「それでは第2試合、プリカ選手対ランファン選手を始めさせていただきます! 本大会でも珍しい女性選手同士の試合に、注目が高まっています!」
アナウンサー(審判、司会進行兼任だ、人手不足なのか?)が、オレたち選手を紹介する。
……でも、オレたちは女、でくくるには大分離れすぎているだろ、と心の中で突っ込んだ。
「よろしくね、プリカさん❤」
「……よろしくおねがいします」
互いに、儀礼的な感じで軽く下げた頭を上げる。
ランファンは試合の場にも関わらず、かなりしっかり化粧をしてきている……それも、ケバい感じじゃなくて、男受けを狙ってる感じの綺麗な化粧だ。
対するオレは、サイヤ人らしいボサッとした髪に、服もダボついた芋ジャージ……極めつけには、中身が男ときている。
「特に、プリカ選手は弱冠13歳、本大会ではおそろしいことにクリリン選手とソシルミ選手もひとつ上の14歳ですが、それにしても、すばらしい才能です!」
オレは小さく頭を下げてから、ランファンを見る。
ヒラヒラしたタンクトップにゆったりとしたズボン、ここまでは武道家らしい格好……でも、首から上は化粧のきいた顔に、風にたなびくもっさもさのパーマで、戦う感じじゃない。
……ランファンは、自分の色気とか弱さを武器にして戦う?武道家だ。
「ふぅん……」
「……なんですか」
オレの視線に気づいたランファンは、何やら、不思議な声を上げる。
でも、試合前の選手が、相手選手を見るのに不思議はないはずだ。
そう思っていると、ランファンは更に、なにか意味深な笑みをかけてきた。
「うふ❤」
「それでは第2試合……はじめっ!」
「があっ!!」
銅鑼の音と共に、オレは飛び出す、弱いからには手加減しないといけないけど、こいつの武器である色仕掛けは、多分オレにはやってこない。
初手は飛び込み気味の正拳突き、一般人相手なら必殺の威力だ!
「ひゃっ……❤」
「う、うわっ!?」
「おーっと、プリカ選手、体勢を崩してしまったーっ!」
な、なんて声を出すんだ、この人!
まんまと引っかかってしまったオレは、空中で体勢を崩し、数メートル転がりながら着地する。
すれ違いざま、ランファンはほんの少し頭を振りたくって、オレの鼻先に髪の毛をかすめさせる、くそ、香水のいい香りだ。
「はぁ……はぁ……」
「きえええいっ!」
「うおっ!」
振り返ると、そこには回し蹴りの足!
防御する必要のないランファンの追撃を前に、オレはとっさに飛び退き……ここは武舞台の端だ!
オレはまるでトムとジェリーのように腕を振ってバランスを取る!
「く……くおお……! ふぅ!」
「プリカ選手、なんとか持ち直しました! どうやら、ランファン選手の大人の色気に惑わされているようです!」
「うふ❤」
ランファンは再びかわい子ぶりっ子の構えを取っている。
こ、こいつ……!
弱いからと遠慮していれば、女でもそれにつけ込んでくるのか!
「ほう……、圧倒的な強さの差も、見た目と振る舞いが伴えば武器となるか」
「あの選手は本来、女の色香で男を惑わすことを武器にしているのです、女のプリカに通用させているのは、応用力として見るべきでしょうか」
「そうか、いや……うーむ、何か別のものがある気がしないでもないが……」
武舞台の外では、ソシルミとチャパ王が何やらこちらを見て愉快そうに話している。
あいつら、好き勝手人の試合(?)を論評しやがって……!
「く、くそっ!」
「あら、いけませんよ、女の子がそんな言葉を使っちゃ……❤」
詰め寄ってくるランファン!
オレは体勢を立て直すため下がるが、傍から見れば完全に逃げている形だ。
「ぬああ……っ!」
「ちょあぁっ!!」
「くおおっ!」
完全に追われる側になってしまった、くそ、なんてこった。
まさか、ランファンがオレにまで色仕掛けを試みるなんて!
「どうしたの? プリカちゃん、来ないならこっちから……❤」
「ぐぅ……!」
ランファンはしきりにズボン越しの尻や乳をアピールしてくる、まさか、オレの中身が男だと知っているんじゃないのか!?
