「どうかな流牙くん。」
「お似合いです霧彦義兄さん。」
今日はついに冴子姉様と霧彦さんの結婚式。
霧彦は白いお洒落なタキシードに着替え、待機室で冴子の準備を待っていた。
丁度部屋には霧彦と俺の二人だけ、俺は危惧していたあることを聞く。
「体の具合はどうですか?」
霧彦は既に琉兵衛からナスカメモリを貰っている。
そう、霧彦の死因は確かに冴子のDVだが、それよりも前からメモリの毒素に体を蝕まれていた。
『ナスカメモリ』はゴールドメモリの中でも危険レベルで強力なガイアメモリで『ガイアドライバー』のフィルターの効果をしても、その毒素を完全に取り除く事ができない、かなり有毒なガイアメモリであった。
冴子姉様が直接手を下さなくても、彼が死ぬのは時間の問題であった。
「あぁ大丈夫だ。しかしコレは凄まじいメモリだ。マスカレイドとは比べ物にならない。」
元セールスマンの下っ端と言うのもあって、彼は今までは『マスカレイド』を使っていた。
ナスカとマスカレイドなんて天と地程に差がある、驚くのも当然。
「変身出来たのは奇跡ですね。強力なメモリな為、使える人間がなかなか居ませんでした。」
「自慢の義兄だと誇って良いんだよ?」
「あはは!!…変身できただけで天狗にならないで下さい。ナスカメモリは甘くは無い。」
俺は椅子から立ち上がり真剣な眼差しで霧彦を見る。
元々ナスカメモリと霧彦との相性は、変身出来るか出来ないかギリギリの数値しか持っていなかったと考えている。
実際レベル2の能力『超高速』を使用するたびに、霧彦の肉体は悲鳴を上げ、それ以上のレベルに覚醒する事は無かった。
メモリの力に体がついて行けていない…
直刺しでレベル3まで到達した、冴子の方がメモリとの相性は上だ。
「ナスカメモリは文字通り『ナスカ』の記憶を内包しています。その能力は何だと思いますか?」
「……ナスカと言えば地上絵が有名。と言う事は!」
「…『絵を描く能力』だなんて言わないでくださいよ。」
「い、いやそんな事は思ってないぞ!ただナスカメモリ自体、データバンクに記録が無かったから、詳しく知らないんだ。その能力とは一体?」
本編ではあまり語られていない能力、今から言うのは俺が独自で調査し、考察した事だ。
「『ナスカの地上絵』自体まだ謎が多い物ですから無理もありません。ナスカには『ハチドリ』『ペリカン』『クモ』『サル』『トカゲ』『宇宙飛行士』…など約300種類以上の地上絵が存在します。…つまりは『ナスカメモリ』は地上絵で描かれた『モノ』や『動物』の力を使う事が出来るメモリでは無いかと思うんです。」
ペリカン、コンドルなどの鳥類から『飛行能力』
『超高速』は恐らく『ハチドリ』
仮説があっていればナスカメモリに内包されている『記憶』の量は膨大で、ガイアドライバーでも毒素が抜け切れないのも頷ける。
だが、詳しい性能を調査するには、やりレベルを上げてもらわないといけない。
…しかし…どうする。『アレ』を渡すべきか否か。
「つまり300種以上の力がこのメモリにはあると言うことか!」
霧彦はナスカメモリを興奮気味に掲げる。
毒素が強いと言うのもあって、ガイアドライバーのフィルターを強化した『改良型』を俺は開発していた。
従来のガイアドライバーを使うよりかは遥かにマシだ。
では、なぜ俺は躊躇しているか…それは霧彦の成長に関係する。
毒素があると無いとでは成長速度が段違いなのだ。変態医師の説はある意味正しい。
彼の成長の遅れが、冴子に見限られるまでの期間を早めるのではないかと危惧している。
さて、どうするか…。
「冴子お姉様が貴方に何を期待したか知りませんが、ナスカメモリは強力だ…最悪、身を滅ぼすことになるかもしれない。」
「ふ…安心してくれ流牙君。僕はいずれ風都の闇を支配する男だ。この程度の力で屈するほど柔ではない。」
いや、実際屈しちゃうけど……。どっからくるのその自信は…。
「使いこなして冴子やお義父様の期待に応える…
勿論君もだ(ドヤ顔)。」
「……。」
そのドヤ顔が逆に心配だよ。
「旦那様…奥様の準備が整いました。」
「よし、では式場に向かうか。」
スタッフが冴子の準備が終わった事を告げると、この先の地獄を知らない霧彦は張り切りながら部屋を出ようとする。
「霧彦
俺はそんな霧彦を呼び止めた。
「僕はこう見えてもガイアメモリの研究者だ。義兄さんがそのメモリを使いこなせるようサポートしますよ…それが義弟の役目です。」
懐から改良型の黒いガイアドライバーを取り出し霧彦に差し出す。
見た目は通常のガイアドライバ一とは一変し、黒い成形色でできた無駄の少ないフォルムだ。
「これは?」
