転生地球人が宇宙最強になるまで   作:桐山将幸

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第四話:転生TSサイヤ人が過去を振り返り飯に釣られるまで

 高揚感。

 望むがままに手足を振るい、力を解き放つ。

 誰にも遠慮することなく暴れ狂い、誰にも恥じることなく敵を屠る。

 人生始まって以来の快楽を、追体験していた。

 だが、その歓びの中に、ただ一つ影が差す。

 影は言う、『あの敵を倒せ』、『あの敵も哀れだ』。

 影の望みに従って敵を倒し、影の望みに従って、その敵を哀れんだ。

 まずい、この影は、一体――――グギュルルルルルルル

 

 

 

 

 「うわぁ!!」

 

 オレは突然の轟音に飛び起きる。

 何かに襲われたのかと思って周りを見ると、そこには呆れ顔の子供が居た。

 

 「……俺は、自分の腹の虫で起きる人間を初めて見たぞ」

 

 「え、あ!?」

 

 オレは後ずさりをするが、何かが体にまとわりついていてうまくいかず、倒れこんだ。

 こんなに人の顔が近くに見えるのはこの人生始まって以来、初めてかもしれない。

 そう、『この人生』でだ。

 オレは21世紀日本からこの世界に転生してきた、いわゆる転生者だった。

 しかも前世は男だ、人間でも男でもなくなった体に混乱していたのも、もう一昔前の思い出になっている。

 (正直まだ違和感はある……)

 

 「一応、傷の手当はしておいたし 、朝飯も用意した、あと布団を引きずるのはやめてくれ」

 

 「ふ、ふとん……きず……ソシルミ!?」

 

 「なんだ、寝ぼけていたのか、そう、俺はアエ・ソシルミだ」

 

 「あ、ああ……」

 

 アエ・ソシルミ、この、若干赤い髪の少年は、オレが住んでいた山にやってきて、魔族との闘いに巻き込んだ張本人だ……オレもノリノリだったけど。

 オレが戸惑っていると、ソシルミは器と、スプーンを差し出してきた。

 中に入っているのは、茶色い汁に白い塊の入った……違う、この匂いは!

 

 「そしる、そし、み、みそしる」

 

 「やはり知っているか、まずこれで体を温めろ、お前は長らく原始人だったからな、味は薄めておいたぞ」

 

 「い、いや……もらうのは……」

 

 流石に、ほとんど初対面の人間、それも、オレにとっては少し警戒している相手に、ご飯を貰うわけには。

 だが、オレが突っ返そうと手を伸ばした途端、腕に何か冷たい感触が走った。

 

 「うひゃ!?」

 

 「よだれを顎から垂らすやつも初めて見たぞ、腹が減っているなら食え」

 

 「…………わかった」

 

 完全に押し切られた。

 オレは器、いや、お椀を受け取って、味噌汁を嗅ぐ。

 味噌の匂いは、何年も嗅いでいないと少し臭いが、それ以上に懐かしさと空腹感が勝った。

 軽くお椀を持ち上げて味噌汁を啜る。

 

 「ずず…………んぐっ、がぶっ」

 

 「うむ、いい飲みっぷりだ」

 

 「ごく……ふぅ……、あっ」

 

 ……つい、飲み干してしまった。

 お椀は完全にからっぽになり、具すら残っていない、どんだけ夢中でかっこんだんだ、オレは。

 

 「そう寂しそうに器を見るのはやめろ、もっとやる、飯もおかずもあるぞ」

 

 「おれ、みてたか?」

 

 「まるで絵に描いたような『もうない』だ」

 

 「…………わかった、もらう」

 

 「おお、拗ねるかと思ったが、割と素直だな」

 

 どうやらこの少年は、オレを同年代かそれより下の、見た目通りの少女だと思っているらしい。

 多分、オレが未だにうまく言葉や話し方を思い出せずに、変なしゃべり方をしているせいだと思う。

 

 「さあ食え、おかわりは十分ある」

 

 ご飯、キャベツ、卵と肉……ベーコンエッグ、焼き魚に添え物。

 ごきげんな朝飯だ。

 ……いや、ごきげんな朝飯って、名前といい攻めすぎだろこいつ!

