とあるモブ死神だった奴の話 作:ピューレッド
俺はその夜、まともに寝られなかったのを覚えている。浦原喜助と握菱鉄裁並びに四楓院夜一がソウルソサエティを追放された日の夜だ。ショックというか怒りというか、自分でもなにが何だかわからなかった。
「おい!東雲!貴様何か夜一様から聞いておらぬか!」
夜遅く、眠れずに散歩していると華奢なおかっぱ頭の少女が一人。見かけによらず殺気だった様子で道を塞ぐ。
「こんな夜遅くにどうしたんですか砕蜂さん。砕蜂さんも眠れないんですか?だったら俺と同じですね」
「そんなこと聞いておらぬ。はぐらかすな!私の質問に答えろ!」
荒々しい悲痛な雄叫びが閑静な藍に響く。どうやら夜一さんが居なくなって自分を制御できていないようだ。完全に八つ当たりである。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。こんな夜遅くに大声なんて普通に迷惑ですよ。落ち着いて話をしましょう」
「落ち着いて話などしていられるか!夜一様がいなくなってしまわれたのだぞ⁉︎貴様こそ散々可愛がって頂けたのにも関わらず、何故そのように落ち着いていられるのだ!」
どうやら相当弱っているらしい。まあ、神のように崇め仕えていた主人が黙って消えたとなれば錯乱するのも当然か。それにまだ彼女は若い。心もまだ未熟であろう。普段は冷静で大人ぶっていてもやはり彼女はまだまだ子どもなのだ。
「わかりました。俺の持ち有る限りのことをお話しします。ですが、こんなところで話すのもあれなんで場所を移しましょうか。俺についてきてください」
「いいだろう…早く移動しろ」
砕蜂さんに急かされるまま俺は、あの三人の秘密の場所へと案内する。あいも変わらずやはりこの空間はデカイ。こんな広くて良いところ、やはり俺一人の手に余る。彼女になら教えても、きっと二人は怒らないだろう。
「まさかこんなところに空間があるなんてな」
「ここは夜一さん、喜助さんとの秘密の場所ですから。そう簡単には教えませんよ」
「……っ!何故お前がそんな場所を知っているのだ…」
「今は別にどうだっていいじゃないですか、そんなこと。それよりも早く知りたいんでしょう?彼らのことを」
「まあいい…では知ってること全て話して貰うぞ」
俺は虚化実験のこと、それは冤罪の可能性が高いこと、などなど推測も混じるが知っていることはほぼ彼女に話した。急にこんな情報量を言われてもきついだろうが彼女には話しておくべきだと思う。このままでは変にこじれさせて夜一さんや喜助さんへと行き場のない感情が向けられてしまうだろう。そうなってしまえばその蟠りを解くのは不可能に近くなるだろう。それこそ夜一さんに再び会って誤解を解かない限り…
「そうか…では虚化実験をした黒幕が他にいて、そやつらの陰謀で濡れ衣を
着せられたという訳なのだな?」
「そうだ。あくまで推測の域に過ぎないが…そんなことできる奴は間違いなく隊長、副隊長クラスの実力がないと不可能だろうがな。一体どんな方法を取れば四十六室を欺けるのか、想像もつかないけどね…」
砕蜂さんは押し黙る。その姿はなんとも痛々しく思わず俺は目を背ける。年端もいかない少女が自らの全てを捧げると誓った君主、それが陰謀にはめられ離れてしまったのだ。まさしく放心であろう。自らの生きる意味、指標を失ってどうすればいいか分からない、俺も体験した胸が空になり孤独になる恐怖、それはあまりにも彼女には酷すぎる。だから教えたく無かった。本当は知らぬ存ぜぬを通した方が、ふらふらと躱して逃げた方が良かったのかも知れない。それによって夜一さんから裏切られたという恨み、怒りで乗り越えることができるだろう。しかし、俺は彼女にそんな辛い思いをしたく無かった。彼女の人生を恨み、呪い、怒りで満たしたくなかった。そんな悲しい生き方は俺のようなモブだけでいい。
「……なぜっ、なぜなのだっ!夜一様はなぜ私を連れて行ってはくださらなかったのだ!私は浦原に劣るからなのか!私は己の全てを夜一様に捧げてきた!全ては夜一様の為に生きて、仕えてきたのだ!その忠義が!あの男にっ……!浦原喜助に負けるというのかっ!」
行き場のないトゲが俺へと降り注ぐ。しかし涙でびしょびしょに濡れた弱々しいトゲは優しく俺に刺さり、染み渡る。俺もばあちゃんを亡くし、その感情をどこへやったらいいのかわからなかった。最終的に俺は虚にぶつけ、仇を取ることで気持ちの整理をなんとかつけたが、彼女にはその相手すらいない。今は彼女の激昂の捌け口が必要なのだ。
