転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第四十八話:転生TSサイヤ人が手を取って握るまで

 戦いの気配は不気味なくらいに静かで、なにもかもが息をひそめている。

 煙の上がる空は穏やかで、野焼きならばよかったのに、なんて、思ってしまって。

 

 オレは、この、煙の上がる瓦礫の山を見ながら。

 遥か下で繰り広げられる、ソシルミとセルの戦いを見ながら、思う。

 

 こんなことが、前にもあった。

 

 セルが振るう……ソシルミへの、暴力。

 全身に刻まれた傷とあざ、肋骨があるはずの胸は攻撃が当たる度におかしなへこみ方をする。

 手足の骨も、いくらかは無事じゃない……遠目にも、ひどくねじ曲がった指が見える。

 ――――ソシルミが諦めていないだけで、こんなの、もう戦いじゃない。

 

 セルへの怒りを心の奥に詰め込んで、必死に息と気を整えながら、オレは思い出す。

 ……ソシルミと出会った日の最後。

 

 魔族を倒しに乗り込んだ魔神城での戦いの終わりに、魔族の長、ルシフェルは『魔凶星の土』を使って圧倒的なパワーアップを果たして、オレとソシルミを打ち負かした。

 あしらうような一撃で倒れたオレの、ぼやけた目に映ったソシルミと、ルシフェル。

 ルシフェルはソシルミを殴って、蹴って……怒りをぶつけてた。

 その光景と、今起きていることが、ダブって――――

 

 「――――違う!」

 

 オレはセルの地獄耳を一瞬忘れて、叫んでしまった……なにが違うと言おうとしたのかも、わからないまま。

 はっとして、オレはセルをじっと見るけど、幸か不幸か、セルはソシルミに夢中で、気づいてない。

 

 「セル、おまえの相手は……」

 

 ……オレは、気と怒りをこぼさないように、ゆっくりと、二人のところに降りていく。

 昔のことを思うと、オレはずいぶん、自分の血……この命を毛嫌いして、ひどい扱いをしてきた。

 それでいて、戦いは楽しんで、大好きなソシルミとか、悟空との絆になる時だけはありがたいなんて思ってしまって。

 

 どうしようもなく勝手だ。

 でもオレは……。 

 ……オレたち、オレと悟空の親が、オレたちを愛して産み出して、生き延びさせるためにこの星に送り込んでくれたという言葉を、信じてる。

 自分の親に捨てられて、ずっと親代わりの人に育てられていたソシルミが言ってくれたあの言葉、オレにだけこっそりと教えてくれたオレのお母さんの名前……『ギネ』。

 それを、心から、信じたいと思ってる。

 だから――――。

 

 「っがああああああ!!!!!」

 

 オレは気を全開まで高めて、全力の舞空術で落下を早める。

 目指すはセル、ライダー・キックだ!!!

 

 「!!!! ようやく来たか、プリカ!!!」

 

 セルはオレの攻撃を物ともせずに防ぎながらも、掴んでいたソシルミの頭を離した。

 ソシルミは体を支えきれずに、地面に落ちてうめき声を上げる。

 オレの怒りは、それで溢れた!!!

 

 「――――セル、おまえの相手は、オレだっ!!!!」

 

 「ほう……なにをする気だ? この状況できさまに使える技など……」

 

 セルは笑ったまま、オレを見る。

 でも、それより気持ち悪いニヤけ面が、セルの足元にあった。

 その顔は、なにかを思い出すようで……多分、オレと同じ日を、思い出しているんだ。

 

 

 何日か前、ソシルミとオレは、これからのパワーアップについて話していた。

 フリーザとの正面対決に必要なパワーは、これから鍛えても絶対に手に入らない。

 それで、まず思いついたのは、サイヤ人が瀕死から回復するときのパワーアップだったけど……

 それは、一度事故で似たような状況になったとき、特にパワーが上がらなかったことを思い出して、やめた。

 (パワーアップのブレ幅が大きすぎるし、瀕死にしたりされたりするときの心へのダメージが、戦いに影響しかねないほど大きいと思ったからだ)

 

 次に、界王拳……でも、界王拳を使うにはオレの気の操作は大雑把すぎる。

 最後は超サイヤ人、これが本命だ。

 穏やかな心と強い怒り、十分なパワーを持ったサイヤ人が覚醒できる、超強力な変身。 

 髪が金色、目が青色になるだけのシンプルな変身だけど、戦闘力はなんと50倍にハネ上がる。

 ……でも、オレの心は穏やかじゃないし、第一実力も足りない、足りてるのは怒りっぽさだけだ。

 

 それでも、ああ、今すぐ超サイヤ人になれたら……!

 なんて冗談交じりに叫んだオレに、ソシルミはいきなり神妙な顔をして、『うなじの辺りに意識とパワーを集中しろ、それが『コツ』らしい』と、教えてくれた。

 ……はっきり言って、ソシルミはオレよりずっとドラゴンボールオタクだ、オレの知らないことを知っていても、おかしくない。

 でも、そんな理由がなくても、オレはソシルミのアドバイスを疑ったりなんてしない、事実オレは、それを信じ切って、今気を高めている。

 

 「は……ぁ……っ」

 

 「……お、おいきさま、まさか」

 

 「あ……あ……!!」

 

 ソシルミの教えてくれたやり方で息を整えて。

 ソシルミの教えてくれた場所に。

 ソシルミと深くつながって磨かれた技術で、気を送り込む。

 ソシルミを思って燃え上がる怒りと、いっしょに。

 

 「まさかきさま!! さ、させるか――――」

 

 「おいおい、俺はタッチを受け入れた記憶はないぜッッッッ!!!!!?」

 

