とあるモブ死神だった奴の話 作:ピューレッド
私はどうしようもなく気になっていた。
「どうしたのじゃ?砕蜂。さっきからボケーっとしおって」
「い、いえ、なんでもございません夜一様。少し考え事をしていたのです」
私はあの四番隊第五席、東雲茜二という男が気になっていた。先日の任務で私が歯も立たなかった改造虚を四番隊ながら倒して見せた。瞬歩も我々に軽々とついてきていたし彼奴は一体何者なのだ?最近はそんなことが頭の中を埋めている。
「そうか、なにで悩んでいるのかわしに言うてみい?」
「じ、実は、先日の任務で同行していた四番隊の男のことなのですか‥…」
「おお!茜二のことか⁉︎なに、彼奴が気になるのか?」
「ち、ち、違いますよ!助けられたお礼がまだでしたのでいつ行けば良いのかと考えていたのです!け、決して好きなどと・・いう訳では……」
夜一様はいつものようにからかう。私をいじって面白そうにニヤける夜一様も素敵だ。私はあの男を考えてしまうとどうも胸の奥がザワザワするのだ。今までにこんなことがなかったのでどうすれば良いのかわからない。思わず顔を熱くして夜一様に言い返す。
「ほう……わしは一言も『好きなのか』とは聞いておらぬが……」
「っ!からかわないでください!決してそのような事はあり得ませんから!その感情は夜一様に仕えると決めたその時に捨てたものですから……」
夜一様はやはりニヤニヤしている。そんなはずはない。私が恋愛感情を抱くなどあり得ない。私は強くなるため女としての感情は捨て去ってきたはず。幾年も継続してきたその覚悟が今更揺らぐなど有り得ない、あってはならないのだ。
「まあ良い。しかし彼奴に礼は言っておけよ?茜二がいなければ今頃お前はここにいないのじゃからな?」
「分かっています。後ほど四番隊へ伺います」
私は言葉を返すが夜一様は何やら難しい顔に変わる。
「いや、事件から二日が過ぎた今も茜二は目が覚めぬままじゃ。わしが運んだ時は、本当に酷い怪我じゃった。幾ら卯ノ花隊長がついていようと後数日はかかるかもしれん。」
「そうなのですか⁉︎確かに虚閃をまともに喰らっていたし、私を庇いながら戦っていた。奴には負担をかけ過ぎたのかも知れんな‥…」
私を庇いながら戦ってあの虚を倒してしまう彼に、ますます疑問が連なってくる。私は一層、しっかりと会って直接礼を言おうと心に決めた。
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「もう十分に傷は癒えたでしょう。本日中に退院とします」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は卯ノ花隊長にお礼を言うと包帯が取れた体を軽く動かして状態を確かめる。数日間寝たきりだったのにも関わらず、不思議と前より状態が良い。やはり隊長の治療が良かったのだろうか?
「では明日から例の鍛錬を始めますよ?心身共に十分な準備と覚悟を決めておいて下さいね。これまでのように温くはいきませんよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
事件から七日あまりが過ぎて、俺は遂に卯ノ花隊長の弟子として最終段階の仕上げに入る。回道、鬼道ときて次は斬術。卯ノ花隊長が斬術を教えると言った時は驚いたが何やら色々と訳があるようだ。ここは疑問に思ったが、知らぬが仏ということもあるだろうと流すことにした。
卯ノ花隊長が退室して数刻、今日も純連が来てくれたのかと思ったが、意外な人物が顔を見せる。
「久しいな東雲、もうすっかり傷は癒えたようだな。見舞いに来てやったぞ」
「お久しぶりです砕蜂さん。貴方こそ大事ないようで良かったですよ。本日は何かご用ですか?」
砕蜂さんは何やら気まずそうに体を動かしていて何やら居心地悪そうだ。
「いや、その、実はあの時の礼を言いに来たのだ。東雲がいなければ私は確実に死んでいた。お前が庇いながら戦ってくれたおかげで私は今もこうして存在していられるのだ。本当にありがとう」
砕蜂さんはこういうのに慣れていないのか恥ずかしそうに礼を言う。そしてこんなこと初めて言われた俺もなんだか照れ臭くなってしまう。
「いえいえ、私も個人的にあの虚に思うところがあったので……こうして我々がが無事でいられて運が良かったですよ。残念ながら秦さんは助けられませんでしたが、その他の皆さんが助かったのは砕蜂さんのお陰に他なりません。砕蜂さんの方こそ今回の立役者ですよ」
砕蜂さんはなんだか人当たりがきついと思っていたが、案外そうでもないようだ。最初は不安だったのだが、なんだか上手く打ち解けられて良かった。
