とあるモブ死神だった奴の話 作:ピューレッド
俺は今、莫大な霊圧に向かって森の闇を翔けている。周りの木々を気味の悪い風が揺らし、心なしか体調が悪く感じてしまう。色々な汗を額に垂らしながら俺は先を急ぐ。
しばらくすると。ドカンという大きな衝撃音がしたかと思えば、バキバキと恐らく太いであろう木がへし折れる音を森の静寂の中で感じ取る。音の距離感から、恐らくもうすぐそこに来ていると推測できる。
「っっ!あの光は、虚閃⁉︎相手は虚か?」
俺の前方で赤い光の光線が遠目に見える。かなりの威力があろう光は、一度見たことがあるメノス・グランデのそれよりも何倍も強そうだ。
強大な敵を前に本能的に恐怖や不安が、心の中に押し寄せるが俺は顔をバチンと両手で叩くと大きく深呼吸する。
「大丈夫だ俺。今まで鍛錬は欠かさずに積んできた。純連の剣を何十年と受けてきたし、卯ノ花隊長の回道と鬼道。何も怖がることはない」
ボソボソと呟きつつ俺は開けた所へ出ると、目に飛び込んでくるのは月明かりに照らされた一本のねじれた角と、整列の時隣にいたおかっぱ頭の少女。少女は首を掴まれて今にも人型をした不気味な虚に体を貫かれそうだ。俺は片手を前に構えとっさに一番打ち慣れた鬼道を少女にギリギリ当たらぬように放つ。
「破道の六十三、雷吼炮!」
詠唱破棄にしては十二分の威力を孕んだ黄色の雷電は狙い通りに虚にあたり、焦げ臭い煙を纏いながら距離を取らせることに成功する。ボロボロでゴホゴホと咳き込むこむおかっぱ少女の前に庇うように立つと、斬魄刀に手を掛けて声をかける。
「もう大丈夫ですよお嬢さん。あとは俺に任せてください」
気を抜かずに前方の虚を両目に捉えると、少し焦げてはいるものの全く効いていないようだった。
「奴がばあちゃんを……」
俺は鋭く怒りを込めた目を向けて、二つ目の穴を開けようかというほどにじっと仇を凝視する。
「き、貴様は四番隊の……!」
「覚えていただきありがとうございます。四番隊第五席の東雲です」
目は虚に向けたまま俺は少女に答える。なるべく普通に話しているが内心恐怖で埋め尽くされている。それを悟られないようにしているがバレていない自信はない。
「他の皆さんはどこへ?」
「秦殿はやられてしまったが、私が殿となり皆を逃した所だ。貴様も逃げろ!奴は隠密機動である私よりも遥かに速い、貴様では到底太刀打ちできまい!何故こちらへきたのだ!」
見た目に似合わず荒々しくそう叫ぶと、目の前の虚が突如消えて少女の後ろへ回り込む。しかし俺は見えている。俺の背中を狙った奴の右手を斬魄刀で弾くと鬼道で相手を吹き飛ばす。
「破道の五十八、闐嵐!」
刹那、暴風の空気の渦が虚に向かって吹き荒れて押し出すことに成功するが奴は軽々と着地をする。少女は俺を見上げ、細長いが大きな目を更に大きく見開く。
「これでも俺は卯ノ花隊長の弟子なんでね、そう簡単に負けるわけにはいかないんですよ。」
俺は少女を抱き上げると、森に入る直前の木を背もたれに楽な姿勢で座らせて焦げた脚に応急処置を施すとすぐさま虚に目を向けて斬魄刀を構え直す。
「応急処置を施したので痛みは引いたはずです。本当は全快させて逃げ欲しいんですけど……」
言葉途中でいつの間にか距離を縮めた虚が、俺の心臓あたりを狙って腕を突き出すが俺は斬魄刀で受け止める。
「相手が悪くてそんな時間はないようです。少しそこで休んでてください」
少女を背にかっこつけた言葉を必死で並べると、とりあえずこの場合から離れるために、鍔迫り合いで力が入った震えた声で得意の鬼道を放つ。
「縛道の三十、嘴突三閃」
「お、おい!待て!」
少女の言葉を無視して虚の両肩とお腹に、黄色の爪を打ち込んで後方に吹っ飛ばす。それと同時にすぐさま追撃し続け様に至近距離で吹っ飛ばされてる虚に鬼道を放とうとする。
「破道の…っ⁉︎」
しかし鬼道は赤く思いの外大きな霊圧の球を形作る。あまりに急でこのままでは無事では済まない。俺は避ける以外の方法を考えるべく必死に頭を回す。
この状況下ではかなりの大博打だが、間に合う方法はただ一つ。やると決まればすぐさま俺は実行する。
「縛道の八十一、断空!!」
ありったけの霊力を注いだ透明な防御壁は、見事に虚閃を遮断する。しかし爆発の余波が凄まじく、至近距離で受けた俺は受け身を取れずに地面に叩きつけられる。周りの木々の枝葉は大きく揺れてこの葉が夜空へ舞い上がる。
打ち付けられた箇所を手早く癒すと斬魄刀を構え直すが、無傷で目の前から高速で迫る虚の蹴りを致し方なく左手腕で受けるが、とんでもない馬鹿力に俺は草鞋を青々しい葉が落ちる地面に、かなりの距離を擦りながらやがて止まる。
