チートを授けようとしたら嫁に貰われた件   作:ベリーナイスメル/靴下香

2 / 4
こいつは天然たらしの味がするぜ?

 志藤竜也改めリューヤは控えめに言わなくとも欲が薄い人間だった。

 

「おうっ! リューヤ! 今日はそんな可愛いコ連れてどうしたんだ?」

 

「ああ、ちょっと嫁をしょうか――痛いです神様」

 

「戯け者かキミはっ! ボクはまだ頷いてないぞっ!」

 

 リューヤの脛をゲシゲシと蹴り上げる神様はそう思う。

 

 二人を何だこいつらと訝しまれるのも一瞬。ついに春が来たかと微笑ましいものを見る目で見送られながら開拓村の道を歩く。

 

「と言うか本当にバカだなキミは! なぁんで態々こんな所にいるんだ!」

 

「いやだって転生者と思い出したの神様に会った時でしたし。それまで何処にでもいる農家の次男坊でしたし」

 

 農家の家に生まれた彼は、保有する農地を兄へと譲り、新しき土地を切り開く開拓者(パイオニア)となった。

 

「ただ次男だからと家を譲るなんて愚かに過ぎないぞ! 調べたけど兄より農作業の技術は優れているじゃないか!」

 

「あー……まぁほら。家で争いたくはなかったですし」

 

 その兄とて覚悟していたのだ。

 リューヤに家の財産を与えられ、自分が家から追い出される事を。

 だからそれを回避するために様々な準備をしてきたし、弟と事を構える腹づもりでもあった。

 

 しかしその準備を簡単に無駄へと変えられた。

 

「あの時の兄貴面白い顔してたよなー……あえて言うならあの顔見れたのだけで十分ですよ。それにその御蔭で? こうして神様とも会えましたし」

 

「はぇっ!? ま、まーそんな風に言うなら……仕方無くないよっ!」

 

 ちょろさは少し改善されたらしいとへそを噛みたくなるリューヤではあるが、一瞬浮かべられた照れ顔に満足感を覚える。

 

 実際家を継が無ければならないのならばそうしていたが、そうする必要がなかったのでしなかっただけなのだリューヤは。

 確かに兄より優れた農家としての存在ではあったが、その兄も無能だったというわけでもない。

 普通に家が潰れない程度には存続させるだろうし、何かの拍子で里帰りした時家がないなんてことにはならないだろうと確信もしている。

 

 いつか訪れるかも知れない不意な帰郷の時、笑顔で迎え入れてくれる人と場所がある。

 それだけで十分だし、そうなるだろう確執を取り除いてきた確信もあった。

 

「俺は今で十分なんです。こうして家から出て未踏を開拓する。これが思いの外性に合っていたみたいですしね」

 

「むむ……むー……」

 

 小さな頬を膨らませた神様も可愛いですよという言葉は胸に秘めて笑うリューヤ。

 そんな二人をやっぱり微笑ましく見る同じく開拓者達。

 

 実に小さな世界ではあるが、平和で充実を感じるには十分な生活。

 未踏に潜む脅威はそれなりにあるものの、今までもこれからも共にやっていけるという絆は既に築き上げられている。

 

「な、ならこの辺の魔物を蹴散らす力はどうだい? そうすればほら、あそこにいる娘も……あ、どうもこんにちは。じゃなくて! ほらほらキミのこと好きそうじゃないか! ボクがよ、よよよ……ヨメになる必要なんか!」

 

「こういうのは皆で頑張るから良いんですよ。それにあの娘には婚約者がいますから」

 

 のほほんと言うリューヤは気づかないが、その娘は聞こえた言葉に肩を落とした。

 

「いやいや、絶対あの娘キミに気があるって! ほらすごく残念そうに――諦めないでよ! 違う! ボクが本命とかそんなんじゃない! 大体ボクは――あー! 涙を振り切らないでぇ!? どうしてそこで諦めるのさっ!? もっと熱くなろうよっ!?」

 

 私、あの人と幸せになりますっ! とでも言わんばかりの背中を見送るリューヤと届かない手にもどかしさを感じる神様。

 

