とあるモブ死神だった奴の話   作:ピューレッド

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嫌な予感は意外と当たる

 二番隊副隊長の座について二ヶ月。ようやく副隊長の仕事にも慣れてきたところだ。二番隊というと殺伐とした雰囲気があるのかと思いがちだが、決してそんなことはない。もちろん気が抜けていると言った感じではなく。

 

 「失礼します。おはようございます、砕蜂隊長」

 

 「おはよう茜二。何度も言うが、別に隊長は付けなくても良いのだぞ」

 

 「いいえ。そんな訳にはいきませんよ。公私混同は避けなければなりませんから。それで例の件ですが…」

 

 俺はいつものように手早く仕事を済ませる。これと言って仕事はないのだが時間は多ければ多い程いいだろう。毎日のように副隊長レベルがでなければいけない暗殺などの重要な仕事があっては、たまったものでは無い。

 

 「ふむ。まあ良いだろう。後はこちらでやっておく」

 

 「わかりました。後はお願いしますね。それでは俺はこれで…」

 

 「少し待て茜二。話がある」

 

 俺がそそくさと退がろうとしたところへ声がかかる。

 

 「…?何でしょうか?」

 

 「そう案ずる事はない。三日後に副隊長同士が集まる会議があってな。それを伝えようと思っただけだ」

 

 なにか重要な話しかと思えば大したことではなかった。たまに砕蜂は重要なことを俺に伝え忘れていることがある。まだ慣れていないのだろうがそのお陰でこの間は雀部副隊長に迷惑をかけてしまった。うちの隊長はやはり、しっかりとしているようでたまにポンコツである。

 

 「そのことでしたら大丈夫ですよ。坂上副隊長から既に話は伺っていますから」

 

 「そうか…なら良いが、何故八番隊の副隊長から聞いている?」

 

 「ああ…坂上副隊長とは前に同じ隊にいまして知り合いなんです。今でもちょくちょく会うんですよ。昨晩も会ったのでその時に聞きました」

 

 「……!!」

 

 何かまずいことを言ってしまっただろうか。なんか凄い驚いた顔をして目が泳いでいらっしゃる。

 

 「そ、そうか、そういうことか」

 

 「…?ええ、まあ。じゃ、俺はこれで失礼しますね」

 

 俺は今度こそ約束している場所へと向かうべく足早に執務室を出る。呼び止められたような気がしたがきっと気のせいだ。この先待つのは隊長格との約束。決して遅れる訳にはいかないことだ。約束まで後十分。ゆっくりと十三番隊の元へと風を切る。

 

 「なるほど坂上純連か…私ものんびりと構えている訳にはいかぬか…」

 

 砕蜂は一人になった執務室で、山積みの紙にぼんやりと目を通す。何か硬い決意が籠るその目には、手に持つ紙切れの字など映っていなかった。

 

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 約束は五分前。案外余裕があったと安堵する。十三番隊舎の前に着くとホッと息をつく。

 

 「おう!東雲じゃねぇか。十三番隊に何か用か?」 

 

 「あ、志波副隊長。こんにちは。今日は浮竹隊長にお呼ばれされたのですが」

 

 現れたのは実質、十三番隊隊長と言っても良い志波海燕。俺が副隊長になってから、色々お世話になっている人だ。人柄もよく、俺の尊敬できる人の一人でもある。

 

 「ああ!そんな話隊長がしてたっけ。今思い出したぜ!俺が案内してやるよ。ついてこい!」

 

 門を開けて進む志波副隊長の背を、浮竹隊長に会う前にズレた副官証をつけ直し、服装を正しながら追いかける。

 

 「どうよ東雲。もう副隊長には慣れたか?」

 

 「そうですね。しばらく卯ノ花隊長の弟子という特殊な形でやっていたので。隊長の補佐という形では副隊長とあまり変わりなかったですからね」

 

 「そいつは良かった。オマエんところ、隊長が色々と経験浅いだろ?だから少し気にかけていたんだがオマエがいれば大丈夫そうだ」

 

 やはり志波副隊長は心遣いができ、死神の手本となるような人格者だ。改めて感心している間に、志波副隊長は足を止める。どうやら浮竹隊長のもとへ着いたらしい。

 

 「隊長〜!東雲つれてきましたよ!」

 

 「おお、来たか。入ってくれ」

 

 戸を開け中を見れば布団から起き上がった浮竹隊長がいる。どうやらとても病弱らしく一日中寝たきりも珍しくないようだが。今日は起き上がって大丈夫なのだろうか?

