エレメントハンター:タイプ・クデュック   作:最上 イズモ

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第6章 流れの設計者

月面支部の外は、相変わらず何もなかった。

 

地球は遠く、青く、静かだ。

そこに住む人間たちは、今も元素が「ある」前提で生活している。

 

イズモは観測室の中央に立ち、無重力用の固定具に身体を預けていた。

正面の球状スクリーンには、複数世界の位相マップが重ねて表示されている。

 

線が、ある。

 

イズモ「……やっぱりな」

 

カエデ「元素流量の時系列を再構成しました。

複数の消失事案が、同一方向へ収束しています」

 

線は細く、だが意図的だった。

自然現象なら、もっと散らばる。

事故なら、もっと乱れる。

 

これは――設計されている。

 

イズモ「流れを作ってる。

しかも、回収を前提に」

 

カエデ「はい。回収行動がトリガーとなり、

次の消失が発生しています」

 

イズモは目を閉じた。

 

回収すれば、助かる。

助かるから、次も回収する。

その結果、流れが完成していく。

 

イズモ「……罠だな」

 

カエデ「悪意とは限りません。

ただし、“人類の行動様式”を前提にした構造です」

 

イズモは視線を戻し、マップの中心を指差した。

 

イズモ「ここ。

次に穴が開く場所だ」

 

カエデ「推定座標、算出完了。

ただし――」

 

イズモ「ただし?」

 

カエデ「回収を行った場合のみ、です」

 

室内の空調音が、やけに大きく聞こえた。

 

イズモは、ゆっくりと息を吐いた。

 

イズモ「……つまり、何もしなければ?」

 

カエデ「少なくとも、この流れは成立しません」

 

イズモは笑った。

乾いた、苦い笑いだった。

 

イズモ「世界を守るために、

何もしない選択をしろってか」

 

カエデ「観測者にとっては、合理的です」

 

イズモ「人類にとっては?」

 

カエデ「……受け入れがたいでしょう」

 

その通りだ。

元素が消えれば、人は死ぬ。

だから回収する。

 

だが回収すれば、次の消失が起きる。

 

イズモ「“助ける行為”そのものが、

次の破壊を呼んでる」

 

カエデ「はい。

この流れの設計者は、

回収という行動を“エネルギー源”として利用しています」

 

イズモは、ある仮説を口にした。

 

イズモ「……観測者を想定してる」

 

カエデ「同意します。

偶然ではなく、役割を織り込んだ構造です」

 

観測者。

見る者。

判断する者。

そして――選別する者。

 

イズモ「……誰だ」

 

カエデ「特定不能です。

ただし、以下の条件を満たしています」

 

スクリーンに条件が浮かぶ。

 

・複数世界の位相を扱える

・元素循環を理解している

・人類の行動原理を知っている

・直接介入しない

 

イズモは静かに呟いた。

 

イズモ「……人類じゃないな」

 

カエデ「少なくとも、

人類の“生存”を最優先にはしていません」

 

イズモは、スクリーンから視線を外し、

観測室の天井を見上げた。

 

そこには何もない。

だが、確かに“見られている”感覚があった。

 

イズモ(……観測されてるのは、こっちか)

 

彼は理解した。

 

これは侵略じゃない。

戦争でもない。

 

実験だ。

 

世界がどこまで削られても、

人類が回収を続けるかどうか。

 

観測者が、

どこで手を止めるか。

 

イズモ「……次は、回収しない」

 

カエデ「それは、現場の被害を放置する選択になります」

 

イズモ「分かってる。

でも一度、流れを断つ」

 

カエデ「その場合、設計者は別の手段を取る可能性があります」

 

イズモ「それでもいい」

 

イズモは、はっきりと言った。

 

イズモ「相手の“次の手”を見るためだ」

 

観測者は、

すべてを救う存在じゃない。

 

だが、

世界がどう壊れるかを見届ける存在ではある。

 

イズモ「次の任務は、観測のみ。

回収なし。

介入最小」

 

カエデ「了解。

観測ログを“空白”として提出します」

 

イズモは少しだけ、驚いた。

 

イズモ「……それ、怒られるぞ」

 

カエデ「怒られるのは、私ではありません」

 

イズモは苦笑した。

 

イズモ「……だな」

 

観測室の照明が、わずかに落ちる。

次のフェーズへ移行する合図だ。

 

イズモは立ち上がり、出口へ向かった。

 

世界は、まだ壊れていない。

だがそれは、

誰かが止めているからではない。

 

壊れ方を、

選ばされているだけだ。

 

イズモは確信していた。

 

次に向かう先は、

元素消失の現場ではない。

 

“流れが生まれる前”。

 

そこに、

設計者の影がある。

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