皆…………」
舞空術すらままならず、ほぼ自由落下で地上へと落ちてゆく俺達をかばうように、……いや、俺達をかばうために、軍隊はセルへと攻撃を集中する。
一方、それと相対していたフリーザ軍もまた、セルを敵と見なし、攻撃を始めていた。
「好き勝手しやがって!! こいつ、フリーザ軍のモンじゃねえな!!」
「地球には宇宙人部隊がいるって通信が来てたし、そいつかも……」
「パワーはあるらしいが、畳んじまえば関係ねえ!!!」
俺は……。
「グッ!!! ハァ……ハァ……」
地面に激突した俺は、全身のダメージと消耗から落下の衝撃を和らげることもままならず、瓦礫を枕に見を横たえる。
ヨガに集中しようにも、種銭となる体力がない、ただ……息を整えようとして、それもできない。
ぼやけた目に映る戦い……否、抵抗と蹂躙。
打つ手もなく横たわる俺の耳に、ひどい音質の通信が届く。
『こちら魔界…………中はどうやわれわ…………宙人部隊と…………っはっは、戦況は膠着…………』
『…………ンドゥ防衛隊、こち………………陛…………ラフ司令が…………』
『カプ……ションよ!! ……ボットの母船を…………船は…………あとは……飯くんの到着を……だけ!!』
おかしいのは耳なのか、通信機なのか、どちらもなのか。
頭もぼやけて、内容も飲み込めない。
『――――!!!!!! 敵の………………総大…………!!!! フリーザ………地上…………!!!!!』
「…………」
意識を保てない。
空を彩る閃光が、弱くなっていく。
ヨガを、呼吸を…………。
「…………心棒……メシ…………まともに……かんなあ、こんくらいはやったるのも…………だがよ…………」
近くで、誰かが喋っている。
遠い昔、どこかで聞いた気がする、あるいは、最近にも……。
「おみゃあ……これ……いとくで、ったく、……ってなら、自分で渡しゃ………んじゃ……とは知ら…………早よ逃げ…………うなりしやぁ………」
放り出したままの手のひらに、小さく重い何かが乗り――――俺は飛び起きた。
「お前!! ――――行ったのか、……いや、俺が意識を失っていたのか?」
見回しても、エネルギーを探っても周囲にはっきりとわかる気配はない。
手のひらに……小さな鉄のかけらがあった。
意味不明な贈り物に、俺は眉をひそめる。
「鎖の、断片?」
破断し、所々サビた、鎖のかけら一個分。
なぜ、誰が……。
そんなことを思う前に、俺の体はそれを帯の左にしまい込み、続けて、右に手を突っ込んで、一粒の豆を取り出した。
苛立ちのままに鎖を放り投げても良かったはずだが……俺はなぜだか、その鎖を手放してはならないと思ったのだ。
それはきっと、誰かがこれをわざわざ渡してきたからというだけではなく――――
「いや、こうしてはいられない、プリカはまだ……ッッ!!」
俺は自ら思考を断ち切り、プリカの元へと奔った。
倒れたプリカの傷はやはり深く、生命維持に必要な器官までも、エネルギーによるダメージを受けている。
……瀕死。
胸を締め付けられるような苦しさと共に――――打算の心が、膨れ上がってくるのを、感じる。
「ソ……シ…………」
「大丈夫だ、プリカ」
俺はプリカを助け起こし、握り込んだままだった仙豆をその口に押し込んだ。
その行為にある真心をけがすような、一つの期待を胸に抱きながら……。
ほどなくして、プリカは完全に息を吹き返し……俺の手を噛んだ。
「っっっがっは!! がふっ……ぐ、べ……」
「痛ッッッツゥ~~…………、ふぅ、間に合ってよかった」
「よくない、おまえのやけどの味で口がいっぱいだ、どうせなら口移しにしてくれれば……」
プリカはぶつくさと言いながら……俺と同じ期待を胸に抱いたのだろう、自らの内面へと意識を向ける。
……そして、ぱっと顔を明るくした。
「瀕死パワーアップは成功だ、怪我の功名ってやつだな」
「……瀕死の相方を前にちょっとワクワクさせられて、俺は自己嫌悪で死にそうだよ」
「今から強くなるライバルにワクワクするのは正常だろ?」
「かも、な……」
サイヤ人は、瀕死の状態から回復するとき、自らの持つエネルギーの総量を爆発的に上昇させる。
詳しい法則は不明だが……おそらく、その増加量は直面した敵のレベルによって変わるのだと、オレは睨んでいた。
それを証明するように今、プリカのエネルギーは元の数倍にまで上昇している。
一月前にベジータが見せた大猿を上回るエネルギー量だ。
だが……楽観もしていられない。
「プリカ、エネルギーを探知すればわかるが……皆は、地上に降りてきたフリーザへの対処と、宇宙空間のロボット母船との戦いでつきっきりだ」
「……オレたちだけで、セルと戦わなきゃいけないってことか」
皆、戦っている。
俺達が作った歴史で……もしかしたら、俺が思っていた以上に、『俺』が関わっていたかもしれない、この歴史で。
だが俺はやはり、この罪悪感に似るほど高まった責任感とは別の、より真っ当に熱いものを胸に感じていた。
感傷に浸ろうとする俺を引き戻すように、プリカが俺の背を叩く。
(……作戦、あるか?)
