チートを授けようとしたら嫁に貰われた件   作:ベリーナイスメル/靴下香

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転生特典? なにそれ美味しいの?

「こんにちは、初めまして」

 

「……え?」

 

 驚く少年の目の前にいる存在。

 綺羅びやかとは言い過ぎで、質素清楚と言うには飾り気がありすぎる。

 それでいて何も知らない少年が容易く感じ取れる程には何かを超常していた。

 

 少年の驚きは突如として眼前に繰り広げられた光景か、それともそんな人物か。

 

「まずはキミに謝らなければならないね」

 

 そう言って申し訳無さそうな顔を作った(・・・)人物。

 あまりにも軽薄に、あまりにも真摯に。

 矛盾すぎる二つ、そのどちらとも取れる表情ではあったが、少なくとも少年にとってその判断はつかない。

 判断をつけるための材料があまりにも少なかった。

 

「ボクの手違いによってキミは死んでしまった。申し訳ない」

 

「は、はぁ?」

 

 下げられた頭、放たれた言葉に少年の困惑は深まり続ける。

 

 果たして自身の命はこの人によって左右されるべきものだったのか、手違いと容易く断じられてしまうほど軽いものだったのか。

 とは言え怒りは湧き上がらない。

 怒りという感情を感じる前に覚えた驚きによって頭も心も染まっていたし、それよりも気になることがある。

 

「あなたは、誰、ですか?」

 

「ボクかい? ボクはそうだね、言ってしまえば神様さ」

 

 心なしか控えめな胸を張りながら言葉を連ねた自称神様。

 やはり先程の謝罪はあくまでも体裁というべきか、そんなものだったのだろう。

 

 こうして幾つの命を手違いで迎えたのか。

 

 その数はきっと少年にとってみれば今まで食べたパンの数に等しいかそれ以上。

 そうとは信じたくないが、この突拍子もないシーンに慣れ過ぎていることへと察しがついてしまう程。

 要するにこの自称神は。

 

「……手違いで一体何人殺したんですか」

 

「おや、手厳しいね」

 

 くつくつと笑う顔にようやく怒りが湧いてきた少年。

 しかしながら発露は思いとどまるまでもなく霧散する。

 

「何か言いたいことがあるのなら言っても良いんだよ? その権利をキミはきっと有しているだろうし、ぶつけられる覚悟もある」

 

 何処と無く訝しげに。

 自称神は神と呼ぶには可愛らしく首を傾げ肩口に揃えられた黒髪を揺らす。

 

 だが少年はその姿を可愛らしいと思えない。

 いや、可愛らしいとはこうだということを今理解できなかった。

 

「いえ、特に言いたいことなんてありませんよ神様。ただ単純に気になっただけですし、正直手違いで殺されたって言われてもピンと来ませんから」

 

「そうかい。ならば話を続けようじゃないか」

 

 呆気なくそう切り捨てた神は口を開き直す。

 続く内容は少年の死因。

 

 手違いと言われていたのにも関わらず、告げられた自分の死に方は不思議と納得できるものだった。

 最後の瞬間という記憶はないし、走馬灯を見ることもなかった。

 だからこう死んだんですよと言われても、はいそうですかとしか思えないといえばそうだが。

 

 何より少年にとってそう興味をひかれるようなものではなかったのだ、自分の死というものは。

 

 今まで生きていた世界に未練があるとすれば両親のこと位なものだ。

 それこそ一番の未練ではないかと言われればそうなのかも知れないが、未練足り得る程愛されてはいなかったと思っている。

 

 自身生来、目をかけられても、どれだけ愛されてもどうしようもないということはあるものだ。

 それを少年は痛いほど理解しているし、なんなら自分が死んだことでその苦労もなくなったのではないかとすら思ってしまう。

 

 仮に自分が死んだことで両親が悲しみに暮れていたとしても、思う通り厄介者が居なくなったと思われていても、既に死んでしまったらしい少年にはどうすることも出来ないし、できるとしてもする気がない。

 

 歪な達観。

 死んだときの年齢風貌から伺えるには残酷なそれを持っていたから。

 