 

 「い、いただきます?」

 

 「めしあがれ、俺はもう食ったから、遠慮することはないぞ」

 

 言われなくても、遠慮なんてする余裕はもうない。

 オレはどんどん、出された料理を食べていく。

 

 「がぶっ……むぐ……」

 

 「やはりいい食いっぷりだ、さすがはサイヤ人」

 

 「ん! おまえ、そういえば、むぐ、サイヤじんって、しってるんだな」

 

 「ああ、まあ、俺にもいろいろある……そうだな、情報源は明かせないが、軽く自己紹介と行こうか」

 

 そう言って、ソシルミは身の上話を始めた。

 5歳の時に親に捨てられたとか、そのせいで『アエ』って苗字が嫌いだとか、チャパ王(確か、天下一武道会で悟空たちに倒された武術家だ)のところで修行していた、とか。

 オレが何度かおかわりをしながら食事を終える頃にソシルミの自己紹介……というか、身の上話は終わった。

 

 「……それで俺は、もっと強くなるために、道場の跡継ぎをケッて旅を始めたというわけだ」

 

 アエ・ソシルミ、こいつの名前はどう考えても、『エア味噌汁』だ。

 前世の人気漫画のラスボスが、漫画の主人公……自分の息子との最終決戦の最後に出した、技(?)の名前。

 それより大分前に読むのをやめた俺は詳しいことは知らないけど、結構賛否両論だったと聞いた覚えがある。

 こいつの、赤黒い髪の色、筋肉質な体、太くて鋭い眉毛は、その親子の何かを受け継いでいるように、オレには見えた。

 

 「たたかうのがすきなんだな」

 

 「知識も好きだぞ? ……さあ、次はお前の番だな」

 

 「おれもするのか……」

 

 「言いたくない所は言わなくてもいい、俺もそうした」

 

 「……わかった」

 

 そう言って、ソシルミはニカっと(ニタッと)笑う。

 出会ったばかりの相手と身の上話の交換をしたがる、すさまじいアクティブさと、お互いに秘密があることをわざわざ口に出して言って遠慮しようとする思慮深さ、オレはこいつのことが余計にわからなくなった。

 

 「おまえがいうとおり、おれはサイヤじんだ、わくせいベジータでうまれて、ここにきた」

 

 「飛ばし子というやつか」

 

 「……わからない、おやのかおをみたのは、とばされるまえだけだ、ずっとねてた」

 

 オレは生まれてからずっと、奇妙なカプセルの中に押し込められていた、起こされたのは3歳ごろで、しかも、すぐに一人用のポッドに乗せられ、地球に向けて飛ばされたんだ。

 だから、ここがドラゴンボールの世界で、オレがサイヤ人だってことに気付いたのも、その時だった。

 

 「サイヤ人は育児カプセルの中で幼児期を過ごすというが、それか」

 

 「……それかもしれない」

 

 「歯切れが悪いな、サイヤ人のくせに、知らないのか」

 

 「おれはまだこどもだった」

 

 実際、オレは惑星ベジータでのことをほとんど知らないし、覚えていない、『飛ばし子』とか、『育児カプセル』とか、言われても困る。

 

 「……おぼえてるのは、あそこがどこか、ここがどこか、おれのなまえが、プリカってことだけだ」

 

 「そうか、……それで、お前はなぜ、あんな山奥にずっと籠もっていたんだ?」

 

 ソシルミは、オレがあまり聞かれたくなかったことを聞こうとしてくる、というか、これが一番聞きたいことだし、だからこそ、ボカしてもいい、なんて言ったんだろう。

 オレは少し悩んでから、答える。

 

 「おれは……とめられない、じぶんではおさえられないものがこわくて、あそこにいたんだ」

 

 「闘争本能か、お前は戦闘中も、数度暴走しかけていたからな」

 

 「……そうだ」

 

 オレはサイヤ人の本能をちっとも制御できない、狩りのときも力任せに仕留めたりしてしまうんだ、人間相手にそれをやったら、絶対にマズい。

 

 「そのために野人の生活を10年も続ける根性があるんだから、大したもんだ」

 

 「そんなにたいへんじゃない、たべものはあったし、みずもあった」

 

 ソシルミはオレが暴力を振るわないために隠れていたと思ってくれたみたいだけど、オレが山の暮らしに耐えられたのは、それだけじゃない。

 オレにとって本当に怖いのは闘争本能よりも、原作の歴史を変えてしまって、悟空たちが戦いに勝てず、地球が滅んでしまうことだ、それを防ぐためと思って、なんとか昨日まで耐えてきたんだ。

 

 「衣食住のうち食しかまともにないじゃないか、風雨を凌ぐのは木陰か乗ってきたポッドだろう? 服にしたって、あの戦闘服一着でよく持たせたな」

 

 「これはけっこう、あらえばきごこちが…………あれ?」

 

 戦闘服を触ろうとして気付く、いつもの硬いような柔らかいような感触がない。

 代わりにオレの体を包んでいたのは、オレの体には合わない、大きめのシャツだった。

 

 「え!? あ、お、おれのふく!」

 

 「手当のために脱がせたまま、洗った、獣と、魔族の返り血と砂埃でベトベトだからな」

 

 ソシルミは物干し台にひっかけた戦闘服を指差す、オレが何度洗っても取れなかった汚れがピカピカに……じゃない、なんで物干し竿が……じゃない!

