とあるモブ死神だった奴の話   作:ピューレッド

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正念場

 『卍解 八裂雷』

 

 大雨が降りしきり身体が冷えてくる中、茜二は卍解する。刹那、これまでとは桁違いの莫大な量の雷が茜二を包み、その煌々たる光で茜二を直接見ることはかなわず、虚は隻腕で目を覆い隠す。

 

 「グルルルゥゥ」

 

 「カッコいいだろ?この雷の羽衣…って虚に話しても分からないか」

 

 やがて光が収束すると現れたのは雷の羽衣を纏っているが、それ以外は何も変わらない茜二。霊圧は確かに上がってはいるがせいぜい二、三倍と言ったところであろうか?かなり派手な演出の割にはしょぼい卍解である。

 

 「グオ"オ"オ"オ"オ"オ"ォォォォォ」

 

 突然咆哮したかと思いきや、更に力の上がった虚が茜二に接近する。しかし茜二はそれを避けずに虚に腕を噛ませると、血が雨に滲み出す。

 

本来ならば噛みちぎられているであろう腕にはピリピリと電気が走っており、身体の防御力が上がっているようだ。そのお陰で傷は浅く、元四番隊である茜二ならば治療にそう手間取らないだろう。

 

 「っ……!俺の腕は美味しいか?楽しいお食事もそこら辺にして、とっととまる焦げになって貰うぜ!」

 

 茜二は斬魄刀を虚の胸に突き刺すと、唯一彼女達が教えてくれた技の名を叫ぶ。

 

 「筆頭一色、大雷!」

 

 刹那、刀身から放たれた凄まじい紫色の電撃が、茜二ともども虚を襲う。虚はあまりにも莫大な電撃をその身に受け、身体が痺れてなんの抵抗もかなわずに、ただただ黒い身体を更に黒焦げにするのみ。

 

 「大雷はどうだ怪物!これは唯一、彼女が教えてくれた技なんだけどさ、雷の出力はこれまでとは非にならない。何せ自ら浴びる強化のための雷ではなく、敵を滅するための雷なんだからな!これでもまだ最低出力なんだけど、貴様にはこれぐらいで十分だろ?」

 

 正しくはまだ最低出力しか放てないのだが、こんな時くらいカッコつけても罰は当たるまい。

 

しかし虚も最後の抵抗と言わんばかりに自らを爆弾に変え、一瞬にして大きく膨張する。

 

 「……って、マジかコイツ⁉︎まさか自爆するつもり…」

 

 気づいて無理矢理出力をあげようとするも、この至近距離からでは何も出来ず、自身の卍解の威力も相まって大爆発を喰らう。卍解での被害を避ける為上空で戦っていたのが不幸中の幸いだろうか、現世の被害を避けることが出来た。

 

 「クソがっ!」

 

 茜二はボロボロの焼け焦げた死覇装から煙を巻き上げながら、地面へと自由落下する。まさか自爆するとは思わずに、安全策で至近距離から大雷を放ってしまったが運のツキであった。

 

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 大雨が落ち、先程まで雷の轟音が響いていた鳴木市の上空で黒いフードを被った三人は茜二の戦いを見届けていた。

 

 「これは予想外だな。まさか彼が卍解に至っていたとは。限定解除がされてないとはいえ中々の威力の卍解だ。流石に『ブラック』も耐えきれないか」

 

 「しかし藍染様、自爆したということは標的虚化だけじゃない…最終段階の"転移"まで行ったということです。予定は大幅に早まりましたが目標からはそれていません」

 

 「ああ、そうだね要。まさかこんなにもはやく標的を選ぶとは思わなかったがこの予想外は良いことだ。予想外の出来事とはつまり『我々が予想できなかった出来事だと言うこと』だ……面白い」

 

 煙を巻き上げつつ落下してゆく『選ばれた者』を見て藍染は微笑する。

 

 「死した死神、それも隊長格の死神から容作られた虚化が、敢えて格下の副隊長を選んだ。その先を見てみたいと思わないか」

 

 藍染惣右介、東仙要、市丸ギンの三名は、煙の出元である茜二の場所へと歩みを進める。

 

 

 

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 「イテテテ。今日ほど雨の日と四番隊に入っていて良かったと思う日はないな」

 

 なけなしの霊力で身体中の火傷を治していく茜二。雨で皮膚が冷やされ、多少は治りが早くなっている。

 

この全身の火傷は自爆によるものだけではなく、虚が爆発する直前に焦って大雷の出力をあげてしまい、自らが耐えられる雷の威力を上回ってしまったことにより、更に火傷がひどくなっていた。

 

調整が狂うと自らの身も滅ぼしてしまう難しい卍解だ。それ故に、彼女ら全員の名を聞くまでにかなりの時間を要するのは仕方ないことだろうと、茜二はつくづく思い知る。

 