「参ったな‥…これは。純連の比じゃねぇよ全く」
化け物じみた幼なじみを思いながらも真の化け物にに目をやると、粉砕している腕を癒す。ひと蹴りでこの威力じゃ回復がとても待ち合わない。それこそ卯ノ花隊長ぐらいの腕が必要だろう。何よりも厄介なのが奴の速さだ。それを封じない限り勝機はないと考える。
「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ、」
半端な鬼道では破られると思った俺は詠唱を始めるがその間にじっとしてくれるはずもなく、大きく雄叫びをあげれば厄介な速さで迫る。しかし奴は見る限り直線的に動いており動きが読みやすい。タイミングを見て俺は上へ跳躍すると奴の拳は空を切る。
「縛道の六十一、六杖光牢!」
刹那、真下の虚の腹に六つの光が勢いよく突き刺さり動きを縛る。虚は、苦しげで途切れ途切れに声を発するが、自由落下の勢いをそのままに容赦なく斬魄刀を振り下ろす。
『バキン!』
予想とは違い聞き慣れない音に俺は耳を疑う。恐る恐る斬魄刀を見れば、綺麗に刀身が折れている。俺の霊力は先ほどの鬼道で全て使い果たしてしまったため戦う武器をなくした俺は頭の整理が追いつかない。
「なん…だと‥?」
その間に虚は鬼道を破壊し、今までとは桁が違う特大の虚閃を装填する。手が震え、ぼーっとしている俺の耳に、高く悲痛な叫びが届いてハッとする。
「逃げろ!東雲!」
木に寄っかかっり、こちらに向かって叫ぶおかっぱ少女の声を聞くが時すでに遅し、俺の体は赤の閃光に包み込まれる。
「クソがぁっっ!」
そこで俺の意識はプツリと途切れる。まるで何者かによって別の世界へ引っ張り込まれたかのように。
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目覚めると周りが見慣れた景色だか、今回は少し風景が違う。仰向けに寝ている俺の上へから止めどなく雨が降り頻る。数十年間ここへきているのにこんな状態は初めて見た。沈まない水面に波紋がやかましく広がり、俺は重い体をグッと起こす。
「やれやれ。何という無様なやられ方をしておるのだお主は。あの程度奴に傷一つつけられぬとは、しょうがない奴じゃ」
そう呆れるのは俺の斬魄刀。艶やかな銀髪を濡らし水が滴るその様は、童顔ながらなんとも色気がある。ちょこんと額から飛び出る二本の角も相まって、俺の目にとても魅力的に写る。なんだか新しい扉を開いてしまいそうである。きっとその先には素晴らしい世界が待っているのであろうが、かすかに残った俺の理性がその扉に隙間なく糊を塗りたくり新境地開拓を阻止する。
「ふぅ。危なかったぜ」
思わず口に出してしまうと、幼女は不審げに問う。
「何が危なかったのじゃ?」
「いや、なんでもないよ。こっちの話。それより珍しいね君から俺を呼ぶなんて。どういう風の吹き回し?」
彼女は無表情のまま最大限の呆れを乗せて言葉を弾丸の如く俺に弾き飛ばす。
「あまりに情けない戦いをしておったのでな、お主は今、死にかけておるしの・・・耐えきれずに呼んでしまったわい。それにわしを折ったじゃろ?それの説教をしにきたのじゃよ」
「斬魄刀を折ったのはごめんて。あれで終わりかと思ってさ、ばあちゃんの仇が取れると思ったらつい研ぎ澄ませた霊圧が緩くなっちゃって。本当に申し訳ない」
俺は胡座のままクッとキレ良く頭を下げる。
「まあ良い。じゃが次に折ったら覚悟しておけよ?わしはちょいと気が短い。気をつけるのじゃな」
「ああ、次は気をつけるよ。悪いな」
「して、お主よ。今の状況分かっておるな?今はわしの力で生き長らえておるがお主は今、死にかけじゃ。どうやってあの獣に勝つつもりじゃ?」
俺は押し黙る。斬魄刀を折られて霊力も残り僅か。あいつを倒すだけの鬼道は放てないだろう。
「ひとつだけあてがある。君の力を貸してくれないか?勝機はそこにしか残っていない」
俺は斬魄刀に頼ってしまうのが、なんだか情けなくなって渋々と言葉を出すと、幼女は珍しく確かめる様に目を細める。
「ならば、わしの力は何の為に使うのじゃ?仇をとるためか?怪我したおかっぱを守るためか?それとも任務のためか?」
俺は熟考する。今俺は一番、何がしたいのだろうか?おかっぱ頭の少女も護りたい。卯ノ花隊長の心遣いに応える為に任務も成功させたいし、もちろん仇だって取りたい。
「俺は…………」
「早くせんか。もう長くは持たんぞ?死にたいなら話は別じゃがな」
「俺は…………!」
