とあるモブ死神だった奴の話 作:ピューレッド
私は彼の霊圧を改めてしっかりとみた瞬間、確信した。彼は普通ではない。側から見ればただの死神の霊圧である彼は、もし大勢の死神に紛れこもうものならば見つけることは不可能であろう。
だが、近くでよくよく感知してみれば、あの家の霊圧にとてもよく似ている。何故こんなところにいるのか些か疑問ではあるがこの私が間違えるはずがない。この子は間違いなく彼女の息子である。
「私の弟子になりませんか?」
気がついたらそう声をかけていた。彼を何が何でも弟子にする必要がある。
私は彼女へ恩を返すためこの方法が最善だと判断した。
「弟子!?俺が?」
そう言って呆けた顔をする東雲十五席。突然こんなことを言われては仕方がないだろう。少し急すぎたかと後悔したが、言ってしまってはもう遅い。
「そうです。あなたには直々に私が回道や鬼道などを教えましょう」
「何故俺なのですか?俺は確かに鬼道や回道は得意ですが始解にも至っておらず、卯ノ花隊長の弟子として相応しくないのではないでしょうか?俺を選ぶくらいだったら坂上五席の方が相応しいと思いますが…」
東雲十五席は自信なさげに言葉を並べると、申し訳なさそうな顔をする。確かに坂上五席は天才的な腕を持っていて百年、いや千年に一人の逸材だろう。剣を磨けば剣八にすら手が届く、百年後には隊長格になっているだろう。しかし私は彼女への恩を返さなければならない。東雲十五席も坂上五席に劣らない才能を持っているはずであり何故こんなに霊圧が小さいのか謎であるが、それは彼を弟子としてから解明すれば良い。
「あなたには死神としての才があります。それは坂上五席を凌ぐほどの大きなものです。それをあなたは気がついていないだけなのですよ」
「ですがっ、…」
「私が言ったのですから間違いはありません。四番隊隊長である私の意見を信用できませんか?」
そう言って卯ノ花はにっこりと笑みを浮かべて東雲に訴えかける。心なしか笑顔が黒く凄みを放っているが卯ノ花はそれに気づくことはない。
「い、いえ、そういうことではないのですが、」
東雲はその凄みに気圧されて思わず言葉が詰まる。体が強張ってしまって思わず目を逸らす。
「ではもう一度だけあなたに聞きます。私の弟子になりなさい。よろしいですね?」
「は、ハイ。ワカリマシタ」
かなり強引だが無事東雲を弟子に引き入れた卯ノ花からスッと凄みは消えていつも通りの優しい雰囲気へと変わる。ほっと息をついた東雲は肩の力を抜き再び卯ノ花に目を合わせた。
「よろしい。では明日から私の補佐として働きながら回道や鬼道を教えます。朝の六時に私の屋敷に来なさい。第一下級救護班の班長は別の方を今日に手配しておきますから案ずることはありません。よろしくお願いしますね」
「わ、わかりました。こちらこそよろしくお願いします、卯ノ花隊長」
なんだか流れに任せて大変なことになってしまったなと、嵐のように去っていった卯ノ花隊長の背中を見る。
「参ったな」
頭をかきながら再び仕事に戻るために歩き出すが、その足取りは心なしか重く感じる。
「あいつら俺が居なくてもちゃんとやっていけるかな?特に南部辺りが不安なんだけど…」
そんなことを考えながらこんな状況で人の心配をするとか、俺は心配症過ぎるなと思う。
治療室に戻ると気持ちを入れ替えて気合いを入れ直すと、みんなに声をかける。
「みんなに話があるんだけど…」
後に考えてみればこれが俺の最後の平穏だったとは、まだこの時の俺は考えてもみなかっただろう。
--------------------------------
卯ノ花隊長の弟子になってから五十年、俺は五席まで昇進しとても忙しい日々が続いている。山田副隊長が家の都合により退職してしまった為、副隊長の後継は純連が担うことになった。これは今までのソウルソサエティの歴史で歴代最速らしい。
「茜二〜?この書類とこっち報告書をまとめときなさい。今日中に頼むわよ」
「坂上副隊長、流石にこの量は…バカですか?」
いつもの無茶振りを受けて絶望する俺は、一度手を止め恨めしげな目を四の副官証を巻いた純連に向ける。
「バカとは何よ!副隊長に向かってそんな口のきき方をしてもいいのかしら?」
