とあるモブ死神だった奴の話 作:ピューレッド
現世。それは三つに分けられた世界の一つ。死神の仕事の一つである魂のバランスを取ること。それを行うのが現世であるが、どうやら最近、物騒なことが起きているらしい。
「砕蜂隊長、俺が楽しみに取っておいた塩大福知りません?」
「それよりも話がある。先日報告を受けた鳴木市のことなのだが…」
「あの、俺の塩大福は…」
二番隊執務室には、キョロキョロと塩大福を探す茜二と何食わぬ顔で話を進める砕蜂がいた。どうやら微妙に二人の話題が合っていないようで。
「中規模の都市なのだが、三ヶ月前に十番隊の担当死神が事故死していてな。未だうちの隠密機動が原因調査中なのだが……」
「いやその口の周りの粉!絶対たべましたよね⁉︎なに飄々と話を進めているんですか!澄ました顔しててもバレてますから!」
茜二は大きな声で話し中の砕蜂に詰め寄る。彼は元々こんなことで大声を出すタイプではないのだが、こういったことはもう既に10回目。いくら仏といえども当然の反応である。
「なんだ茜二。大事な話をしているのだぞ?もっと集中して聞かんかたわけ!」
「えっ…⁉︎なんで俺今怒られてるの?おかしいよね?って今更口拭いても遅せーよ!やるならちゃんとやれよ!」
口を拭う砕蜂に珍しくツッコミをきめる茜二。これはなかなかレアな光景だ。
「で、話を戻すが……」
「はぁ、もういいですよ。どうぞ続けてください。」
「先程も話した鳴木市でな、先月再び十番隊の担当が原因不明のまま二名、死亡しておるのだ」
「………」
二人は先程までの雰囲気を一変させ、互いを見つめ合う。
「さすがこれだけ不自然なことが続くと、裏があるようにしか思えんのだ」
「で?その話をわざわざ俺にしたということは、俺が調査に向かえということですね?」
「さすが私の部下だ。話が早くて助かる」
「しかし何故二番隊が?鳴木市?でしたっけ。そこは十番隊の管轄では?」
茜二は首を傾げて椅子に座り直すと砕蜂をじっと見つめる。
「そうだ。本来ならば十番隊が向かう筈なのだが今回は例外だ。四十六室が絡んできているのでな…」
「はぁ?なんでこんなことに四十六室が首突っ込んでくるんですか。何かおかしいですね」
茜二に続き砕蜂も訝しげな顔を浮かばせる。本当は行かせたくなかったのだろうがしかし、四十六室の命令となれば仕方がない。
「私もそう思うのだがな…故に茜二。怪しいからこそ、お前の実力を見込んで頼んでいるのだ」
「そういうことであればしょーがないっすね。わかりました、じゃあ今夜、ご飯奢ってください」
「なっ⁉︎なんだと⁉︎今夜ってお前……ま、まだそういうのは早くないかと思うのだが…」
刹那にして妄想を次々と繰り広げる砕蜂は、クールな顔を真っ赤に染め上げモジモジしだす。しかし、そのようなことは超絶天然を発動させた茜二に効くはずもなく話がずれていく。
「…?何を訳わかんないこと言ってるんですか。俺が楽しみに取っておいていた塩大福も食べて。ご飯くらい奢って貰わないと話にならないですよ」
「そ、そうか…わかった。こっ、今夜は料亭を取っておこう。私もそろそろ身を固める頃合いなのかもしれぬ。覚悟を決めておこう」
「…?まあよくわかりませんが頼みましたよ。では、現世に行ってきます」
茜二は部屋から出て行くと、取り残されたのは乙女の顔をした砕蜂が一人。
「つ、ついに⁉︎ついになのかっ⁉︎ど、ど、どうしようか。こんなことは初めてだ、鼓動が鎮まらぬ。やはり流れ的に私の屋敷に近いほうが…いやしかし…!」
そしてこの勘違いは、今後何十年も解けぬままである。
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俺が最後に現世へ行ったのは真央霊術院の実習以来だったはず。地味に緊張するが帰ってきた後には砕蜂の奢りで美味いご飯が待っている。そう考えれば幾らか気持ちは楽である。それよりもご飯に誘ったくらいであんなに動揺するとは思わなかった。よっぽど男に耐性がないのだろうか?
