とあるモブ死神だった奴の話   作:ピューレッド

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死神万事塞翁が馬

 

 「ねぇ、そろそろ始めたいんだけど…」

 

 「まあまあ、そう慌てるでない主様よ。卍解は逃げも隠れもせぬ」

 

 俺の胡座の中に座るのは銀髪の鬼。いつもの如く中々気乗りしないように見え、俺の胸につむじを押し当てこちらを見上げると、やる気ない気怠げな顔をしている。

 

 「それはそうだけどさ、卯ノ花隊長が出した期限まで時間はもう少ないんだよ」

 

 「良いでは無いか。卍解なぞ無くともわしだけで十分じゃろ?」

 

 「いや確かにね、始解の状態でもかなり強いと思うし十分だと思うけどさ、卍解を会得しないと俺の目的が達成できないんだよ。さあ、こんなことしてないで早く始めるよ」

 

 しつこく言い続け頭をかなりの時間撫で続けると、やはり彼女は折れてくれる。このダラダラとしたスキンシップは、卍解の鍛練前のルーティーン的な感じになっていた。名残り惜しそうに幼女は俺の膝から立つとどこからともなく斬魄刀を小さな手で握り締めている。

 

 「しょうがないのう、ほれ早う立たんか」

 

 「分かってるよ。ちょっと待ってね」

 

 『よっこいしょ』とじじくさい声を漏らしながら立ち上がると、凝り固まった筋肉をほぐしていく。

 

 「本当に主様は老人のようじゃの。言動と見た目が伴っておらぬな」

 

九泉雷公さんってば体が小さい分軽いと言えば軽いんだけど、三十分も足の上に乗られようものなら痛くなってもしょうがない。そんなことを言えるはずもないので心の中に留めておこう。

 

 「そんなことよりさ、早く始めようか」

 

 「ま、良いじゃろう。方法はいつも通り、素手でわしを屈服させてみい。鬼道禁止での」

 

 斬魄刀を構え雷を迸らさせると、さっきまでの緩い顔とは打って変わって真剣な顔つきになる。

 

 「分かってるよっ!」

 

 俺は最速で鳩尾に拳を決めに行くが、相手は俺の斬魄刀。勿論だが俺よりもずっと力の使い方が上手い。

 

 「ぐへっ」

 

 俺は屈んで正面から突っ込んで行ったため、顔面に強化膝蹴りをくらう。しかしながら四番隊である俺は、手早く傷を癒すと距離をとり再び体勢を立て直す。

 

 「いつも言うとるがその距離は致命的じゃ」

 

 幼女は斬魄刀の鋒から容赦なく雷を放出するが狙い通りだ。目の前が莫大な光り覆われるが俺はその身一つで突入する。電撃を受けすぎて耐性がついてきた俺はらある程度の電撃は耐えられるようになってきた。辺りは砂埃が舞い上がり視界が遮られる。それこそが唯一の好機。まさか突っ込んで来るとは思わないだろう。

 

 「‥っ!!!」

 

 いつも通り油断していたであろう九泉雷公は目を大きく見開き、呆気にとられたと言う言葉が相応しい顔をしている。俺はついに、渾身の一撃を喰らわせようと身体に拳を触れた刹那、今までで一番の電撃が俺の手から伝って流れ込む。

 

 「どぉ〜してだょ〜!!」

 

 俺は電気による硬直によってガラガラとした声を上げながら倒れる。まさかこんな隠し球があったとは……ある程度の電撃に耐性がついてきたとはいえ、今までとは桁違いの電気の奔流にいよいよ勝てる気がしなくなってきた。

 

 「それ……反則やろ……」

 

 「これを浴びてまだ意識があるか……」

 

 ビクビクと痙攣している俺の身体をツンツンと突いて不思議そうな顔で俺をみる。

 

 「ある程度電気耐性がある俺でもまだ動けないわ。どんだけぶっ放したんだよ…」

 

 「なに軟弱なことを言うとるか主様は。しかしまあ、よくもこの短期間でここまで耐えられるようになったものじゃ」

 

 「まあな。伊達に毎日電気を浴びてないよ。嫌でもこのくらいは耐えられるようになる。それに痺れよりも火傷が嫌なんだよね」

 

 俺は痺れが取れた身体を起き上がらせて、少々焦げた死覇装を払うと火傷して赤くなった皮膚を元の肌色へ戻す。

 

 「まあ、そうじゃのう……卍解するにあたって最低限度の耐性はついたようじゃの」

 

 「なん……だと……⁉︎」

 

 俺は耳を疑った。さっきの話が本当ならば指定期間までに到底間に合わない。これで最低限度とはどれだけ時間を要するのだろうか。

 

 「約十年間電気を受けてもなおスタートラインとは……萎えるわ」

 

 「こんなので怖気付いていては到底卍解なぞ扱えぬ…がしかし、本来ならばここまで二十年と予定していたのじゃが、それを倍の速度で来るとは中々予想外じゃよ」

 