……なんだかイライラしてきた、うまく試合を運べていないからだろう。
こいつは多分、弱いなりに、相手のペースを崩す試合については一流の経験を積んできたに違いない。
「落ち着けプリカ! お前は女じゃないか!」
「ソシルミ!?」
そうだ! 女であるオレに色仕掛けなんて通じない!
容赦しなくていいなら、完全にこっちのもんだ、オレは体ごと突っ込んで、ランファンに回し蹴りを叩き込む!
「ぐがあ!!」
「うぎゃあーっ!」
「ランファン選手場外! 第2試合はプリカ選手の勝利です! 見事に誘惑を断ち切り、勝利を勝ち取りました!」
……終わった。
せっかくの原作キャラとの戦闘だが、オレの心がすり減るだけの結果に終わった。
オレはとぼとぼと控室に戻る、この疲れ切った様を見て、誰もオレが勝ったとは思わないだろう。
控室に戻ったオレを、僧衣を新しいものに着替えたソシルミが迎える。
「よう、お疲れ様」
「……すごくつかれた」
「コーラを飲むか、安心しろ、炭酸入りだ」
ソシルミが差し出してきたコーラを一息に飲み干す。
瓶コーラ特有の香り高さが心地良い。
「くはぁ……!」
「いい飲みっぷりだな、よし、そろそろ第3試合だ、見に行こう」
「わかった、次はなんだ」
「ヤムチャとジャッキー・チュンだ」
……すぐ終わる試合だ。
内容はもうよく覚えていない(というか、ドラゴンボール無印の序盤なんて前世でも深く覚えていなかった)けど、確かものすごい勢いで瞬殺されて終わる。
まあ、この時点のヤムチャはただの山賊だ、ジャッキーこと亀仙人と勝負になるわけがない。
「しろでたたかったときのおとこか」
「その通り、ジャッキーは……知らん名だが、見るからに只者ではない」
オレは知らんぷりをして、あえてうろ覚えを装っておく。
「おまえでもしらないのか」
「うーむ、俺もそれなりに詳しいつもりではあるんだがなぁ」
ソシルミはジャッキー・チュンの名を知らないらしい、当然、亀仙人がその場ででっちあげた選手のジャッキーが知られているはずもないが……。
そして、てっきり、オレはソシルミがチャパ王と観戦するのかと思っていたが、ソシルミは武舞台脇の壁の上に飛び乗って、オレを呼んできた。
「観戦しよう、悟空たちが黙認されているなら、近い歳の俺達が許されない道理もあるまい」
「いや……それはそうだけど……」
確かに、悟空とクリリンは壁によじ登って観戦している(原作でもそうだった記憶がある)けど、ソシルミは完全に居直って、鉄骨の上のデ○ルマンのようにくつろいでいる。
係員も何か言う様子がないし、いいのかもしれない……オレは仕方なく、壁に飛び乗った。
「よし、座れ座れ、もう始まるぞ」
「あまりよるな」
ソシルミはオレを側に座らせようとするけど、オレはちょっと離れた場所に座った。
まだ子供とはいえ、半裸のマッチョマンは威圧感がすごいんだ。
「それでは第3試合、ヤムチャ選手対ジャッキー・チュン選手を開始します!! 無名同士の対決となりますが、それだけに目を離せません!」
「ヤムチャは有名な山賊だが、それでも全国的に言えば泡沫か」
「けっこうつよいのにな」
あの時見たヤムチャは、ソシルミ程じゃなくても、それなりに魔族とやりあえるだけの実力を持っていた。
……ソシルミは、今のヤムチャの実力には興味がないみたいだ。
「それでは、はじめっ!」
「はぁーっ!!」
最初に仕掛けたのはヤムチャだ、大ぶりに蹴り込むヤムチャの動きは、魔神城で見たのよりも大分早い。
でも、ジャッキーには全く通じなかった。
ジャッキーは、ヤムチャの連続攻撃をわざわざ『ひょい』『よっと』などと口に出しながら避けている。
「……ジャッキーの技術力に、ヤムチャは一切ついていけないようだ」
「はやさじゃないのか」
「ヤムチャは動きが荒い上に無駄な力みが多い、技の速さや連続行動には自信があるようだが、アレでは格下にしか通じんだろう」
「……そんなもんか」
オレの目には、ただ避けているようにしか見えなかったが、ソシルミほどのウデがあれば、見えるみたいだ。
