南国の晴天にかかる雲に混ざりこむように、色付きの煙が弾け、一瞬遅れて音が届く。
それが数回繰り返され、小太鼓と何か管楽器の織りなすけたたましいファンファーレが響き渡れば、宴の始まりだ。
四角い石畳の中心で、見慣れたアナウンサーがマイクをとった。
「われわれ人類……特に、格闘技を愛するひとびとは今、もっとも幸運な時代にいると言えるでしょう! 地球最強の戦士とはすなわち、宇宙最強の戦士と豪語しても誰も文句を言わない時代です!!」
演説に答えて歓声が上がる、俺も叫びたいほどだ。
だが、やってくる宴の興奮はこんなものでは足りない、俺が叫ぶべきは……その舞台の上だ。
自分の演説に湧き上がる歓声に張り合って、アナウンサーはぐっと息を吸い込んだ。
「すぅ……、宇宙最強の戦士を見たいかーっ!!!!?」
「「わーっ!!!!!」」
観客達の多種多様な言葉はすべて、肯定だけを意味する雑音に溶けた。
アナウンサーもまた、意味をなさない叫びを上げたい衝動にかられているのだろう。
そんなわななきをこらえて、更に言葉を続ける。
待ち望んでいた言葉だ、俺ですら……その言葉の先に訪れる光景を知らない。
「全選手入場です!!」
また、観客が弾けると同時に、石畳……武舞台を踏みしめ、よく見た髪型が現れた。
惑星ポポルにいるカエルのフンの色、もとい、山吹色の道着。
「第23回天下一武道会優勝者!! 武天老師の一番弟子!! フリーザ撃破の立役者!! さっそく優勝候補の登場だ、孫悟空選手の入場です!!!!」
悟空は気恥ずかしさにポリポリと頭をかきながら所在なげに武舞台をうろつき……係員にひっぱられて、武舞台の端に誘導される。
そのとき、続く選手は、既に武舞台の端に足をかけていた。
「第23回天下一武道会準優勝!! サイヤ人撃退、フリーザ戦役の英雄にして、ピッコロ大魔王の遺児……マジュニア選手の登場だーっ!!!!」
どことなく不服そうな顔をしながら、悟空の隣に歩いていくピッコロ。
さてここまでは順当、次はいかに?
そんな観客や各選手の目に答えるように、次の男、大男が飛び込む。
清潔感あふれるその佇まいはまさしく――――
「次は知る人ぞ知る名選手、バクテリアン選手の入場です!!! かつてはヒール路線を歩んでいた彼ですが、突如路線変更、体格と生来の怪力を生かした王道のファイターへと変貌を遂げて各地を転戦、戦役時にはフリーザ軍の指揮官を倒したとの噂もあります!!!」
噂……あいつの体から立ち上るパワーを見て、その噂に信憑性を感じぬものがいるならば、モグリだろう。
ニカッと笑って女性ファンに答えるバクテリアンの、(差し歯で)歯並びバッチリの口元からあふれる光に対抗するように、次の輝く選手が現れた。
「この光はーっ!! クリリン選手です!! 孫悟空選手と同じく武天老師の直弟子! 第21、22、23回天下一武道会本戦出場、いずれも第二試合までに敗れつつも名試合を演じ、その技術力と戦略性に長けたバランスのよいスタイルには一定のファンが存在しております!!」
傍目にもそう評価できるのか、観客の目も、そこまで肥えてきたのか。
俺が目を細めると、それとは違う意味で……眩しさに目を細めながら、薄紫色の男があぐらをほどき、両足を揃えて武舞台へと降り立った。
「魔界の名士、シュラ選手!!! フリーザ軍戦役のために地上と同盟を結んだ彼は、かつて戦いを通じて友情を結んだという『ある戦士』の願いに答え、あまり得意ではないという太陽の元へとやってきました! 我々は人間のそれとは全く違う未知の格闘を見ることになるでしょう!!」
観客達が、これまでに勝るほどの雄叫びを上げる、分かるぞ、未知の武道との遭遇は常に至上の喜びだ。
しかし、皆には悪いが、もう味見どころか、レシピの交換までさせてもらった。
だが、この俺が手を入れたことも含めて皆の衆の喜びとなるだろう。
俺は心の中で約束していると、次の選手が、シュラに対抗心を燃やすかのように小さくホバリングしながら現れ、音を立てて武舞台へと着陸した。
「空を飛ぶのは翼を持つものの専売特許だ!! とばかりに現れましたのは、ギラン選手!!! 彼も以前から名の知られた武道家でしたが、ここ数年の間に持ち技の『グルグルガム』に磨きがかかり、戦役時には多数の円盤をまとめて叩き落としたという情報も届いております!!!」
天下一武道会、予選落ち組二人目……彼もまた、いかなる理屈によってか立ち上がった。
あの日の野蛮なる戦士のまま、俺にとっては全く未知の形で力を増した戦士の存在に胸が高鳴る。
一切の未知、俺がこのトーナメントに望むも喜びの一端がここにあるのだ!