同時に伝えられた念に、俺は短く、素直な回答を示した。
(ある)
(そうだな、このパワーをうまく使えば、なんとか……)
(それだけじゃない、セルのエネルギーの性質は今ので僅かながら掴んだし……さらなる、弱点も見つけた)
律儀に黙ったまま、首をかしげるプリカに、俺は使うべき技を伝えてゆく。
セルのパワーは未だ圧倒的だが……まだ、希望はあるのだ。
俺とプリカは、静かになってしまった空へと上がっていく。
セルは穏やかな空で、俺達を待つようにゆったりと佇んでいた。
わけも分からずに散ってしまった地球……そして、フリーザ軍の兵士たち。
彼らを惜しむ心と同時に、それを引き起こしたセルへの怒りと、自らの不甲斐なさを越え、目の前の敵を倒さんとする戦闘意思が際限なく吹き上がってくる。
「怒りってのは、やっぱりガラじゃないが……!!」
「……大丈夫だソシルミ……オレも、同じ気持ちだ」
プリカはそう付け加えて、怒りの籠もった目で、セルを睨む。
セルは相変わらずの余裕の表情と声色で……。
「お久ぶりだね、予知能力者諸君」
「……ああ、あれから大分時間が過ぎた、以前の俺達とは思わんことだ」
「ほう……なるほど、きさま……界王拳を使っているな? 倍率は二倍といったところか……だが、それでも地球人には荷が重かろう」
セルの言う通り、俺は界王拳のエネルギーを纏っている。
肉体を酷使しながら、パワーを数倍にも上げる界王拳……その負荷は確かに、ただの地球人には荷が重い。
「ソシルミは特別製だ、甘く見るなよ」
その言葉に続け、プリカは『スター・モーニング・マルチプル』を多重展開し、叫んだ!
「ががあ!!! スター・トライナリ・ケンタウリっ!!!!」
「気弾を多重操作し敵を翻弄する技か、だが、エネルギーに劣る側が力を分けては――――」
セルの言葉を遮るように、俺が先陣を切って戦いへと飛び込んでゆく。
取る形はやはり、八千拳だ。
「またその技か!! チャパ王ごときの技を後生大事に抱えおって!!」
「それはかめはめ波も同じこと、技は鍛えるごとに姿を変え、新たな世界へと共についてきてくれるものさッッ!!!」
その言葉は、単なる売り言葉に買い言葉ではなかった。
だが……、界王拳とプリカのスター・トライナリ・ケンタウリのエネルギー弾群を合わせても、力を小出しに上昇させていくセルに追いつくことはできない。
俺の顔が怒りと苦痛に歪み……わずかに、口角が釣り上がる。
「どうした、ソシルミ……なぜ笑っている!!」
「わくわくしてくるって奴だ!!!」
「わくわくだと、この力量差を前に……」
困惑し、一瞬だけ足を止めたセルの体表を、ビームが焼く……わずかに焦がす。
防衛軍の生き残りだ!!