「――ねぇ? 聞いているのかい? せっかくボクが懇切丁寧に説明してあげているというのに」

 

 そんな声に我へと返ってみればふくれっ面の神様。

 

 ――あぁ、なるほど。確かにこれは可愛いと言っても良いのかも知れない。

 

「何笑ってるのさ? 天罰覿面しちゃうよ?」

 

「いえ、ごめんなさい。えぇと? どうして俺は死んだんでしたっけ?」

 

 確かにどういう内容かは頭に欠片たりとて入っていなかったが、紛れもなく目の前の神は一生懸命自分に向かって話しかけていたのだ。

 そんな相手を無下に扱ってしまうのは失礼が過ぎる。

 

「……はぁ、もうその話はとっくに終わってるよまったく」

 

「あれ? そうでしたか? それは重ねてすみません。今はどういうお話を?」

 

 ジト目を向けられて喜ぶ自分がいること軽く変態性を感じてしまう少年。

 

 なんてことはない、少年にとって驚きが喉元を過ぎ去ってしまえば残るのは楽しさだけだったのだ。

 今いる不思議な空間で輝いているのは星だろうか? 鼻でしか感じることができなかった新緑の香りというものは今自分が踏みしめているものが発しているのだろうか?

 すべてが新鮮で、ようやく確認することができたと。

 

「特典。そう、今は特典の話をしているんだ」

 

「特典? 死んでおまけを貰ってどうするんです?」

 

 天国、あるいは地獄に行った後何かに使えるのだろうか?

 まさか血の池地獄遊泳一日無料券でも貰えるのだろうか? あるいは両親より先に死んだ罪を償うために賽の河原で石積み放題切符かもしれない。

 

「ほんっとに何も話を聞いてなかったんだね? と言うかこの可愛いボクに向かって何も言わなかったあたり相当肝も座ってるよねキミ。全く神を、ボクをどう思ってるんだ」

 

「そう言うなら手違いで人を殺しちゃう神様へとどう思ったら良いのか教えて欲しいものですけど?」

 

 抗議するときは横断幕を掲げるらしいが生憎とそんなものはない。

 少しそれは残念に思いもするが、抗議文が思い浮かばないし書けたとしても理解を得られないだろう。

 

「わかったわかった。もうざっくり言っちゃうよ? キミはボクのミスで死んじゃったんだ。だから新しい世界に産み落としてあげることにした。特典付きでね」

 

「新しい世界ですか」

 

 さて、所謂転生というものが出来るらしいと理解を得た少年。

 通った学校で同級生が転生したら云々かんぬん、チートが云々という話をしていた記憶はある。

 いざ自分がそうなったらどうするかという想像はしたことがあるが、事実は小説より奇なりというべきかすぐには思いつかないもので。

 

「そう、新しい世界! 剣と魔法の世界さ! キミはそこでモンスターを倒す冒険者になってもいいし、特典を活かしてハーレムを築いても良い! 何ならスローライフと言うのかい? そんな穏やかな生活を送るためにあれこれしてもいいんだよ!」

 

 どうだい? 心が踊るだろう? なんて言いたいのか自分のミスを棚上げにした神様。

 

 少年は少しばかり勘付いていたが、やはり神様というものは人の命をそう重いものと捉えてはいないらしい。

 まぁそれもそうかと納得も出来る。

 仮に少年が生きていた現代日本であっても一億人以上、全世界を合わせれば何倍以上になるのか。

 そんな中から一つ二つ、あるいは百や二百管理の掌からこぼれ落ちたところでどうだというのだろう。

 神様は傲慢だなんて言う人間もいたが、だったら一人でそれだけの人間を管理してみろという話で。

 

 だから少年は納得した、いや捨て置いた。

 そもそも自分とは全く違う存在なのだ。神であろうとなかろうと、そう思えば納得できない、理解できないことを理解できる。

 何より自分自身命の重さというものが理解できていないのだ、自分が理解できないことを理解しろなんて言うことこそ傲慢だろう。

 

