とあるモブ死神だった奴の話   作:ピューレッド

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足掛かり

 死神にとっては短い三十年という時が流れたが、相変わらず俺は四番隊だ。

 

 今日明日は休日のため自由に時間を使うことができ、久々の休日だが俺はやる事があるため朝早く目を覚ます。

 

 いつもと同じように寝癖を直して死覇装に着替え、日が昇らぬうちに宿舎を出る。最初はとても辛かった早起きも三十年間毎日してれば、やがては慣れるというもの。向かう先は西流魂街三地区の鯉伏山。森の中の開けた土地に荷物をおろす。ここはあまり人が来ず虚の目撃情報も少ないので修行にうってつけだ。

 

 「縛道の七十三、倒山晶」

 

 「縛道の二十六、曲光」

 

 刹那、青色の四角柱が俺を囲み結界をつくる。更に曲光の効果で姿が見られにくくなっているはずだ。そして俺は刃禅を組み斬魄刀の世界へと足を踏み込もうとする。刃禅とは、斬魄刀との対話のために何千年という歳月をかけ生み出されてきた型で、胡座の上に斬魄刀を横に置き精神を集中させる。最初は部屋でやろうと思っていたのだが、相部屋しているのは菅原三席だ。流石に休日に気を使わせる訳にもいかず、外で行なっている。

 

 だいたい予想がついたと思うがやる事とは始解の習得である。現在俺は十五席についており、同室である菅原三席のコネを使い卯ノ花隊長に推薦してもらった。給与は上がりばあちゃんへの仕送りも増えたがまだまだ微々たるものである。席官になっても俺らは四番隊、一番給与が低い。十席以内に入れば特別手当てが付くため狙っているのだが、始解ぐらいはしとかないと話にならないと菅原三席に言われた。回道と鬼道の腕はみるみる上達していて十分な実力がある。しかし、いかんせん斬術が苦手で避けてきたツケが回ったらしい。純連との朝鍛錬も欠かさず行なってきたが、斬魄刀ではなく木刀を使用してきた。

 

おかげで斬魄刀とまともに対話できずに修行は難航していた。だが三十年の月日が経ちやっと彼女の声が聞こえるようになってきた。後一息で名前を教えてくれそうなのだがそこからがまた難しい。一年程はこの状態で平行線である。

今日こそはと気合を入れ意識を手放した。

 

 気がつくと辺りは闇。下は水で満たされていると思われるが、不思議と上に立っている。通い慣れたこの場所はやがて光で満たされる。すると見えるのは一振りの斬魄刀、浅打。水面に突き刺さっており、柄の上には美しい着物を纏った幼女が一人、こちらを仏頂面じっと見ている。額には二本の角のような突起が生えており、水面に浸かるほどの銀の長い髪が光の具合によって七色に変化する様は、なんだか神のような神聖さを感じる。毎回ここへ来るたびに本当に自分の斬魄刀なのか疑わしくなってくるほど美しい。

 

 「……また来たのか?懲りない奴じゃの」

 

 幼女は呆れているが少々眉をひそめるだけに留まり、仏頂面のまま表情を変えることはない。

 

 「こんにちはお嬢さん、また来たよ。君の名前を聞くまではやめられないな」

 

 「ふん‥‥‥」

 

そういうと彼女はそっぽを向いて黙りしてしまう。

 始解の条件は対話と同調。彼女は初めて来た時からこんな感じでまるで聞く耳を持ってくれない。

 

 「頼むよ、名前を教えてくれないか?毎回話してるけど俺には目的があるんだ。そのために君の力を貸して欲しいんだよ。どうか、頼むよ」

 

 俺は毎度の如く頭を下げて頼み込む。

 

 「そんなの知ったことではないのじゃ。わしにとってはどうでも良いこと。わしの気も知れずに良くものうのうと名を教えろなど言えるものじゃ。」

 

 俺は耳にタコができるほど聞かされ続けているその言葉を今日も聞くことになり深々と大きなため息をつく。なぜ俺の斬魄刀は俺の力になってくれないのか苛立つばかりである。

 

 「どうしたら名前を教えてくれるの?俺にできることならなんでもするよ」

 

 「そういう問題では無いのじゃ、本当に分かっとらんのう。こんなんじゃわしの主として認める訳にはいかん。」

 

 幼女は容赦なく俺の提案を突っぱねる。

 

 「一年も前からここへ来ている癖になにも変わらんではないか。死神なぞ辞めて平和に暮らした方がいいのではないか?お主に死神は向いていないと見える」

 