「夜一さんはあなたを連れて行かなかったのではなく、連れて行けなかったのだと思いますよ」
「っ…」
「夜一さんは相当あなたを大事にしていた、それこそ本当の妹のように。だからこそあなたを危険に巻き込む訳にはいかなかったんじゃないですか?それに、砕蜂さんなら一人でも大丈夫だから、もう既に自分がいなくてもやっていけるだけの力があると確信したから、黙ってここから去ることができたんですよ」
「…」
砕蜂さんは眉を八の字に曲げ、女の子らしく涙をポロポロと地に落とす。泣くまいとグッと力をこもった拳はプルプルと震えているが、止め処なく感情が涙に溶けて溢れることを止めない。声を出さずともわかる。さぞ悔しかろう、寂しかろう、悲しかろう。俺は砕蜂さんを優しく抱き締めると、そっと頭を撫でる。
「うわぁぁぁぁっ!」
まるで自分の心の枷を解き放ったかのような、魂からの響き。ずっと抑えつけてきて、厳しく自らを律してきた強靭な枷、それが今は不要なのだ。一度負の感情で満たされてしまえば、それはより強い負へと転じていく他ない。時にはそれを涙と共に追い出して、切り替えのための新たな空間を作ることも大事であると俺は思う。砕蜂さんみたいに自らを律する力が強ければ強いほど、それは中々できないものだ。弱さを他人に見せること、他人に頼ることができること、今回彼女から欠けてしまった人には遠く及ばないが、俺で良ければ支えていきたい。そう思った。
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今回多くの隊長や副隊長を失い、一時混乱状態になりながらも新たな人事が発表された。二番隊隊長は砕蜂さん。三番隊隊長は菅原路茂。五番隊隊長は副隊長だった愛染惣右介。副隊長は市丸ギン。七番隊は狛村左陣。八番隊副隊長は空位。九番隊隊長には東仙要、副隊長は空位。十二番隊隊長には涅マユリ、副隊長は空位。というような感じでところどころ穴はあるが、だいたいは埋まったと言えよう。俺は卯ノ花隊長との斬術の鍛練、卍解の習得という条件を無事達成し、この大人事異動を機に四番隊を抜けようと考えていた。
「う〜ん、どうしよう。虚化の調査と言ってもどこへ行ったら良いのか…」
すると部屋で熟考する俺の元へ、副官証をつけて割と背が高めな、見慣れた白髪がやってくる。
「茜二。ちょっと聞きたい話があるの。今いいかしら?」
「あ、ああ。急にどうしたんだよ珍しい」
珍しく真剣な顔を向け、対面に正座する純連。思わず俺も座り直し、背筋をピンと伸ばしてしまう。
「卯ノ花隊長から聞いたわ。四番隊から異動するんだってね」
「うん、そのつもり………ごめん。前々から考えていたんだけど、中々人に言い出せなくてね」
申し訳なさそうに謝る茜二に、何も変わらない様子で佇む純連。まるでもっと前から分かっていたかのようだ。
「それは別にいいわよ。で?茜二は何番隊に異動するつもりなの?」
「それが今迷っててさ……」
「そもそも聞いていなかったけれど、茜二は異動して何をしたいのかしら?」
「俺は…まぁ…復讐というかなんというか…ただの自己満足を達成するためだよ。下らないだろ?」
俺は自虐を込めて言葉を吐く。なんだか言っててとても虚しい気持ちになった。一方純連はただ淡々と言葉を聞くのみで表情もあまり変えることはない。
「そう…まあそんなことはどうでもいいの。それよりもついさっき、私は八番隊副隊長へ異動することが決まったわ。だから八番隊には来ないで頂戴。それを言いにきただけよ」
「はい⁉︎それ本当に言ってるの?………なんで純連まで?」
「私は私の道を見つけるためよ。環境を変えて一から剣も磨き直すわ!京楽隊長とは仲がいいし問題なくやっていけるはずよ。本当はどっかの隊長の座を狙ってたのだけれど、一足決断が遅かったみたいね」
割と衝撃的な事実に俺は汗が少し滲み出す。
「なるほどね。でさ、なんで俺に八番隊に来るなって言ったの?」
「言ったでしょう?環境を変えるためよ。だから茜二がいたらそれこそ無駄よ。異動した意味がないわ」
「わかった。八番隊は辞めとくよ。話はそれだけ?」
「ええ。それと所属する隊が決まったら教えなさい。たまには遊びに行ってあげる」
そう言って立ち上がれば、こちらを見ずに背中越しに語る純連。なんだか寂しい気持ちもするが、一生会えないわけではない。時には別れることも必要かもしれないな。