「結婚祝いです。俺が開発した改良型のメモリドライバー『ガイアドライバー2』です。きっと貴方の助けになります。」
「流牙君…ありがたく受け取っておくよ。」
霧彦は満面の笑みでそのドライバーを受け取る。
成長が遅れる可能性が有るかもしれないが、毒素に犯され本調子を出せない状態でいられるのも問題がある。
それに彼を生かすために色々と学習してきたんだ…俺が彼の成長を促せば問題ない。
「園咲家を失望させないでくださいね…。」
渡す間際、忠告する。
園咲の失望は彼の死を意味する。
霧彦と部屋を出て、会場に向かうと庭園で園咲琉兵衛が待っていた。
「霧彦君。」
「お義父様。」
「婚礼を上げる前に、君を一発殴らせてくれぬかな?」
「…ふ、まるでホームドラマ見たいですね。下っ端の私が娘さんを奪っていくからですか?」
笑みを浮かべながら霧彦の肩に手を置く琉兵衛。
霧彦の言うように王道なホームドラマのワンシーンみたいな雰囲気だが
琉兵衛のある行動で空気が変わる。
『テラー』
琉兵衛は懐からテラーメモリを取り出したのだ。
それを見た霧彦は眉を顰める。
そう一発は一発でも恐ろしいくらいに強力な一発。
霧彦が本当に『園咲』を名乗るのに相応しいかどうか見定める、いわば試験のようなものを行うとしていた。
「園咲家の者は皆、我らミュージアムの中枢。この町の…いや、全人類の統率者だ。君が『ナスカメモリ』の能力を極めているかどうか、それを確かめれば式を上げさせられる。」
琉兵衛の威圧に後退りをする霧彦。
二人の間に一触即発な空気が流れると、ベランダから園咲若菜が顔を出す。
「お父様…私が変わりますわ。」
『クレイドール』
クレイドールメモリを起動した若菜姉様。
ガイアドライバーを取り出し前ではなく後ろ側の腰に装着すると『クレイドールメモリ』がドライバーに吸い込まれる様に刺さり若菜は『クレイドール・ドーパント』に変身する。
『気取った男のメッキを剥ぐの、私大好き。』
ベランダから飛び降り、霧彦と対峙するクレイドール・ドーパント
試験を若菜が変わる事に琉兵衛は微笑みながら認める。
『さぁ、いくわよ…霧彦お義兄様?』
霧彦は覚悟を決め、軽く服装を整る。
そして何故かナスカドーパントに変身せず戦闘態勢に入る。
自分をナメて変身しない霧彦に対し、舌打ちをした若菜姉様は腕を霧彦に向け、エネルギー弾を放った。
二人の戦闘を原作どうりだなーと眺めている俺。
すると琉兵衛は俺の肩に手を置き微笑みを浮かべた。
父性溢れる優しい笑み…
しかし、それを見た途端寒気が身体中を走る。
「そう言えば流牙。」
「…な、なんですかお父様。」
肩に重くのしかかる
あぁ、これがテラーメモリから来る『恐怖心』かと俺は理解する。
「次世代ガイアメモリの研究データが失われてから、君にその研究の全てを託していたが……最近目ぼしい成果を上げられていないそうじゃないか?
ゾッッッ!!
恐怖心がより一層強くなり、体は勝手に震え、胸が重りで押さえつけられたかのように息苦しくなる。
これが“テラーの力”か。
実の息子でさえも、平気でその力の一端を使うとは、それだけで園咲琉兵衛の非人道性がうかがえる。
「お前の技術力には光るものがある。流石文音の元で学んだだけの事はあるな…しかし、成果を上げられないようじゃあミュージアムに居ても意味がない。それに
『テラー』
テラーメモリを俺に見せつけた。
悲鳴が込み上げそうになるが、俺はグッと抑える。
「家族が減るのは寂しい…父にその様な思いをさせたくないだろう?」
「…は、はい、お父様。」
『ナスカ』
気がつくと霧彦はナスカ・ドーパントに変身しクレイドール・ドーパントの拳を胸で難なく受け止める。
その様子を見た琉兵衛は満足そうに拍手を送った。
「合格と言わざるを得ないようだ。」
琉兵衛の言葉に嬉しそうに変身を解いた霧彦が、綺麗にお辞儀をする。
若菜は悔しみの舌打ちをすると、変身を解きその場を立ち去った。
琉兵衛も「この調子で精進する様に」と霧彦に言いながら式場に向かった。
二人が去った事を確認した霧彦は少し乱れた衣装を正しながら苦笑いを浮かべる。
「ふぅ、若菜ちゃんも中々きついね…ってどうしたんだい?顔色が悪いよ?」
霧彦は僕の顔を覗き込んだ。
「い、いえ。大丈夫です。先に式場に行ってください…新郎が遅れたら不味いですし。」
「具合が悪かったら無理に参加しなくていいんだよ?」
「いえ、少し外の空気を吸ったら会場に行きます」
「そうか…無理はしないように」
彼が去り、中庭には俺だけが残される。
近くにあったベンチに座り、呼吸を整え、震える自分の掌を見る。