「ちぃっ!! まだ生き残りがいたか!!!」
「やめろーっ!!! こいつには効かない、逃げてくれ!!!!」
「プリカ……」
……俺の心は再び燃え上がりながら、その願いは、プリカと同じだった。
フリーザ軍との戦いは、ここではもう終わったはずだ。
こんな奴に立ち向かわなくてもいい。
俺のそんな思いを知ってか、知らずか……セルはほくそ笑む。
「やはり戦友が大事か、ソシ――――」
「うがあ!!!!」
何かを始めようとしていたセルに向け、プリカが全霊で叫ぶ。
同時に、遠くの地表で待機していたプリカのエネルギー弾が、一斉にセルへと襲いかかる。
「こんなもの、気付いていないとでも思ったか!!」
セルはほくそ笑み、次々襲いかかるエネルギー弾を見もせずに捌いてゆく。
同時に、プリカは凄まじい密度のエネルギーを口に溜め込み始めた!
「ぐ……お……が…………!!!」
「ふふ……気弾操作をしながらチャージする技量には恐れ入るが、飛び道具との同時攻撃とはずいぶんと古典的なアイデアだな!!」
「飛び道具だけと思うなよッッッ!!!」
俺は八千拳のボルテージを更に上昇させ、セルに対抗する。
一方、セルはエネルギー弾と俺の同時攻撃を物ともせず……。
……ついに放たれたプリカのビームを迎えた!!
「っごああああああ!!!」
「収束型か、確かにいい技だが、当たらんことには――――」
セルは出し抜けに速度を上げ、完全にエネルギーの軌道から外れた――――が。
その次の瞬間、ビームは鋭角に軌道を変え、戦場へと舞い戻る!!
「なっ!!!! だが、かわすのはたやす――――」
セルがそう叫んだ瞬間には、すでにビームはその背後へと到達し……。
プリカが放ったエネルギー弾……否、
当然、やることは一つ!!
「反射だと――――っぐああああ!!!!」
角度を変えたビームは完全な形でセルへとブチ当たり、爆炎を上げた!!
原理は単純、気功波の方向を変えるいつもの技(プリカのエネルギーはよく馴染み精度も上がる)を毛分身に使わせ、プリカの全力のビームを叩きつけたのだ。
だが、流石に毛分身をそのまま放ってはバレやすい、そこで、プリカの魔空包囲弾まがいの技に紛れさせた、だがそれだけじゃない。
プリカは未だ吹き荒れるエネルギーの爆炎を前にして、得意げに叫ぶ。
「はぁ……はぁ……!! 界王拳で一番大事なのは気のコントロールだ、体は地球人でも、ソシルミが使う界王拳が二倍程度で済むと思ったのが間違いだったな!」
俺は毛分身を放つと同時に、その分身をプリカのエネルギーでコーティングし、同時に本体が界王拳を使用することで、分身作成による消耗をごまかした。
……セルは俺ほど、エネルギーの探知や扱いには力を入れていない、あるいはセルの歴史における俺もそうだったのだろう。
この歴史の技が、セルに牙を剥いたというわけだが……。
「……我ながら、こすい技を使ったもんだ」
「そうか? 武道家らしい技だと思うけ……ど……、ソシルミ!!」
「ああ……」
焦るプリカに、俺は答える言葉を一瞬失う。
エネルギーの爆炎が晴れ始めると共に、その中からセルの濃密なエネルギーが顔を覗かせたのだ。
俺もまた、動揺の中にあった。
「まさか、あの一撃をまともに受けても――――」
それに続く言葉を放とうとした瞬間、爆炎の中から幾筋ものどどん波が飛び出し、曲がりくねる。
的確にプリカのエネルギー弾と気弾を撃ち抜いたそれらは、最後に俺とプリカを狙う――――そぶりだけを見せ、パン、と小さな音を立てて消え去った。
「……お前らしい、遊び心だな……セル」
「ふふ、楽しんでもらえたようでさいわいだ」
俺の皮肉に答えるように煙からまろび出たセルは、一切の無傷。
回復したのか、最初からそうだったのか、だが……傷もなく、エネルギーの消耗も見られないのは、確かだ。
「驚くことはない、気を常に体内に循環させておけば、小粒な反撃など意に介す必要はないというだけの話だ、もっとも、実力差が大きく開いているからこそ取れる手段ではあるがね」
「……なるほど、な」
俺とプリカの身を叩く感情は、乾坤一擲の策が破れたことへの失望、恐怖。
ここから打てる手は限りなく少ない
……そんな論理的判断に、『だからこそ』と、俺の体を巡っているはずの血が叫び、顔を笑みへと引き戻してゆく。
それを見た、セルは、さらに嘲笑った。
「だろうな、では……」
セルは笑いをこらえるような声で下へと手をかざす。
その手に現れるのは巨大なエネルギー弾!!
