とあるモブ死神だった奴の話 作:ピューレッド
二番隊舎に到着した俺は、焦る気持ちをおさえ門の前の隊士に用件を簡潔に述べる。
「四番隊より参りました東雲です。任務のため二番隊と合流したいのですが」
「話は卯ノ花隊長より伺っております。案内しますのでこちらへ」
事態はやはり急を要するのか、隊士に小走りで案内されるとそこには総勢十名以上の隠密機動が整列していた。口元は黒い布で隠れており、皆一様に鋭い眼光を放っていてビリビリとした緊張感が伝わってくる。すると俺は、この班の班長らしき人の元へと案内される。
「秦殿、任務に同行する四番隊の方を連れて参りました。」
「ご苦労、君はもう下がりたまえ」
「ハッ」
隊士は短かくキレの良い返事をすると、スッと静かにこの場から消える。流石は二番隊だと感心するのも束の間、秦という名前らしい男から自己紹介を受ける。
「待っていたよ。君が東雲君だね?私はこの調査班の班長、秦優作だ。よろしく頼む」
出された右手をしっかりと握り俺も続いて自己紹介する。
「四番隊第五席の東雲茜二です。よろしくお願いします」
しっかり握り返された手を解くと秦さんは俺を品定めするかのようにジロジロと見つめる。
「四番隊の五席が同行してくれるとは、こちらとしても負傷者を任せられるので心強い。卯ノ花隊長から君は瞬歩がとても速いと聞いている。卯ノ花隊長の言葉を疑わない訳ではないが、本当に我々隠密機動についてこれるのか?それに先遣隊の霊圧が消失し、恐らくかなり危険な任務になるだろう。君を守って戦う余裕は無いぞ?」
「はい。問題ないと思います。俺はこれでも卯ノ花隊長の弟子です。俺のことは気にせずいつも通りに行ってくださって大丈夫です。お荷物にはなりません」
秦さんは俺を力強い眼差しで見つめるとやがで覚悟を決めたようにフッと短く息を吐く。
「よし、では改めてよろしく頼むぞ。これから今一度行動を確認しておく。君も列の一番左に並びたまえ」
「はいっ」
俺はすぐさま列の左端に並び姿勢を正す。隣を見ると、俺よりも二回りほど小さく、僅かにのぞく髪が真っ直ぐ切り揃えられているキリリと目が鋭い少女が立っている。本当にこんな小さな子が一緒に行くのだろうかと疑いの目を向けるが俺は秦さんの言葉に集中し直す。
動きとしては俺は逆骨の被害を受けた集落を周り負傷者の確認治療した後、先遣隊の霊圧が消失した森を調査する班と合流しもし、戦闘になった場合は支援に周るというもの。逆骨で被害を受けたらしい家は僅かに四件。ばあちゃんはきっと無事だと思うが不安になるのは当然だろう。
「では早速移動を開始する!」
俺たちは二手に分かれて移動を開始。どうやら隣にいたおかっぱ少女とは別行動らしいがそんなことは置いといて、隠密機動の瞬歩を間近で見るとスピードはさることながら質も高い。なんといえばいいかよく分からないがとにかく静か。隠密機動の名は伊達では無いようだ。
たったの二十分で七十六地区までくると、俺らは少数ですぐさま被害状況の確認へ向かう。どうか無事であってほしい。気付けば鼓動が早くなり、振り切ったはずのモヤモヤとした気持ちが再び心に影を作る。最初の集落へ到着すると思わず俺は目を見開く。しんと鎮まりかえる集落に死体が散乱しあちこちに血が飛び散っている。ここの集落にばあちゃんはいないが、全滅しているこの状態を見て俺は戦慄し言葉が出ない。
「報告では四件だけだった筈だがまさか全滅とは。他の集落もやられている可能性が高い。次へ向かうぞ」
二番隊士の言葉に頷き俺達は足早に次へと向かう。この逆骨に集落は全てで三つ。次に向かう集落が俺が生まれ育った場所。
「どうか、どうか無事であってくれ!」
息が荒くなり心の中に目一杯の不安が敷き詰まった俺は呟かずにはいられなかった。