 かなり刺々しい言葉に俺の心は穴だらけだ。ここへ来るたびに帰れだの死神をやめた方がいいだの酷い言葉ばかりで流石に自信をなくしてしまう。

 

 「そんなこと言わずにさ、仲良くしようよ。ね?」

 

 俺は徐々に彼女の方へ近づいていくと急にバチンと衝撃が走り俺は水面に倒れ込む。

 

 「すまんが今は名を教える事が出来ん。何度も言っておるが相応しい時が来たら教えてやるかも知れんな」

 

 その言葉を最後に俺は斬魄刀の精神世界から弾き出されてしまう。目を開け縛道を解くともう日が天高く登っており俺の腹から飯をよこせと音がなる。

 

 「はぁー、またダメかよ。相応しい時っていつなんだよもう」

 

 悪態をつきながら荷物からおにぎりを出してかぶりつく。鬱憤を晴らすかのようにがむしゃらに食べ進め。俺は再び斬魄刀に触れ思考を巡らす。

 

 「悩んでも仕方ないか。取り敢えず斬術の鍛錬でもしておこうかな」

 

 結局この二日間で始解の習得はできず、俺は第一下級救護班班長としていつもの日常に戻る。

 

 「全員揃ってるよね?朝礼を始めます。最近、虚の目撃情報が多くなってきていて昨日も沢山の怪我人が運ばれてきました。今日も気を抜かずに丁寧で迅速な治療を心がけていこう。今日も一日よろしく」

 

 『よろしくお願いします!』

 

 俺達は朝礼が終わるとそのまま治療室で待機する。上級、中級、下級の各救護班の一班は緊急時にも対応出来るようにするためひたすら待機するのだ。したがって、一班には腕のいい人材が集まっていて特別手当も出る。

 

 しばらくするとやはり今日も虚が出現したようで怪我した十一番隊長の隊士が運ばれてくる。

 

 「東雲十五席、負傷者を運んで参りました。治療をお願いします。十一番隊の方が三名です」

 

 そう言って連れてこられたのは男性隊士、如何にも荒くれ者っぽい隊士であり目つきが悪く班員が怯えてしまっている。

 

 ここでは重傷者以外が運ばれてきて俺の判断で中級に送るかここで診るかを判断するシステムになっている。

 

 「おう、早く治療せいや四番隊。こちとらお前と違って虚退治で忙しいんや」

 

 怖い顔を更に強張らせて威圧的な態度を取る。あからさまに舐められていて気分が良いものではない。十一番隊全員がこういった人たちじゃないのは分かっているが悪いイメージを持ってしまうのも仕方がない。

 

 「では早速治療を開始しましょう。私がこちらの二人を診るので皆さんでこちらの方をお願いします」   

 

 『は、はいっ!』

 

 俺は三人の中で一番軽傷な奴を任せその他を診ることにした。

 俺を睨む二人を移動させてベッドに座らせる。

 

 「それでは、怪我した所を見せて下さい。」

 

 すると二人はこれまでの例に漏れずいちゃもんをつけてくる。

 

 「本当にお前みたいなヒョロっちぃ兄ちゃんで大丈夫かいな?ワイは腕が折れてんねん。中級に回してくれや」

 

 「俺も肋を何本かやっちまってんだよ。早く中級に回してよ」

 

 二人はグイッと怪我した部位を俺に見せてきてこれでもかとアピールする。この手の人は大怪我をしてその度合いからマウントを取り合うみたいな人達が多く、上へ回してくれと威圧される事が多い。

 

 しかし、今回に関しては二人の言う通り骨折は、中級救護班が付くのだが俺は手をかざし回道を発動させあっという間に治療を終わらせる。

 

「はいっ、終わりましたよ。もう二度と来ないようにちゃんと強くなって下さいね。十一番隊さん」

 

 「四番隊のくせしてうっさいわ!二度と来んわこんなとこ!」

 

 二人は舌打ちをしながら苦虫を噛み潰したような顔をして部屋を出ていく。

何だかスッキリした気持ちになると俺はあと一人の方へ近づいていく。うちの班員達が悪戦苦闘しているがそれもそのはず、これも本来ならば中級程度の負傷である。肩を治療されてる隊士は、大きな声を上げ班員達を怒鳴りつける。

 

 「痛てぇーよバカ!本当にちゃんと治療できんのかよお前ら。さっきも言った通りこっちは忙しんだよ。早くしろ!」

 

 「ヒィッ、す、すいません」

 

 普段ならこんぐらいはこなせるはずなのに萎縮して上手くできていない。見かねた俺が助け舟をだす。

 

