とあるモブ死神だった奴の話 作:ピューレッド
八番隊舎で執務をしている一人の白い髪の女性。その剣の腕前から剣姫と恐れられているのが、何故か以前まで四番隊に所属していた死神である。そんなに彼女はある期を境に憂鬱な顔から晴れぬままであった。
二番隊副隊長、東雲茜二が現世にて謎の死を遂げてからひと月が経つが、依然その原因は不明のままである。わざわざ五番隊隊長の藍染惣右介が事件現場に赴き調査を行ったのだが、真相は謎に包まれたままである。
そんなことが影響して、暗いオーラがダダ漏れになっている純連に飄々とした声がかかる。
「やぁ、純連ちゃん。任せていた仕事の方はどうだい?」
「京楽隊長。それなら隊長が真っ昼間からお酒を飲んでいる間にやっておきましたよ。丁度終わったところです、確認お願いします」
酒を飲みたいのはこっちの方であるがそれは口に出さないでおくとして、純連はトゲが数本混じった声色で京楽に書類を渡す。
「いやぁ〜。気づいてたのね。なんだか言葉をオブラートにに包まない感じ、リサちゃんに似てきたんじゃないの?…参ったね、どうも…」
「『参ったね、どうも』はこっちの台詞です!ちゃんとお仕事して下さいね」
「純連ちゃんだって前はよくサボってお酒飲みに来てたくせにぃ〜」
「それはっ…!そ、それは過去の話ですよ!今はちゃんとお仕事してますからセーフなんです!」
何気ないいつもの会話を京楽と交わしているが、正直この状況が辛かった。茜二が死亡したと連絡を受けた時、私の心を埋めるものは無くなってしまったのだから。
(何で私に黙って急にいなくなるのよ…バカ)
真央霊術院時代からの親しい友人を失えば誰だって傷ついて当然であり、斬拳走鬼全てにおいて秀でている完璧に見える剣姫であれど例外ではない。
すると突然、京楽隊長は真剣な眼差しでこちらを見つめる。
「純連ちゃん。まだ茜二くんのことを引きずっているのかい?」
「……なっ!急に何ですかもう!そんなんじゃありませんよ」
上手く周りには隠しているつもりであったけど、やはりこの人はなんでもお見通しらしい。なんかムカつく。
「茜二くんは護廷十三隊の一員として、みんなを護ったんだよ。それは意外と難しいことでね、誰にでも出来ることではないのさ」
「でも死んだら意味がないんです。生きて護らないと意味がないと思うのです!」
思わず熱が入る純連は眼を潤ませながら京楽に問いかける。
「何かを護ったとして、死んだらその人の友人、恋人はどうなるのですか⁉︎この心の安寧は誰が護ってくれるというのですか⁉︎」
純連は初めて自分の弱さを吐露した。京楽は不安で押しつぶされそうな顔をした純連を抱きしめると、これまで自らが培ってきた矜恃を伝えることにした。
「いいかい純連ちゃん。確か大切な人を失った辛さは分かるけどね、ボク達は護廷十三隊なんだよ。それ以上でもそれ以外でもない。護廷の為に死なば本望、そうやって死神たちは僕らにその高潔な魂を大切な人に預け、受け継いできたんだよ」
「魂を……受け継ぐ…ですか?」
それを聞いた純連の顔には疑問符が沢山張り付いており、京楽の言葉の真意を理解しようと噛みしめながら聞いている。
「そうさ。純連ちゃんの中には無いのかい?茜二くんの残してくれたものがさ」
「……」
「心当たりがあるようだね。もうこれで君の道は開けたんじゃないかい?」
純連はそっと胸に手を当て、以前にも考えたが答えが出なかったモノを熟考する。私の道はなんだろうかと。私は何がしたいのだろうかと。
「私は大切な人をみんな護りたい。強くなって、ただひたすらに強くなって、絶対に負けない強さが欲しい。誰の心にも穴を開けさせないように、みんなを生きて護りたい」
「そうかい…それなら君のいるべき場所はここじゃないと思うよ。もっと相応しい場所に心当たりがあるんじゃないのかい?」
「……はい!」
純連は元気溌剌な迷いがない返事で答える。その強靭な覚悟で固まった魂は、もう以前の自分の才能から眼を背けていた少女とは別格に強くなっていた。
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瀞霊廷 轡町
護廷十三隊の中でも荒くれ者が集まる場所、すなわち十一番隊舎が存在する地がこの轡町であるが、今日もいつも通り騒がしくあった。
現在、十一番隊隊長は鬼厳城剣八という流魂街出身の大男である。身長は221センチ、体重三百六十一キロの彼は十代目剣八であり、人生の有頂天とも言える気分であった。
そんな生え散らかしている髭にまみれた顔面を太い指でガリガリと掻き毟る彼は現在、稽古場で鍛錬もせず、与えられた任務すら投げ出して、隊舎の縁側で堕落を貪っていた。その姿はさながら牛の様にも豚の様に見え、隊士達の目には滑稽に映っていた。
しかしそんなことを言えるはずもない。これ程粗悪な言動をし、まさしく天狗という言葉が似合う鬼岩城剣八であるがしかし、反乱が起こらぬのも彼の実力故である。
曲がりなりにも先代を斬り捨て剣八になった彼は強く、稽古の際には木刀を何本も叩き折り、手加減を知らない彼と打ち合った者の中には命を落とした者もいる。そんなことがあっても鬼岩城剣八は手加減を一切せず、部下の命をなんとも思っていなかった。
そのお陰で山本元柳斎総隊長から『副隊長以上の者との打ち合い禁止』を言い渡されてしまった。そして現在の十一番隊の副隊長は空位であり、それが彼の暇の原因であった。