 リューヤは欲が薄い。

 しかしながら決して鈍感という訳ではなかった、今涙と共に走り去っていった娘から好意を寄せられているのには気づいていたし、自身もそうだ。

 手を伸ばせば手に入れられたのかも知れない。それでも手を伸ばし、誰かを不幸にしてまでも得たいと思わなかっただけの話。

 

 だから唯一で初めてなのだ、手を伸ばし神様を求めたのは。

 誰も不幸にならず、阻むものもなく手に入れたいものを手にしようとしたのは。

 

「度し難いほどのバカだなキミは」

 

「神様にそう言って貰えるとなんだか嬉しいですね」

 

「褒めてないよっ!!」

 

 転生した、させたところで本質は変わらない。

 かつて先輩と呼べる神様に聞いた話を眉唾に感じていたが、こうして目の前で証明されてしまったことに眉を吊り上げる神様だった。

 

 

 

「それで? こんな樹海って呼べるようなとこで何をするのさ」

 

「木があればそりゃ切り倒しますよ。この辺には道を通す予定ですから」

 

 よっこいせと大きな斧を担ぎ樹木へと向かう背中。

 転生の間で見たかつての少年は随分と大きな背中へと育った。

 あの時は露ほどにも興味がなかったそれだが、神様は何故か今目を離せない。

 

「何だったら木を簡単に切り倒す特典でもあげようか?」

 

「俺が欲しいのは神様だけですよ……っと」

 

 斧の刃が木を刻む音が響く。

 そんな中、またしても早鐘を打ち始めた自分の鼓動が煩く苦しい。

 

 神様とは与える存在である。

 裏を返せば与えることしか出来ない。それも求められれば、だ。

 

 手違いとはその理にある中でも例外で。

 求めなかった存在でも無条件で求めることが出来る。

 そうなったとしても神へと求めなければ与えられないのだ。

 

 確かに。

 確かにかつて先達から言われたように、手違いがあろうとも適当な欲塗れの特典を与えれば喜び勇んで転生先を思うがままに楽しむ。

 それ故に管理へと怠慢が挟まっていたことは認める所。

 

 どうせ特典を付けてやればそれで満足するんだから。

 

 そう思っていたのは間違いない。

 

 神様としての業務に追われる日々ではあったが、そうして特典を与えてやった人間が転生先で何を成したのかを調べた事がある。

 そしてそのどれもが幸せな結末、あるいは本人が満足できる結末に至ったことへ疑いはない。

 

 むしろ、手違いを起こしてやったほうが良いんじゃないか。

 そうとすらまで思える始末だったのだから。

 

 神は傲慢だ。

 傲慢であるから神だ。

 

 そうは言うが人間こそが傲慢だ、傲慢だから人間だ。

 下手に手違いをしてしまったからと謝罪でもすればつけあがる。

 盛大な無茶振り特典を叶えてやれば仕方ないからそれで手を打ってやるなんて風を装って、転生先の世界を蹂躙する。

 

 そんな相手をどうでも良いと思い始めたのは何時だっただろうか。

 

 だからこそこうして一つの命へ執着するなんてありえない。

 

 いいじゃないか、本人が満足しているのだから。

 外界に降りるなんて無茶が許されるのは今回だけ、それも彼が死ぬまで。

 特典を与えさえすればいつでも戻れるようになるし、与えられなくとも人の一生なんて神様にとって僅かな時間でしか無い、適当に眠っていればあっという間。

 意識の外へ切り離し、なんだったらこの世界をエンジョイしてしまっても良い。

 

「たーおれーるぞー!」

 

 だと言うのに。

 

 どうしてだろうか、そうしたいと思わないのは。

 何故だろうか、取るに足らない人間相手に鼓動を震わせるのは。

 

 何かを訴える心がある。

 そうだ、どうせ僅かな時間だというのなら――

 

「危ないっ!!」

 

「っ!?」

 

 考えに没頭していた神様の意識を浮上させるリューヤの声。

 そして真っ先に見えた光景は大きな牙。

 

 ――しまった手違いだ。

 

 神様のくせになまじ人の身体を持ってしまった故に動けない。

 身体は緊張と恐怖に縫い付けられて反応がない。

 神の奇跡……この世界でいうなら魔法を使う余裕がない。

 

「はは、ほんとのバカは……うぐっ!?」

 