そして、かつて俺達にとって全く未知であったあの存在が、静かな駆動音とともに武舞台へと歩みを進めた。
「試合より戦を重んずる軍人なれど、武への想いへは武道家以上! 王立防衛軍のサイボーグ軍人、ガストリ選手、武装ユニットを取り外して登場だ!! お話によると彼は武道ファンであり、自らのプログラムにも武道の動きを取り込んでいるとのこと、それもまた武の形なのかーっ!!?」
機械と一体化した兵士である彼は、あの戦いの後、なんと無事ボディを修復、強化改造されこの世に舞い戻ってきた。
格闘技こそ移植されたものだが、その戦術能力は戦争を通じて遥かに向上していることだろう、ついぞ名前を聞くことはできなかったが、サイボーグ軍人という肩書通りの戦い方を見せてもらいたいものだ。
……っつーか名前初めて聞いた。
「さあ、お次は本大会三人目の、武天老師の弟子、ヤムチャ選手です!! 同門の孫悟空選手がパワー、クリリン選手がテクニックなら、ヤムチャ選手の領分はとにかく鋭い動きと肉弾戦、そして奇襲攻撃にあるといえるでしょう! 本大会でも、その狼のような鋭さは炸裂することでしょう!!」
ヤムチャの力は、自ら語る狼のイメージに一致する。
素早い動き、群狼のごとき追い込み、喰らいつくあぎと。
常に最前線より遅れながらも『喰らいつき』続ける生き様もまた、飢えた肉食獣のごとく……。
などと浸っている間に、次の選手が既に現れて……いない。
少々もたついているようだ……。
しかし、これで亀仙流は揃ったことになる、お次は何だ?
鶴仙流はまだ一人もいないし、俺の期待する選手も数人残っている、だがそれより望ましいのはギランのような、俺達の仲間じゃない全く予想外の強者だ。
そしてそれはきっと……この大会に現れる!!
しばらくすると、アナウンサーが頭をかきながらすこしどもって、それからしっかりと声を張りだした。
「えー、続いて現れます選手は……あー、ご存知の方は驚かれることなきよう……元フリーザ軍幹部、ザーボン選手です!!! 戦役時に地球へ亡命した彼ですが、フリーザ軍時代は最高レベルの幹部であり、そのパワーはまさしく宇宙クラス!! 地球のテクニカルな武道家たちとの素晴らしい戦闘が期待されます!!!」
亡命……というのが降伏の言い換えであるのは言うまでもない。
現在は軍のオブザーバー兼戦闘指導に勤しんでいるらしい、あれから一年半……彼自身、どう仕上がっているのか、宇宙戦士が地球に馴染めば何が起こるのか、楽しみだ。
一方、続けて現れた戦士は、俺にとって『楽しみ』の塊のような人物だった。
「鶴仙流門下、超能力戦士チャオズ選手です!!! 過去の武道会ではいずれも、一回戦で惜敗に終わった彼ですが、その後、心身ともに大幅にパワーアップを果たし、戦役時には宇宙空間のフリーザ軍機を引きずり下ろして破壊していたとの噂も……あ、はいチャオズ選手……噂じゃなく真実……!!?」
映像でしか見られなかった第23回天下一武道会では、テクニカルさを増した戦いぶりを見せつけてくれたチャオズ。
本来の歴史とは全く違う戦いと敗北を繰り返し、本来は物別れとなるはずだった師に仕え続けた実力、見せてもらおう。
……そんな成長株であるチャオズに続いて現れたのは、別の意味での成長株、まさしく成長の途上にある武道家だった。
「さあ、本大会最年少選手の登場です!! 孫悟飯選手!!! 孫悟空選手の息子である彼は、父親を始めとした多くの武道家による指導を受け、話によるとその一派の中でも既に頭角を表しつつあるとのことで、本大会の活躍はもちろん、今後の成長ぶりにも期待できる選手と言う事ができるでしょう!!」
頭角どころか、既に素のパワーでは追い越されつつある、技術力での追い上げも圧倒的だ。
俺達が生み出した、鍛える孫悟飯という未知が生み出す凄まじいプレッシャーと、わくわく。
武道家は常に追いかけ、そして追いかけられる者、そして、追い抜いたからといって競争は終わるわけではなく……。
「鶴仙流指導者の一人にして鶴仙人の実弟、桃白白選手の入場です!!! 天下一武道会では弟弟子にあたる天津飯選手に破れましたが……なんと、今回は逆に天津飯選手を破り、鶴仙流門下二人目の本戦出場を果たしました!!!」
……追いつかれれば、かつて破った相手に、それも、その勝利に意味を見出した相手に敗れることにすらなりかねない。
武の道においては、兄弟子や師をライバルとしてもよいかもしれないが……俺は、ゴメンだ。
勝利で終わらせ、超えきって見せ、二度と追いつかれはしない。
それでも……天津飯には悪いが、表舞台でその顔と技術を見ることができるのは、俺にとって素晴らしい喜びだ。
「続けて、チャパ王選手!! 天下一武道会優勝者である彼は、なんと53歳、7年ぶりの公式試合となります、しかし、その身に纏う覇気は一切衰えておりません!! その瞳にともる闘志はかつて自らを破った弟子の背を叩くためか、あるいは、体ごと吹き飛ばして破るためか!!!」
次は何を引っ提げてきたんだ、また俺に立ちふさがる気か、大人しく後進の育成に注力する気はないのか?