まあまあな天然を発動させながら穿界門へ向かう途中、五番隊隊長の藍染惣右介に遭遇する。茜二は気付くのが遅れ、慌てて頭を下げる。
「こんにちは。お久しぶりです藍染隊長」
「やあ、茜二くん。久しぶりだね。そんな畏まらなくてもいいよ」
そう言われて茜二は頭を上げると、意外と高い身長を見上げる。
「あれ?今日は市丸副隊長はいないんですか?」
「ああ。ギンなら今ごろ隊首試験を受けているところだよ」
「そうなんですか⁉︎すごいですね。まだ護廷十三隊に入隊して少ししか経ってないのに。やはり藍染隊長の指導がいいのでしょうか?」
「そんなことないさ。全てギンの実力だよ。僕はほとんど何もしていないからね」
藍染は腕を組み、ハハハと笑いながら謙遜する。茜二はその腰が低く、隊長になったとしても謙遜し続ける姿勢に藍染惣右介を慕っていた。
「ところで茜二くん。こんなところでどうしたのかな?何か仕事でもあるのかい?」
「はい。今から中央四十六室の命により現世へ向かうところなのです」
「そうか…足止めして悪かったね。無事に帰ってこれることを願っているよ」
「はい!ありがとうございます。では俺はこれで失礼します」
茜二は藍染に一礼すると急いで穿界門へと走り出す。割と余裕を持って隊舎を出たのだがついつい話し込んでしまったと反省する。
「はぁはぁ…なんとか間に合ったな。予定時刻より一分前」
茜二は担当死神へと用件を話し、穿界門の中へと入って行く。
「懐かしいなぁ断界。数百年ぶりってやっぱり緊張するよな…って地獄蝶ついてないじゃん!なんで⁉︎」
地獄蝶とは、死神が伝令などに使う蝶であり、現世に行く時などには必須である。現世では何が起こるか分からない。有事の際に連絡ができなければ死亡の確率がグッと高くなる。
「全く。普通穿界門の担当、新人っぽかったしな。でも地獄蝶つけ忘れるって相当ドジなんだな」
本来ならば戻るべきであるが、一度戻ってしまえば手続きが色々面倒だ。しかし、早く調査を終わらせて豪華な食事にありつきたい茜二は、そのまま現世へ向かうことにしたのだった。
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「藍染様。予定通りに彼の誘導に成功しました」
「よくやった要。あとはギンが戻ってきてから私たちも現世へ向かうとしようか」
モニターの光だけが照らす暗い部屋の中、九番隊隊長の東仙要と五番隊隊長の藍染惣右介が密談する。モニターには現世に降り立った茜二の姿が映っており、口角を上げながら見る藍染の表情は不気味だ。
「それと例の虚についてですが、いつでも準備はできております」
「そうか…だが少し早いな。もう少し様子を見てからにしよう」
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久々の現世に降り立ち、テンションが上がりつつある茜二は大きく伸びをすると早速担当死神が駆け寄ってくる。
「お疲れ様です東雲副隊長。先日、こちら鳴木市に赴任しました竹添幸吉郎と申します。副隊長にわざわざご足労いただいて感謝の気持ちしかございません」
「いや、別にいいんだよ。中央四十六室の決定だし俺の意思って訳ではない」
担当死神の竹添は膝をついて礼をすると茜二は手を振り諫める。こういったことに慣れていない茜二として居心地が悪くて仕方がないのだ。
「じゃ、あとは俺に任せておいて。一旦鳴木から離れておきなよ。恐らく誰かを庇いながら戦って勝てる相手ではないだろうしね。あ、あとさ一個頼みがあって……」
「分かりました、ではそのように。はっ。では失礼します!」
竹添は急ぎ足でこの場から離れると、茜二は一旦空高くへ昇る。あたりを見渡すが特に変わった霊力はなし。至って普通な街であった。
「ったく。暇すぎて眠くなっちまうなこりゃ。天気が良ければ危なかったぜ」
今にも雨が降りそうな空を見上げてジメジメとした空気を吸う。雨の日特有のなんとも言えない風情のある匂いが鼻腔をくすぐり、なんだかやる気が無くなってしまう。晴れも好きだが曇りも好き、雨だけは嫌いな茜二は降らないことを祈るばかりだ。
それから一時間ばかりが過ぎても何も起きず。そろそろ本格的に眠くなってきたその頃、空の灰を見上げた頬に一滴の雫が当たって弾ける。
「チッ、本当に降って来ちゃったよ。なんで今日に限って雨なんだか。運が悪すぎやしませんか?」
茜二は、次々と空で堪えきれなくなった雨をその身に受けつつ、一旦雨宿りできそうな場所をキョロキョロと不慣れな目つきで探す。