「ふははははは!!! きさまが人間どもを守りたいのはよーく知ってる、こうすれば笑えんだろう!!?」
セルはぞんざいにパワーをつぎ込むと、軽くぽんと押すようにエネルギーを投げ落とす。
命中すれば、町はおろか、逃げた避難民まで消滅は免れない威力……!!
俺が笑みを怒りの形相へとに変えかけたとき、プリカが叫んだ。
「セルっ、おまえそんなことのために!!!」
「このパワーも、きさまらの活躍の影でコツコツ集めさせてもらったものだ、仕上げはフリーザ軍どもの生命エキス、すべてこのためにやった、どうだ!? ソシルミ!!!」
「なぜ俺にこだわる!! なぜ俺にこだわっておいて、関係のない連中まで――――」
「はっはっは!! わたしもいい加減疲れて、うさばらしをしたいのだよ!」
「っ、があああああ!!!!」
プリカは猛烈な勢いでエネルギー弾の下へと回り込み、再び全力のビームを放つ……が、駄目だ。
この圧倒的なパワー差では押し合いにすらならず、ゆっくりと下がる気弾にそのままビームが飲み込まれていくだけに、終わる。
それを見て笑みを深めるセルは、おそらくエネルギー量によって圧倒され、俺達が力と技の無力を噛み締めながら町を見放し、逃げていく……そんな光景を見たいのだろう。
だが……。
「貴様の望みは、何一つ叶わんッッッ!!!!!」
俺はプリカのビームを避けながらエネルギー弾に回り込み、……それに両手をつける。
もっとも、飲み込まれるような単純なやり方ではない、最低限の距離を保ってエネルギー弾の移動や膨張と同調しているのだ。
「何をするかと思えば、まさか手で抑えるとは……」
「……抑えるだけか、見ておくといい」
俺はセルのエネルギー、そしてこの技の特性を深く見切ってゆく。
……ただ俺を愚弄したいというだけで、ここまでのことをするとは。
最初から、特定個人の抹殺と自らの完成のみを目的とする存在とわかっていたはずだ、だがこれは……。
「セル……ッッッ!!!」
軍人達の命、民間人の命、そして暮らし……人間同士の争いでは失われぬはずの山河までも消し去る巨大なパワーを前に、俺は怒りをたぎらせる。
セルの行為への怒り、それをあっけなく成そうとするセルへの怒り。
変えることの出来ぬエネルギーの差という現実への怒り……それを突き崩す技を俺は持っていない。
だが、作ってみせる。
また奇跡を起こしてみせる!!
「ム……ン……スォォォォ……ッッッ!!!」
深く息を吸い、そして吐く。
上腕からエネルギーを生み出し、下腕を通じて手のひらへと通し、セルのエネルギー弾へと流し込んでゆく。
それを鼓動のように、幾度も、高速で繰り返す。
「む……何を……」
……下には、次々と訪れる危機に立ち向かう軍人達。
町の周りには、わけのわからない恐怖に耐えながら、それでも指示に従って逃げてくれた住民たち。
「こ、これは――――」
ついに、技の放ち手が違和感に気付く。
だがもはや手遅れだ。
俺の注ぎ込んだ衝撃波エネルギーは、巨大なエネルギー弾の統合を破壊しつつある!