 

 「か、かってにおれの、ふくを、あ、ちがう、ぬがせて!」

 

 「なんだ、恥ずかしいのか」

 

 「あ、あ、あたい、あたりまえだ!」

 

 「野人、いや、サイヤ人のくせに、そこは嫌なのか……」

 

 嫌に決まっている、他人の、それも12歳の少女の裸を何だと思っているんだ、いや、オレは本当は違うんだが、いや、それでも今は少女で。

 

 「こ、この、くそっ!」

 

 「騒ぐなよ、緊急避難じゃないか、それより続きを教えてくれ、なんで俺に付いてきたんだ?」

 

 「そ、それは……おおざるが、めいわくだったから、おまえにきいたまぞくを、たおして……」

 

 「……罪滅ぼしをしたかった、ってわけか」

 

 「そうだ」

 

 「なんとなく分かっちゃいたが、そんなもんか、まあ、村人たちにも結構楽しんでたヤツは居たみたいだし、あまり気に病まない方がいいぞ?」

 

 ソシルミはオレを慰めるけど、オレはそれをうまく受け取れない。

 オレは大猿になることについて、かなり……油断していた。

 

 「そんなこといっても……やっぱり、だめだ」

 

 「今更何を言うんだ、村を攻撃する魔族をぶっ潰して、地球まで救ったんだ、罪滅ぼしは完璧以上に終わってるはずだろう?」

 

 ソシルミはまた、ニカッともニタッともいえる変な笑い方をする。

 オレはなんとか笑い返すけど、うまく笑えているかは分からない。

 笑い方なんて忘れたし、そもそも、あの戦いだって、本当は悟空たちがなんとかしてたかもしれないんだ。

 

 「そっか」

 

 「その通りだ、素直に受け取っておけ」

 

 ……それは受け取るにしても、うかつに悟空たちと関わってしまった事実は消えない。

 オレがそうやって悩んでいると、ソシルミは更に、オレに突っ込んできた。

 

 「なあ、プリカ、この近くの適当な場所に家を立てて、しばらく住まないか?」

 

 「な!? お、おまえ! なにいってるんだ!」

 

 「そこで修行……いや、特訓するんだ」

 

 「……おれに、きをおしえてほしいのか」

 

 「そうだが、違う、俺もお前に教えたいことが山ほどある」

 

 何を言い出すのかと思いきや、戦いが大好きなこいつらしい提案だった。

 気の扱いを知りたいだけじゃなく、オレにまで武術を教えたいらしい。

 強敵、それか、スパーリングパートナーってやつが欲しいのか?

 

 「おれをつよくしてどうする」

 

 「理由はいくらでもあるだろう、教えてもらう対価を支払えるし、いいライバルが手に入る、ルシフェルみたいな野郎が出てきたら一緒に戦えるし、なにより、お前みたいなのが眠ってたらもったいない」

 

 「さいごだけおかしくないか」

 

 「なにより、って言っただろう、一番大事だ」

 

 「……へんなやつだ」

 

 まるで、漫画の主人公、いや、こいつがオレの考えている通りの存在なら、あえてそう振舞ってるのかもしれないけど。

 

 「お前にとっても利益はあるぞ、オレという優秀な武道家を相手に衝動を発散できるし、本能を抑える役にも立つはずだ」

 

 「いや、おれは……」

 

 誘い文句はどれも魅力的だけど、こいつと一緒にいたらどれだけ原作を変えることになるかわからない。

 しかも、オレ自身、まだあんまりこいつを信用できないんだ。

 

 「当然、修行中はオレが飯を作る、お前が満腹になるだけ作るぞ」

 

 「!!」

 

 一瞬、オレの体全体に衝撃が走る!

 いやいや、流石に飯に釣られ……。

 

 「かつ丼に、カレー、シチューに唐揚げ、俺は栄養学は最低限気を使って、後は好きに作る主義なんだ」

 

 「…………!!」

 

 脳裏に前世で食った料理たちのビジョンが浮かぶ。

 必死に消そうと頭を振ってみても、どうしても離れない……。

 

 「考えてもみろ、社会に適応できるのかお前は、獣のエネルギー焼きや、果実なんかを食う生活に戻りたいのか?」

 

 「う、うあ……」

 

 オレは元の生活に戻る想像をする、でも、まったくビジョンが浮かばない。

 

 「お前は10年もよく頑張った、これからは文明の保護を受け、よい生活をするべきだろう」

 

 「ぐお……、わ、わかった……」

 

 ついに承諾してしまった。

 9年間の野生児生活は、予想以上にオレを追い詰めていたらしい、いや、これもサイヤ人の運命か……?

 ソシルミは上機嫌で、修行場所の選定のため、と言ってヘリコプターを飛ばそうとしている。

 オレにできるのは、このよくわからない男が原作を変えないように努力すること、そして、ロリコンじゃないのを祈ることだけだ……。

 

→つづく




グルメス王国もミーファン国もありません!
……いや、初期三部作全部は流石に拾うの無理です、流れ変わりすぎて、パワーバランスも色々ズレこむので。

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