……もちろん、二人の動きは完全に目で見た上で、その意味を見切れるかの話だから、オレがヤムチャと戦ったら、何も感じ取れてなくたって、攻撃が当たる前に殴ればいいんだけど。
それでもなんとなく悔しい。
「ヤムチャ選手、ジャッキー・チュン選手の軽快な動きを前に手も足も出ていません! このままやられてしまうのかーっ!?」
「く……くそっ!」
「少々動きが速いのはええが、技が出るまでの時間と動きが大きすぎるわい」
ソシルミがドヤ顔でこっちを見る、こっちみんな。
「こうなったら! 狼牙風風拳を――――」
「ほいっ」
狼牙風風拳の構えを取ろうとしたヤムチャの目の前に、高速移動したジャッキーが現れる。
一応オレにも見えるけど、凄まじい速さだ。
ソシルミを見ると、最早オレすら眼中にないらしく、ジャッキーの一挙一動を見逃すまいと目を見開いている。
「なっ……!」
「はっ!!」
そのままジャッキーが腕を振るうと風が起き、そのままヤムチャは武舞台の果てへと飛んでいった。
「場外! ヤムチャ選手場外! 天下一武道会第三試合は、正体不明の達人、ジャッキー・チュン選手の勝利です!!」
「……まあ、こんなものか」
「それ、どっちに言ってるんだ?」
「ヤムチャだ、力と技の出し方は鍛え上げたようだが、肝心の戦闘については疎かになったようだな」
なんとなく分かってきたけど、ソシルミは戦い方を鍛える気のない相手にはとことん厳しい。
口から吐くグルグルガムを必殺技として使うギランにも冷たい目を向けるし、さっきはバクテリアンも許せないと話していた。
「第三試合はあの悟空と、ナムだ、あいつは多分、俺に近い戦い方をするはずだが……」
「だが?」
「悟空の相手をするには少々力不足だ」
ソシルミはナムにも厳しい視線を向ける。
俺の知っている歴史でのこの二人の戦いは、結構いい感じの試合になったはずだけど……。
「だめなのか」
「見て分かる、悟空とナムでは、足腰の鍛え込み方、戦術の才能、全てが段違いだ」
自信満々って顔だ。
しばらくすると、例によって選手紹介からの、試合開始の合図……が終わった途端に、悟空が凄まじい勢いで飛び出した!
「とりゃぁーっ!!」
「いっ!?」
ナムは一瞬驚いて、反応しようとするけど……間に合わない。
そのまま悟空の頭突きに跳ね飛ばされて、観客席の壁まで吹き飛んだ。
「……まさか、あそこまで鍛え込んでくるとはな」
「え? あれでおわり?」
「見ただろう、これで終わりだ」
ソシルミは悟空の活躍を喜んでいる一方で、チラりとナムを見て、一瞬眉をひそめた。
「次は俺達の試合だ、……俺はトイレに行く、係員には伝えておくから、お前も行きたいなら済ませておけ」
「いらない」
「サイヤ人は代謝系の余裕が大きくていいな、あそこまで補給しておいて、全く平気か」
面倒な言い方だけど、要するに、食いだめが効いて、出す方も長く我慢できる、と言いたいらしい。
こいつは回りくどい言い回しや難しい言葉をあえて使っている気がする。
「めいわくだからはやくいってこい」
「オーケー」
……さて、こいつが居なくなれば、オレもちょっと用事がある。
色黒の男が天下一武道会の控室からいそいそと出ていく。
男の名はナム、ついさっき、この世界の主人公である『孫悟空』に(元の歴史よりも大分あっさりと)敗れた選手である。
去る理由は一つ、天下一武道会における優勝がなくなったことにより、彼の目的である、渇水に苦しむ故郷を救済するための大金が得られなくなったからだ。
オレは物陰から、彼を見守る。
「なんて、アイツのマネをしてたってしょうがないか」
正直言って、あのナムの行く末が気になって気になって仕方ない。
元の歴史では救われたナムが、(多分、オレたちのせいで強化された)悟空に瞬殺されたことで、もし救われなくなってるなら、オレはなんとしてでも、ナムにあの事を教えなきゃいけないんだ。
そうこうしている内に、ナムはどんどん会場から離れてゆき、オレの不安はどんどん高まっていく……!