「それで? その特典ってやつを俺は決めて良いんですか?」

 

「そうだよ? ボクは寛大だからね! どんな特典が良い? 世界で無双できる力が良いかい? それとも誰も持ってないような珍しい特殊能力が良いかい? 何なら魅了の魔眼でもあげようか?」

 

 寛大というか無責任にしか思えないセリフに自然と苦笑いが浮かんでしまう少年。

 しかし何が良いかと考える前に気づいたことがある。

 

「その、転生するってこと自体が特典になるんじゃ?」

 

「え? あ、そうかい? そういうものなのかい? ……ふむ、たしかにそういうものなのかも知れないね。だけどまぁこれはボクの罪滅ぼしだ、何もせずに転生だけさせたなんて神の沽券に関わる」

 

 随分と適当な罪滅ぼしもあるもんだと少年は再び笑ってしまう。

 そう、つまりこの神様は言っているのだ。

 

「やってやるから水に流せ。ってことですか」

 

「不敬だー! なんて別の神は言いそうだけどボクで良かったね? ま、そう考えてもらっても構わないよ」

 

 簡単に認めるあたりやはり随分と人間と距離の近い神様に違いない。

 今まで心でしか感じられなかった距離が今は物理的にも測ることができる。

 ならばそれこそが少年にとっては何よりの特典。

 

「じゃあ……特典ナシが特典、ってことでどうでしょう?」

 

「……は?」

 

 愉快で仕方ない。

 少年は目を丸くした神様に笑いを堪えることが出来ない。

 

「今の記憶も、無双できる力も、特殊能力も……何もいりません。あえて言うなら今。今この時こそが俺にとっては最高の特典です」

 

「ごめんちょっとよくわからないな」

 

 そう言われるのも仕方がない。

 だがそれが誠心から出た思いで願いなのだ。

 

 転生すること。

 まさしく生まれ変わるというのなら、もう既にこの場で神の顔を見た(・・)ことで達成されている。

 

 今まで生きていた世界は確かにあったのだろう、しかし世界は常に闇で覆われていた。

 声と感触だけの世界に生まれて死んで、こうして初めて色を見ることができた少年はまさしく今世界に生まれ変わったのだ。

 

「あぁ、やっぱり人間一人の命なんてどうでもいいんですね」

 

「そ、そんなことはないよ?」

 

 わかりやすく動揺を示す神様はもう少年にとってただの恩人でしかない。

 そんな恩人は命しか見ていなかった、パーソナルデータというものへと確実に目を通していない。

 それはまさしくその通り。神は何処で生まれて何時死ぬかしか把握していないのだ。

 それが予想外、予定外の何時で失われることがミス。管理怠慢として捉えられる。

 

 すなわち少年が盲目であることすら知らなかった。

 

「ありがとうございます。だから特典はナシでいい……いや、無しがいいです」

 

 目が見えるようになること。

 それはかつて少年が願ったことで諦めたこと。

 それが今叶ったのだ、それで十分だと少年は心底思うしこれ以上を考えられない。

 

 目の前の神様は曰くところの不敬を承知で言えば可愛いというジャンルに収まるのだろう。

 幼い風貌というのはこういうことか、可愛いというのはこういう人を言うのか。

 星の煌めきとはこうも儚いものなのか、草木生い茂る草原とはこういう場所か。

 

 それを知れたことこそが特典。

 

 仮に新しい世界に再び生まれ落ちて目が見えなくとも。

 今この時の経験を覚えていなくて、再び叶わぬ願いに身を焦がそうとも。

 

 確かに自分は今、十分だと感じたのだから。

 

「……意味が、訳が、わからないな」

 

「そうですか? ならこう言えば良いでしょうか? あなたの顔を見ることができた、それが十分過ぎる程の特典だと」

 

 そんな少年の言葉にふふんと鼻を鳴らした神様は控えめに言ってチョロかった。

 いい気分になった、これほどまでに謙虚……いや、自分を持ち上げるような存在は今まで彼女が管理した人間には居なかったから。

 