後は――――
「プリカッッッ!! やれー!!!!」
プリカ。
俺の隣の、自らは渋ったはずの歴史改変の結果……そう思ってきたいくつもの変化を前にしても、俺とともに歩み続けてくれた、友……恋人、相棒、ライバル。
俺とプリカは、世界を豊かに保つために、望む俺であるために、望む俺達であるために、ともに全力を尽くしてきた!!
「っぁぁああああああああ!!!!」
注ぎ込むエネルギーを極大まで増加させつつ、押し返すためではなく、破壊のためのそれに変化させたプリカのビームが……。
「に、二度も押し合いで戦闘力の差を越えるとは……!!!」
……セルのエネルギー弾を、完全に打ち砕いた!!
だが、それでは終わらない。
「――――ッッッッ!!!!」
俺は未だあふれるプリカのゲロビに乗り、吸収し、散らばったエネルギーの星雲を突破する。
……セル。
奴の考え、全てを知ることはできない。
奴の、何もかもを固定された生まれに、何も思わないわけじゃない。
でも、それでも。
「セルゥゥゥゥッッッッッッ!!!!!!!」
「くっ…………!!!」
エネルギーから抜けた俺の心には、蛮行への怒りだけがあり。
背中はひたすらに熱く。
「死ねッッッッッ!!!!!」
全パワー、全技術を込めた拳をセルに――――
「この分なら、連中が来る前に……いや、まだ少し楽しむ時間もあるな」
――――拳はセルに掴まれ。
「ふんっ!!!」
俺はセルの掛け声とともに、背中から地面へと激突した。
……脳が揺れ。
意識が。
よたよたと、小さな足でレンガを踏みしめて歩く。
がっしりと、小さな腕で抱えるのは、大きな水桶だった。
「んッ、ほッ、はッ……」
さんさんと輝く太陽が、桶に跳ね返ってチラチラと俺の顔を攻め立てるのを少し恨めしく思いながら歩く。
一歩ごとに、水桶の重みに押しつぶされた肺から息が漏れて、力んだ喉から声が出る。
それが妙に楽しくて、リズムよく足を動かすことを、心掛けてみたりもする。
……そんな俺の体を、大きな影が覆った。
「せいが出るな、ソシルミ」
「あっ、父さん、こ、これも、鍛錬です、それに俺も、お手伝い、しないとッ……」
歩みと呼吸に合わせて細切れに俺が返すと、俺の今生の父親、アエ・――――は俺の顔を覗き込んで、朗らかに笑った。
俺は範馬として強くあらねばならないし、この世界で起きる出来事についていきたい。
その点、このアエ家は代々武を重んじる家系で……それは鍛えるにも、俺を産み、育ててくれているこの家に報いるにもちょうどよかった。
……しばらく、父さんに太陽から守ってもらいながら歩いていると、前から……俺が水桶を運んでいるはずの向こう側から、心配顔の母さんがやってくる。
「ソシルミちゃん、大丈夫?」
「大丈夫、だよ、母さん、わざわざ、見に、こなくて、も」
鍛錬するのも目当てで、わざわざ自分から申し出たとはいえ、お手伝いをしているのにこんなに構われたら俺の立つ瀬がない。
若干、体相応の子供心に支配されながら、俺は少し口をとがらせる。
が、そんな心の揺らぎがよくなかった、その瞬間、少し砕けてくぼんでいたレンガに足を取られ――――俺は、必死に水桶を支えた!
「わわわッ……んぐッ!!」
「ソシルミ!!!!」
「おいおい、大丈夫か!?」
尻もちを通り越して背中から落ち、水まで浴びるハメになったが、水桶は、どうにか守り抜いた。
ほっとすると共に感じた目のにじみをこぼした水のせいにして、俺は答える。
「がぼ……、大丈夫です……」
「はっはっはっはっは、ソシルミはさすがだな!」
「ソシルミちゃん、怪我は、ああっ! お父さん!! 笑ってないで、なにか布を…………」
強がって見せた俺を見た母さんは慌て、父さんはわざとらしく豪快に笑ってくれる。
俺はどうやら――――
何か、長く夢を見ていた気がする。
ずっと留まっていたかったような、いたたまれず、すぐ逃げ出したかったような。
――――だが、そんな感傷に浸っていい時間がないのは、確実だった。
上空から飛来する影、足を動かせ、奴の飛来に合わせ――――
「ツァアッッ!!!」
「それで迎撃のつもりかっ!!!」
蹴り上げようとした足を避け、セルの手刀が胴体を襲う。
回避は不能、輝く手刀で迎撃を――――駄目だ!!