 「はぁ〜。卯ノ花隊長になんで言えばいいのやら。卍解出来ませんでしたじゃ色々詰みだ」

 

 俺の顔に陰が出始めると、それを見た九泉雷公は不思議そうに問いかける。

 

 「さっきからなにを落ち込んであるのじゃ?一言も卍解を教えぬとは言っとらんぞ?」

 

 俺は顔を上げるとニヤニヤした顔の九泉雷公が目に映る。

 

 「え?じゃあ、なに?合格でいいの?」

 

 「合格もなにもない。とっくにわしはお主に心を許しておる。足りないのは力の器だけだったのじゃよ。条件付きではあるが卍解に至っても良いじゃろう。ようやく器が成ったようじゃの」

 

 ようやく一つの試練が終わり、肩が軽くなった気がした。疲れがどっと押し寄せて心地よい安堵感が俺を包む。

 

 「本当に良かった、ありがとう。で、条件って何よ?」

 

 「まず一つは、こちらで卍解時の力を八分の一までに抑えさせて貰う。でなければ主様の身体は、場合によりけりじゃが黒こげになって自滅じゃ」

 

 恐ろしいことを口走る彼女だが、どうやら冗談ではなく本気らしい。今の俺の身体では耐えきれないようだ。

 

 「分かった。それで構わないよ。まず一つってことは他にもあるの?」

 

 「もう一つの条件なのじゃが…」

 

 「?」

 

 何やらもじもじとして言いづらそうだ。何か厳しいことなのだろうか?

 

 「もう一つはの、何がどうであれわしが一番だと誓うのじゃ」

 

 「?…まあ、分かったよ。よくわかんないけど誓うよ。わざわざ誓わせるってことはきっと重要なことなんでしょ?」

 

 「それは今から分かる。卍解するにあたってわしのことを話す必要があるのじゃがな、実はわしは--------」

 

 

 

--------------------------------ーー

 

 「おーい茜二サーン。おはようございまーす」

 

 「………んぁ?」

 

 「どうしたんスか、こんなところで寝てるなんて珍しいッスね」

 

 「喜助…さん?」

 

 倒れている俺は身体の怠さに耐えながら薄く目を開けると、そこには真新しい隊長羽織を着た喜助さんが覗き込んでいた。なぜ倒れていたのかといえば、あの後卍解を試してみたのだが案の定、まだまだ使いこなせなくて気絶していた。

 

 「どうです?卍解のほうは?」

 

 「はい、なんとか習得できましたよ。ただ、俺の手に余るようでまだまともに使えませんね」

 

 「おぉ!それは良かったッスね!おめでとうございますッス茜二サン!」

 

 「ありがとうございます……なんだか照れますね」

 

 喜助さんは夜一さんの紹介で知り合った新しい十二番隊隊長。虚化の研究について意気投合してちょくちょく技術開発局へ通って進行を深めている。もちろん虚化は危険な研究の為、それを共有しているのは俺と喜助さんと夜一さんの三人だけである。因みに夜一さんには盗み聞されてしまい、それからより秘密裏に行なうようになった。

 

 「ちょっと温泉に浸かって傷を癒してきます。ここへ来たってことはどうせ用事でもあるんですよね?話はそれからでいいですか?」

 

 「もちろんっスよ、急用というわけでは無いのでごゆっくりどうぞ。私はココで待ってますから」

 

 「わかりました」

 

 俺はフラフラとした足取りで温泉へ向かい、所々焦げた死覇装を脱ぎ捨て湯に浸かる。

 

 「あ"あ"ぁ〜、本当に生き返るわ。全く風呂なきゃやってらんねぇなあ」

 

 実は俺は大のお風呂好きであり、かなりの頻度でここへ通っている。気分が沈んだ時や疲れた時などこの熱めの湯に浸かれば一髪で疲れが取れる。俺の数少ないリフレッシュ方法の一つだ。

 

 すると急にムニィという慣れた感覚が背中へ二つ、音も立てずに押しつけられる。少し褐色で細いが筋肉質な腕が俺の胸へと回される。

 

 「はぁ…… 夜一さん、またですか。いつも言っていますが四大貴族の当主である貴方がこんなことしたらいけませんよ。俺の命が危ないから。バレたら速攻消されちゃうっ!」

 

 「まあまあ良いでは無いか。わしとお前の仲じゃろう?もう既に幾度となく共に湯に浸かっておるのじゃ、今更なにを言ってもしょうがないじゃろう」

 

 夜一さんはたまに俺がこうして湯に浸かっていると、音を立てずに抱きついて俺をからかおうとしている。最初こと驚きのあまり色々とフリーズしてしまったが、約十年も混浴していれば慣れるものだ。やめろと言ってやめてくれるはずもなく、とうの昔に諦めている。裸を見ても最早なにも動かず、まるで夜一さんは本当の姉のようだ。俺を弟のように可愛がってくれて、その距離感がなんだかとても気持ちいい。

 

 「それで茜二!喜助から聞いたぞ!卍解を習得したらしいではないか!」

 

 「そうなんです、つい先ほどのことですよ。でもまだまともに使うことができないんですがね」

 

 「そんなこと後からいくらでも鍛えれば良い!卍解至った、それは一流の死神になれたことの証じゃ。もっと胸を張らんか!」

 

 腰に手を当てポヨンポヨンと胸を張って見せる夜一さんを見上げて思う。この人の羞恥心ってどこにあるのだろうか?もしやこの人は痴女という人種なのだろうか?