あの目はすべての問いに、雄弁に答えている。
つまり……俺は、なんて幸福なのだろう。
続けて現れた選手も、また俺に幸福をもたらしてくれた。
「本大会二人目の宇宙人選手の登場です!! ベジータ選手!! 彼もまた、地球へと亡命したフリーザ軍兵士のひとりでありますが……地球への到着が最近であったため情報は多くありません、ただ……戦闘民族サイヤ人のエリートである、とのことです!!」
最近なのは地球への到着ではなく、復活だ。
ドラゴンボールによって『フリーザ達によって殺された命を蘇らせてくれ』という願いを叶えたのが今からほぼ半年前。
銀河パトロールの追跡から逃れながら宇宙を放浪していたベジータ達にコンタクトを取り、地球に招いたのが二ヶ月前。
……大会に間に合って、本当によかった。
「続きましては、キャリア一切不明、……ブルー選手!! 予選での戦いから、超能力者ではないかと噂されておりますが……その戦いぶりについては、皆さま自身の目と感覚でお確かめいただきましょう!!!」
ブルー……?
ブルー将軍!!!?
生きているのは知っていた、俺が生かした……だが、どこに潜んで、なんで大会に参加を……?
というか、勝ち抜くだけの実力を手にしたのか、嬉しいが……え?
「それでは、最後の選手に入場願いましょう、本大会……『天下最大トーナメント』の提案者の一人にして、運営協力者であるあの人も、無事に予選を勝ち抜き、本戦へと出場を果たしました――――」
混乱したままの俺に、係員が目配せしてくる、この心境で出るのは少し嫌だ……が。
何を隠そう、俺はヨガの達人!
この程度の困惑、おくびにも出さず、愛想を振りまいてくれよう。
俺はうす暗い入場口を飛び出し、一気に武舞台へと……!!
「――――天下一武道会準優勝一回決勝戦ノーコンテスト一回、地球に迫る数々の危機を撃退してきた英雄の一人……アエ・ソシルミ選手、堂々の入場です!!!!」
どっと歓声が吹き上がると、決意とヨガを突き破って額に汗が滲んできた。
興奮と羞恥に汗ばんだ腕を振り、笑顔で戦いを愛する人々の声援に答える。
5月とはいえ、南国の陽気も手伝って……試合前のコーラの本数を増やさねばならん。
「以上、本選手16名に加え、リザーバーとして選りすぐりの4選手を招待いたしました!!」
武舞台へと、3人の人影が登ってくる。
……一人足りない分、遅れて『未到着』と書かれた札を持った係員が現れた。
「孤高の用心棒、ヤジロベー!! チャパ王の二番弟子、ラパータ!! タンドール王国の最新格闘兵器、鉄人拳28号!!! ……!! 申し訳ありません、もう一選手は到着が遅れており、到着次第のご紹介となります!!」
あってはならぬことだが、これで誰が戦闘不能となろうと、俺にとってソンはないのが保証されたわけだ。
だが、更に嬉しいことをアナウンサーが言うのも、既に俺は知っている!
アナウンサーは高所に配置された選手・関係者席の、ひときわ豪華で隣り合った席に座る、二人の老人を手で指した。
「更に、本大会の二回戦終了時には、エキシビジョンマッチとして、なんと!! あの武天老師と呼ばれた亀仙人さまと、並び称された兄弟弟子である鶴仙人さまによる大会ルールでの試合が予定されております!!!!」
自らも興奮を隠しきれないという様子のアナウンサー、だが、会場の熱気の上がりようはそれ以上!!