「バカにバカと言って何が悪いバカ純連。お前また仕事押し付けてサボる気だろ。ずっと見て見ぬフリをしていたけど分かってんだぞ?お前が仕事中にこっそりと抜け出して週四で新しく出来た甘味処へいってること!」
俺は書類仕事を再開して頬を膨らませているであろう純連に切り札を突き出す。
「な、何故それを⁉︎計画はいつも完璧だったはず…」
予想通り動揺する純連を見ると目が泳ぎまくっている。
「お前から流れてくる仕事の量が多すぎて、俺の優秀な部下にお前の行動を一週間監視させたことがあるからな。この件は卯ノ花隊長に報告させてもらう。覚悟しとけ!」
「ご、ごめんってばー。さては私と一緒に行きたかったのね?言ってくれれば誘ったのに。じゃあさ!今から一緒に…」
慌てて機嫌を取りに行く純連だがもう遅い。もう我慢ならん。
「そんなこと言ってもダメ!さて、今から卯ノ花隊長のところへ行って書類提出してくるよ」
わざとらしく行き先を伝えて俺は書類仕事で凝り固まった体をバキバキと音を鳴らし立ち上がる。
「さっきのは冗談よね?…ね⁉︎ 返事しなさいよ!そんな目で私を見ないで!お願い許して!隊長に怒られるのだけはっ…」
そう必死に許しをこう純連を尻目に俺はそそくさと歩き出すと、純連が後を追ってくるが、到底追いつけないレベルの瞬歩で俺は走り出す。しばらくしても後ろを見ても純連は付いてきてないようでどうやら巻けたようだ。まあ、隊長に報告するって言うのは冗談で、反省してくれたら良いのだが・・・すぐに隊長の執務室へ着くと、俺は慣れた様子で入っていく。
「失礼します隊長。例の報告書まとめてきましたよ。」
「思ったより早かったですね。流石に五十年もの間私の補佐をしていれば当然ですか」
卯ノ花隊長はスッと流れるように席を立つと俺にお茶を淹れてくれる。何気ない一つ一つ動作に無駄がなく洗練されていて、流石に長いこと隊長を務めているだけはあるなと思う。
「まあ最初の五年は死にそうでしたけどね。副隊長の相手と隊長の弟子を兼任するのは我ながら正気の沙汰じゃないですよ。あっ、ありがとうございます。お茶いただきます。」
俺はお茶を受け取るとスッキリと澄んでいて、微かな濁りが美しいお茶をズズっとすする。鼻に茶の香りが豊かに抜け出して、とてもいい茶葉を使っていると素人ながらにも分かる。
「もう弟子になってから五十年ですか。最初よりも随分と成長しましたね。
始解さえできれば文句はないのですが」
卯ノ花隊長は俺を横目で見ながら薄くため息をつき目を閉じる。
「うっ、それは、まあ・・ね。死神一人一人にも向き不向きはありますし…そ、そんな哀れみの感情を向けないで…泣いちゃいますよ?」
「お話はこれくらいにして、今日もみっちりと鍛練に参りますよ?」
そう言って立ち上がると肩掛け紐がついた反りが深い斬魄刀、肉雫唼を開放して巨大なエイのような生物を出す。慣れた足取りで背中に跳び乗れば俺の方を向き早く乗るように催促する。
「早く茜二もお乗りなさい。帰りに薬草でも採取して帰りましょうか」
俺も肉雫唼に跳び乗ると、ゆっくり上昇しいつもの場所へと進み出す。
「それで?今日は何をするんでしょうか?」
俺は肉雫唼の上で至極色の短く切り揃えた髪を揺らし質問する。ちなみに髪が短いのは卯ノ花隊長の趣味だ。散髪はいつも卯ノ花隊長にされており、毎回かなり髪型が変わる。
「そうですね…では、今日は五十周年特別メニューでいきましょう。楽しみにしていて下さいね?」
卯ノ花隊長はにっこりと微笑みを向けるがその笑顔は不思議と怖い。弟子に勧誘された時のような、またはそれ以上に闇を感じる笑みに俺は顔を引きつらせる。
「嫌な予感しかしないんですが…お手柔らかにお願いしますよ、まじで」
「案ずることはありません。退屈しない様にしっかりと考えておきますから」
そこで俺は今日が命日だと悟りばあちゃんの顔を思い出す。嗚呼、ばあちゃん。どうやら先に逝くのは私みたいです。大した恩返しが出来ず申し訳ありません。どうかこの恩知らずをお許しください。
そして予想通りの五十年周年鬼畜鍛練を終えた俺は肉雫唼から吐き出され卯ノ花隊長の屋敷の前で吐き出される。ネバネバとした体液が死覇装に纏わり付き寝起きとしては不快この上ない。しかしながらある程度は回復しており、ギリギリ歩けるようにはなった。
「全く情け無い弟子ですね。こんな体たらくでは到底、九十番代の詠唱破棄は打てませんよ?それに加えてまだ始解すらままならないとは・・後で追加鍛練ですね」