 オレを止めるために走り出そうとしたセルの甲殻に、ソシルミの輝く指が、まっすぐなのとねじ曲がったのを一緒くたにした指が、突き刺さる。

 

 「こ、このくたばり損ないが!!!」

 

 セルはソシルミを引き剥がそうと暴れて……でも、ソシルミは粘り強い、絶対に、死んでも離さない。

 ……心も体もソシルミに守られながら、オレは最後の集中に入った。

 

 「が……ぐ、……おお……!!」

 

 ずっと濁っていた雄叫びが、段々と、澄んだ叫び声に変わる。

 怒りを燃やしながら声が落ち着く矛盾は、きっとオレが、拒んできたものを受け入れたから。

 

 「あ………ああ……はああああ!!!!」

 

 ……ソシルミが連れ出してくれて、ソシルミと一緒につかんだ居場所。

 悟空やチャパさん、ピラフやルシフェルたちの暮らすこの星の平和を壊してきたやつへの怒り。

 そんな怒りの根っこはきっと、ソシルミが褒めてくれた、優しさだから。

 

 「ふんっ!!!!!」

 

 うっとおしい前髪が、ゆるやかに垂れたまま金色に輝いて、吹き上がるオーラにたなびいた。

 全身から、怒りと喜びと戦いへのわくわくが湧き上がってくる。

 

 「……よし」

 

 「なんということだ……!! しかも、バカな、この戦闘力での超サイヤ人への覚醒は……」

 

 のんきに驚くセルに、オレは指先を向ける。

 オレが覚醒の余韻にでも浸ると思ってるんだろうが、そんな余裕はない!

 

 「どどん!!!」

 

 「なっ……」

 

 セルは防御姿勢を取る余裕もなくオレのどどん波に飲み込まれて、遠くの瓦礫へと吹っ飛んだ。

 ソシルミの体は、さっきよりずっとボロボロだ、オレの集中する時間を確保するために、セルに必死に食らいついて、さらにひどく攻撃されたから……。

 でも……それでもソシルミは、そんな体でセルの方向を睨んで、しっかりした構えをとっている。

 いつもの、オレが……皆が好きなソシルミだ。

 ソシルミはそんなオレに心配は無用だというように、口元だけで笑った。

 

 「悪くないぞ、プリカ」

 

 「……なにが?」

 

 「お前の金髪碧眼も、悪くない」

 

 オレは超サイヤ人になったばかりで加減の出来ない足を抑える。

 ただでさえ髪と目の色が変わってるのに顔まで赤くなった。

 ソシルミはオレの葛藤を見抜いたようで、自分も恥ずかしそうに笑って、それから、セルが飛んでいった方を気にしながら、傷だらけの手で腰の仙豆をとって食べた。

 

 「……ガリ……ムニュ……ング……うむ、元通りだ」

 

 治るところは少しだけ気持ちが悪いけど、元気になっていくソシルミを見ると、オレの気持ちも安らぐ。

 ソシルミも、またまじまじとオレを見て……、それから、少しだけ渋い顔になった。

 

 「戦闘力で言えば100倍は下らないか、ずいぶん差が開いた」

 

 「……おまえも拗ねるんだな」

 

 「俺をなんだと思ってる、最強を目指すってのは自信過剰だけじゃ駄目だ、弱さを認めるのも過剰なくらいでないと……」

 

 オレはソシルミの口に手をあてて、ソシルミの言葉を遮る。

 今起きたことは、全然違うからだ。

 

 「ソシルミ、強くなったのはおまえもだ、そうじゃないのか? オレが強くなったら、おまえもずっと強くなるはずだ」

 

 また恥ずかしいことを言ってしまった……しかも、今回は動作つきで。

 言うそばからちょっと後悔しかけてるオレの前で、ソシルミは百面相をかみ殺す。

 それから、真面目で……それでいてわくわくした顔で、『ちょうだい』にした手を向けてきた。

 

 「……プリカ、パワーをくれ」

 

 「好きなだけもってけ、ドロボー」

 

 その言葉に含ませた意図を受け取ったソシルミは、まだ少し口をもごもごさせながらオレの手をとって、気を抜き取っていく。

 何度も繰り返した技だからか、取り込める量が上がってるらしい。

 一通り取り込んだのを感じたオレは手を引こうとして……ソシルミに、ぎゅっと掴まれた、

 いや、いくらなんでも……!!

 

 「お、おい、とりすぎだ、大丈夫か!!?」

 

 ソシルミの筋肉は音を立てるほど筋張って、血管も浮き出て……少し、鼻血が垂れた。

 気は生命エネルギーでもある、受け取りすぎは体への影響も大きいんだ。

 でも、そんな症状もオレの心配も物ともせず、ソシルミは取り込んだ気を操って、なじませて、体の表面にまでまとわりつかせていく!

 

 「グッ……クク、俺もこの戦いでいくらか掴んだ、それに、……ムンッ……少しは、ハハ……男を見せんとな」

 

 「いや、十分――――まてソシルミ、セルが……!!」

 

 十分見せられてる、と言おうとした言葉は、セルが起き上がって、気を高め始めてるのを見て吹っ飛ぶ。

 

 「この土壇場で超サイヤ人に目覚めるとは驚きだが……たったそれだけのパワーでわたしにかなうかな!!?」

 

 セルはブスブスと煙を上げているのに、ダメージを感じさせない声を上げて、両手を上に上げて技を作る。

 小さな、でも強力なエネルギー弾……デスボールだ!!