「ふあぁ〜。あのジジイ、副隊長以上と打ち合い禁止とかふざけてんのか」
身長2メートル越えの巨漢はその太い指で欠伸をかき消しながら、山本元柳斎重國に対してなんの尊敬の念すら感じ取れない言葉を虚空に吐く。
「やることがねぇなぁ〜。こうなったら適当な理由をつけて流魂街の奴らでもヤリに行くしかねぇなぁ」
指の中でも一番細く、短い小指と言っても十二分に太い指で鼻をほじりながら物騒なことを言う。この様なことは当然許されるべきではないのだが、剣八となった彼の抑止力が無く、やりたい放題の彼を止める者はいない。
「そうだなぁ〜。更木か草鹿あたりにでも行って適当なゴロツキを尸魂界の叛逆者だなんだって理由貼りゃぁいいか」
そんな言葉を言って熊と互角、またはそれ以上の体格の持ち主である彼がのそっと立ち上がると縁側の床板がきしりと音を鳴らす。そして彼が歩くたびにもまたギシギシを悲鳴の如き軋みをあたりにでも響かせる。
そしていざ隊舎から出ようとしたその時、運命を変える出来事が彼に、尸魂界に起ころうとしているのであるが、当然そんなことは誰も知る由がない。
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瀞霊廷 二番隊隊舎
東雲茜二。というどこにでもいる様な体格、背丈、顔立ちをした至極色の髪をした彼が与えた影響は意外と大きいものだったりする。もちろん東雲茜二自身はそんなことを微塵も思っていないのであるが、その彼の影響を受けた死神の一人が二番隊隊舎にいた。
その者は小柄であり、身体の線が細くはあるが護廷十三隊の中の頂点の一人である。暗殺や情報伝達、調査などを迅速に、秘密裏に行う彼女の隊は今、ピリリとした嫌な雰囲気に包まれていた。
「何度言えば分かるのだ貴様は!」
高い声の怒号が響き渡る執務室には二番隊隊長、砕蜂が七席の白川郷介に仕事でのミスを強くしていた。何度も同じミスを犯す白川も悪いがしかし、砕蜂の口調がいつもより強いのも事実である。
普段ならばもう少し控えめであったしそのアフターケアを副隊長として行っている者がいたからこそ二番隊の雰囲気は保たれ纏まっていたと言える。その縁の下の力持ち、もとい影で二番隊の潤滑油と微妙に嬉しくない呼び方をされていた彼が居なくなってしまった代償は大きい。
「申し訳ございませんでした!今すぐやり直します!失礼します!」
目に涙を溜め、こもった声で謝罪し執務室を後にする白川を睨みつける砕蜂。白川郷介は比較的最近入隊した者であるがかなりの白打の使い手であり、将来を有望視されている第七席だ。
しかし彼は書類仕事などの執務が得意ではなく、同じミスを何度も繰り返す彼に砕蜂は苛立っていた。
(茜二であればこの程度のことすぐに……)
砕蜂は叶わぬ願いを心の中で呟く。砕蜂にとって東雲茜二とは心のバランサーであったのかもしれない。彼女はその性格上、余り人に心を許すタイプではない。許していたのは四楓院夜一と東雲茜二くらいのものであったが、その二人が隣から居なくなり、二度も苦しい想いをした砕蜂の心は疲れ切っていた。
(私にもっと力が有ればこの様な自体にならずに済んだのではないか…)
砕蜂は自分を責める。全ては自分に力が無かったからであると。自分が全てを護ってやれば良かったのではないかと。そんなことを最近は延々と考え続けたいた。
砕蜂は椅子から立ち上がり執務室を後にするとある場所へ向かった。戸を引くとそこは質素な小さめの部屋であった。綺麗に掃除が行き届いているが、そこには生活感がない。
「茜二よ……これから私はどう道を歩んで行けば良いのだろうか?」
東雲茜二が死亡したとされた現在でも綺麗に残された東雲副隊長の部屋で砕蜂は彼の残り香に問いかける。本当はここを開けて早く新たな副隊長を据えるべきなのだろうがいざとなると中々決心があることであった。
以前の砕蜂であったら嘲笑されているであろう醜態であるが、なんだか茜二の存在を本当に消してしまうのではないかと心が何かにキツく締め付けられる。
「ダメだな。この様な不様な姿を晒しては夜一様にも茜二にも笑われてしまう……」
気づけば20分もその部屋にいた砕蜂は自分の弱った心を締め直すと再び執務室室へと歩みを進めたのだが、そこには意外な客人の後ろ姿が目に入ってきた。
その客人は砕蜂に気がつくと背中に書かれた五の数字を翻し、向き直る。
「やあ砕蜂隊長。お邪魔しているよ」
「藍染…。私になんの様だ?」
砕蜂は藍染を怪しみ、高圧的に質問する。
「実は君にどうしても渡しておきたいものがあってね」
「隊長格がわざわざきて渡すほどのものなのか?」
「そうだよ。僕がわざわざ来たのにも理由がある」
すると藍染は懐から紫の、いかにも高級そうな手触りの布を取り出した。それに何かが包まれている様で机に置くとコトリと音がした。
「砕蜂隊長にとって大切なモノであるはずだよ。是非受け取って欲しい」
「なんなのだ勿体ぶって鬱陶しい。さっさと見せんか」
砕蜂が机に置かれたモノを手にとり、良い手触りの布を広げると思わず息を飲んだ。
更新が遅れに遅れまして申し訳ないです。
本当に忙しくて筆が中々進まないです。
しかも今回は短めというね…本当に申し訳ないです。
次回はかなり面白くなる…はず…