 

 「そうですね。もっと自信を持っても良いかも知れませんね」

 

 「それで良い。でなければ折角の良い男が台無しじゃ。自信を持てば自ずと気迫も変わるし行動も変わる。もちろん過信は良くないが、茜二は少々謙虚過ぎる。過ぎた謙虚は嫌味以外の何者でもない、しかし高慢も寿命を縮めるだけじゃ。何事も適当が良い」

 

 夜一さんは俺のすぐ隣に座り直すと琥珀のように滑らかで綺麗な色の肌を、度重なる治療により無駄に綺麗になっている俺の腕に触れさせる。

 

 「さあ、喜助も待っていることですし、もうそろそろ上がりますか」

 

 「わしはまだ入ったばかりじゃ。もう少しこのままでおらんか?たまには付き合ってくれても良いじゃろう?」

 

 「なに言ってるんですか。いつもわがままに有無を言わさずに付き合わせているでしょう?もうのぼせそうですから出ます」

 

 俺は腕に巻きついた夜一さんを振り解くと、さっさと上がりさっさと着替える。夜一さんは拗ねてしまったようだが致し方ない。

 

 「ではこの後、俺は今日休みなので一緒に最近できた茶屋の塩大福でも食べにいきましょうか。うちのグルメな副隊長のイチオシでして、俺も食べてみたのですがとても美味しいんですよ。きっと夜一さんも気に入ると思いますよ」

 

 「それは誠か⁉︎わしも実は気になっておったのじゃ!」

 

 夜一さんはザバァッと勢いよく湯から上がる。どうやら機嫌はうまくとれたようだ。こういうところは面倒だが単純で助かる。

 

 「そうなんですね。俺も早く行きたいので、急いで喜助さんのところへ戻りましょう」

 

 「うむ!」

 

 夜一さんは瞬神の速さで支度を済ませると共に喜助さんのところへ向かう。

到着すると座り込んで待っていた喜助さんに話しかける。

 

 「すいません、遅くなりまして……」

 

 「いえいえ良いンスよ。用があって押し掛けたのはこちらなんですから。早速本題に入りますが……」

 

 話の内容としてはどうやら最近、服だけ残して集団で姿を消す不可解な事件が発生しているとのことだった。九番隊が先遣隊を派遣したらしいが詳細は分からないらしいん

 

 「私も平子サンから聞いた時はかなり驚いたんスけど、私が思うにこれは何者かが魂魄のみを消失させているとみてるんス。あくまで仮説の段階に過ぎませんが……」

 

 「じゃが何の為にそのようなことをする?」

 

 「それは分かりません。魂魄を消失させるのが目的なのか、はたまたそれ以外の目的の途中で魂魄が消失したのか……いずれにせよこれは止めなくてはならない事案ッス」

 

 「なるほど、そういうことですか。俺に言ったってことはつまり、虚化の実験による副産物だと睨んでいる訳ですね?」

 

 「確証はありませんし、誰が行なっているかもわかりません。ただ、虚化によって弱い魂魄は耐えきれずに消失してしまうことはあり得る話っス」

 

 喜助さんは小難しい顔をして考えこむ。夜一さんも何か思うことがあるのだろうか、だんまりとしたままだ。

 

 「確かにそうかも知れません。ですが現状、指示を待つしかありませんね」

 

 「そうっスね、勝手に首を突っ込む訳にもいきませんし。そちらで何か分かったことがあれば教えて下さい」

 

 「わかりました」

 

 それが喜助さんが突然消える前の最後のやりとりであった。虚化の実験を行ったとして喜助さんは尸魂界を追放、夜一さんも共に姿を消してしまい、おそらく喜助さんらと行ってしまったのだろう。思い返すと、つい最近のことであったのに何故か懐かしい。しかし不思議と悲しみや怒りはなかった。喜助さんならばきっとどこかで虚化の研究でもしているに違いないし、夜一さんのメンタルならばどこでも上手くやっていけてるだろう。何にせよ、二人が黙って消えるということはそれなりの事情があったのだろう。

 

 そんなことに思いを馳せながら二番隊副隊長、東雲茜二は月を見上げる。揺らぎもせずただ淡々とこの世を照らすその満月を、二人もどこかで見ているだろうか。

 




最近忙しくなってきたので投稿頻度が少し落ちてしまいます。
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