 超サイヤ人になったオレのパワーでギリギリか……足りないか、そんな凄まじいパワーを秘めた技。

 それを見たオレは、超サイヤ人になったことで手に入れた自信を失いかけて……ソシルミは、また笑った。

 

 「行くぞ、セルッッッ!!!」

 

 「気を取り戻したからと調子に乗るな、きさま!!」

 

 オレが止める間もなく……いや、オレはもう止めようとも思えなかった。

 ソシルミは、そのままセルへとすっ飛んでいく。

 セルは向かってきたソシルミにデスボールを投げつけて……。

 ……デスボールは、ソシルミの振りかぶった両腕に激突して、その纏った気をメリメリと剥がしはじめた。

 

 「ふっ、プリカそのものならまだしも、纏っただけのきさまでは――――む!!?」

 

 「――――……ッッ!!!」

 

 全部のオーラを剥がされても、ソシルミは力負けしてない!

 どうして……音を立てて弾け跳ぶ金色の気と……服の、背中。

 

 「()アリャアァッッッ!!!!」

 

 「なっ……!!」

 

 溢れたオーラを剥がされながらも、ソシルミはその両腕でデスボールを空の彼方に弾き飛ばして、そのままセルへと振り下ろした!!

 

 「ぐ、おおおっ!! バカな、プリカから補充された気だけでは……、まさか!! アエ・ソシルミ特有の変身――――」

 

 「――――なるほど、お前の歴史の俺も掴んでいたかッッッ!!!」

 

 現れたソシルミの背中は、あの、人の筋肉が作ったとは思えない形。

 鬼の貌になっていた。

 極限状態、そして……オレの気をあふれるほどに吸い込んだことが、ソシルミの覚醒を促したんだ。

 

 「まだ浅いか、まだ驚きだけか、セルッッッ!!!」

 

 「ふん、きさまの戦闘力が何倍になろうと、わたしの前では――――」

 

 「ハハハハハッ!! ならば、鬼の貌の真価を見てみるかい!!!?」

 

 だけど、文字通りソシルミの力になれたとか、オレとソシルミのパワーなら届くかもしれないとか、喜んでる余裕もない。

 笑うソシルミは、そのまま八千拳の構えになって……満開の拳を放った!!

 

 「――――ッッッッッ!!!!!!」

 

 「このわたしにそんな連撃など……!!」

 

 セルは余裕でソシルミの連撃をさばくけど、オレは知ってる。

 範馬勇次郎は、連撃も強いんだ!!!

 

 「こ、これは!!?」

 

 「お前ともあろうものが、目の前の相手の技も見抜けないか!?」

 

 「……そうか! 背筋を軸とする変身ならば、連打の速度と精度までも……!!」

 

 「さあ、それが分かったお前はどうするッッッ!!!」

 

 ソシルミの挑発に、セルは見て分かるくらいに怒って……。

 

 「どうするだと? 策など必要ない!! はあーっ!!!」

 

 ……気を更に爆発させた!!

 

 「これは……ッッッ!!!」

 

 「まだ余力があるのか!!?」

 

 感じるだけで震えがくるパワー、これがセル……さっきまでは全然本気じゃなかったんだ。

 

 「きさまらを殺すには十分だからこその余裕だ、それを忘れたわけではあるまい!!!」

 

 いきり立ったセルは、急激に拳の速度を上げた!

 ソシルミの……ぶつけ合っていた拳から、攻撃のかすめた顔や胴体から、血が飛び散って霧になる。

 ……もうソシルミだけでは限界だ。

 一方の、オレは準備完了、もう十分観察させてもらった、ここからは――――

 

 「だぁーっ!!!! バイナリ・スター・モーニング!!!」

 

 「ぐっ……!! プリカめ、奇襲は何度も通じんぞっ!!」

 

 カットに入ったオレの攻撃を、セルは声を上げながらも防ぎきった。

 久しぶりに使うバイナリ・スター・モーニング、手を飲み込むように膨らませた気弾で殴る、技術をないがしろにした古い技だ。

 でも、パワーを持て余してる今のオレにはこれがちょうどいい!!

 

 「続けて……っ!! スター・トライナリ・ケンタウリ!!!」

 

 輪を振って作るシャボン玉みたいに、バイナリ・スター・モーニングからたくさんの気弾を作って、セルにけしかける。

 大丈夫……制御できる、超サイヤ人は頭に血が登ってても、冴えてるんだ。

 

 「ちっ!! サーカス団でも始める気か!? こんな芸で……」

 

 「そうかな、美しい『武芸』じゃないかッッ!!」

 

 オレと気弾とソシルミの連携はお互いにパワーアップしても、完璧のままだ!

 でも……それだけじゃ終わらない。

 さっきソシルミがオレの気をまとわりつかせる時に潜ませておいた、小さな気弾を呼び出し――――

 

 「ふん、また伏兵か、こんなもの……」

 

 ――――ながら、バイナリ・スター・モーニングの気弾を膨らませて、セルに投げつける!!

 

 「そして二段構え、バカの一つ覚えとはこのことか、通じんといったはずだ!!」

 

 セルはそれを軽々とよけて、同時に襲いかかるソシルミの拳と、スター・トライナリ・ケンタウリの軌道もかわす。

 死に体になる瞬間は一瞬もない、でも、気弾の中から現れたオレの指先にともる光を見逃す瞬間はあった!!

 

 「!!!! まさか!!」

 

 目を丸くしたセルは、オレから距離を取ろうとして……界王拳を発動したソシルミに、腕を掴まれた。

 セルにも悟られなかったオレの意図を、ソシルミはしっかりとわかって、準備してくれていたんだ。

 

 「は……離せ!!」

 

 「魔貫光殺砲!!!!」

 

 オレの魔貫光殺砲がセルの頭に突き進む。

 ずっと前に使ったパチモンじゃない、本物の魔貫光殺砲!