幼女に急かされ上手く考えが纏まらない。時間は有限、崩壊はすぐそこへ迫っている。ええい!こうなっては深く考えてもしょうがない!吹っ切れた俺は今の素直な気持ちを、魂を斬魄刀へとぶつける。
「俺は死ぬのが怖い!そりゃ仇だって取りたいしみんなを護りたい!あいつを倒して卯ノ花隊長に褒められたい!純連にだって一言ギャフンと言わせて俺だってやれば出来るぞと見返させてやりたい!」
感情が昂って声が詰まる。しかし俺は胸の内をぶつけるべくぎゅっと声を絞り出す。
「でも何よりも俺は死ぬのが怖いんだよ・・もっと生きて、奴をぶった斬ってやりたい!こんな化け物を作り出す奴をぶった斬ってやりたい!俺のために、他の誰でもない俺だけのために力を貸してくれ!」
ブスり。斬魄刀が俺の胸を貫く。後ろを見れば銀髪の幼女がまたも無表情のまま俺を見下す。
「全く、本当にどうしようも無い奴じゃ。この後に及んで叫び取り乱すとはの。鼓膜が破れるかと思うたわい」
話している間にもズブズブと斬魄刀は進み続ける。
「………なんで………どういうことだよこれは?」
やがて刃を止めると『はぁ………』とダルそうにため息をつき何故だか悔しそうに言葉を続ける。
「どうしてもこうしても無い、合格じゃ。本当にお主は、何年待ったと思うておる。わしはただ、お主を護りたい。それだけなんじゃよ。主の親の為でもなく、人の為でもなく、わしの力はお主の為使って欲しい」
すると力がどんどんと流れ込んできて心の雨も上がり、なんだか迷いがなくなった気がする。
「鬼道とか回道とか、自分の力だけではなくて、少しはわしも頼って欲しいのじゃ。今となっては誰よりも、主様より一緒の時を過ごしておるのじゃから……」
「済まなかったな。今まで気づいてやらなくて……」
「済まなかったではないのじゃ!わしがどれほどの時間主様を突き放し、辛かったと思うておる!本当にさびしかったのじゃぞ!」
ようく見れば彼女は涙を流している。小さな頬に手をかざし、涙を拭いて何度目か分からない質問を投げかける。今度はダメ元ではなく確かな自信を持ってゆっくりと。
「遅くなって済まない。君の名前を教えてくれないか?」
ズズーと鼻をすすりニコッと可愛い顔で歯を剥き出して笑うと、嬉しくて仕方がない様子で幼女は大きな声で叫ぶ。
「遅いぞこのたわけが!こんな情けない主様はやっぱりわしがついていないとダメな様じゃな!仕方がないから教えてやる!わしの名前は、----------------!」
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「グルルルルルゥゥゥゥ」
虚は満足げに戦果を見れば、低い声で喜びの雄叫びを上げる。ドシドシともう動くはずのない焼け焦げた男にゆっくりと近づく。
「クソッ。やはり我々では奴に勝てない……何故こちらへ来たのだ、馬鹿者が………」
砕蜂は諦めたかの様に弱々しい言葉を綴る。痛みは茜二の治療で治ったがいずれにしろこの脚では奴から逃げ切ることはできまい。砕蜂は今一度もっとも敬愛する君主に想いを馳せる。
「申し訳ございません夜一様。最後まであなたと一緒にいたかったのですがその願いは叶わぬ様です」
そう思いつつ茜二の方に首を動かせば、今まさに仰向けに倒れているところであった。
(奴はもう終わりか。善戦したが意外と呆気ない終わりだな。脚の痛みをとってくれたことには礼を言おう。こちらへ来ずに逃げていれば良かったものを……)
するといきなり一角の虚が叫びだし慌てて距離をとった。よく見れば立派であるが狂気を感じる角が折れ、身体には斜めに大きな切り傷が刻まれている。
(どうなっている。奴に何が起きたのだ⁉︎)
砕蜂はいつの間にか立ち上がって斬魄刀を振り上げた東雲を見る。さっきまで弱々しかった霊圧は嘘の様に吹き返し、折れたはずの斬魄刀もどういうわけか治っている。この短い間に別人の様にみちがえた彼を見ると今までに一番欠けていた覚悟を感じる。
「どういうことだ…‥…訳がわからない。こんなことがあり得るのか」
角を折られた虚は今までとは桁違いの霊圧を放つと怒り狂ったかのように激しく吠える。
「済まないがあまり時間がない。俺の全身全霊を彼女に込めて一発で終わらせてやる」
虚は相変わらず速いが読むのは容易い、直線の軌道で茜二の間合いに踏み入ると、茜二は落ち着いて、しっかりと切るべき対象を捉え念願だった言葉を呟く。
「閃け、九泉雷公」
戦闘描写クソむずい。
拙い文ですみません。
主人公の始解ですが、読み方は九泉雷公(くせんらいこう)です。
能力は次回に。