やがて集落に到着すると、此方もまた同じようになんの音も聞こえない。死体や血は見えないが何件かの家が倒壊しており、ぐちゃぐちゃに荒らされている。ばあちゃんは上手く逃げられたのだろうか?どうか逃げていてくれ。そう心の中に強く念ずると全速力で俺が育った家へ向かう。
「おい!勝手な行動は謹め!単独での行動は危険だ、戻ってこい!」
そんな声を後ろから受けるが俺は動かずにはいられなかった。いけないことなのは分かっている。後で罰は幾らでも受けよう。ただ今だけは勝手な行動を許してほしいと、心の中で謝罪する。命令違反で輪を乱す俺は最低な死神かもしれないが、仲間や家族を想うことのできない最低な魂にはなりたくない。
俺は見慣れた家の前に立つ。どうやら倒壊はしていないようだが扉は壊され木片が辺りに散乱している。
「ばあちゃん、俺だ!茜二だ!居たら返事してくれ!ばあちゃん!」
俺の声は静かな集落によく響くが返事は返ってこない。草鞋も脱がずに真っ暗な家へ入ると何やら床がベタベタと湿っている。なにかと思い灯りをつけると、俺の頭は真っ白になる。膝から崩れ落ち目の前の現実を受け入れてられない。
「どうして…こんな‥…」
不思議と涙は出てこない。俺は胸に穴が空いた老婆の虚な目をそっと閉じてあげるとシワシワな頬に手を這わせる。肌はまだほんのりと暖かくまるで生きているかのようだ。
「なんで…どうして」
これしか言葉が出ない。泣きもしないし叫びもしない。ただただショックで心に穴が開いたような、そんな慣れない感覚に俺は戸惑う。
「東雲殿、気の毒に思うが今は任務中だ。ここの集落の調査は終わった。次へ向かうぞ」
後ろから非情な声が掛かると俺は骸となったばあちゃんに話しかける。
「本当は弔ってあげたいけれど少し待っててね、ばあちゃん。必ず仇は取るから」
俺は振り返ると気迫のない、しかしどこにも向けようがない怒りを含んだ足取りで合流する。
「勝手な行動をとってしまい申し訳ありません。家族がいたものですからつい感情に任せて先走ってしまいました」
悔しかった。とても悔しくて堪らなかった。この感情はどこへ放てばいい。怒り、悔しさ、悲しみ、恨みなどの負の感情が俺を支配し俺は強く手を握り込む。
「分かればいい。任務が終わったらしっかりと事後処理を済ませる。今は任務に集中しろ」
「‥‥‥…はい」
彼は事後処理と言った。死んだ人々に対して敬意が余りにも欠けているのではないか?確かに彼らは刑軍の中でも選りすぐりの優秀な死神なのだろうが、俺は余りの冷酷さに怒りを通り越して哀れみすら感じる。
するとおそらく、森を調査している別働隊の方からだろうか?凄まじい霊圧の奔流を感じ皆一様に目を見開くと、頬を思い切り殴られたかのように後ろの森へと首を回す。
「なんだ!…‥この馬鹿げた霊圧は⁉︎」
思わず皆硬直し氷漬けにされたかの如く一寸たりとも動かない。恐らくはここ一帯を襲った犯人だろう。それしかあり得ない。ここら一帯に点在していた霊圧の名残りの特徴と一致する。卯ノ花隊長との長年の鍛錬のおかげか霊圧の感知が相当鍛えられていたようで、俺自身も少し驚いている。
これは仇を取るための好機ではないか?そう思った俺は、フル回転で頭を回し別働隊へ合流する為の口実を考える。
「俺はあちらの別働隊へと合流しても宜しいでしょうか?こんなに莫大な霊圧が相手では確実に負傷者が多数出るはずです。私は負傷者を癒すために来たのです。行かせていただけませんか?」
半分嘘で半分本当だが口実としては十分ではないだろうか?もしダメと言われても行くことは確定なのだが、なるべく規律違反などはしない方がいいだろう。はやる気持ちを抑えて返事を待つ。此方の班の班長の二番隊士は少し思案した後、真剣な口調で俺に言う。