 貫通に特化することで注ぎ込む気の量以上の威力を持ったこの技は、セルの頭を貫くのに十分!!

 セルは再生能力を持っているけど、その核は頭にある、だから、弱点は人間と同じ。

 おまえの変えた歴史もここまでだ、セル! オレは内心そう叫びたい気持ちをこらえて、技に集中する。

 

 「こ、この…………」

 

 セルはかろうじて自由な手をかざして、魔貫光殺砲の軌道に置く、でも手のひら一枚じゃこいつを防ぐには――――

 ――――でもその瞬間、セルはその表情を焦りから……『気付き』に変えた!

 

 なにかヤバい!!

 オレとソシルミは直感するけど、追い打ちをかけるにはとても間に合わない。

 自分が焦るハメになったオレが睨むセルの手が、あの何度も見た『輝き』で光って……。

 そこに命中した魔貫光殺砲は、僅かな擦り傷だけを残して、飛び散ってしまった。

 

 「なっ!!!!?」

 

 「~~~~ッッッッ!!!」

 

 こんな、この技が来るはずがない、これは『セルの歴史』のソシルミの技じゃないはずだ!

 ここに来て、やっとオレは思い出した……セルは

 セルはオレとソシルミの驚きに心地よさを感じたのか、得意げに笑う。

 

 「ふぅ……ふふ、この私の世界中からかき集めた武道家の才覚と知性……甘く見ていたんじゃないかね?」

 

 「……なるほど、だが俺にとっては、武道家というのは楽しみやすい、最高の相手だ」

 

 ソシルミの買い言葉を聞いて、セルは更に大きく笑った。

 

 「ははは!! では、……そろそろ、殺すとするかな」

 

 本気なのか、ただ脅してみたいだけなのか、やたらと物騒な言葉とともに、セルは気合をこめていく。

 多分これが本当の戦闘用パワーなんだろう。

 

 「はあ………ふん!!!」

 

 巨大なパワーにも関わらず、それはけっこう、早く済んだ。

 ……今までの、何割増しかくらいで。

 でもそれは……。

 

 「どうだ、これくらいでも絶望的な感じがするんじゃないか?」

 

 まったく、セルの言う通りだ。

 セルはソシルミだけが使えた強力な技を使えて、素の技術力も高くて、パワーまで上がってしまった。

 ソシルミすら、恐怖をにじませていて……。

 それでも、冷や汗をかきながら軽い感じで答えた。

 

 「確かにな」

 

 「……ふん、わざと言葉を受け入れて強がっても意味はないぞ」

 

 「違う、お前の強さがわかって感じるのは恐怖だけじゃないから、認めるのさ、俺は……」

 

 セルに真正面から向かって言う、強がりじゃない、ソシルミが本気で放つ言葉。

 その続きはもうわかっている、わかって……オレのこわばった顔が、口だけ緩んだ。

 

 「わくわく、してきた」

 

 恐怖じゃなく、興奮に震える声。

 その『わくわく』が、死を目の前にして湧き上がるものだとしても、オレの心は、その声と背中で勝手に励まされてしまう。

 そんなオレの隣で、ソシルミは『輝く手』を構えた。

 つまり、使うのは八手拳でも気力大移動でもない、輝く手の精度を極限まで高めて使う、変幻自在の連撃だ!!

 

 「武道家同士、楽しく試合しようかッッ!!!」

 

 「楽しむ? ただ殺すだけだ、きさまらを!!」

 

 二人の『輝く手』、それとオレの拳と気弾が再びぶつかり合う。

 ソシルミの繰り出す技は常に的確だ、頭と反射神経の組み合わせが、最適解を導き出し続けているんだ。

 オレの振り回す、手足の先と衛星軌道の技も、セルの意識の端ギリギリを狙い続けて、攻撃をぶつけてる。

 ……でも。

 

 「グッ……!!」

 

 「ソシ――――ぎっ!!」

 

 オレの腕から血が出る、胴体をかすめたパンチで、内蔵が揺れる。

 ソシルミは……その、何倍も傷ついている。

 前衛後衛だとか、策だとかを考えない全力の連携攻撃も、セルには通じない!

 そんなオレたちの様子を見て、セルは……何も表情を変えずに、ただ黙って拳を振る。

 

 「…………!!!」

 

 「グボ……だんまりとは、つれないな、セル!!」

 

 ソシルミが血と一緒に吐き出した言葉にも、セルは答えない。

 セルに、もう遊びも余裕もないんだ。

 それはオレたちも同じで……いや、ソシルミは、回復したはずの気がまたもうほとんどなくなって、ダメージも限界に……。

 

 (ソシルミ! このままじゃジリ貧、いや……もう……)

 

 (……だが、技が完全に通じないってわけじゃない)

 

 ソシルミのか細い念話は希望を伝えてくる、でも、オレにその希望をつかめるとは思えない。

 オレたちの技は多分、セルに届く……。

 だからこそ、セルはもう遊びなく確実にオレたちを殺しにくる、セルはそういうやつだ。

 

 「お前と戦えばこうなることは分かっていた、セル……だが、俺もただ何も考えずにやってるわけじゃないさ」

 

 ソシルミは言葉と笑みを絶やさない。

 血を吐きながら、零しながら、もう皮より肉が多く見えてるような手を鋭く振る。

 その笑い顔には、いつものよろこびや皮肉とは違う、別のニュアンスが溢れて……。

 その気が、オレにしかわからないくらい小さくだけど、黒く濁った。

 

 「……そろそろだ」

 

 ソシルミが、ほくそ笑みながら空を見上げる。

 ……なにを見てるんだ?