「わかったよ。ちゃんと報告する。仕事サボんじゃねぇぞ?」
「うるさいわね!ちゃんとやるわよ!じゃあね!」
純連はドタドタと部屋を出ていけば途端にしんと静かになる。あの騒がしさが好きだったのだがこれで終わりと思うとなんだか少し思うところはある。
「なんだかなぁ」
最近、誰かと別れることが多くなって思うことがある。別れとは自分を強くする最大の壁だと。寂しさ、悲しみ、虚しさと色々あるだろうが、これらをいかに越えてみせるか、越え方によっては悪くなることもあるだろうし越えられない奴もいるだろう。だがそれを越えた時には新しい価値観や仲間たち、環境など様々な良いものが手に入る。
「東雲五席、砕蜂隊長がお見えになっておられますが」
「ああ、もうそんな時間か」
すでに考え始めて一時間ほどが経過し、砕蜂隊長と会う約束した時間へとなっていた。俺は虎徹三席に部屋に通すよう伝えるとすぐに黄色の帯を巻いて背伸びをしたように見える砕蜂隊長が見える。
「時間丁度ですね砕蜂さん、いえ、砕蜂隊長」
「その呼び方はよせとこの前も言ったであろう。砕蜂で良い」
砕蜂隊長は先程まで純連が座っていた座布団へスッと座る。
「いえ、それは流石に…」
「それになぜ敬語なのだ。茜二は私よりもずっと歳上だろう?立場など気にするな。私が許したのだから砕けた言葉遣いで構わん」
「では……じゃあ砕蜂。今日はどんな用事できたの?」
俺が砕けた言葉遣いで話すと、砕蜂は満足そうな顔をするとすぐさま真剣な顔に切り替える。
「実は一つ頼みがあったな。単刀直入にいうと、茜二に二番隊副隊長になってほしいのだ」
「二番隊副隊長?今副隊長に大前田さんがいるじゃないか。新しい副隊長が必要とは思えないけど」
「それが大前田稀ノ進副隊長は家業を継ぐため引退なさるそうだ。夜一様をずっと陰ながら支えてきたのでな。丁度良い区切りなのだろう。それに虚化?と言ったか。それについての調査は隠密機動を利用した方が恙無く進むはずだ。他のところへ所属先が決まっていたりしていたら諦める他ないが…」
夜一さんの話が出てもしっかり前を向いて話すことができている。どうやらこの別れを乗り越えることができたようで安心した。不安そうな顔をする砕蜂の目を見て探るように俺は言う。
「そうなんだ。まだ所属先は決まってないけどさ…俺でいいの?」
「茜二じゃないとダメだ。隊長には一応就任したがまだまだ未熟。隊長の器、格として至らぬ点が多くあるだろう。しかし茜二がいてくれれば私はまた一歩踏み出せる気がするのだ。私は茜二に沢山助けられてきた。だから今度は茜二の一歩を踏み出す手助けがしたい。虚化とやらの調査に散々利用してくれて構わん。ここまできたら巻き込むも巻き込まれるもない。それにまだまだ私は茜二から学ぶべきこともたくさんあるのだ。どうか近くで私を支えて貰えないだろうか?」
こんな熱い気持ちをぶつけられて動かない程俺はクールではない。いつもは冷静なつもりだが、俺の気持ちもつい熱くなってしまいすぐに固まった。彼女は彼女なりに辛い過去を乗り越えようとしている。俺もいつまでもこんなところでグズグズとこんなところで悩んでいられない。それに、隠密機動を利用できることはかなり有利だろう。彼女を巻き込むことはあまりしたくないと思ったが、彼女も巻き込まれる覚悟で俺を誘ったのだろう。目を見るか限りそれは確かだ。そしてその覚悟は十分だ。それに答えなければ失礼だろう。
「わかった、砕蜂の覚悟は十分伝わったよ。それじゃ精一杯、二番隊副隊長になって砕蜂を支えるよ……いや、支えたい。ここまで言われたらしょうがないしね。俺なんかで良ければだけど」
そうして俺らは、別れを経験しながら新たな道を進み出す。
最近投稿頻度落ちてすみません。少し忙しくなってきたもので。
さて、今回登場した新三番隊隊長の「菅原路茂」って誰やねんって思ってると思うので説明します。菅原路茂(すがわら みちしげ)さんはオリジナルキャラで以前、茜二のルームメイトだった菅原三席の兄です。貴族の菅原家の長男で一番隊三席でした。山本総隊長からの信頼も厚く今回、三番隊隊長に抜擢されました。ちなみに卯ノ花さんと京楽さんは純連を推していたようですが、彼への推薦の方が多かったようです。あまり戦闘シーンとか書いていませんがもう少し増やした方が面白いでしょうか。ご意見を感想の方にくださったら嬉しいです。そろそろ純連の斬魄刀の能力も明かすつもりでいるのですが。