「そうか、そう言ってくれると私も気が楽だ。今度改めて礼をさせてくれ。それともう一つ話があるのだが……」
「それはわしからしよう!」
突然窓からやってきたのは二番隊隊長四楓院夜一。いつの間にか音も立たずに近くにいるのだからそれは驚きだ。
「よ、夜一様!いつからそこへ⁉︎」
「お主が緊張して恥じらいながら茜二に礼を言う所全部聞いてたぞ?本当にお主は愛奴じゃのう砕蜂!」
四楓院隊長は砕蜂さんの頭をワシワシ撫でると、砕蜂さんは何も抵抗出来ないようだ。二人はとても親密な関係だと一目でわかる。
「それでお二方。私に話というのは?」
二人してこちらへ向き直ると四楓院隊長は真剣な顔に早変わり、砕蜂さんも何やら真剣な面持ちだ。流石にスイッチの切り替えが速い二人を見て感心するのも束の間、思っても見ないことを俺は聞く。
「茜二、お主二番隊に入る気はないか?」
「え、四番隊の俺が二番隊に?ですか?」
思わず耳を疑う勧誘。予想外すぎて頭の処理が追いつかない。
「お主の戦いぶりは砕蜂から聞いた。足も速いし性格も難なし!是非うちに欲しい。実は三席の座が空いていてな、誰も相応しいものがおらず困ってあるのだ」
「東雲程の実力があれば、文句を言う奴もいないだろう。私もこれには賛成だ」
俺は考える。丁度どの隊に行のか探していたところで顔見知りかいるのは大きい。しかし、卯ノ花隊長の条件を達成するまで何年かかるかわからない。無闇に約束しても迷惑だろう。
「すみませんがお断りさせて頂きます」
二人はきっと引き抜く自信があったのだろう。とても驚いた顔をしている。
「それは何故じゃ?三席に昇進できるのじゃから悪い話ではないだろう?」
「実は隊を抜けるにあたって卯ノ花隊長の弟子としてやっておかなければならない事があります。それが何年掛かるか分からないので無闇に約束できません」
四楓院隊長はそれを聞くとなるほどと言った感じでフッと笑う
「ではまた誘いに来るとしよう。帰るぞ砕蜂」
「よろしいのですか?夜一様」
「良いのじゃ。無理に引き入れてもしょうがないしの」
すると二人はスッと目の前から消える。
「はぁ。二番隊ね……なんだかイメージと違って騒がしそうだな」
俺は明日からのことを考えて鬱になりつつも手早く退院準備の続きへ手をつけた。
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次の日、俺達はいつもの鍛錬場に来ていた。前を見れば卯ノ花隊長の雰囲気が随分と違う。やはり何か秘密があるようだ。
「茜二、これから先は全力でかかってきなさい。でなければ命の保証はできませんよ。なお、鬼道は使用禁止としますから頼れるのは己の剣のみ。それで貴方の覚悟を見せてください」
「わかりました。最初から全力でいかせていただきます」
俺は斬魄刀に手をかけて抜刀の準備をする。腰を入れ、地面に最大限力が加わるように足で掴む。
「準備ができたようですね?いつでもかかってきなさい」
卯ノ花隊長は斬魄刀にも手をかけず、ただ棒立ちするのみ。しかし全く隙がないのは何故だろうか?そんな事を考えても無駄なので俺は早速斬りかかる。
「閃け、九泉雷公」
全力で跳躍すれば、以前のように使い物にならなくなるのは明白。だから俺は、今現在で体が壊れない限界値、四分の一ほどの力で卯ノ花隊長へ直進する。間合いに入っても指一つ動かさない卯ノ花隊長に動揺するが、俺は鳩尾目掛けて刺突一閃。始解を使った超高速の突きであったが鋒は虚しく空を切る。
「っつ!!」
卯ノ花隊長を見失った直後、前傾に倒れ込んで隙だらけの背中に一本。卯ノ花隊長にいつの間にか背後をとられており、深く傷を負った裂け目から鮮血が噴き出すのがわかる。
「私が動かないからといって動揺しましたね?なんとも甘い。命の取り合いをしているのですよ?当たり前の話ですが、動揺は要らぬものと知れ」
「くっそ、申し訳ありません。ハァハァ、もう一本、お願いします」
「よろしい。さあ、早く続けますよ」
そうして何時間過ぎたか分からないが、斬られては回復されの繰り返し。結局一太刀も浴びせることが出来ずに本日は終了。始解をフルに使えたとはいえないが斬術一つでここまで差がつくとは、本当に異次元の強さだ。
「これ以上やっても仕方ありませんね。続きは明日にしましょう。卍解の習得も自分で進めておくのですよ?」
「わかりました……明日もお願いします……」
喋る元気もないボロボロの俺はもう既に息絶え絶えとしている。慣れない始解ということもあり疲労は相当きていた。
部屋に戻ればすぐに布団に崩れ落ちる。そうして気づけば次の日の朝。こうして変化した日常は続いてゆく。
今回は短めです