「殺す気かこのバ…お、お姉さんは⁉︎これから追加なんて正気の沙汰じぁ〜ねえ!」
危ないところだった。あまりの殺意にババアなんて叫んでしまう所だったぜ。バで止まって良かったぜ。危うく本当に死ぬ所だった。
「言い直しても遅いですよ?しっかりと聞こえてました。今日の追加鍛練も五十周年特別メニューに致します。良かったですね?」
フフフと口を押さえて笑う隊長は鬼神の如き覇気を纏いながら俺の首根っこを常人ならざる握力で掴み引きずり行く。
やばい。本当にやばい。五十年も近くにいると分かるのだが、過去一やばいかもしれない。ここまでの覇気を纏った姿は見たことなく、とてもご立腹でいらっしゃるようで‥…最早怖すぎて笑うしかない。
「ハ、ハハッ、ハハハッ…す、すいませんでした。本当に反省してます。つい、勢いで出かけてしまったんです。許してください。お願いします。なんでもしますから。本当に、マジで」
早口で捲し立てるように謝罪の言葉を並べていくがこれは決定事項だ。もう遅いのは分かっていた。
「分かりますよ。辛くてつい本音が出てしまったのですね?安心してください。決して死なせはしませんよ。私の回道で何度でも癒しましょう。」
「お、お、御慈悲を!どどどどうか!このどうしようもない私めに御慈悲を!御慈悲をっ〜‼︎」
次の日から五日もの間、彼の姿を見たものは居なかったと言う…
--------------------------------
半年後、俺は卯ノ花隊長に呼び出されて執務室まで来ていた。こんな夜中に呼び出されることは初めてで、よほどの緊急事態なのだろうか?
「失礼します。お呼びでしょうか。卯ノ花隊長」
俺はズケズケと執務室へ入っていくと卯ノ花隊長が後ろ向きで待っていた。振り返ると真剣な顔でこちらを見る。
「あなたに行ってもらいたい任務があります。こちら資料をご覧なさい」
俺は数枚に資料を手渡され目を通す。どうやら虚に関する案件の様だ。
「最近、流魂街で原因不明の失踪事件が発生しています。服などをそのまま残して消えるのですから、魂魄がなんらかの影響で消失したと考えられます」
俺は資料に目を通しながら聞いていると衝撃の言葉を目にして思わず気持ちが焦る。
「本日、東流魂街七十六地区の逆骨に先遣隊として九番隊から五人が向かいましたが、つい先ほど消息を絶っています。あなたには二番隊の隠密機動と共にその現場へ向かい原因の調査、できれば排除を目的とした調査に行ってもらいます。確か茜二は逆骨出身でしたね?」
俺は、心の整理がつかないまま急に質問されて思わず声が震える。
「は、はは、はい。そこにはお、俺のばあちゃんが…」
ばあちゃんが心配でしょうがなくて挙動不審になっている俺に、やれやれと言った様子で優しく語りかける。
「ご家族が心配でしょう。調査ついでに様子を見てきなさい。そんな様子では仕事に身が入らないでしょう」
俺は思わずバッと卯ノ花隊長の手を握り、かなり近い距離に顔を迫る。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
卯ノ花隊長は俺の手を優しく握り返すと、俺の目を真っ直ぐに見据え眉間にシワを寄せながら心配そうに呟く。
「本当は行かせるつもりは無かったのですが仕方ありませんね。さぁ、事態は急を要します。あなたが行くことによって助かる命があるかも知れません。気をつけて、必ず無事でここへ戻ってきなさい。私の一番弟子が負けるはずがありませんし、負けたら許しませんよ?如何なる場合でも落ち着いて、早まった行動は謹んでくださいね?」
卯ノ花隊長はそっと手を離すと俺の背中を押してくれる。それだけでなんだか大丈夫なような気がしてきて、さっきまでの乱れた心がいつのまにか平穏に戻っていた。俺をこんなにも心配してくれる卯ノ花隊長は、なんだか母親みたいだ。
「では、行って参ります」
そう言って俺は夜の瀞霊廷の闇へと紛れていった。
茜二が任務へ向かうと卯ノ花は、誰もいない静かな部屋で一人呟く。
「眞弓、どうかあの子を危険に晒すことをお許しください」
その言葉は虚しく闇へと響く。
やっと物語が動きだしました。
結構時間がかかってしまいました。
誤字脱字等があればお軽に報告してくださると助かります。