 

 「一体なにを待っている、ソシルミ……!」

 

 「……さてな」

 

 ソシルミはセルから意識を逸らさないまま、空の一点を見つめている。

 そして……。

 

 「まさかソシルミ、くだらん時間稼ぎじゃないだろうな!!」

 

 まだ空を見つめるソシルミに、しびれを切らしたセルが遅いかかる!!

 時間稼ぎ? 息を整える時間一瞬のために、こんな手を使うなんてありえない。

 そう叫ぼうとしたとき、オレはようやく気づいた。

 なぜか、()()()()()()()()()()()()

 

 「え?」

 

 (貰うぞ)

 

 ソシルミはいつの間にか上がったオレの手を掴んで、気を勝手に抜き取った。

 気を取られたオレがそれを感じる間もないくらいの一瞬の後、ソシルミの体がセルに飛び込んで、足が跳ね上がる!!

 

 「(シャ)ァァァッッッ!!!!!」

 

 「!!!!」

 

 オレから引っこ抜いた気を、そのまま体に流し、流した部分を駆動させて加速へと回して……足へ!!

 普段の気力大移動とは反対の順序、地面を蹴らないの以外は全く同じ、でも、桁違いの威力だ!

 それを食らったセルの頭はまるで花みたいに弾けた!!

 

 「敵を欺くにはまず味方から、気付かずに準備してもらうのは骨が折れたが……功を奏したようだな」

 

 「でも、ど、どうやってオレの気を……」

 

 思わず口に出した言葉の答えは、言わなくてももうわかっている。

 認めたくないだけだ、……無意識へのテレパシーに応じて腕を上げて、気まで渡すほどべったりな自分を。

 ソシルミは自分で答えが分かってる質問をしたオレに、視線を向けないままニヤつきを返して、トドメのためのパワーを……。

 ……その瞬間、セルの弾けた頭の真ん中の肉が裂けて、目が覗いた。

 

 「――――プリカッッッ!!!」

 

 先に動いたのはソシルミだった。

 次の瞬間、その『目』から飛び出すビームからオレをかばって、吹き飛んだのも……!

 

 「ソシルミっ!!!!」

 

 「まさか……わたしが、予知能力を不安視しているというだけの情報から、ここまで仕込んでくるとは……」

 

 セルがしゃべって、オレは一瞬本当に、恐ろしさじゃなく、気持ち悪さ、おぞましさでビビる。

 一体どこから喋ったんだと思って見れば、セルの弾けた肉の首元が割れてできた穴……それが新しい口だ。

 それからすぐ、みるみるうちにどんどん肉が膨らんで、びろっと垂れ下がっていた周りの肉や皮もまとまりはじめた。

 緑色の粘液を垂れ流しながら粘土のように頭がこねられて……もとの形ができる。

 ……それを見て、やっとオレの胸に、おぞましさ以外の感覚が戻ってきた。

 ただでさえ圧倒的なパワーなのに、殺せるはずの方法で殺せない。

 オレは目の前が暗くなりながら、セルに聞く。

 

 「コアを……隠したのか」

 

 「やつの土壇場での逆転劇はあなどれん、警戒に警戒を重ねて損はあるまい……さて!!」

 

 声を荒げると同時に、セルは爆発音じみた風音を立てて、ソシルミにトドメをさすため、地上に向かう!

 駄目だ、ソシルミが殺されたら――――

 

 「ま、待てっ!!!」

 

 当然、セルは待たない。

 オレのスピードじゃ、セルには追いつけないし、残ったスター・トライナリ・ケンタウリの気弾を発射しても……。

 

 「ふん、こんなチンケな技でわたしを止めるつもりか?」

 

 セルは速度を変えないまま向き直って……ソシルミの(本当はシュラの)衝撃波を撃つ!!

 衝撃波は、オレの気弾の特徴を完全に捉えてはいないけど、ソシルミを遥かに越えるパワーは、気弾を消し飛ばして、オレまでその渦に巻き込んだ!!

 

 「…………っ!!!」

 

 ショックと同時に全身はめちゃくちゃな方向に引きずられて、皮膚は『かまいたち攻撃』でも食らったみたいに裂けていく。

 でも、この痛みなんてどうでもいい。

 オレにとって一番大事なのは――――

 

 「ソシルミっ!!!!」

 

 衝撃波の嵐の向こうに見えるソシルミの気は弱りきっていて、それでも立ち上がろうとしているけど、もう体を支えるだけの力も残ってない。

 ソシルミを殺させるわけにはいかない、でも、もうセルは攻撃の準備を完了していて。

 オレが目をつぶるのを必死にこらえながら見ている中――――ソシルミに飛び込んだセルは、右脇腹、帯の部分を大きくえぐった!!

 

 「~~~~ッッッ!!!!」

 

 「どこだ……どこに……あったぞ!!!」

 

 心臓でも頭でもなく、右脇腹をえぐったセルは叫ぶ。

 オレは疑問を感じながらも、心の大半を、ソシルミが生きていてよかった、というだけの思考に奪われてしまう。

 でも、その答えはすぐにわかった。

 ……血しぶきの中に散るのはソシルミの血肉と、服の切れ端、それに……仙豆だ。

 セルはそのまま、仙豆に向けて噴射型の気功波を撃った!!!

 

 「ああっ!!! く、くそっ、仙豆を!!!」

 

 「……はぁ……はぁ……、やはり、そこにしまっていたか……!!」

 

 やはり、つまり、セルは仙豆の場所を知ってたのか……?