 「みんな分かってると思うけど、これは脱臼してるよね?その場合は、痛み止めをかざしながらこうっ!」

 

 俺は肩に手をかざしながら思い切り肩を上げる。するとゴキッと小気味良い音が鳴り響く。隊士が肩を回し調子を確認するとこちらへ向き直る。

 

 「やりゃできんじゃねーの。最初からお前がやれや」

 

 そう言って出口の方へ歩いてゆくと、振り返らずに治した方の手を挙げて不機嫌そうな声を出す。

 

 「世話になったな。またよろしく頼むぜ兄ちゃん」

 

 班達はホッとしたのか各々が汗を拭い肩を落とす。

 

 「あれ普通に中級の技術じゃないと無理じゃないっすかー。ヒドイっすよ先輩〜」

 

 そう言って文句を言うのは南部哲太二十席。今年入隊した中では一番腕の良い奴だ。見た目はチャラチャラしていて軽い口調だが、やる時はやる男だ、と思う。

 

 「この前やってみせただろ?お前らなら二人くらいに分担してやればできるレベルだと思うけどな」

 

 「いやいや、相手は十一番隊の奴らっすよ?他の隊ならまだしも失敗したら殺されそうじゃないっすかー。」

 

 うんうんと他の班員達も首を縦に振り、その目から恐怖を訴えてくる。

 

 「そんな事じゃ全然上達しないよ?幾ら知識としていっぱい知っていようが、力を持っていようが、使えなければ無いのと一緒じゃないか。実践が一番!前も言ったと思うけど、責任は全部俺が取ってやるから思い切って挑戦していけよ」

 

 「見た目は普通っすけどやっぱりカッコいいっす!一生付いてきます!」

 

 俺は南部のチャラチャラした頭に拳を叩き込む。南部は涙目で頭を押さえ弱々しい声を発する。

 

 「痛いっすよ〜先輩〜。今まで一番痛いっす」

 

 「お前は一言多いわアホ」

 

 そんな感じで午前はこれ以降負傷者が来る事なく昼休みに突入すると南部から珍しく声を掛けられる。

 

「せんぱーい!お昼ごいっしょしても宜しいですか?もちろん先輩のおごりで!」

 

 とびっきりの笑顔でなんて図々しいことを言えるのだろうか?ある意味これも才能だろうかと考えてじっと南部を見つめていると、南部がサササッと後ずさる。

 

「先輩ってまさかそっちの趣味が?!かなり人気があって人望も厚いのに浮いた話がないなんておかしいと思ったんすよ。」

 

 南部は化け物を見るかのような目でこちらを凝視するが、俺は瞬歩で後ろへ回り込み、腕を首に回すとすかさず締め上げる。

 

 「お前、一回死んでみるか?そしたらその口も治るかも知れんな。案ずるな、治るまで何度も何度も殺してやるからな」

 

 南部は顔を青ざめさせながら腕にトントンと降参の合図を送る。

 

 「まじで死ぬから。ごめんなさいっす!本当にやばいっす!いぎがでぎないよぉ〜」

 

 本当に限界寸前で拘束を解くとゴホゴホと咽せながら南部は床に跪く。

 

 「もう余計な口は聞くんじゃないぞ?次ないと思えよ」

 

 「ゴ、ゴメンナサイッス。スコシフザケスギタッス。モウヤラナイトチカウッス」 

 

 虚な眼差しで何故かカタトコになって反省の意を述べる南部。俺は部屋に出てから今日も、坂上純連六席の部屋へと弁当を食べに急いで向かった。

 

 

 

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 「卯ノ花隊長、少し宜しいでしょうか。」

 

 「どうしましたか?山田副隊長。」

 

 四番隊副隊長である山田誠之助は卯ノ花の執務室を訪れていた。

 

 「最近多発している虚による怪我人の度合いをこれまでの分まとめて参りました。」

 

 丁寧で硬い口調で誠之助は卯ノ花に資料を渡す。

 

 「重傷者は二人、それ以外は全員軽症ですか。これでは第一下級救護班の負担が多すぎていませんか?新たに第二、並び第三下級救護班も治療にあたらせましょう」

 

 卯ノ花は眉間にシワを寄せ心配そうな顔をしながら誠之介に指示を出す。

 

「それが、資料には記載されておりませんが、本来ならば中級救護班が対処するような負傷も第一下級救護班が全て治療を受け持っているとのことです。」

 

 卯ノ花は目を軽く見開きながら第一下級救護班の班長、東雲茜二のことを思い浮かべる。前見たのは先月、回道の講義をした時で特に印象に残っておらずただ比較的優秀だということは知っていた。卯ノ花は熟考の末、口を開く。