「ナムさんとやら、残りの試合も見んと帰るおつもりか?」
「はい、わたしは……」
きた!
亀仙人来た!これで救つる!
これで、ナムは水は豊富な地域でカプセルに詰めて運搬すればいいということに気付き、故郷と彼は救われる!
「ほ……」
「……ふぅ」
一瞬、オレのついたため息と、誰かの息がかぶった。
周りを見るが、誰も……いや、印象的な半裸のマッチョマン、ソシルミがナムを見てから、きびすを返して武舞台の方に向かい始める。
ソシルミはこっちには気付いていないみたいだけど、一体、トイレに行かずにここで何を……いや、違う。
あいつは、ナムを見張っていたんだ。
「ごくうにやられただけのあいつを、どうして?」
そうだ、いくらソシルミがバトルマニア(戦闘が好きなだけじゃない、戦闘に対してあいつは少々マニア気質だ)と言ったって、流石に、あいつがめちゃくちゃ興味を持ってるオレとの試合をトイレでごまかしてまで、ポット出の弱い武道家を見張ろうなんて思わない。
まして、問題を抱えてることすら知らないあいつが、救われたかどうかを確かめるなんて。
「まさか、あいつ」
亀仙人は心を読んでナムの村に迫る危機を知った、それと同じことが出来る?
出来るはずがない。
未来人? じゃあ、どうしてナムの危機なんてめちゃくちゃローカルなことを知っていて、しかも今までスルーしてきた?
「……違う」
転生者だ。
オレと同じく、別の世界で一度生まれて、『ドラゴンボール』を読むか見るかして、死んで、この世界に生まれ変わった人間だ。
……これまで、全く疑わなかったってわけじゃない、でも、確信は持てなかった。
いや、持ちたくなかったのか?
「もしそうだったら、オレはどうすればいいんだ」
この8ヶ月と、その前の戦いで、オレはソシルミに結構世話になった。
あいつがおかしなやつだけど、いいやつなのも知ってる、その上で……じゃあ、どうするんだ。
既に元の歴史は変わり始めてる、変わったら、何が起こるかわからない、そんな世界で、オレは一体、あいつにどう接すればいい?
しばらく考えていたが、オレは係員に呼ばれて、武舞台まで戻ってきた。
隣には、同じく出場を待つソシルミがいる。
「なあ、プリカ、少し賭けをしないか?」
「かけ?」
「何、俺はお前と戦えればそれだけで楽しいが、お前はそうじゃないだろ……だから、ちょっとしたお遊びだ」
藪から棒に、ソシルミは妙な事を言ってきた、……でも、賭けといっても、オレには賭けるものはなにもない。
まさか、オレの体を、とか言うんじゃなかろうな、と思ってソシルミを見ると、妙に澄んだ目で、いつものニヤケ面で、言葉を続けてきた。
「この世界には、どんな願いでも叶えてくれるという7つの珠があるらしい、もしそれを手に入れた時、先にどちらが使うか、ってのはどうだ?」
「……ほんとうにあるのか、そんなの」
「あるんじゃないか?」
オレには、こいつが分からない。
オレがどうこいつに接したいのかも、もう分からない。
ドラゴンボールは欲しい、でも、こいつがくれるとして、集めさせていいのかも分からない。
「じゃあ、いい、それでいこう」
「やる気を出してくれるなら、俺も焚き付け甲斐があるというものだ」
戦いに迷いを持ち込まないのがいいメンタルなら、オレのメンタルは最低最悪だ。
目の前のこいつをどうしたいのかも知らないまま、殴り合おうっていうんだからどうしようもない。
……でも、オレの中のサイヤ人の血は、こいつと戦いたがっている。
オレの持つ、地球人の魂は……こいつの事を、もっと知れと、叫んでいる。
否応なしに、高鳴る鼓動に答えるように、オレたちの戦いの火蓋は、今まさに切って落とされようとしていた。
→つづく
おまたせしました。
……遅延の原因はしばらく後のプロットまで連続で練っていたことです、決して、決して、セールのゲームにうつつを抜かしていたからなどということは……!