「なるほど、うん、理解した。素晴らしく敬虔な人間だなキミは。実に結構、大変結構だよ」

 

「ありがたく」

 

 なんだこの神チョロ甘かよと内心大爆笑ではある少年。

 

 だから。

 

「納得いただけましたか? なら、そろそろ転生してもらいたいんですけど」

 

「うんうん、わかったよ。新しい世界がキミにとって幸多きものであることを祈ってあげよう!」

 

 その言葉で呆気なく。

 神様が指を鳴らしただけで。

 

 少年の姿は光となった。

 

「何だ、中々見どころがある人間だったな」

 

 もしも彼が新しい世界で天寿を全うすることができたのなら自分の眷属にしてやってもいいか。

 そんな風に思えるほどいい気分で一仕事を終えた神。

 だからだろう、いつもは欠片ほど関心を寄せなかったその人となりを記した一枚の紙を顕現させた。

 

「へぇ……こんな名前だったのか、いいよ、覚えていてあげよう……ん?」

 

 そこに記された一文。

 

 疾患、盲目。

 

「……待て、待って?」

 

 少年は神である自分の顔を見ることができた。それが何よりの特典だと言った。

 

 あまりの神々しさを感じたのだろう、その歓喜の気持ちを示した言葉だと思ったそれは。

 

「……あいつ、馬鹿?」

 

 まさしく見る(・・)ことができたということが特典であった。

 

 ただ見ただけで、用意してやった新しい世界の光景を見れずとも。

 ただただあの一時僅かな時間見て、会話しただけで満足したというのだ。

 

 これを、馬鹿と言わずなんという。

 

「何が敬虔だ、何が謙虚だ……あいつは、もしかしたらボクよりも――」

 

 ――遥かに尊い存在なんじゃないか?

 

 ずっとずっとたかが命、その一つで。

 ずっとずっと大多数の中の一、そのはずが。

 

「くそっ!!」

 

 自身を遥かに超える程高潔。

 

 認めてしまった、自身の敗北。

 勝負なんて起こってはなかった、争いなんてあの字も掠めていない。

 だと言うのに。

 

「このまま……生まれさせてやるもんかっ!!」

 

 たかが一瞬目が見えただけで十分なんて思わせない。

 神である自分とあったこと、自身の祝福をその程度であらせてはいけない。

 

 だから。

 

「待ってろよ……! 最高の特典をくれてあげるからっ!!」

 

 消えた少年の後を追うように、自身の姿を光へ変えた。

 

 

 

志藤竜也(しどうたつや)! ボクだよっ!」

 

「……は?」

 

 呆気にとられている一人の男。

 その目の前にかつてと同じ様に一人の女が控えめな胸を張り現れた。

 

「キミは本当にバカだなっ! 仕方ないから態々来てあげたよっ! さぁ! 望みの特典を言うんだっ!」

 

「……あー」

 

 戸惑いの表情から一転。

 男の目には理解の色が灯った。

 

 自分が転生者であることを思い出した。

 知る必要なんて無かったと言うのに、日々を平々凡々と生きてきた彼はそれなりに満足で過ごしてきたと言うのに。

 

「じゃあ俺の嫁になって下さい」

 

「何だそんなことでいいのかい? 良いよそれだったらすぐ――って、ふぇええええっ!?」

 

 思い出したことで欲が生まれた。

 無知が既知へと変換されたことでかつて取りこぼした何かを得た。

 

「な、何を言ってるんだい不敬だなキミはっ! そ、そんなこと出来るわけが――!」

 

「だったらあなたを魅了する魔眼下さい」

 

「ボクを特典にしようとするなぁ!?」

 

 そしてその欲を満たすためには目の前の女――神様が必要なのだ。

 

 なるほど神様転生。

 自分だけではなく神様まで転生してくるとは思わなかった元、志藤竜也という男は。

 

「別っ! 別のモノを考えろっ! じゃないとボク帰れないっ!」

 

「じゃーずっと俺の側に居て下さい」

 

「ふえっ!?」

 

 ようやく欲しいものを手に入れられるかも知れないと笑顔を浮かべた。

 

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