 

 「では、本日の午後は視察に参りましょう。山田副隊長は少しの間、私の代わりに執務をお願いします」

 

 「承知致しました。お任せください、卯ノ花隊長」

 

 誠之助は膝をつき頭を軽く下げる。

 

 「では、下がっていいですよ」

 

 誠之介ら部屋の出口まで行くと反転し卯ノ花に向かって深く頭を下げる。

 

 「失礼致します」

 

 そう言って誠之介が立ち去ると卯ノ花は再び執務を再開し、いつも落ち着いていて相当な事がない限り揺らがない強靭な心を久々に躍らせるのであった。

 

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 純連の不機嫌を何とか回避した俺は午後も同じように負傷者を待つ。すると早速、負傷者が次々に運ばれて来る。

 

 「東雲十五席、二番隊の方で負傷者7名です。よろしくお願いします。」

 

 やはり虚にやられたのだろうか、出血している隊士もいるためすぐに俺は班員に指示を出す。

 

 「南部、小田原、石見はこの三人を止血しておいてくれ。他はこちらの方の治療に、あとの三人は俺が診ます。こちらへどうぞ」

 

 俺は最初に比較的軽症な二人をすぐに治療する。一人は外傷であったためすぐに治療を完了させ、もう一人は頭を強く打ち脳震盪を起こしているようなので薬を飲ませてベッドに寝かせる。残りの一人を見ると足首の靭帯が断裂しているようでかなり痛そうだ。俺はすぐに治療を開始するがこれはかなり大変そうだ。少し苦戦するも修復に成功しホッと胸を撫で下ろす。

 

 「靭帯が切れていたので治しましたが、念のために二日間は安静にお願いします。」

 

 三人の治療が完了するとすぐさま出血していた三名の方へ急ぐ。

 

 「南部、今どんな感じ?止血は完了した?」

 

 「止血して今傷口を塞いでるんすけど、中々閉じれないっす。かなり深いっすね」

 

 他の二人も同じような感じで俺の言った止血以上に傷口をかなり塞いでくれている。

 

 「よくやってくれた、十分すぎる出来だよ。後は俺がやるから見てて。せっかくだから三人の同時治療について解説するよ」

 

 そうして俺は南部達に軽く講義しながら傷口を塞ぐ。

 

 「もう傷口は完全に塞いだから三人とも、後は頼むよ」

 

 『はいっ!』

 

 そうして後一人の方へ向かうがもうすでに治療が終わっており立ち上がっていた。

 

 「南部、この人脳震盪で二、三日安静にさせて様子を見るから経過観察宜しくね」

 

 「任せてくださいっす!」

 

 そうしてひと波超えると、外の空間を吸うために部屋の外に出て廊下を歩く。

 

今回は一気に七人も来たため中級救護班にまわしても良かったのだが、班員の成長のためにも全員受け入れて正解だった。確実に腕が上がっていて一月前と比べても違いは目に見えてわかる。いい意味でも悪い意味でも慣れてしまうので、再び気を引き締めて直さないとと考えていると、聞き慣れない声で話しかけられる。 

 

「東雲十五席、素晴らしい治療でしたね。お見事です。」

 

 後ろを向けばそこには四番隊のトップ、卯ノ花隊長が目の前に立っていたので慌てて姿勢を正して頭を下げる。心臓がバクバクと音鳴らし、変な汗がブワッと手から吹き出してくる。

 

 「いえ、とんでもございません。まだまだ未熟です。うちの班員が迅速に対応してこそできた事ですから」

 

 「そう謙遜しないでください。指示出しも的確で高等治療術も上手く駆使していました。十分称賛に値しますよ」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 思わず緊張して声が出にくくなってしまったが、やがて心拍数が下がり平常時に戻っていく。顔を上げて卯ノ花隊長の目を再びまっすぐと見据える。

 

 「それにしてもどうしてこんなところまで。何かご用件でも?」

 

 「はい。あなたに用事があって参りました」

 

 「俺に、ですか?」

 

 俺は訝しげな表情をすると、卯ノ花隊長はニッコリと微笑んで意外な言葉を発する。

 

 「私の弟子になる気はありませんか?」

 

 「弟子!?俺が?」

 

 俺は人生で一二を争う衝撃を味わう。

 

 ここから俺の日常がモブから脱してしまうとは、この時の俺はそんなことを思いもしなかった。




ここから徐々に物語が動き出します。

読みにくかったりしたら教えて下さい。
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