 「よし、なんとか最低限歩けるようにはなったけど…。はやく帰って砕蜂のとこ行かないと。予想以上に時間掛かっちゃったからな。帰った頃にはもう夜遅くて砕蜂に怒られちゃうかもな」

 

 茜二は濡れた斬魄刀を持ち直すと、尸魂界へと戻るため解錠しようと構える。しかし、それは叶わず後ろから茜二の胸に斬魄刀が突き刺さる。

 

 「ぐっ……誰…だ⁉︎」

 

 「やあ茜二くん、さっきぶりだね。私の最高傑作の実験体を倒してしまうとはさすが卯ノ花隊長の弟子、というところかな?」

 

 「あなたは……⁉︎ 藍…染…隊長⁉︎」

 

 茜二は血を吐きながらも振り返り、黒いフードの中を覗いた。

 

 斬魄刀を持っていたのは紛れもない藍染惣右介であり、茜二は目を疑うが黒いフードの下には特徴的な眼鏡と優しそうな顔が隠れている。

 

 「ぐっ…ッ!どう…して……こんなことを…⁉︎」

 

 「それを答えたところで意味はない。君はここで『虚化』し、もう二度と尸魂界に戻ることができないのだから」

 

 「虚化…だと…⁉︎黒幕は貴様だったのか藍染!」

 

 やっと追い求めてきた黒幕を目の前に、痛みを忘れ叫ぶ茜二だが藍染は斬魄刀を引き抜き茜二のあたりに血を撒き散らす。

 

 それにより茜二はすぐさま痛みを思い出し、血飛沫が舞う貫かれた胸の穴を抑える。治療しようと試みるが先程の治療でほぼ霊力は空であり、傷が深くて霊圧が定まらない。茜二は力が入らずに道にうつ伏せに倒れ真上の藍染を見上げる。

 

 「ぐぅっ……っ。クソたれがぁぁ!」

 

 「残念だがどう足掻いてももう遅い。仕込みはもう済んでいるのだ、後は時間の問題だよ。その傷では尸魂界に戻ることはおろか立つことすらままならないなだろう。そういえば地獄蝶もいないんだったね。だから連絡も取れないだろう?」

 

 「なぜ貴様がそれを⁉︎」

 

 「驚くのは無理はない、実は前に茜二くんに伝えた能力ではなくてね。私の鏡花水月の真の能力は完全催眠だ。そしてあそこで君に地獄蝶をつけ忘れていた死神は私だった。それだけのことだ」

 

 藍染は斬魄刀を収めると振り返って歩き出す。しかし茜二は、血のついた手で藍染の足首を掴むとグッと逃さぬよう握りしめる。

 

 「待てよ藍染。逃すと思ってんのか?」

 

 「やれやれ諦めの悪い…言ったはずだ。もう君には何も出来ることはないのだ。たとえ足止めしたとしても君のその身体でなんとする?」

 

 藍染は容易に手を振り払って見せると解錠し再び進み出すと、遂に茜二の口から白い液状の仮面が吹き出してくる。

 

 「ぐア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァァ!!!」

 

 「どうやら虚化が始まったようだね。一つ忠告しておくが、興奮状態だと虚化のスピードは早まる。長生きしたいのなら何もしないことをお勧めするよ」

 

 「藍染惣右介!ぐっ…!いつか…いつかきっと!お前をこの手で叩っ斬ってやる…!」

 

 「………」

 

 藍染は無言で現世を去ると残されたのは、辺りを自身の血海で満たした死にかけの死神一人。もう息が弱く、大量出血と大雨が相まってその身体は寝そべってる道路の温度と同じだ。

 

 「…寒いなクソっ…こんなところで…」

 

 身体を動かそうとするもいうことを聞かずただ虚化が進むのみ。表面上ではまだ助かる手立てはあると自信を鼓舞するが、心の底では万事休すと思っていた。

 

しかし突然に雨が止んだかと思いきや、赤の番傘をさした胡散臭い奴が立っていた。しかしその声はなんとも懐かしく、なぜか助かると思ってしまう声だ。

 

 「おや?お困りみたいっスね〜。その虚化、治療して差し上げましょうか?」

 

 

 

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 「流石に遅いな…もうとっくに帰ってきても良い頃合いなのだがな」

 

 砕蜂は一人、仕事を片付けた執務室で茜二の帰りを待っていた。今夜は、茜二の好きな肉が美味しい店の席をとっていて、自身は肉が苦手でその店には行ったことがないのだが、茜二の為に急いで用意した。そして何より自分の屋敷から近いことが大きな理由だ。

 

 「茜二程の実力があれば現世の調査任務など苦戦するはずがないのだが、やはり何かあったのだろうか?」

 

 しかし、心の中が不安に苛まれながらも、茜二の帰りを待ち続ける砕蜂の嫌な予感は的中する。

 

 「失礼します砕蜂隊長!緊急の連絡です!」

 

 焦った様子で汗を垂らしながら執務室の前に控える裏邸隊。その表情から余程のことだろうということが伝わってくる。

 