「ガハッッッ!!!!」
「浅いか、粘るものだ!!」
かろうじて手刀に手刀をぶつけて防ぐ、小指の骨が空気にさらされた。
だがまだ動かせる、技を使える……次の瞬間こそは奴に打ち込む。
そう誓いながら、防ぎそこねた分の衝撃を背の肉で吸収し、ダメージのかさんだ背骨と肋骨にむち打ちながらも、体ごとの回転に逃がす。
その勢いは俺を立ち上がらせ――――次の瞬間、セルの尾が俺を再び、地面へと叩きつけた。
「グッッ!!! ……ズアアッッッ!!!」
俺は叫びと共に、叩きつけの勢いを再び回転に変え、手刀に流し込み――――手首から投げられ、民家を3つ壊した先のアスファルトに転がった。
「……ハァ……ハァ……」
三度立ち上がった俺は、呼吸でダメージを抑え、構えを取る。
あのタイミングでも駄目か、ならば……そう思考しながらふと、隣に相棒が居ないことを思い出した。
プリカはまだ来ない、感覚が曖昧で、まだ生きているということしか、俺には分からないが……。
……代わりに、またセルが現れた。
「はあああーーーーっ!!!!」
上機嫌に突撃してきたセルのパンチにガードを重ねて、同時に、膝蹴りがみぞおちに突き刺さる。
フェイントですらない単なる同時攻撃、本来なら絶対に許さないような、わざとらしいほどに稚拙なコンビネーションを前に、俺の体はくの字に曲がった。
「が……ハッッ……」
「おいおい、この程度で終わりじゃないだろう?」
答え代わりに、持ち上げた顔には満面の笑み、強がりだけではない本気の喜びと、逆襲の誓いだ。
……それに叩きつけるように、更なる膝蹴りが、今度は顔に、胸に、そして俺の頭を掴んだセルは、その残虐性を戦いに隠すのを、やめた。
拳、足、尾、あるいは頭突き、文字通り遺伝子に刻まれているはずのフォームすらかなぐり捨てた、原始的暴力。
俺は殴られながらも、その技ですらない技を睨み続ける、……俺は、こいつを倒さなくては。
「技など関係ない攻撃を前には、さすがのきさまもかたなしのようだな、え? ソシルミ……!!」
「ガッッ……バ……そんな相手にわざわざ鬱憤ばらしか、貴様も趣味……グブッッッッ」
単に腕を振るっているようにしか見えないそれを見て、感じて……。
技の特徴はないか、隙はないか、反撃の手段はないのか、俺はいつまで持つ、皆は無事か、プリカは……………。
殴られているのに、その暴力の奔流を前に、憧憬と歓びを感じている自分がいる。
歓びながら、黒々とした怒りに身を焦がし、戦友達の仇を取れと叫ぶ自分がいる。
耐えているのか、機を伺っているのかすら曖昧な戦闘意識の片隅に、どこか他人事のような、あるいは逆に、純粋に人間的な感覚が戻ってきたのか、正体の分からない追憶が顔をのぞかせた。
そうだ。
こんなことが……前にも……。
→つづく
お久しぶりです、桐山です。
あとがきでは3ヶ月ぶりですね、申し訳ありません。
スーパーヒーロー延期は残念でなりませんが、ラストスパートへと入ろうとしている本作に時間をくれたと無理矢理思い込んで、頑張っていきたいと思います。
……さて、ついに本格的に姿を表した、もう一人の改変者……セル。
その望みはシンプルで、しかし、ソシルミたちと相容れるものではありません。
苛立ちのままにソシルミを叩きのめすセルに、立ち向かう術はあるのでしょうか。
はたして、ソシルミたちを抜きにフリーザと戦うZ戦士たちに、勝利はあるのでしょうか。
彼らが戦った先に、平和な地球は……。
次回も、お楽しみに。