汗を震わせ、弾かんばかりに響き渡る観客の歓声、雄叫び、拍手。
武というものを……武道家の戦いを愛する人々が、ここまで集まるとは……。
「それでは、国王陛下より、開会の挨拶を――――」
選手控室のホワイトボードに丁寧に書きつけられた図形と、16の名前。
「素晴らしい……ッ」
思わず漏れた声は、心からの言葉だった。
このトーナメントは……一から十まで喜びの塊だ!!
Aブロック
第一試合:ソシルミVSクリリン
当然俺が戦うという時点で俺にとって興奮を禁じえない試合ではあるのだが、特筆すべきは誰かのはからいか、はたまた運命か、第一試合でクリリンとの試合ということだ。
クリリンと直接拳を交えるのは久々だが……クリリンは一体何を掴んできたのだろうか。
それに、クリリンのことだ、俺への対策も練ってきてくれているに違いないぞ!
第二試合:チャパ王VS桃白白
師匠と桃白白の試合とあらば、実力もおそらく伯仲、更に、互いに長い格闘経験と老練さを持っている以上、派手さ以上に、幅広い技術と戦術を備えた者同士の深みのある試合を観ることができるだろう。
師匠が俺や他の皆に隠れてコソコソと何かヤバげな技術を鍛え上げているのは察知している、天津飯を破ったという桃白白もそれは同じだろう。
そしてもしこの試合で師匠が勝ったとすれば、二回戦では再びの復讐戦となる、俺も、天津飯の二の舞いにならぬよう努力せねばなるまい。
第三試合:サイボーグVSバクテリアン
自分で言うのもアレだが、俺の影響を色濃く受けて運命が変わった二人の戦いだ。
数々の武道家の戦闘法を機械によって取り込み、それを兵士の頭脳で切り替える特殊な戦士と、かなり王道の肉弾戦ファイターであるバクテリアン。
それぞれの戦士の特徴や運命からすると異色だが、近接戦を好む物理重視の戦士同士の戦いだ、きっと楽しくなるだろう。
第四試合:マジュニアVS孫悟飯
…………実はこの二人、この歴史においてはほとんど接点がない。
悟飯にとってピッコロへの感情は殆どないのだ。
ピッコロからも、せいぜい、自分を破った二人目の男である孫悟空の息子、という程度。
だが……だからこそ、その縁を結び直せるかもしれないこの戦いには、深い興味を抱かざるを得ない!
本質的には歳の近い二人だ、元の歴史とは違う絆というものがありうるのならば、俺は存分にそれを見守り、助けよう。
Bブロック
第五試合:チャオズVSブルー将軍
鶴仙流と在野(?)の超能力戦士対決であり、俺からすればかつて続けざまに戦った二人の男による戦い、だが……。
それがどういうものになるのか、一切見当もつかない。
二人の技量は? エネルギーは? すべてが闇の中だ。
だからこそ……面白い!!
戦いの全容を知れるのはおそらく感覚に優れた俺くらいだろうが、存分に楽しませてもらう。
ところで、ブルー将軍? 元将軍? はレッドリボン軍っぽいワッペンをつけているが、一体何なんだ?
レッドリボン軍への帰属意識を忘れていないのか、まだ残党でもいるのか?
第六試合:孫悟空VSギラン
いよいよ我等の悟空の登場だ。
本来の歴史よりはるか10年以上遅れての試合となる本試合……いかなる試合運びとなるのか?
ギランも大分腕を上げたようだが、それがいかなる手段、いかなる形によってのものか?
一切不明極まる、本大会大本命とダークホースの戦い。
悟空は友だが、大番狂わせを期待してもバチは当たるまい……!
第七試合:ベジータVSザーボン
これもまた奇妙な縁だ。
本来の歴史に存在していた戦い、だが……同じく時期が違うばかりか試合形式も異なる。
いや、何もかもが異なると言っていいだろう。
あの二人が地球の武道大会で戦うなど、誰が想像した?