 「なんだ騒々しい、あまり大声を出すな。早く連絡事項を話せ」

 

 「はっ。申し上げます!技術開発局より、二番隊副隊長の東雲茜二殿の霊圧が消失したとの連絡がありました!」

 

 「なに⁉︎茜二の霊圧が消えただと⁉︎その情報に間違いはないのか!」

 

 「は、はい。確かに十二番隊涅マユリ隊長からの報告でございます」

 

 その言葉を聞いた瞬間、砕蜂は十二番隊へと飛ぶように向かう。二番隊隊長、隠密機動総司令官としての実力を余すことなく発揮して、ただひたすらに夜の瀞霊廷の空を翔る。

 

 (ふざけるな!茜二の実力は私よりも遥かに上、並の隊長格よりもよっぽど強いのだぞ⁉︎その茜二が現世で負けるなど有り得ない!何かの間違いに決まっている!)

 

 砕蜂はあっという間に十二番隊舎に到着すれば息を整え、あくまで平静を装い門番へと話しかける。

 

 「二番隊隊長の砕蜂だ。現世で二番隊副隊長の東雲茜二の霊圧が消失した件について、至急涅に取り次いで欲しい」

 

 「そ、砕蜂隊長⁉︎少々お待ち下さい!」

 

 「その心配はないヨ。初めから君が来ることは予測していたからネ。おい、そこの。キミはもう退がっていいヨ」

 

 「く、涅隊長⁉︎失礼します!」

 

 門番の隊士が退くと砕蜂と涅が対峙する。先程も言っていたが、涅は砕蜂が来ることは予め分かっていたようで、門のすぐそばまで来ていた。

 

 「涅!茜二の霊圧が消えたとはどういうことだ!一体現世で何が起こったというのだ!」

 

 「まあまあ砕蜂隊長。少し落ち着きたまえヨ。そんなに急かさずともちゃんと話してやるヨ」

 

 「……っ!」

 

 熱くなりすぎた砕蜂は少し心を落ち着かせる。今取り乱しても何も変わらないのだと、自分に言い聞かせる。

 

 「実は今回の件においては私も独自に調査していたのだがネ、それでいくつかわかったことがあるんだヨ。それはここ数ヶ月の間、鳴木市で担当死神の事故死を引き起こしていたのは改造された虚、ということだヨ」

 

 「また改造虚だと⁉︎一体奴はなんなのだ…!」

 

 「おや、改造虚について何か知っていることでもあるのかネ?」

 

 涅は科学者としての興味がそそられたのか、一気に砕蜂に詰め寄ると目をギラギラさせる。

 

 「いや、特にこれといって情報はないのだが、以前に一度遭遇したことがあるだけだ。それより本当に茜二は消息を絶ったのか⁉︎茜二は生きているのか⁉︎」

 

 砕蜂は焦らしに焦らされ遂に我慢の限界のようだ。涅の回りくどい言い方には相当焦ったさを感じる砕蜂は思わず涅の胸ぐらを掴む。

 

 夜一に続き茜二まで、自らが愛した者を失おうとしているところなのだから、取り乱すのは仕方がないだろう。

 

 「ギャーギャー煩いヨ!少しは頭を冷やさないかネ⁉︎この私がわざわざ話してやるのだ!少しは黙って聞く気にならないのかネ⁉︎」

 

 「だったら早く結論を言え!茜二は生きているのか⁉︎」

 

 「そんなに知りたければ教えてやるヨ。東雲茜二は死んだ可能性が高いネ」

  「…なん…だと⁉︎」

  

 砕蜂は涅の胸ぐらを離して地面に座り込む。再び親しい者を失った砕蜂に、これは少々キツい宣告だったのかもしれない。

 

 「詳しい情報を言うと東雲は改造虚に殺されたのではない。観測した霊圧のデータを見るに東雲は鳴木市にて、改造虚を討伐し任務を遂行した。しかし第三者の何者かが疲弊している東雲にとどめをさしたようだネ」

 

 

 「……」

 

「しかし、今うちの隊士に死体の回収をさせようと現世に向かわせたが死体は幾ら探しても見つからないらしい。ほぼ死んだというふうに見るべきだがもしかしたら生きているのかも知れないネ?可能性としたら万に一つ、いや億に一つほどの確率だが」

 

 砕蜂は押し黙る。技術開発局局長から直接、死因までハッキリと理論立てて説明されたのだ。確かに死体は見つかっておらず生きている可能性があるかもしれないが、生きている可能性は限りなく低い。

 

 「そうか。いきなり押しかけて悪かったな。情報提供感謝する」

 

 涅に礼を言うと穿界門へ向う砕蜂。頭では分かっているのだが自分の目で確かめなければ信じられないようで、現世に行って自ら探すことにしたのだが、結局のところ生きている痕跡を見つけることができなかった。

 





茜二の卍解「八裂雷(やくさのいかづち)」
      能力???

    技「大雷(おおいかづち)」
      能力???
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