 ……そうか、セルはきっと、前の歴史からこの歴史まで観察したソシルミの行動パターンから、ソシルミがどこに仙豆をしまったのか、覚えていたんだ。

 でもそんなことは重要じゃない、オレたちは……唯一の回復手段を失ってしまった。

 重症のソシルミを治す、たった1つの手段を……。

 

 「グ……セ、セル……!」

 

 「やはりきさまは、これくらいではくたばらんか……!!!」

 

 ソシルミは血を吹き出し、なんでかはわからないけど、左の、残った帯を抑えながら膝をつく。

 ……地球人の限界を遥かに超えたダメージだ。

 目はうつろで、手足に力はなく、オーラすら、もう漏れていない。

 そんなソシルミを仕留めようとするセルの技は……ただの手刀でしかない。

 でもそれは、自分の歴史改変をジャマするソシルミへの本気の鬱憤と恐怖と怒りが籠もった攻撃。

 その全身全霊の攻撃は、間違いなく最高の威力だ……、今のソシルミには……。

 いや、仙豆で回復した直後のソシルミにもそれを防ぐことはできない。

 止めなくては、オレの命をかけてでも!!!

 オレは二人の間に飛び込むため、全力の気を開放しようとして……。

 

 「――――…………ッ」

 

 ……ソシルミの目が、赤く光るのを、見た。

 見てしまって……動けなくなった。

 

 「死ねいっ!!!!」

 

 ソシルミに戦意がある、それを見守るのは、オレにとってずっと、絶対のことであり続けたからだ。

 だから、体が先に止まってしまった。

 

 ……オレだけの幻覚かもしれない、とも思う。

 そう……これは、オレがソシルミから吹き上がる意志を勝手に感じ取って見た幻覚かもしれない、と!

 

 「ア゛ッッッッ!!!!」

 

 「なっ!!!?」

 

 ソシルミが、雄叫びですらない、肺から空気が漏れただけの声を上げて、それを追いこすように深く深く踏み込む。

 オレの感覚でもわかるほどとてつもない気の……気とは少しだけズレた何かの、爆発。

 それは……亀仙人と鶴仙人が昔使った魔封波や、鶴仙流との技術交流で見た気功砲……つまり、命を犠牲にする技が放つパワーだ。

 

 「ソシルミ……!!」

 

 でも、オレはそれに不安を感じない。

 ただただ、そうかやるのか、としか思えない。

 ソシルミがやるなら、きっとどんな技でも、なにもかも投げ出すようなものじゃない。

 

 「()ィィィァアア!!!!!!!」

 

 踏み込みきったソシルミが放つのは掌底、手の輝きは見たこともない形と色!!

 

 「う、うおおおおっ!!!!」

 

 叫ぶセルに向けて、ソシルミの掌底が向かい――――瞬間、太陽拳以上の光と、感じたことのないほどの気の爆発が町を包む。

 一瞬だけ、1秒にもならない短い間だけ、オレも意識が曖昧になって……。

 

 「ど……どうなった……」

 

 目が働くようになるのと、衝突で起きた土煙が晴れるのは大体同じくらいで……。

 煙の中、1つの影が、声にならない声を上げた。

 

 「……ッ…………」

 

 ……そこにいたのは、腕を振り抜き、そのまま倒れようとしているソシルミ。

 そして、その掌底を防ぎきった、腕をクロスさせたままのセル。

 

 「あ、あの技を正面から……!!」

 

 力への絶望、恐怖、理不尽への怒り……あらゆるものが混ざりあった感情が、オレの中で駆け巡る。

 あの技……ソシルミが使った技は多分、命がけで撃つ気功砲の気の動きを、拳術として使ったものなんだろう。

 ずっと格上の相手にも通じる、命がけの技、それをソシルミが使ってもだめなのか……!

 オレがそう思った時、音が聞こえそうなほど大きく、セルの体が震えた。

 

 「……かはっ………!」

 

 続けて、吐血!!

 人間とは違う色の体液が、口から飛び出して、全身の殻の隙間からもにじみ出た。

 気持ち悪い、というより……わけがわからない、ソシルミの技が効いたのか!!?

 

 「まさか……こんな技を持っているとは……だが……終わりだ!!」

 

 セルはふらつきながら、ソシルミへと向かっていく。

 止める……いや、このままオレがセルを倒す!!!

 

 「セル!!!」

 

 「まだきさまがいたか……く、使いたくはないが……!!! ふん!!!」

 

 セルはオレを睨むと気合を込めて、真っ赤なオーラを拭き上げる。

 界王拳のオーラ!!

 ソシルミの技を防いだのはこれだ、オレがそう理解したときには、セルはオレに腕を向けて、衝撃波を放っていた!!!

 

 「はぁーっ!!!!!」

 

 「ぐああっ!!! ソ、ソシルミーっ!!!!!!」

 

 衝撃波に飲み込まれながら……オレは思わず、その名前を呼んだ。

 助けを求めたいのか?

 違う……。

 ただただ叫んだ声は、衝撃波の中に掻き消えて、オレは瓦礫に激突した。

 動けない、頭をやられたのか、瓦礫を濡らしている血は、流しすぎて死ぬ量なのか。

 骨も折れてる、筋肉も……無事なとこがない。

 ……オレは立ち上がろうとして……無理だった。

 セルも、オレを仕留めたと判断したんだろう、セルはソシルミに向き直って……。

 また、血を吐いた。

 

 「はぁ……はぁ……がはっ!!!」

 

 界王拳の反動……繊細で負荷の大きい技だ、セルみたいな特殊な体で使えば、なにが起こるかわかったもんじゃない。

 セルも必死だ。

 

 「これで……終わりだ、歴史の変わり具合が多少気にかかるが……あとは……後で……」

 

 その必死を引き出すのが限界で、オレたちにはもう、手がない。

 セルは気功波をチャージして、完全にソシルミにトドメをさす気だ。

 オレは気を……ソシルミに向けて送ろうとする。

 まともに残ってない気で、効率が悪くても……でも……。

 

 「ソシ……ルミ……」

 

 また、女々しく名前を呼ぶ。

 好きだから、愛してるから死んでほしくないのか?