未知の世界が今から始まるのだ。
第八試合:ヤムチャVSシュラ
一回戦最後の試合、この組み合わせは接点が……そう、俺しかない二人だ。
この歴史の中で、ヤムチャは俺に影響を受けて技術を進化させ……シュラは俺の技術に大きく影響を与えた。
色濃く影響を与えあった戦士同士の戦いは、俺に、俺自身を見つめる機会を与えてくれるだろう。
友同士の戦いにはそれ以上の喜びもある。
全試合が喜びに満ちている、素晴らしい夢の時間……。
「……い……ソシル……」
更に、エキシビジョンマッチの亀仙人と鶴仙人の試合、これも最高だ。
今の武道界を牽引する巨大流派2つの始祖による決戦にして、武泰斗の兄弟弟子の因縁の対決。
俺が気絶して見れなかった『亀仙人、鶴仙人、桃白白によるピッコロ大魔王相手の防衛戦』の後悔を拭い去ってお釣りがくる。
登場を望んではいけないが、リザーバーの皆も素晴らしい(実のところ招待は俺が行ったので、これは自画自賛だが)。
野生の猛者ヤジロベー、我が弟弟子ラパータ、地球の科学とプリカの努力の結晶たる鉄人拳28号、そして――――
「ミーソーシールー!!!!」
「うわッッッ!!!!?」
耳をつんざく爆音に振り向くと、悟空が俺の耳をつまんで不満げな顔を向けてきていた。
こ、これは……。
「んもー、ときどきこんな風にぼーっとするんだよなあ……」
「試合が楽しみすぎて、ちょっと……ハハ」
本当に悪い癖だが、こればっかりはやめられない。
これこそが……。
「ま、ミソシルはぼーっとするくらい戦うのが好きだから、こんな強えんだろうな」
…………。
「……ああ、そうだとも、全くその通りだ、悟空」
「ん? オラ変なこと言っちまったかな」
「い、いや……」
まさしくその通り過ぎて、理解されたのが嬉しくて、つい言葉がたどたどしくなってしまった……などと言えるはずもない。
我ながら少しキモいな、……一通りの緊急事態が終わってから、少し気が緩んでいる。
どう言い訳しようかと考えていると、後ろから力強く俺を押しのける手と、声。
「邪魔だ、ソシルミ、カカロット」
「おー、ベジータ! おめえまでトーナメントに出てくれるなんて、オラちょっとびっくりしちまったぞ」
「誰が好き好んできさまらの馴れ合いの大会に参加するもんか、このベジータさまを差し置いて最強を名乗るのが許せんだけだ」
つまりそれは俺達の大会を認めているということじゃないか、と言えばやぶ蛇だろうな……。
口をもごもごさせた俺の横をさっさとすり抜けたベジータは、ホワイトボードを一瞥するとさっさと踵を返した。
「おいベジータ、他の試合は気にならんのか?」
「ふん、誰が上がってこようとやることは同じだ、ザーボンなど今のオレの相手にもならん、相手になるのはきさまらだけだ」
いや、地球にはまだまだたっぷり戦士がいる……と、ベジータに忠告してやろうとするが、その役目を買って出るように、後ろからベジータの肩に手を置く男がいた。
「そいつは聞き捨てならんな、おまえが来た頃から、地球人も大分進化してるんだぜ?」
「ヤムチャ!」
「ほう……なるほど、このベジータさまを相手に試合前に小手しらべでもしたいというわけか?」
「そういうことにしてやってもいいぜ……!!」
肩に置かれた手を掴んでベジータが凄むと、ヤムチャも応じて静かに両者のエネルギーが膨れ上がる。
つまみ食い的な力比べ、これもまた一興。
ブリーフ博士に頼んで、控室の強度を上げてもらった甲斐があったというもの!
「ふん、なるほど、パワーだけならあの戦いの頃のオレを上回っているようだ……が!!!」
……わずかに、手が肩から浮き始めた。
「なっ……!!?」
「ここから更に一撃……なんてな、おまえが勝てば二回戦で当たる、その時を楽しみにするんだな」
呆然としたヤムチャ、そして笑う俺と悟空が立ち去るベジータの背中を見送るのを見計らうように、『ちゃんと見てんじゃん……』とツッコミが上がった。
振り向くと光る頭、クリリンだ。
「むっ……、いまオレを頭で見分けやがったな!?」
「いやあ、はは、……もっとハゲだらけの大会になると思ったが、肌色のハゲはお前だけになってしまった」
「くそ、直接言いやがったな……外で会ったけど、ナッパはギランに負けたってボヤいてたよ、ベジータに合わせる顔がないってさ」
さすがクリリン、一戦交えただけのナッパと話してそこまで聞き出すとは。
……じゃない!!!