 自分だった。

 なんて思おうとした時、身体に奔ったのは牙に穿たれる感触ではなく衝撃。

 

「い……ってえええええ! なぁ! もうっ!」

 

「な――!?」

 

 突き飛ばされた。同時にリューヤの腕に自分を穿つ筈の牙が突き立てられていることを理解した。

 

「はな――せってんだよ!」

 

 腰に回していた小さな短刀。

 それを魔獣の頭に突き立て命を奪ったのはリューヤ。

 腕を振って骸を振り払い、傷の状態を確認するより早く。

 

「神様!? 大丈夫ですか!? すみません、いつも一人でやっていたもので注意が足りませんでした!」

 

「……か」

 

 腕からは少なくない血が流れている。

 すぐにでも手当を必要としていることが素人目にだってわかるほどの傷。

 

 あぁ、手違いだ。まったくもって手違いだ。

 

 これほどまでに自分は傲慢だったのか。

 

「ばかっ!!」

 

「えぇっ!?」

 

 それは誰に向けての言葉だったのか。

 少なくともリューヤは自分に対して向けられた言葉だと驚いたが、神様の真意は伺えない。

 

「ボクは……ボクは神だよ!? あんなのに噛みつかれた所でなんてこと無い……っ! ほんとにキミは……大馬鹿者だよっ!」

 

「あ、あははー……そうです、そうでしたね。神様は神様でした、すみません……いつっ」

 

 お前が確認しないなら自分がする。

 勢いよく奪った腕には黒々とした牙の痕。湧き上がる血液は凝固することなく流れていて。

 腕から滴る血が、地面を僅かに穿つ度に悔しいと言うべき感情が心に渦巻く。

 

「大丈夫ですよ。ちゃあんと手当の道具は……って」

 

「じっとしてるんだ。使えるけど……この世界の魔法は初めて使うから」

 

 傷へと優しく手を添えて。

 掌から漏れる光は癒やしの光。

 

「はー……魔法ってすごいんですねぇ」

 

 こんな辺境を開拓する人間に魔法を使える者なんていないし、リューヤの生家、その村でもそうだ。

 だからしげしげと魔法を観察してしまうのは仕方ない。仕方ないが、それでもくすぐったく思う気持ちがある。

 

「ふ、ふん……。ボクは神だからね、これくらい……って、そうじゃない。えっと、その……あ、あり、ありあり……」

 

「蟻?」

 

「ありがとうっ! ボクは神だけど! あんなのなんてこと無いけど! それでも助けられたことに変わりはないからねっ! 感謝してあげるよっ!」

 

 そっぽを向きながら。治療が完了した腕からもういいでしょと乱暴に手を払って。

 

「いいえ、こちらこそありがとうございます。流石神様ですね」

 

「あ、当たり前だよっ! ……ってそうでもなくて……う、うぅ」

 

 述べられた謝辞により素直になれなくなって。

 これこそ神の沽券に関わるとどうにか心へ踏ん切りをつけて。

 

「手違い……これで、二つ目、だよ。複数なら気軽でしょ?」

 

「え? 複数? 気軽? 何のことです?」

 

「特典っ! 神様の手違い! これで二つ目! 特典二つあげるから! ひ、一つくらい何か願ってよ!」

 

 あぁなるほどと手を叩くリューヤに恨めしそうな視線を送ってしまうのも仕方がない。

 もう借りを作りっぱなしなのだ。傲慢である故、思い通りにならないことが我慢できない。

 それ以上このままだと自分が保てなかった。

 たかが人間にと思う心もそうだし、下等で気に留めるのも間違いな生物だと思っていた人間の足を自分が引っ張っていると思ってしまいそうなことも。

 

 だからここで言われた望みはどんなことでも叶えようと決意した。

 やけくそな部分があるのは否めないが、嫁にでもなんでもなってやると。

 

 しかし。

 

「あー……じゃあ、名前」

 

「は?」

 

「名前教えて下さい。いつまでも神様じゃなんだかバツが悪いですから」

 

 にへらっと言うリューヤへとついに持て余している感情が。

 

「――ミコト!! ミコトで悪い!? このバカリューヤ!」

 

 鼓動と一緒に爆発した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。