 ……それだけじゃ……ない。

 血と気が足りなくて朦朧としてきた意識では、自問自答も、まともにできなくて……。

 

 「死ね、ソシル――――」

 

 「――――ソシルミさん!!!!」

 

 気功波に割り込んだ声、影!!!

 

 「なっ……!!?」

 

 「……!」

 

 オレとセルが、同時に目を見開く。

 普段のオレたちから見ればのろすぎるそれでも、疲れ果てたセルが技を引っ込めるのには十分で。

 影…………サイボーグの人がソシルミを投げ上げて……そのまま体を気功波で粉々にされるには、十分な時間が、あった。

 

 胴体がなくなって、首から先だけになった軍人のその顔は……ほっとするように、笑っていた。

 オレはその人の顔を見て、ソシルミを救ってくれた感謝でも、セルへの怒りでもなく。

 深い深い、共感を抱きながら、意識の限界を迎えて、まぶたが落ち――――

 

 

 

 

 

 指先が、土をかいて。

 頭に……自分の声がひびく。

 

 

 母さん。

 

 

 ……落ちた意識が浮き上がる瞬間、オレは、そんな言葉を頭に浮かべていた。

 オレが、母さんと呼ぶのはたった一人。

 そもそも一度も話してないこの人生の母親じゃなくて……前の人生の、前のオレの、母親だ。

 20年も使ってない言葉、なんでオレは、今……。

 

 関係ない。

 意識が戻ったなら、立ち上がらないと、ソシルミは無事か?

 目が霞んで見えない、視界に見える髪の毛は黒、超サイヤ人は解けているんだ。

 勝算は薄い。

 でも、オレは土を握って、必死に体を持ち上げようとしていた。

 ソシルミを助けないといけないから、動いたんだ。

 

 膝が震える、セルの叫び声が聞こえる。

 

 ソシルミ……ソシルミはオレにいろんなことをしてくれたな。

 ソシルミは、自分を閉じ込めながら大猿として暴れて鬱憤を晴らす歪んだ暮らしをしていたオレを、仲間として、迎え入れてくれた。

 転生者なんだと確信を持つ前から、文明的な生活と、トレーニング環境、そして、たくさんの思いやりをくれた。

 

 適切な呼吸を、ヨガを思い出す。

 光が、段々と戻ってくる。

 

 ソシルミは自分の親代わりのチャパさんとオレを引き合わせて、自分の家族同然の道場の、仲間にしてくれた。

 そして、オレがわからなかったサイヤ人の内情、オレの知らない、TVスペシャルとは違う歴史を教えてくれて、オレに……家族がいるんだということを、教えてくれた。

 自分は、家族に捨てられ、名字も名乗りたくないのに。

 

 見えるようになった目には……さっきのダメージを回復したセルと、ボロボロのソシルミが、映っていた。

 セルはなにかを叫びながら、倒れたソシルミを蹴る、持ち上げて殴る。

 オレが暴力だと思ったさっきの攻撃とも違って、もう抵抗もない……。

 

 「……あの……機械……!! レッドリボン……百分の……ないくせ………!!!」

 

 セルが言ってるのは多分、サイボーグの人のことだ。

 あの人……あの人も、ソシルミが救った人間だ。

 セルはきっと、あの人がどうしてソシルミをかばったかなんて、考えもしないんだろう。

 

 弱っていたオレの心臓に、強い鼓動が戻ってきた。

 気も、使える……。

 

 「う、あ……ぐ……」

 

 オレは気をためる、かき集めて、うなじに送っていく。

 なったらさすがのセルも気づくはずだ、だから、やれることは一つ。

 ……決まってる!!

 

 「っつあああああ!!!」

 

 「!!! プリカだと!! 貴様生きて――――」

 

 金色のオーラが出た瞬間、それを光に変えて太陽拳!!

 しっかり効くのは期待してない、オレは……セルの足元に倒れた、ソシルミの手を掴む。

 体温の低い手をとって、体を引き上げて、抱きとめて。

 ……そういえば、母さんと出かける朝は、いつも。

 いや、そんなことを思い出してる場合じゃない!!

 

 「大丈夫か、ソシルミ!!!?」

 

 「は、はは……なるほど……さすがはアエ・ソシルミが選んだだけのことはある、だが、プリカ……ははは!!」

 

 ソシルミをかっさらわれたセルは、それでも笑いながら、攻撃をしかけてきた。

 

 「っ!! なにが!!」

 

 攻撃を避けながら、防ぎながら、オレは。

 『なにがおかしい!』と言おうとするけど……オレにはもう、セルがなんで笑ってるのか、わかっていた。

 

 「アエ・ソシルミは死んでいる!! 心臓は止まり、気もない、頼みの綱の仙豆もありはしないぞ!!」

 

 「だ……だからっ!! どぉ……したあ!!!」

 

 わかっていた、オレだって、ソシルミほどじゃないけど、気のことも、体のこともよく知ってる。

 ……死んでるんだ、完全に。

 でもオレは戦うのをやめられない、やめられない、やめたくない?