「え~~~~ッッッ!!!!?」
「は、はは……驚くよな、オレたち以外にサイヤ人を倒すやつが育ってるなんてさ、でも、ほんとらしいぜ」
「あいつの気はそんなデカくなかったけど、へへ……わくわくしてきた、気もそこそこで、機械ってわけでもねえ強えやつもいるんだな!」
……ああ、その通りだ。
遥か未来、開かれるかもしれない『力の大会』のような興奮を、今地上で味わうことができるとは。
俺がまた興奮に浸ろうとするのを止めるように、俺の肩にそっと手が置かれた。
師匠の手だ。
「……いい大会だな」
「でしょう」
「一進一退だったおまえの理想も、ここに来て形になったというわけだ、だが、優勝のよろこびまで譲ってやるわけにはいかんな」
その師匠の肩に、また手が置かれた。
肌色のハゲ減少の原因の一人……桃白白の手だ。
「そやつが味わえんのは優勝のよろこびだけではない、師との再試合のよろこびもだよ、チャパくん」
「ほう、われわれも小手しらべと洒落こみますかな?」
またも始まりつつある場外戦を見守っていると、鶴仙人とチャオズ、それに付き添いの天津飯が来て仲裁したり更にケンカに発展したりしている。
師匠も老いることを知らないお方だ……。
そうこうしているうちに、ホワイトボードの前からは選手が引いて、代わりになんとなく立ち止まっていた俺と悟空、クリリンの周りに集まるように、亀仙人とヤムチャがやってきていた。
「亀仙流はこれで勢ぞろいというわけだ、……いや、悟飯はどうした?」
「ああ、悟飯のやつ、チチに捕まっちまってな、なんかすげえじっくり準備体操やらされてるんだよ」
「……なるほど」
頭をかく悟空に合わせて、俺は瞑目する。
どうやら、悟飯は戦いを生き方に組み込んでもなお、過保護からは逃れられんらしい……。
そこから2、3世間話をしていると、ピッコロとシュラが連れ立ってなにやら辺りを見回しながらこちらへ近づいてくる。
あまり見ない組み合わせだ……という目で見たらすぐさまバレて、ピッコロに釘を刺された。
「なに、魔族独特の世間話もあるってことだ」
「ルシフェルのやつが魔凶星から帰ってくるのも遅れているが、あれにも結構魔族ならではの事情があってね」
半年前、魔族の故郷である回遊惑星『魔凶星』が地球に接近したとき、ルシフェルは配下の生き残りを連れて魔凶星へと帰り、ダメージを受けた体の静養と5000年分の諸々の処理を行っていたのだ。
俺は前々から、あいつらの一派とも融和を進めたいと想っていた、だからこの大会への招待を行い……あいつも、渋々ながらそれに乗ってくれた、のだが……。
「なに、魔族選手は十分数がいるんだ、そう残念がることはない」
「とはいえ、きみはもうそろそろ魔族じゃなくなりそうだけどね」
確かにピッコロは最近、気配の禍々しさが落ち着き、すっかり神様のそれに近くなってきている。
だが、やはりデリケートな問題なのだろう、生暖かい目で見られるのに反発するように、ピッコロは大声を上げた。
「うるさい! ……そんなことより、ソシルミ……プリカはどうした? まさか予選落ちでもしたと言うんじゃないだろうな」
「プリカは……」
顔を真剣なそれに変えて語りだす俺を前に、クリリンと亀仙人が、ゴクリとツバを飲む。
「な、なにか試合に出られない事情があったのかの?」
「ああ、それは……」
俺はめいっぱい深刻な顔をして、意識を背後に向ける。
事態を飲み込めない様子の悟空がコテンと首をかしげた。
「……?」
そして、俺の呼びかけに答え……。
背後にある通路の向こうから、ゆっくりと、一人の影……ともう一人、あるいは解釈によっては更にもう一人が、姿を表した。
「「いいっ!!?」」
困惑の声の数は、思ったよりも大分少なく、亀仙人辺りは『やっとか』という眼差しを向けてくる始末だ。
ここまで来れば、プリカ不出場の理由は誰の目にも、明らかである。
現れたのは、一人の子を抱き、お腹を大きくしたプリカだった。
「紹介しよう、我が息子『ヤマモ』だ、それともうひとり」
「まだ名前も考えてないけどな、……なあソシルミ、たったこれだけのために外に突っ立ってる必要あったか?」
プリカのジト目がしみる。
一方のヤマモは偉いものだ、こんなたくさんの見知らぬ大人に囲まれてもこゆるぎもしない、流石は俺達の……あ、いや、寝てるわコイツ。
だが、ヤマモは実際大したもので、エネルギー量も既にそこそこのレベルに達している、才能をエネルギーで図ることはしないが、やはり嬉しくなってしまうのが親の情というもの。
「おいおい、こんなに大きくなるまでナイショだなんて水臭いぜ!」
「ここしばらくは忙しくてわざわざ会う時間も取れなかったからな……ま、それならせっかくだし、サプライズってな」
「へへ、オラとヤムチャは先に聞いてたけど、あらためておめでとな、ミソシル、プリカ!」
ぽつぽつと仲間が祝福してくれる中、ピッコロもまた納得を示しかけて、それはすぐに疑問へと変わった。
「な、なるほど……いや待て、一人産んでもう腹がでかいということは、きさまあの戦いからすぐ……」
「……ッ……」
「うっ……それは……」
あまりに的確な疑問!!