あれがテラーメモリの力…「恐怖」の記憶を持った最恐のメモリか。
今でも震えが収まっていない。翔太郎もその力によって戦闘不能にまで陥っていたが、ドーパント体にならなくてもこれ程の力が有るとは…。
それにあの『警告』
何が「園咲家を失望させないでくださいね」だ…俺も似たような状況ではないか。
これ以上研究を長引かせれば、俺も霧彦のように始末される。
あの研究に着手してから一年以上経っているのに未だに次世代メモリの完成の目星が立っていない…そりゃミュージアムも痺れを切らす。
なぜここまで開発が停滞しているか…その原因に心当たりがある
「俺が躊躇しているからだな」
Wのデータ収集が無くとも、やろうと思えば次世代メモリ開発に必要なデータは揃えられる。なぜそれをやらないのか。
…それは非人道的な人体実験を経由するからだ。
琉兵衛の『躊躇』という発言も恐らくこの事を指している。
俺は仮面ライダー…つまり正義のヒーローが好きだ。
故にどうしても外道に落ちる事に抵抗がある。
その俺の倫理観が研究に歯止めをかけてた。
劣化メモリなどと言う無意味な物も…俺の躊躇からでき上がった物
…完全に俺は悪の研究者に向かない感性をしている。
この調子じゃあいつまで経っても『仮面ライダー』なんて作れやしない。
今更ミュージアムに入った事を後悔している。
メモリの性能調査実験は被験者が死ぬことが多い、非常に危険で、非人道的な実験だ。
強力なメモリほど毒素が強く、制御が難しい。
膨大な毒素によってそのまま死亡する者。
暴走によって制御を失い、そのまま殺処分され、解剖の分析に回される者。
など、被験者には想像を絶する末路が待っている。
ガイアメモリができるまで様々な犠牲者が生まれたが、今でもその実験は行なわれ犠牲者が減る事はない。
商品用とそうでない用にメモリを別ける為。
メモリ自体謎が多いためそれを調査、分析する為。理由は様々。
でもまぁ被験者の殆どが借金などによって自爆した自業自得な者が多く同情はできないが…それでも俺は躊躇してしまう。
自分の手を汚さず、他人が行った実験データを手に入れる事もできるが。本当に必要なデータは…やはり自分で行わなければ手に入らない。
ガイアメモリの開発は生温いものではないと分かっていたのに。
仮面ライダーナスカを作るなど豪語し、結局は人を踏み外す覚悟がなかった自分を恥じる。
“悪の研究者”としては大失格だ。俺はまるで悪者ぶる唯の子供。
本当の罪を背負うことを嫌い、ただ足踏みしているだけの愚者
なにも出来やしない。
いっそのこと全てを投げ出したい気分だが、『園咲』という血は、それを許さない。
逃げようと思えば…待っているのは死だ。
園咲琉兵衛はたとえ家族であろうと葬る。後の冴子がその良い例だ。
俺は一体どうすれば…どうしたいんだ。
俺は腕に付けたスネークウォッチを見つめる
これは俺がこの世界初めて作った物で、思い出深いものだ。
そして俺は前世の憧れを思い出す。
幼い頃、仮面ライダーになるよりも
オリジナルライダーのイラストを描いては妄想を膨らませ…いつかはライダーのデザイナーになりたいなと儚い夢を抱いていた程だ。
…今はそのチャンスがある、術がある。
そうだ……仮面ライダーは
多くのライダーの力は怪人と同じ力を有している。
仮面ライダーWも元はドーパントと同じ、ガイアメモリという悪魔の道具を使った超人だ…唯一違うのは正義か悪か…。
変身ベルトも様々な犠牲を経て出来上がったものが多い。
犠牲なくして発明はできない。
「…俺は仮面ライダーを作りたい。」
今後の俺に待ち受けているのは地獄であろう。
だが俺はやり遂げたい。
仮面ライダーを作りたいという強い『欲望』が生まれた。
《罪》を背負う事で正義のヒーローが産めるなら俺は喜んで背負う。
悪事に手を染める。
覚悟はできた。
いずれ作ったライダーが俺を倒すかもしれない。
だがそれは喜びであり俺の罪の
精算の時まで…俺はもう止まらない。
俺はコブラメモリを起動した。
登場してほしい平成2期、令和ライダー(外伝執筆の参考にします)
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オーズ
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フォーゼ
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ウィザード
-
鎧武
-
ドライブ
-
ゴースト
-
エグゼイド
-
ビルド
-
ジオウ
-
01
-
セイバー
-
リバイス