 

 「哀れなやつだ……まあいい、すぐに終わるだろう……!」

 

 セルにはさっきまでなかった余裕が、戻っている。

 一方のオレは、なんで自分が戦っているのか、自分が何に突き動かされているのかも、わからなくなっていた。

 そんな中、思い出せたことも、ある。

 

 母さんを呼んだ、理由だ……。

 

 オレの前世の母親……母さんは、少し体が弱い人だった。

 体の弱さからこもりがちの母さんを見て、オレは、子供心に、母さんに外の色々なものを見せたいと思ったんだ。

 だから、あちこち行きたいとねだっては、朝、渋る母さんをベッドから引っ張り出した。

 でも、それは、母さんの体に負担をかけるだけ……。

 ……いや、母さんは楽しんでくれた、動くのが、いい方向に働くこともあった。

 頭では、そうわかっていても……。

 それでも、それに気づいたとき、オレの心の一つの枝は、ぽっきりと折れてしまったんだ。

 

 「まだ諦めんとはな、だが……」

 

 その一件で、オレが自分をだめな人間だと思い込んだりしたわけじゃない。

 でもあの頃から、オレは自分の意志で人に触れるのを、嫌がるようになった。

 人に流されるわけでもなく、人を動かすことができるわけでもない。

 ただただガンコなだけの人生、それは、ずっとずっと続いて、その人生が終わった後も……。

 

 「……ミ……ソシルミぃ……!!!」

 

 そうだ、それを、救ってくれたのが、ソシルミだったんだ。

 

 「うおおおっ!!!!」

 

 「叫んでも、もう気など残っていないはずだ!!!」

 

 わかってない、人間の、武道家のことをなんにも!!

 愛する人を思って叫べば、そんなものはいくらでも湧いてくるんだ。

 セルは、ソシルミがやってきたことを、単なるイレギュラーとしてしか見てないんだろう。

 オレはソシルミを抱いたまま、片手でかめはめ波を作る!

 

 「オレとこいつが初めて会った日、こいつはオレに地球の命運を託して大猿にした、どうなったと思う!?」

 

 「目論見通りルシフェルの野望を阻んだが、ルシフェルを取り逃がしたな」

 

 「こいつは初対面の、狂った大猿に、情けを教えたんだ、敵まで……助けさせたんだ!!!」

 

 地球の人間にとっては大迷惑な魔族、でも、ソシルミはあいつらでも殺したくないと、オレに漏らした。

 部下を殺された悲しみと怒りのままに拳を振るうルシフェル。

 あれを見て、殺したくないと思う心が湧いたのは、ソシルミの言葉を聞いて、オレを守るあの背中を見たからだ。

 セルは……そんなこと、ちっとも思っちゃいない。

 

 「波ぁーッ!!!!!!」

 

 「効くか、そんなもの!!!」

 

 セルはかめはめ波をかき消す、でもオレの技は終わらない。

 オレはかめはめ波を打ちながら踏ん張るのをやめて、後ろへとすっ飛ぶ。

 距離を取れれば……なにか、なにかが見つかるはず。

 そう思った時、背後から、セルの気配がした。

 

 「っ!!!!」

 

 「古い手を使うが、まさか通じると思っていたんじゃないだろうな!?」

 

 オレは踏ん張りを取り戻してセルに正面を向けようとするけど……その途中でセルに蹴られて、地面をはずんで、止まる。

 

 「………………う……」

 

 かばいながら転がったソシルミの体にのしかかられると、その重みがよく分かる。

 鍛え上げた重い体、鍛練でも、それ以外でも何度も味わってきたその重みに、オレは泣きそうだ。

 何度も振り回されてきた、何度も助けられてきた。

 一度は、取り返しがつかないほどに傷つけてしまった、オレの愛するひと。

 でも、だからこうしてるんじゃないと、オレの中でなにかが叫ぶのを聞き名がら、オレは……。

 

 オレは地面に潜り込ませていたかめはめ波を曲げて、セルを襲う!!

 

 「なっ!!!? ぐ、おお……!!!」

 

 駄目だ、浅い。

 当たった瞬間、そう分かった。

 セルは、ちょっとやけどとすり傷が出来たくらいだ。

 

 「しょ……しょせんはこの程度か……だが、もう終わりだ、次はない!!」

 

 それでも、セルの声は動揺している。

 ソシルミだけでじゃなく、オレにまで予想を裏切られて、焦っているんだ。

 だけど、もうなにもできない。

 気の技も、武道も、気合も発想も、なにを使ってもセルに届くものはなくて。

 

 「……ふん、ようやく諦めたようだな!!」

 

 でも、ただ一つ。

 

 たった一人だけ、セルの後ろから、音もなく近付く影があった。

 その人は、一度も見たことがなくて、でもオレには結構見覚えがあって。

 

 そいつは格闘家じゃないから、気合を入れる時に声なんて出さない。

 ぎらりと抜いた白刃は、オレの最後の反撃ばかりを気にするセルの背中に――――

 

 「――――な、誰だきさまは!!!!?」

 

 「この町で雇われとる用心棒だぎゃあ!!!」

 

 言ってることはわからないけど、ヤジロベーが、きてくれた。

 

 

 

→つづく




お久しぶりです、桐山です。



超サイヤ人、鬼の貌、奇策、合体攻撃、気功砲まがい。
あらゆる手段を尽くしてもなお、愛を示してもなお、力及ばず。
二人は斃れようとしています。
しかし、彼らとは面識すらないはずのあの男が、この戦場に現れました。
終局へと向かう戦いに突き立てられた、その刃の価値は?


次回『転生地球人が宇宙最強になるまで』を、お楽しみに。
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