俺とプリカの顔は同時に赤くなり、足は同時に後ずさる。
「そ……そういやそうだな、おまえ……うらやましいやつ……!!」
「ほっほっほ、ちょっと話を聞かせてもらっても……」
即座に喰らいつくのは亀仙流師弟!!
……が、助けが来るのも早かった。
「まあまあ、いいじゃんかよ、結局なんだかわかんなかったけど、ミソシルもプリカも結構色々悩んでたみてえだし……あの戦いで、全部解決したんだよな?」
「……ああ、悟空、全部済んだよ、……ありがとう」
「本当かい? きみはいつも秘密のうちにたくさんの問題を抱えるじゃないか」
シュラの言うことはもっともだ。
懸念事項自体は……山ほどある。
ドクター・ゲロは行方不明だし、こっそり捜索中の魔人ブウは見つからない。
地球上でも宇宙でも、変な連中がちらほら活動している。
でも。
「全部終わった、そうだな、プリカ」
「ああ、終わった……だから、オレたちはこれでいいんだ」
控室の隅に並べたるは、タッパのおじや、炭酸抜きのコーラ、バナナ、梅干し。
それを一口自分で食っては、四分の一口、抱えたヤマモに食わせてゆく。
「ガプ……ムニョ……ムグ…………」
「んちゅ…ん……む……」
うむ、大した食いっぷりだ。
「……本当は離乳食の時期なんだけどなあ」
「サイヤ人と範馬のハーフだ、胃袋に関しちゃ宇宙クラスの才能だろう」
「子供が育ってるのに文句言えないけどさ……、せっかく調べたってのに」
いくら調べようとお前の料理を子供に食わすわけには蹴られた。
膨れた自分の腹と俺の胸のヤマモ、そして飯の上空を避け、埃をはじくエネルギーバリアまで張る素晴らしい技巧である、無駄すぎる。
「はぁ……、そういやソシルミ、面会の話どうなった?」
「面会? ああ、地獄のことだな」
「そうそう、セルと会うんだってはしゃいでただろ、神様にムリ言ってさ」
「ああ、会えなかったよ」
俺の望みが叶わなかったことを聞いて、プリカは少しだけ顔を曇らせてくれた。
だが、俺は反対にほほえみ、それを見たプリカは訝しげな顔になる。
「会えなかったと言っても、閻魔様が通してくれなかったわけじゃない、セルはもうどこにもいないから、会えなかったんだ」
「……いないって、まさか成仏したってことか? あいつが? あの執念深いセルが?」
すごい疑われっぷりだ。
目の前で俺が嬲られているのを見たプリカには相当深い感情があるんだろう。
とはいえ、俺もセルには色々思うところがあるから、わざわざ閻魔様を訪ねたんだ。
その思いは……もしかしたら、会う前に叶ったのかもしれない。
「ああ、妙に抵抗が薄くて鬼も皆混乱してたらしい、そしたら、収監後すぐに浄化が終わって、今は転生待ちなんだとか」
「あいつが……」
一瞬だけ沈黙が流れる。
「ん!!」
「ああ、すまん、手が止まってたな」
俺が再びヤマモに飯を食わせ始めても、プリカは神妙な顔でこっちを見たままだ。
その顔は、呑気に見惚れるにはあまりに意味ありげだった。
「……なにか……おまえのいつものなにかが通じたのかな、セルに」
「かもしれん」
「セルは、一体なにに生まれ変わるんだろうな、できれば……」
「俺は……セルがもう一度現れたなら、今度は仲間にしたい、あんな手遅れな状況になる前にしっかりとぶっ倒して、説得もして、一緒に鍛えて競い合いたい」
俺がそう言うと、プリカの神妙な顔から力が全部抜けた。
「はは……、おまえはそーいうやつだよ、うん」
褒め言葉と受け取っておこう。
「逆に……、ラディッツは実はまだ成仏してないらしくてな、あと数年は持つ、どうだ?」
「どうだって……オレに言うなよ、騙して殺したんだぞ、蘇ってほしいなんて言えるわけないだろ」
「じゃあ俺任せってことだな、任せろ」
プリカはそこそこ本気でイヤそうな顔で、少しだけ頬を吊り上げて両手を挙げた。
「わかった、降参だ、おまえに任す、兄さんを頼んだ!」
「おう、その代わりと言っちゃなんだが、親父探しには付き合ってくれよ」
「親父さんに会いたいのはわかるけど、それこそ、神龍とか神様に頼めばいいのに」
「やり方はいくらでもあるが、自分の親だ、この手で探してみたい、……親父もそうしたんだろうしな」
俺がそう言うと、プリカはそっと微笑んで手を握ってくれた。
……食事が止まったヤマモが嫌そうな顔をするまで。
「あっ、ごめんなヤマモ! ……ま、まあ……しばらく敵は来ないだろうし、ちょっとくらい欲張ってもいいよな?」