「やっばいな、めっちゃ寒くなって来た。確かまだ九月くらいだったけ?なんでこんな寒……!」
独り言を呟く茜二の前には、いつの間にか白い詰め物の様なもので穴の塞がった虚が一匹、立ち塞がっていた。頭には大きく巻かれた角が一対。面も身体も全身真っ黒な異形の虚は前にも見覚えがあった。違う点と言えば角と色、それに腕が刀の様に細く鋭くなっているところだろうか。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァァ!!!!!」
「うおっ……!なんだよ急に⁉︎バカでかい霊圧出しやがって…!」
茜二は急いで距離を取るべく後ろへ跳躍すると、追って虚は突っ込んでくる。しかし改造虚との戦闘経験がある茜二にとっては予想通りの動きであった。
「……っしゃオラ!とんでけっ!」
刀の腕をギリギリで躱して腕を掴むと、その勢いのまま斜め上へと投げ飛ばす。かなりの速さで宙を舞う虚は風圧で上手く動けない。
「よし。こんぐらい上に来れば少しは思い切って戦えるな」
「………」
虚は寡黙で叫ばず静かに茜二へ斬りかかる。その動きは、以前戦った改造虚を遥かに上回っていた。さらに雨によって死覇装が重くなっているにも関わらず、茜二は軽々と斬魄刀で二刀の連撃をいなして腹に蹴りをぶちかます。
「卯ノ花隊長と比べれば、お前の剣はまるで赤子の様だな」
しかし茜二は引っ掛かった。なぜかと言えば虚の太刀筋がまるで死神の様であったからである。以前は直線的にただ突進してくるだけであったが、今回は武道の心得がみえる。その駆け引きを虚とやるとなれば非常にやりづらいものであった。
「オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ォォォォォ…!」
「……どんだけ霊圧あげれば気が済むんだよっ!」
霊圧を急激に上昇させる改造虚の隙をつき、懐へ入った茜二は思い切り斬魄刀を斜めへ振り上げる。
『閃け 九泉雷公』
自身の身体に電気を這わせ、意図的に莫大なエネルギーを発動させた筋肉を唸らせる。ギリギリを攻めた強化で発生させた斬撃は、改造虚の右腕を切り裂き、さらにその後発生した剣圧の爆風によって吹き飛ばす。
「…っしゃ危ない。ギリギリ攻めすぎて終わったかと思ったわ」
上手く制御し自身の身体への負担を軽減した茜二は、吹き飛ばされた改造虚を見ると丁度飛んできた虚閃を跳び上がって避ける。
「…っと!わかってるよ虚閃を使うことは」
「……ォォォォォ」
すでに切られた腕が止血されている虚は、静かに茜二を見据えながらもまだまだ霊圧を上げていく。それはもうすでに隊長格を超えた霊圧である。
「まじかよ。流石に腕一本じゃ大人しくならないよな。では次は左腕も貰い受けようか」
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「なんや彼、結構やるやないですか」
細く目を尖らせ、黒い外套を纏った市丸達三人は茜二と改造虚の戦闘を食い入る様に観察している。
「いやまだだ。この虚、『ブラック』は隊長格の魂魄から作り出された最高傑作。奴の力はこんなものではない」
「そうだね。あの虚はまだ霊圧を半分程度しか出していない。しかし副隊長程度に負けるようならあの『ブラック』も失敗作ということだ。浦原喜助のおかげでこんなにも近くて実験の成果が見られるのだ。『ブラック』がどのような戦いをするのかゆっくり見ようじゃないか」
藍染は目深に被ったフードをギュッと掴み爆風を凌ぐと、研究者の顔で彼らを見続ける。
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「ハァハァ……ちょっ……お前、まだ霊圧上がんのかよ……ハァハァ」
「………」
しばらく戦闘は茜二優位に続き、身体に多くの傷を刻みつけるも弄ぶかの様にどんどんと段階的に霊圧を上げていく改造虚は、明らかに強くなり続けており、茜二を追い詰めはじめていた。茜二は、どことなく虚が戦闘を楽しんでいるように見えた。
「ったく。はやく蹴りをつけないと、俺がバテて死んじまう」
能力的に長期戦に向かない九泉雷公の能力により、茜二の身体は疲れ始めていた。一方虚は上がるばかりで未だ底を見せていない。このままでは確実に茜二がズルズルと負けていくだろう。
「限定解除もなるべく避けた方がいいしな。悪いがお楽しみもここまでだよ。俺も彼女らも長くズルズルと戦うのは嫌いなんだ」
「グルルルゥゥ」
警戒する改造虚に向け斬魄刀を両手で握り直すと、実戦で初の彼女達の名前を呼ぶことにした。
「卍解」
少し地の文を変えてみました。