 

 「起き上がって大丈夫ですか隊長?」

 

 「ああ、大丈夫だ?今日は調子が良くてな。さあ、早く入ってくれ」

 

 俺は失礼しますと声をかけ入室するが、志波副隊長は入らない。

 

 「じゃ、俺はこれで失礼しますよ」

 

 志波副隊長はそのまま戸を閉じ、部屋は俺と浮竹隊長の二人だけとなる。

 

 「お久しぶりです浮竹隊長」

 

 とりあえず気まずいので挨拶をしてみるがやはり隊長格となると緊張する。浮竹隊長は長いこと隊長をやっているからか、床に伏せていてもなんだか貫禄を感じさせる佇まいをしている。

 

 「そんなに緊張するな。わざわざ来てもらって済まないな。だがこれは大事なことなんだ」

 

 緊張するなと言われましても大事なことらしいので緊張しない訳にもいかない。俺はそんなにメンタルが強くない。むしろ弱い方である。

 

 「そうですか。俺なんかに大事な話なんてあるのですか?」

 

 「ああ、東雲副隊長の鎖結と魄睡に憑いているやつに関してだ」

 

 

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 月も雲に隠れ、真黒に染まった静かなはずの夜。だが今日は少し事情が違うようで何やら騒がしかった。

 

 「こんばんは藍染隊長、市丸副隊長。こんなところでなにを?」

 

 新三番隊隊長の前には、闇に紛れて二人の死神が立っている。そしてその足元には死覇装のみが不自然なくらい綺麗に取り残されている。

 

 「どうも、菅原隊長。私はなにもしていませんよ。最近、不自然な事象が増えているのでね。調査中に死覇装のみが取り残された不自然な事象に遭遇し、報告しようとしていただけ、ただそれだけのことです」

 

 「よくもそんなぬけぬけと言えたものだ。貴様の所業は全て見ていたぞ。改めて問うが、そこで何をしていた?」

 

 菅原は警戒を強め斬魄刀に手をかける。貴族らしい格式ばった立ち姿は決してぶれず、ただ敵へと目線の刃を突き刺す。その霊圧は隊長格としても頭ひとつ抜き出ており、総隊長が目をつけるのも分かる程だ。

 

 「あかん、バレてもうた。ここはボクが……」

 

 「待てギン、手を出す必要はない」

 

 藍染が手を横にかざせば、素直に市丸ギンは斬魄刀から手を引くと後ろへと退がる。

 

 「何をしていたのか聞いているのだ!早く答えろ藍染!」

 

 なかなか答えない藍染に痺れを切らした菅原は、珍しく大きく叫ぶ。そこには怒りが篭っており、荒々しく乱れた霊圧が愛染と市丸に削り取るようにぶつかる。しかし顔色ひとつ変えずに立つ藍染は、むしろ落ち着いているようだ。

 

 「キミが知らなくても良いことだ菅原隊長。それよりも少し、実験に付き合ってもらおう」

 

 「…なに?」

 

 「案ずることはない。理論上は先程見たようにはならないはずだ」

 

 「………!!!」

 

 菅原はすぐさま斬魄刀を抜いて愛染に斬りかかる。型通りの、最短で最も力が加わる角度の突きを心臓めがけて突く。並の副隊長レベルならば回避不可能な一撃必殺の突き。しかしそれを余裕で交わされれば、背に反撃の一閃を藍染も放つ。

 

 「ふっ……!」

 

 交わしきれずに被弾するも傷は浅く、致命の一撃を上手くかわせたようだ。

しかし、白の袖なしの羽織が斜めに切り裂かれ、鮮血が散る。

 

 「この突きを躱すことができたのは貴様が二人目だ藍染」

 

 「そうか、これが菅原流剣術の必殺の突き。中々鈍いじゃないか。私には止まって見えたぞ」

 

 「そうか。私もまだまだ修行が足りぬか。隊長になって自惚れていたのかもしれんな」

 

 菅原は後ろで一つに結った綺麗な黒髪を揺らしつつ息を整える。その額には汗が滲み出していて肩が激しく上下している。

 

 「では次は手加減なしだ。『遅れろ 玉響』」

 

 「なるほど。その身の丈ほどの長い薙刀が菅原隊長の始解。流石は隊長格といったところか、不安定な霊圧が見違えたな」

 

 「そんな呑気に喋ってて良いのか?」

 

 刹那、愛染は今斬りかかりに菅原が地を蹴ったように見えた。特に速さは変わらず余裕で対処できると思っていた。しかし、愛染の腹には薙刀の切り傷が横一閃。すぐさま距離を取ると再び自分の腹を確認する。

 

 「くっ、どういうことだ?何故私は斬られている…」

 