「……いや、それは違う」
「違う?」
「強さと引き換えに幸せになるんじゃない、俺は……それで強くなるんだ」
新たなものを得るだけじゃない、失ったものも拾い集めよう。
いくらでも欲張って、全部腹の中に入れて、それで強くなってやる。
範馬、強いんだ星人ってのは、そういうもんだ。
「……相変わらずだなあ、おまえは、会った時のまんま……いや、あの頃よりもっとだ」
「もっとどうなんだ? 聞いても……いや、やめておこう」
蹴られそうだ。
顔を赤くしたプリカがじっとこちらを睨む、ちょっとくらい堪能してもいいか。
なんて考えていたら、控室に係員がやってきた。
「ソシルミ選手、クリリン選手!! 試合開始5分前です!!」
さて、補給は既に万端、後はわずかにエネルギーを練り上げれば、試合に望むばかりである。
ヤマモを預けて立ち上がろうとすると、プリカに小さく裾を引っ張られた。
プリカは喜ばしそうに、しかし真面目に俺の顔を見て、言う。
「あとは、例の科学者をなんとかして、埋まってるアレをなんとかすればしばらくは安心だ、……おまえの望んだ時代が来る」
「いや、科学者も一人じゃない、神々の問題も結構近いし、宇宙の悪党がいつ現れるかも分からん、ドラゴンボールの悪用の危険もある」
「……そうだな」
「ルシフェルだってまだ侵略の意思を捨てたわけじゃない、俺達の知らないさらなる敵が出てくる可能性だって消しきれない、でも……それもちょっと、わくわくするかもな」
プリカはいつも通り顔をしかめながらも、俺の能天気ぶりを楽しんでいるようだったが……。
「おまえなあ…………ん?」
その顔は次第に、非難でも喜びでもなく困惑へと変わっていった。
「いや、待て、科学者と悪党はわかるけど、神々ってなんだっけ、そんなのあったか」
「え?」
いやまて、神々の問題と言っても色々あるが。
思い当たる節がないはずはない、あれは……。
…………まさか。
「なあ、プリカ……消費税って、何%?」
「ん? 5%だけ……ど……」
俺の質問を聞いたプリカは首をくりくりとかしげた。
かわいい、が、そんな場合じゃない!
「……もしかして、もっと上がったのか?」
「そうだ」
まさか今更……こんな……。
思い当たるフシは……ある、そういえばという程度だが、たしかにある!!
……なんだか、笑えてきた。
「ハハ、ハーッハッハッハ!!!」
「笑ってる場合じゃ……いや、笑うしかないか、へへ……はは……」
「ハッハッハッハ!! 俺達の仲も最強の道も、まだまだこれからってことだな!」
ヤマモが何やってんだこいつらとばかりに、笑う俺達を冷えた目で見る。
「くだらないいいわけするなよ、ちょっと、なけてきた……」
「……俺もだ」
でも、先があるってのは本当に幸せなことなのだ。
だから、……蹴らないでくれ。
「天下最大トーナメント第一試合、アエ・ソシルミ選手、対、クリリン選手を開始いたします、両選手、前へどうぞ!!!」
南国の陽気と沸き立つ観客の中、俺とクリリンは再び向かい合う。
「よろしくお願いします」
「よろしく、ソシルミ」
手を合わせて、一礼。
「頑張れソシルミーっ!! ヤマモの前で一回戦落ちとか勘弁してくれよーっ!!?」
「くっそー……ずりいぜ、おまえだけ美人の嫁さんに応援してもらえるなんて……」
「クリリーン! わしらはおまえの味方じゃからのー!!」
クリリンが迷惑そうに睨む先には、亀仙流の仲間達、それに……選手・関係者席にあふれる沢山の仲間たちの姿がある。
「取りこぼしたものもあるが、……いい大会だ、存分に楽しもう」
「……やるぞ、ソシルミ」
「ああ」
「それでは第一試合……」
アナウンサーが息を吸い込むのに合わせて、俺達のエネルギーはトップギアへと上昇する。
そして――――号令の瞬間、輝きとナマの拳が激突した!!
→おわり
これにて、『転生地球人が宇宙最強になるまで』は完結です。
二年間のご愛読、感想、評価、お気に入り、誤字報告等々、本当にありがとうございました。
彼らの物語については、彼ら自身が出した答えが全てであり、もはや私に付け加えられることはほとんどありません。
ただ、彼らの格闘人生はきっとこれからも豊かなものになっていくと思います。
あまりこの場で長々とまくし立てるのは趣味でないため、詳しいあとがきは活動報告の方に上げさせていただきます、よろしければどうぞ。
それでは皆さま、またいつの日か。