「わかった。東雲殿の任務は負傷者の治療が第一優先だ。別働隊と合流してくれ。我々は任務を続行する」
そう言って俺以外の奴らはスッと音を立てずに消えると、俺も森の中へ分け入って行く。
待ってろよ。必ず息の根を止めてやる。
すっかりと冷静を欠いた東雲は、卯ノ花との鍛錬で更に鍛え上げられた瞬歩で風を切って森の闇へと消えていく。
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私はなんだか釈然としない気持ちで今日の任務へ臨んでいた。二番隊の刑軍の中でも選りすぐりの死神が集められたこの班中で、四番隊が参加すると言うのだ。確かに先遣隊が全滅し相手が強大であることは分かるが、なんだか頼りなさげな男が同行するのだ。もう少しマシな奴を寄越せなかったのか?ここは剣の腕も優れているという坂上副隊長が出向くべきではないのか。卯ノ花隊長は何を考えていらっしゃるのか、皆目見当もつかない。何より一番腹が立つのは奴の髪だ。夜一と同じ、黒のように見えるが少々紫がかった見慣れた色の髪を見て、思わず美しいと思ってしまった。本当に腹が立つ・・・羨ましい!
「どうした砕蜂、任務に集中しろ。何かあったのか?」
横から話しかけるのは秦殿。いつの間にか奴のことを考えてしまって集中が乱れてしまったようだ。私は気を引き締め直すと秦殿に質問を投げかける。
「申し訳ありません。しかし、本日任務に同行している四番隊の男が気がかりなのです。何故あのような軟弱そうで覇気のない男の同行を許可したのですか?それに任務に集中するどころか、何か別のことばかり考えている様に見えました」
秦は数分前の彼と握手をした時を思い出すと、噛みしめながらゆっくりと言葉を繰り出す。
「確かに彼は任務に集中していないように見えたな。心は散漫で別の方へ向いていて卯ノ花隊長が此方へ寄越したといえど同行させるのを数瞬ためらった」
「ならばどうして…!」
「まあ最後まで聞け。しかしな、彼には覚悟があったのだよ。心の向きは違えどこの任務をやり遂げて見せるという覚悟が。それで理由は十分だ」
私はすぐさま言葉が出ない。何か言い返してやりたいが言葉が出ないのだ。
「わかり、ました。秦殿がそこまでおっしゃるのであれば」
「わかったら気持ちを切り替えろ。もうすぐ目的地だ」
私がそう言うとさっきまで優しさが滲み出していた顔を、すぐさまシャキッと切り替えて前を見据える。
しかし私の心は依然晴れないままである。
やがて目的地に到着すると、皆騒然となる。それもそうだろう、先遣隊が全滅しており皆一様に心臓がくり抜かれているのだから。
「どういうことだこれは……なんの、だれの仕業なのだ……」
そう呟いて秦殿が死体に近づくと刹那、不気味な角が一本、天に向かって摩天楼のこどく生えている虚のような人型の怪物に胸を貫かれいた。
私は驚いた。霊圧が全く感知できず、あまつさえ速すぎて隠密機動が何も反応出来ないとは。
驚くのも束の間、奴は秦殿の心臓をえぐり出し、大きな口を開いたかと思うとなんと丸呑みにしたではないか。その瞬間奴の霊圧が一気に膨れ上がり、戦慄する。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!」
「っ!!!」
奴は、聞くに耐えないとてつもない咆哮を天に向かってあげる。正真正銘の化け物だ。こいつとは戦ってはならないと本能的に感じた私はとっさに叫ぶ。
「任務は中止だ!退くぞ!!」
秦殿の次にこの班を指揮する権利がある私は、皆に退くように指示を出すとその指示を今か今かと待ちわびていたかの様に一斉に飛び散る。しかし、私は殿を務めるべく、化け物の前に降り立つ。