 確かに身体に刃は届いていなかったはずである。見間違えた訳がない。

 

 「貴様の見た光景は間違ってなどいない。ただ、視覚の情報が遅れて入ってくる。それだけだ」

 

 すると再び、菅原は地面を蹴って離れた距離を詰め直す。

 

 「だが、さっきの一太刀でタイミングは見切った!先ほどの一撃が私の最後の……!」

 

 藍染は先程のタイミングを考慮し斬魄刀を構えた。しかし、再び身体に傷がつく。

 

 「ちなみに言い忘れていたが、どのくらい遅れて視覚情報が入ってくるのかは私の手の中だ。この始解と対峙したが最後、私の斬魄刀は決して受けられないし避けられない」

 

 「なるほど実に厄介な能力だ。そのリーチの長い薙刀も合わさってまさに回避不可能な一撃だ」

 

 藍染は前屈みで傷を押さえながら、だが一部の隙も見せずに言う。

 

 「さて、貴様に問おう。今貴様に見えている私は、どのくらい過去の私であるかを…」

 

 刹那、藍染の腹に薙刀の刃が突き刺さる。しかしそれを認識する前にはもう既に気絶していたであろう。

 

 「すまんな、少し速すぎた。貴様の解答を聞けずに……残念だよ」

 

 続いて菅原は市丸の方へと移動しながら語りかける。

 

 「貴様のところの隊長は私の特殊な鬼道が体内で作用し、気絶している。死んではいない。後でゆるりと悪事を聴こう」

 

 市丸は上司が死んだのにも関わらず微動だにしない。あまりにも不自然で何か裏があるのだろうか勘繰ってしまう。

 

 「あかんなぁ菅原隊長。よそ見してたら足元すくわれるで?」

 

 「何を言っているのだ、よそ見などしていない。次は貴様の番だ市丸よ、護廷十三隊の恥めが。心の底から後悔するがいい!」

 

 菅原は斬りかかろうとするがしかし、それは叶わない。いつの間にか背後から斬魄刀に貫かれている。

 

 「なぜ………だ、藍染……!なぜ貴様は無傷でそこに立っている…!」

 

 「だから言いましたのに。よそ見はあかんって」

 

 斬魄刀が引き抜かれると血が吹き出す。後ろから心臓めがけ一突きである。耐えられるものなどいないだろう。

 

 「素晴らしい能力だったがしかし、私の鏡花水月の前では無意味だ」

 

 「なん…だと…⁉︎」

 

 「能力は完全催眠。菅原隊長、貴方の玉響も素晴らしいが所詮、私の鏡花水月の下位互換に過ぎないのだよ」

 

 菅原路茂は息絶え絶え。このままではもうじき死ぬであろう。

 

 「さて、隊長格の魂魄だ。再び良い実験が出来ることだろうね」

 

 その日以降、菅原路茂は行方不明のままである。

 

 

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 最近、三番隊隊長の菅原路茂が行方不明となった。俺も含め、二番隊がかなりの人数をかけて捜査しているがなんの痕跡もない。一ヶ月が経ってもなお見つからないとなれば、誰かに殺されたという線が確実だろう。しかし菅原隊長は、隊長格の中でも一二を争霊圧の高さだ。殺せるのは隊長格しかあり得ないだろう。

 

 「どうだ茜二。何かわかったことはあるか?」

 

 「いいえ、何も。残念ながらこれ以上捜索しても何も見つからないかと」

 

 俺は目を伏せ砕蜂隊長に報告する。一ヶ月間くまなく探しても手がかりはなし。相当手の込んだ計画的犯行と見て間違いない。

 

 「わかった。総隊長殿のところへ行く。しばらく頼んだ」

 

 「わかりました」

 

砕蜂隊長が目の前から消えると俺は執務室へ入る。気持ちを切り替えて仕事をやろうと気を引き締めるもやはり集中できない。何やら嫌な予感がしてたまらないのだ。唯の勘だが馬鹿にしてはいけない。こういうものは意外と当たるものだ。

 

 俺は色々と悶々としながらひたすらに筆を動かし続ける。心ここにあらずとはまさにこう言ったことである。

 

 

 

 




菅原隊長、即退場になってしまいました。ちなみに鏡花水月の始解は藍染が副隊長の時に一度目撃しています。それを考慮した上で藍染は菅原さんをおびき出したという訳ですね。斬魄刀の説明を一応載っけときます。

始解 遅れろ 玉響(たまゆら)

約180センチの薙刀。対象の視覚情報を最大十秒間、遅らせることができる。

卍解 ???

改めて見てみると、シンプルで結構チート能力ですね
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