「私が貴様の相手だ」
斬魄刀を構えて戦闘態勢をとるが、奴はこちらを見据えたまま棒立ちで動かない。正面から見れば奴の胸には穴が空いており、角の生えた仮面はまるで虚そのものだ。『ガルルルル』と低音で地響きの様に唸る様は正に獣。すると突然、秦殿の側に佇んでいた奴は姿を消した。
「なにっ……!」
決して油断は無かった。私は最大限の注意を払い奴をこの両眼で捉えていたはずだった。速すぎるっ!私は前後左右必死に目を巡らせるが奴の姿は見えない。そして私は残された選択肢の方へと目を運ぶ。
「上かっ!」
ガキンという金属がぶつかり合う音が静かな森に響く。かろうじて斬魄刀で受け止めたものの、私は化け物じみた剛腕の横薙ぎに体が吹っ飛ばされて数十メートル先の木へ背中を打ち付ける。強制的に肺の中の空気が外に出され、私は咳き込んでしまう。
「カハッ、ゲホゲホゲホッ!」
やっと呼吸できるようになったと思えば、奴は間髪入れずに追撃するべくかなりの速さで迫りくる。かろうじて私は横跳びで回避すると、私の後ろにあった木がとても脆そうに易々と奴の拳でへし折れる。私は少しでも時間を稼ぐべく、皆が逃げた方角と逆方向へ脱兎の如く走り出す。
「どこを見ている間抜けめ!こちらへ来い化け物!」
言葉が通じる訳がないが私は気を引くために声を張り上げ、挑発してみる。
私の瞬歩でどこまで持つか、そんなことを考えても仕方がない。今はとにかく逃げて時間を稼ぐしかない。思わず後ろを確認したくなる気持ちを押さえ、ただひたすら走る。が、私はいつの間にか数十メートル先ににいる一角の化け物を目に捉え急旋回する。
「オ"オ"オ"オ"オ"ォォォォ!」
ちょこまかと逃げ回る私にイラついてきたのか、奴は雄叫びを上げると、こちらへ角の先を向け何やら不気味な赤い閃光の球を形作る。
「あれはまさかっ・・・!」
次の瞬間、奴は予想通り虚閃を放ち私の右脚を狙いすましたかのように撃ち抜く。とっさに身を翻したが虚閃の速さには間に合わず被弾してしまう。
「ぐあああぁぁ!!」
私は体勢を崩しかなりの勢いで転んで地面を転がると、そこだけ木が生えておらず開けた所へと放り出される。立ち上がろうと試みるが右脚が言うことを聞かない。身を翻していなければおそらく消しとんでいたであろう右脚を、うつ伏せの状態で必死に叩くが、感覚はもはや無い。
「クソッ!言うことを聞け!クソッ!」
「ガルルルルゥゥ」
またも獣の唸り声を聞き、私は視線を前へと移す。そこには月明かりに照らされて、白磁のような不気味な純白を赤黒い血で点々と染め上げた一角の化け物がこちらを見下ろす。
「ガハッ!やめろ!放せ!」
奴は私の首を左手で肩の高さまで掴み上げると、右手を引き、胸の間に狙いを定める。きっと私の心臓もくり抜き食べるのだろうが、そうはさせまいと私は、両手で奴の左手首を掴み、宙に吊られた左足で化け物を蹴ってみるがびくともせずに平然とした顔を浮かべる。すると更に首を掴む力を強めて遂には呼吸が出来なくなる。
「くっ…カハッ………」
奴は更に右手を引き絞り、私の胸を貫こうとした次の瞬間。
「破道の六十三、雷吼炮!」
大きく気迫の入った声を耳にすると、目の前を黄色の電撃の光線が横切り、一角の化け物は私の首を離すと焦げた臭いの煙を上げながら距離を取る。
「ゴホッ、ケホッ、ケホッ」
私は気絶する直前で息を取り込み、思わず目に涙が潤む。そんなボヤけた視界で見上げれば、綺麗で普段から戦っていることがないだろうことが分かる死覇装と、至極色の髪が私の目に飛び込んでくる。
「もう大丈夫ですよお嬢さん。あとは俺に任せてください」
そう言って何故か怒気を孕んだ言葉を口にして、東雲茜二が立っていた。
本格的な戦闘までやっと来れました。